顎関節疾患のなかでも,変形性顎関節症の確定診断は画像診断である。パノラマ4分割撮影法は,最大開口位で撮影することで,通常のパノラマX線像で生じる下顎頭と側頭骨との重複を避けることが可能で,顎関節部の骨変化の評価が容易になる。本原稿の目的は,パノラマ4分割画像を用いることで,一次医療機関における変形性顎関節症の臨床診断精度の向上の一助とすることである。パノラマ4分割画像で,日本顎関節学会から提唱されている,骨皮質の断裂を伴う吸収性骨変化(erosion),骨辺縁部の局所的な骨増生(osteophyte),吸収性変化を伴う下顎頭の縮小化(atrophy)の典型的画像を供覧し,さらにMR像と対比することで,画像所見を明らかにする。
顎関節症の寄与因子として,身体的因子に加えて心理・精神的因子が考えられる。しかし,顎関節症における心理・精神的因子は身体的因子と比較して客観的な評価を得づらく,いまだ不明な点が多い。そこで本研究は心理・精神的因子の一つである自我状態が,顎関節症の病悩期間にどのように影響を及ぼしているか検討することを目的とした。対象は2010年の1年間に新潟大学医歯学総合病院顎関節治療部を新規受診した患者とし,対象患者236名(女性:174名,男性:62名)にエゴグラムチェックリスト(ECL)を用いエゴグラムを作成し,自我状態について分析した。患者は専門医3名により,顎関節症の症型分類(日本顎関節学会2001年改訂版)を用いて診断した。患者のエゴグラムのCP/NP様式,FC/AC様式,年齢,性,症型分類について,顎関節症患者の病悩期間にどのように影響を与えているか比較検討した。統計学的解析はロジスティック回帰分析を用いた。統計学的有意差は有意水準を5%とした。その結果,自己否定および交流回避を特徴とする自我状態を示すFC<ACである患者,性別が女性である患者は,6か月以上の病悩期間に有意に影響を与えていることが明らかになった。
目的:炎症性関節疾患における関節組織の破壊では,matrix metalloproteinase(MMP)が中心的役割を担っている。本研究では,培養顎関節滑膜細胞をTumor necrosis factor(TNF)-αで刺激したときのMMP-1,-3およびMMPの阻害因子であるTissue inhibitors of metalloproteinase(TIMP)の遺伝子発現,さらにMMP-1,および -3タンパク質産生について検討を行った。
方法:顎関節円板転位障害患者滑膜からout growth法で顎関節線維芽滑膜細胞(滑膜細胞)を得た。滑膜細胞にTNF-αを作用させ,microarray解析を行った。また,遺伝子発現はreal-time PCR法により,タンパク質量はELISA法で測定した。Pro-MMP-1の活性化はAPMAを用いた。
結果:滑膜細胞のmicroarray解析では,TNF-αによって発現上昇上位遺伝子中にMMP-1および -3を認めた。また,MMP-1および -3遺伝子は,TNF-α刺激により発現上昇した。一方,TIMP-1,-2および -3の遺伝子は恒常的に発現していた。滑膜細胞培養液のpro-MMP-1およびMMP-3のタンパク質量はTNF-α刺激によって増加した。次に,培養液中のactive-MMP-1を測定したところ,検出されなかった。APMA処理してpro-MMP-1をactive-MMP-1へと変換したところ,TNF-αを作用した細胞培養液でactive-MMP-1が検出された。
考察:TNF-α添加により,ヒト滑膜細胞の,MMP-1および -3の遺伝子発現および同タンパク質の産生は上昇した。産生されたMMP-1は潜在型であった。
24歳1か月の女性。上顎前歯の前突と顎関節の違和感を主訴に来院した。初診時の正貌所見では下顎が左側に偏位しており,口腔内所見では上顎前歯部の突出を呈し,左側臼歯部に機能性交叉咬合を認めた。両側顎関節の圧痛および右側にclickを認めた。問診より歯列接触癖を認めた。MRIによる画像所見では,左側に非復位性円板前方外側転位,右側に復位性円板前方外側転位を認め,右側下顎頭ではerosionを認めたことより,機能性下顎左方偏位および上顎前突を伴う顎関節円板障害(Ⅲ型)および変形性顎関節症(Ⅳ型)の重複症例と診断された。顎関節症の初期マネージメントとして可逆的治療を中心とした初期治療を行った。症状の安定を確認後,機能性下顎左方偏位および上顎前突を改善するために両側上下顎小臼歯の抜歯を伴う歯科矯正治療を開始した。歯の移動によりAngleⅡ級の臼歯関係,重度な上顎前突および機能性下顎左方偏位が改善された結果,良好なアンテリアガイダンスを伴う咬合関係および側貌が得られた。顎関節の開口量は増加し,咀嚼時痛および圧痛は消失した。右側のclickは残存した。MRI所見では左側下顎頭にmarginal proliferationを認めた。治療後および動的治療終了後1年時の顎関節症状は安定していた。現在は保定治療および顎関節の経過観察を定期的に行っている。