歯科医学
Online ISSN : 2189-647X
Print ISSN : 0030-6150
ISSN-L : 0030-6150
53 巻, 2 号
選択された号の論文の47件中1~47を表示しています
  • 小坂 広之, 藤田 厚
    原稿種別: 本文
    1990 年53 巻2 号 p. 115-128
    発行日: 1990/04/25
    公開日: 2017/02/20
    ジャーナル フリー
    ヒ卜の歯肉溝液と唾液の分泌型抗体濃度およびマウスリンパ球に対する幼若化促進作用への効果を測定することにより, 局所生体防御機構における口腔分泌液の役割を比較, 検討した.
    分泌型IgA濃度をエンザイムイムノアッセイにより測定したところ, 唾液では169.8±76.28μg/ml, 血清では唾液の約1/30量検出されたが, 歯肉溝液では検出されなかった. 唾液と血清の両分泌型IgA間には量的な相関関係は認められなかった. また, 唾液の分泌型IgA濃度は女性に比べ男性のほうが高かったが, 血清での濃度には性差は認められなかった.
    リンパ球の幼若化を促進する作用を, 2系統の近文系マウスの脾細胞に対するDNA合成量 (細胞内への^3H-チミジンの取り込み) から測定した. ^3H-チミジンの取り込み量は唾液や血清添加ではほとんど増加しなかったが, 歯肉溝液添加ではDNA合成を促進させる効果のあることが確認された. DNA合成は, 無希釈から2^<-2>希釈の範囲の歯肉溝液を添加したときに著明に促進され, 歯肉溝液がリンパ球と長時間接触するほど効果は高くなった. また, 病的な歯周組織由来の歯肉溝液添加では, 健全な歯周組織由来の歯肉溝液添加よりDNA合成は高くなった. 歯肉溝液のリンパ球DNA合成促進に対する作用動態には, マウスの主要組織適合抗原系の相違によって差異が認められた.
    以上のように, 歯肉溝液にはリンパ球に対する幼若化促進作用が認められ, 分泌型抗体の存在が認められないことから, 局所生体防御に対して, 歯肉溝液は唾液とは異なった役割を果たしていることが確認された.
  • 大前 正雄, 福島 久典
    原稿種別: 本文
    1990 年53 巻2 号 p. 129-142
    発行日: 1990/04/25
    公開日: 2017/02/20
    ジャーナル フリー
    Bacteroides intermediusの線毛と細胞付着との関連を明らかにする目的で, B. intermedius strain 17の菌体から線毛の分離精製を行い, 精製線毛の赤血球凝集性について検討した. 精製は, ワーレンブレンダーによる線毛の機械的剪断, 50%飽和硫安での塩析濃縮, デオキシコール酸ナトリウムによる可溶化, 10〜60%ショ糖密度勾配遠心およびDEAE-Sepharose CL-6Bにより行った. 10〜60%ショ糖密度勾配遠心の結果, 1.10〜1.15g/ml付近に黄褐色のバンドが得られ, 電顕観察では線維状構造が認められた. 線毛画分をDEAE-Sepharose CL-6Bに吸着させた後, 溶出される第2ピークに均一な線維状構造が観察された. 精製標品と, 家兎を精製線毛標品で免疫して得られた抗血清 (力価1:8) との間には, 明瞭な1本の沈降線が形成された. この標品には, 家兎の赤血球に対する強い凝集能が認められた. これらの結果は, B. intermedius strain 17の線毛が直接赤血球の凝集と関連していることを示唆している.
  • 中沢 賢一, 井上 純一
    原稿種別: 本文
    1990 年53 巻2 号 p. 143-157
    発行日: 1990/04/25
    公開日: 2017/02/20
    ジャーナル フリー
    歯周ポケット内でのBacteroides forsythus (B. forsythus) の分布比率を知るために, ポケットから分離した非黒色色素産生性Bacteroidesの中で, trypsin活性を有し, 液体培地で発育が悪い菌株をAPI ZYM systemによる酵素活性パターンで同定した. また, 歯槽膿瘍および含歯性嚢胞から分離された類似菌についても, API ZYM systemとDNA-DNA hybridization法で同定するとともに, 全供試菌の抗生物質感受性についても検討した結果, 以下の成績を得た.
    本実験に供試した50株は, B. forsythusのtype strainと類似の酵素活性パターンを示した. 歯槽膿瘍由来の1株に, 他のB. forsythusと, 形態や菌体タンパクの泳動パターンが異なる菌株が認められた. ラベルしたtype strainとのDNA-DNA hybridizationの結果, 供試した全ての臨床分離株はtype strainと同程度の相同性を示した. これらの結果は本実験に供試した50菌株が全てB. forsythusであることを示している. 重度歯周疾患患者の歯周ポケットの中で約40%にB. forsythusが検出され, 分布比率は, 多くの場合2%前後であったが, B. forsythusが10%以上を占める症例も2例認められた. 抗生物質感受性試験の結果では, 全体的に歯周ポケット由来株よりも歯槽膿瘍および含歯性嚢胞由来株の方が高いMIC値を示した. Clindamycinは供試全菌株に対して著しく高い抗菌力を示し, metronidazoleは, 歯周ポケット由来株に対して高い抗菌力を示した.
    以上の結果から, 本菌の同定にAPI ZYM systemを利用することは有用であると考えられる. また, 本菌が種々のタンパク分解性を有することを考えると, 10%以上の比率で分離された症例では疾患の増悪にB. forsythusが関与している可能性が示唆される.
  • 吉田 新平
    原稿種別: 本文
    1990 年53 巻2 号 p. 158-186
    発行日: 1990/04/25
    公開日: 2017/02/20
    ジャーナル フリー
    CSCテレスコープクラウン (以下CSC) の荷重下における力学的メカニズムを明らかにするために, コンピュータ上で実物をシミュレーションしたモデルを作成し, 連立多次元方程式を解くことによって変位, 応力を求める有限要素法を用いて応力解析を行い, 荷重条件の変化に伴う支台歯および歯周組織の変化について検討した. さらに修復物の歯冠のみをコーヌスクローネに置き換えた場合についても同様に解析を試み, CSCとの力学的挙動の違いについて検討を加えた. その結果, 以下の結論を得た.
    1) 単独歯モデルにおける解析では, 荷重方向によって外冠, 支台歯および歯周組織に生じた変位量および応力は著明に変化し, いずれも水平荷重時に最大値を示した.
    2)下顎左側第一・第二大臼歯欠損に下顎左側第一・第二小臼歯を支台歯とするテレスコープクラウンを応用した矢状断面モデルにおいて支台歯や, 人工歯部に垂直荷重が均等に負荷されなかったときには, 支台歯の傾斜や義歯床の沈下が著しく, 支台歯歯根膜や歯槽骨内に発現した応力も大きくなった. また変位方向をみると, CSCでは水平成分より垂直成分のほうが大きく, 支台歯に対してはより好ましい傾向であることが示唆された.
    3) 前頭断面モデルにおいて, 両側性および片側性荷重ともにCSCのほうが変位量は小さく, その方向もほぼ根尖方向へ向かうのに対して, コーヌスクローネでは内上方へ変位する傾向があり, さらに歯根膜および歯槽骨内に生じた応力は総じてCSCのほうが小さくなった.
    以上の結果から, CSCは支台歯および歯周組織に対する変位, 応力状態さらには力の伝達様相からみて, 歯周補綴領域において優れた修復法であることが示唆された.
  • 秋山 繁
    原稿種別: 本文
    1990 年53 巻2 号 p. 187-216
    発行日: 1990/04/25
    公開日: 2017/02/20
    ジャーナル フリー
    1年生時のdef歯数, 永久歯萌出歯数および永久歯う蝕の有無の各要因が, う蝕予防プログラムとしてフッ化物歯面塗布法を実施している小学校の児童においても, 永久歯う蝕の罹患性傾向を示す指標として有用であるかを検討した. すなわち, 児童386名 (男子217名, 女子169名) を対象に, 1年生から6年生までの永久歯う蝕の罹患状況および歯年齢からみた歯種別う蝕罹患性を追跡した. 1年生時のdef歯数を4歯以下群 (Ld群), 5〜13歯群 (Md群) および14歯以上群 (Hd群) に分けたところ, 6年生時のDMFT indexはLd群<Md群≦Hd群の関係にあり, 上下顎両側第一大臼歯の5歯年および上顎両側中切歯側切歯の4歯年におけるDMFT rateはLd群<Md群<Hd群の関係にあった. 1年生時の永久歯萌出歯数を2歯以下群 (LN群), 3〜6歯群 (MN群) および7歯以上群 (HN群) に分けたところ, 6年生時のDMFT indexはLN群<MN群<HN群の関係にあるが, 歯年齢からみた上下顎両側第一大臼歯および上顎両側中切歯側切歯のDMFT rateは各群間に明らかな関係が認られなかった. 1年生時の永久歯う蝕のない者 (LD群) およびある者 (HD群) に分けたところ, 6年生時のDMFT indexはLD群<HD群の関係にあり, 上下顎両側第一大臼歯の5歯年および上顎両側中切歯側切歯の4歯年におけるDMFT rateはLD群<HD群の関係にあった. さらに, 各要因の組み合わせにより1年生時に乳歯う蝕の少ない者が最も低いう蝕罹患性傾向を示し, 永久歯う蝕のある者が最も高いう蝕罹患性傾向を示すことが明らかとなった. 以上のことから, う蝕罹患状況の低い児童集団においても, 1年生時の口腔診査で得られる要因がう蝕罹患性傾向を評価できる要因であることが明らかとなった.
  • 田幡 治
    原稿種別: 本文
    1990 年53 巻2 号 p. 217-237
    発行日: 1990/04/25
    公開日: 2017/02/20
    ジャーナル フリー
    上顎洞疾患の超音波診断の有用性について, 臨床例および模型実験により検討を加えた. 対象は正常者21名 (40側), 術後性上顎嚢胞80名 (82側), 歯原性嚢胞20名, 上顎洞炎21名 (22側), 上顎癌1名である. 超音波診断 (Aモード法) にはATMOS社製Sinuscope SIN II-Sを使用した. プローベの直径は13mmで周波数4MHzである. 143名の超音波所見をX線写真所見, 手術所見と比較し, 以下の成績を得た.
    1. 正常上顎洞では超音波ビームは洞内の空気によってすべて反射され, 洞内および洞後壁からのエコーは出現せず, 初期エコーのみ現われる (N型). 正常者のN型出現率は82.5% (33/40) で, 17.5% (7/40) がfalse positiveであった.
    2. 嚢胞性疾患の典型的な超音波所見は初期エコーと洞後壁エコーとの間に, 嚢胞前壁と嚢胞後壁の2つのエコーが現われる (C型). 1つ, 3つおよび4つのエコーの現われたものを非典型な超音波所見とした.
    術後性上顎嚢胞の診断率は断層X線写真所見で92.7% (76/82), 超音波診断で84.1% (69/82) であった. 歯原性嚢胞の診断率は単純X線写真所見30%, オルソパントモグラム95% (19/20), 超音波診断90% (18/20) であった.
    3. 上顎洞炎で粘膜肥厚および貯留液が存在する場合には, 初期エコーに続いて後壁エコーが現われる (E型). 粘膜肥厚のみで貯留液が存在しない場合には, 粘膜エコーのみ出現し, 後壁エコーは現われない (M型). 上顎洞炎の診断率は77.3% (17/22) であった.
    4. 洞底に僅かな分泌物, あるいは粘膜肥厚があれば後壁エコーが現われる. 嚢胞と前壁の間に含気腔が存在すればN型を示す. 曲面である嚢胞では超音波ビームが入射する角度によって嚢胞エコー, 後壁エコーが現われないことがある. これらがfalse positive, false negativeの一因である.
大阪歯科学会例会抄録
博士論文内容要旨および論文審査結果要旨
  • 池 宏海
    原稿種別: 本文
    1990 年53 巻2 号 p. g55-g56
    発行日: 1990/04/25
    公開日: 2017/02/20
    ジャーナル フリー
    著者はアクリル樹脂微細脈管注入法によってカイウサギの横口蓋とヒダの微細血管構築, とくに毛細血管ループの形態とヒダの位置的相違, 固有層乳頭との関係について走査電顕を用いて詳細に観察を行い, ネコやニホンザルのものと比較考察した. カイウサギの骨口蓋には切歯孔に相当した長大な口蓋裂がある. 記載の便宜上, 硬口蓋を切歯乳頭部 (小切歯から口蓋裂前端), 口蓋裂部, 臼歯部 (口蓋裂後端から後方) の3部分に分けた. 横口蓋ヒダは硬口蓋全域に対称的に14-16本認められた. ヒダの矢状断面は切歯乳頭部では低い厚板状, 口蓋裂部では最も高く三角稜状, 臼歯部では低く三角波状であった. 硬口蓋の上皮は一定の厚さで, 固有層は切歯乳頭部で厚く, 各ヒダは固有層の隆起に相当していた. 粘膜下組織は口蓋裂部 (裂は結合組織性膜で閉鎖) で最も厚く, 発達した口蓋静脈叢が認められ, 切歯乳頭部と臼歯部では薄く, 臼歯部正中では粘膜下組織を欠き, 固有層が直接骨膜に移行していた. 硬口蓋には大, 小硬口蓋動脈が分布していた. 小硬口蓋動脈の枝がヒダ枝として第14-第16ヒダに分布していた. 大硬口蓋動脈は臼歯部では静脈叢内を, 口蓋裂後端付近から静脈叢の表層を前走し, 小切歯後方で対側のものと強く吻合していた. 大硬口蓋動脈は途中, 内側枝と外側枝を派出していた. この両枝と小硬口蓋動脈のヒダ枝は, 粘膜下組織内に1次動脈網 (粘膜下動脈網) を形成していた. 1次動脈網からヒダ内およびヒダ間へ小枝が派出していた. 前者は太く, ヒダ内の固有層で樹状分岐し, 2次動脈叢 (固有層動脈叢) を形成していた. 後者は細く数も少なく, 2次動脈叢は不明瞭で疎な網目であった. 2次動脈叢から分岐した細枝は上皮下毛細血管網を形成し, これから固有層乳頭内へ毛細血管ループが派出し, すべてのループは稜線に直交する方向に配列していた. ループの下行脚は上皮下毛細血管網の静脈側に入り, 固有層静脈叢を経て口蓋静脈叢に注いでいた. ループと乳頭は形態が相似するが, その形態はヒダ内の位置とヒダ間で相違を認めた. 1) 切歯乳頭部 : ヒダ前斜面の乳頭は細く高い長円錐状, ループはヘアピン型, 稜線の乳頭は尖端が丸い円柱状, ループは上, 下行脚間が狭く低く, 後斜面の乳頭は大きさが不ぞろいで高い円柱状, ループは上, 下行脚が基底部で開き尖端部がねじれていた. ヒダ間では乳頭は細く尖端は鋭く高く, ループはすぐ後位のヒダ前斜面のループの形態であった. 2) 口蓋裂部 : 前斜面の乳頭は基底部の矢状幅が大きく高い円錐状, ループは高く, 尖端が後方にやや屈曲, 稜線の乳頭は高く, 尖端が太い円柱状でループは2-3個連続して波状, 後斜面の乳頭は円柱状, ループは切歯乳頭部後斜面のものと類似していた. ヒダ間の乳頭は低い半球状で大型, ループは上, 下行脚間が開き, 尖端が丸く血管網が突出していた. 3) 臼歯部 : 前斜面と後斜面の乳頭とループは口蓋裂部のヒダ前斜面のものに類似し, 稜線の乳頭とループは切歯乳頭部の同部のものと類似し, ヒダ間のループと乳頭は口蓋裂部のヒダ間のものが細くなった形態であった. 結論として, カイウサギの硬口蓋の血管構築は基本的にはネコやニホンザルと同様に構成されていたが, 固有層血管叢は不明瞭であった. これはカイウサギの長大な口蓋裂と発達した口蓋静脈叢の存在により, 齧歯類としての咀嚼様式に合致したヒダの良好な発達とヒダ間の縮小のためと考えられる. またカイウサギの毛細血管ループは固有層乳頭の形態に一致し, ループは部位によってそれぞれ特徴ある形態を認めた.
  • 太田 邦雄
    原稿種別: 本文
    1990 年53 巻2 号 p. g57-g58
    発行日: 1990/04/25
    公開日: 2017/02/20
    ジャーナル フリー
    骨内インプラントの治癒過程に関し, インプラント体植立直後から長期にわたり骨新生と新生血管との修復関係について精査した研究はほとんどみられない. 著者は, インプラント体の顎骨内定着には植立直後から生じる微細血管構築と骨組織との順調な修復が重要であることに着目し, 経日的にインプラント周囲組織内の微細血管構築の変化と骨小材の修復との相関関係を走査電顕的に観察し, 組織学的裏付けを行ってインプラント体定着に資する基礎的条件を探究した. 実験には健康な成ニホンザル (Macaca fuscata) を用い, <21&mid;12>___-を同時抜去し, 60日以上放置後インプラント植立手術を行った. 骨内インプラント材料には, 純チタンスクリュータイプとノッチタイプおよびバイオセラムアンカーピンをそれぞれ埋入型と突出型方式によって植立した. 術後1週, 2週, 4週, 9週ごとに実験体を屠殺し, アクリル樹脂微細脈管注入法によって両側総頚動脈からアクリル樹脂を注入し, 樹脂硬化後, インプラント体とともに縦断あるいは横断し, 骨組織を残存させた微細血管鋳型を製作して走査電顕観察を行った. またインプラント体周囲の構造物を連続切片とし, 種々の染色を施して光顕観察に供した. 実験結果 : 術後1週では, インプラント体周囲に注入したプラスチックの漏出と既存血管から新生洞様血管の派生を認めた. 術後2週では, 新生洞様血管はインプラント体を環状に囲み, これに沿うように繊維性骨が島状に新生し始めていた. 新生骨形成は埋入型でインプラント体全体に及んだが, 突出型では尖部付近にのみ認められた. 術後4週では, 新生血管の洞様形態は減少していた. 島状新生骨は相互に連結が始まり, とくにインプラント体ノッチ部には細い環状の新生骨が進入し, ノッチ間の体表面では不完全ながら板状を呈していた. 当初にインプラント体から離れて派生した新生血管は, 新生骨の外周に位置するようになり, 新生骨形成に必要な物質供給には理想的形態であった. 術後9週では, 埋入型において両インプラント材とも新生骨板はインプラント体外面の形状どおりに完成し, 新生血管網はそのすぐ外周に, つまりインプラント体表面と新生骨は密接し, いわゆるosseous integrationの完成をみるに至った. インプラント体を含む外周構造物の横断面の所見は, 術後2週で外周の既存骨組織から体表面に直角に柱状の新生骨小材が突出し, その先端は体表面に到達して体面に広がり島状骨を形成していた. このような有茎骨小材が増加し, インプラント体表面では連続して板状骨を形成する様相が確認できた. つまり, インプラント体が新生層状骨板lamella-like boneに囲まれ, 新造歯槽壁の完成に寄与していた. 結論 : 修復機序において, 純チタンの方が血管構築と骨新生像が若干明瞭であった. また埋入型の方が骨新生と再形成が体全体にわたり, より早い進行をみた. 血管の動態は, 有茎骨小材から体表面に島状骨新生, ついで板状骨形成に発達するとともに毛細血管網は筒状となって新生骨のすぐ外周に位置していた. Osseous integrationは4週以後新造歯槽壁の完成まで連綿と継続し, 9週でほぼ完成した. 実験を通して, インプラント体の定着において術後2週目が安静を要する最も重要な時期であり, 埋入型方式において, 体全体に修復過程が進行することが示唆された.
  • 岩崎 精彦
    原稿種別: 本文
    1990 年53 巻2 号 p. g59-g60
    発行日: 1990/04/25
    公開日: 2017/02/20
    ジャーナル フリー
    硬, 軟両食品咀嚼時の頭蓋の力学的反応の違いと頭蓋の成長, 発育との関連性を明らかにすることが, この研究の目的である. 立位に固定した麻酔下の成熟期 (体重 : 7.0〜10.4kg) および幼年期 (体重 : 2.3〜2.7kg) の日本ザルの下顎骨の両側の臼歯部骨体部ならびに両側の上顎骨の臼歯部骨体部, 頬骨弓前部, 頬骨弓後部, 側頭骨鱗部, 頭頂骨中央部および側頭骨顎関節周辺部の合計14か所に三軸ストレインゲージを貼付し, 両側の咬筋を同時に電気刺激して収縮させ, 咬合, 咀嚼させた. なお, 電気刺激の強さは, 咬合時の両側咬筋ならびに硬食品 (クッキー) および軟食品 (マシュマロ) 咀嚼時の左側 (咀嚼側) 咬筋においては60V, 食品咀嚼時の右側 (非咀嚼側) の咬筋は30Vである. 咬合時に対する咀嚼時の全総主ひずみ量 (咀嚼時に咀嚼側と非咀嚼側との頭蓋各骨に生ずる主ひずみ量の総和) の百分率は, 硬食品咀嚼時には成熟期頭蓋と幼年期頭蓋とではほとんど差は認められないが, 軟食品咀嚼時には幼年期頭蓋のほうが小さい. 咬合時に対する咀嚼側頭蓋総主ひずみ量 (咀嚼時に咀嚼側頭蓋の各骨に生ずる主ひずみ量の総和) の百分率については, どちらの食品を咀嚼しても, 両頭蓋間にそれほど差が認められないかあるいは差が認められたとしてもその差はわずかである. それに対して, 咬合時に対する非咀嚼側頭蓋総主ひずみ量の百分率は, 幼年期頭蓋のほうが硬食品咀嚼時では大きく, 軟食品咀嚼時では著しく小さい. すなわち, 硬食品咀嚼においては, 非咀嚼側頭蓋にはその発育を促すのに必要なだけの大きさの咀嚼力が加わっているのに対して, 軟食品咀嚼時には加わらない. したがって, 摂取食品の性状による頭蓋の力学的反応の悪影響は, 軟食品咀嚼時において, とくに幼年期の非咀嚼側の頭蓋に現われる. 咀嚼時には, 咀嚼物質の大きさや性状等によって頭蓋各骨に加わる咀嚼力の方向, したがって主ひずみの方向が咬合時と異なる骨とまったく差異の認められない骨とがある. 前者の骨は, 幼年期頭蓋のほうに多く認められる. このことから, 成熟期頭蓋のほうが応力が集中しやすいことがわかる. また, 頭蓋各骨における咀嚼時の主ひずみ量が咬合時に比べて増加する骨は, 軟食品咀嚼時よりも硬食品咀嚼時のほうが, また幼年期頭蓋よりも成熟期頭蓋のほうが多い. 頭蓋各骨における咀嚼時の主ひずみ方向の変動および主ひずみ量の増大についての以上の知見から, 成熟期頭蓋においては咀嚼時には個々の骨がそれぞれ単独に, これに対して幼年期頭蓋では頭蓋を構成するすべての骨が一塊として, 咀嚼力を緩衝していることがわかる. 非咀嚼側の頬骨弓は, 咀嚼力の緩衝作用に対して重要な働きをしている. すなわち, 頬骨弓の主ひずみ量は, 軟食品咀嚼時の幼年期非咀嚼側頬骨弓における場合を除いては, 他の頭蓋各骨よりも著しく大きい. また, その主ひずみの方向は非咀嚼側頬骨弓では変わりやすく, 咀嚼側頬骨弓では変わりにくい. 量と方向とについての以上の現象から, 非咀嚼側の頬骨弓は第2級のてこの作用が十分に発揮されるように, 機能していることが証明される. しかし, 幼年期の非咀嚼側頬骨弓は, 軟食品咀嚼時には主ひずみの方向は変わりやすいが, 主ひずみ量が大きくないから, 第2級のてこの作用は発揮されない. なお, latency time, peak time, restoration timeおよびひずみ波形のパターンを測定し, 粘弾性体としての頭蓋各骨の力学的モデルは三要素モデルによって説明できると判断した.
  • 柳原 一晃
    原稿種別: 本文
    1990 年53 巻2 号 p. g61-g62
    発行日: 1990/04/25
    公開日: 2017/02/20
    ジャーナル フリー
    遊離歯肉自家移植術後の治癒過程に関する研究は数多くなされているが, しかし受容床における骨膜の有無, すなわち骨膜上および裸出骨上での遊離歯肉移植後の修復過程の相違については, 不明瞭な点が数多く残されている. 先に教室の信藤は骨膜上に遊離歯肉自家移植を行い, 移植片の生着から組織の器質化に至るまでを微細血管鋳型によって走査電顕下で検索を行ったが, 一方の裸出骨床への遊離歯肉移植後の修復過程における微細血管構築の変化についての経日的かつ詳細な報告はまだみられない. 著者は, 受容床における骨膜の有無による遊離歯肉移植後の修復過程の相違を形態的に解明するために, 信藤の行った実験手技に基づき, 雑種成犬の裸出骨上に遊離歯肉自家移植を行ったのち, 実験領域のアクリル樹脂注入微細血管鋳型標本を作製し, 表面, 断面ならびに骨側からの3方向から, 走査電顕を用いて立体的に観察し, 併せて光顕所見により病理組織学的に観察し, 立体構築との関連について比較検討した. 術後3日では, 移植片は辺縁部では既存形態を維持して生着し, 中央部および骨面上では組織壊死がみられた. そして移植片辺縁部にわずかに樹脂注入像が認められ, 移植片と受容床創縁の両固有層血管が新生洞様血管により吻合し, 血行が再開されていた. しかし中央部では樹脂未注入で骨面が露出し, また移植片血管と骨側からの血管との吻合は認められなかった. 術後7日では, 移植片への樹脂注入領域が広がり, 移植片の血管構築において, 辺縁部では既存の血管構築が維持され, 骨面上まで血管像が認められた. しかし中央部では肉芽組織形成が進み, 表層のみ生着した辺縁部の移植既存血管壁から出芽した新生洞様血管が認められ, 移植片血管は架橋を形成していた. 術後14日では, 移植片全表面に樹脂注入像が認められ, 移植片の辺縁部では上皮下毛細血管が糸球体様を呈し, 中央部では平坦な毛細血管網が認められた. 移植片の血管構築においては, 辺縁部では移植片既存血管が骨吸収により受容床の骨髄からの血管との交通が認められた. また中央部では肉芽組織形成が進むとともに新生血管が骨面上まで多数認められ, 移植領域全体の循環が確立していた. 術後21日から28日にかけて, 移植片の辺縁部の糸球体様の上皮下毛細血管はアーケード状形態に移行し, 中央部では毛細血管網の網目間隙が広がっていた. 移植片の血管構築においては, 辺縁部では新生血管の消失により移植片の交通枝と骨中からの血管が扁平な血管により樹枝状に吻合していた. そして中央部では肉芽組織の瘢痕化にともない, 固有層中の新生血管は消失し, 無血管領域が認められた. また骨面上では新生骨膜血管網が形成されていた. 術後28日以降84日においては, 血管構築には大きな変化は認められず, 辺縁部では移植片固有の構築が維持され, 中央部では無血管領域が認められ, 生着した辺縁部と組織再生された中央部の治癒形態の相違が明らかとなった. 一方, 骨面上に形成された新生骨膜血管網は, 血管の口径が細く, 不規則に走行し, 対照群の骨膜血管網とは明らかに異なっていた. 以上の結果より, 裸出骨床への遊離歯肉自家移植の治癒過程について, 移植片辺縁部では受容床創縁からの血行再開により移植片が生着し, 中央部では壊死組織が肉芽組織に置換され, 肉芽組織が瘢痕化した治癒様式を示していた. このことは受容床骨膜血管網からの血行再開により移植片全体が生着し, 機能的役割をはたす骨膜上への遊離歯肉自家移植の治癒様式とは異なることが明らかとなった.
  • 松本 和浩
    原稿種別: 本文
    1990 年53 巻2 号 p. g63-g64
    発行日: 1990/04/25
    公開日: 2017/02/20
    ジャーナル フリー
    口腔領域の感染症の多くは, う蝕や歯周疾患と同じく口腔細菌によって引き起こされる内因感染症である. 最近, 嫌気性菌の培養設備や技術の進歩と同定方法の確立に伴って, 口腔領域の閉鎖性膿瘍からの分離菌は, 嫌気性菌がよく検出されてきている. しかしながら, 各研究者間で症例の選択や試料の採取方法に相違があることから, それぞれの感染症の原因菌を決定するまでにはいたっていない. 本研究では, 対象症例として臨床症状を伴う非開放性の歯槽膿瘍に限定し, 膿瘍内容液の採取から分離, 同定にいたる操作を嫌気条件下で行い, 細菌学的検索を行った. 対象は, 臨床症状を伴った非開放性の歯槽膿瘍と診断された患者41名である. 膿瘍内容液をNeedle aspiration法にて採取し, L字型細管を通じて嫌気ガスを送りこんでいる4.5mlのReduced transport fluid (RTF) 内に膿瘍内容液0.1mlをいれ, ブチルゴムで栓をして研究室に輸送した. Anaerobic chamber内でRTFを用いて10^<-8>まで10倍連続希釈し, 塗抹を行い, 嫌気的および好気的に培養を行った. 分離細菌の同定は, 偏性嫌気性菌ではBergey's manualに従い, 通性嫌気性菌ではKoneman's diagnostic microbiologyに従った. ただし, 通性嫌気性グラム陽性球菌でカタラーゼ反応陰性のものは, Facklamの分類基準に従った. MICの測定は化学療法学会標準法に準じて行った. β-lactamase活性の検出はニトロセフィン法とディスク法で行った. 酵素活性はAPI ZYM systemを用いて行った. 細菌培養試験の結果, 内容液1mlあたりの菌量は2.3×10^3から1.2×10^<12>CFUの範囲で, 標準値は3.3×10^7CFU/mlであった. 41症例中32症例が陽性で, すべてがmixed cultureであった. 総分離菌株数は1834株で, 偏性嫌気性菌は87.1%を占めたのに対し, 通性嫌気性菌は12.9%であった. 偏性嫌気性菌は培養陽性であったすべての症例に認められ, その内29症例においては70%以上の高い比率で検出された. さらに29症例中12例では偏性嫌気性菌のみが検出された. 偏性嫌気性菌の中では, グラム陰性桿菌がすべての症例に認められ, とくに24症例においては50%以上の比率で分離された. 種レベルで最も頻繁に分離された細菌はPeptostreptococcus micros (17症例) であり, ついでBacteroides intermedius (16症例), B. ruminicolaとB. bivius (13症例), Eubacterium lentumとPs. anaerobius (11症例), Ps. productus (10症例) の順であった. なかでもB. intermediusは, 分離された16症例中9例が40%以上の分布比率を占めた. MICの分布は広範囲であったが, B. intermedius, B. ruminicolaおよびF. nucleatumに対するβ-lactam剤のMIC_<90>は、大半が50μg/ml以上であり, 耐性傾向が認められた. β-lactamase活性は, ほとんどの菌株で弱産生性であった. また, 薬剤感受性の程度とβ-lactamase産生性とは一致した. B. intermediusとF. nucleatumの酵素活性パターンは, 他の口腔疾患の病巣からの分離菌と一致したが, 本研究での供試菌には付加的な酵素活性が検出された. 以上のことより, 閉鎖性歯槽膿瘍の病因の主体は, Bacteroides, Peptostreptococcus, Eubacteriumなどの偏性嫌気性菌であり, MIC値も他の口腔疾患からの分離菌よりも高いことから, 本研究におけるような症例に遭遇した場合, 慎重かつ的確な化学療法剤の選択と積極的な外科療法の必要性が示唆された.
  • 内田 慎爾
    原稿種別: 本文
    1990 年53 巻2 号 p. g65-g66
    発行日: 1990/04/25
    公開日: 2017/02/20
    ジャーナル フリー
    下顎の水平方向への力は, 咀嚼時の閉口相終末や下顎の側方運動時などに垂直的な力とともに発現し, 側方力のベクトルとして咀嚼機能に重要な役割を果たしている. しかし一方では, これらの水平力は歯周病の二次的原因や顎関節症の誘因にもなりうる. 本研究は, これら水平力発現の生理的なメカニズムの解明を目的とし, 実験的にシーネを用いた下顎の等尺性前方, 側方押し出し時の咀嚼筋筋電図活動を押し出し力とともに記録して, 押し出し力の変化や顎位の変化にともなう筋活動の推移から水平的な力の発現に関与する筋とその特性を検討した. 顎関節や咀嚼筋に異常を認めない成人男子6名に対し, 上顎に押し出し力測定用ロードセル, 下顎に押し出し用ピンを設置した水平的押し出し力負荷のための口腔内装置を装着した. ロードセルからの出力はブラウン管上でモニターできるようにし, ゴシックアーチの前方, 側方経路に沿って固定された押し出し用ピンは, 長さが変えられるように設計した. 押し出し顎位は, 各被検者ごとのゴシックアーチに示されたアペックスの位置を中心咬合位付近 (0顎位), 0顎位から前方, 側方に下顎を偏位させた位置で力を発揮できる最大前方, 側方偏心位をMax顎位, さらに0顎位とMax顎位の中央の位置をHalf顎位とし, この3顎位における等尺性最大随意押し出し (MVC), その1/4, 1/2, 3/4の力の押し出しを, それぞれ2回ずつランダムに行い, 両側外側翼突筋下頭 (LPt), 側頭筋後部 (Tp), 咬筋 (Mm) から導出したEMGと押し出し力を同時記録した. 各押し出し時のEMGはシグナルプロセッサを用いて最も安定した約3秒間のEMG電位の実効値 (rms値) を算出し, 筋, 被検者, 押し出し顎位, 押し出し力を主変動因子として分散分析を行い, 以下のような結果を得た. 1) 前方押し出しでは押し出し力の増加とともに両側LPtの活動が有意に増加し, 両側Mmの活動は電位が小さいものの増加する傾向を示した. 側方押し出しでは対側LPtの活動が力を増すごとに有意に大きくなり, 同側Tpと対側Mmの活動はMVC時にのみ有意の増大を示した. 2) 4種の異なる力での押し出し時筋活動量を平均すると, 顎位が中心咬合位付近から偏位するに従って, 前方押し出しでは両側LPt, 側方押し出しでは対側LPtの等尺性筋活動量が有意に増加した. しかし, その他の筋には有意の変化がなかった. 3) 押し出し力別にみた顎偏位によるLPtの等尺性筋活動量の変化は, 側方押し出しではいずれの力でも顎偏位により上昇傾向を示したが, 前方押し出しではMVC時のみ, Half顎位からMax顎位にかけて活動量の増加がみられなかった. 4) 前方, 側方押し出し時のLPtの活動を比較すると, すべての顎位, 押し出し力で前方押し出し時の方が有意に大きな筋活動を示した. 5) 分散分析法による統計処理の結果, 本実験結果には個人差が認められなかった. 以上の結果より, 下顎の等尺性水平押し出し力の発現にはLPtが主働的に働いていることが明らかとなった. 前方押し出し時の両側Mm, 側方押し出し時の同側Tpと対側Mmは, 下顎の固定, 安定を図るため補助的に押し出し力発現に関与することが示唆された. 側方押し出しは前方押し出しに比べLPtの筋活動量が小さいにも関わらず, 大きな力を発揮することができ, より能率的な運動であることが示唆された.
  • 平木 ますみ
    原稿種別: 本文
    1990 年53 巻2 号 p. g67-g68
    発行日: 1990/04/25
    公開日: 2017/02/20
    ジャーナル フリー
    Intraoral Fluoride Releasing Device (以下, IFRD) 法は, 口腔内のフッ素 (以下, F) 濃度を長期間一定に維持することが可能で, 低濃度のFがエナメル質に効果的に取り込まれ, 齲蝕抑制効果が期待できる. IFRDによるエナメル質深部へのFの浸透および耐酸性の向上などについては報告されているが, IFRDから放出される低濃度のFがエナメル質の結晶性に及ぼす影響については, ほとんど研究されていない. そこで, IFRDを臨床応用するための基礎的研究として, IFRDを使用した場合を想定したフッ化ナトリウム溶液 (フッ素濃度1ppm, 10ppm, 100ppm, 500ppmおよび1,000ppm, pH7.0) へ, ウシエナメル質および合成ハイドロキシアパタイト (以下, 合成HA) を長期間 (10, 20, 30, 50および100日間) 浸漬して実験を行い, 低濃度Fによるエナメル質の結晶性の変化についてエックス線回折的に調べ, 同時に試料に取り込まれたF量および耐酸性をも検討した. さらに, エックス線マイクロアナライザーを用いて未脱灰および脱灰面の観察および元素分析を行った. その結果, 1) 合成HAでは, いずれの実験群も浸漬日数の延長とともにFの取り込み量は増加し, とくに, 低濃度群では浸漬日数に比例して取り込み量は増加した. 2) 合成HAは, いずれの実験群も浸漬日数の増加とともに耐酸性は向上し, とくに, 1ppm群では浸漬日数に比例して耐酸性の向上が認められた. 3) 合成HAおよびエナメル質粉末は, いずれもフッ化ナトリウム溶液のF濃度上昇にともない, また, 浸漬日数の延長につれて結晶性が改善された. これは, フッ化物によってHAがフルオルアパタイトあるいはハイドロキシフルオルアパタイトに変化したためと考えられる. また, いずれの実験群にもフッ化カルシウムは検出されなかった. 4) エナメル質へのFの取り込みは, 浸漬日数の延長とともに, また, 作用させたF濃度が高いほど増加を示した. また, エナメル質深部への浸透は高濃度群になるほど著明であった. 5) エナメル質表層部の耐酸性は, いずれの実験群も対照群に比べて向上したが, 1ppm群の10, 20および30日浸漬では脱灰12時間以降で, 10ppm群の10日浸漬では脱灰24時間以降で溶出カルシウム量が対照群に近似した. 一方, 高濃度群では48時間脱灰でも溶出カルシウム量は少なかった. 6) SEMによる脱灰面の観察では, 低濃度群の30日浸漬でエナメル質表層下50〜150μmに及ぶ脱灰層がみられ, かつ実質欠損をともなっていた. しかし, 浸漬日数の延長によって実質欠損は縮小した. 一方, 高濃度群でエナメル質表層から脱灰が進行したが, エナメル質表層下には脱灰は認められず, 浸漬日数の延長によってエナメル質表層の脱灰層が非薄となった. さらに, エックス線マイクロアナライザーによるF分布の所見では, それぞれFが取り込まれた深さまでエナメル質が強化され, 脱灰が抑制されたと考えられた. 以上のことから, IFRDからの徐放Fを想定した低濃度のフッ化物溶液をエナメル質に作用させた場合には, 浸漬日数を延長させることによりエナメル質の結晶性は改善され, 耐酸性は向上することを明らかにできた.
  • 栗林 甚博
    原稿種別: 本文
    1990 年53 巻2 号 p. g69-g70
    発行日: 1990/04/25
    公開日: 2017/02/20
    ジャーナル フリー
    Bacteroides endodontalisは, 最初, ヒト感染根管内より分離され, 後にvan Steenbergenら (1984) により糖非分解性の黒色色素産生性Bacteroidesの新しい菌種として報告されたものである. 本研究では, B. endodontalis菌体から外膜蛋白を調製し, その免疫化学的性状を調べ, また, これら菌体表層蛋白抗原に対する根尖性歯周炎患者の病巣部局所における特異免疫応答についても併せて検討した. 外膜蛋白の調製には, GAM培地に嫌気的条件下で37℃, 30時間培養したB. endodontalis HG 370 (=ATCC 35406) 株の凍結乾燥菌体 (WC) を出発材料とした. WCの超音波破砕物を遠心し沈渣を細胞エンベロープ (CE) とし, 洗浄後凍結乾燥した. CEをラウロイルサルコシン酸ナトリウム, ついでリチウムドデシル硫酸により抽出処理したものを, Sephacryl S-200HRカラム, さらにDEAE-Sepharose Fast Flowカラムにより分画, 部分精製し, OMP-IおよびOMP-IIとし, 以後の実験に供した. リポ多糖 (LPS) はWCよりフェノール・水法により得た. リムルステストはQCL-1000を用いた比色法により測定した. OMP-IおよびOMP-IIを家兎に免疫して得た特異抗血清を寒天ゲル内沈降反応に用いた. 透過孔形成能力 (ポーリン活性) はリポソーム膨張法により測定した. 根尖性歯周炎 (組織学的所見により, 歯根嚢胞および歯根肉芽腫に分類) の病巣部組織を酵素処理後, 比重遠心法により単核細胞を得た. Czerkinskyら (1983) の記載を参考にしたELISPOT法によりB. endodontalis菌体表層抗原に対する特異免疫応答の誘導を調べた. 1) SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動による分析の結果, OMP-Iの主要構成成分は31Kよりなり, OMP-IIには15.5K, 27K, 44Kの3本の主要蛋白バンドが認められた. 2) 寒天ゲル内沈降反応の結果, OMP-IとOMP-IIには, 共通抗原が存在するほか, それぞれに特異抗原を含んでいた. 3) リムルステストの結果, OMP-IおよびOMP-IIには, それぞれB. endodontalisのLPSの15.4%および16.2%に相当する活性が認められた. 4) リポソーム膨張法で調べた結果, OMP-Iには明確なポーリン活性が認められたが, OMP-IIには同活性はほとんど認められなかった. 5) 根尖性歯周炎の病巣部組織の酵素処理により, 歯根嚢胞 (13症例) では, 平均1.9×10^5個/100mg (生存率97.2±0.5%), 歯根肉芽腫 (5症例) では平均1.8×10^5個/100mg (生存率96.7±1.6%) の単核細胞が得られた. 6) ELISPOT法により調べた結果, 歯根嚢胞および歯根肉芽腫の病巣部組織の非特異的抗体産生細胞はIgG>IgA>IgMの順に多かった. 7) 同ELISPOT法により歯根嚢胞13症例のうち4症例にOMP-IIに対する特異IgG抗体産生細胞が認められた. 総IgG抗体産生細胞におけるOMP-IIに対する特異抗体産生細胞の占める割合は, 0.006〜0.03%であった. なお, OMP-IならびにLPSに対する特異抗体産生細胞は認められなかった. 一方, 歯根肉芽腫では, B. endodontalisの菌体表層抗原に対する特異抗体産生細胞は検出されなかった. 以上の結果から, B. endodontalisHG370株の主要外膜蛋白であるOMP-Iは, ポーリン活性を保有し, また同外膜蛋白OMP-IIは, 慢性根尖性歯周炎, とくに歯根嚢胞の病巣部において特異免疫応答を誘導することが明らかになった.
  • 松岡 嘉代
    原稿種別: 本文
    1990 年53 巻2 号 p. g71-g72
    発行日: 1990/04/25
    公開日: 2017/02/20
    ジャーナル フリー
    悪性腫瘍の治療や予後判定にとって, 腫瘍の悪性度を明らかにすることは重要である. そのため腫瘍細胞の増殖能やレクチン結合性が検討されている. 増殖能の観察には5-bromodeoxyuridine (BrdU) が用いられており, BrdUを取り込んだDNA合成期の細胞は免疫組織化学的に検出される. またレクチンが特定の糖鎖と親和性をもつことを利用して, 細胞の分化や悪性化を細胞膜の糖鎖構造の変化として組織化学的に捉え検討されてきた. 今回, ラット頬部皮膚に発癌操作を行い, 正常状態から癌形成までの肉眼的ならびに組織学的変化と, BrdUによる細胞動態の検索およびレクチン結合性の変化を比較検討した結果, この組織化学的な検索が腫瘍の悪性度を判定し診断を行う際の指標となることが示唆された. 実験材料と方法 ラットの左側頬部皮膚に週3回0.5%9, 10-dimethyl-1, 2-benzanthraceneアセトン溶液 (DMBA) を塗布し, 発癌に至る過程の上皮の変化に伴う細胞動態の観察をBrdUを用いて行い, BrdU標識率 (labeling index LI) を求めた. またレクチンを用いてBrdUとの二重染色を行った. レクチンはpeanut agglutinin (PNA), wheat germ agglutinin (WGA), Ricinus communis agglutinin-I (RCA-I) およびUlex europenus agglutinin-I (UEA-I) の4種類を用いた. 結果 1) DMBA塗布により上皮は肥厚上皮, 乳頭腫様上皮, 異型上皮および扁平上皮癌と変化し, LIは組織の変化に伴い上昇したが, 扁平上皮癌では高分化型と低分化型のLIに差異は認められなかった. またBrdU標識細胞は正常上皮から乳頭腫様上皮では基底細胞層に点在していたが, 異型上皮では基底細胞層から棘細胞層下部までの範囲に密に認められた. 扁平上皮癌ではBrdU標識細胞は, 癌胞巣周縁と小胞巣をつくり深部へ浸潤増殖した細胞集団に不規則に認められた. 2) 正常上皮, 肥厚上皮および乳頭腫様上皮ではWGAは基底細胞層から棘細胞層下部に, PNAとUEA-Iは棘細胞層から顆粒層に陽性であった. 異型上皮ではWGAは棘細胞層上部まで陽性となったが, PNAとUEA-Iは棘細胞上部と顆粒層のみ陽性であり, 棘細胞層下部の細胞質は陽性であった. 扁平上皮癌では一部の細胞の細胞質でPNAとUEA-Iが強陽性であった. RCA-Iは正常上皮から異型上皮まで, いずれにおいても上皮のほぼ全層にわたって陽性であったが, 扁平上皮癌では陽性の細胞が陰性の細胞に混在していた. 3) レクチン染色性とBrdU標識細胞との関係では, WGAの陽性部位はBrdU標識細胞の存在部位と一致した. 正常上皮と肥厚上皮および乳頭腫様上皮ではPNAとUEA-I陽性部位とBrdU標識細胞の存在範囲との境界が比較的明瞭であったが, 異型上皮と扁平上皮癌ではPNAとUEA-I陽性の細胞とBrdU標識細胞が混在していた. 腫瘍の細胞動態および細胞膜の糖鎖構造の観察により腫瘍の悪性度が明らかとなり, これらは組織診断の一助として有用であると考える.
  • 志水 秀郎
    原稿種別: 本文
    1990 年53 巻2 号 p. g73-g74
    発行日: 1990/04/25
    公開日: 2017/02/20
    ジャーナル フリー
    近年, 凍結保存乾燥骨 (死骨) あるいは象牙質切片上で分離破骨細胞の培養を行う骨吸収定量実験法が確立され, 広く認められている. しかし, これら死骨を利用した実験系はin vitroとは所見を異にしており, 生体の反応を反映しているとはいえない. そこで著者は, 自然に近い骨吸収実験モデルを確立する目的で, 生活骨を用いて破骨細胞の培養を行い, 生活骨と失活骨の吸収過程をTissue inhibitor of metalloproteinases (TIMP) およびCystein proteinase inhibitor (E-64) を使用して比較検討した. また, 悪性腫瘍から放出される骨吸収促進因子の1つであるTransforming growth factor-α (TGF-α) の及ぼす影響を調べた. 実験材料および方法 生後10〜12か月のマウス頭頂骨から3×3mmの骨片を切り出し, 1部は生活骨として, また1部は凍結融解処置を加えて失活骨として用いた. 破骨細胞は生後10日の家兎大腿骨より分離し, これらを生活骨と失活骨上に移植した. そしてM119, 10%FBS溶液5%CO_2にて60時間培養した. TIMP (100μg/ml), E-64 (60μM), TGF-α (100ng/ml) は, それぞれ培養開始時に添加し, さらにTGF-α・インドメタシン (100ng/ml) 併用群を作製した. 培養後に次亜塩素酸処理を施し, 固定後, 通法に従い試料を作製して, 走査型電子顕微鏡にて観察した. 骨吸収量の測定には, 吸収窩の面積および深さの計測を行った. 実験結果 1) 分離破骨細胞による吸収は, 吸収窩の面積および深さにおいて, 生活骨が失活骨を上回っていた. 2) TIMP添加により, 生活骨の吸収面積および深さは有意に減少して失活骨と同程度になった. 失活骨の吸収には影響を及ぼさなかった. 3) E-64添加により, 失活骨の吸収面積は有意に減少したが, 生活骨では有意差は認められなかった. 4) TGF-α添加により, 有意差は認められないが, 生活骨, 失活骨および死骨の吸収は軽度に阻害された. 5) インドメタシン添加により生活骨の吸収面積は有意に減少して, 失活骨と同程度になった. しかし, 失活骨には, 有意な影響を及ぼさなかった. 6) TGF-α・インドメタシン併用では, 生活骨ではTGF-αとインドメタシン添加のそれぞれの総和よりも有意な阻害が認められた. 失活骨の吸収面積は, TGF-α添加と同程度であった. 死骨では, 無添加とTGF-α添加およびTGF-α・インドメタシン併用との間に有意差は認められなかった. 結論 1) 生活骨での吸収窩の面積および深さは, 失活骨を上回っており, これは骨片中の生細胞によるプロスタグランジン産生に依存すると考えられた. 2) 生活骨吸収における骨基質の分解には骨細胞による金属プロテアーゼ (コラゲナーゼ等) の関与が示唆された. 3) E-64添加により失活骨の吸収は有意に減少し, 破骨細胞に直接作用して活性を阻害したと考えられた. 4) 生活骨と失活骨の吸収機構は, とくにコラーゲンの分解吸収において異なると考えられた. 5) TGF-αは, 統計的に有意でないが, 破骨細胞活性に対して弱い抑制を認めた. 6) 生活骨を利用した分離破骨細胞の培養実験モデルは, 悪性腫瘍の顎骨浸潤を含め, 今後の骨吸収研究にとって有益であると考えられる.
  • 谷 哲
    原稿種別: 本文
    1990 年53 巻2 号 p. g75-g76
    発行日: 1990/04/25
    公開日: 2017/02/20
    ジャーナル フリー
    前歯審美修復材として臨床に広く応用されているコンポジットレジンが, 近年臼歯部咬合面用として臨床に応用されてきている. しかし, 臨床報告においての失敗例も報告されており, とくに, アマルガムと比較して摩耗量が多く, 材料によっては充填物に咬合圧が加わると充填物の体部で破壊が起こり解剖学的形態を失う報告もみられる. コンポジットレジンの摩耗のメカニズムについては, いろいろ論議がかわされているが未だ確立された定説はない. そこで著者は, 繰り返し荷重と4か月水中浸漬によるエージングの影響が, 成形修復材のCompressive Propertiesと摩耗にどの様に影響を与えるかについて知る目的で本実験を企画した. 実験1. エージングによるCompressive Propertiesへの影響について 1) 繰り返し荷重条件によるCompressive Propertiesへの影響について 加振波形を3条件, 振動数を3条件設定と, 繰り返し荷重によるCompressive Propertiesへの影響について, アマルガム1種, コンポジットレジン2種の比較検討を行った. 2) 歯科用修復材のエージングによるCompressive Propertiesへの影響について 繰り返し条件は, 加振波形を矩形波, 振動数を5Hzに設定し, 24時間水中浸漬と4か月水中浸漬した試料に対して, 繰り返し荷重を負荷したものと, しなかったものについてアマルガム4種, コンポジットレジン5種を用いて比較検討を行った. 実験2. エージングによる摩耗への影響について 稗田らの開発による摩耗試験機を用いて, エージング条件を実験1の2)と同条件に設定し, エージングによる摩耗への影響についてアマルガム4種, コンポジットレジン5種を用いて比較検討を行った. 結果 1) 加振波形, 振動数によるCompressive Propertiesへの影響に差は認められなかった. 2) 繰り返し荷重 (矩形波, 5Hz) 後のCompressive Propertiesは, コントロールと比較してアマルガム1種 (Spherical-D) 以外上昇傾向が認められた. 3) コンポジットレジンの4か月水中浸漬のCompressive Propertiesへの影響は認められなかった. 4) アマルガムでは, 繰り返し荷重後の摩耗への影響は試料体先端部では認められず, 中央部切断試料体で認められた. 5) MFRタイプコンポジットレジンでは4か月水中浸漬後, 繰り返し荷重の試料体の一部に摩耗試験初期に破折がみられた. 6) エージングを与えた試料体でもコントロールとの相対的摩耗量の順位に差はなかった. 結論 1) Compressive Propertiesと摩耗量との間に, 相関は認められなかった. 2) エージング条件を変えることにより疲労が摩耗に関与することが示唆された.
  • 坂本 健吾
    原稿種別: 本文
    1990 年53 巻2 号 p. g77-g78
    発行日: 1990/04/25
    公開日: 2017/02/20
    ジャーナル フリー
    歯科学生にとって, 1年という臨床実習期間は決して長いものではない. 覚えなければならない技術があまりにも多いからである. なかでも口内法と呼ばれる歯科用X線フィルムを用いる撮影は, 見掛けほど簡単ではなく, 医科におけるX線撮影法も含めて, どちらかといえば技術の修得が困難な部類に属するものである. この撮影法の指導要領については, 全国の医育機関において検討が重ねられ, それぞれの施設なりにトレーニングプログラムが作成されている. しかしながら, このプログラムの実施に当たっては, いずれの報告をみてもまさに試行錯誤の連続で予期された効果はあがっていないというのが現状である. その理由は, この撮影法の特徴がフィルムのポジショニングの困難さにあることで, 口腔内という場所の狭さもさることながら, 患者自身が感じるフィルムに対する異物感とその辺縁による圧迫痛が正しい位置へのフィルムの固定を妨げるのである. したがって, このような感覚的苦痛をマネキン実習から体得することは不可能で, マネキンで経験できるのはごく基本的な手技にすぎない. やはり, 実際に受診患者の撮影を行うのが最も有効であるという結果が, 過去の実績からも明らかにされている. ここで問題となるのは撮影の失敗で, 学生教育の場では患者の被曝低減を説きながら, 臨床実習の場では再撮影を命じているという矛盾については, その解決が各医育機関の積年の課題となっている. このように放射線診療では患者被曝の問題は避けて通れない. そこで, 現行の教育方法の是非はともかくとして, まず, 医育機関附属病院受診患者の口内法撮影による被曝の実態を調査した. 教育に関連した被曝調査は, わが国ではいまだ報告されていない. 大阪歯科大学附属病院歯科放射線科では, 歯科学生が口内法撮影を実施した患者分について, その撮影状況を詳細に記録し過去8年間にわたって保存, 蓄積してきた. このうち1985年および1986年の2年分を用いて口内法撮影頻度を調査し, 被曝線量推定のための基礎資料とした. 次に, ランド・ファントムを被照射体に用いて線量測定実験を行い, 口内法撮影による医育機関附属病院受診患者1人当たりの平均被曝線量を推定した. 結果ならびに結論 1) 本学附属病院歯科放射線科において, 臨床実習生によって口内法撮影を受けた患者の撮影頻度は, 撮影失敗に伴う再撮影分をも含めると, 平均1人当たり約7回であった. これは一般歯科医院受診患者の約5倍に相当した. 2) 臨床実習生の撮影失敗率は約40%で, 1枚の口内法X線写真を完成させるのに, 平均約1.4回の照射を必要としていた. 3) 口内法撮影1照射当たりの被曝線量は, 撮影部位によって差があるが, 骨髄平均線量に関しては, 最高値は上顎臼歯部撮影時の13.7μGyで, 最低値は下顎犬歯部撮影時の2.53μGyであった. 一方, 実効線量については, 4〜11μGyの範囲であった. 4) 臨床実習生によって口内法撮影を受けた患者1人当たりの骨髄平均線量は, 1985年が45.7μGy, そして1986年が42.4μGyであった. 実効線量は, それぞれ52.1μGyおよび48.9μGyであった. 5) このうちの約30%は, 再撮影に起因した.
  • 高橋 一也
    原稿種別: 本文
    1990 年53 巻2 号 p. g79-g80
    発行日: 1990/04/25
    公開日: 2017/02/20
    ジャーナル フリー
    ヒトの開口運動は, 古くには顎関節内の回転運動のみによって行われているという考えがあった. しかし, 人体の解剖学的研究や生理学的研究から, 開口運動は筋活動の協調作用によって顎関節内における回転と滑走運動によることが明らかになってきた. しかしながら, 開口運動における主動筋については, 研究者間で見解の一致がみられていない. それは, 開口運動に関与する外側翼突筋下頭および顎二腹筋前腹の筋電図学的研究は多くみられるが, 開口運動経路と両筋の筋電図を同時記録した研究は少なく, さらに, 下顎運動の測定点が切歯部のみであるため, 開口運動経路を下顎の回転と滑走に分離して分析できなかったことなどが原因として考えられる. 一方, 下顎運動の研究には回転と滑走運動を分離して詳細に分析している報告は数多くみられるが, その原動力である開口筋活動を同時記録した報告は少ない. そこで本研究では, 顆頭部と切歯部の2点を測定点とした下顎運動と, 開口筋である外側翼突筋下頭および顎二腹筋前腹の筋活動とを同時記録し, 両筋の筋活動が開口運動における回転および滑走運動に果たす役割を分析し, 開口運動における主動筋について考察することを目的とした. 研究方法は, 実験的に開口運動時の経路, 開口量および開口速度を変化させて外側翼突筋下頭および顎二腹筋前腹の筋活動と下顎運動を同時記録し, 両筋の機能的役割を分析し, 以下の結果を得た. 1) 習慣的な開口路 (H-path) では, 外側翼突筋下頭と顎二腹筋前腹の筋活動開始順序には一定の傾向は認められなかった. 2) 習慣的な開口路より前方を通る開口運動 (A-path) では, 筋活動の開始は外側翼突筋下頭が顎二腹筋前腹よりも早期に認められた. 3) 習慣的な開口路より後方を通る開口運動 (P-path) では, 筋活動の開始は顎二腹筋前腹が外側翼突筋下頭よりも早期に認められた. 4) 外側翼突筋下頭の筋活動開始点は, すべての開口路で顆頭部移動開始点よりも先行していたが, その時間差は0.25秒以内と小さかった. また, 切歯部移動開始点よりも (A-path), (H-path), (P-path) の順に遅れが大きかった. 5) 顎二腹筋前腹の筋活動開始点は (A-path) では顆頭部移動開始点よりも遅れ, (H-path), (P-path) では先行していた. また, 切歯部移動開始点よりも (A-path), (H-path) では遅れ, (P-path) では先行していた. 6) 切歯部の開口路は開口量の増加に伴って前方を通る傾向にあり, 一方, 開口速度の増加に対しては後方を通る傾向を示した. 7) 同一開口量における開口速度の増加に対し, 顆頭部の前方への移動量は減少傾向を示し, 切歯部の後方への移動量は増加傾向を示した. 8) 外側翼突筋下頭の筋活動量は, 顆頭部の移動量と正の相関が認められたが, 切歯部の移動量とは相関は認められなかった. また, 移動速度とは開口量が大きい場合のみで正の相関が認められたが, 他では認められなかった. 9) 顎二腹筋前腹の筋活動量は, 顆頭部および切歯部の移動量ともに相関は認められなかった. また, 移動速度とは開口量が小さい割合のみで相関は認められなかったが, 他ではすべて正の相関が認められた. 以上のことから, 開口運動時の両筋の機能的な役割は, 外側翼突筋下頭については顆頭を前下方に動かすこと, すなわち, 顆頭移動による開口量のコントロールであり, また, 顎二腹筋前腹については切歯部を後下方に引き下顎の回転運動を発現すると同時に, 開口速度のコントロールであることが明らかになった.
  • 松井 良生
    原稿種別: 本文
    1990 年53 巻2 号 p. g81-g82
    発行日: 1990/04/25
    公開日: 2017/02/20
    ジャーナル フリー
    歯科用合金のレーザ溶接部には割れが発生するという報告がある. 割れは機械的性質の低下および耐食性の低下に重大な影響を与えるため, 臨床でこれらの合金をレーザ溶接するには, この問題の解決が必要不可欠である. しかし, 現在のところ, 割れの原因や発生の防止方法についてはほとんど検討されていない. レーザ溶接部の割れの原因として, 継手の拘束力, 溶接雰囲気の影響, 合金組成の影響などが挙げられる. このなかでも合金組成は, 金属凝固時の液相線温度, 固相線温度および共晶線温度に影響を与え, 凝固温度範囲を変化させるため, 金属の割れと深い関係がある. また微量でも大きな影響を与えると考えられる元素もあり, とくにP, Si, Sなどは, ステンレス鋼で割れの生成を促進させるといわれている. 歯科用合金のレーザ溶接部の割れも合金組成と深い関係があると考えられる. そこで, 歯科用合金のなかでもクラウンブリッジ用, 陶材焼付け用および金属床用として広く用いられているNi-Cr合金を対象とし, 市販および試作のNi-Cr合金を用いて, パルスYAGレーザ照射によるスポット溶融部の割れの発生に及ぼす合金組成の影響を明らかにする目的で, 実験を行った. その内容は, レーザ照射した23種の試験材の光学顕微鏡および電子顕微鏡観察, さらに元素分析, 熱分析である. そして, 次のような結果を得た. 1) Ni-Cr合金のレーザスポット溶融部に発生する割れは, 結晶粒界に発生した凝固割れであることが判明した. 2) 市販歯科用Ni-Cr合金のレーザスポット溶接では, 実験に用いた12種のうち1種を除いてすべてに割れが発生した. 3) 市販Ni-Cr合金は, 一般に共晶凝固し, 液相線温度と共晶線温度との温度差が大きいほど割れが発生しやすかった. とくに, その差が200℃以上で割れが発生しやすかった. 4) ほとんどの市販Ni-Cr合金では, 微量添加元素や不純物として含有しているSi, S, Alなどの元素が粒界に濃化した低融点の共晶をつくり, 凝固温度範囲を広げ割れが発生しやすいと考えられた. しかし, Nbを数%含有する市販合金の場合, 融点の比較的高いNbの濃化した共晶をつくることによって, 凝固温度範囲が狭くなり割れが発生しなかったと考えられた. 5) 試作Ni-Cr二元合金の割れは, Cr含有量が10%以下および50%の共晶点付近の組成では発生せず, 15%から40%で発生した. 6) 試作Ni-Cr合金では, SおよびSiは割れの発生を促進した. 逆に, Mnは割れの発生を抑制する効果が認められた. SおよびSiは, 微量な含有量で粒界に偏析し, 割れの発生を促進するものと考えられた. これに対しMnはSと化合し高融点の介在物をつくるため, 割れの発生を抑制すると考えられた. 以上をまとめると, Ni-Cr合金のレーザスポット溶接部に発生する割れは凝固割れであった. 原因は, 市販合金のように添加元素もしくは不純物元素が多く共晶量の多い場合は, 含有しているSi, AlおよびSなどが結晶粒界に濃化した低融点の共晶をつくり凝固温度範囲を広げるためである. また, 試作二元合金のようにCr以外の添加元素がなく共晶量が少ない合金の場合は, SおよびSiが低融点の介在物を結晶粒界に生成し, 凝固温度範囲を広げるためである. したがって, 割れを防止するためには, 低融点の介在物を生成する元素を減少させるか, MnやNbのように共晶 (介在物) が高融点となるような元素を添加する必要がある.
  • 犬伏 俊嗣
    原稿種別: 本文
    1990 年53 巻2 号 p. g83-g84
    発行日: 1990/04/25
    公開日: 2017/02/20
    ジャーナル フリー
    歯の移動に関する研究で, 脈管系の変化と歯周組織改造の密接な関係が論じられてきたが, 歯の移動の初期における歯周組織血流量の変化と組織変化に関する研究は非常に少なく, 1969年近藤が行った歯根膜循環動態に関する研究のみである. そこで本研究において, 著者は矯正力を加えたときにおける歯周組織の初期血流量の変化と, その変化を生み出す力が歯周組織の改造におよぼす影響に着目した. 本研究の目的は, 歯の移動時における圧迫部の歯周組織での初期血流量変化と組織変化との関係を検索することである. 実験材料および方法 体重220〜250g雄性ウイスター系ラット97匹を用いた. それらを歯肉血流量測定群, 歯根膜血流量測定群および組織検索群に分けた. 歯肉血流量はHe-Neレーザードップラー血流計で, 歯根膜血流量は水素クリアランス法で測定した. 血流量は, 3種類の厚さの異なるゴムをラット上顎左側第一臼歯と第二臼歯の歯間部にWaldoの方法で挿入し測定した. また加力後, 6時間, 12時間, 24時間, 48時間, 72時間について標本を作製し, 光学顕微鏡写真を用いて上顎第一臼歯の近心根近心面の歯槽頂縁より600μmの距離における骨梁の吸収面距離および活性吸収面距離の割合, 吸収窩数, および破骨細胞数を量的に検討した. 破骨細胞については酵素組織染色 (acid phosphataseやtartrate-resistant acid phosphatase染色) を施して観察した. 結果 1. 歯肉血流量測定 (He-Neレーザー血流計による) 1) 厚さ0.65, 1.0, 1.5mmのゴム挿入後, それぞれ平均8.8%, 11.1%, 13.6%血流量が減少した. 2) 血流量最減少点に至るまでの時間はそれぞれ60秒, 50秒, 35秒であった. 3) 血流量最減少点からもとの血流量に復帰するまでの時間は, それぞれ3分, 4分, 13分であった. 2. 歯根膜血流量測定 (水素クリアランス法による) 厚さ0.65, 1.0, 1.5mmのゴム挿入後, それぞれ平均12.9%, 24.4%, 32.0%血流量が減少した. 3. 組織学的所見 1) 圧迫部に加わる力が大きいほど破骨細胞や吸収窩の数が増加し, 硝子様変性の出現時期が早く, 広範囲におよんだ. 2) 歯根吸収は力が大きいほど多くみられたが, 力が小さくても観察された. 3) 破骨細胞は毛細血管の近辺や骨髄中に多くみられ, その細胞膜を介して赤血球や毛細血管の形質膜に接している状態が観察された. 以上の結果から, 力の大きさを血流量の変化としてとらえ, 血流量の変化から力の大きさを推定できた.
  • 尾辻 淳
    原稿種別: 本文
    1990 年53 巻2 号 p. g85-g86
    発行日: 1990/04/25
    公開日: 2017/02/20
    ジャーナル フリー
    フッ化物局所応用法の効果をより高めるためには, 作用後のエナメル質へ短時間に多量のフッ素を安定な型で取り込ませることである. 一方, イオン導入を用いたフッ化物歯面塗布法は, 広く応用されているにもかかわらず, 通法の塗布法に比較して有効であるかどうかについての基礎的データが乏しく, 効果に対して一定の見解が示されないままに行われている. そこで著者は, フッ素イオン導入法の原理を応用してエナメル質にフッ素を作用させることが, エナメル質に安定な型のフッ素を供給する方法として有効であるかを検討した. すなわち, in vitroにおいてリークを起こさないように通電下でエナメル質にフッ化物溶液を作用し, エナメル質へのフッ素の取り込みおよびフッ素の保持について検索した. 実験にはウシエナメル質を用い, 作用溶液としてpH5.0に調整した2%NaF溶液を用いた. 作用方法は可変式直流安定化電源装置の両端子間にエナメル質とフッ化物溶液を置き, 電流量を50μA, 100μAおよび200μAにそれぞれ変化させて行った. また, 作用時間を2分間, 4分間および4分間3日連日作用で行った. 作用後10分間水洗し, 人工唾液中に30分間, 24時間および1週間保存した. さらに作用後のエナメル質を1M KOH溶液中で24時間洗浄した. エナメル質表層フッ素の取り込みは, 0.5M HClO_4溶液を用いた4回連続脱灰により層別に分析を行った. 一定深さでのフッ素量を算定するために, 測定したフッ素量とエナメル質表層からの深さの関係から回帰式を表わし, 表層からの深さ5μmおよび10μmでの推定フッ素濃度を算定した. 以上の実験条件により, 次の結果を得た. 1) エナメル質表層フッ素濃度の経時的変化は作用時間および通電条件にかかわりなく作用直後が高く作用後24時間にかけて急激に減少し, 以後1週間までゆるやかに減少するか, またはほとんど変化せずに推移した. 2) エナメル質表層5μmおよび10μmのフッ素濃度は, 作用後の各時期で通電せずに作用した場合に比べ, 通電下で作用した場合に明らかに高くなり, また電流量が増加するほどフッ素濃度が高くなることが認められた. このことから, 通電下で作用することがエナメル質へのフッ素の取り込み量の増大, エナメル質深部へのフッ素の浸透およびフッ素の保持に効果的であることが明らかになった. 3) 通電下で2分間作用した場合のエナメル質表層フッ素濃度は, 通電せずに4分間作用した場合に比べ, 作用後の各時期で高くなることが認められた. このことから, 作用時間を短縮しても作用時に通電することにより, 同等あるいはそれ以上のフッ素取り込み量および保持量が得られることが示唆された. 4) エナメル質表層のKOH不溶性フッ素濃度は, 洗浄前に比べ約1/3程度に減少したが, 通電下で作用した場合には, 通電せずに作用した場合に比べ明らかに高く, また電流量の増加および作用時間を延長することにより高くなることが認められた. このことから, 通電下で作用した場合には安定な型でのフッ素の取り込みが増大することが示唆された. 以上のことから, NaF溶液をエナメル質に作用する場合には, 通電下で実施することがエナメル質表層へのフッ素の取り込みおよび保持に影響を与える因子であることが明確となった.
feedback
Top