教育心理学研究
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原著
  • ―知識構成の観点からの検討―
    佐藤 誠子, 永山 貴洋
    原稿種別: 原著
    2025 年73 巻2 号 p. 63-78
    発行日: 2025/06/30
    公開日: 2025/07/10
    ジャーナル フリー
    電子付録

     ルールによる課題解決が困難な要因の一つとして,学習者のもつ誤ルールの存在が指摘されてきた。これまでの研究では,誤ルール修正方略の有効性は誤ルールの「強固さ」によって異なることを示している。しかし,従来の研究では全体の解答傾向から誤ルールの存在を想定しているにすぎず,学習者個人の反応パターンからすれば誤ルールが推定されない場合も考えられる。そこで本研究では,大学生46名を対象に教授実験をおこない,事前反応パターンによって誤ルール修正方略(対決型ストラテジー)の効果が異なるかどうかを量的分析により検討した。さらにその結果を説明するために4名にインタビュー調査を実施し,学習場面における思考過程について質的分析をおこなった。量的分析の結果,事前で一貫誤答を示した学習者は事後課題解決においてルールの適用が促進された一方,事前で個別判断を示した学習者は事後課題解決が困難であったことが示された。さらに,質的分析の結果,前者の思考過程は一貫してルールの確信度を高めるものであったこと,一方,後者は個別の課題や事例にもとづく思考が中心であり,事例とルールを結びつけるような知識構成が困難であったことが示唆された。

  • 鈴木 雅之, 川中 紫音, 西村 多久磨
    原稿種別: 原著
    2025 年73 巻2 号 p. 79-92
    発行日: 2025/06/30
    公開日: 2025/07/10
    ジャーナル フリー
    電子付録

     本研究では,自己決定理論に基づいた動機づけに着目して,部活動動機づけと学習動機づけの相互関係について検討した。中学生を対象に3時点の縦断調査を行い,部活動に所属している生徒565名を分析対象としてランダム切片交差遅延パネルモデルによる分析を行った。その結果,部活動における自律的動機づけは学習における自律的動機づけ,学習における自律的動機づけは部活動における自律的動機づけに対して,それぞれ正の影響を与えることが示された。そのため,部活動(学習)に自律的に取り組むことによって,学習(部活動)に対しても自律的に取り組むようになる可能性が示された。また,学習における統制的動機づけから部活動における統制的動機づけへの正の影響,学習における自律的動機づけから部活動における統制的動機づけへの負の影響もみられた。これらの結果は,中学校における部活動の意義を実証的に示すとともに,ある文脈における動機づけが,別の文脈での動機づけに転移する可能性を示唆するものといえる。

  • ―架空の聞き手のビデオ提示による効果の促進―
    垣花 真一郎, 伊藤 貴昭, 福富 隆志
    原稿種別: 原著
    2025 年73 巻2 号 p. 93-105
    発行日: 2025/06/30
    公開日: 2025/07/10
    ジャーナル フリー

     本研究では,非インタラクティブな(聞き手との相互交渉がない)説明中に架空の聞き手の動画を提示することで,教授による学習が促進されるかどうかを検討した。合計62名の大学生が,統計学における尺度水準に関する概念のテキストを読み,説明ノートを作成し,事前テストを受けた。次に,参加者は事前に撮影された2人の聞き手がうなずいているビデオに対して説明する群(ビデオ提示群)と,注視点に向かって説明する群(注視点提示群)に分けられた。最後に両群は事後テストを受けた。事前テストを共変量,事後テストを従属変数とする共分散分析を実施した結果,事後テストの得点はビデオ提示群が注視点説明群を上回った。さらに説明中の順接表現(e.g., なので,だから)の割合はビデオ提示群の方が注視点提示群より高くなっていた。このことはビデオ提示群の参加者は注視点提示群よりも聞き手を意識した話法の調整を行っていたことを示唆している。これらの結果は,説明中に架空の聞き手のビデオを提示することで,参加者の社会的存在感が高まり,学習内容の理解が促進されることを示唆している。

原著[実践研究]
  • ―2年間にわたる問題行動発生率と子どもの強さと困難さアンケートの推移―
    鳥飼 正葵, 庭山 和貴
    原稿種別: 原著[実践研究]
    2025 年73 巻2 号 p. 106-120
    発行日: 2025/06/30
    公開日: 2025/07/10
    ジャーナル フリー

     本研究では,2年間をかけて学校規模ポジティブ行動支援(SWPBS)第1層支援を公立中学校1校に実装し,生徒の問題行動発生率と心理的問題におよぼす効果について検証した。対象は,公立中学校1校の全生徒(X年度502名,X+1年度514名)と全教員(両年度ともに42名)であった。データ分析の対象は,2年間の研究期間を通じて在籍していたX年度入学生とX-1年度入学生とした。従属変数は,問題行動指導件数を生徒100名・1日当たりの値にした問題行動発生率と,子どもの強さと困難さアンケート(SDQ)であった。ベースライン期では,対象校の問題行動発生率が増加傾向にあることやSDQの結果を教員間で共有した。SWPBS導入期では,教員へのPBS研修の実施,学校全体の行動目標の作成等を行った。SWPBS実践期では,SWPBS推進チームの校務分掌への正式な位置付け,学校全体の行動目標に基づく学校規模の取組み等を実施した。介入の結果,生徒の問題行動発生率が減少し,SDQについても情緒不安定を除く下位尺度すべてで改善が見られた。今後は,より厳格な研究デザインによる介入研究や,SWPBSとメンタルヘルス予防プログラムとの統合実施による加算効果についても検証する必要があると考えられる。

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