歯科医学
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57 巻, 1 号
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  • 久米 満, 福島 久典
    原稿種別: 本文
    1994 年57 巻1 号 p. 1-16
    発行日: 1994/02/25
    公開日: 2017/03/06
    ジャーナル フリー
     Methicillin-resistant, coagulase-negative staphylococci (MRCNS) の病原性状を知る目的で, 上皮細胞への付着性, 赤血球凝集性, 酵素産生性および enterotoxin 産生性について検討した.
     すべての菌株が上皮細胞への付着性を示した. Mannitol 発酵株では, 1細胞あたりの平均付着菌数は331.5個であった. 一方, mannitol 非発酵株では, 病院環境, ヒト鼻粘膜由来の双方とも供試菌株の50%以上が, 1細胞あたり500個以上の付着性を示した. これらの値は, mannitol 発酵株, 非発酵株ともこれまで報告されている methicillin-resistant Staphylococcus aureus (MRSA) の付着性よりもはるかに高く, 付着性の面からは, MRCNSは MRSAより病原性が強いと考えられる.
     上皮細胞に対して強い付着性と弱い付着性を示す菌株を選び, 表層構造を比較した結果, 両グループとも線毛様構造がみられる菌株や表層構造に凹凸が多い菌株などが観察された. しかし, それぞれのグループで特徴のある形態を見いだすことはできなかった. また, 両グループの赤血球凝集性を比較したところ, 両者の間に明瞭な相違は認められなかった. これらの結果は, MRCNSの上皮細胞への付着性と赤血球凝集性とが異なる因子によって仲介されていることを示唆している.
     MRCNSの加水分解酵素産生性を検討した結果, lecithinase, lipase, DNase, β-lactamase あるいは hyaluronidase を産生する菌株がみられた. 病院環境由来株, ヒト鼻粘膜由来株ともに, mannitol 発酵株と非発酵株との間で酵素産生性が異なっていた. Mannitol 発酵株では hyaluronidase 産生株がみられたのに対し, 非発酵株ではみられず, 逆に, mannitol 非発酵株では50%以上の菌株が lecithinase を産生したのに対し, 発酵株では産生しなかった.
     以上の結果から, MRCNS には MRSA に匹敵する病原性があると推定される.
  • 伊藤 康夫, 尾上 孝利
    原稿種別: 本文
    1994 年57 巻1 号 p. 17-38
    発行日: 1994/02/25
    公開日: 2017/03/06
    ジャーナル フリー
     感染による宿主内細菌の微細構造変化を知るため Prevotella intermedia 細胞の in vitro での正常像を観察した. 供試菌は P. intermedia の標準株2株と臨床分離株6株および Porphyromonas gingivalis の標準株1株を用いた. 電子顕微鏡試料は, broth 法, 菌液を寒天培地に滴下する方法および血液寒天培地上の集落を固定する方法で作製した. 固定は GA-OsO4法, Kellenberger-Ryter法 (KR法), 1%タンニン酸加GAとOsO4(TA法), ルテニウムレッド加GAとOsO4 (Ru法), 凍結置換法(FS法)で行った. 試料をGA-OsO4法とKR法で固定して観察すると, 標準株細胞の表層構造は細胞膜, ぺリプラズム間隙, ペプチドグリカン層, ぺリプラズム間隙, 外膜, 電子密度の高い層および線維状構造層からなり, 小胆も観察された. FS法では, ぺリプラズミックゲルが全供試菌株のべリプラズム間隙に詰まっていた. Ru法, TA法およびFS法では, 最外層の線維状構造層と外膜外側の電子密度の高い層が, FS法およびKR法では細胞質が良好に固定された.
     以上の結果から, P. intermedia 細胞の表層は二重固定法とKR法では7層から, FS法では5層からなり, 各構造の正確な幅は FS法で得られるものと考えられる. ぺリプラズミックゲルの所見は, P. intermediaP. gingivalis 細胞のべリプラズム間隙全体にペプチドグリカンが分散して存在することを示唆している.
  • 福地 健秀
    原稿種別: 本文
    1994 年57 巻1 号 p. 39-50
    発行日: 1994/02/25
    公開日: 2017/03/06
    ジャーナル フリー
     界面活性剤含有歯磨剤の使用時に認められるように, 口腔内環境下では, 界面活性剤とタンパク質とはエナメル質表面に対して競争吸着状態にある. そこで, 歯磨剤中の表面活性剤よりもその表面活性の高いフッ素系界面活性剤 (FSA) とタンパク質とが合成ハイドロキシアパタイト (HAp) に対してどのように競争吸着するか, 界面電気化学的に検討した.
     FSAには極性の異なる6種類を, またタンパク質には酸性のヒト血清アルブミン (HSA) および塩基性のサケプロタミン (PR) を用いた. 各FSA溶液 (濃度: 1×10-4 および 1×10-2 vol%) と種々の濃度の各タンパク質との混合溶液の表面張力および混合溶液中の HAp のゼーター電位を測定した.
     FSA・タンパク質混合溶液におけるタンパク質濃度増加に伴う表面張力の変動パターンは, FSA 濃度 1×10-4 vol% ではタンパク質単独溶液における変動曲線とほぼ近似したが, FSA濃度 1×10-2 vol% では3つのタイプに分かれた. すなわち, タンパク質濃度の増加に伴って表面張力が, 1) タンパク質単独溶液における値に近づくもの, 2) 低下してタンパク質濃度がある値以上になると, 一定値を示すもの, および 3) 逆に上昇するが, 以後は 2) の場合と同様の成績を示すものである. FSA・タンパク質混合溶液中における HAp のゼーター電位の変動は, どの混合溶液においても, タンパク質単独溶液における場合と近似している.
     以上のことから, HAP への FSA とタンパク質との競争吸着は, HAp 表面にタンパク質が優先的に, ついで FSA が吸着するか, あるいは FSA とタンパク質との複合活性体が吸着するか, そのどちらかであるとの結論が得られた.
  • 藤田 厚, 井田 勝康, 八竹 利明, 菅波 秀穂, 尾上 雄平, 諸頭 智彦
    原稿種別: 本文
    1994 年57 巻1 号 p. 51-57
    発行日: 1994/02/25
    公開日: 2017/03/06
    ジャーナル フリー
     老化病態の早期自然発症を特徴とするマウス系 (SAMP8) と正常に老化するマウス系 (SAMR1) を用いて, 頭蓋骨コラーゲンの加齢変化を知る一つの試みとして, 生化学的検索を行った. 頭蓋骨可溶性コラーゲンの中性塩溶媒による抽出率は, 両系統とも加齢に伴って低下し, とくに SAMP8 の37週齢での低下は顕著であった. また, 酸溶媒による抽出率は両系統ともほぼ一定値で推移した. 頭蓋骨不溶性コラーゲン中のヒドロキシプロリン量は, 両系統とも加齢に伴って減少傾向を示した. プロリン水酸化率は, 両系統とも加齢変化をほとんど示さなかったが, リジン水酸化率は加齢に伴って SAMR1 ではゆるやかな低下, SAMP8 では17週齢で急激な低下を示し, 37週齢で両系統の値は同程度となった. ピリジノリン量は, 両系統マウスとも加齢に伴って増加したが, SAMP8 は同週齢の SAMR1 に比べ同程度か, つねに多かった.
     以上の結果から, SAMP8 に認められた加齢に伴う中性塩溶媒による可溶性コラーゲンの抽出率の低下, リジン水酸化率の低下およびピリジノリン量の増加傾向は, 正常な熟成あるいは加齢段階を早める方向へ進んでいることを示唆している.
  • 寺村 美千代
    原稿種別: 本文
    1994 年57 巻1 号 p. 58-75
    発行日: 1994/02/25
    公開日: 2017/03/06
    ジャーナル フリー
     咀嚼力の動態を観察するため, 咀嚼力測定用センサを根管治療済みの下顎第一大臼歯に組み込み, 咀嚼力の3次元的な発現様相を MKG 下顎切歯点運動とともに記録した. 咀嚼開始の第1ストロークから嚥下までの全ストロークを分析対象として, 咀嚼の時期により変化する咀嚼力の様相を各分力と合力のピーク値, 力積, 持続時間および咀嚼カベクトルの変化から観察した.
     咀嚼の進行に伴う食品の破砕につれて, 咀嚼力の合力と各分力は, そのピーク値や力積, 持続時間を含めて減少する傾向を示した. そして, 咀嚼の初期では垂直成分が多く発揮され, 咀嚼の進行とともに, 側方成分の比率が増加して, 食品を効率よく咀嚼していると考えられた. 一方, 各側方力は, 垂直力の1/4から1/30と小さく, 経時的には垂直力にみられるような大きな変化は示さなかった.
     咀嚼の1ストロークにおける咀嚼力を咀嚼カベクトルで観察すると, とくに咀嚼初期で, 閉口相終末の crushing phase での大きな垂直力の発現に伴って, 咀嚼力は直線的に垂直方向であることが認められた. このことは, 下顎の作業側移動に伴う下顎の安定と咀嚼効率に関連しており, さらに歯根膜の鋭敏な感覚が歯に加わるカの大きさと方向を感受し, 過大な側方力の発生を防ぐように顎運動をコントロールしている可能性が示唆された. 一方, 咬合相では, crushing phase での粉砕に対して, 咬合面形態の影響を受け, ベクトルの方向の変動が大きくなり側方圧が発現する臼磨様運動を行っている様相が推察された.
     以上より, 咀嚼の進行とともに食品の性状の変化と呼応して, 咀嚼力の発現が変化する様相が明らかとなった. また, 1ストローク中においても咀嚼運動における粉砕と臼磨というそれぞれの役割に応じた2つの咀嚼力発現様式が区分され, 有効に咀嚼機能が営まれていることが示唆された.
大阪歯科学会例会抄録
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