-
長根 智洋, 田中 亮一, 平島 真澄, 田中 歩
p.
602
発行日: 2007年
公開日: 2007/12/13
会議録・要旨集
フリー
高等植物ではクロロフィルaは7-ヒドロキシメチルクロロフィルaを経てクロロフィルbに転換され、クロロフィルbは再び7-ヒドロキシメチルクロロフィルaを経てクロロフィルaに戻る。我々はこの転換系をクロロフィルサイクルと呼んでいる。
我々はクロロフィルサイクルに関与する酵素及び調節因子を同定することを目的としてシロイヌナズナのEMS処理株をスクリーニングし、光合成色素が野生株と異なる蓄積をする変異体を単離した。これらの変異体のうち、1つのラインは7-ヒドロキシメチルクロロフィルaを蓄積していた。我々はこのラインをhmc1と名付けた。この変異体は野生株と比べて著しく生育が遅く、生育初期段階から野生型に比べて10倍以上の7-ヒドロキシメチルクロロフィルaを蓄積する。その後成長に伴って7-ヒドロキシメチルクロロフィルaを蓄積することがわかっている。
現在、変異体の解析及びマップベースクローニング法により原因遺伝子の単離を試みている。
抄録全体を表示
-
御殿谷 仁志, 鈴木 利幸, 塩井 祐三
p.
603
発行日: 2007年
公開日: 2007/12/13
会議録・要旨集
フリー
近年, MALDI (matrix-assisted laser desorption/ionization)-TOF (time-of-flight) MS (mass spectrometry)を用いてタンパク質やアミノ酸分析が行われている. しかし, これまでTOF MSを用いた植物色素の分析についての報告はほとんどない. 我々は, 今回MALDI-TOF MSを用いて, 植物の持つ主要な色素であるクロロフィル類の検出を試みた. terthiophene, alpha-cyano-4-hydroxy cinnamic acid (CCA)をマトリックスとして用い, クロロフィル
aの検出に最適な条件を検討した. CCAをマトリックスとして用いた場合, クロロフィルからMg
2+が脱離したフェオフィチン
aが検出され, terthiopheneの場合には安定したクロロフィル
aのピークが見られた. また, 両マトリックス共に, レーザーによる部分的な分解によりクロロフィル
aとともにフェオホルビド
a, クロロフィリド
a, フェオフィチン
aが検出された. このことから, この条件でフェオフィチン
a, クロロフィリド
a, フェオホルビド
aの検出も可能であることが明らかになった. 現在, クロロフィル
c, バクテリオクロロフィル
a類の解析を行っているので合わせて報告する.
抄録全体を表示
-
太期 一弘, 中野 義勝, 鈴木 款, 塩井 祐三
p.
604
発行日: 2007年
公開日: 2007/12/13
会議録・要旨集
フリー
サンゴ類に共生する褐虫藻(渦鞭毛藻)については二次共生藻についての詳細な検討がなされていない.褐虫藻の二次共生藻について検討する目的で,高速液体クロマトグラフィー(HPLC)による色素分析を行ったところ,渦鞭毛藻による色素以外に,附着性と思われる多種多様な藻類の色素が存在することが分かった.本講演では,サンゴ類に生育する藻類の多様性について色素分析の結果を基に報告する.沖縄県の瀬底ビーチでサンプリングした各種サンゴから色素を抽出した後,HPLC を用いて色素を分離し,フォトダイオードアレイによる検出・解析を行った.カラムはWaters Symmetry C
8を用い,色素はメタノール・アセトニトリル・0.25 M ピリジン・アセトン混液による二液グラジエント溶出で分離した.10数種のサンゴを分析した結果,褐虫藻の標識色素以外に,シアノバクテリア由来のchlorophyll
d が検出されたのをはじめ,chlorophyll
b, chlorophyll
c1やzeaxanthin,luteinといった色素も検出され,サンゴによって存在する色素組成に違いが見られた.標識色素に基づいて,シアノバクテリア類,緑藻,珪藻などサンゴには実に多くの種類の藻類が生育していることが明らかになった.これらはサンゴに共生している褐虫藻によるものだけではなく,附着藻 および潜行藻によるものと思われる.
抄録全体を表示
-
持丸 真里, 増川 一, 眞岡 孝至, 高市 真一
p.
605
発行日: 2007年
公開日: 2007/12/13
会議録・要旨集
フリー
シアノバクテリア
Anabaena属や
Nostoc属は、特徴的なカロテノイドとしてケトミクソール配糖体を持つ。ミクソール配糖体の糖部分は種ごとに多様性があるが、
Anabaena 7120はフコースを結合している(Takaichi et al. (2005) PCP)。リコペンからケトミクソール配糖体への生合成経路で機能が同定された酵素は、ミクソール配糖体をケト化する酵素CrtWのみである(Mochimaru et al. (2005) FEBS Lett.)。さらに我々はミクソール合成に関与する水酸化酵素CrtRも同定した(2006 植物学会)。
Synechocystis 6803のGDP-フコースシンターゼ破壊株ではミクソールに糖が結合しないと報告されている(Mohamed et al. (2005) J. Bacteriol.)。本研究では、その遺伝子に相同性のある
Anabaena 7120の遺伝子
all4826の破壊株を作成した。NMRなどの解析の結果、破壊株ではミクソールにフコースの異性体(メチルペントース)が結合していた。この異性体は、ミクソール配糖体の糖として報告されているα-L-フコース、α-L-ラムノース、α-L-キノボースではないことがわかったが、同定には至っていない。
Anabaena 7120の場合、
Δall4826はGDP-フコースを合成できないが、フコーストランスフェラーゼの基質特異性が緩やかなために、フコース異性体をミクソールに結合していると考えられる。
抄録全体を表示
-
原田 二朗, 溝口 正, 吉田 沙耶佳, 大岡 宏造, 民秋 均
p.
606
発行日: 2007年
公開日: 2007/12/13
会議録・要旨集
フリー
紅色光合成細菌は、バクテリオクロロフィル(BChl)
aやカロテノイドを主な色素分子とする光捕集系(LH)1と2を持つ。紅色光合成細菌
Rhodopseudomonas (
Rps.)
palustrisは、強光・定常光下においてはLH1とLH2を合成するが、弱光下ではLH2とは異なる吸収スペクトルを示すLH4を合成することが知られている。近年我々は、
Rps. palustrisと近縁であり、同様にLH4を合成する
Rhodopseudomonas sp. strain Rits(以下Rits株とする)を単離した。この細菌のクロロフィル色素の解析を行ったところ、BChl
aの生合成中間産物(C-17位上の長鎖エステル基の還元度が異なる)を多く蓄積すること分かった。本研究では、光強度を変化させて培養したRits株のBChl
aおよびにカロテノイド組成を解析し、それらの生体内での分布を明らかにすることを目的とした。まず、BChl
aの組成においては、光強度変化による中間産物の比率の変化はほとんどなかった。しかしカロテノイド組成では、強光・定常光下ではデヒドロロドピンが主であったのに対して、弱光下ではロドピンが主となることが分かった。現在、各培養条件の菌体からRC-LH1とLH2またはLH4を精製し、色素解析を行うことで、上記の色素の生体内での分布を調べている。
抄録全体を表示
-
小出 真維, 永井 聡, 青野 光子, 高橋 重一, 増田 建
p.
607
発行日: 2007年
公開日: 2007/12/13
会議録・要旨集
フリー
テトラピロール生合成系において、グルタミン酸tRNA還元酵素(HEMA)とフェロキラターゼ(FC)のアイソフォーム、HEMA2とFC1は、主に根や胚軸などの非光合成組織で主に発現している。昨年の本大会において我々は、シロイヌナズナ
HEMA2、
FC1の発現が傷害処理やオゾン処理により、光合成組織において誘導されることを報告した。今回、
HEMA2、
FC1の酸化ストレスによる発現変化について解析したところ、これらの遺伝子がメチルビオロゲンやローズベンガル処理により誘導されることを見出した。従って、
HEMA2、
FC1の発現誘導には細胞内における活性酸素の発生が関与していることが明らかとなった。
HEMA2、
FC1の遺伝子破壊株について解析したところ、野生株に対して、根におけるヘム含量の低下が認められた。また0.2ppmオゾン処理を6時間行ったところ、野生株ではヘム含量の増加が認められたが、破壊株ではいずれもヘム含量が減少していることが明らかとなった。以上の結果から、HEMA2とFC1は、通常の生育条件では非光合成組織におけるヘムの供給に機能しているが、酸化ストレス時には防御応答に関わるヘム蛋白質へのヘム供給に機能していることが示唆された。
抄録全体を表示
-
高橋 重一, 増田 建
p.
608
発行日: 2007年
公開日: 2007/12/13
会議録・要旨集
フリー
植物において、ヘムは葉緑体で生合成され細胞内の様々なオルガネラで機能する。また、テトラピロール中間体は核コードの光合成遺伝子の発現を制御するシグナルの一つと考えられている。昨年我々は、シロイヌナズナにおいて、細胞内でのテトラピロール輸送に関わる動物のp22HBP/SOULファミリーと高い相同性を示す遺伝子族が存在し、実際に組換えタンパク質がヘム結合性を示すことを報告した。今回、シロイヌナズナの細胞質型テトラピロール結合タンパク質(TBP)について解析を行った。データベース解析により、シロイヌナズナの細胞質型TBPとして4遺伝子が認められたが、1つの遺伝子(At1g78450)のORFには欠失が認められたため、偽遺伝子であると考えられた。細胞質型TBPと考えられるAt1g17100(TBP17100)とAt3g37970(TBP37970)の組換えタンパク質を用いて、金属ポルフィリン類に対する結合特異性実験を行った結果、2つのタンパク質はヘム(Fe-プロトポルフィリンIX)に対して特異的な結合を示したが、その他の金属ポルフィリン類(Mn-, Sn-, Mg-, Co-プロトポルフィリンIX)に対しては非特異的な結合しか示さなかった。また、プロトポルフィリンIXに対して、TBP17100は特異的な結合を示したが、TBP37970は非特異的な結合しか示さなかった。以上の結果から、これら2つの細胞質型TBPは植物細胞の細胞質におけるテトラピロール輸送において、異なる機能を果たしている可能性が示唆された。
抄録全体を表示
-
橋元 洋介, 溝口 正, 民秋 均, 小林 正美, 井上 和仁
p.
609
発行日: 2007年
公開日: 2007/12/13
会議録・要旨集
フリー
クロロフィル(Chl)
aとバクテリオクロロフィル(BChl)
aの合成経路はクロロフィリド(Chide)
a までは共通である。Chl
a は ChlG により Chide
a に長鎖アルコールが付加して合成される。一方、BChl
aは、Chlide
a から更に BchF、BchXYZ、BchC による3段階の酵素反応を経て合成されたバクテリオクロロフィリド(BChlide)
a に、BchG により長鎖アルコールが付加して合成される。緑色硫黄細菌
Chlorobium tepidum は、3種のクロロフィルChl
a 、BChl
a 、BChl
c を持つ絶対嫌気性の光合成細菌で、その全ゲノム配列には、
chlG/
bchGと高い相同性を持つ3つのORF(
CT1610、
CT1270、
CT1992)が存在する。このうち
CT1610と
CT1270を、それぞれ紅色細菌
Rhodobacter capsulatus の光合成色素合成遺伝子の破壊株に導入し、細胞に蓄積した色素をHPLC分析したところ、
CT1610導入株ではBChl
a、
CT1270導入株では Chl
a と同じリテンションタイムに色素成分が検出された。このうち
CT1270の導入株のChl
a 様の色素は、LC-massにより、フィチル基が付加したChl
a と一致する分子量を持つことが確認された。
抄録全体を表示
-
加藤 祐樹, 仲村 亮正, 須澤 朋之, 山下 麻美, 渡辺 正
p.
610
発行日: 2007年
公開日: 2007/12/13
会議録・要旨集
フリー
光合成明反応における高効率な光エネルギー変換は、光化学系(PS)を構成する電子伝達鎖のレドックス電位の絶妙な調節により支えられているものと推測されるが、詳細は明らかにされていない。これまでに我々は分光電気化学的な手法を適用することで、光化学系I一次電子供与体P700の酸化還元電位を高い精度で測定することに成功し、さらに生物種によってP700酸化還元電位が異なることを初めて見出してきた。P700酸化還元電位の生物種依存性の要因究明が、光化学系Iにおけるレドックス電位調節機構の解明にもつながると期待できるが、本研究では要因の1つとして考えられるP700の分光特性について詳細な検討を行った。
シアノバクテリアや、紅藻、緑藻、高等植物など一連の酸素発生型光合成生物のP700
+-P700の酸化還元差吸収スペクトルおよびCDスペクトルを分光電気化学的手法により調べた。吸収スペクトルについては、700 nm付近の吸収波長にはおおきな変化は見られなかったものの、Qyバンド領域を含めて形状が生物種によって異なることが明らかとなっている。CDスペクトルについては、生物種によって波長および形状が違うことが観測された。これらの結果とP700酸化還元電位との相関について本発表にて報告する。
抄録全体を表示
-
芝本 匡雄, 黒岩 善徳, 加藤 祐樹, 渡辺 正
p.
611
発行日: 2007年
公開日: 2007/12/13
会議録・要旨集
フリー
光化学系(PS)II中に含まれる機能分子シトクロム(cyt)
b559 は、PS IIを過剰な光エネルギーによる損傷から保護しているのではないかと考えられているが、実際にはどのような機能を有しているのか明らかになっていない。一般に
bタイプのcytは、+0 ~ 100 mV vs. SHE付近に酸化還元電位を示すが、cyt
b559では+400 mV vs. SHE付近に酸化還元電位を示す場合もあることが酸化還元滴定法を用いた測定で報告されており、cyt
b559の酸化還元特性についても完全に明らかにされていない。
そこで本研究では、当研究室で確立してきた分光電気化学的手法を適用することで、cyt
b559の酸化還元特性を詳細に検討することを目的とし、まずホウレン草から分画した光化学系II反応中心D1/D2/cyt
b559複合体中のcyt
b559の酸化還元特性を調べることを試みた。
結果、D1/D2/cyt
b559複合体中のcyt
b559の酸化還元電位は+89.5 ± 3.0 mV vs. SHE(n = 3)であり、+0 ~ +400 mV vs. SHEの電位領域ではこの電位でのみ1電子酸化還元することが明らかになった。発表では、測定した酸化還元電位からcyt
b559の機能について考察する予定である。
抄録全体を表示
-
小川 拓郎, 瀬尾 悌介, 桜井 英博, 井上 和仁
p.
612
発行日: 2007年
公開日: 2007/12/13
会議録・要旨集
フリー
緑色硫黄細菌は鉄硫黄型の光化学反応中心を持つ絶対嫌気性光合成細菌で、硫化物やチオ硫酸塩などの硫黄化合物を電子供与体として光合成を行う。硫黄化合物から光化学反応中心への電子伝達系路についてはまだ不明な点が多い。今回我々は、緑色硫黄細菌
Chlorobium tepidum の細胞抽出物から、チオ硫酸塩を酸化し光化学反応中心複合体への電子供与体となるシトクロム
c554 を還元する酵素として、3つの蛋白質画分(Factor I, II, III) を単離精製し、その活性を反応速度論的に解析した。Factor I は SoxY と SoxZ の 2 種のペプチドからなるヘテロダイマー、Factor II は SoxB のモノマー、Factor III はSoxA、SoxX、CT1020 の 3 種のペプチドからなるヘテロトライマーとしてそれぞれ精製された。チオ硫酸からシトクロム
c554 への電子伝達には Factor I、Factor II、Factor III の 3 つの蛋白質画分を必要とし、ひとつでも欠くとシトクロム
c554 の還元は見られなかった。チオ硫酸濃度を変化させ、シトクロム
c554 活性を測定したところ、反応速度は Michaelis-Menten 型となり、
Vmax は 15 µM Cyt
c 554 reduction/µM each factor/min となり、
Km は 0.24 mM となった。
抄録全体を表示
-
高橋 拓子, 高橋 裕一郎
p.
613
発行日: 2007年
公開日: 2007/12/13
会議録・要旨集
フリー
酸素発生型光合成の電子伝達反応は、光化学系I (PSI) と光化学系II (PSII) によって駆動され、両者の励起エネルギーは、ステート遷移により再分配される。PSIIがより励起されるステート2では、PSIIの集光性アンテナ(LHCII)の一部がPSIと可逆的に結合すると考えられている。これまでに、ステート2に誘導した緑藻クラミドモナスの細胞から、LHCIIのCP26、CP29、LhcbM5が結合したPSI-LHCI/II 超分子複合体を、ショ糖密度勾配超遠心法を用いて単離したことを報告した(1)。今回、PSI-LHCI/II超分子複合体のLHCIIを温和に解離する方法を見出したので報告する。低イオン強度では、PSI-LHCI/II超分子複合体は安定であったが、イオン強度を増加させてショ糖密度勾配超遠心を行うと、CP26、CP29、LhcbM5の順にPSI-LHCI複合体から解離していった。この解離のし易さは、これまでに示された3つのLHCIIのPSIへの結合の強さと一致している。塩によるPSI-LHCI/II超分子複合体の解体を利用して、LHCIIとPSI-LHCI複合体の色素を定量し、PSI-LHCI/II超分子複合体におけるLHCIIの存在量を分析した結果も報告する。
(1)Takahashi et al., (2006) PNAS 103, 477-82
抄録全体を表示
-
舟川 芽衣, 大西 岳人, 高橋 裕一郎
p.
614
発行日: 2007年
公開日: 2007/12/13
会議録・要旨集
フリー
数多くのサブユニットとコファクターから構成される光化学系I (PSI) 複合体のアセンブリーの分子機構はほとんど明らかにされていない。葉緑体チラコイド膜に存在する約20kDaのYcf3とYcf4タンパクは、葉緑体遺伝子にコードされ、PSI複合体の分子集合に必須である。本研究ではPSI複合体の分子集合が部分的に影響を受けた株を単離するため、緑藻クラミドモナスのYcf4のN末端側のアミノ酸を、2から9残基欠損させた部位特異的突然変異体を作製した。7残基欠損株でYcf4および PsaAの蓄積量と、PAMで測定したPSI活性は著しく減少した。8残基欠損株では、PSIのタンパクと活性はほとんど検出できなかった。次に、各変異体からPSI複合体をショ糖密度勾配超遠心で分離したところ、7残基欠損株では分子集合が不完全と考えられる複合体が微量検出された。一方、
ycf3と
ycf4遺伝子をそれぞれ、もしくは同時に欠損させた変異株からは、7残基欠損株の場合より少量の、分子集合が不完全と考えられるPSI複合体が分離した。以上の結果から、Ycf3とYcf4のPSI複合体の分子集合の初期過程における役割について議論する。
抄録全体を表示
-
住本 真理子, 沈 建仁, 高橋 裕一郎
p.
615
発行日: 2007年
公開日: 2007/12/13
会議録・要旨集
フリー
緑藻クラミドモナス(
Chlamydomonas reinhardtii)の光化学系I(PSI)は14種のポリペプチドと約100のクロロフィルaやカロテノイドを含む複合体である。また、PSIのアンテナ複合体であるLHCI(light-harvesting complex I)は約100-200分子のクロロフィルaおよびbを持ち、PSI反応中心へ励起エネルギーを伝達している。高等植物と緑藻ではPSIとLHCIは強く結合しているため、チラコイド膜を温和な界面活性剤で可溶化すればPSI-LHCI supercomplexを精製することができる。高等植物のアカエンドウから単離されたPSI-LHCI supercomplexは4.4A分解能でX線結晶構造解析に成功し、PSI複合体の片側に4つのLHCIを結合することが明らかにされた。一方、クラミドモナスのPSI-LHCI supercomplexには、9種のLHCIタンパク質が存在し、その内7種は十分な量、残りの2種は微量存在する。クラミドモナスでは多量のLHCIがどの様にPSI複合体に結合しているかは不明であり興味深い。そこで、本研究ではX線結晶構造解析によりクラミドモナスのLHCIの存在状態を明らかにするため、PSI-LHCI supercomplexを大量精製する方法の開発を行い、さらに得られた標品の結晶化を試みたので報告する。
抄録全体を表示
-
大西 岳人, 高橋 裕一郎
p.
616
発行日: 2007年
公開日: 2007/12/13
会議録・要旨集
フリー
緑藻
Chlamydomonas reinhardtii には、光化学系Iサブユニットをコードする遺伝子が核と葉緑体ゲノムに14種類存在するが、精製した系I複合体標品にはPsaNとPsaOが検出されない。PsaNは約10kDaの膜表在性タンパクでルーメン側に存在し、PsaOは約10kDaの2本の膜貫通へリックスを持つ膜内在性タンパクであると考えられている。系I結晶構造解析標品にはPsaN、PsaOとも存在せず、系I複合体における存在位置は明らかにされていない。我々は、クラミドモナスのPsaNとPsaOの合成オリゴペプチドを用いて抗体を作成し、その分布を調べた。その結果、PsaNとPsaOは精製した野生株のチラコイド膜に存在するが、系I欠損株に蓄積しないことがわかった。また、チラコイド膜を温和に可溶化して系I複合体を分離するとPsaNとPsaOは容易に遊離した。チラコイド膜をカオトロピック試薬で処理してもPsaNとPsaOは遊離した。したがって、PsaNとPsaOは系I複合体にゆるく結合することが示された。興味深いことに、クラミドモナスのPsaF欠損株は系I複合体を正常に蓄積しているが、PsaOは殆ど蓄積しなかった。これはPsaOの安定性にPsaFが必要であることを示唆している。これらの結果から、系I複合体におけるPsaOの結合部位に関して議論をする予定である。
抄録全体を表示
-
岡室 彰, 高橋 拓子, 岩井 優和, 皆川 純, 高橋 裕一郎
p.
617
発行日: 2007年
公開日: 2007/12/13
会議録・要旨集
フリー
フェレドキシンNADP酸化還元酵素(FNR)は酸素発生型光合成電子伝達反応において、光化学系Iの還元側で機能し、還元型フェレドキシンを酸化しNADP
+をNADPHへ還元する反応を触媒する。チラコイド膜を単離すると一部のFNRは遊離するが残りは安定にチラコイド膜に結合している。高等植物では単離されたチラコイド膜に結合するFNRはシトクロム
b6f複合体標品に分画され、循環型電子伝達反応に関与する可能性が考えられている。本研究では緑藻クラミドモナスの単離チラコイド膜に存在するFNRを定量し、安定に結合するFNRの機能の解析を試みた。光従属栄養条件下で生育させた野生株ではおよそ40%のFNRが単離したチラコイド膜に結合し、NADP
+光還元活性を保持していた。しかし、光化学系II欠損株の単離チラコイド膜には大きく減少し、シトクロム
b6fもしくは光化学系I欠損株の単離チラコイド膜には検出されなかった。野生型の単離チラコイド膜に結合するFNRの分布を調べるため、チラコイド膜を可溶化し分画したところ、ほとんどのFNRはサイズの大きな光化学系I複合体に分画され、微量がシトクロム
b6f複合体に分画された。緑藻クラミドモナスでは非循環と循環型電子伝達の調節はステート遷移に依存していると考えられているが、単離したチラコイド膜に結合するFNRとステート遷移との関係について議論する予定である。
抄録全体を表示
-
石坂 壮二, 野地 智康, 上滝 千尋, 梶野 勉, 福嶋 喜章, 関藤 武士, 岩井 覚司, 伊藤 繁
p.
618
発行日: 2007年
公開日: 2007/12/13
会議録・要旨集
フリー
シリカメソ多孔体(SMM)は、内部にナノサイズの六角柱形状の細孔を持つ疎水性の物質であり、大きな内部表面積と内部体積を持っており、タンパク質のような大きな分子の吸着体として適している。これまでに、好熱性紅色光合成細菌
Thermochromatium tepidumから単離した分子量129 kDaの光合成反応中心複合体(RC)と137 kDaのLH2複合体をそれぞれSMMへ導入した。SMM細孔内へ吸着したRCとLH2はその構造、光化学活性を維持しており、熱耐性も向上した。(Ref.)
今回は好熱性のシアノバクテリア
Thermosynechococcus (T.) elongatusから単離した光化学系I(PS I)反応中心複合体を直径23.5 nmの細孔を持つSMMへ導入した。シアノバクテリアのPSIは3量体で存在しており、分子量は1068 kDaの大きな膜タンパク質複合体である。SMM内へ吸着したPS Iの光化学活性、色素環境、タンパク質の構造は溶液中の場合とほとんど同じだった。SMMへ吸着させることで、PS IのP700の光化学活性、タンパク質の色素環境の熱耐性が向上することをそれぞれP700の過渡吸収、CDスペクトルにより確認した。PS Iの熱耐性は10℃~15℃向上した。
PS IとSMMの複合体は、太陽光エネルギーを人工利用する材料物質として可能性を秘めている。
Ref.I.Oda,Y.Shibata.T.kajino,Y.Fukushima,S.Iwai,S.Ithoh. J.Phys.Chem.B2006,110,1114-1120
抄録全体を表示
-
大久保 辰則, 野口 巧, 鞆 達也, 宮下 英明, 土屋 徹, 三室 守
p.
619
発行日: 2007年
公開日: 2007/12/13
会議録・要旨集
フリー
シアノバクテリア
Acaryochloris marinaは、主要色素としてChl
dを持ち、また、微量成分としてChl
aを含む。
A. marinaの光化学系IIの二量体クロロフィル(P)が、Chl
dより形成されているのか、それとも水分解能を保持するため、他の酸素発生型光合成生物と同様にChl
aを用いているのかについては、多くの議論があり、最終的な結論は得られていなかった。本研究では、フーリエ変換赤外分光法(FTIR)を用いて、
A. marinaの光化学系IIにおけるPのクロロフィル種を同定した。
A. marinaより精製した系IIコア複合体を用いてPの光酸化の際のFTIR差スペクトル(P
+/P)を測定し、
Synechocystis sp. PCC 6803及びホウレンソウのChl
aよりなるP680の光誘起差スペクトル(P680
+/P680)と比較した。その結果、
A. marinaのP
+/Pスペクトルにおけるクロリン環の振動領域には、
Synechocystis及びホウレンソウのP680
+/P680スペクトルとは明らかな違いが見られた。このことは、
A. marinaのPがChl
aではなく、Chl
dより成ることを示している。また、
A. marina のP
+の二本のケトC=Oピークの特徴は、他の2つのものとほぼ同じであったことから、P
+上の電荷分布には大きな違いがなく、
A. marinaのPがChl
dのホモダイマーであることが示唆された。
抄録全体を表示
-
吉岡 美保, 内田 優, 森 宏樹, 駒山 敬介, 大平 聡, 森田 典子, 中西 徹, 山本 泰
p.
620
発行日: 2007年
公開日: 2007/12/13
会議録・要旨集
フリー
ホウレンソウのチラコイド膜を40℃で30分間熱処理すると、光化学系II の反応中心結合タンパク質D1が分解され、23 kDaのN末端断片が生じた。この分解はZnで促進されEDTAで阻害されたので、金属プロテアーゼの関与が考えられる。チラコイド膜を2M KSCNで処理すると熱処理によるD1分解が見られなくなるとともに、その上清に分子量約70kDaのプロテアーゼが可溶化されることが示された。また、この上清に存在するプロテアーゼがFtsHであることがFtsH抗体(anti DS9, anti VAR2)を用いたウエスタン解析によって確認された。チラコイド膜について行ったMALDI-TOFマス解析では、FtsH2とFtsH8が同定された。可溶化されたFtsHプロテアーゼとチラコイド膜を用いた再構成実験では、熱処理によるD1タンパク質の分解がプロテアーゼ画分の添加で促進された。以上の結果から、熱ストレス下でのD1タンパク質の分解にはFtsHプロテアーゼが関与していると考えられる。
抄録全体を表示
-
Keisuke Komayama, Mahbuba Khatoon, Junko Horie, Miho Yoshioka, Noriko ...
p.
621
発行日: 2007年
公開日: 2007/12/13
会議録・要旨集
フリー
Moderate heat stress (40
οC, 30 min) on spinach thylakoids induced cleavage and aggregation of the D1 protein in Photosystem II. An N-terminal 23-kDa and a C-terminal 9-kDa fragments of the D1 protein, as well as aggregates of the D1 protein were detected by Western blot analysis with specific antibodies. FtsH proteases, which are responsible for cleavage of the heat-damaged D1 protein, were abundant in the stroma thylakoids, but less abundant in the grana or the Photosystem II membranes. Interestingly, FtsH was present even in the Photosystem II core. In the heat-stressed thylakoids, the D1 proteins was dephosphorylated and cleaved, while a large amount of aggregates of phosphorylated D1 protein was detected in the grana and Photosystem II membranes. We suggest that the heat-damaged D1 protein was degraded when dephosphorylated and recognized by FtsH proteases, while the damaged and phosphorylated D1 protein aggregated with the D2 protein and CP43.
抄録全体を表示
-
伴 亜希子, 井上 名津子, 池田 洋平, 佐藤 和彦, 杉浦 美羽, 菓子野 康浩
p.
622
発行日: 2007年
公開日: 2007/12/13
会議録・要旨集
フリー
Lollらによる光化学系II(系II)複合体の結晶構造モデルにおいて(Nature 435 (2005) 1040-1044)、未知の低分子量膜貫通型タンパク質の存在が明らかとなった。我々は、好熱性ラン色細菌
Thermosynechococcus elongatusから系II複合体を高純度に精製し、そのタンパク質の同定を試みた。その結果、Ycf12を新たに系II複合体の構成成分として確認することができた。他種のラン色細菌でも同様に系IIの構成成分となっているか、どのような機能を果たしているのかを検証するために、
Synechocysitis sp. PCC 6803の当該遺伝子を欠失させた変異体を作成し、系IIの機能やタンパク質組成について野生株との比較分析を行った。
通常の培養条件では、増殖特性や細胞の酸素発生活性などについて、野生株と変異株で大きな違いは見られなかった。精製した系II複合体では、野生株に比べ変異株で酸素発生活性の低下が見られた。電気泳動の結果、一部の表在性タンパク質の結合量が減少していた。これらのタンパク質は、精製の段階で失われたと考えられる。Ycf12の欠損により、それらのタンパク質の反応中心複合体への結合が不安定になっていることが示唆された。Ycf12は、系II複合体の構造的安定性にも寄与していると考えられる。
抄録全体を表示
-
桜井 勇, 水澤 直樹, 和田 元, 佐藤 直樹
p.
623
発行日: 2007年
公開日: 2007/12/13
会議録・要旨集
フリー
ジガラクトシルジアシルグリセロール(DGDG)は、チラコイド膜に含まれる主要な脂質成分の1つである。DGDGをはじめとするチラコイド膜脂質は、生体膜の基本構造である脂質二重層を形成するのみでなく、様々な超分子複合体の構成成分であることが、近年、明らかにされてきている。好熱性ラン藻
Thermosynechococcus elongatusの光化学系II複合体(PSII)の結晶構造中には14分子の脂質分子が同定され、そのうち4分子がDGDGであることが報告されている。しかし、DGDGがPSIIにおいて果たしている、具体的な機能に関しては明らかにされていない。
ラン藻や単細胞紅藻
Cyanidioschyzon merolaeのゲノムを検索すると,高等植物型のDGDG合成酵素が見出されず,両者に共通する新規なDGDG合成酵素が存在するものと推定された。9種のラン藻と
C. merolaeだけに存在すると推測されるタンパク質を、Gclust server(http://gclust.c.u-tokyo.ac.jp/)により検索すると、12クラスターに分類された。そのうち1つのクラスターには、糖転移酵素と推測されるタンパク質が含まれており、
Synechocystis sp. PCC 6803では、Slr1508がそのクラスターに存在した。そこで、
slr1508遺伝子を相同組み換えにより破壊したところ,DGDGの蓄積が見られなくなった。この変異株を用いた解析から、DGDGはPSIIに必要不可欠ではないが、その安定化に寄与していることが明らかとなった。
抄録全体を表示
-
逸見 隆博, 岩井 雅子, 池内 昌彦, 沈 建仁, 神谷 信夫
p.
624
発行日: 2007年
公開日: 2007/12/13
会議録・要旨集
フリー
PsbTcは光化学系II複合体(PSII)の低分子量サブユニットの一つであり、膜貫通ヘリックスを一つだけもつ。好熱性ラン藻
Thermosynechococcus elongatusの
psbTc遺伝子破壊株の解析から、PsbTcはPSIIの二量体化に関与し、またPsbMがPSIIに結合するのに必要であると考えられている。本研究では好熱性ラン藻
T. vulcanusの
psbTc遺伝子にクロラムフェニコール耐性カセットを挿入して破壊した株(以下変異株)からPSIIを単離・精製し、その結晶化を行った。イオン交換クロマトグラフィーによる分離の結果、変異株では野生株と比べてPSII単量体の割合が増加しているが、二量体の方が多く存在していることが示され、またPSII二量体の活性は野生株のものの7割程度だった。結晶化はハンギングドロップ蒸気拡散法を用いて行い、3.8ÅのX線回折分解能を示すPSII二量体の結晶を得ることに成功した。結晶構造解析の結果、変異株のPSIIではPsbTcの膜貫通ヘリックスに対応する電子密度が観測され、ストロマ側のループ部分の電子密度は消失していた。また、PsbMに対応する電子密度も確認された。これらの結果は、PsbTcのループの欠失はPsbMのPSIIへの結合に影響を与えないが、PSII二量体を部分的に不安定化させ、単量体の割合の増加や活性の低下を導いたことを示唆する。
抄録全体を表示
-
渡辺 麻衣, Nasrin Zannatul, 小池 裕幸, 菓子野 康浩, 佐藤 和彦
p.
625
発行日: 2007年
公開日: 2007/12/13
会議録・要旨集
フリー
ラン色細菌は、高い環状電子伝達活性を持つ。そこには、多くの経路が関与していることが示唆されているが、その正確な経路はまだ解明されていない。NAD(P)H-Quinone Oxidoreductase (NQR)は、NAD(P)H酸化活性を持つタンパク質の一つであり、
Synechocystis sp. PCC 6803では薬物耐性遺伝子(
drgA)産物とされている。しかし、この遺伝子が失活することで薬物耐性を示すため、その本当の働きは完全にはわかっていない。
我々は、NQRがNAD(P)H酸化活性を持つことから、環状電子伝達系に関与していると考え、野生型(WT)と、
drgA遺伝子(
slr1719)の失活突然変異体(MT)を比較し、NQRの機能を調べた。
強光培養条件では、MTの成長速度がWTの半分になり、吸収スペクトル、低温での蛍光スペクトルに差がみられた。細胞抽出液のNAD(P)H酸化活性を測定したところ、NAD(P)H酸化活性の大部分はNQRによることがわかった。また、dinosebがNQRに特異的な電子受容体であり、それに効く阻害剤も同定できた。NAD(P)H酸化活性、阻害剤の効果は、使用する電子受容体に依存していた。NQRが実際にP700に電子を渡しているのかを、cell-free系で測定できる系を開発した。その成果についても報告する。
抄録全体を表示
-
平松 由衣, 川崎 翔太, 作山 治美, 多淵 知樹, 大鳥 久美, 薮田 行哲, 田茂井 政宏, 重岡 成
p.
626
発行日: 2007年
公開日: 2007/12/13
会議録・要旨集
フリー
[目的]ソース葉における光合成産物の炭素分配は、ショ糖合成系により主に調節されていると考えられている。本研究では、ショ糖合成系の律速因子の1つである細胞質FBPaseの増強が光合成炭素代謝に及ぼす影響を検討するために、ラン藻FBP/SBPaseを細胞質へ導入した形質転換植物(TcFS)を用いて、高CO
2環境での光合成特性を比較検討した。
[方法・結果]高CO
2 (1200 ppm) 環境では、野生株と比較してTcFS株の側枝数、葉数および湿重量の増加が認められた。また、同条件でのTcFS株の光合成能は、野生株と比較して有意に増加していた。光合成代謝中間体を比較した結果、野生株では上葉にヘキソースの蓄積が認められたのに対し、TcFS株の上葉ではヘキソースの蓄積は認められず、下葉および側枝葉にショ糖およびデンプンの蓄積が認められた。以上より、細胞質FBPaseは、ソース葉の細胞質においてヘキソースからショ糖へと効率よく転換するために機能し、それによる糖分配の変化が光合成機能の制御および形態形成に影響を及ぼしていると考えられる。
抄録全体を表示
-
鈴木 雄二, 大久保 真葵, 畠山 華子, 大橋 敬子, 吉澤 隆一, 小島 創一, 早川 俊彦, 山谷 知行, 前 忠彦, 牧野 周
p.
627
発行日: 2007年
公開日: 2007/12/13
会議録・要旨集
フリー
イネ (
Oryza sativa L.) にイネ
rbcS cDNAをオウン・プロモーターの制御下で発現させる遺伝子コンストラクトをアグロバクテリウム法にて導入した.T0およびT1世代において,葉身全窒素に占めるRubisco態窒素の割合を指標としたスクリーニングを行い,その割合が野生型の120%以上となるものを選抜した.T2世代において,
rbcS遺伝子ファミリー(5遺伝子)のうち1つの遺伝子のmRNA量が野生型の3.9-6.2倍となったが,他の遺伝子のmRNA量に変化は認められなかった.その結果,
rbcSの全mRNA量は野生型の2.1-2.8倍となった.また,
rbcLのmRNA量は野生型の1.2-1.9倍となった.葉身Rubisco含量は葉面積当たりで野生型の30%程度,葉身窒素含量当たりで10-20%にまでそれぞれ有意に増加していた.しかしながら,葉身Rubisco含量が律速因子となる光飽和・低CO
2分圧下での光合成速度には,形質転換体と野生型との間で差は認められなかった.以上の結果から,イネにおいて
rbcS遺伝子の過剰発現により,
rbcL遺伝子の発現が転写産物レベルでup-regulateされ,Rubiscoホロエンザイムの量が増加することが明らかとなった.しかしながら,葉身Rubisco含量の増加による光合成能力の向上は,低CO
2分圧下においても認められなかった.
抄録全体を表示
-
北原 悠平, 松田 祐介
p.
628
発行日: 2007年
公開日: 2007/12/13
会議録・要旨集
フリー
海洋性珪藻
Phaeodactylum tricornutumのcarbonic anhydrase(PtCA1)は、環境CO
2濃度の変化、及び明暗条件下での光条件の変化により転写レベルで制御されている。この制御には、
ptca1の転写開始点より上流-70から-30間(P
ptca1-70/-30)にある四つのシスエレメント(2つのcAMP応答性領域(CRE1、CRE2)、p300結合部位、Skn-1結合部位)が関与していると考えられる。その中のSkn-1結合部位は低CO
2、光条件下でのPtCA1の発現活性に関与していることが示唆されている配列である。
Caenorhabditis elegansでは、Skn-1がp300と相互作用すること、また酸化ストレスに応答することが報告されているが、独立栄養生物の環境応答に於ける役割は未だ報告例がない。本研究では、このSkn-1結合部位に結合する転写因子を同定することを目的とする。まず、yeast one-hybrid screeningを行い、Skn-1結合部位に結合すると予想される155個のクローンを得た。次に、この系を使いSkn-1結合部位への配列特異性を確認し、65個の陽性クローンを得た。今回この65個のクローンに組み込まれたcDNA断片について報告する。
抄録全体を表示
-
吉田 聖士, 松田 祐介
p.
629
発行日: 2007年
公開日: 2007/12/13
会議録・要旨集
フリー
藻類のCO
2濃度の変化に対する応答機構は、淡水性藻類において古くから研究がなされているが、海洋性藻類においては報告例が乏しいのが現状である。本研究では、海洋の最有占種である海洋性珪藻の大気CO
2濃度変化に対する応答機構の体系的な理解を目的として、海洋性珪藻
Paeodactylum tricornutumにおけるCO
2応答性遺伝子の半網羅的な探索を行なった。5%CO
2(高CO
2)及び現在の大気条件である0.038%CO
2(低CO
2)に順化させた細胞について、cDNA-AFLP(cDNA-amplified fragment length polymorphism)解析を行い、現在までに20のcDNA断片についてCO
2応答性を確認した。このうち低CO
2で抑制されるものは13あり、その中にはラン藻で同様の報告があるトリオースリン酸イソメラーゼ遺伝子などが含まれていた。低CO
2で誘導されるものは7あり、その中にはラン藻で低CO
2での抑制が確認された亜硝酸還元酵素遺伝子が含まれていた。この事から、海洋性珪藻の窒素代謝系はラン藻とは異なるCO
2応答をすることが考えられた。その他のCO
2応答性遺伝子断片についても討論する。
抄録全体を表示
-
山敷 亮介, 松田 祐介
p.
630
発行日: 2007年
公開日: 2007/12/13
会議録・要旨集
フリー
地球全体の一次生産量に大きく貢献している海洋性珪藻類は、CO
2感知機構を有していると考えられているが、その詳細な分子メカニズムは未解明である。現在までに、CO
2応答性プロモーターであるP
ptca1配列の解析が行われ、転写開始点上流70bpまでにCO
2応答に重要な配列があることが分かっている。この領域には2つのcAMP応答性配列(CRE1:-70~-63、CRE2:-21~-14)とcAMPに関連した機能を有することが知られているp300結合部位(-52~-46)が存在することが分かっている。CRE1についてはcAMPシグナルの影響を受けることが確認されている。本研究では、P
ptca1のシスエレメントを精査し、CO
2応答性発現制御の分子機構を明らかにすることを目的としている。これまでに、
uidAレポーター遺伝子に連結した
ptca1コアプロモーター改変コンストラクトを海洋性珪藻に導入し、形質転換株を5%及び大気レベルCO
2環境下に順化し、
uidAレポーターアッセイを行った。その結果、現在までに分かっていたシスエレメントに加えて1つの新たなCO
2応答性配列の候補が見出された。CRE1以外の各シスエレメントのcAMPとの関わり及びシスエレメント間の相互作用について検討した結果を報告する。
抄録全体を表示
-
鈴木 英治, 小出 圭一, 高橋 秀和, 鈴木 倫子, 北村 進一, 藏野 憲秀, 中村 保典
p.
631
発行日: 2007年
公開日: 2007/12/13
会議録・要旨集
フリー
Cyanobacterium sp. MBIC 10216 を含む数種のシアノバクテリアは、グリーコーゲンではなくセミアミロペクチンと名付けられた特異な多糖を産生する。セミアミロペクチンは、グリコーゲンに比べて長い α-1,4-グルカン鎖を多く含み、またその分子量は、イネのアミロペクチンに近い。セミアミロペクチン産生の遺伝的背景を解明することを目的として、私達は MBIC 10216 株のゲノム配列を解析中であり、貯蔵多糖の生合成を担う主要な遺伝子群を同定しているが、その中に枝作り酵素 (BE) の活性に必要なアミノ酸残基を全て保持する遺伝子を 3 個 (BE1、BE2、BE3) 見出した。BE は一次構造上 GH13 ファミリーに属するが、多くのシアノバクテリアにおいて、このタイプの BE はただ 1 つしか見られないことから、MBIC 10216 株における複数の BE の存在は特異な性質であると考えられた。3 者の BE のアミノ酸配列を
Synechococcus elongatus PCC 7942 株の BE 配列と比較した結果、相同性はそれぞれ 68% (BE1)、60% (BE2)、28% (BE3) であった。MBIC 10216 株の粗抽出液中には BE 活性は検出できないが、3遺伝子をそれぞれ組換えタンパク質として大腸菌に発現させると明確な BE 活性が認められた。そこで、合成アミロースを基質として各酵素の反応特異性を解析した。反応産物である α-1,6-分枝鎖の鎖長分布には各 BE アイソフォーム間で顕著な差異が認められた。
抄録全体を表示
-
谷口 洋二郎, 大河 浩, 福田 琢哉, 増本 千都, 深山 浩, 徳富(宮尾) 光恵
p.
632
発行日: 2007年
公開日: 2007/12/13
会議録・要旨集
フリー
C3植物葉肉細胞内で疑似C4光合成回路を駆動させるためには、3種類(PEPC, PPDK, NADP-ME)あるいは4種類(PEPC, PPDK, NADP-MDH, NADP-ME)のC4光合成酵素を高発現させる必要があると考えられている。異なる組合せのC4酵素を発現する形質転換イネ(二重形質転換イネ3種類、三重形質転換イネ1種類、四重形質転換イネ1種類)を作製し、生育特性、光合成特性、および、炭素同位体分離比を比較した。
PEPCを高発現させると光合成速度と炭素同位体分離比が低下する。4種類のC4酵素すべてを共発現させると、PEPCの高発現で一旦低下した光合成速度と炭素同位体分離比が回復した。この光合成速度の回復にはPPDKとMDHが必要であることがわかった。光合成速度は増大したものの、四重形質転換イネでは生育が阻害され、収量も低下した。この生育阻害はPEPCとMEの共発現に起因することが明らかにされた。
4種類のC4酵素のうち、PPDKとMDHは明所でのみ活性を示し暗所では不活性となるが、PEPCとMEは明所、暗所ともに活性を示す。PEPCとMEが共発現すると、暗所あるいは弱光下で一旦固定した炭素が何らかの経路を経て消費されるものと考えられる。イネのPEPCは夜リン酸化され高活性型となる。イネのこの特徴がPEPCとMEの共発現による生育阻害の一因と考えられる。
抄録全体を表示
-
楡井 直美, 辻 敬典, 岩本 浩二, 鈴木 石根, 白岩 善博
p.
633
発行日: 2007年
公開日: 2007/12/13
会議録・要旨集
フリー
円石藻
Emiliania huxleyiは、ハプト植物門に属する微細藻類の1種であり、海洋に広く分布している。また、ブルームを形成し、生物ポンプによる炭素の海底への輸送を介して、地球上の炭素循環に大きな影響を与えている。その機能は光合成によって支えられているが、光合成初期炭素代謝機構についての知見は僅かである。本研究ではRubiscoの酸素固定に由来するグリコール酸の代謝経路を明らかにすることを目的とし、グリコール酸酸化酵素の探索と2-[
14C]-グリコール酸を用いた代謝産物分析を行った。
まず、データベース上に登録されているグリコール酸酸化酵素(グリコール酸オキシダーゼ(GOX)とグリコール酸デヒドロゲナーゼ(GDH))遺伝子の相同配列を
E. huxleyiのESTから検索した。その結果、GDHの相同配列を見出した。そのプローブを作成し、明暗条件下で発現解析を行ったところ、そのmRNA量は明条件でのみ増加した。続いて、2-[
14C]-グリコール酸を基質とするトレーサー実験による産物分析を行った結果、代謝産物として
14C-GluおよびGlnを検出した。
以上の結果から、
E. huxleyiは、GDHの触媒によりグリコール酸を酸化した後、GluとGlnへと代謝する経路を有するものであり、Gly、Serを経てPGAへと代謝する緑藻とは異なるグリコール酸代謝経路を有することが示唆された。
抄録全体を表示
-
是枝 晋, 森田 邦男, 中俣 浩介, 大西 純一
p.
634
発行日: 2007年
公開日: 2007/12/13
会議録・要旨集
フリー
プラスチド型リン酸輸送体には、基質特異性に応じてトリオースリン酸/リン酸輸送体(TPT)、ホスホエノールピルビン酸/リン酸輸送体(PPT)、グルコース-6-リン酸/リン酸輸送体(GPT)、ペントースリン酸/リン酸輸送体の4つのサブファミリーが存在する。これらのうち、通性CAM植物アイスプラントからは3つのサブファミリーに属する4つの輸送体をコードするcDNA(
McTPT1、
McPPT1、
McGPT1、
McGPT2)が見いだされている。これまでに、アイスプラントのCAM化の過程で
McTPT1の葉での転写産物量はやや減少するのに対し、他の3者では著しく上昇すること、さらに、
McTPT1と
McGPT2の発現は光合成組織に限られるのに対し、
McPPT1と
McGPT1は根でも葉でも発現していることが分かっている。
我々はこれらの遺伝子のプロモーター構造とイントロン/エクソン構造を明らかにするため、ゲノムDNAのクローン化を行っている。これまでのところ、
McGPT1と
McGPT2の転写領域の塩基配列が明らかになっており、これらの遺伝子はアラビドプシス及びイネのGPT遺伝子と同じ位置に、4つのイントロンを持つことが分かった。さらに、
McTPT1と
McGPT2の遺伝子上流域(それぞれ約0.9 kbと約2.6 kb)が単離できており、現在その塩基配列を解析中である。それらの構造を比較した結果も報告する。
抄録全体を表示
-
大西 紀和, 小日向 務, 福澤 秀哉
p.
635
発行日: 2007年
公開日: 2007/12/13
会議録・要旨集
フリー
緑藻クラミドモナスは、CO
2欠乏条件下で無機炭素濃縮機構(carbon-concentrating mechanism; CCM)を駆動してCO
2を細胞内に積極的に取り込むことにより、炭酸同化を効率良く行っている。しかし、光依存的なCO
2輸送体の実体は不明のままである。Myb転写因子の一つであるLCR1を欠損した
lcr1株は、低CO
2条件で
Lci1、
Lci6、
Cah1の発現が誘導されず
1)、CO
2輸送活性も野生株の60~70%に低下していた。そこで本研究では、CO
2欠乏誘導性の膜タンパク質をコードする遺伝子
Lci1に注目し、その機能を解析した。
Lci1のコード領域に
Nia1遺伝子の上流領域を連結し、CO
2条件に関わらず培地中の窒素源をアンモニウム塩から硝酸塩に交換した時にのみ
Lci1の発現を誘導できる形質転換株を、
lcr1株を宿主に用いて作出した。5% CO
2条件下で
lcr1株のCO
2輸送活性と無機炭素親和性は窒素源の影響をほとんど受けないが、形質転換株では硝酸塩存在下で
Lci1の発現を誘導すると、CO
2輸送活性と無機炭素親和性が上昇した。これは、LCI1がCO
2輸送系で働くことによってCCMに寄与していることを示している。
1) Yoshioka et al. Plant Cell (2004)
抄録全体を表示
-
高林 佑介, 山本 直樹, 井上 和仁
p.
636
発行日: 2007年
公開日: 2007/12/13
会議録・要旨集
フリー
緑色硫黄細菌
Chlorobium tepidum は鉄硫黄型反応中心を持つ嫌気性の光合成細菌で、ニトロゲナーゼを持ち窒素固定能を有する。配列決定が完了した
C. tepidum のゲノムには、鉄硫黄クラスターアッセンブリーに関与する
iscU(
nifU)および
iscS(
nifS)と相同性の高い遺伝子
CT1994 および
CT1995 がそれぞれ存在する。しかし、大腸菌
Escherichia coli や窒素固定細菌
Azotobactor vinelandii のゲノムに存在する
isc オペロンおよびシアノバクテリアに存在する
suf オペロンはない。このうち CT1994 は
A. vinelandii の NifU の C 末側 3 分の 1 を欠く特徴的なドメイン構造をしており、これまでに我々は、大腸菌で発現させ精製した CT1994 は C 末側ドメインに [2Fe-2S] クラスターを結合していること、さらに嫌気的還元条件下でクエン酸鉄のような無機鉄と硫化ナトリウムのような無機硫黄を加えると N 末側ドメインにも不安定な鉄硫黄クラスターが再構成されることを報告した。今回は、大腸菌内で発現させ精製した CT1995 の活性を反応速度論的に解析し、その生化学的性質を調べた。精製した CT1995 は L-システインを基質とするデスルフラーゼ活性(
Km = 4.0 µM、
Vmax = 8.3 mol H
2S・mol CT1994
-1・min
-1)を示した。また、無機硫黄の代わりに CT1995 と L-システインを加えた再構成実験でも、CT1994 の N 末側ドメインに鉄硫黄クラスターが結合されることが示唆された。
抄録全体を表示
-
松崎 雅広, 伊藤 岳, 高橋 陽介
p.
637
発行日: 2007年
公開日: 2007/12/13
会議録・要旨集
フリー
光合成細菌
Rhodobacter sphaeroides f. sp.
denitrificansのDMSO (dimetyl sulfoxide) 呼吸系の
dmsCBAオペロンの転写はニ成分制御系のDmsS/DmsRにより制御されている。一般にセンサーキナーゼはN末側から膜貫通ドメイン、PASドメイン、リン酸リレーに関与するドメインを持ち、細胞外の領域が環境のシグナルを認識すると考えられている。しかし、LacZ活性による解析からセンサーキナーゼDmsSは細胞外の領域がなく細胞膜の細胞質側に局在するタンパク質であることが示された。また、これらの膜結合領域はセンシング機能に必要で特にC末端側が重要であることが示されていた。
本研究ではPhoA活性によるDmsSのトポロジーの確認とDMSO呼吸のシグナルについて解析を行った。7種類の
phoA融合遺伝子を持つ光合成細菌を構築した。ペリプラズム、細胞膜、細胞質に分画しPhoA活性を測定しDmsSのトポロジーを
lacZの結果と比較した。一方、DMSOからDMSへの還元がおこらない
dmsA遺伝子破壊株を構築し、
dmsC-lacZ融合遺伝子を接合導入しLacZ活性を測定した。野生株、
dmsA遺伝子破壊株におけるLacZ活性に変化はなかった。DMSO存在下では活性が10倍に上昇したが、DMS存在下でも活性が3倍に上昇した。これはDMSが酸化され少量のDMSOが生成したものであると考えられた。以上の結果から、DmsSはDMSをセンスしているのではなく、DMSOのみをシグナルとしていることが示された。
抄録全体を表示
-
大下 将, 小島 幸治, 久堀 徹, 西山 佳孝, 林 秀則
p.
638
発行日: 2007年
公開日: 2007/12/13
会議録・要旨集
フリー
光合成反応で生じる活性酸素は、光化学系の修復に必要なタンパク質の新規合成を翻訳伸長の過程で特異的に阻害する。翻訳系の中で翻訳伸長因子EF-Gが酸化されやすいことが大腸菌で知られており、EF-Gが活性酸素の標的となっている可能性が考えられる。本研究では、ラン藻
Synechocystis sp. PCC 6803のEF-G (Slr1463)に着目してEF-Gの酸化ストレス傷害に対応する応答機構を解析した。EF-GをH
2O
2で酸化させたのち、異なった濃度のdithiothreitol (DTT)により還元させ、チオール基をPEG-maleimideによって修飾することによりEF-Gの還元状態を解析した。DTTの濃度を上げるとCys残基が段階的に還元されていくことが観察された。さらにこのアッセイ系に
Synechocystisのチオレドキシンを加えると、DTTによる還元が促進された。これらの結果より、ジスルフィド結合を形成していたCys残基がチオレドキシンによって還元されることが示唆される。Cys105をSerに変換した改変EF-Gタンパク質では、H
2O
2による酸化やチオレドキシンの効果が見られなかった。したがって、Cys105がジスルフィド結合の形成に関与しているとともに、チオレドキシンの標的になっていることが推測される。
抄録全体を表示
-
渡辺 智, 佐藤 真純, 荷村(松根) かおり, 千葉櫻 拓, 吉川 博文
p.
639
発行日: 2007年
公開日: 2007/12/13
会議録・要旨集
フリー
シアノバクテリア
Synechococus elongatus PCC 7942株に同定されている3種の
dnaKパラログと4種の
dnaJパラログのうち、
dnaK2、dnaJ2は共に必須遺伝子であり、熱、強光などのストレス時に誘導がかかることから、シアノバクテリアのDnaKシャペロンサイクルの中でストレス応答の中心的な役割を担っていることが示唆されている。
これまでの酵母2ハイブリッド法を用いた解析から、我々はDnaJ2がRNase Eと特異的に相互作用することを見出した。RNase Eは
psbAII遺伝子のmRNAを分解することが
Microcystisにおいて報告されている(Asayama M., 2006, Biosci. Biotechnol. Biochem.)。RNase Eに対するDnaK2、DnaJ2の働きを調べるため、それぞれのタンパク質を精製し、RNase Eの
psbAII mRNA分解活性を比較した。その結果、DnaK2、DnaJ2を加えることによってRNase Eの
psbA II mRNA分解活性は低下した。現在、DnaK2、DnaJ2のRNase Eに対する抑制効果が他の転写産物にも影響するかどうか、他のDnaK、DnaJパラログもRNase Eに対して同様の効果をもつかどうかについて、さらに詳しく解析を進めている。
抄録全体を表示
-
渡邉 俊希, 小林 利彰, 渡辺 智, 佐藤 真純, 荷村(松根) かおり, 吉川 博文
p.
640
発行日: 2007年
公開日: 2007/12/13
会議録・要旨集
フリー
シアノバクテリア
Synechococcus elongatus PCC 7942株には3つの
dnaKと、4つの
dnaJホモログが存在する。中でも必須遺伝子である
dnaJ3は
dnaK3とオペロンを形成し、またDnaJ3タンパク質はDnaK3と共にチラコイド膜上に比較的多く局在することから、特異的な機能を持つことが示唆されている。我々はDnaJ3の機能を探ることを目的として変異解析を行った。DnaJ3のC末端領域に変異を導入した結果、43℃で温度感受性を示す、DnaJ3F193L株(t598c)を取得した。さらにF193L株の温度感受性を抑圧する株を複数取得し、マッピングを行った結果、
syfpcc7942_2440 (
pnp)及び
syfpcc7942_1999 (
rbp2)に抑圧変異を同定した。これらは共にRNAの分解制御に関与するタンパク質であることから、(野生株、F193L株、抑圧変異株の)
dnaJ3 mRNAの安定性について比較したところ、F193L株では野生株、抑圧変異株に比べより安定であった。この結果から
dnaJ3 mRNAの安定化が温度感受性の原因であると考えられた。そのメカニズムについて考察する。
抄録全体を表示
-
小林 利彰, 渡辺 智, 片野 葉子, 荷村(松根) かおり, 吉川 博文
p.
641
発行日: 2007年
公開日: 2007/12/13
会議録・要旨集
フリー
シアノバクテリア
Synechococcus elongates PCC 7942における3つの
dnaKホモログ(
dnaK1, dnaK2, dnaK3)の中で、DnaK2と共に生育に必須であるDnaK3の特異的機能を探る目的で変異解析を行った。基質結合ドメインの温度感受性変異体を取得し、さらにその抑圧変異をリボソームのL24タンパク質に同定した。DnaK3はチラコイド膜に比較的多く局在するという特徴があり*、シアノバクテリアではチラコイド膜上にポリソームが存在し光化学系のタンパク質等の翻訳が行われていることが知られていることから、DnaK3とポリソームとの相互作用を調べた。細胞を膜画分、膜結合型ポリソーム画分、細胞質画分、細胞質のポリソーム画分の4つに分画し、各DnaKタンパク質の局在を解析したところ、制限温度では温度感受性変異株でのみDnaK3が膜結合型ポリソームより減少した。また、抑圧変異株では野生株と変わらない局在を示した。したがって、変異型DnaK3がポリソームと相互作用しなくなることが温度感受性の要因であると考えられ、光化学系タンパク質のターゲティングに影響を与えている可能性や局在の機構等について考察する。
*Nimura, K., Yoshikawa, H., and Takahashi, H. 1996. Biochem. Biophys. Res. Commun.
抄録全体を表示
-
村松 昌幸, 園池 公毅, 日原 由香子
p.
642
発行日: 2007年
公開日: 2007/12/13
会議録・要旨集
フリー
シアノバクテリアは、強光への順化過程において光化学系I (系I) 量を減少させることが知られている。
Synechocystis sp. PCC 6803では、この調節に欠損がある株として
pmgA変異株が単離されているが、この株は強光培養し続けると致死性を示すことから、強光下におけるPmgAの重要性が伺える。そこで本研究では、PmgAタンパク質が実際どの様な機能を持つ因子であるのかその同定を目指している。系I遺伝子発現レベルへの
pmgA破壊の影響を調べたところ、破壊株は、強光シフト6時間以降、系I反応中心サブユニットをコードする
psaABの転写産物量を抑制維持できないことを見出した。
psaAB遺伝子は異なるメカニズムにより強光応答を示す2つのプロモーターを持つが、いずれのプロモーター由来の転写産物も、
pmgAの破壊により強光下で顕著に蓄積していた。強光下での転写産物の安定性は野生株と
pmgA破壊株間に差がなく、PmgA が
psaABのコアプロモーター活性に直接影響を及ぼしている可能性が示唆された。PmgAは、枯草菌におけるアンチシグマ因子RsbWと弱いながらも相同性を持つことから、アンチシグマ様因子として
psaAB以外にも複数の遺伝子の発現調節に関わることが考えられる。現在、DNAマイクロアレイ解析により、
pmgA破壊の結果、発現レベルが影響を受ける遺伝子の同定を進めている。
抄録全体を表示
-
小島 寛子, 野亦 次郎, 藤田 祐一
p.
643
発行日: 2007年
公開日: 2007/12/13
会議録・要旨集
フリー
クロロフィル(Chl)の生合成の最終段階の反応をおこなうプロトクロロフィリド(Pchlide)還元酵素には、進化的起源が異なる二種類の還元酵素、暗所作動型Pchlide還元酵素(DPOR)と光依存型Pchlide還元酵素(LPOR)が存在する。現生の光合成生物における分布などから、DPORが進化的により古く、LPORは酸素発生型光合成の成立に伴って創出されたと推察される。ラン藻
Gloeobacter violaceus PCC 7421は、分子系統解析で現生のラン藻の中で最も早い時期に分岐したと考えられる。この推察は、チラコイド膜を欠くこと、他のラン藻に比べChl含量が極めて少ないなどの性質からも支持され、Chl生合成系においても酸素発生型光合成生物の原始的な形態をとどめているかもしれない。そこで、
G. violaceusのLPORの酵素化学的性質を検討し、既知のLPORとの比較を行った。推定LPOR遺伝子
glr2486を
E. coliで大量発現させて精製した。Glr2486蛋白質は、NADPHと光に依存してPchlide還元活性を示し、Pchlideに対するKm値は、0.7 μMであった。この値は、既知のラン藻LPORで最も低い値であった。従って、少なくともPchlideに対する親和性という観点では
G. violaceusのLPORは十分に効率的な酵素であると判断される。
抄録全体を表示
-
岡田 友子, 西村 崇史, 愛知 真木子, 前田 真一, 小俣 達男
p.
644
発行日: 2007年
公開日: 2007/12/13
会議録・要旨集
フリー
これまでに様々な生物で、転写されるが翻訳されないRNA、すなわち非翻訳RNA(ncRNA)が同定されており、その生理・生化学的機能が解析されている。原核生物では特に大腸菌でncRNAの予測、同定、解析が進んでいるが、ラン藻においてもその存在が明らかになりつつある。我々は、環境応答におけるncRNAの役割を検討するため、材料として
Synechococcus elongatus PCC 7942を用い、低CO
2条件下で発現量が変化する、新規な低分子量ncRNA候補の探索を行った。100bp以上の長さのORF間の配列に対応する順逆両方向のオリゴヌクレオチドスポットがあるDNAマイクロアレイの解析結果を用いて、発現量が高く、かつ隣接したORFとは異なる発現様式を示すORF間領域を、炭素欠乏ストレス応答性のncRNAが存在する領域の候補として10種類選び出した。これらの領域の発現を、Northern法によって解析した結果、3領域について炭素欠乏条件下で発現量が増加する低分子量RNAを検出できた。現在、これら低分子量RNAの転写領域を決定し、生体内における機能の解明を目指して解析を進めている。
抄録全体を表示
-
増川 一, 井上 和仁, 櫻井 英博
p.
645
発行日: 2007年
公開日: 2007/12/13
会議録・要旨集
フリー
われわれは、ラン色細菌のニトロゲナーゼを利用した水素の光生物的水素生産の研究開発に取り組んでいる。これまでに、
Nostoc sp. PCC7120株で、水素再吸収の抑制のためにヒドロゲナーゼ遺伝子を破壊し(Δ
hupL、Δ
hupL/Δ
hoxH株)、水素生産活性が野性株の約4-7倍増大するという成果を得た。しかし、高活性が10時間程度しか持続しないという問題があった。ホモクエン酸はニトロゲナーゼ活性中心FeMo-cofactorに配位する。従属栄養細菌
Klebsiellaでは、ホモクエン酸合成酵素遺伝子
nifVを破壊するとニトロゲナーゼの窒素固定活性は大幅に低下するが、水素生産性が増大する。ニトロゲナーゼの窒素固定能が相対的に低下すれば、成長のための窒素栄養の要求性がより長く持続し、結果的に、ニトロゲナーゼによる水素生産の高活性が持続するようになると期待される。
Nostoc sp. PCC7120株は、2つの
nifV遺伝子(
nifV1、
nifV2)を持つ。野生株とΔ
hupL株を親株として、その一方または両方の遺伝子を破壊した6種の変異株を作製したところ、いずれの破壊株も窒素固定能は低下した。Δ
hupL/Δ
nifV1株では、水素生産の高活性が比較的長期間持続し、カルチャー当たりの水素生産性増大につながった。2つの
nifVの発現のパターンとニトロゲナーゼ活性との関係について論じる。
抄録全体を表示
-
新谷 考央, 野口 航, 寺島 一郎
p.
646
発行日: 2007年
公開日: 2007/12/13
会議録・要旨集
フリー
葉の光合成や老化は、その葉自身の光環境と個体全体の光環境の両方の影響を受けている(Weaverら2001)。したがって、植物個体内の個葉間で、環境の情報が何らかのシグナルを介して伝わっている可能性が高い。しかし、ある葉の環境が他の葉の光合成・老化に与える影響には不明な点が多い。本研究では、インゲンの初生葉周辺のCO
2濃度のみを制御できるシステムを構築し、栽培17日目から初生葉周辺のCO
2濃度を150、400、1000 ppmで処理し、その後の初生葉と第一複葉の光合成速度の変化を調べた。
1000 ppmで処理した初生葉の360 ppm CO
2での光合成速度(A
360)は、400 ppmで処理した初生葉と比較して速く減少し、150 ppmで処理した初生葉のA
360は、ゆるやかに減少した。第一複葉のA
360は、1000 ppmで処理した個体では低く、150 ppmで処理した個体では高かった。この第一複葉のA
360の処理間での差は処理期間と共に小さくなった。以上の結果は、初生葉周辺のCO
2環境が初生葉や第一複葉の光合成能力に影響を及ぼすことを示している。さらに、個葉間のシグナル伝達に関与している可能性がある炭水化物量を測定し、個葉間の情報伝達における炭水化物の役割についても考察する。
抄録全体を表示
-
横野 牧生, 秋本 誠志, 岸本 純子, 田中 歩
p.
647
発行日: 2007年
公開日: 2007/12/13
会議録・要旨集
フリー
常緑樹は低温条件においてもクロロフィルを保持したまま光障害を最小限に食い止め早春から光合成を開始することができる。これは他の植物には無い高度な光防御によると思われるがその詳細には不明な点が多い。今回は主にピコ秒時間分解蛍光分光法を用いて、常緑樹であるイチイの葉における励起エネルギー移動過程を検討した。時間分解蛍光スペクトル(TRFS)は時間相関単一光子計数法により測定した。励起波長は425 nm(クロロフィル励起)とした。また励起波長依存性を見るために定常光による低温蛍光スペクトルも合わせて測定した。測定中サンプルは77 Kに保たれた。夏と秋の葉のTRFSに顕著な違いは見られず、対照サンプルのシロイヌナズナの葉のTRFSと類似していた。一方、冬のTRFSは光化学系2(PSII)領域の蛍光強度が減少し、減衰も約2倍速くなっていた。これはPSIIの存在量の減少やPSIIでの励起エネルギー緩和の促進を反映している。また光化学系1(PSI)由来のレッドクロロフィルの蛍光もより短波長側にピークを示したことからPSIにおいても何らかの変化が起きていると考えられる。さらに春のTRFSはPSII由来の蛍光がほとんど観測されず、PSI領域の蛍光は冬よりもさらに短波長側にピークを示した。また蛍光スペクトルが顕著な励起波長依存性を示した。当日は葉緑体の電子顕微鏡写真からの結果も合わせて考察を行う。
抄録全体を表示
-
吉田 啓亮, 渡辺 千尋, 寺島 一郎, 加藤 裕介, 坂本 亘, 野口 航
p.
648
発行日: 2007年
公開日: 2007/12/13
会議録・要旨集
フリー
変動する環境から逃れることのできない植物は多様な光防御機構を持っている。その1つに、葉緑体で生じる過剰還元力をシャトル機構によって葉緑体外へ輸送し、ミトコンドリア呼吸系で散逸するという機構が存在する。植物の呼吸鎖に特有に存在するシアン耐性呼吸経路(AOX)はATP合成と共役しないため、効率よく還元力を散逸することができる。我々はこれまでに、(1)AOXを阻害すると光合成系が過還元状態になることや、(2)葉緑体の還元力の蓄積に伴いミトコンドリアへの輸送活性やAOXのタンパク量や活性が同調的に増加することを示した。この結果は植物の光防御にAOXが重要な機能を持っていることを示す。
(2)の研究から、葉緑体に還元力が蓄積したときに、AOX発現を引き起こしているシグナルは何かという疑問が生じる。我々はD1タンパク修復サイクルに異常を示す斑入り変異株
var2の呼吸系の解析過程において、葉緑体に還元力が蓄積していないにも関わらず、AOXの転写レベルやタンパク量が上昇していることを発見した。この変異株の緑色部位では特異的に過酸化水素や過酸化脂質が蓄積しており、光合成系の酸化ストレスがAOXの発現に関する何らかのシグナルを送っている可能性が示唆された。現在、より詳細に活性酸素種の定量を試みている。本年会では、他のATP合成非共役経路の発現上昇についても併せて報告する。
抄録全体を表示
-
高見 常明, 小林 善親, 鹿内 利治
p.
649
発行日: 2007年
公開日: 2007/12/13
会議録・要旨集
フリー
植物は環境に適応するために様々な適応機構を有している。例えば、光化学系IIでは光合成電子伝達に利用できない光エネルギーは熱として安全に散逸される(NPQ)。しかし、植物の生育する野外環境は常に変動しており、単純ではない。そこで本研究では、この変動する環境に対して植物がどのように適応しているかを明らかにすることを目的とする。
本研究では主に温度環境と光環境の変動に注目し、シロイヌナズナを用いて光合成電子伝達が変動する環境への適応できない変異株の単離を試みている。温度環境として連続低温下(10℃)と、低温と常温(23℃)の温度変動を持たせた2つの条件を設定し、一週間処理を行った。NPQの光強度依存性は10℃一定条件下で生育させた野生株では変化は見られなかった。しかし温度変動条件下で生育させた野生株ではNPQが弱光域から誘導されるようになり、一定温度で生育させた植物とは異なる適応戦略をとることが明らかになった。これらの結果を用いて、温度変動に応答できない変異株の単離を行った。得られた変異株の解析結果について報告する。
また、光環境についても連続光と光変動(明期/暗期=2時間/2時間)の条件を設定し3日間処理を行った。その結果、温度処理と同じようなNPQの光強度依存性に対する効果が見られた。この結果は植物が変動する環境に対して同じような適応戦略をとっていることを示唆している。
抄録全体を表示
-
Kunzhi Li, Yue Zhao, Qingquan Hu, Limei Chen, Yongxiong Yu
p.
650
発行日: 2007年
公開日: 2007/12/13
会議録・要旨集
フリー
The accumulated evidence reveals that the increases in citrate synthesis and exudation enhance the resistance of plants to Aluminum (Al). The carbon skeleton used for synthesis of citrate is supplied from photosynthesis. To investigate whether the increase in citrate syntheses in the leaves of plants would improve their resistance to Al, citrate synthase (CS) was overexpressed in tobacco leaves under the control of tomato rbcS-3C promoter and the overexpressed CS was localized in the cytoplasm. Overexpression of CS resulted in 1-5 fold increase in citrate synthase activity in transgenic tobacco leaves compared with wild-type plants. The staining experiments for roots showed that the transgenic tobacco lines were much more tolerance to Al than wild-type plants after exposure to 100-300 μmol Al.
抄録全体を表示
-
武智 和也, 南條 洋平, 西山 佳孝, 林 秀則
p.
651
発行日: 2007年
公開日: 2007/12/13
会議録・要旨集
フリー
光化学系IIは高温ストレスに対して感受性が高く、容易に失活する。それに対して光合成生物は、あらかじめ穏やかな高温で生育した場合、光化学系IIの熱安定性を増大させるという適応機構を発達させている。本研究では、ダイズ培養細胞を用いて光化学系IIの高温適応の分子機構を解析した。細胞の培養温度を25℃から35℃に上げることによって、単離したチラコイド膜における光化学系IIの熱安定性が増大した。しかし、チラコイド膜を0.05% Triton X-100で処理してその包膜構造を破壊すると、獲得された高温耐性は失われた。また、35℃で培養した細胞からチラコイド膜のルーメン画分を調製し、25℃で培養した細胞から単離したチラコイド膜に加えると、光化学系IIの熱安定性が増大した。しかし、このルーメン画分を煮沸処理あるいは限外濾過すると、光化学系IIの熱安定性を増大させる能力はなくなった。以上のことから、熱安定性を増大させる因子はルーメン画分に局在する何らかのタンパク質であることが示唆される。現在、このルーメン画分を各種カラムクロマトグラフィーで分離し、光化学系IIの熱安定性を増大させるタンパク質の精製と同定を進めている。
抄録全体を表示