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志賀 倫子, 小川 拓郎, 瀬尾 悌介, 桜井 英博, 井上 和仁
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0551
発行日: 2008年
公開日: 2008/12/18
会議録・要旨集
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ヘリオバクテリアは絶対嫌気性のグラム陽性細菌に属し、光化学系Iと同様の鉄硫黄型の反応中心を持つが、コア反応中心はPshAから成るホモダイマーであり、より始源的な特徴を有する。一般に、鉄硫黄型の反応中心はフェレドキシンを介したNADP
+ 光還元が可能であるが、ヘリオバクテリアにおいての証明は行われていない。今回、我々はヘリオバクテリア
Heliophilum fasciatum の反応中心を嫌気下で界面活性剤を用いて可溶化し、イオン交換クロマトグラフィー、ゲル濾過クロマトグラフィーによって部分精製した。また、
H. fasciatum から三種のフェレドキシン(Fd) Fd A、Fd B、Fd Cを嫌気条件下で、硫安分画、陰イオン交換クロマトグラフィー、さらに、疎水性クロマトグラフィーによって単離精製した。精製されたFdの吸収スペクトルとESRスペクトルは、2[4Fe-4S]型のFdのものとそれぞれ一致した。それぞれのFdを4℃、空気下で曝し、385 nmでの吸収を測定した所、FdBとCは20時間後も吸収の減少を示さなかったが、Fd Aは約2時間で吸収が半減し酸素感受性を示した。ホウレンソウFNRを加えてNADP
+ 光還元活性を調べたところ、Fd BとFd Cは高い活性を示したが、Fd Aは活性をほとんど示さなかった。
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高橋 亮太, 杉浦 美羽, 野口 巧
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0552
発行日: 2008年
公開日: 2008/12/18
会議録・要旨集
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光化学系II(PSII)におけるチロシンY
Dは、P680の副次的電子供与体として働く。Y
Dは、P680
+によって酸化されるとプロトンを放出し中性ラジカル(Y
D·)となることから、この反応において、Y
D周辺の水素結合ネットワークが重要な役割を果たしていると考えられる。我々は、前回の年会において、Y
Dの水酸基には2つの水素結合が形成されているというフーリエ変換赤外(FTIR)法による結果を報告した。今回は、同手法を用い、Y
Dと近傍水分子との相互作用について調べた。シアノバクテリア
T. elongatusのPSIIコア複合体を用いて、光誘起Y
D·/Y
DFTIR差スペクトルを測定した。弱い水素結合を持つOH基の伸縮振動領域には、3636/3617と3594/3584 cm
-1にピークが検出され、これらはH
218O置換によって低波数シフトを示した。この結果から、これらのピークが水分子の振動に由来し、少なくとも2つの水分子がY
Dと相互作用を持つことが示された。PSIIのX線結晶構造によると、Y
Dと水素結合を形成するのに適当な位置に存在しているアミノ酸側鎖はD2-His189のみである。従って、Y
Dのもう1つの水素結合は、これらの水分子のうちの1つと形成されている可能性が示唆される。この水分子は、Y
Dの酸化還元電位の調節、及びプロトン放出反応において、重要な役割を果たしていると考えられる。
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Mahbuba Khatoon, Yasusi Yamamoto, Junko Horie, Miho Yoshioka, Amu Yama ...
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0553
発行日: 2008年
公開日: 2008/12/18
会議録・要旨集
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A common feature of light and heat stresses to chloroplasts is the stress-induced damage to Photosystem II (PSII) complexes. The reaction centre D1 protein is the primary target of the damage. After the damage, a repair mechanism operates to replace the damaged D1 subunits within PSII by a newly synthesized copy. We investigated the relationship between the light- and heat- induced damage to the D1 protein and unstacking of the thylakoids. For efficient migration of the photodamaged PS II complexes from the grana to stroma thylakoids, and also of FtsH proteases from the stroma thylakoids to the grana, the grana stacking becomes a physical hindrance.At lower temperature (4*), the thylakoid unstacking did not take place by strong illumination, and the cleavage of the D1 protein was not observed. These results suggest that the thylakoid unstacking is necessary for efficient degradation of the photo- or heat-damaged D1 protein in PS II.
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網中 良太, 佐々木 孝行, 山本 洋子, 山本 泰
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0554
発行日: 2008年
公開日: 2008/12/18
会議録・要旨集
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光化学系IIのD1タンパク質は、光や熱ストレスによって損傷を受ける。この損傷D1タンパク質の分解に関与しているのが、ATP依存性・亜鉛要求性の金属プロテアーゼFtsHである。FtsHは、AAA (ATPase associated with diverse cellular activities)ファミリータンパク質のひとつで、シアノバクテリアから高等植物まで広く保存されている。FtsHは、N末端側で膜を2回貫通し、ストロマ側に露出したC末端側にATP結合部位とプロテアーゼ活性部位を持つ。
Synechocystis sp. PCC 6803には4つのFtsHホモログが存在する(
slr1390、
slr1604、
sll1463、
slr0228)。このうち
slr0228にコードされたFtsHは、損傷D1タンパク質を分解することが知られている。しかし、損傷D1タンパク質のFtsHによる分解機構の詳細はわかっていない。
本研究では、活性を保ったFtsHを精製するために、遺伝子工学的にFtsH (
slr0228)のN末端にhis-tagとFactor Xaプロテアーゼ認識部位を導入した
Synechocystis sp. PCC 6803 his-tagged FtsH mutantを作成した。本発表では、Ni-NTAカラムを用いたhis-tagged FtsHの精製について報告をする。
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吉岡 美保, 猪名川 佳代, 山本 泰
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0555
発行日: 2008年
公開日: 2008/12/18
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ホウレンソウチラコイド膜に熱ストレスを与えると光化学系IIの反応中心タンパク質D1が特異的に損傷を受け、23kDaのN末端断片と9kDaのC末端断片が生じる。これまでの研究から、熱ストレス下におけるD1タンパク質の分解にはチラコイド膜結合型のプロテアーゼFtsHが関与することが示唆されている。[Yoshioka et al.: J. Biol. Chem. (2006) 281, 21660-9] 本研究ではチラコイド膜からFtsHプロテアーゼの可溶化と精製を試みた。様々な界面活性剤や塩(KSCN, DDM, TritonX-100など)を用いてチラコイド膜からFtsHを可溶化し、アラビドプシスFtsH抗体(anti-VAR2)によるウエスタン分析で可溶化上清中にFtsHプロテアーゼを検出した。FtsHプロテアーゼの可溶化には、0.1-1.0%のDDM(n-dodecyl-β-D-maltoside)が最も有効であった。DDM処理によりチラコイド膜から可溶化したFtsHプロテアーゼの精製には陰イオン交換カラム(HiTrap Q Sepharose FFカラム)を用い、その後精製段階のFtsH画分についてβ-カゼインを基質としたプロテアーゼ活性の有無を調べた。
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野地 智康, 上滝 千尋, 川上 恵典, 沈 建仁, 梶野 勉, 福嶋 喜章, 関藤 武士, 伊藤 繁
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0556
発行日: 2008年
公開日: 2008/12/18
会議録・要旨集
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好熱性シアノバクテリア
Thermosynechococcus vulcanus 由来の光化学系 II (PS II ) 反応中心複合体を直径23 nmの細孔を持つシリカ多孔体SMMへ導入し、SMMへの吸着によるPS II への影響を調べた。シアノバクテリアPS IIの分子量は756 kDaの非常に大きな膜タンパク質複合体である。このような巨大複合体を入れ得る大口径の細孔をもつシリカ構造体の検討例はすくなく、タンパク質導入もおこなわれていなかったが、本実験のためにこれを開発した。SMMへの吸着量は先に報告した光化学系I単量体の場合に比べてややすくなかった。吸着後もPS II の酸素発生効率は維持されたが、約半分に低下した。SMMに吸着したPS II の色素環境、タンパク質の構造は溶液中の場合とほとんど同じである事を吸収と蛍光スペクトルから確認した。これらの事から、SMMへ吸着後もPS II の構造はほぼ保たれ、酸素発生活性を示すことがあきらかになった。さらに細孔内での反応特性を検討した。
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足立 秀行, 梅名 泰史, 榎並 勲, 神谷 信夫, 沈 建仁
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0557
発行日: 2008年
公開日: 2008/12/18
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光化学系II複合体(PSII)の中心部分は原核生物から真核生物まで高度に保存されているが、酸素発生に必要な表在性タンパク質や低分子量サブユニットの一部は生物種によって異なっている。PSIIの立体構造は、原核生物であるラン色細菌由来のものについて報告されているが、真核生物由来のものについては報告されていない。紅藻は、原核生物に最も近い真核藻類の一つであり、その光化学系も、ラン色細菌と高等植物の間に移行している段階にあるといえる。紅藻PSIIには、20 kDaという、ラン色細菌に存在しない、4つ目の表在性タンパク質が結合しており、このような紅藻とラン色細菌のPSIIの構造上の違いを明らかにするためには紅藻PSIIの立体構造解析が必要である。そのため本研究では紅藻
Cyanidium caldarium由来PSIIの結晶構造解析を目的として、PSIIの精製・結晶化を行っている。
C. caldariumからPSIIの結晶を得たことはすでに昨年度の本大会で報告したが、分解能が低く構造解析が行えるまでには至っていなかった。今回、結晶の分解能を向上させるため結晶化条件の改良を行い、3.8Å分解能の回折データを得ることに成功したので、その詳細について報告する。なお、この結晶の回折データを用いて、現在紅藻PSIIの構造解析を進めている。
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水澤 直樹, 桜井 勇, 和田 元, 佐藤 直樹
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0558
発行日: 2008年
公開日: 2008/12/18
会議録・要旨集
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近年、チラコイド膜脂質が脂質二重層を形成するのみならず、光化学系超分子複合体の構成成分であることが明らかにされてきている。好熱性藍藻の光化学系II複合体(PSII)の結晶構造中には少なくとも14分子の脂質分子が存在し、そのうち4分子がジガラクトシルジアシルグリセロール(DGDG)であることが報告されている。私達は前大会で
Synechocystis sp. PCC6803のDGDG合成酵素遺伝子(
slr1508)破壊株(以下、変異株)では、DGDGが全く蓄積しないことを報告した。本研究では、DGDGのPSIIにおける機能を明らかにするため、本変異株のPSII特性を解析し、DGDG欠損の効果を検討した。
変異株は光独立栄養条件下での増殖速度、酸素発生活性には野生株との有意な違いは観察されなかった。しかしながら、38-50℃間で細胞を熱処理すると、変異株は野生株に比べ、より低い温度処理で酸素発生活性が低下した。さらに変異株のPSII標品の解析では、単量体の増加と二量体の減少、および表在性タンパク質(PsbO、PsbU、PsbV)の解離が観察され、酸素発生活性も大きく低下することがわかった。この活性低下はPSIIの精製過程で表在性タンパク質が解離し、PSIIが不安定化したためと考えられる。これらの結果から、DGDGはPSIIの機能に必須ではないが、表在性タンパク質の結合を介した酸素発生複合体の安定化に重要な役割を果たしていることが示唆された。
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末益 卓, 岩井 雅子, 高坂 賢之, 梅名 泰史, 池内 雅彦, 神谷 信夫, 沈 建仁
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0559
発行日: 2008年
公開日: 2008/12/18
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PsbKとPsbZ は光化学系II複合体(PSII)を構成する低分子量サブユニットであり、ラン色細菌から高等植物まで広く保存されている。PsbKは分子量約4 kDa で1回膜貫通へリックスを持ち、PsbZは分子量約6 kDa で2回膜貫通へリックスを持っている。ラン色細菌PSIIの結晶構造において、両サブユニットはともに複合体の外縁部に存在し、CP43に近接している。これまでいくつかの生物種においてこれらサブユニットの欠失変異体を用いた機能解析が報告されているが、変異株の表現型は様々である。ラン色細菌では、これらサブユニットのいずれを欠いても光独立的に生育できることがわかっている。そこで我々は、これらサブユニットの機能を構造学的見地から明らかにするため好熱性ラン色細菌
Thermosynechococcus vulcanus PsbK欠損株および
T. elongatus PsbZ欠損株から、それぞれのPSIIを精製、結晶化し、結晶の性質をX線により調べた。その結果、いずれの変異株からも結晶を得ることに成功し、また、得られた結晶の格子定数は類似していたが、
T. vulcanus野生株のPSII結晶の格子定数とは大きく異なっていた。従って、これらサブユニットの欠失が結晶格子内のPSII二量体間の相互作用に影響を及ぼしたことが示唆された。本発表ではPSIIの精製、結晶化法と結晶の性質について報告する。
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岩井 雅子, 川上 恵典, 井上 康則, 沈 建仁, 池内 昌彦
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0560
発行日: 2008年
公開日: 2008/12/18
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PsbY、PsbZは光化学系II(PSII)複合体に存在する5kDaと6.5 kDaの膜貫通蛋白質である。我々は
Thermosynechococcus elongatus BP-1を用い、
psbY,
psbZ遺伝子破壊株( Δ
psbY, Δ
psbZ)を作製した。
Δ
psbZ株では、野生株に比べ、精製PSII複合体での酸素発生活性が40-50%ほど減少すること、PsbZはPSII複合体内でのPsbKとYcf12の安定化に関与することをすでに報告している。活性低下の要因としてMn量の低下が疑われる。精製PSII複合体に結合しているMn量について野生株と Δ
psbZ株で比較した結果を報告する。
SynechocystisでのPsbY欠損株ではCaCl
2を含まない培地での強光下での生育阻害、精製PSII複合体での表在性蛋白質減少による活性低下が報告されている。強光、通常光、弱光下の生育では
T. elongatus BP-1の野生株とΔ
psbY株の間に差はなかった。CaCl
2を含まない培地でも同様であった。細胞、チラコイド膜、精製PSII複合体での酸素発生活性は野生株に比べて、活性が20-30%減少していた。BN-PAGEからPSII2量体化に影響がないことが明らかになった。構成蛋白質の比較、さらに結晶構造解析からΔ
psbY株のPSII複合体ではPsbYのみが消失しており、表在性蛋白質への影響は見られなかった。
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冨田 めぐみ, 伊福 健太郎, 佐藤 文彦, 野口 巧
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0561
発行日: 2008年
公開日: 2008/12/18
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光化学系IIにおける表在性蛋白質 PsbO, PsbP, PsbQはマンガンクラスターを安定化し、酸素発生反応におけるCa
2+及びCl
-の要求性を制御することが知られている。しかし、こうした機能発現の具体的なメカニズムは、未だ解明されていない。そこで我々は、フーリエ変換赤外分光法(FTIR)を用い、表在性蛋白質の酸素発生反応への構造的な関与について調べた。ホウレンソウの光化学系II膜標品からPsbP 及びPsbQを除去することにより、S
1→S
2遷移のFTIR差スペクトルにおけるアミドIバンドに明らかな変化が観測された。しかし、さらにPsbOを除去した試料では、スペクトルにそれ以上の変化は見られなかった。PsbPを再結合することにより、これらのアミドIバンドの変化は回復したが、PsbPのN末端から15残基を除去したΔ15PsbPではその回復は見られなかった。また、
13C置換PsbPを再結合した場合、非置換PsbPと同じアミドIバンドの変化が観測された。これらの結果より、PsbP のN末端部分(<15残基)が酸素発生系と直接的に相互作用し、その蛋白質コンフォメーションに影響を与えることが示された。このPsbPの直接的相互作用が、酸素発生系におけるCa
2+及びCl
-の親和性を上げ、それらの保持能を高めていると考えられる。
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井上(菓子野) 名津子, 高橋 裕一郎
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0562
発行日: 2008年
公開日: 2008/12/18
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光化学系II(系II)複合体に5 kDaの疎水性サブユニット(Psb30/Ycf12)が存在することが藍色細菌
Thermosynechococcus elongatusで見いだされた(Kashino et al. (2007) BBA 1765, 1269)。その遺伝子
psb30(
ycf12)は真核光合成生物に広く保存されているが、被子植物には見いだされていない。藍色細菌の欠損株は光合成的に生育するため、Psb30は系II活性に必須の成分ではなく、その機能は不明のままである(2007年度年会において発表)。本研究では、Psb30の機能と存在部位の解析を進めるため、緑藻クラミドモナス(
Chlamydomonas reinhardtii)を用いて、
psb30葉緑体遺伝子の破壊株を作出し、かつ合成オリゴペプチドに対する特異抗体を作製した。クラミドモナスでも
psb30欠損株は系II活性を保持し、光合成的にも生育した。今後ストレス環境下での生育への影響を調べる予定である。一方、種々の系II欠損株ではその蓄積量は大きく減少していたが、精製した系IIコア複合体にすべてのPsb30が回収された。結晶構造解析から未同定の2種の小型ポリペプチドがそれぞれCP43とD1/D2反応中心に結合することが示されている。現在、系IIコア複合体をサブ複合体へ部分解体し、Psb30の分布を調べることにより、系II複合体内でのPsb30の結合部位の特定を進めている。
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嶋田 友一郎, 土屋 徹, 秋本 誠志, 田中 一徳, 福谷 通孝, 鞆 達也, 三室 守
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0563
発行日: 2008年
公開日: 2008/12/18
会議録・要旨集
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光化学系 (PS) IIは、光誘起電子伝達反応と水の分解による酸素発生を担い、D1, D2サブユニット (反応中心複合体)、CP43, CP47 (コアアンテナ)、および、多数のスモールサブユニットから構成されている。これまでの研究から77K蛍光スペクトルにおいて、PS II に由来する蛍光は685 nm (F685) と695 nm (F695) に観測されることが知られており、それぞれCP43、CP47のChl
aに帰属されている。
本研究では、シアノバクテリア
Synechocystis sp. PCC 6803の形質転換系を利用し、CP43の構造遺伝子 (
psbC) を抗生物質耐性遺伝子に置換することによりCP43欠損株を作製した。CP43欠損株は光独立栄養条件下において生育不可能であり、5 mM glucose存在下、30 μE/m
2/sの光混合栄養条件 (photo-mixotrophic growth: PMG)、および、15 min/dayの光照射条件下 (light-activated heterotrophic growth: LAHG) にて培養を行った。これらにおけるCP43欠損株の77K蛍光スペクトルは、従来の報告と異なり、435 nmによる励起においてF695が観測されず、686 nmとPS Iに由来する725 nmの蛍光のみが観測された。励起スペクトルは 686 nm 蛍光がフィコビリンに由来することを示唆した。また、時間分解蛍光スペクトル解析においてもほぼ同様の結果が得られた。これらの結果を基に蛍光特性について考察を行う。
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金本 浩介, 岩前 智子, 新崎 由紀, 吉村(川崎) 智美, 山本 宏, 三宅 親弘
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0564
発行日: 2008年
公開日: 2008/12/18
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地球温暖化の主要因である大気中CO
2の削減を実現するために植物の光合成能強化を目指している。しかし、光合成活性はある条件下において律速されることが知られている。これはA/Ci理論により説明され、C3植物の光合成活性は低CO
2下ではRubiscoカルボキシラーゼ反応に関わる要因(Rubisco量、活性、活性化率、RubiscoへのCO
2の拡散効率)により、高CO
2下ではRuBP再生に関わる要因(電子伝達反応、カルビンサイクル酵素活性、リン酸回収効率)により制御される。これら光合成活性を制御(律速)する機構を明らかにできれば光合成能の改良において新しい戦略を立てることができる。本研究では光合成制御の分子レベルでの解明を目的として、低または高CO
2分圧下で光合成に異常を示すシロイヌナズナ変異株のスクリーニングをクロロフィル蛍光解析によるPSII量子収率(Φ(PSII))を指標に行ってきた。これまでにCO
2条件に関係なく野生株よりもΦ(PSII)が低い変異株(2株)および、低CO
2条件下で野生株よりもΦ(PSII)が高い変異株(1株)を取得している。本スクリーニング法により得られた変異株の変異遺伝子の同定を染色体マッピング法により進めており、それぞれ第1染色体、および第3染色体、第4染色体に座位することが明らかとなった。現在、マッピングにより絞り込まれたゲノム領域の塩基配列解読により変異遺伝子の探索を行っている。
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吉田 啓亮, 寺島 一郎, 野口 航
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0565
発行日: 2008年
公開日: 2008/12/18
会議録・要旨集
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植物ミトコンドリアには、ATP合成と共役しない呼吸経路が複数存在する。これらの経路は様々なストレス環境下で誘導されることが知られているが、その制御機構については不明な点が多い。本研究では、シロイヌナズナを用いて、光ストレス下における呼吸系遺伝子発現の詳細な制御機構や、その経路間の違いについて調べた。
これまでの研究と同様、シアン耐性呼吸に関わるAOXの遺伝子発現やタンパク量が強光処理後に増加することを確認した。また、AOXだけでなくNDA1、NDB2、NDC1、COX6b、CI76などの遺伝子発現も強光処理によって増加した。NDB2はAOX1aと強く共発現していたのに対し、強光誘導される他の遺伝子は異なる発現パタンを示した。阻害剤等を用いて人為的に光合成系や呼吸系を操作したところ、AOX1aやNDB2の発現は主に呼吸系の阻害によって強く誘導されたのに対し、NDA1の発現は主に光合成系からの活性酸素種生成に影響を受けた。また、NDC1、COX6b、CI76などの発現は操作実験による影響を受けなかった。強光処理を高CO
2環境下で行うと、いくつかの呼吸系遺伝子の発現がさらに誘導され、光合成の上昇による細胞内代謝の変化も呼吸系遺伝子の発現制御に関与していることが示唆された。これらの結果を統合し、光ストレス下での呼吸系遺伝子発現の制御モデルを提案したい。
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石田 智, 高林 厚史, 石川 規子, 羽野 泰史, 遠藤 剛, 佐藤 文彦
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0566
発行日: 2008年
公開日: 2008/12/18
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NAD(P)H dehydrogenase(NDH)は光合成明反応においてNAD(P)Hの還元力を基にプラストキノンを還元する役割を担い、光合成明反応で生産されるNADPHとATPの生産量を調節する。NDHは高等植物およびシアノバクテリアで保存されており、高等植物およびシアノバクテリアにおける解析によりNDH関連遺伝子が同定さてきたが、電子供与体認識部位を始めとするNDH複合体の全サブユニットの同定には至っていない。
我々のグループはシロイヌナズナの核コードNDHサブユニットの遺伝子発現プロファイルを基に新規NDH関連遺伝子
NDH-Dependent cyclic electron Flow(
NDF)を選抜し、T-DNA挿入株の解析により同定に成功した。なかでも
NDF2は弱いホモログ遺伝子
NDF5を有しており、
NDF5がNDHに関連する可能性が考えられた。
本発表では、NDF5がNDF2と同様にNDH活性に関与しており、NDH活性にはNDF2、NDF5の両者が必要である事を示す。また、
NDF2、
NDF5は高等植物のみに存在しており、
NDF2、
NDF5は進化の過程で高等植物が獲得した新規NDH関連遺伝子である事が示唆された。現在、Blue Native PAGE等の解析を行い、NDF2、NDF5とNDH既知遺伝子との関係について検討している。
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石川 規子, 高林 厚史, 石田 智, 羽野 泰史, 遠藤 剛, 佐藤 文彦
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0567
発行日: 2008年
公開日: 2008/12/18
会議録・要旨集
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光化学系I循環的電子伝達経路の電子伝達反応を担う酵素の一つである、葉緑体NAD(P)H dehydrogenase(以下、NDH)は呼吸鎖複合体Iのホモログとして葉緑体ゲノムから単離され、現在までに葉緑体ゲノムおよび核ゲノムにコードされた14のサブユニット遺伝子が同定されている。しかし原核型の呼吸鎖複合体I(NDH-I)との比較などから、葉緑体NDHには未同定の構成サブユニットが複数存在すると考えられている。こうした未同定サブユニットを単離する試みとして、本研究グループでは従来の生化学的な精製に加え、シロイヌナズナのウェブ上公開マイクロアレイデータを利用し、既知のNDHサブユニット遺伝子と発現プロファイルの類似した遺伝子群を選抜する、という
in silicoによるスクリーニング方法を開発した。
本研究では、この
in silicoスクリーニングによって得られた候補遺伝子の中から
in vivoの解析により、新たにNDHの安定性に関与する遺伝子
NDF6を同定した。特異的抗体を用いたImmunoblot解析により、NDF6はチラコイド膜に局在のするタンパク質であることが明らかとなった。また、BLASTを用いたホモロジ-検索により、NDF6は高等植物に広く保存されたタンパク質であることが示された。
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羽野 泰史, 高林 厚史, 石田 智, 石川 規子, 遠藤 剛, 佐藤 文彦
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0568
発行日: 2008年
公開日: 2008/12/18
会議録・要旨集
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光合成におけるATPとNADPHの合成量比の制御に循環的電子伝達経路が重要な役割をはたしていることが近年の研究で明らかとなってきた。循環的電子伝達経路には、NAD(P)H dehydrogenase (NDH)複合体を介したNDH 経路とFerredoxin:plastoquinone oxidoreductase(FQR)経路の2つが存在する。当研究グループでは、これまでNDH経路の生理的機能とNDH複合体の構造に関する研究を行ってきた。NDHは、ComplexI のホモログであり、これまでに、葉緑体ゲノムに
ndh遺伝子が全部で11個存在し、核ゲノムに3個以上存在することが明らかになっている。しかし、NDH複合体には未同定の構成サブユニットが複数存在すると考えられ、特に「光合成型NDH複合体」に特有な電子供与体を認識し酸化するために重要なサブユニット群の同定に関心が集まってきている。
本研究ではシロイヌナズナの共発現プロファイルを用いた
in silicoスクリーニングより単離された7個の新規サブユニット候補タンパク質について、シロイヌナズナNDH変異株およびC
4植物を用いてBN-PAGEなどの生化学的手法を用いた解析を行った。これらの解析から推測される新規サブユニットと既知サブユニットとの関係について考察する。
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岩崎(葉田野) 郁, 松本 雅好, 小川 健一
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発行日: 2008年
公開日: 2008/12/18
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グルタチオンは葉緑体に多量に存在するトリペプチドで、光合成により産生されるATP依存の2段階の反応で合成される[1]。本研究では、グルタチオンが光合成の制御に関わるかを明らかにするため、内生グルタチオン量が野生型の15-30%に減少したシロイヌナズナ変異体
cad2-1を用いて光合成への影響を調べた。野生型に比べ
cad2-1では、光化学系電子伝達が低下しnon-photochemical quenching (NPQ)が高い傾向が認められたことから、グルタチオン量の低下は光合成反応を抑制すると考えられた。
cad2-1のRubisco量は野生型の75%に減少していた。他のカルビン回路酵素であるアルドラーゼがグルタチオンによって制御されることを考え合せると、グルタチオン量の低下はカルビン回路の反応を抑制し、その結果、電子伝達の抑制につながったと考えられた。本発表では、
cad2-1におけるアルドラーゼ活性や異なるCO
2濃度条件下でのCO
2固定速度の結果からグルタチオン量とカルビン回路との関係について考察する。
[1] Ogawa
et al. (2004)
Plant Cell Physiol. 45: 1-8
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Sandhya Mehrotra, Hiroki Ashida, Akiho Yokota
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0570
発行日: 2008年
公開日: 2008/12/18
会議録・要旨集
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RuBisCO and phosphoribulokinase (PRK) are enzymes unique to Calvin cycle and we are interested in their evolution. In order to study the evolution of PRK, we have cloned three PRK homologues,
glr2296,
glr4426 and
gll2122 (PRK-I, II and III, respectively) from the early diverging cyanobacterium,
Gloeobacter violaceous. Analysis of PRK activities of purified proteins expressed in
Escherichia coli reveals that PRK-I is the bona fide PRK possessing activity similar to other cyanobacterial PRKs, while PRKII does not possess any PRK activity. Interestingly, PRK-III possesses significant, albeit lower, PRK activity. In phylogenetic tree, PRK-III is placed in a clade with PRK homologues from methanogenic archaea. This protein could be an ancestral form of PRK which could have an archaeal origin. We discuss the properties of these two PRK homologues with respect to their amino acid sequences. The knowledge of true activity of PRK-III could suggest the probable course of PRK evolution.
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辻川 友紀, 山野 隆志, 幡野 恭子, 福澤 秀哉
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0571
発行日: 2008年
公開日: 2008/12/18
会議録・要旨集
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緑藻クラミドモナスは環境中のCO
2濃度が低下すると、無機炭素濃縮機構(CCM)を誘導し、光合成を維持する。CCMには、CO
2欠乏条件下で誘導される種々のタンパク質が関与すると考えられている。我々は、CO
2欠乏条件下における発現プロファイルの解析により同定した、CO
2欠乏誘導性遺伝子の機能を解析している。CO
2欠乏誘導性タンパク質LCICは推定分子量45kDaの葉緑体局在が予測された親水性タンパク質をコードしており、CO
2欠乏誘導性タンパク質LCIBと55.6%の相同性をもつ。
LciBは機能欠失変異体の解析から、CCMに必須であることが知られており、
LciCも
LciBと同様の機能を有していることが予測された。
我々はLCICの細胞内局在を、GFP融合遺伝子法、ならびに抗LCIC抗体を用いた免疫金電子顕微鏡法により解析した。LCIC-GFP融合タンパク質のGFP蛍光はRubiscoが密に存在する葉緑体内の区画であるピレノイドの周囲に観察され、さらに、免疫金電子顕微鏡像では、ピレノイドを取り囲むデンプン鞘の周囲に偏在する金粒子が観察された。CO
2欠乏条件下で上記のような局在性を示すLCICの機能について議論する。
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井上 拓也, 松田 祐介
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0572
発行日: 2008年
公開日: 2008/12/18
会議録・要旨集
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海洋性珪藻
Phaeodactylum tricornutumの葉緑体carbonic anhydrase(PtCA1)は核にコードされ、環境CO
2濃度変化に応じて、転写レベルで発現制御されている。先行研究から
ptca1プロモーター(P
ptca1)は転写開始点から上流-70~-10領域がCO
2応答性のコア領域であり、そこに含まれる1つのcAMP応答配列(CRE1)と1つのp300結合配列(p300bs)がCO
2応答性シスエレメントであることが報告されている。本研究では、各シスエレメントを組み合わせることにより、CO
2応答性制御にかかわるプロモーター構造のモデル化を目指した。CRE1およびp300bsを、GUS遺伝子を融合したP
ptca1最小領域(mP
ptca1)に直接連結し、珪藻内でのCO
2応答性を解析した結果、CRE1の連結によりGUS発現にCO
2応答性が現れたが、p300bsを連結しても応答性は現れなかった。このため、CO
2応答性は主にCRE1が担っていることが示唆された。一方、CRE1、p300bs近傍、およびその上流に、互いに逆向きに配置する3つのリピート配列の存在が確認され、これがP
ptca1のCO
2応答性を担っている可能性が考えられた。CRE1、p300bsおよびこれら3つの配列を組み合わせてモデル化を試みた結果を報告する。
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山崎 有希子, 松田 祐介
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0573
発行日: 2008年
公開日: 2008/12/18
会議録・要旨集
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海洋性珪藻
Phaeodactylum tricornutum の葉緑体カーボニックアンヒドラーゼ(PtCA1)はCO
2の濃縮(CCM)及び固定に重要な酵素の一つであることが示唆されている。PtCA1はガードルラメラ上に顆粒状に局在していることが明らかになっているが、顆粒を形成する仕組み、生理的意義は明らかになっていない。この顆粒構造はPtCA1が葉緑体で発現したときのみ形成するため、葉緑体内には顆粒を安定化させる因子が存在するのではないかと考えられている。本研究では顆粒形成因子を同定することを目的として実験を行った。候補因子としてRubiscoを考え、EGFPによる標識実験によりRubiscoの局在を観察した。その結果、RubiscoとPtCA1は共局在していない可能性が示唆された。また、緑藻
Chlamydomonas reinhardtiiにおいてCCMに重要な因子であると考えられているLciBがピレノイド周辺で顆粒を形成することが明らかになっている。
P. tricornutumのゲノムデータベースにもLciBのホモログが1つ(PtLciB)存在することがわかったため、PtLciBにEGFPを融合した形質転換体を作成した。この細胞を用いた局在解析の結果について議論する。また、免疫沈降法によってPtCA1と相互作用するタンパク質についても議論する。
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神田 拓也, 田中 祐二, 松田 祐介
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0574
発行日: 2008年
公開日: 2008/12/18
会議録・要旨集
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海洋性珪藻類は地球上の一次生産の25%を担う藻類であるが、汽水域にも良く適応し、広範な塩応答性を有すると考えられる。しかしこのような海洋性一次生産者の低塩環境への応答機構については報告例が無い。本研究では、海洋性珪藻
Phaeodactylum tricornutumを用いて、低塩環境への応答機構を転写レベルで調べ、体系的に理解することを目的とした。通常海水塩濃度(0.5 M [Na
+])で生育した細胞を低塩濃度環境(0.1 M [Na
+])へ移し、生育速度を指標に低塩順化過程を低塩ショック中、低塩順化後に定義した。低塩処理後を含めた各過程からRNAを調節し、cDNA-AFLP(cDNA-amplyfied fragment length polymorphism)法により半網羅的なトランスクリプトーム解析を行った。その結果、現在34のcDNA断片において低塩応答性が確認され、発現様式は低塩誘導、低塩ショック誘導、低塩抑制の3タイプに分けられた。低塩誘導性断片にはABC transporter、SMC proteinなど輸送体を含む遺伝子が12種類、低塩ショック時誘導にはNa
+/H
+ antiporterなどの遺伝子が12種類、低塩抑制にはCasein Kinase II β subuunitなどシグナル伝達系を含む遺伝子が11種類得られた。これらの塩応答における機能について討論する。
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松崎 雅広, 伊藤 岳, 高橋 陽介
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0575
発行日: 2008年
公開日: 2008/12/18
会議録・要旨集
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光合成細菌
Rhodobacter sphaeroides f. sp.
denitrificansのDMSO (dimetyl sulfoxide) 呼吸系遺伝子
dmsCBAオペロンの嫌気条件における誘導発現にはニ成分制御系のDmsS/DmsRが関与している。一般にセンサーキナーゼはN末側に膜貫通ドメインを持ち、細胞外の領域が環境シグナルを認識すると考えられているが、DmsSの膜貫通ドメインと予想される領域では、疎水性アミノ酸配列が短く、ペリプラズム側に露出していないことが推測された。そこでDmsSのトポロジーを確認するため、膜結合に関与していると思われる6カ所の疎水性アミノ酸領域に注目し、その数を様々に変化させた7つの
dmsS-lacZ融合遺伝子を作製した。これらの7つの融合遺伝子を光合成細菌に導入しLacZ活性を測定した結果、DmsSは細胞膜の細胞質側に局在するタンパク質であることが推定された。
本研究ではDmsSのトポロジーの確認をペリプラズムでのみ活性をもつPhoAを用いて行った。上記のLacZ活性測定に用いたのと同様の7種類の
phoA融合遺伝子を持つ光合成細菌を構築した。ポジティブコントロールである
dppA (dipeptide transport protein) と
phoAの融合遺伝子をもつ光合成細菌は高いPhoA活性を示したにもかかわらず、
dmsS-phoAの融合遺伝子をもつすべての光合成細菌のPhoA活性はバックグラウンドレベルでしかなかった。以上の結果からDmsSのセンシングドメインは細胞外に露出せずに、DMSOを細胞内から感知することが示された。
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小川 拓郎, 瀬尾 悌介, 桜井 英博, 井上 和仁
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0576
発行日: 2008年
公開日: 2008/12/18
会議録・要旨集
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緑色硫黄細菌は鉄硫黄型の光化学反応中心を持つ絶対嫌気性光合成細菌で、硫化物やチオ硫酸塩などの硫黄化合物を電子供与体として光合成を行うが、硫黄化合物から光化学反応中心への電子伝達系路については未だ不明な点が多い。ゲノム配列の解読が終了した緑色硫黄細菌
Chlorobaculum tepidum (旧属名
Chlorobium) のゲノム上にはチオ硫酸酸化に関わると予想される蛋白質をコードする
sox 遺伝子クラスターが存在する。我々は
C. tepidum の細胞抽出物から、光化学反応中心複合体への直接の電子供与体となるシトクロム
c-554 の還元活性を指標にして、チオ硫酸酸化に関与する蛋白質の精製を行い、SoxYZ、SoxAX-CT1020、SoxB、SoxF2 の 4 つの蛋白質因子を得た。チオ硫酸からシトクロム
c-554 への電子伝達には SoxYZ、SoxAX-CT1020、SoxB の 3 つの蛋白質画分を必要とし、これらの画分をひとつでも欠くとシトクロム
c-554 の還元は見られない。SoxF2 は単独ではチオ硫酸酸化を行わないが、SoxYZ、SoxAX-CT1020、SoxB との共存化で、チオ硫酸酸化速度を約 2 倍に上昇させた。今回我々は、SoxF2 のチオ硫酸酸化速度促進の反応機構を調べたので報告する。
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野村 怜平, 小川 拓郎, 瀬尾 悌介, 櫻井 英博, 井上 和仁
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0577
発行日: 2008年
公開日: 2008/12/18
会議録・要旨集
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緑色硫黄細菌は鉄硫黄型の光化学反応中心を持つ絶対嫌気性光合成細菌で、硫化物やチオ硫酸塩などの硫黄化合物を電子供与体として光合成を行う。我々は、緑色硫黄細菌
Chlorobaculum (旧属名
Chlorobium)
tepidum の細胞抽出物から、光化学反応中心複合体への直接的な電子供与体であるシトクロム
c-554 の還元活性を指標に、チオ硫酸の酸化に関与する4つの蛋白質画分SoxYZ、SoxAX-CT1020、SoxB、SoxF2 を得た。このうちSoxAX-CT1020を構成するサブユニットSoxAとSoxXはそれぞれヘム蛋白質であるが、もう一つのサブユニットCT1020は特別な補欠分子団の結合モチーフを持たず機能未知の蛋白質である。遺伝子データベース検索ではCT1020のホモログは、チオ硫酸酸化能を持つ緑色硫黄細菌に限られて存在しており、他の硫黄酸化細菌ではSoxAXにCT1020は結合していない。今回、我々はCT1020がチオ硫酸酸化において必須かどうか調べるために、SoxA、SoxX、CT1020をそれぞれ単独で大腸菌内で発現させ精製した。これらの3種類の蛋白質を試験管内で混合して用いると、
C. tepidumの細胞抽出物から精製したSoxAX-CT1020と同程度のチオ硫酸依存cyt
c-554還元活性を示した。しかし、大腸菌で発現させたSoxAとSoxXのみを混合した場合、cyt
c-554の還元活性はほとんど見られなかった。このことからCT1020は緑色硫黄細菌
C. tepidumのチオ硫酸の酸化において重要な役割を果たしていると考えられる。
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浅井 智広, 原田 二朗, 大岡 宏造
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0578
発行日: 2008年
公開日: 2008/12/18
会議録・要旨集
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緑色硫黄細菌は絶対嫌気性の光独立栄養細菌である。その光化学反応中心(RC)はシアノバクテリアや高等植物の光化学系I RCと同じタイプ(Fe-Sタイプ)に属するが、コアタンパクはホモダイマー型構造をとるものと推測されている。我々はこれまで様々な生化学的・分光学的手法を用いて、緑色硫黄細菌RCの電子移動反応機構の解析を行ってきた。しかしながら電子移動経路には未だに不明な点が多く残されており、特にその存在が期待されるキノン分子の同定には至っていない。
この問題に対して我々は、分子生物学的手法によるアプローチが有効であると考え、緑色硫黄細菌
Chlorobium tepidumの形質転換系を利用したRCコアタンパクへの変異導入に着手することにした。これまでに部位特異的変異の導入や、キノン分子にメチル基を付加する酵素をコードする遺伝子の欠失を試みたが、いずれも致死変異であった。そこで変異を導入したRCを安定に保持することが期待できる系として、
recA遺伝子領域に変異遺伝子を導入することを試みることにした。一方、これと並行し、RC標品を大量かつ簡便に入手することを目的に、コアタンパクへの精製用タグの付加も試みた。本発表ではこれまでの状況について報告するとともに、有効な研究手法についての議論を行いたい。
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緑川 貴文, 松本 浩二, 片山 光徳, 池内 昌彦
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0579
発行日: 2008年
公開日: 2008/12/18
会議録・要旨集
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シアノバクテリアにおける光合成の環境応答には光化学系I反応中心をコードする
psaABの転写調節が重要であることがすでにマイクロアレイなどの様々な研究によって示されている。われわれは
Synechocystis sp. PCC 6803 において,
slr0846遺伝子破壊株では
psaAB遺伝子の発現が低下し,光化学系Iの含量が低下することを前回の植物生理学会で報告した。Slr0846は大腸菌のレドクス応答型転写因子IscRと相同性をもつが,IscRと異なり鉄硫黄クラスター形成に必要なシステインを持たない。本研究では転写因子Slr0846と
psaAB遺伝子にある異なる転写開始点の関係をプライマー伸長法により調べた。その結果
slr0846遺伝子破壊株では
psaAB転写産物量が転写開始点にかかわらず野生株よりも減少すること,逆に過剰発現株では転写開始点にかかわらず増加することが示された。転写産物の分解には野生株と顕著な差がないため,Slr0846が
psaAB転写産物の合成に機能すること,その調節は転写開始点に依存していないことが示唆された。さらに
slr0846遺伝子破壊株より単離した,光化学系Iの減少が回復した疑似復帰変異体の解析結果についてもあわせて報告する。
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片山 光徳, 小林 真理, 池内 昌彦
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0580
発行日: 2008年
公開日: 2008/12/18
会議録・要旨集
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我々はこれまでに糸状性シアノバクテリア
Rivularia sp. IAM M-261 株が屈光性を示すことを見いだし、解析を進めている。しかしながら遺伝子破壊等の分子遺伝学的解析には成功していない。
我々は形質転換が可能な種を得るため、屈光性を示すシアノバクテリアの探索を行なった。その結果、
Scytonema IAM M-291、
Tolypothrix distorta IAM M-98、
Calothrix thermalis PCC7715、
Calothrix desertica PCC7102、および野外から採集した
Calothrix 1種が屈光性を示すことを見いだした。これらの株の多くは陸上に生育するものであり、シアノバクテリアの屈光性は陸上での生育に役立つものと予想された。PCC7715 株の屈光性は M-261株同様に青色光により誘導された。
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佐藤 圭介, 小村 理行, 劉 致岑, 岩崎 郁子, 山本 好和, 伊藤 繁
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0581
発行日: 2008年
公開日: 2008/12/18
会議録・要旨集
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菌類体内にシアノバクテリアや緑藻類が共生している地衣類中の光合成系を、高分解能分光器を備えた共焦点レーザー顕微鏡システムによる蛍光測定により解析した。測定系の空間分解能は200nm(x-y平面)x1μm(z軸)、波長分解能は1nmである。レーザー光励起により1細胞ごとにスペクトル測定やイメージングを行い、地衣類組織内部でのシアノバクテリアの光合成系の状態と分布を調べた。 菌類内にシアノバクテリアが共生する地衣類としてウラミゴケ、カワホリゴケ、モミジツメゴケ、チヂレツメゴケの4種を試料とした。地衣類内部の3次元蛍光スキャン画像と蛍光スペクトルを測定し、シアノバクテリア細胞の生育状況、地衣類内部でのシアノバクテリア細胞の構造、ヘテロシストへの分化の程度、形態の多様性を調べた。ウラミゴケ、カワホリゴケの組織内部ではシアノバクテリアがフィラメント状に存在した。一方、モミジツメゴケ、チヂレツメゴケではフィラメントの形成は判別できなかった。かなり異なる共生の状態が確認された。
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北山 陽子, 西脇 妙子, 近藤 孝男
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0582
発行日: 2008年
公開日: 2008/12/18
会議録・要旨集
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多くの生物は昼夜の環境変動に適応するため、体内に約24時間周期のリズムを発生する概日時計を持っており、シアノバクテリアは概日時計をもつ最も単純な生物として知られている。これまでの研究からシアノバクテリア
Synechococcus elongatus PCC 7942の概日リズム発生には
kaiABC遺伝子群が必須であり、なかでも時計タンパク質KaiCが中心的役割を担っていることがわかっている。そこで本研究において私達はKaiCに結合するタンパク質のスクリーニングを行い、DNA複製因子DnaAを同定した。
dnaAを破壊したシアノバクテリアはその概日リズムの周期が短周期になり、DnaAとKaiCは細胞内において時刻特異的に複合体を形成していることもわかった。シアノバクテリアにおいてDnaAは概日リズムの調節因子として機能すると考えられる。
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寺内 一姫, 西脇 妙子, 北山 陽子, 近藤 孝男
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0583
発行日: 2008年
公開日: 2008/12/18
会議録・要旨集
フリー
シアノバクテリアは概日時計をもつ最も単純な生物であり、その概日時計は真核生物と同じ基本性質を保持している。最近、我々はシアノバクテリアの3つの時計タンパク質KaiA、KaiB、KaiCとATPにより、概日時計再構成系の構築に成功した。これは時間を測定するメカニズムがタンパク質の生化学的性質により説明可能であることを意味している。再構成系においてKaiC の非常に低いATPase活性が24時間周期で振動し、KaiCの二つのリン酸化部位(Ser431と Thr 432)が一定の順序に従いリン酸化および脱リン酸化を24時間サイクルで繰り返す。また、KaiCのATPase活性は温度に対して安定であり、概日時計の基本性質のひとつである温度補償性を保持し、さらにKaiC周期変異タンパク質を用いたATPase活性の解析により、ATPase活性が概日時計の速度を決めていることが明らかになった。これらの結果から概日時計の基本メカニズムは3つの時計タンパク質のうちKaiCタンパク質に内包されていると考えられる。概日時計の分子機構を明らかにするために、KaiCタンパク質の生化学的解析を進めている。本報告では、KaiCのリン酸化状態や非リン酸化状態を模倣した変異タンパク質などの解析結果から、ATPase活性およびリン酸化の分子機構について考察する。
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花野井 和弘, 黒澤 真理, 園池 公毅
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0584
発行日: 2008年
公開日: 2008/12/18
会議録・要旨集
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シロイヌナズナの変異体
cfa1(
chlorophyll fluorescence alteration)は、暗順応した後に強光を照射した際に、野生株と比較して初期段階のクロロフィル蛍光が高いという表現型を示す変異体として単離された。
cfa1は弱光生育条件においてわずかに生育が悪くなり、強光生育条件ではさらに生育速度が遅くなる。しかし、原因遺伝子については明らかになっておらず、また、このような表現型がどのようなメカニズムによってもたらされているのかも不明である。そこで本研究では、変異体のより詳細な解析により
CFA1の機能を解明することを目指した。0%二酸化炭素、40 μmol/m
2/sの光の下で酸素濃度を変えてパルス変調蛍光測定を行なうと、
cfa1では2-5%の酸素濃度条件でのみ、光化学消光(qP)および非光化学消光(NPQ)が野生株と比較して大きく減少していた。このような条件では、
cfa1の電子伝達鎖はより過還元的になり、熱放散の誘導も抑制されると解釈できる。0%酸素条件においては差が見られないことから、
CFA1は光呼吸又はwater-water cycleといった酸素依存的な反応において、酸素との親和性を高める働きをしているのではないかと結論した。
cfa1におけるこのような光合成経路の欠損が、電子伝達鎖の過還元状態と伴に熱放散の抑制をもたらしていると考えられる。
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長谷川 慎, 椎名 隆, 寺嶋 正秀, 熊崎 茂一
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0585
発行日: 2008年
公開日: 2008/12/18
会議録・要旨集
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光合成生物は、個体、細胞、分子のレベルで様々な環境順応を示す。中でもチラコイド膜の環境応答ダイナミクスを調べるために顕微分光技術の開発と葉緑体微細構造分析を行っている。今回我々は生理的条件に近い条件で葉緑体内部の精密な蛍光スペクトル (分解能1nm) を調べるためにラインスキャン二光子励起顕微分光装置を開発した。この装置では一点毎測定の顕微分光装置に比べ大幅に測定時間を短縮する事ができ、葉緑体内部三次元構造と蛍光スペクトルの時間変化について議論しやすい技術基盤が整った。
サンプルとしてはC4植物であるトウモロコシの葉緑体を選び、葉の一部を切り取って観察対象とした。室温で805nm、0.1psの近赤外パルスレーザーで励起したところ、蛍光スペクトルには少なくとも二つの成分があることが確認できた。これら二つの空間分布には違いが見られ、長波長成分は葉緑体全体に比較的均一に分布しているのに対し短波長成分は一部に集中する様子が見られた。波長から判断して、短波長成分は系2とそのアンテナ由来の蛍光で長波長成分は系1とそのアンテナ由来の蛍光であり、短波長成分の集中はグラナ構造を表していると推定した。我々はさらに組織依存性、試料採取直前の光強度の違いによって葉緑体全体の示す蛍光スペクトルや葉緑体内部蛍光強度・強度比の空間分布にどのような違いが現れるかを調べた。
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吉田 隆彦, 長谷川 慎, 池上 勇, 寺嶋 正秀, 熊崎 茂一
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0586
発行日: 2008年
公開日: 2008/12/18
会議録・要旨集
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我々は植物葉緑体の内部構造毎の蛍光スペクトルを調べる研究を進めている中で、次のような特徴を持つクロレラ葉緑体を比較対照試料として調べる重要性を認識し始めた。単細胞生物クロレラは緑藻の一種で、単一の葉緑体を持つ。この葉緑体は、植物中と違い、組織別分化等が起こらない上に、定量的透過スペクトルが得られるなど顕微分光の研究対象とし易い。 また、クロレラ葉緑体、電子顕微鏡に拠れば植物葉緑体で見られるチラコイド膜の重層構造(グラナ)が発達しないので、植物葉緑体におけるグラナ構造観察によい対照を成す。我々はこのような理由から、蛍光スペクトル顕微鏡を用いてクロレラ葉緑体の蛍光スペクトル断層情報を収集し、植物葉緑体の示す特徴と比較した。 自作の蛍光スペクトル顕微鏡において近赤外パルスレーザーによる2光子励起で焦点以外の励起を最小限にし、光独立栄養生育したクロレラ、光遮蔽培養器中で従属栄養生育させたクロレラ、そして光照射下ながら、糖を与えられて生育したクロレラについて、細胞全体の示す蛍光スペクトルと葉緑体各所の蛍光スペクトルを分析して3つの異なる生育条件による葉緑体の性質の違いを見出した。(参考文献)Kumazaki S, Hasegawa M, Ghoneim M, Shimizu Y, Okamoto K, Nishiyama M, Oh-Oka H, Terazima M.
J Microsc 2007, 228:240-54.
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加藤 信泰, 岩井 優和, 滝澤 謙二, 皆川 純
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0587
発行日: 2008年
公開日: 2008/12/18
会議録・要旨集
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植物は光化学系II(PSII)に結合している集光アンテナ(LHCII)を光化学系I(PSI)へと可逆的に移動させることにより周囲の光環境の変化に適応する機構を備えている。この機構はステート遷移と呼ばれ、LHCIIのリン酸化、リン酸化されたLHCII同士の電気的反発によるチラコイド膜の解離、PSIIからPSIへのLHCIIの移動という3つのプロセスに大きく分けられる。しかし、ステート遷移におけるこれらのプロセスを詳細に解析した例は少なく、また各プロセスの役割も不明な点が多い。そこで、本研究では緑藻クラミドモナスの数種の変異株を用いて暗黒条件下に置くことでステート遷移を誘導し、そのときの蛍光クエンチング解析、ウェスタンブロット法によるLHCIIのリン酸化解析を行った。その結果、PSI-LHCI/II超複合体が形成されない変異株Δ
ycf9においてもクロロフィル蛍光の減少とそれに伴うLHCIIのリン酸化が観察された。更に、このときの細胞の電子顕微鏡写真からチラコイド膜の解離が観察された。これらのことから、緑藻クラミドモナスのステート遷移においてはLHCIIのリン酸化によって起こるチラコイド膜の解離がPSII間のエネルギー移動を減少させる重要な役割を果たしていると考えられる。
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井戸 邦夫, 伊福 健太郎, 山本 由弥子, 石原 靖子, 三宅 親弘, 佐藤 文彦
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0588
発行日: 2008年
公開日: 2008/12/18
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PsbPは高等植物及び緑藻に特徴的に存在する光化学系II (PSII)膜表在性サブユニットであり、PsbO, PsbQとともにチラコイド膜内腔側で酸素発生系複合体を形成している。これまでに、PsbPの発現をRNAi法により抑制したタバコの解析から、PsbPの発現抑制がPSII最大量子収率の指標であるFv/Fm値の低下を引き起こすことを報告した [Ifuku et al. (2005) Plant Physiol. 139: 1175-1182.]。しかしながら、PsbPを発現抑制してもPSIIコアサブユニットの蓄積量に大きな変化は見られない。そこでPsbP発現抑制タバコにおいてPSIIサブユニットがどのような状態で蓄積しているのかを明らかにするため、チラコイド膜タンパク質のリン酸化状態やBlue-Native PAGEによるチラコイド膜タンパク質複合体形成状態の解析を行った。その結果、PsbP発現抑制タバコではPSIIコアサブユニットが顕著に脱リン酸化されていること、及びアンテナと結合した活性型PSII (PSII supercomplex)の蓄積が減少し、PSII dimerの蓄積が増加していることを認めた。本発表では、これらの結果をPSII 複合体の動的なライフサイクルの観点から考察する。
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石原 靖子, 高林 厚史, 薮田 真也, 井戸 邦夫, 遠藤 剛, 伊福 健太郎, 佐藤 文彦
p.
0589
発行日: 2008年
公開日: 2008/12/18
会議録・要旨集
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葉緑体は、原始的なシアノバクテリアの細胞内共生により生じた。そしてその過程で、一部の遺伝子が核ゲノムへと転移し、さらに遺伝子重複などを経て機能分化した遺伝子群が生じ、環境刺激に応じて葉緑体機能を調節していると考えられている。光合成の初期反応を担う光化学系II複合体の酸素発生系タンパク質(OEC)も、そのような核支配の葉緑体タンパク質である。シロイヌナズナのOECファミリーにはOECであるPsbO、P、Qの他に、そのホモログとしてPsbP-like (PPL)が2つ、PsbP domain タンパク質 (PPD) が6つ、PsbQ-like (PQL) が3つ存在している。これらはプロテオーム解析でチラコイド膜内腔での蓄積が認められているものの、その機能は一切解明されていなかった。そこで公開されているマイクロアレイデータを基に転写パターンのプロファイリングを行い、機能の予測を試みた。その結果、OECホモログ群はPSIIのストレス応答、あるいは循環的電子伝達のNDH経路に関わる可能性のある2つのグループに大別できることが判明した。各グループの特徴的な転写プロファイルを示したPPL1およびPPL2に関してシロイヌナズナの変異株を用いた解析を行ったところ、
in silico解析の結果と非常によく対応した結果が得られた(石原ら、本大会)。本発表では
in silico解析の結果を中心に報告する。
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二條 庸好, 山下 亜夢, Pospisil Pavel, 森田 典子, 山本 泰
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0590
発行日: 2008年
公開日: 2008/12/18
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高等植物光化学系II(PSII)複合体のチラコイドルーメン側に結合している膜表在性タンパク質 PsbO、PsbP、PsbQ は酸素発生活性を維持する役割を担っている。なかでも PsbO はすべての酸素発生型光合成生物に存在しており、マンガンクラスターの安定化に寄与していると考えられている。以前より光ストレスや熱ストレスによって PsbO が PSII から遊離することが知られていた。最近我々は、熱ストレス(40℃、30分間)により光化学系II 反応中心結合タンパク質 D1 が損傷を受けることを明らかにし、その原因として、活性酸素分子が関与する可能性を示した。PSII周辺で発生した活性酸素分子は膜表在性タンパク質にも損傷を与える可能性がある。そこで、ホウレンソウ PSII膜を用いて熱ストレス条件下(40℃、30分間)における PsbO の遊離を好気条件と嫌気条件で比較した。その結果、嫌気条件では PsbO の遊離が著しく抑えられることが分かった。さらにアスコルビン酸を加えると、好気条件においても PsbO の遊離が抑えられた。これらの結果は、活性酸素分子がD1タンパク質の分解だけでなく膜表在性タンパク質の遊離にも関与していることを示唆する。
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名部 勇世, 菓子野 康浩, 小池 裕幸, 佐藤 和彦
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0591
発行日: 2008年
公開日: 2008/12/18
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我々は蘚苔類の乾燥耐性機構を調べるため、異なる水環境に生育する数種の蘚苔類を用いて水分含量変化に伴う光合成諸活性の変化を調べてきた。その結果、乾燥耐性種は乾燥により光合成活性が失われた際、光化学系II反応中心(PSIIRC)活性も失われること、一方非乾燥耐性種は、光合成活性が失われた後もしばらくPSIIRC活性が残っていることが明らかになった。また、乾燥耐性種ではPSIIRCの失活と関連してPSII蛍光の特異的消光が観察された。乾燥時においてこれらの機構は光合成系の保護に重要であり、光阻害からの防御に役立っているといえる。
光阻害からの防御メカニズムとしては、キサントフィルサイクルという機構が知られており、蘚苔類もこのメカニズムにより強光による損傷から光化学系を保護している事が知られているが、乾燥耐性種であるギンゴケにキサントフィルサイクル阻害剤であるジチオスレイトールを作用させると、光誘導性の非光化学的消光(NPQ)は大きく阻害されたが、乾燥誘導性のNPQの阻害はほとんど見られなかった。さらにHPLCによる色素分析から、乾燥に誘導されるNPQはキサントフィル色素の転換を必要としていないことが判明した。
また、乾燥耐性種であるギンゴケを液体培養したものは乾燥耐性が弱くなっており、蛍光にも変化が見られたので、その差についても報告する。
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藍川 晋平, 服部 寛, 工藤 栄, 佐藤 和彦, 菓子野 康浩
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0592
発行日: 2008年
公開日: 2008/12/18
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アイスアルジーが生息する海氷下は弱光環境であり、しかも光強度の周期的な変化が存在する。光強度の変化と同期するように、アイスアルジーによる炭素固定速度も日周変化を示すことが知られている。アイスアルジーの炭素固定速度は光量に律速されており、より多くの光を光合成に利用するため、海氷下の弱光環境にあっても光強度に合わせて光合成系を調節していると予想される。そこで本研究では、サロマ湖の海氷下に棲息するアイスアルジーの光合成初期反応が光強度の日周変化に応じてどのように変化しているのかを、Pulse Amplitude Modulation(PAM)蛍光法により調べた。
その結果、最大電子伝達速度は日の出から増加し、正午頃最大になった後、日の入りに向けて減少するという傾向を示した。一方、光エネルギーの利用効率はそれとは逆の傾向を示した。350 μmol photons/m
2/sの光照射下における非光化学的消光は、最大電子伝達速度と同じ変動パターンを示した。このことから熱放散機構の活性、つまり過剰な光を消散する能力が日周変化をすることが明らかとなった。
これらの結果から、アイスアルジーは海氷下でより多くの炭素を固定できるように、日周的な光強度の変化に合わせて光化学系に傷害が起こりにくいように、最大電子伝達速度、最大量子収率、熱放散機構を調和的に調節している事が示唆された。
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河地 有木, 石井 里美, 藤巻 秀, 鈴井 伸郎, 石岡 典子, 松橋 信平
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0593
発行日: 2008年
公開日: 2008/12/18
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植物の光合成機能の環境応答を生体組織・器官レベルで理解することは重要である。原子力機構高崎では植物中の炭素動態をポジトロンイメージング技術により可視化し、その動態を解析することで光合成機能を定量することに成功している。また、得られた動画像の画素毎の炭素動態を解析することで「二酸化炭素固定」および「光合成産物送り出し」の二つの光合成機能分布を提示する機能画像の作成も可能となった。本研究ではこの解析技術を用いて、同一個体が示す温度環境に応答する「二酸化炭素固定」および「光合成産物送り出し」の機能分布を明らかに。解析結果からは葉内組織の二酸化炭素拡散抵抗の分布や葉のソースとしての生理機能などの温度依存性を議論することができる。本研究は分子レベルの差異が植物の器官・組織レベルの生理機能に対して及ぼす影響を明示する、植物分子イメージングを実現した。
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中村 卓司, 岡崎 圭毅, 山本 亮, 中山 則和, 島村 聡, 平賀 勧, 信濃 卓郎, 高橋 秀行, 内宮 博文, 小松 節子
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0594
発行日: 2008年
公開日: 2008/12/18
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ダイズはイネと比較して窒素利用効率(単位窒素吸収量当たりの乾物生産量)が低いことがダイズの低収性の一因となっている。これは主にイネと比較してダイズで、葉の単位窒素当たりの光合成速度が低く、呼吸速度も高いことが原因の一つと考えられている。しかし、葉におけるその詳しい代謝制御機構については明らかではなく、異なる代謝機構によって制御されているものと推定される。イネおよびダイズの代謝機構の差異に関わる代謝機構の基礎的知見を得るために、本研究では、イネ・ダイズの葉の光合成速度および蛍光反応を測定した。
その結果、蛍光反応のデータからダイズでイネより光化学系IIの量子収率、光化学消光(qP)が低く、Fv'/Fm'が変わらなかったことから、光化学系IIより下流のPSIを含むコンポーネントの電子のながれが低下していることが示唆された。また、ダイズでイネより葉の単位窒素量当たりの光合成速度は低く、気孔コンダクタンスおよび葉内CO2濃度も低くなっていた。このことから、葉の代謝機構への影響も考えられることからCE-MSを用いて一次代謝産物の測定をおこなった。この結果について論議する
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宮沢 真一, 吉村 智美, 三宅 親弘
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0595
発行日: 2008年
公開日: 2008/12/18
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C3タイプの陸上植物が光合成を行う際、基質となるCO
2は、外気と葉緑体のCO
2濃度勾配に従って拡散する。気孔から気孔腔までの拡散コンダクタンスは気孔コンダクタンス(g
s)と呼ばれ、一方、気孔腔からRubisco活性部位までの拡散コンダクタンスは、葉内CO
2拡散コンダクタンス(g
i)と呼ばれる。草本や樹木など様々な植物を対象にした多くの研究から、g
sとg
iの間には正の相関があることが知られる。一般的に、植物は乾燥ストレスにさらされると、根から生産されたアブシジン酸(ABA)によって、気孔を閉鎖させ、g
sを低下させる事はよく知られる。一方で、ABAがg
iにどのような影響を与えるのか調べた研究は見当たらない。そこで、タバコ(
Nicotiana tabacum Xanthi.)の葉柄から、様々な濃度(0.125~5μM)の合成ABAを与え、光合成測定装置により、葉内CO
2濃度(C
i)-純光合成速度(A)曲線を作成した。これと同時に、クロロフィル蛍光強度を測定し、葉緑体CO
2濃度(C
c)を計算した。A-C
i曲線とA-C
c曲線の初期勾配の差から、g
iを推定した。その結果、ABAを添加すると、A-C
i曲線の初期勾配とg
iは、顕著な減少を示したものの、A-C
c曲線の初期勾配はほとんど変わらなかった。以上の結果は、g
sと同様に、g
iにおいてもABAを介した制御機構が存在する事を示唆した。
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宇梶 徳史, 原 登志彦
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0596
発行日: 2008年
公開日: 2008/12/18
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炭素固定反応で消費されない光エネルギーの効率的な消去は、植物が陸上で繁栄する上で必要不可欠な要素である。光エネルギーの過剰は、低温や乾燥の物理的ストレス下では、比較的弱光でも誘発される。この過剰な光エネルギーの消去法は、植物のおかれた環境により異なっている。我々は、氷点下温度での光ストレス回避メカニズムを明らかにする目的で、常緑針葉樹イチイのEST解析を行ったところ、常緑針葉樹の冬季光ストレス防御には、核コード遺伝子であるearly light-induced proteins (Elip) 遺伝子の顕著な発現誘導をともなうことを過去に指摘した。3回チラコイド膜貫通型タンパク質であるElipは、4回チラコイド膜貫通型のPsbSとともにLhcスーパーファミリーを形成し、キサントフィルサイクルを用いた過剰な光エネルギーの熱放散に関与すると推測される。一方で、このLhcスーパーファミリーには、1回チラコイド膜貫通型のOhp (Hlip)と2回チラコイド膜貫通型のSepの存在も知られているが、高等植物におけるOhpとSepに関する解析例は極めて限られている。 冬季イチイ針葉のESTには、OhpとSepのESTが見いだされたことから、我々は、イチイのOhpとSepに着目して解析を行った。
OhpとSepの遺伝子発現量を定量的PCRで解析したところ、冬季における遺伝子発現レベルの増加が確認された。
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山下 亜夢, 平元 秀樹, 森田 典子, 山本 泰
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0597
発行日: 2008年
公開日: 2008/12/18
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光化学系II(PSII)複合体が熱または過剰な可視光を受けると、反応中心D1タンパク質が損傷を受ける。損傷D1タンパク質はプロテアーゼにより認識されて分解・除去され、その後新規に合成されたD1タンパク質で置き換えられる。このD1ターンオーバーにおいてD1タンパク質の分解に関与するプロテアーゼは、チラコイド膜に局在するFtsHプロテアーゼであると推測されている。しかし、損傷D1タンパク質は、分解されずに他のPSIIサブユニットタンパク質と凝集物を形成することもある。D1タンパク質との凝集物が蓄積するとPSIIの機能不全が起こる。
本研究では、FtsHプロテアーゼがプロテアーゼとしての役割だけでなく、凝集を抑制するシャペロンとしての役割を果たしている可能性について検討した。シアノバクテリア Synechocystis sp.PCC6803のチラコイド膜に500μEm-2s-1の光を照射した場合、野生株(WT)のチラコイド膜ではD1タンパク質の分解と凝集が確認された。次に、FtsHプロテアーゼを欠損させたΔFtsH(Δslr0228)のチラコイド膜に強光照射すると、D1タンパク質の分解は見られず、凝集物の増加が確認された。更に、低温処理でFtsHプロテアーゼレベルが上昇した細胞から得たチラコイド膜に強光ストレスを与えると、WTのチラコイドに比べてD1タンパク質凝集物の蓄積量が減少した。これらの結果は、FtsHプロテアーゼがD1タンパク質凝集物の蓄積を低下させる可能性を示唆している。
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岩井 恵理, 西山 佳孝, 林 秀則
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0598
発行日: 2008年
公開日: 2008/12/18
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ビタミンE(α-トコフェロール)は一重項酸素やフリーラジカルを消去する抗酸化物質であり、植物やラン藻の生体膜中にも含まれている。ビタミンEを欠損した植物では、脂質の過酸化や光合成の光阻害が促進することから、光酸化ストレスに対する防御的な役割が示唆されているが、そのメカニズムの詳細は明らかではない。本研究では、ビタミンEの合成に必要な遺伝子
slr0090を欠損させたラン藻
Synechocystis sp. PCC 6803 を用いて、光化学系IIの光阻害に対するビタミンEの保護作用を解析した。
ビタミンE欠損株と野生株に強光(1,500 μE m
-2 s
-1)を照射して光化学系II活性を測定した結果、ビタミンE欠損株ではより顕著な活性の低下が見られた。この結果から、ビタミンEの欠損によって光阻害が促進することが示唆される。次に、タンパク質合成阻害剤であるクロラムフェニコールの存在下で光阻害の様子を調べた結果、ビタミンE欠損株と野生株ではともに光化学系II活性が大きく低下し、両者に差が見られなかった。したがって、ビタミンEの欠損は光化学系IIの光損傷の過程に影響を与えるのではなく、光化学系IIの修復を阻害することが示唆される。以上の結果から、ビタミンEは一重項酸素やフリーラジカルを消去することによって、光化学系IIの修復阻害を緩和していることが推測される。
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執行 美香保, 柳澤 修一
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0599
発行日: 2008年
公開日: 2008/12/18
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窒素は植物にとってアミノ酸、核酸といった主要な生体物質合成に必須の重要な栄養素である。イネにおける窒素供給によって引き起こされる遺伝子発現の制御機構を明らかにするために、我々は、マイクロアレイを用いて10 mM 硝酸アンモニウムによる窒素処理によりシュートにおいて発現変動した遺伝子を解析し、特に顕著な発現変動を示しイネ窒素応答に関わる転写制御因子の候補としてMYB-NR1とMYB-NR2 を同定して昨年度の年会で報告している。今回、根における窒素応答遺伝子についてもアレイ解析を行い、根では732 遺伝子が誘導され、190 遺伝子が抑制されたことがわかった。また、
MYB-NR1と
MYB-NR2 遺伝子は根でも窒素により発現が誘導されることがわかった。この2 つの遺伝子について更に詳細な解析を行った結果、発芽中の種子、葉身においてこれらの遺伝子は強い発現を示すことが判明し、また、GFP とトウモロコシ葉肉細胞由来プロトプラストを用いた一過性発現実験により、MYB-NR1 とMYB-NR2 は核に局在すると判断された。現在までに、
MYB-NR1 の過剰発現カルスと
MYB-NR2 の過剰発現カルスの両方を得ており、植物体への再分化を進めている。
本研究は生研センター「新技術・新分野創出のための基礎研究推進事業」に基づくものである。
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小西 美稲子, 杉浦 晃介, 米山 忠克, 柳澤 修一
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0600
発行日: 2008年
公開日: 2008/12/18
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高等植物にとって、硝酸は重要な窒素源であると同時に遺伝子発現や成長を制御するシグナルでもある。根に局所的に硝酸を与えるとその部分の根の成長が促進されることや、硝酸還元酵素や亜硝酸還元酵素といった硝酸同化経路の遺伝子の発現が誘導されることは良く知られている。さらに、近年のマイクロアレイを用いた解析により、硝酸の投与は広範な遺伝子発現の変化を引き起こすことが明らかになってきている。しかしながら、これらの硝酸応答がどのようなメカニズムによって引き起こされるのかについては、未だ、ほとんど明らかになっていない。我々は、高等植物における硝酸のシグナル伝達と硝酸による転写調節の機構を解明するための最初のステップとして、複数の硝酸応答を示すシロイヌナズナ遺伝子の5’側上流領域と3’側下流領域の両方をレポーター遺伝子に融合させたキメラ遺伝子を構築し、これを用いて形質転換シロイヌナズナを作成した。これら形質転換シロイヌナズナにおけるレポーター遺伝子の発現が硝酸に応答するかを調べた結果、これらDNA配列の中に硝酸に応答した転写を担うシス領域が存在することが明らかとなった。現在、さらに詳細なプロモーター解析を行なっている。
本研究は生研センター「新技術・新分野創出のための基礎研究推進事業」に基づくものである。
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