九州地方の主な安山岩類,すなわち第三紀琉球火出帯に属する肥薩火山区の輝石安山岩類,第四紀疏球火山帯の代表的輝石安山岩類および第四紀の火山である,いわゆる大山火山帯に属する雲仙,由布岳および両子出などの角閃石安山岩類その他に副成分として含有されるジルコンを分離し,主にその色(群色)・結晶形・晶相・晶癖などを観察測定した結果を簡単に要約すると次のとおりである。
1) 肉眼観察によるジルレコンの色(群色)はここに取扱つた試料では(1) 淡紅色ないしピンク色, (2) ピンク色ないし淡いピンク色, (3) 無色ないし淡灰色, (4) 黄褐色ないし淡黄褐色に分類されるが,これらのうち第三紀の岩石中のものは殆んど(2)に属し,第四紀の岩石中のものは(2)および(3)に属する。またまれに(4)の色を示す場合がある。
琉球火山帯での第三紀安山岩中のジルコンと第四紀安山岩中のジルコンでは一般に前者が淡いピンク色を帯びるのに対して後者はピンク色を示さず,無色,灰色,淡黄褐色などを呈する。しかし一般に第四紀安山岩中に含有されるジルコンは,第三紀の岩石に比較してその量が著しく少いかまたは桜島・阿蘇などにおける如く殆んど含まれない
1)。
2) 安山岩類中のジルコン結晶の大きさは一般にきわめて小さいが輝石安山崇中のジルコンは角閃安山岩中のジルコンよりもさらに小さい。すなわち前者では0.04×0.02mmないし0.25×0.10mm,後者では0.08×0.05mmないし0.25×0.15mmの粒状結晶が普通であるが長柱状結晶も少量認められる。
次に伸長比は全般的にみて1~2.0の範囲のものが80%を占める。そのうち1~1.5又は1.6~2.0のものがピークを示す。
3) 次に晶相および晶癖を夫々5型および3型に分類し各々の頻度および関係図を作製した。その結果,明らかに安山岩中のジルコンの晶相および晶癖と深成岩中のジルコンのそれとは異る傾向がみられる。また輝石安山岩中のジルコンと角閃石安山岩中のジルコンとを比較すれば,両種の間には可成り相違がみられる。
また一つの火山区域内ではジルコン結晶の晶相および晶癖には類似性があるか否かはこれから研究を進めてゆく段階であつて現在のところまだ不明であるが,肥薩火山区の輝石安山岩中のジルコンを例:ことると,それらの間には可成りの差異が認められる。しかし例えば琉球火山帯と大山火山帯の岩石中のジルコンとの間には明かに相違が認められる。
4) 多くの岩石中にはジルコンの自形結晶のほか融蝕されて,または磨耗されて丸味を帯びるものや,或は破砕された結晶片を多量に含むことがある。破砕結晶の一部は勿論岩石粉砕時におけるものもあるが殆んど同じ方法で同じ程度に粉砕し分離したジルコン中に,殆んど破砕片を含まず自形結晶のみの場合が少くないのに対し,一方ある試料では著しく多量の破砕片を含む事実などから考えると,破砕結晶はジルコン自身の破砕性に差異がない限りでは,岩石の粉砕以前からすでに破砕されていたのではないかと思われる。
そうであるとすれば,融蝕形又は破砕片を普遍的に含む岩石では,マグマの混成作用又は同化作用が行われたと推定される有力な証拠としてこれらが考えられはしないか。例えば肥薩火山区の岩石で鬼岳系および上場系の岩石のジルコンに融蝕形を示すものが多く,矢筈長熔岩には少いことは,前者ではマグマの混成作用・同化作用が有力に働き,後者ではそれが少いと筆者が,岩石学的ならびに岩石化学的研究から結論したことを裏がきするものではなかろうか。
5) 霧島火山新期熔岩におけるように,殆んど大部分のジルコン結晶がmetamictiza-tionを受けており,透明な正常ジルコンが殆んど含まれないことがある。新しい熔岩中のジルコンがこのような変質作用を受けているのは,古い時代の岩石から由来した捕獲結晶であろうか。或いはジルコンの結晶講造又は放射能源の問題に帰せられるぺきであろうか。何れも可能性のある因子であるが,本問題はジルコン研究に課せられた多くの未解決の問題とともに将来の詳細な研究によつて解決されるべき重要な課題の一であろう。
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