1.はじめに
種子島・屋久島地域の海岸には縁脚縁溝系を伴ったサンゴ礁地形が部分的にみられ,北限域のサンゴ礁とされている
1)。近年,壱岐にて主にキクメイシ(
Favia sp.)によって内湾に形成されているサンゴ礁が発見された
2)。ただし琉球列島でみられるミドリイシ類を主として強固な礁構造を形成するサンゴ礁とタイプが異なる。琉球列島でみられるサンゴ礁は,北限域で浅礁湖を欠く平坦で幅狭な礁原となり,分布域も内湾に偏る。本研究では種子島北西に位置する馬毛島で北限域サンゴ礁のボーリングを行い,北限域サンゴ礁の構造と形成過程を論じる。
2.馬毛島北西岸のサンゴ礁地形
馬毛島北西岸には島の周囲で唯一明瞭なサンゴ礁地形が認められる。湾入部に位置する岬港(N30
o45’40”, E130
o51’05”)付近の礁原が最も広く,礁縁から汀線(浜)まで260mの,浅礁湖(礁池)をもたない平坦な地形が広がる。礁原面は潮高基準面より高く,最も高い部分では平均海面ほどに達する,わずかに離水したサンゴ礁である。礁縁部より50mほど陸側ではラピエ状の侵食地形を呈する。礁縁部には縁脚・縁溝が発達し,縁脚の海側は4_から_5mの急崖をもって下位の緩やかな斜面へと続く。海側の水深5m以深の緩斜面には基盤岩である第三紀層の熊毛層群砂岩・シルト岩が露出しており,ところどころに卓状ミドリイシを主とした大規模なサンゴ群集が発達している。ただし群集下部に礁堆積層は形成されていない。
3.完新世サンゴ礁の堆積構造
岬港付近のサンゴ礁にて汀線に直行する側線を設け,礁縁部から礁原陸側端部付近にかけて4本のボーリングを行った。ボーリングには_(株)_ジオアクト製 水陸両用油圧式掘削機を用いた。完新統の層厚は最大で3.93m(Core Hole 3)であり,海側のCore Hole 1, 2では基盤高度がやや高いため層厚が2.5m程度となる。基盤は第三紀熊毛層群の砂岩・シルト岩である。
完新世サンゴ礁堆積物は明瞭な帯状構造を呈し,最海方の礁縁部で皮殻状サンゴ相・その内側で卓状・板状ミドリイシ相,その背後にサンゴ礫・礁性砂相となる。最も陸側の基盤直上には黒灰色砂泥の堆積がみられる。陸側では基盤地形が皿状の凹地となり,礁形成前には内湾的環境であったと考えられる。
4.馬毛島における礁形成過程
採取したコアより原地性サンゴを主に10試料の放射性炭素年代測定を行った(うち2試料は測定中)。
最も古い年代値は最陸方の黒灰色砂泥上の原地性サンゴで約6,500 cal yBPであり,この部分では5,900 cal yBPには現在の礁原面が形成されている。礁縁部付近でみられる卓状・板状ミドリイシ相よりなる礁構造は約5,900 cal yBPから100年程度の短期間で形成されている。CH-3最上部で得られた最も若い年代値より,馬毛島北西岸の礁原の離水は約3,300 cal yBP以降に起こったことがわかる。
馬毛島では完新世最暖期に湾奥部で礁の形成が始まっている。この時期には鹿児島湾まで黒潮暖水舌が恒常的に流入していたことが推定されている
3)。馬毛島ではその後,約1,000年の間に礁原の大部分が形成されており,温暖期のパルス的な礁形成によって,礁の概形が形成されたといえる。
本研究は科学研究費(基盤B)課題番号15300303(研究代表者:菅 浩伸)の成果の一部である。
1) 中井達郎. (1990) 「暑い自然」古今書院, 57-65.
2) Yamano, H.
et al. (2001) Coral Reefs,
20, 9-12.
3) 大木公彦 (2002) 第四紀研究,
41, 237-251.
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