11名の男子大学生,14名の女子大学生を被験者とした.被験者は閉眼で椅子に座り,異なる8種類の音楽(平均70 db.)をヘッドホーンを用いて聴いた.音楽の聴取前,聴取中,聴取後の心拍数は心電図を用いてR-R間隔を連続的に記録した.心拍の周期変動の周波数成分のパワースペクトル解析は高速フーリエ変換法を用いて行った.低周波(LF)成分と高周波(HF)成分はそれぞれ0.04~0.15 Hz,0.15~0.40 Hzとした.HFの値は副交感神経活動に,LF/HFの値は交感神経活動と密接に関連している.音楽聴取による心拍変動を評価するためLF,LF/HFの標準測度とHFの標準測度のプロットと中央領域および自律神経のバランスを表わすパラメーターRを含むLF/HF(%)とHF(%)のプロットを用いた.LFとLF/HFの値は音楽聴取時に減少し,聴取終了後に増加した.女子ではHFの値は音楽聴取時に増加する傾向があった.男子では女子と比べてLF,LF/HFの値が大きくHFの値が小さい傾向を示した.男子ではLF,LF/HFの音楽聴取終了後の値がいくつかの音楽聴取中の値より有意に大きく,女子の音楽聴取後の値より有意に大きかった.親しみの多い音楽,および音楽的要素の少ない音楽の聴取時は心臓自律神経活動の変動が少なく,変化の少ない音楽と非調性音楽はHF即ち副交感神経活動の増加に有効であった.
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