瀬戸内海沿岸部の山の都市側斜面の標高100-150mでは, 大気中のNO
2濃度が相対的に高く, この影響が森林衰退を引き起こす1つの要因と推測されている.本研究では, 広島県西部に位置する極楽寺山の南側斜面140mに位置する宮島サービスエリアにおいて, 夏季と冬季に係留気球による気温勾配の観測と, また, 極楽寺山において長期暴露・短期暴露によるNO
x濃度測定を行い, 森林衰退地域の斜面上における逆転層と大気汚染の関係について調査した.結果, 夏季・冬季ともに夜間から早朝にかけて高度20m (海抜160m) に接地逆転層が形成されていることがわかった.NO
2濃度の夜間12時間測定では, 夏季に標高150mで32.2ppb, 300mで10.7ppb, 冬季に150mで27.2ppb, 300mで4.3ppbとなり, 標高差によるNO
2濃度の相違は冬季に際立った.また, NO
2濃度測定の結果から, 逆転層内では大気汚染物質が拡散されにくく, 夜間滞留しやすくなると考察される.従って, 標高100-150m近辺では, 夜間NO
2を起因とした複合連鎖反応が進むと推測され, こうしたメカニズムのもとで森林衰退を助長している可能性が示唆される.
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