義歯を使用する高齢者の健康維持には,補綴装置を清潔な状態に保つことが重要である.その一助となる基礎的検討として,補綴装置に対する汚れの付着メカニズムの理解が有用となる可能性がある.我々は補綴装置に付着する汚れの付着メカニズムの解明のため,共振周波数の減少量から物質の吸着量を経時的に測定できるQuartz Crystal Microbalance(QCM)システムを使用し,義歯に対する汚れの吸着挙動を検討してきた.本研究では,汚染物質として義歯洗浄剤の開発で汚れの指標として用いられる牛脂汚垢を使用し,義歯床に対する牛脂汚垢の吸着挙動に関して比較・検討することを目的とした.
市販のAu QCMセンサ(initium社製)にポリメチルメタクリレート(PMMA)を成膜してPMMA QCMセンサを作製した.まず,QCMセンサの表面を走査型プローブ顕微鏡およびX線光電子分光分析装置で観察した.また,QCM装置(AffinixQNμ: Initium,東京,日本)を使用し,Au QCMセンサおよびPMMA QCMセンサにおける牛脂汚垢付着量を定量化した.
PMMA QCMセンサを表面解析したところ,Auセンサ表面にPMMAが均一に成膜されていることが明らかとなった.また,QCM測定結果では,AuとPMMA QCMセンサともに,牛脂汚垢滴下直後より共振周波数の減少が見られ,センサ表面上に牛脂汚垢の付着を認めた.滴下30分後の共振周波数の減少量をSauerbreyの公式にあてはめた結果,Au QCMセンサでは約60.64ng cm-2, PMMA QCMセンサでは約1271.1ng cm-2となり,PMMA QCMセンサはAu QCMセンサと比較して,牛脂汚垢付着量が有意に多かった.以上の結果より,義歯床用レジンには,過去に明らかとされている他の因子と同様に,牛脂汚垢も付着しやすいことが明らかとなった.
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