歯科医学
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56 巻, 2 号
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  • 三谷 徹
    原稿種別: 本文
    1993 年 56 巻 2 号 p. 121-133
    発行日: 1993/04/25
    公開日: 2017/03/02
    ジャーナル フリー
     ヒト上顎犬歯への圧刺激による下顎開閉口運動路の変化を分析することで, 歯根膜情報の統合的な顎筋活動への影響を検討した.
     顎関節や咀嚼筋に異常を訴えない正常有歯顎者を被検者(22〜28歳)として, 歯の接触のない習慣的な下顎の連続開閉口運動を行わせた. 負荷条件として, 右側または左側の上顎犬歯に口蓋側から唇側の方向(D1)および唇側から口蓋側の方向(D2)の2種類の圧刺激を持続的に加えた. 被検者16名について, 圧刺激量を約700〜800gfとした場合の下顎開閉口運動路の変化を圧刺激を加えないときの開閉口運動と比較し, また開口距離の違い, 閉口時における咬合接触の有無の影響も検討した.さらに被検者5名について被検運動中に9種類(0〜500gf)の圧刺激量を無作為に選択して,それぞれ持続的に加えた場合の変動も観察した.
     その結果, 歯への圧刺激によって下顎開閉口運動路は, 側方的には圧刺激側偏位, 前後的には前方への偏位という一定の傾向が明らかとなった. この傾向は, 開口量の増大や, 咬合接触付与によって有意に小さくなった. また500gf以下の荷重をD2方向に加えた場合には, 運動路は圧刺激側への偏位傾向を示したが, D1方向では逆に非圧刺激側へ有意に偏位し, さらに前後的な偏位ではいずれの圧刺激方向でも前方に偏位する傾向を示した. なお圧刺激量の減少に伴い, D1およびD2ともに側方偏位量は有意に小さくなった.
     以上のことから, ヒ卜の上顎犬歯への加圧は, 刺激方向や刺激量の違いによって開閉口路に側方および前後的な一定の変化を惹起することがわかった. すなわち歯への圧刺激による歯根膜機械受容器からの求心性情報は, 下顎開閉口運動中の統合的な顎筋群の活動に鋭敏な影響を及ぼすことが明らかとなった.
  • 傅 瑞民, 樋口 裕一
    原稿種別: 本文
    1993 年 56 巻 2 号 p. 134-146
    発行日: 1993/04/25
    公開日: 2017/03/02
    ジャーナル フリー
     顎関節グリコサミノグリカン(GAG)の加齢に伴う動態を知る目的で, 3, 5, 10, 15, 30および50週齢のラット顎関節におけるGAGの局在を組織化学的および免疫組織化学的に観察するとともに, 顎関節におけるGAGを抽出し生化学的分析を行った.
     その結果, 組織化学および免疫組織化学的には, 下顎頭, 下顎窩および関節円板にヒアルロン酸, コンドロイチン硫酸, デルマタン硫酸およびケラタン硫酸の局在が観察された. 加齢に伴ってコンドロイチン硫酸に対する反応は減弱し, デルマタン硫酸およびケラタン硫酸に対する反応は増加した. しかし, ヒアルロン酸の加齢に伴う変化は明らかでなかった. 一方, 生化学的には, ヒアルロン酸, コンドロイチン硫酸, デルマタン硫酸およびケラタン硫酸が同定された. 3週齢と50週齢のGAGの構成比率を比較すると, 総GAGの主体をなすコンドロイチン硫酸は66.8%から53.2%に, ヒアルロン酸は22.6%から14.3%にそれぞれ低下し, デルマタン硫酸は6.4%から14.4%に, ケラタン硫酸は4.2%から18.1%に上昇した. また, 組織乾燥重量あたりのGAG量(ウロン酸量)は加齢に伴って3.0μg/mgから0.9μg/mgへと減少した.
     以上の結果は, 顎関節組織が加齢とともに弾性を失い, 圧負担に対する緩衝能力を減弱させていくことを示唆すると考える.
  • 磯貝 知一, 伊﨑 克弥
    原稿種別: 本文
    1993 年 56 巻 2 号 p. 147-158
    発行日: 1993/04/25
    公開日: 2017/03/02
    ジャーナル フリー
     乳歯列から混合歯列を経て, 永久歯列ヘ変遷することに伴うヒトの咀嚼運動経路のパターンの相違を解明する目的で研究を行った.
     まず, 小児における同一個人の乳歯列期および上下顎第一大臼歯萌出が完了した混合歯列期での咀嚼運動経路の相違を比較し, さらに, 乳歯列期小児群(乳歯列期)および混合歯列期小児群(混合歯列期)の平均的な咀嚼運動経路を成人有歯顎者群(成人)と比較し, その総括的な特徴を検討した.
     被験者は, 個性正常咬合を有する乳歯列期小児10名で, そのうち6名は, 上下顎第一大臼歯萌出完了期にも実験を行った. また, コントロールとして成人10名についても測定を行った. 被験食品にはカマボコ, 計測にはMKG-K6システムを用いた.
     その結果, 同一個人の乳歯列期から混合歯列期への変化としては, 開口相時間が長く(短く)なると, 閉口相時間およびサイクルタイムも長く(短く)なった. また, 最大開口距離, 最大前後移動距離, 最大開口速度および最大閉口速度は増加傾向にあったが, 最大側方移動距離は著しく減少した.
     一般的な特徴としては, 小児の咀嚼運動経路は, 乳歯列期, 混合歯列期ともに, 成人に比べて, 開口相時間, 閉口相時間, 咬みしめ時間, サイクルタイムには有意な差はなかったが, 最大開口距離, 最大前後移動距離, 最大開口速度および最大閉口速度は小さかった. また, 最大側方移動距離は混合歯列期と成人とではほぼ同じであり, 乳歯列期ではこれら両者よりも大きかった.
     以上のことから, ヒトの咀嚼運動経路は, 乳歯列期から混合歯列期へと成長するにつれて, 個体差が認められるが, 全体的には, 成人に近づく傾向にあった. しかし, 混合歯列期では最大側方移動距離だけは, 各個人とも大きく減少し, 全体として成人に近い値をとることが明らかになった.
  • 坂井田 藤芳, 末瀬 一彦
    原稿種別: 本文
    1993 年 56 巻 2 号 p. 159-192
    発行日: 1993/04/25
    公開日: 2017/03/02
    ジャーナル フリー
     リン酸カルシウム系結晶化ガラスは, 塑性変形によって過大な応力集中を緩和する機構を備えていないため, 歯冠修復物として口腔内で十分な機能を営むには, クラウン内における局所的な応力集中を可及的に避けるような力学的配慮が必要である.
     そこで, 荷重下における結晶化ガラス・クラウンの力学的挙動を把握することを目的として, 荷重の部位および方向, クラウン辺縁部の厚さ, 支台築造材料および合着セメントの種類を変えた条件下で有限要素法による応力解析を試みるとともに, 結晶化ガラスの支台築造材料に対する接着強さについて検討した.
    1)  水平荷重時にクラウン内に生じた応力は垂直荷重時の場合よりも大きく, 荷重側のクラウン内面には引っ張り応力が発現した.
    2)  クラウン辺縁部の厚さが増大すれば, クラウン内に生じた応力は減少したが, 修復歯全体の曲げ変形は大きくなった.
    3) クラウン内に生じた応力分布傾向は支台築造材料の種類によって異なった. すなわち, 天然歯支台に比べ, 金属支台では荷重直下のクラウン内の限局した部位に, またコンポジットレジン支台ではメタルポスト部に応力が集中した.
    4) 軟性セメントで合着した場合, 荷重直下のクラウン内面ならびに頬側および舌側の外側面に強い引っ張り応力が生じた.
    5) 結晶化ガラスと支台築造材料との接着強さは, コンポジットレジンより合金のほうが, また結晶化ガラス面にプライマー処理を行ったほうが良好であった.
      以上の結果から, 結晶化ガラス・クラウンが長期間口腔内で機能を発揮するためには剛性の大きな支台築造材料を用い, クラウンと支台築造材料との複合一体化を図ることが望ましい.
大阪歯科学会例会抄録
  • 辻 一郎, 好川 正孝, 戸田 忠夫
    原稿種別: 本文
    1993 年 56 巻 2 号 p. 193-194
    発行日: 1993/04/25
    公開日: 2017/03/02
    ジャーナル フリー
    We investigated the physical properties and tissue response to canal sealer pastes prepared of an equimolar mixture of tetracalcium phosphate and dicalcium phosphate dihydrate in McIlvaine's buffer solution containing 2.5 or 5.0% chondroitin sulfate A sodium salt. The pastes had a pH of about 8.5 immediately after kneading, their solubilities were 1.9 and 1.2%, respectively, and they displayed good sealing ability. Histologic examination revealed encapsulation and few inflammatory cells around the subcutaneously implanted pastes. Commercially available apatite sealer and zinc oxide eugenol sealer were encapsulated by thick fibrous tissue with many inflammatory cells. The prepared pastes promoted remineralization of alveolar bone in the periapical lesion better than commercially available sealers.
  • 江龍 多美子, 尾上 孝利, 佐川 寛典
    原稿種別: 本文
    1993 年 56 巻 2 号 p. 194-195
    発行日: 1993/04/25
    公開日: 2017/03/02
    ジャーナル フリー
    We evaluated β-lactamase activity in β-lactam antibiotic-resistant strains of Prevotella intermedia by microiodometric assay of β-lactamase. β-Lactamase activity of ten oral strains was 0.004〜0.0074U/ml against ampicillin, and 0.0035〜0.0046U/ml against cefazolin. Although these enzymes resolved cephalo-ridine and cefuroxime, their resolution of imipenem, latamoxef and aztreonam was different for each strain. Penicillin G and cephalexin induced production of β-lactamase in one strain tested, but not in two others. We concluded that constitutive β-lactamase produced by β-lactam antibiotic-resistant strains of P. intermedia plays an important role in this resistance mechanism, and that these enzymes are oxyiminocephalo-sporinase.
  • 由良 博, 尾上 孝利, 佐川 寛典
    原稿種別: 本文
    1993 年 56 巻 2 号 p. 195-196
    発行日: 1993/04/25
    公開日: 2017/03/02
    ジャーナル フリー
    We examined scanning electron micrographs using Prevotella intermedia cells isolated from infectious oral diseases. Cell fringes were observed after staining with uranyl acetate. Scales on the cell surface could be clearly observed on samples fixed with glutaraldehyde and OsO_4. Fluffy structures were rarely observed on the surface of the various strains. Bacterial cells adhered to the surface of aluminum foil by string like structures. However, bacterial cells that adhered to red blood cells did not have these structures. The number of scales on the cell surface in freeze substitution samples was less than that for the double fixation samples. Freeze substituted cells were covered with viscous material and secretions during incubation, but fluffy structures were not observed. We found the freeze substitution method better than other techniques for observing cell surfaces that are very close to fresh cells.
  • 魚部 健市
    原稿種別: 本文
    1993 年 56 巻 2 号 p. 197-198
    発行日: 1993/04/25
    公開日: 2017/03/02
    ジャーナル フリー
    Monoclonal antibodies against human oral squamous cell carcinoma transplanted into nude mice were produced and a λ gt11 cDNA library was constructed from its mRNA extracts. Carcinoma homogenate was used as immunogen and electrofusion was carried out with pulses of 1.0-3.5 kV/cm. Antibody production was immunohistochemically screened by treating sections of transplanted tumor with a complex mixture consisting of three components; hybridoma supernatant, biotin-labeled anti-mouse Igs, and normal mouse serum. Extracted mRNA was used to prepare an oligo dT primed cDNA library. One hundred percent hybridoma formation was observed at certain pulse amplitudes and 2.3% of the hybridoma immunoreacted with the transplanted tumor. A total of 1.2×10^7 independent clones were obtained in the library and the insert sizes were 0.6-1.6 kbp. These techniques may provide pathologists with new methods of obtaining valuable diagnostic markers.
  • 徳永 徹, 田中 昌博, 川添 堯彬, 柏木 宏介
    原稿種別: 本文
    1993 年 56 巻 2 号 p. 198-199
    発行日: 1993/04/25
    公開日: 2017/03/02
    ジャーナル フリー
    Surface electromyographic (EMG) patterns for the masseter, temporal and digastric muscles were investigated during gum chewing. In order to reduce inter- and intra-individual variability, time averaging of each rectified EMG over each chewing stroke was accomplished by normalizing stroke period (maximum opening to maximum opening) to 100% and then averaging the selected stroke at 0.3% intervals. Each muscle had a longer duration of EMG activity during the early stage of gum chewing. The duration shortened as chewing progressed. A wide range of peak amplitude was seen for the EMG profile from the masseter during contralateral chewing. These profiles can be developed for use in diagnosis of temporomandibular disorders.
  • 龍田 修, 井関 富雄, 白数 力也, 山田 耕治
    原稿種別: 本文
    1993 年 56 巻 2 号 p. 199-200
    発行日: 1993/04/25
    公開日: 2017/03/02
    ジャーナル フリー
    The present study was designed to evaluate postoperative dysfunction following glossectomy in 21 cases of tongue cancer. 1. Speech intelligibility of 100 Japanese monosylables was significantly decreased in the patients with hemiglossectomy. There were significant articulatory disorders in alveolar, palatal and velar sounds. 2. Patients with hemiglossectomy could not touch the tip of the tongue to the hard palate. There were significant disorders in tongue movement to the intact side, and considerable difficulties with speech, mastication and swallowing. Regardless of how reconstruction surgery was carried out, it was clear that glossectomy of more than one half of the tongue created significant functional problems.
博士論文内容要旨および論文審査結果要旨
  • 榊 敏男
    原稿種別: 本文
    1993 年 56 巻 2 号 p. g41-g42
    発行日: 1993/04/25
    公開日: 2017/03/02
    ジャーナル フリー
    細胞が互いに接着する性質は組織の構築と機能の維持に必須である. 正常組織では細胞同士が強固に接着しており, 細胞間の接着が失われることはきわめて少ない. 上皮組織においては, Ca^<2+>依存性接着分子のE-カドヘリンの機能発現によって細胞間の接着が保たれ, 組織としての構築と維持が行われている. それに対して, 癌組織にみられる浸潤・転移という行動は異常なもので, それらの行動の最初のステップは, 細胞間接着能を消失あるいは減弱した癌細胞の脱離によって起こる. 一方, 細胞外マトリックスの特殊化によって上皮-間質間に形成される基底膜は, 正常組織でも, 癌組織でも濾過機能を果たしながら組織の発育, 再生および形態維持に関与している. このような背景から,本研究では, IV型コラーゲンを基底膜の指標として, 癌の進展に伴うIV型コラーゲンとE-カドヘリン接着分子の発現変化の関連を明らかにするため, ヒト歯肉偏平上皮癌ヌードマウス移植系(GK-1)を用いて免疫組織化学的な検索を行った. なお, 免疫染色の対照には臨床的健全歯肉を用いた. BrdUに対する標識指数は移植後7週目の癌組織で最も高く, その後経週的な低下を示したので, 癌組織はこの指数を基礎に移植後5週, 7週, 10週および15週の4期に分けて免疫染色を行った. 染色対照の歯肉では, カドヘリンは有棘細胞の全周と基底膜と接する部位を除く基底細胞の周囲に強く発現し, IV型コラーゲンは上皮-間質間と血管壁に連続性を保って強く発現した. GK-1においては, カドヘリンは移植後5週目で癌細胞周囲に強く発現し, その強度は胞巣外に浸潤している細胞よりも胞巣内の細胞で強かった. S期の細胞画分が最も多い移植後7週目の癌組織では, カドヘリンの発現は著しく低下し, なかには発現を消失している細胞もみられた. 移植後10週目になると, カドヘリンは移植後5週目の癌組織よりも多くの細胞で強く発現するようになり, 15週目ではその傾向がさらに著明になった. しかし, 10および15週目の癌組織においても, カドヘリンは個々の細胞で不安定な発現を示した. 一方, GK-1におけるIV型コラーゲンは胞巣の基底膜と血管壁に発現したが, 基底膜における発現はカドヘリンの活性低下に対応して弱くなり, かつ不連続性を増すようになった. カドヘリンの活性が増大するとそれに対応してIV型コラーゲンの発現は強くなり, 不連続性を示す部分も少なくなった. 以上の結果から,癌細胞間の接着活性の減弱を示すE-カドヘリン発現の低下と宿主細胞に由来する基底膜の破壊を示すIV型コラーゲンの不連続的な発現は, 癌細胞の浸潤増殖や転移と密接に関与している所見と考えられる.
  • 篠田 豊
    原稿種別: 本文
    1993 年 56 巻 2 号 p. g43-g44
    発行日: 1993/04/25
    公開日: 2017/03/02
    ジャーナル フリー
    糖尿病性細小血管症は, 高血糖状態に基づく各種代謝異常に起因して全身の諸臓器の細小血管に生ずる糖尿病特有の臓器障害と考えられ, 臨床的にはおもに糖尿病性腎症および網膜症として発現する. 病理組織学的には基底膜の肥厚が共通した病変として認められる. 基底膜の主要な構成成分は, IV型コラーゲンやラミニン, フィブロネクチンなどの糖蛋白であるが, その局在の変化については, 糖尿病性腎症の糸球体基底膜やメサンギウム領域において検討されている. 糖尿病における口腔領域の随伴症としては, 歯周疾患や感染症の頻度の上昇や重篤化, また術後の易感染性などが報告されている. これらの原因として, 基底膜肥厚に伴う血管透過性の変化や白血球機能の低下などがあげられているが, 未だ明確な根拠は明らかになっていない. また口腔粘膜においては糖尿病性細小血管症に起因する毛細血管基底膜の肥厚が確認されているが, 肥厚した基底膜の構成成分について超微構造的に検討した報告はなされていない. そこで本研究では, ストレプトゾトシン誘発糖尿病ラットの歯肉毛細血管における基底膜物質の局在を明らかにする目的で, IV型コラーゲンおよびラミニンについて免疫組織化学的に検索するとともに, 糖尿病罹患期間による影響を検討した. 実験材料および方法 実験には, 生後6週齢のオス Wistar 系ラットを固形飼料で自由摂食させたものを用いた. ストレプトゾトシン60mg/kg投与により糖尿病を誘発し, 発症後4週, 12週, 24週, 36週および48週齢のものを糖尿病群として実験に供し, 対照群には同週齢の正常ラットを用いた. 4%パラホルムアルデヒド固定液で灌流固定したのち, 下顎臼歯部頬側歯肉を摘出し, 凍結切片を作製した. 電顕標本では浮遊法により, また光顕標本ではゼラチンスライド上で, ABC法を用いて免疫染色を行った. 一次抗体には抗ラットラミニンポリクローナル抗体およびIV型コラーゲンポリクローナル抗体(ともにChemicon社)を使用した. 電顕写真における各実験群の毛細血管基底膜の一次抗体反応陽性領域の厚径は, McEwenの毛細血管基底膜厚径測定法による画像解析を行い比較し, すなわち二値化した写真上の陽性部分の面積および周長を測定し, 面積を周長の1/2で割ったものを免疫反応陽性部分の厚径として比較した. 結果 歯肉毛細血管基底膜および歯肉基底膜に, ラミニンおよびIV型コラーゲン陽性部分を認めた. 糖尿病群および対照群ともに飼育期間とラミニン陽性部分の厚みとの間に相関はなく, ラミニンの経時的な変化は認められなかった. IV型コラーゲンについて, 対照群の陽性部分は増齢的に増加する傾向を示した. この傾向は糖尿病群でも同様で, IV型コラーゲン陽性部分の厚みは12週以降で有意に増加していた. 糖尿病群と同週齢の対照群を比較すると, 36週および48週で糖尿病群におけるIV型コラーゲンが有意に増加していた. すなわち糖尿病群では増齢によるIV型コラーゲンの増加に加えて, 糖尿病罹患期間に応じた病的なIV型コラーゲン沈着が生じていた. 結論 以上の結果より, 糖尿病性細小血管症の結果として起こる歯肉毛細血管基底膜の肥厚は, IV型コラーゲンの増加によるもので, ラミニンは関与しないものと考えられた.
  • 徳永 敦
    原稿種別: 本文
    1993 年 56 巻 2 号 p. g45-g46
    発行日: 1993/04/25
    公開日: 2017/03/02
    ジャーナル フリー
    三叉神経脊髄路核尾側亜核(TNC)には多数の神経ペプチドが分布し頭部, 顔面からの知覚の伝達およびその修飾に重要な役割を果たしていると考えられている. しかし, それらの機能の詳細は明らかにされていない. そこで本研究では, TNCに陽性細胞の認められる, dynorphin (Dyn), galanin (Gal), tachykinin (Tak), somatostatin (SOM), cholecystokinin (CCK) をとり上げ, 顔面の疼痛刺激に対してその産生がどのように変化するかをそれらの前駆体のmRNAを捕らえることにより検討した. また, オピオイドペプチドなどをコードしている標的遺伝子に働いてその転写を調節する因子としてprotooncogeneの一種であるc-fosが最近注目されているが, c-fos mRNAとその産物であるFosタンパク (Fos) についても同様の検討を加えた. 実験方法 約100gのWistar系雄性ラットの右上口唇にホルマリンを注入して疼痛刺激を与え, 10分〜48時間後に断頭し脳幹を摘出, 凍結切片を作製した. 次に, preprodynorphin (PPD), preprogalanin (PPG), βγ-preprotachykinin A (PPT), preprosomatostain (PPSS), preprocholecystokinin (PPCCK), c-fosのmRNA の特定の塩基配列に相補的な^<35>S標識合成オリゴヌクレオチドを作製した. これらのプローブを用い, 切片上でハイブリダイゼイションを施行し, オートラジオグラフィーにより観察した. また, ホルマリン注入30分〜6時間後, 灌流固定し脳幹を摘出, 凍結切片を作製し酵素抗体法によりFosを観察した. さらに, 右眼窩上部と右顎下部にホルマリン注入による刺激を与え, それぞれPPD mRNAとFosの分布についても観察した. 結果 コントロールラットのTNCではPPD, PPT, PPSS mRNAを発現する細胞は主としてI, II層に密に分布し, PPCCK mRNA発現細胞はIII, IV層に散在性に分布していた. PPG mRNAを発現する細胞はほとんど認めなかった. ホルマリン注入により, PPD, PPG, PPT mRNAは刺激側TNCのI, II層で増加を認め, 刺激後6時間までの増加が著しく, その後は減少を示し, 48時間後でも増加を認めた. さらに, PPD mRNAは対側でもわずかながら増加を示した. これに対し, PPSS mRNA, PPCCK mRNAは刺激側と対側で明らかな差を示さなかった. c-fos mRNAは刺激側TNCのI, II層で増加し, 刺激後1時間までの増加が著しく, 6時間後ではその発現を認めなかった. また, Fosは刺激後3時間までの増加が著しく, その後減少を示し6時間でも増加を認めた. PPD mRNAとFosは眼窩上部に刺激を加えた場合, 刺激側TNCの腹側で増加し, 顎下部に刺激を加えた場合, 背側で増加を認めた. 考察 疼痛刺激によりTNCにおいてPPD, PPG, PPT mRNAが増加したことによりDyn, Gal, Takが痛覚情報の伝達, あるいはその修飾に関与していることを示した. またこれらのmRNAの発現に先立って, かなり早期にc-fos mRNAが一過性に発現し, 痛覚情報の伝達, 修飾を担う神経ペプチドの遺伝子発現がFosにより調節されていることを示唆した. また, 上口唇へのホルマリン注入例において, 対側のTNCでもPPD mRNAの増加を認めたことにより, 顔面のこの領域の一次知覚ニューロンが反対側のTNCにも投射している可能性を示唆し, 顔面から痛覚情報は刺激を受けた部位により, それぞれTNCの特定の領域に入力することを示した. なお, PPSS, PPCCK mRNAは本研究の実験条件ではその発現に変化を認めず, SOMとCCKは前述の三種のべプチドとは異なった役割を担っている可能性を示唆した.
  • 辰巳 浩隆
    原稿種別: 本文
    1993 年 56 巻 2 号 p. g47-g48
    発行日: 1993/04/25
    公開日: 2017/03/02
    ジャーナル フリー
    再発性アフタは, 口腔粘膜疾患のなかで, もっとも発現頻度が高く, 強い接触痛と繰り返し再発することから, 患者に多大な苦痛をもたらす. しかし, 本疾患の病因が解明されていないため, 治療はおもに対症療法が行われているにすぎない. そこで, 本研究では, 再発性アフタの病因と口腔常在菌叢との関連性を検索するため, 健常者の非アフタ群を対照として, 再発性アフタが頻繁に発現するアフタ群の唾液と舌背の構成菌の分布を比較検討した. 材料と方法 まず, 歯科関係の学生(498名)を対象に質問紙法で再発性アフタに関する調査を行い, その結果からアフタ群11名と非アフタ群6名の被験者を選択した. ついで, 被験者の口腔内診査(DMF歯率, plaque score)および唾液の性状(pH, 流出量, 緩衝能)の検査を行った. また, 細菌学的検索の試料として, 各被験者の唾液と舌背を払拭したものを, ブチルゴム栓をしたreduced transport fluid (RTF)に入れ, 嫌気状態で研究室に搬送した. 嫌気ボックス内でRTFを用いて希釈後, 5%緬羊脱線維血液加trypticase soy agarとCDC処方のanaerobe blood agarに塗抹し, 好気および嫌気的に培養した. 分離菌の分類は, グラム染色性, 細胞形態, 好気および嫌気試験を行い, それぞれ好気性菌,通性嫌気性菌, 偏性嫌気性菌に区別した. また, 両群の口腔常在菌叢の分布比率に相違が認められたグラム陽性カタラーゼ陽性球菌に関しては, STAPHYOGRAMとDNA-DNA hybridizationにより同定を行った. 結果 1. 両群の口腔内診査および唾液の性状検査の結果に, 統計学的な有意の差は認められなかった. 2. 両群の唾液と舌背の試料から通性嫌気性グラム陽性球菌が多数分離された. アフタ群では, 唾液で平均54.1%, 舌背で45.9%を占め, 非アフタ群ではそれぞれ平均50.6%と48.0%を占めた. 3. グラム陽性カタラーゼ陽性球菌の分布比率は, アフタ群の唾液で平均19.7%, 舌背で28.3%と高率を占めたのに対し, 非アフタ群ではそれぞれ平均3.3%と8.9%であり, 両群間で統計学的に有意の差が認められた(p <0.001). 4. STAPHYOGRAMとDNA-DNA hybridizationとの同定結果は, Stomatococcus mucilaginosusの2株を除いて, 他はまったく一致せず, STAPHYOGRAMの信頼性は認められなかった. DNA-DNA hybridizationによる同定では, Stomatococcus mucilaginosusがもっとも優勢に分離された. 結論 再発性アフタの発現機序に関与する細菌として, 従来からα-hemolytic streptococciなどが注目されてきた. 本研究結果から, アフタ群の口腔常在菌叢にグラム陽性カタラーゼ陽性球菌の分布比率が高かったことから, α-hemolytic streptococciよりも, むしろグラム陽性カタラーゼ陽性球菌が再発性アフタの病因に強く関与していると考えられる.
  • 植木 佳代子
    原稿種別: 本文
    1993 年 56 巻 2 号 p. g49-g50
    発行日: 1993/04/25
    公開日: 2017/03/02
    ジャーナル フリー
    レーザーは歯学領域において, さまざまな使用が試みられ, 重要な位置を占めるようになった. とくに, 低出力レーザーは, 臨床的に象牙質知覚過敏症や顎関節症などの治療に用いられ, また, 骨芽細胞, 線維芽細胞など各種細胞への照射実験も行われている. しかし, どのような機構で効果をもたらすかについては不明な点が多い. 今回は, 歯科臨床で咬合改善のため行われる上顎口蓋縫合部の拡大に, 低出力レーザーが及ぼす効果を検討するため実験を行った. 実験は, Ga-Al-As半導体レーザー, He-Neレーザーを用いて, モデルとしてラット頭頂骨矢状縫合部に拡大スプリングを装着し, 照射条件による相違を光顕および電顕で観察し, 組織的, 微細構造的に検索した. 実験材料および方法 実験には, 7週齢Wistar系雄性ラットを固形飼料と水道水の自由摂取で飼育し, 低出力レーザー照射群, 非照射群, 各8匹ずつを用いた. 拡大スプリングは0.020inch矯正線で作製し, ラット頭頂骨矢状縫合が難関する方向に, 初期荷重を75gに調整して装着した. 低出力レーザー装置は, Ga-Al-As半導体レーザー(出力30mW, 波長790nm, パワー密度1.95W/cm^2)と, He-Neレーザー(出力6mW, 波長632.8nm, パワー密度1.38W/cm^2)の2機種を使用した. 照射方法は, プローブ先端を縫合部中央に軽度接触させ, スプリング装着直後から24時間ごとに1, 5, 15, 30分間, 7日間行った. 7回目のレーザー照射後, 屠殺し, 灌流固定ののち, 実験部位を切り出した. 試料の一部は, 通法に従ってセロイジン包埋し, 15μmの連続切片を作製し, H・E染色ののち, 光顕で観察した. 残りは通法により, エポン包埋し, 1μm切片で三重染色後, 光顕観察を行った. さらに, 70nm超薄切片を作製, 電子染色後, 竜頭観察, 撮影を行った. 骨形成量は, パーソナルコンピュータに計測装置を接続して測定し, さらに縫合部の三次元再構築を行った. 結果 1. スプリングの拡大力や低出力レーザー照射によるラットへの全身的影響はほとんどみられなかった. 2. Ga-Al-As半導体レーザーでは, 15分以上照射群, He-Neレーザーでは, 5分以上の照射群で, 骨形成層の線維芽細胞質内に組織吸収によると考えられる封入体が認められた. 3. He-Neレーザー30分照射群では, I型コラーゲン線維と封入体の細胞内線維に電子密度の高い針状結晶が多数沈着していた. また, 多くの細胞間質にも同様の結晶構造物が含まれていた. 4. いずれの照射群も新生骨形成量は増加しており, 有意差が認められた(p<0.01). しかし, 各群間での有意差は認められなかった. 以上の結果から, 低出力レーザー照射は, 照射時間の差に関係なく骨形成促進効果があること, また, 組織改造が活発化されることにより, 創傷治癒促進効果との関連が認められた.
  • 杉岡 伸悟
    原稿種別: 本文
    1993 年 56 巻 2 号 p. g51-g52
    発行日: 1993/04/25
    公開日: 2017/03/02
    ジャーナル フリー
    1990年より臨床導入された揮発性吸入麻酔薬であるセボフルレンの頭蓋内圧(ICP)環境に関する報告は少なく, とくに, 内圧環境を決定する大きな因子である脳脊髄液(CSF)に対する研究はみられない. そこで本研究は, セボフルレン麻酔時のICP環境に及ぼす影響を, CSFの産生, 吸収動態より検討した. 実験動物は成熟ネコ42匹を用い, ペントバルビタール・笑気・酸素麻酔下で脳定位固定装置に固定後, 以下の3実験を行った. 1. 脳室圧, 脳静脈洞圧の測定(n=9) ネコにおけるセボフルレン1 MAC麻酔(2.6%)下の180分間にわたるICP環境の変化について, 側脳室圧(LVP), 上矢状静脈洞圧(SSSP)をおもな指標として検討した. 2. CSF産生量(Vf)の変動測定(n=10) Pappenheimerらの脳室-大槽灌流法を用いて, 180分間にわたりVfを経時的に測定し, セボフルレン1 MAC麻酔による影響を検討した. 対照として, エンフルレン1 MAC麻酔(2.4%)下でのVfの変動を観察して比較した. 大槽カテーテルのopen endの高さを調節し, LVPを灌流前と同一になるように設定して, トレーサ(blue dextran)添加の人工髄液で脳室-大槽間を150分灌流した. その後, 大槽から採取したCSFのトレーサ濃度(Co)を測定し, 次式を用いてVfを算出した. Vf=Vi・(Ci-Co)/Co(ml/min) (Vi:注入量, Ci:注入液トレーサ濃度) この値を対照値とし, 以後180分間の両群のVfの変動の差を検討した. 3. ICP負荷によるVf, CSFの吸収量(Va)の変化に対するセボフルレンの影響(n=23) セボフルレン1 MAC麻酔下で, 人為的にICPを負荷した場合のVfとVaの変化, ならびにCSF吸収抵抗(Ra)を求めた. 対照として, 笑気麻酔およびエンフルレン1 MAC麻酔下での変化も同様に観察し, 比較検討した. 実験2と同様に150分間灌流を行ったのち, 大槽から採取したCSFのCoおよび流出量(Vo)を測定し, 実験2の式ならびに次式を用いて, Vf, Vaを求めた. va=(vi・ci-vo・co)/co(ml/min) 次に, 大槽カテーテルのopen endを上昇させてLVPを10cm H_2O負荷させ, 同様にVf, Vaを求めて, 3群間の差異を比較した. さらに, 10cm H_2O圧負荷による各群のVa変化から, 次式を用いてRaを算出した. Ra=ΔP/ΔVa (cm H_2O/ml/min) (ΔP:負荷したLVP, ΔVa:圧負荷によるVa変化量) その結果, 実験1ではLVPほ吸入直後と120分後の2段階的な上昇を示したが, SSSPは変化を認めなかった. 実験2では, セボフルレン吸入によりVfほ経時的に減少し, Vfの増加傾向を示したエンフルレンの反応とは異なった. また, 実験3において, VfはICP負荷により3群とも有意な減少を示した. 一方, セボフルレン麻酔下のICP負荷時のVa増加量は, 笑気麻酔群のそれと比較して減少し, Raの増加が認められた. 一般に, CSFの産生は頭蓋内代謝の変動に影響されると考えられており, セボフルレンが脳代謝を抑制していることが本実験の結果より推察された. また, CSFの吸収抵抗の増加がセボフルレンにより引き起こされ, その結果, 頭蓋内CSF総量が増加し, セボフルレン吸入後期のICP上昇に関与していることが示唆されたが, その程度はエンフルレンよりは小さく, 頭蓋腔の内圧環境に与える影響も少ないと考えられた.
  • 田村 功
    原稿種別: 本文
    1993 年 56 巻 2 号 p. g53-g54
    発行日: 1993/04/25
    公開日: 2017/03/02
    ジャーナル フリー
    癌組織は, 正常細胞とは異なった増殖, 移動および接着様式をもつ癌細胞が, 周囲組織を破壊しつつ散在性に増殖することによって進展する. この過程で起こる細胞外マトリックス(ECM)成分の質的・量的変動は, 癌細胞と宿主細胞のもつ生物学的性状に由来する相互作用を反映すると考えられることから, 近年, 細胞-ECM間の相互作用について多方面から検討が加えられている. ECMの主要構成分子であるコラーゲンについては, 単なる組織構築分子としての機能だけではなく, 細胞モジュレーターとしての基本的な役割をも注目されている. しかし, 癌組織におけるコラーゲンの機能については, 癌の発現部位,種類および分化度などの複雑な要因によって支配されるため, 今なお一致した見解が得られていないのが現状である. また, テネイシンは, 発生初期の上皮原基を包む間質では発現するが, 発育過程では消失し, 細胞の癌化に伴って再び発現するECM成分として注目されているものの, in vivo での機能や発現変動の意義については不明な点が多い. そこで本研究では, 癌組織の進展過程におけるECMの役割を解明する目的で, 継代中のヒト歯肉扁平上皮癌ヌードマウス移植系(GK-1)を用いてコラーゲンとテネイシンの質的・量的変動および局在を生化学的, 免疫組織化学的に検索し, 両ECM分子の機能について考察を加えた. 癌容積は移植後5週目から対数増殖を示し, それに平行して癌組織の総コラーゲン(Hyp)量も増加した. SDS-PAGEと免疫反応で分析すると, 癌組織のコラーゲンはI型, III型, IV型およびV型の4分子種から構成されていた. 各分子種の構成比率は, I型以外では経週的な変化を示し, IV型およびV型コラーゲンは移植後5週目からゆるやかな上昇, III型コラーゲンは5週目まで上昇, それ以後は低下を示した. また, 組織免疫反応を行うと癌胞巣基底膜のIV型コラーゲンは不連続性の局在を示していた. 癌組織のテネイシンは, 間質のすべてと基底膜の一部に局在し, ELISA法による定量では移植後5週目をピークとして減少傾向を示した. またウェスタンブロッティング法によるS-S結合還元下の分子サイズは220kDaと130kDaで, 臨床的健全歯肉組織の分子サイズとは異なっていた. 以上の結果から, コラーゲンは癌細胞に増殖の足場を提供するかたわらその増殖に対する宿主の防御反応として機能し, テネイシンは癌細胞の刺激によって付加的に発現し, 癌組織の増殖に適した環境を維持するように機能することが示唆された.
  • 長谷川 嘉平
    原稿種別: 本文
    1993 年 56 巻 2 号 p. g55-g56
    発行日: 1993/04/25
    公開日: 2017/03/02
    ジャーナル フリー
    下顎運動に伴う下顎骨のひずみに関する従来の研究では, 開口・前方運動時に下顎骨弓幅径が減少することが報告されている. しかし, それらの多くは下顎の限界位における変化量についての報告で, 限界位に至る過程での下顎骨のひずみの様相は明らかにされていない. また, その発現機構に関しては, 解剖学的見地から外側翼突筋下頭が関与していると推察されているにとどまっている. そこで本研究では, 下顎骨弓幅径の変化, 下顎運動および外側翼突筋下頭の筋活動を同時に測定することによって, これらの関係を明らかにし, 下顎骨弓幅径減少の発現機序について検討を行った. 被験者は顎口腔系に異常を認めない成人男子5名(25〜27歳)とした. 下顎骨弓幅径変化量の測定は, 被験者の下顎左右側第一大臼歯を被覆する金属ギャップ間に, 変位センサとして差動トランスを設置して行った. 被験運動は, 最大開口位までの開口運動とそれに続く閉口運動, 最前方位までの前方運動とそれに続く後方運動, および各段階の下顎位で保持を行わせる段階的開閉口運動, 前後方運動とし, 切歯部での運動をMKG K-6システムを用いて計測した. 被験筋は, 右側外側翼突筋下頭とし, 筋電図誘導はbipolar fine wire electrodeを用い, 口内法で行った. 得られた筋電図波形は全波整流後, 平滑化処理を行い, またMKG波形については, 水平成分と垂直成分の自乗の和の平方根から切歯部移動量を算出し, 下顎骨弓幅径変化量との比較, 検討を行った. 1. 下顎骨弓幅径変化量 開口運動時および前方運動時に下顎骨弓幅径は減少し, その最大減少量はそれぞれ平均397.7μm, 585.0μmであった. 2. 切歯部移動量と下顎骨弓幅径減少量の関係 1)開口運動に伴う下顎骨弓幅径減少量は被験者によりさまざまな傾向を示したが, 全体の傾向としては開口初期には下顎骨弓幅径減少量に大きな変化はなく, 開口中期から最大開口位にかけて著明に増加した. また最大開口位からの閉口運動では, 運動初期に下顎骨弓幅径減少量は著しく減少し, 同じ開口量での下顎骨弓幅径減少量は開口運動時と比較して閉口運動時で小さな値を示した. 段階的開閉口運動で保持させた下顎位における下顎骨弓幅径減少量は, 開口時, 閉口時ともに近似した値を示し, また, 開口運動時と比較すると同じ開口量では小さな値を示した. 2)前方運動, 最前方位からの後方運動および段階的前後方運動における, それぞれの前方移動量と下顎骨弓幅径減少量との関係は, いずれの運動でも類似した結果を示した. すなわち, 下顎骨弓幅径減少量は前方移動量が大きくなるに従って増加し, とくに最大前方移動量の70〜90%から最前方位においては顕著に増加した. 3. 外側翼突筋下頭の筋活動量と下顎骨弓幅径減少量との関係 外側翼突筋下頭の筋活動と下顎骨弓幅径減少量とは, 開閉口運動では相関係数0.88〜0.95, 前後方運動では0.91〜0.99と有意な相関関係を示した. 以上の結果から, 開口, 前方運動に伴い下顎骨弓幅径は減少すること, また, その発生機構には外側翼突筋下頭の活動が関与していることが示唆された.
  • 荻野 茂
    原稿種別: 本文
    1993 年 56 巻 2 号 p. g57-g58
    発行日: 1993/04/25
    公開日: 2017/03/02
    ジャーナル フリー
    歯根膜の血流を非観血的かつ連続的に測定することを目的に歯根膜の血流測定にレーザードップラー血流計測法(以降LDVと略す.)を応用した. 同時に, 水素クリアランス血流測定法を用いて, 同部位の歯根膜血流を測定し, LDVによる出力が測定部位の血流を反映していることを確かめた. 実験材料および方法 実験には, 体重3.5kg〜5.0kgの雄の成ネコ9匹を用いて, 上顎犬歯遠心歯根膜の血流を測定した. 血流計測には, レーザードップラー血流計(以降LDFと略す.)としてPeriflux Pf2B(Perimed KB社:Sweden)を用い, 水素クリアランス血流計として, UHメーター(ユニークメディカル, 東京)を用いた. 血流測定の前準備として, ネコの上顎犬歯を通法に従い, 根管充填し, 遠心の窩壁が一層残るまで, 窩洞を形成した. 次に, 歯質を通してレーザー光を歯根膜に照射し, LDVによる血流計測を行った. 同時に, 水素クリアランス電極(φ80μm)をLDVによる測定部位と一致するように, 歯根膜内へ刺入し, 水素クリアランス法による血流計測を行った. 平常時の歯根膜血流を測定したのち, 歯根膜血流を変化させるために0.001%アドレナリン(Sigma, USA)0.1ml〜0.2mlを, 目的とする歯の周囲に口腔粘膜に局所投与した. このときの血流量の変化をLDVと水素クリアランス法を用いて同時計測した. 結果 1. 水素クリアランス法による歯根膜血流測定 アドレナリンを投与する前(以降, 平常時とする.)の歯根膜血流量を, 9匹のネコにおいて測定した結果, initial slope法で算出した血流量は, 50.2±2.0ml/min/10Og, total flow法で算出した血流量は, 46.2±2.3ml/min/100g (mean±S.E.)であった. 8匹のネコにおいて20分間隔で2回測定した結果, 3.9±0.6%と良い再現性が得られた. 2. LDVによる歯根膜血流測定 歯根膜の相対血流量が, 心拍に同期した振動をともない連続的に記録することができた. 波形は非常に安定していたが, ほとんどのネコで心拍にも呼吸にも一致しない長い周期をもつ律動的な変動が観察された. この変動はアドレナリンの局所投与により消失した. 3. LDVによる出力値と水素クリアランス法による測定値との相関 アドレナリンを粘膜に注入すると血流値は減少し, レーザードップラー法, 水素クリアランス法ともに, 血流量の減少が観察された. また, その程度は注入部位, 注入量を変えることで, 変化させることができた. これらの血流量をレーザードップラー法と水素クリアランス両法によって計測し, 両法によって得られた測定値の相関を, 実測値と血流量の変化率について検討した. 血流量の変化率における相関は強い順相関を示した. 一方,実測値においては有意な相関を示すものの, 血流の変化率におけるものに比べ, 相関はかなり低かった. 結論 今回, LDVと水素クリアランス法による歯根膜血流の同時計測によって, 両法から得られた測定値の相関を実測値と変化率で評価し, 歯根膜血流測定におけるLDVの有効性について検討した. その結果, LDVの出力値は歯根膜の血流変化を非常に良く反映することが示唆された.
  • 三井 真理子
    原稿種別: 本文
    1993 年 56 巻 2 号 p. g59-g60
    発行日: 1993/04/25
    公開日: 2017/03/02
    ジャーナル フリー
    矯正歯科臨床において, 歯の移動は歯周組織に悪影響を与えることなく, できる限り短時間に行うべきである. そのためには矯正力をうける骨組織の動態を知ることが重要となる. Transforming growth factor-β(TGF-β)は, 骨に存在するサイトカインの一つであり, 骨形成, 骨吸収に関与し, 骨組織に大量に存在して, 近年骨代謝領域において注目されている. しかし, 歯の移動における歯槽骨内でのTGF-βの局在については明らかではない. そこで, 歯の移動時におけるTGF-βの局在について免疫組織化学的に検索したので報告する. Wistar系雄性ラット45匹を用い, Waldoらの方法にて歯を移動させ, 左側を実験群, 右側を対照群とした, ゴムを上顎左側第一臼歯と第二臼歯の歯間部に挿入後, 6, 12, 18, 24時間, 3, 7, 14日目にラットを麻酔下で屠殺し, 上顎骨を切除して固定, 脱灰したのち, 厚さ6μmのパラフィン切片とした. 抗TGF-β抗体としてヒトリコンビナントTGF-β1ポリクローナル抗体を用い, labelled streptavidin biotin法にて免疫染色を行った. すなわち二次抗体には, biotin標識抗ウサギIgGヤギ血清, ついでperoxidase標識streptavidinを用いて, 3, 3'-diaminobenzidine・H_2O_2溶液にてperoxidase発色を行った. 同時に, HE染色も行った. 対照群, 実験群を通じて, 歯根膜全体にTGF-βの反応が観察された. しかし, 硝子様変性部位ではTGF-βの反応は観察されなかった. また, 歯の移動後12, 18, 24時間, 3日に圧迫側吸収窩の破骨細胞と考えられる多核巨細抱にTGF-βの反応が強く観察された. そして, 歯の移動後12時間では, 牽引側歯槽骨骨縁に, 歯の移動後24時間には牽引側歯槽骨内の血管壁にTGF-βの反応がそれぞれ強く観察された. 歯の移動後3, 7日では, 凹凸状の新生骨の形成が歯槽骨骨縁に沿ってみられ, それにTGF-βの強い反応が認められた. 圧迫側の骨吸収窩の破骨細胞にTGF-βの強い反応が観察され, その一方, 牽引側では, 骨の形成に沿って, TGF-βの強い反応が認められた. 以上のことより, TGF-βは歯の移動による組織改造をその放出される部位によって調節していることが示唆される.
  • 水井 雅則
    原稿種別: 本文
    1993 年 56 巻 2 号 p. g61-g62
    発行日: 1993/04/25
    公開日: 2017/03/02
    ジャーナル フリー
    顎口腔系の機能異常の診査, 診断に筋電図検査が有効とされてさまざまな方法が用いられている. 従来の筋電図法は, 記録条件により影響が大きく, 経日的な診査や各個人間での比較が困難であった. 一方, 外部から刺激を加えた時の生体の反応をとらえると,生体内の神経筋機構の伝導特性の客観的な評価を行うことができ有用な情報となる. 本研究では咀嚼筋のなかでも機能的にも形態的にも重要な位置を占めると考えられるヒト咬筋に誘発筋電図法を応用し解析することから誘発筋電図法の臨床的意義を確立しようとするものである. 実験1として機械的刺激によりjaw jerk reflexとsilent period (SP)を記録した. 記録にはアレイ状表面電極を用いた. その結果, 振幅や発現率は咬筋上方に比べ,下方で高い値が得られた. また, SPの潜時は変化しなかったのに対し持続時間は咬みしめ強度が低いと延長する傾向を示した. Jaw jerk reflexは, 神経筋接合部から伝播する様相が観察でき, 筋線維伝導速度(MECF)が計算できた. 両側において潜時やMFCVに差は認められなかった. 実験2として神経線維と筋の相互関係を詳細に調べるために実験1と同じく多極表面電極を用いて, 電気刺激を加えたときの咬筋におけるM波の様相を観察した. その結果jaw jerk reflexと同様に筋線維上を伝播する様相がみられ, MFCVが得られた. さらに, 神経線維および神経筋接合部の伝導性を表わす終末潜時(DML)が求まった. そこで, 実験的に筋疲労を起こさせた結果MFCVは低下し, 回復過程では疲労前の値に戻る様相を示した. 一方, DMLは一貫してほとんど変化しなかった. 以上の結果から次の結論を得た. 1. 咬筋誘発筋電図を多極表面電極でとらえることができ, その振幅は咬筋上方に比べ下方で大きかった. また, silent periodの発現率も下方で高く, 上方で低かった. 2. Jaw jerk reflexは両側ほぼ同様の応答が得られ, 顎機能異常の診査に応用できる可能性が示唆された. 3. 咬筋神経への経皮的電気刺激によっても誘発筋電図が観察でき, その波形は刺激強度に伴う挙動と潜時からM波と判断できた. 4. 誘発筋電図波形から筋線維に沿って伝播する様相が記録でき, そのピークの遅れ時間からMFCVが算出された. その値は過去の報告と同様の結果であった. 実験的に筋疲労を起こさせた場合, MFCVは低下する傾向を示し, 回復期には疲労前と同様の値に戻った. このことから, 筋疲労とMFCVには強い相関関係があることが示唆された. 5. 多極表面電極を用いてとらえた誘発筋電図の伝播様相から神経筋接合部の位置が推定でき, その位置におけるDMLを算出できた. 実験的筋疲労を行っても, DMLに変化ほ認められず, このことから筋疲労は神経筋接合部には影響を及ぼしていないことが示唆された. 6. 機械的および電気的刺激法を組み合わせた誘発筋電図を用いると顎機能異常の診査, 診断に臨床応用可能なことがわかった.
  • 三木 秀治
    原稿種別: 本文
    1993 年 56 巻 2 号 p. g63-g64
    発行日: 1993/04/25
    公開日: 2017/03/02
    ジャーナル フリー
    コンポジットレジン修復は, 審美修復材として臼歯部にも使用され, さらにレジンインレーとして臨床応用されている. しかし, in vivoやin vitroの研究では, 水や熱サイクル, 繰り返し荷重などのストレスがコンポジットレジンに作用すると, マトリックスレジンの劣化やシラン処理剤の加水分解などによりフィラーの脱落やレジンの破折などが生ずると報告されている. また, 長期水中浸漬したコンポジットレジンに繰り返し荷重を加えた場合, 繰り返し荷重後のコンポジットレジンはエンタシス状を呈し, ヤング率の上昇がみられるものの, その摩耗には変化はみられなかったとの報告もある. 本研究では, コンポジットレジンの劣化のメカニズムを解明するためには繰り返し荷重と水中浸漬の影響を微細構造の観察を中心に局所的にとらえる必要があると考え, 以下の実験を行った. コンポジットレジンの試料体作製24時間後に37℃または60℃水中条件下で最大荷重100kg, 振動数10万回の繰り返し荷重を加えたのち, 最高6か月間水中浸漬し, 荷重直後および1, 3, 6か月後の吸水量, 寸法変化, SEMによる試料体内部の微細構造の観察および試料体中央部の3点曲げ試験を行った. 使用したコンポジットレジンはHybrid型CR5種, Micro Crashed Hybrid型CR1種, MFR型CR3種とマトリックスレジン2種を用いた. 実験結果 1. 吸水量は各試料体を通じて経時的に増加傾向を示したが, 浸漬温度, 繰り返し荷重の影響はみられなかった. フィラータイプによる差はマトリックスレジンが最も多く, ついでMFR型CR, Micro Crashed Hybrid型CR, Hybrid型CRの順となりマトリックスレジン量に依存することが判明した. また, MFR型CRは長期間水中浸漬すると吸水量と崩壊量の均衡により, 計算式上吸水量に変化がみられなかった. 2. 寸法変化は各試料体を通じて増加傾向を示したが, 荷重直後では寸法の減少がみられた. また, 寸法変化の程度はマトリックスレジン量に依存し, 吸水量と密接に関連していると思われる. 3. SEM観察によって, フィラーの脱落やレジン体の亀裂や破折等荷重面表層の微細構造に変化がみられ, とくにMFR型CRに著明であったが中央部では変化がみられなかった. 4. SEMで観察された亀裂や破折が試料体内部にまで影響することはなく試料体はエンタシス状を呈するものの, 試料を内部から分割採取して行った曲げ試験には影響はみられなかった. 5. レジン表層におけるフィラーの脱離や亀裂, 破折などの微細構造の劣化がパイロット役となりコンポジットレジン自体の摩耗や破折を助長することが示唆され, とくに有機フィラーを含有するMFR型CRに著明であった.
  • 柚木 大和
    原稿種別: 本文
    1993 年 56 巻 2 号 p. g65-g66
    発行日: 1993/04/25
    公開日: 2017/03/02
    ジャーナル フリー
    顎口腔領域における悪性腫瘍切除後の広範囲な軟組織欠損に対する再建には, しばしば有茎皮弁が用いられる. 糖尿病患者の場合, 術後感染や創傷治癒遅延を起こしやすく, 糖尿病性細小血管症による微小循環障害がその原因の一つといわれているが, その詳細ほいまだ明らかでない. そこで今回, ストレプトゾトシン誘発糖尿病ラット背部皮膚に有茎皮弁を作製し, 糖尿病性細小血管症における皮弁先端部の生着過程の変化を観察し, 検討した. 実験方法および観察方法 生後6週齢Wistar系雄性ラット(体重180g)を用い, ストレプトゾトシン(SIGMA社製, 以下STZと略す.)を大腿静脈より1回投与(60mg/kg)し, STZ投与前の平均血糖値145.6mg/dlの約2倍(300mg/dl以上)の血糖値を示したラットを糖尿病発症ラットとした. 糖尿病発症後8週, 16週(以下DM8週群, DM16週群と略す.)の各時期に, 尾側に茎をもつ, 3×1cmの有茎皮弁を作製した. 皮弁は, 筋肉層(Panniculus carnosus)直下の疎性結合組織層で剥離挙上後, 元の位置に復位しナイロン糸にて縫合した. なお, STZ非投与群を対照群とした. 術後3, 5, 7日および2週に屠殺し, 10%中性ホルマリンで固定したのちセロイジン包埋し, 薄切後ヘマトキシリン・エオジン染色を施し, 組織学的に観察した. また太田ら(1990)の方法を用いて上行大動脈より樹脂を注入し, 樹脂硬化後5%水酸化ナトリウムにて軟組織を除去し, 乾燥させ血管鋳型標本を作製した. 同標本に金蒸着を行い, 走査電子顕微鏡(JSM-T300, JEOL)にて観察した. 結果 1)対照群 術後3日には, 創は表皮で覆われ, 真皮上行血管の分枝に新生洞様血管が形成され術後5日には表層付近の真皮上行血管から伸展した新生洞様血管が裂隙を横切って吻合していた. 術後7日には接合部の乳頭層血管網が形成され, 真皮上行血管も新生血管によって吻合していた. 術後2週では乳頭層血管網の血管の太さを増し, その数を減じ, 接合部の境界は不明瞭になっていた. 2)実験群 DM8週群は, 組織学的には術後2週まで炎症性細胞がわずかに残存し, 対照群と比較してやや遅延していたが, 血管構築においては対照群とほぼ同様であった. DM16週群では, 術後5日で表皮は厚みを増して連続性を回復し, 真皮層では炎症性細胞が密にみられ, 術後2週では真皮層の炎症性細胞は, 表皮直下ではほとんど消失し, 深層では散在性に残存していた. 電子顕微鏡学的には, 術後5日に真皮上行血管の分枝に新生洞様血管が形成されていたが, 裂隙を横切る吻合はなく, 術後7日には裂隙を横切って吻合している新生洞様血管もみられ, 術後2週では真皮上行血管から伸展した新生洞様血管が裂隙を横切って互いに吻合していた. 対照群, DM8週群と比較すると, 組織学的においても, 血管構築においても治癒が遅延していた. 以上の結果より, 実験群では対照群と比べると, 炎症性細胞が術後2週まで残存し, さらに糖尿病性罹病期間が長期になると, 残存している炎症性細胞の数が多くみられ新生血管形成も遅れていた. また, 皮弁移植手術の創傷治癒過程において糖尿病性罹病期間が長期になると, 線維芽細胞の増殖および新生血管形成の遅延がみられ, 表皮直下に比べると真皮深層の治癒が遅れる点に留意して治療にあたる必要があると考えられた.
  • 安藤 昌俊
    原稿種別: 本文
    1993 年 56 巻 2 号 p. g67-g68
    発行日: 1993/04/25
    公開日: 2017/03/02
    ジャーナル フリー
    表面張力が低いフッ素系界面活性剤(以下FSAとする.)によって合成ハイドロキシアパタイト(以下HApとする.)およびエナメル質を処理すると, HAp表面へのFSAの吸着状態および吸着様相, すなわちその表面性状がどのように変化するのか, 変化するならば, それがさらにHApへのタンパク質の吸着にどのような影響を与えるのかを解明するために, 物理化学的およびゼーター電位的に検討し, エナメル質う蝕予防処置としてのFSAの効果について考究した. なお, 用いたFSAは, 表面張力の測定によって表面活性をもつことを確認した極性の異なる陰イオン性FSA(DS-102), 非イオン性FSA(DS-401), 両イオン性FSA(DS-301)および陽イオン性FSA(DS-202, LodyneおよびZonyl)である. X線光電子分光(以下ESCAとする.)分析の結果, HAp表面にFSAが吸着していることを示すFのピークが認められた. また, 顕微鏡式電気泳動装置によってFSA溶液中におけるFSA処理HApの表面荷電構造を調べ, そのゼーター電位が陰イオン性および非イオン性のFSAではほとんど変化しなかったのに対し, 陽イオン性および両イオン性のFSAではその濃度の増加に伴って荷電符号が負から正へ反転した. また, Sessile Drop Methodによって測定したFSA処理エナメル質ディスクの接触角は, 陰イオン性および非イオン性のFSAでは, 変化はほとんどなかった. しかし, 陽イオン性および両イオン性のFSAでは, 濃度増加に伴って, 接触角は大きくなり, 疎水性となった. FSA処理HApをタンパク質(酸性タンパク質:ヒト血清アルブミン, 中性タンパク質:トリ卵白コンアルブミンまたは塩基性タンパク質:サケプロタミン)処理をして測定したゼーター電位は, 陰イオン性FSA, 非イオン性FSAあるいは陽イオン性FSA(DS-202)処理HApでは, タンパク質濃度とは関係なく, タンパク質溶液中における無FSA処理HApのゼーター電位よりも低い値を示した. すなわち, FSA処理HApへのタンパク質の吸着は阻害された. これに対して, 陽イオン性FSA(LodyneおよびZonyl)あるいは両イオン性FSA処理HApにおいては, タンパク質の吸着はどのタンパク質においても, 低濃度では阻害されるが, 高濃度では促進されることがわかった. 以上の結果から, FSAによってHApおよびエナメル質を処理すると, その表面にFSAが吸着し, HApおよびエナメル質の表面はFSAによって改質可能であることを明らかにした. そして, この改質されたHApへのタンパク質の吸着には, HAp表面の疎水性の程度が大きく関与しており, 疎水化が小さいときにはタンパク質の吸着が阻害され, 大きいときには促進されることが明らかになった. このことは, FSA処理がエナメル質のう蝕予防に有用であることを裏付ける現象である.
  • 藤井 由希
    原稿種別: 本文
    1993 年 56 巻 2 号 p. g69-g70
    発行日: 1993/04/25
    公開日: 2017/03/02
    ジャーナル フリー
    ショ糖を含む食品の多量摂取がう触発生の主要因であることは明らかである. しかし, 食品の摂取行動には個人の甘味嗜好をはじめとして多くの因子が影響しており, その動態については不明な点が多い. 著者は, 甘味嗜好度を7種類の濃度(1.0%, 2.0%, 4.0%, 8.0%, 16.0%, 32.0%および48.0%)のショ糖溶液のうち, 被験者が甘すぎて嫌いであると判断した最低濃度によって測定する方法を考案し, その測定条件を確立した. すなわち, 甘味嗜好度は, 室温および溶液温度によってほとんど影響されないが, 喫煙直後には変動する. また, 昼食前後の測定値ほ安定していた. このことから, 甘味嗜好度の測定には, ショ糖溶液温度を室温とし, 喫煙直後を避けた昼食前に行うことが, その至適条件である. 食習慣に関する調査を口腔診査とともに質問紙法によって行った. 各質問項目のうち, 甘味嗜好度との間に関連が認められた3項目, すなわち「甘いものの好き嫌い」, 「甘いものの摂取頻度」および「甘い味つけの嗜好」のうち, 「甘味嗜好が強いと考えられる」回答肢を選んだ被験者に甘味嗜好度の高い者の出現率が大きかった. また, 12歳以上の年齢層において, 甘味嗜好度の高い群のう蝕経験歯が多くなる傾向を認めた. 著者が考案したこの甘味嗜好度測定方法を集団に応用すると, 日常の食生活における各個人の甘味嗜好度の動態および特徴を適確に表現できる. したがって, この測定法は幅広い年齢層に応用可能であり, しかも従来から味覚の検査法として慣用されている甘味認知閾の測定方法および最も好ましい甘さを選択させる方法と比較して, 甘味嗜好の評価法としての信頼度は高く, また測定値の再現性もすぐれており, また甘いものの摂取習慣とう蝕罹患との関係がより明瞭に, より正確に把握できる.
  • 池田 賀剛
    原稿種別: 本文
    1993 年 56 巻 2 号 p. g71-g72
    発行日: 1993/04/25
    公開日: 2017/03/02
    ジャーナル フリー
    現今, 広く臨床で用いられているハイドロキシアパタイト(HAP)の生体への親和性については, その基礎的および臨床的研究は少なくない. しかし, 骨芽細胞のHAPへの接着や石灰化への初期反応についての研究は少ない. そこで著者は, 骨芽細胞の特性を保持したヒト骨芽細胞様細胞:MG63を用いて, HAPと骨芽細胞の接着に伴う細胞外基質成分(接着性蛋白)の動態について, これを, フィブロネクチンおよびI型, III型コラーゲンを指標に比較検討した. また併せ, 骨芽細胞が分泌し, 石灰化との関連が示唆されているオステオカルシンの変動についても観察した. 方法 MG63は2×10^4個をLab-Tek chamber slideに播き, 10%牛胎児血清を含むα-MEM培地で培養を開始し, その24時間後に, HAPを上記chamber slide中央の細胞層上に静置した群(実験群)とHAPを置かない群(対照群)とに分け, その後培養をつづけ, 1, 2, 3および4週目での変化を下記の諸点で観察した. なお, 培養液は交換ごとに回収し, オステオカルシン量の測定に供した. また, 培養終了後, 検体は, 室温で20分間1%ホルマリンを含むPBSで固定したのち, 4℃で保存した. 抗ヒトフィブロネクチンモノクローナル抗体, 抗ヒトI型コラーゲンモノクローナル抗体および抗ヒトIII型コラーゲンモノクローナル抗体をそれぞれ一次抗体として用い, FITC標識抗マウスIgGを二次抗体として, 免疫組織化学染色を行った. そして, 落射型蛍光顕微鏡で抗体への反応性を確認ののち, 蛍光画像解析装置(ACAS570)を使用し, HAPと細胞の接着する領域における接着性蛋白の産生について, その経時的変化(産生能の変化)と局在について, これを境界部の均一面積における平均蛍光量で比較検討した. 一方, オステオカルシンの測定は, オステオカルシンN末端20残基およびC末端7残基を認識する2抗体を用い, インタクトオステオカルシンをELISA法にて測定した. 結果 MG63は, この実験における培養条件下で抗フィブロネクチンおよびI, III型コラーゲンモノクローナル抗体に反応することから, これら接着性蛋白の産生が確認された. また, ACAS570によって, HAPと骨芽細胞の境界部におけるフィブロネクチンの産生領域(局在領域)での平均蛍光量はそれぞれの培養時の対照群を100%とした場合, HAP群は1週目, 約110%, 2週目, 約90%, 3週目, 約17% (p<0.01), および4週目, 約40% (p<0.01)に減少した. また, 同様にI型コラーゲンの産生は, HAP群は1週目, 約73% (0.01<p<0.05), 2週目, 約93%, 3週目, 約130%, および4週目, 約287%(p<0.01)と経時的に上昇する傾向が認められた. また, III型コラーゲンの産生は, HAP群は1週目, 約160%(0.01<p<0.05), 2週目, 約283%(p<0.01), 3週目, 約717%(p<0.01)と急激に上昇し, 4週目では, 約96%に減少するのが認められた. 一方, オステオカルシンの産生は, HAP群および対照群との間では, 経時的な産生量の差異は認められなかった. 考察 以上の結果から, HAPとMG63が接触し, 親和性を示し, 石灰化を開始するためには, まず考えられる一つとしてフィブロネクチンが, MG63から分泌され, これがHAPとの間に細胞が接着するための骨格をつくりフィブロネクチンの接着との共有に働くRGDを介してIII型, I型コラーゲンによりマトリックスが形成され, 石灰化が始まるものと考えられる. なお, この際HAPを添入した培養群と添入しない培養群のあいだではオステオカルシンの産生量に差が認められなかったことから, HAPとMG63との接触は細胞の機能に障害を与えることなく, 円滑に親和性が保たれていることも示唆された. 結論 骨芽細胞の特性を保持するMG63とHAPとの接着には, フィブロネクチン, I型およびIII型コラーゲンが働き, HAP周囲の細胞機能の調節に関与していることが示唆された.
  • 馬場 俊輔
    原稿種別: 本文
    1993 年 56 巻 2 号 p. g73-g74
    発行日: 1993/04/25
    公開日: 2017/03/02
    ジャーナル フリー
    咀嚼運動における咬筋の機能的な役割について筋電図学的に, あるいは酵素組織化学的にこれまで研究されてきた. しかしながら, 筋電図による研究では咀嚼運動と咬筋のエネルギー代謝状態との関係を把握できず, また組織化学的な研究では摘出咬筋を用いるため, 経時的な観察は不可能である. そこで, 本研究では咀嚼運動に伴うラット咬筋のエネルギー代謝状態を^<31>P-MRSを用いてin vivoで観察し, 咀嚼サイクルや咬合圧の違いによる咬筋のエネルギー代謝状態および細胞内pH(pHi)への影響と, 咀嚼リズム形成への関与について検討した. ^<31>P-MRSを用いて筋エネルギー代謝を測定するときには, 覚醒下の要因を除去するため, 麻酔下での運動負荷を与えて測定しなければならない. そこで咀嚼様運動負荷条件として一連の咀嚼時間, 咀嚼サイクルおよび咬合圧を考え, これらの条件を覚醒時のラット咬筋に縫着したフォーストランスデューサ(スターメディカル社製F-041S)からの咬筋歪み信号により求めた. しかしながら, フォーストランスデューサは磁性体であるため, その縫着は^<31>P-MRS測定のアーチファクトになる. またフォーストランスデューサの縫着部位の違いによっても歪み信号強度に個体差が生じるので, 歪み信号をすべて咬合圧に換算してデータを解析する必要がある. そこで歪み信号強度と咬合圧との関係を求めて高い相関性が得られること, さらに信頼できない咬合圧が咬合圧頻度構成に影響を及ぼさないことを確認したうえで, 歪み信号から得た咀嚼時間, 咀嚼サイクルおよび咬合圧を咀嚼様運動負荷条件として麻酔下ラットに負荷した.その際の咬合圧は咬合圧センサーで確認した. MR測定装置は横型超伝導磁石NMR(GE社製, CSI-II, 4.7テスラ)で, 測定条件は, パルス幅20μs, パルス間隔2s, 加算回数100回, 測定時間4分とした. 測定は刺激前(4分間×1回), 刺激中(4分間×8回), および刺激後(4分間×2回)経時的に行った. 咬筋のエネルギー状態はクレアチンリン酸(PCr)と無機リン酸(Pi)の共鳴線の面積と化学シフト値で解析した. また, pHiはPiの化学シフト値から計算した. PCr/Pi比とpHiは, それぞれ時間経過で得られるため, 時間要素による一元配置分散分析を用いて, それぞれの刺激時間中に経過時間がPCr/Pi比とpHiの変化にどう関係しているかを検討した. 咬筋の歪み信号解析の結果, 最長の一連の咀嚼時間は32分5秒であり, 咀嚼様運動負荷条件としての刺激時間を, 最長咀嚼時間に相応する32分とした. 歪み信号の周波数分析の結果, 平均周波数(MPF)は5.04Hz(標準偏差0.40)であり, MPFを中心とする咀嚼様運動負荷条件としての刺激周波数を5±2Hz,つまり3,5および7Hzとした. また, 咬合圧の最多頻度が40g, 信頼できる最大咬合圧が90gであったことから, 咀嚼様運動負荷条件として40gと90gに咬合圧を設定した. これらの条件で^<31>P-MRS測定の結果,刺激の時間経過に伴って危険率5%で有意な変化を示したPCr/Pi比は, 40g-7Hz, 90g-3Hz, 5Hzおよび7Hzの刺激条件の場合であった. 一方, 危険率5%で有意な変化を示したpHiは, 90g-7Hzの刺激条件の場合のみであった. このことから, 咀嚼時の咬筋の平均的運動は, 筋細胞の有酸素的エネルギー供給能力によって継続的に維持されることが明らかとなった. さらに, 咀嚼時のリズミカルな顎運動を形成する咀嚼サイクルや咬合圧は, 咀嚼の1サイクルに必要なエネルギーを供給できる範囲で決定されていることが示唆された.
  • 三谷 徹
    原稿種別: 本文
    1993 年 56 巻 2 号 p. g75-g76
    発行日: 1993/04/25
    公開日: 2017/03/02
    ジャーナル フリー
    ヒトの歯根膜機械受容器からの求心性情報が閉口筋筋活動に促進的な影響を与えることは, 主として咀嚼筋の等尺性筋収縮における筋電図の興奮性応答から明らかにされている. しかし下顎運動時の等張性筋収縮での報告は見あたらない. それは下顎運動中の等張性筋活動は等尺性筋活動に比べて筋活動量が微小であり, 下顎運動中の変化を筋電図より客観的に同定することが困難なためであろうと考えられる. 著者は顎筋群の統合的な活動は結果として下顎運動路に収束されることに着目し, 運動路の変動を分析することによって, 逆に顎筋活動の変化を推察することができると考えた. そこで本研究では, ヒトの上顎犬歯への圧刺激による下顎開閉口路の変動を観察した. 顎関節や咀嚼筋に異常を訴えない正常有歯顎者21名を被検者(22〜28歳)として, 歯の接触のない習慣的な下顎の連続開閉口運動を行わせた. すなわち閉口時に下顎を咬頭嵌合位付近にまで可及的に戻すような運動で, 閉口位と開口位の間を連続的に繰り返す下顎開閉口運動である. 被検運動の開口量を2種類(最大開口位までと被検者が自覚する中等度の開口位まで)とし, 圧刺激の方向を, 口蓋から唇側の方向(D1)と唇側から口蓋側への方向(D2)の2種類とした. 被検者16名で持続的な圧刺激量を約700〜800gfとした場合の下顎開閉口運動路の変化を圧刺激を加えないときの開閉口運動と比較した. 同時に圧刺激方向, 開口量の影響も検討した. さらに, そのうちの被検者12名で開口量や閉口時の咬合接触の有無による開閉口運動への影響を調べた. また被検者5名では被検運動中に0〜500gf間の9種類の圧刺激量をそれぞれ持続的に加え, 圧刺激方向も変えて, 下顎の開閉口運動の変化を観察した. その結果, 約700〜800gfでの圧刺激では下顎開閉口運動路は, 側方的には圧刺激側に偏位し, 前後的には前方へ偏位する一定の傾向が明らかとなった. そのときの側方および前後的な偏位量は被検運動の開口量や咬合負荷で異なり, 開口量が大きい場合やまた0〜500gfの圧刺激量では, D2では圧刺激側への偏位傾向を示したが, D1では逆に非圧刺激側へ有意に偏位し, 前後的な偏位ではいずれの刺激方向でも前方に偏位していく傾向を示した. なお圧刺激量の減少にともなって, D1およびD2ともに側方偏位量は有意に小さくなった. 上記の結果から, 圧刺激方向や圧刺激量によって有意に偏位傾向が異なること, また開口量の増大や閉口時の咬合接触によっても影響を受けることがわかった. 犬歯への圧刺激によって下顎連続開閉口運動路が側方や前方へ偏位したことは, 基本的に下位脳幹のrhythm generatorで中枢性にコントロールされている下顎運動が, 末梢の歯根膜機械受容器からの求心性情報によってmotoneuron poolの興奮性が変化し, 偏位したためと考える. すなわち歯の圧刺激がどの筋へどの程度の影響を及ぼしているかは特定できないものの, これらの顎筋群の協調的活動パターンの変化によって下顎が偏位したことは想像に難くない. 本実験結果より得られた上顎犬歯への圧刺激に伴う下顎の開閉口運動路の変化は, 等張性活動時の筋電図的には捉えることの困難な微小な筋活動の変化を下顎運動経路の変化から明らかにできたと考える.
  • 内藤 雅文
    原稿種別: 本文
    1993 年 56 巻 2 号 p. g77-g78
    発行日: 1993/04/25
    公開日: 2017/03/02
    ジャーナル フリー
    歯肉剥離掻爬手術後の創傷部では, 細胞の根面への移動, 付着, そして分裂増殖といった一連の生物学的事象がなされている. この後, しかるべき付着様式が決定されるが, この付着決定には, 根面に集積する細胞のフェノタイプが少なからず関与する. このような背景から, 近年, 歯周組織各細胞の有する細胞特性が種々調べられているが, 歯周組織各細胞の移動能を比較した報告はみられない. そこで今回, 歯根膜由来, 歯槽骨由来および歯肉結合組織由来細胞の移動性を比較するため, コラーゲンゲルを用いて各種培養細胞の三次元培養を行った. 加えて, 術後の付着様式決定には, 根面性状が多大な影響を及ぼすことからコラーゲンゲル内を移動した細胞とセメント質, 象牙質との付着様式についても超微構造学的に検索を行った. 実験に使用した培養細胞は, サルの歯周組織から貼り付け法により分離, 獲得した. まず, タイプIコラーゲン混合溶液を24multi-well plateの各wellに分注, ゲル化した. そして, ゲル内細胞侵入試験は, ゲル上に各細胞を播種し, 1, 3および7日間培養して行った. その後, 各wellのコラーゲンゲルを固定, エポン包埋した. 包埋した各試料から1μm厚切片を作製, 光顕下で, ゲル内に侵入した核を有する細胞数とゲル表面からゲル内侵入細胞の細胞突起先端までの最長距離を測定した. ついで, サル抜去歯からセメント質表層一層掻爬根片と象牙質根片を作製した. 各歯根片を24multi-well plateの各wellに置き, その上からコラーゲン混合溶液を分注, 歯根片上に厚さ100μmのゲル層を作製した. ゲル化後, 各歯周組織由来細胞をゲル上に播種, 2および3週間培養した. 各培養期間後の根面到達細胞と歯根面との付着様式を電顕的に観察した. ゲル内細胞侵入試験の結果, 歯槽骨由来細胞と歯肉結合組織由来細胞の移動能はほぼ同じであったが, 歯根膜由来細胞の移動能は前二者に比べ有意に劣っていた. さらに, ゲル内を移動した歯槽骨由来細胞および歯肉結合組織由来細胞は, 発達した細胞質内小器官を有し, セメント質, 象牙質に良好な付着を示した. また, これら細胞は, 線維性付着の基礎となる細線維をセメント質上にのみ形成していた. 他方, ゲル内を移動した歯根膜由来細胞は, セメント質, 象牙質どちらの根面に対しても良好な付着関係を確立できなかった.
  • 浅井 敏男
    原稿種別: 本文
    1993 年 56 巻 2 号 p. g79-g80
    発行日: 1993/04/25
    公開日: 2017/03/02
    ジャーナル フリー
    下行性および上行性の疼痛抑制系のうち, 上行性抑制系の存在は, ネコの中脳中心灰白質(periaqueductal gray, 以後PAGと略す.)あるいは中脳水道直下の正中線上にあって中心灰白質に取り囲まれた背側縫線核(nucleus raphe dorsalis, 以後NRDと略す.)を電気刺激すると, 視床における外側系痛覚伝導路の中継核である後外側腹側核被殻領域の侵害受容ニューロン活動が抑制されることによって確かめられている. そこで, 視床における内側系痛覚伝導路の中継核である髄板内核, すなわち外側中心核および束傍核のニューロン活動に対するPAGあるいはNRD電気刺激による影響を調ベ, 上行性疼痛抑制系に関する視床での内側系と外側系との痛覚情報伝達制御の相違を明らかにして, 視床レベルでの痛覚情報伝達の機能的意義について解明した. 実験にはウレタン・クロラローズで麻酔したネコを用いた. また, 視床単一二ューロン活動の細胞外導出には, 2% pontamine sky blueを加えた0.5M酢酸ナトリウム溶液を充填したガラス毛細管微小電極を使用した. PAGあるいはNRDに刺激用同芯針電極を刺入し, 条件電気刺激を加えて, 大内臓神経, 大後頭神経(第2頸神経背側枝)および犬歯歯髄への試験刺激に対する髄板内核侵害受容ニューロンの反応の変化を調べ, ざらに中脳網様体電気刺激に対する短潜時スパイク発射への条件電気刺激による影響について検討した. そして, ニューロン活動の記録部位に色素を電気泳動的に注入し, また脳の刺激部位にも通電して鉄イオンを沈着させ, 脳を灌流固定したのち,記録部位および刺激部位を組織学的に同定した. 得られた結果は, 以下のとおりである. PAGあるいはNRDを条件電気刺激を加えると, 検出された髄板内核侵害受容ニューロンの21%において, 試験刺激に対する反応が抑制された. しかし, 検出されたニューロンの17%では, 条件刺激によってスパイク発射の増加が認められ, 他のニューロンは条件刺激の影響を受けなかった. また, 末梢神経刺激に対する反応が条件刺激によって抑制されたニューロンにおいて, 中脳網様体試験刺激に対する短潜時のスパイク発射も中脳条件刺激によって抑制されたので, 髄板内核に作用する上行性疼痛抑制系の存在が示唆された. しかし,その抑制効果は後外側腹側核におけるものよりも小さかった. したがって, PAGあるいはNRDへの電気刺激が, 主として感覚の系である外側系を抑制することが判明した. さらに,条件刺激によって髄板内核侵害受容ニューロンの一部に興奮が認められたが, この興奮は大脳辺縁系に送られて不快感をもたらすものであると考えられる. 同一個体の同一部位に条件刺激を加えた場合にも, 抑制が認められるニューロンと認められないものとがある. したがって, 同一部位での刺激効果はニューロンによって異なることもわかった.
  • 華山 拓明
    原稿種別: 本文
    1993 年 56 巻 2 号 p. g81-g82
    発行日: 1993/04/25
    公開日: 2017/03/02
    ジャーナル フリー
    床下組織の義歯装着に対する適応様式を理解するために, 咀嚼粘膜, とくにその上皮-結合組織境界部における膠原線維構築ならびにそれらの加齢変化を観察することは有床義歯補綴学にとって重要な命題の一つと考えられる. さらに, その観察方法については, 組織切片を主とした従来の観察方法では, 結合組織の他の構成成分と立体的かつ複雑に絡み合っている膠原線維の線維構築を十分に解明することは困難である. そこで著者らは, 個々の膠原線維とそれらが構築する構造を化学的に剖出して立体的に観察し得ることから, 各器官や組織の研究に応用されてきているアルカリ・水浸軟・走査電顕法をラット口蓋粘膜に応用し, その線維構築の加齢に伴う変化を観察した. 観察には生後3, 5, 10, 32, 90週齢の雌性SDラットを各週齢10匹ずつ用いた. 観察部位は口蓋前方および後方の口蓋粘膜で, 横口蓋ヒダ部, および横口蓋ヒダ間の平坦部とした. 実験動物を灌流固定後, 口蓋を一塊として摘出し, さらに浸漬固定を行った. その後, 室温にて2M水酸化ナトリウム水溶液および蒸留水中に浸漬し, 軟組織成分を浸軟・除去し, 膠原線維を剖出した. 剖出後の組織は通法に従って処理し, 走査電子顕微鏡を用いて観察した. 低倍率の観察では, 口蓋前方および後方の横口蓋ヒダ部の結合組織乳頭は, 10週齢までは加齢とともに大型化し, 形態も複雑化したが, 32週齢以降では単純化する傾向が認められた. また, 平坦部には加齢に伴う変化はほとんど認められなかった. 高倍率の観察では, いずれの週齢においても線維網表面から上皮方向ヘ突出した微細な隆起構造(microridge, 以下MRと略す.)が無数に認められた. これらのMRには, 線維網が上皮方向に突出したヒダ状のものと, それよりもさらに小型で一部の線維が集束・隆起した線維束状のものとが認められ, これらは相互に移行していた. MRは, いずれの週齢においても口蓋前方の横口蓋ヒダ部で最も多く, それらの形態も複雑であった. 一方, 口蓋後方の平坦部のMRは, 他の部位と比較して数が少なく, 形態も単純であった. また, MRは10週齢までは, 加齢とともにいずれの部位においても増加し, 形態的には上皮方向への伸展と複雑化が認められた. しかし, 32週齢ではMRの形態の複雑化は認められるものの, 上皮方向への伸展は認められず, 90週齢では,いずれの部位においてもMRは減少し, 小型化していた. また, 固有層表面の膠原線維網は, いずれの部位においても, 32週齢までは加齢とともにより緊密性を増し, 個々の線維あるいは線維束の捻れや蛇行も加齢とともに強まった. しかし, 90週齢では, いずれも低下した. 以上の結果から, ラットにおける口蓋粘膜の膠原線維構築には部位による差異が存在し, また, 加齢によって変化することが明らかとなった.
  • 添田 義博
    原稿種別: 本文
    1993 年 56 巻 2 号 p. g83-g84
    発行日: 1993/04/25
    公開日: 2017/03/02
    ジャーナル フリー
    比較解剖学は動物が環境や食性その他の外的条件に応じてその体制を適応させることでより進化した動物に変化したであろうという仮定のもとに, 最も原始的な生物から高度に複雑化した動物までの進化の歴史を知ろうとする学問である. この原則に基づいて,動物の分類が多数の構成要素のうちの一部の特徴を基礎として行われる. そのなかでも歯は重要な材料であり, とくに化石動物においては唯一の資料となり得る. 本研究は比較解剖学の一環として, 哺乳類のうちで原始的な形態の歯を保有する翼手目について, その組織構造を解明することを目的として行った. 実験材料および方法 材料は, キクガシラコウモリ科キクガシラコウモリ12匹で, うち3匹は永久歯が萌出前の幼獣であった. 各材料は70%アルコールで固定したのち, 頭部を切断して歯を含んだ顎骨ごと摘出して脱灰し, 通法によりセロイジンに包埋して20〜25μmの連続切片を作製した. 切片はH-E染色およびアザン染色を施し, 光顕的に観察した. また一部のものは研磨標本を作製して同様に観察した. 電顕的には試料を研磨エッチング及び凍結割断し, アルコール脱水後, 酢酸イソアミルに浸漬し, 臨界点乾燥, 金蒸着を行って標本とし, 日立S-570型走査型電子顕微鏡を用いて観察, 撮影を行った. 結果および結論 1. エナメル質 エナメル質は, 厚さ約50〜60μmで, 咬頭頂部並びに隆線頂部の突隆部は咬耗によって平坦になり, 象牙質の露出がみられた. エナメル小柱は表面に向かって直線的に走行するため, シュレーゲルの条紋はみられなかった. 小柱ほ直径約4μmの円形状を呈し, 深層から表層までほぼ同じ口径で, その表面には約4μmの間隔で横紋がみられ, 各小柱間には約2μmの幅で小柱間質が認められた. エナメル質の表層部には, 表面に沿って6〜7μmの幅で無小柱エナメル質が観察された. レチウスの並行条は深層から表層までおおよそ15〜20本みられ, おのおのはかなり長い線条として認められた. エナメル葉ほ認められたが, エナメル紡錘およびエナメル叢は認められなかった. 萌出直前の歯では, 機能歯における咬耗面に相当する領域でエナメル質の形成が認められず, 萎縮したエナメル上皮が直接象牙質に接していた. 2. 象牙質 象牙質は細管構造を有し, 球間象牙質, トームス顆粒層および球間網は認められず, 全体的にほぼ均一な石灰化状態を呈し, 天蓋部には明瞭な成長線がみられた. 象牙細管の走行はほとんど直線的で, 咬頭頂から歯頸部にいくにしたがって徐々に斜走し, 歯根部ではほとんど水平であった. 象牙細管は表層にいくに従って細くなり, 3〜4回分岐して樹枝状を呈して終止し, 終枝がエナメル質に侵入している所見は認められなかった. 一方, 咬耗部では多数の象牙細管の開口がみられた. 象牙細管の横断所見ではその口径は歯髄腔側では2〜4μmで不揃いであるが, 中層部から表層部にかけては細くなりながらほとんどが同じ太さになり, 発育不良ながら管周象牙質が区別された. 3. 歯髄 歯髄腔は象牙質の外形にほぼ一致し, 歯髄組織中には象牙前質に接する象牙芽細胞, 歯髄細胞, 血管, 神経線維束がみられた. 象牙前質はいずれの部位においてもきわめて薄く, これに接する象牙芽細胞はその丈が低く, 円形で, 歯髄細胞に類似した形態を呈していた. 4. セメント質および歯根膜 セメント質はその厚さが根尖部付近を除いて非常に薄く10〜15μmで, ほとんどが無細胞性であるが, 根尖部にのみ不規則な塊状を呈する細胞セメント質が認められた. 歯根膜線維の走向は歯槽骨縁付近では水平であるが, 大部分が歯槽骨壁から斜め根尖側方向であった. また, 根尖部の細胞セメント質部では同部を囲むように放射状に走行していた. 以上の結果から, 食虫性のキクガシラコウモリの歯は, 飛翔のための軽量化が図られ, 萌出後すみやかに咀嚼機能を発揮できる形態および構造を有していた. さらに, トリボスフェニック型の歯の機能, つまり餌のすり潰しと切断とに対応する状態がみられた.
  • 高原 俊之
    原稿種別: 本文
    1993 年 56 巻 2 号 p. g85-g86
    発行日: 1993/04/25
    公開日: 2017/03/02
    ジャーナル フリー
    Powell分析は, 顔面の審美性を調査する分析法として歯科矯正学や形成外科学で広く臨床応用されているが, 実測長を直接比較するのではなく角度や距離計測値の比率から顔面のバランスを解析しているため, スナップ写真等からも簡単に分析できる簡便性を有している. また, 審美的に理想とされるデータが提供されているので, 矯正治療における治療目標(treatment goal)の軟組織の目標値を設定することができる. そのため, 多方面の歯科領域において使用されはじめているが発表されている基本的なデータが白人成人の理想値のみであり, 成長発育に伴う各計測値の成長変化に関するデータが提供されていないので小児歯科領域ではほとんど使用されていない. そこで, 本研究では, 側貌軟組織外形線の分析にPowell分析法を採用し, 小児歯科の臨床の場で使用できるように日本人小児の側貌軟組織外形線の平均値ならびに理想値を求める目的でこの研究を行った. 研究資料は, 大阪市の追手門学院小学校・中学校・高等学校の児童生徒のなかから希望者を募り,賛同を得た6歳から17歳までの児童生徒1,553人(男児920人, 女児633人)から得られた側貌顔面写真である. 側貌顔面の撮影時に, 自然頭位を取らせ, 口唇部に筋緊張が出ていないのを確認してから一定の距離(150cm)で撮影した. この側貌顔面写真を, Powell分析の側貌軟組織の各項目に従って計測し, この計測値を, 多変量解析プログラムHALBAUを用いて分析し, 6歳から17歳までの各年齢ごとの平均値と標準偏差を求めた. さらに, 性差ならびに6歳以後の成長変化について平均値の差の検定を行った. 平均値の差の検定は, 比較する2群間の母分散に関して, 等分散性の検定を行い, 等分散と仮定できた場合はStudentのt検定を, 等分散の仮説が棄却された場合はWelchの方法によって検定を行った. 次に,平均値を求めるために使用した側貌顔面写真のなかから, 16歳と17歳の男子166枚, 女子276枚について, 側貌をトレースして側貌外形線の透写図を作成し, これを理想値作成のための資料とした. 審美的側貌外形線の選択者として, 大阪歯科大学に在籍する20代の学生男女各20名計40名を選び, 彼らにこの276枚の透写図のなかから審美的に優れていると感じた側貌トレースを選択させた. この側貌トレースのなかで被選択率50%以上のトレースを審美的に優れた側貌外形線と定め, このデータより側貌の理想値を求めた. ついで, この理想値における男女間の違いならびに16歳および17歳の平均値との比較を行った. その結果, 1)日本人のPowell分析における各計測項目における6歳から17歳までの年齢別の平均値のデータを求めることができた. 2)Aesthetic triangleに関する4つの項目とNasolabial angleならびにSubnasale-StomionとStomion-Mentonの比は, 年齢による変化が認められなかった. Base to dorsum ratioと上顔面, 下顔面比を表わすNasion-SubnasaleとSubnasale-Mentonには, 経年的な変化が認められた. 3)審美的に優れたと評価された顔貌を抽出し, 理想値を設定した. これらのデータは, 咬合誘導ならびに矯正治療を行う際に, 日本人の側貌軟組織の治療目標の設定において重要な参考資料になると考える.
  • 崗本 建澤
    原稿種別: 本文
    1993 年 56 巻 2 号 p. g87-g88
    発行日: 1993/04/25
    公開日: 2017/03/02
    ジャーナル フリー
    Jarabak分析法は, Bjork分析法を基礎として, これに修正を加え, Tweed分析法, Steiner分析法, Ricketts分析法などを組み合わせたものである. その特徴は, 分析項目と骨格系と歯系に大別し, 骨格系において成長方向を詳しく解析している点である. 顔面表層部に多くの計測点を設定している分析法とは異なり, 顔面深部に計測点を設けているため, 頭蓋顎顔面全体の成長に伴う形態変化を把握できるという長所を有している. そのため, 頭部エックス線規格写真によって小児の顎顔面系の成長変化を追跡する分析法としては最適のものと考えられる. しかしながら, 現在のところ, この分析法における日本人の基礎的データがほとんど発表されていないために, 小児歯科の領域に十分応用できないのが現状である. そこで, 本研究では, このJarabak分析法における各計測項目の経年的なデータを求めると同時に, この分析法の骨格系の計測項目を分析することにより, 小児から成人へと成長する際の頭蓋顎顔面の変化について調査した. 調査に用いた資料は, 上下顎第一大臼歯の咬合関係がI級と判断した男子15名, 女子14名における10歳から15歳までの6年間にわたり経年的に撮影した側貌頭部エックス線規格写真174枚である. 側方頭部エックス線規格写真のトレースならびに各計測項目の角度計測および距離計測は, それらの誤差をできるだけ少なくするため, すべて同一人によって行った. 骨格に関する22の計測項目, 歯に関する計測項目9の計31項目について計測し, その測定値ならびに標準偏差を算出した. ついで各計測項目における成長による変化を知るために, 年間成長量を求めた. また, 10歳とそれ以後の年齢における各計測項目の平均値の差について検定を行った.平均値の差の検定は, 比較する2群間の母分散に関して, 等分散性の検定を行い, 等分散と仮定できた場合はStudentのt検定を, 等分散の仮説が棄却された場合はWelchの方法によって検定を行った. さらに, 成長に伴って起こる頭蓋顎顔面の変化の関連性を調べるために, 骨格系の22の計測項目について成長変化に対する相関係数を求めた. 成長変化の相関を求めるにあたって, 各計測値の数値を10歳時の数値から減じて求めた成長量と, 10歳時の数値で除して求めた成長比の二つの変数を説明変数として用いた. この二つの説明変数より各計測項目間の相関係数を求め, 相関係数行列を作成した. この相関係数に対して無相関の検定を行い, どちらかに有意で, かつかなりの相関関係を有すると考えられる計測項目を抽出した. また, Posterior face heightとAnterior face heightの比についてその経年的変化量を分析して, 顔面の成長方向を調査した. その結果, 1. 10歳から15歳までの日本人のJarabak分析各計測項目における平均値および年間成長量を求めることができた. 2. 本研究により得られた日本人の資料による顔面の成長パターンは, 前下方への成長を示すJarabakのいうstraight downward typeではなく, わずかではあるがcounterclockwise growth typeの成長パターンを示す傾向があることがわかった. これらのデータは, 小児歯科臨床において頭蓋顎顔面の成長を考慮した咬合誘導を行う際に, 重要な参考資料になると考える.
  • 高石 佳知
    原稿種別: 本文
    1993 年 56 巻 2 号 p. g89-g90
    発行日: 1993/04/25
    公開日: 2017/03/02
    ジャーナル フリー
    近年, わが国における小児を囲む環境の変化は著しい. 生活の多様化とともに, とくに食生活の環境的変化に大きなものがみられ, 日常の食品選択の面から, 軟食, スナック化時代といわれている. そのために咀嚼力の低下とともに, 小児の顎ならびに咀嚼系機能の障害がみられるようになり, その結果, 歯列不正, 咬合不全, 顎関節不全などの問題が指摘されている. 日常臨床においても, 低年齢児の齲蝕罹患率の低下にもかかわらず,乳歯列の不正咬合, とくに前歯の叢生が増大しており, 小児から若年者, 成人へと咬合の不正がこのまま推移すれば社会的な問題となることを示している. そこで, 乳歯列期における歯間空隙について, その発現率, 性差, 経年的変化などについて縦断的な調査を行った. 研究材料として大阪市中央区のパドマ幼稚園児から得た資料を用いた. 同園の園児構成は, 年少組(4歳), 年中組(5歳), 年長組(6歳)に分けられていることから, それに従い, 以下資料を孤内の年齢で表現することとした. 被検者数は, 縦断的に観察できた520名(男児292名, 女児228名)で, 1987年から1990年までの3年間に毎年1回定期的に診査し, 霊長空隙(以下PSと略す.), 発育空隙(以下DSと略す.)および上顎乳犬歯と上顎第一乳臼歯間に存在する歯間空隙(以下CDと略す.)の有無ならびに空隙最について計測した. その結果, 次のような結果を得た. 1. 有隙型歯列の発現率は, 加齢的に減少した. 2. PSの発現率は, 上顎が下顎より発現率が高く, 加齢的に減少した. 3. CDの発現率は, 男女ともに4歳から5歳で増加し, 5歳から6歳で減少する傾向を示した. 4. DSの発現率は, PS(+)歯列のほうが, PS(-)歯列より高かった. 5. PS, CDおよびDSの経年的変化は, いずれも無変化型が最も高い発現率を示した. 以上の結果から, 日本人小児の正常な永久歯列の構成に必要な乳歯列における各歯間空隙の発現率ならびに空隙量の消長を明らかにすることができた. また, 過去の数値と比較して, 各歯間空隙の発現率ならびに空隙量の減少傾向の顕著なことが明らかになった. これらのことから, 乳歯列における早期の予防矯正的な対策の必要性が認められる.
  • 紅露 政利
    原稿種別: 本文
    1993 年 56 巻 2 号 p. g91-g92
    発行日: 1993/04/25
    公開日: 2017/03/02
    ジャーナル フリー
    ぺリクルは, エナメル質に付着した無細胞性, 無構造性の微生物が存在しない有機質性被膜であり, 主として唾液由来のグリコプロテインからなる. そのほかの構成成分として, 糖質, 脂質などを含んでいる. 著者らの講座では, 蕾が脂質の有無ならびにコレステロールおよびホスファチジルコリンのグリコプロテイン層に及ぼす物理化学特性, とくに疎水性および表面電位の変化, ならびにエナメル質表面に形成されたぺリクルを想定して設計したdiffusion chamberを用いて, グリコプロテイン層において脂質の介在により各種イオンの透過阻止に重要な役割を果たすことを報告している. そこで, 脂質がぺリクルの性状に及ぼす影響について研究の一環として, 本研究は, グリコプロテインの標品を用い, ホスファチジルエタノールアミン(以下PEと略す.)またはホスファチジルセリン(以下PSと略す.)によるグリコプロテイン層の物理化学特性, とくに疎水性および表面電位の変化, ならびに水素イオンの透過性に与える影響を明らかにする目的で行った. 対照としてα_1-acid-glycoprotein (Human serum, Sigma Chemical Co., St. Louis, MO, USA)を-10℃のethanolとetherで脱脂したグリコプロテイン(以下DGPと略す.)を用いた. DGPとPE(Sigma Chemical Co.)を重量比で1:1, 2:1および3:1に調製し, 0.02%NaN_3含有の0.155M NaCl-0.05M sodium phosphate buffer(pH7.2)に加え, 5分間超音波処理し, 37℃恒温槽中で2時間処理後, 蒸留水に透析し, 凍結乾燥したものを用いた. また, DGPとPS(Sigma Chemical Co.)を重量比で1:1, 2:1および3:1に調製し, 前記の方法で処理したものを用いた. これら6種類のリン脂質含有グリコプロテインを実験群とした. 脂質によるグリコプロテインの物理化学特性の変化は, 蛍光プローブ 8-anilino-1-naphthalene sulfonateを用い, グリコプロテインの疎水性および表面電位を測定して検討した. 同時にリン脂質の存在がグリコプロテインのイオン透過性に与える影響は, diffusion chamberを用いて検討した. 1. リン脂質含有量の多いグリコプロテインの疎水性および表面電位は高かった. 2. グリコプロテインの疎水性と水素イオンの透過性について, PSまたはPEそれぞれの脂質において, その含有量が多くなると, 疎水性が高くなり, 水素イオンの透過係数は低下したが, PSとPEの異なる種類の脂質において, 疎水性が高くなるにつれて水素イオンの透過係数が低くなることが一致しないことは, グリコプロテインの疎水性が水素イオンの透過阻止にもある程度まで関与することを示唆している. 3. グリコプロテインにおける表面電位の高低と水素イオンの透過係数の大小が一致したことは, グリコプロテインの表面電位が水素イオンの透過阻止に大いに関連のあることを示唆している. 以上の結果から, リン脂質はグリコプロテインの物理化学特性を変え, グリコプロテインの水素イオンの透過性に影響を及ぼすことが明らかとなった.
  • 櫛田 雄一
    原稿種別: 本文
    1993 年 56 巻 2 号 p. g93-g94
    発行日: 1993/04/25
    公開日: 2017/03/02
    ジャーナル フリー
    歯冠修復材としてコンポジットレジン(以下レジンとよぶ.)の実用化が始まって以来25年の間に, レジンの物理的性状と歯質接着性は飛躍的に向上し, それにつれてレジン自体の重合収縮率や吸水量も少なくなった. しかし重合収縮は依然としてレジン・窩壁間の接着を阻害する最大因子であり, とくに光重合型レジンでは窩洞の深部での内部応力が大きくなるために収縮の影響が強く現われることが知られている. 一方, レジンの吸水膨張は充填体の窩壁適合性からみると重合収縮を補正して内部応力を軽減させる要因とされている. これまで重合収縮期の歯の変形については報告されているが, 収縮期から吸水膨張期を通じた長期間の歯の変形の推移についてはまだ検討されていないし, また接着性修復を施した歯の窩洞の大きさと歯の変形の関係についても検討されていない. これは現在使われている計測機器が精度は高いが, 長期間にわたって計測を繰返すような実験には適していないことによるものである. そこで著者らは, 被験体に核印した60μm前後の微少な測定点間の変化を1,000倍の拡大率の顕微鏡で直接計測する方法を考案し, この方法によってレジンを充填した歯の変形を観察することにした. 実験1として, レジンの収縮特性を知るために無機フィラー含有率の異なる4種類のレジンを選び, アクリル板に形成した円筒形の窩洞に充填して垂直方向と水平方向の重合収縮率を測定した. その結果, 歯の変形に直接関与すると考えられる水平方向の収縮率は必ずしもフィラー含有率に従わないことが判った. 実験2として4種類のレジンの吸水量と吸水膨張率を測定した. その結果はこれまでの報告を裏付けるもので, 吸水量と吸水膨張率はともにフィラー含有率に反比例していた. 実験3では, 咬頭頂に定点を刻印した上顎小臼歯にMOD窩洞を形成し, 実験1で収縮率が最も大きかったレジンを充填し, 重合前と重合後の咬頭頂間距離を測定した. その結果, 窩洞の幅と深さが大きくなるに従って咬頭頂間距離の短縮は大きくなった. 実験4ではMOD窩洞の近心または遠心側に側室を付与した上顎小臼歯を近遠心的に半切し, 断面に歯の頬舌側の輪郭に沿って咬頭頂部から歯頸部下まで定点を核印し, 実験3と同じレジンを充填して重合前後における頬舌径を測定した. その結果, 頬舌径の短縮量は咬頭頂部が最大で歯根側に近付くに従って小さくなり, 側室が付与された窩洞のほうが収縮量が大きくなった. 実験5では, 両隣接面に側室を付与したMOD窩洞に4種類のレジンをそれぞれ充填し, 重合前後および水中浸漬中の咬頭頂間距離を測定した. その結果, 重合収縮による咬頭頂間の短縮量はレジンの水平収縮率に比例し, 吸水膨張による咬頭頂間の拡大はレジンの吸水膨張率に比例した. 以上のことから次のような結論が得られた. 1. 窩洞の形態および大きさと歯の変形との関係についての実験結果は, これまでに報告された窩洞を形成した歯の咬合圧に対する抵抗性の研究結果と表裏一体の関係を示したが, 接着性修復において歯の抵抗性の減衰が修復歯に不利に作用するか否かは判然としない. 2. レジンの水平的収縮率と咬頭頂間の短縮量が比例的関係を示したということは, レジンのフローが内部応力の軽減に役立つ可能性があるという説を裏付けるものであるといえる.
  • 傅 瑞民
    原稿種別: 本文
    1993 年 56 巻 2 号 p. g95-g96
    発行日: 1993/04/25
    公開日: 2017/03/02
    ジャーナル フリー
    顎関節のグリコサミノグリカン(GAG)は, 組織の恒常性維持をつかさどると同時に, 顎運動の滑材および圧迫力に対する緩和に重要な役割を果たしている. しかし, 顎関節に含まれるGAGに関する研究はまだ十分とはいえず, とくに, その加齢変化についての報告は少ない. そこで, 本研究では, 加齢に伴う顎関節全体のGAGの変化を組織化学的, 免疫組織化学的および生化学的に検討した. 実験には3, 5, 10, 15, 30および50週齢のSDラット(雌)各10匹を使用した. エーテル麻酔下のラットから顎関節を一塊として摘出し, 各週齢とも5匹分は組織化学的および免疫組織化学的観察に, 残りの5匹分は生化学的分析に用いた. 免疫組織化学的観察に用いたパラフィン切片は, 脱パラフィンして過酸化水素水含有メタノールに浸潰したのち, コンドロイチナーゼABCで処理した. ついで, 一次抗体2B6, 3B3, 6B6および5D4をそれぞれ作用させ正常ヤギ血清を反応させてブロックした. さらに, 二次抗体のビオチン標識ウサギ抗マウスIgを反応させ, ペルオキシダーゼ標識ストレプトアビジンを作用させた. 免疫反応後の切片は, ジアミノベンチジンで発色させ, さらに, ヘマトキシリンで核染色を施した. また, ヒアルロン酸については, ストレプトミセスヒアルロニダーゼを用い, 従来の酵素消化法で同定した. 生化学的分析に用いた試料は, 顎関節から周囲の筋組織を除去し, 下顎窩, 関節円板および下顎頭のみとしたものから抽出, 精製したGAGを使用した. 全GAGのウロン酸量は, D-グルクロン酸を標準としてBitter-Muir法で測定した. GAGの分子種はセルロースアセテート膜一次元電気泳動で同定した. 泳動後のアセテート膜はアルシアンブルーで染色後, デンシトメーターで分画パターンを解析し, 各分画ピークの積分値を求めた. その結果, 組織化学および免疫組織化学的には, 下顎頭, 下顎窩および関節円板にヒアルロン酸, コンドロイチン硫酸, デルマタン硫酸およびケラタン硫酸の局在が観察された. 加齢に伴ってコンドロイチン硫酸に対する反応は減弱し, デルマタン硫酸およびケラタン硫酸に対する反応は増加した. しかし, ヒアルロン酸の加齢に伴う変化は明らかでなかった. 一方, 生化学的には, ヒアルロン酸, コンドロイチン硫酸, デルマタン硫酸およびケラタン硫酸が同定された. 3週齢と50週齢のGAGの構成比率を比較すると, 総GAGの主体をなすコンドロイチン硫酸は66.8%から53.2%に, ヒアルロン酸は22.6%から14.3%にそれぞれ低下し, デルマタン硫酸は6.4%から14.4%に, ケラタン硫酸は4.2%から18.1%に上昇した. また, 組織乾燥重量あたりのGAG量は加齢に伴って3.0μg/mgから0.9μg/mgへと減少した. 以上の結果は, 顎関節組織が加齢とともに弾性を失い, 圧負担に対する緩衝能力を減弱させていくことを示唆すると考える.
  • 西條 眞吾
    原稿種別: 本文
    1993 年 56 巻 2 号 p. g97-g98
    発行日: 1993/04/25
    公開日: 2017/03/02
    ジャーナル フリー
    咬合力あるいは咀嚼力を直接受ける上顎骨は多くの骨と骨縫合を介して接しているだけでなく, 頭蓋にある骨洞としては最も大きな上顎洞をもっている. したがって, 上顎骨の咬合力あるいは咀嚼力を緩衝する機構は非常に複雑であると考えられる. そこで本研究では実験動物の本来の咬合形式をできるだけ再現するために, 麻酔下の成熟期(体重:5.4〜8.6kg)の日本ザルの実験側の咬筋と側頭筋とを同時に電気刺激して, 両筋を収縮させ咬合させた. そして, 咬合させたとき(以下, 咬合時とよぶ. 顎間距離:0mm)および木片(厚さ:3mm, 5mmおよび7mm)を片側の犬歯, 第二小臼歯あるいは第二大臼歯で噛ませたときの上顎骨と上顎骨に骨縫合して接している顎間骨, 鼻骨および頬骨とのひずみを三軸ストレンゲージ法を用いて測定し, 上顎骨の咬合力緩衝機構について検討を加えた. 咬合時あるいは各種の厚さの木片を噛ませたときには, 上顎骨の表面の多くの部位は伸展した(とくに, 第二大臼歯で木片を噛ませたときは伸展する部位が最も多かった.). これは咬合力が歯に加わると上顎洞の骨壁が外方へ変形する結果, 上顎骨の表面が豊隆することによる現象である. 上顎骨の各部位に起こる豊隆はそれらの部位が円状に突出するのではなく,犬歯あるいは第二大臼歯で木片を噛ませたときにはおもに上顎結節の方向に, 咬合時あるいは第二小臼歯で木片を噛ませたときにはおもに頬骨上顎縫合の方向に帯状に豊隆する. このように, 木片を噛ませる位置によって豊隆する方向に違いがあることから, 上顎骨表面のこれらの豊隆方向は, 咬合力が伝播していく方向を示しているものと考えられる. 木片を噛ませたときの主ひずみの方向が咬合時と同じで, かつその部位の主ひずみ量が咬合時よりも大きければその部位には応力が集中するが, 主ひずみの方向が木片を噛ませたときと咬合時とで異なれば, 主ひずみ量が増加してもその部位には応力は集中しない. この機序から考察すると, 犬歯で木片を噛ませたときは応力が集中する部位はなかったが, 第二小臼歯あるいは第二大臼歯で木片を噛ませたときには上顎骨の中央部だけに応力が集中することがわかった. また, 上顎骨における骨縫合部の咬合力緩衝機構には, 各縫合部によって明らかな違いがみられる. すなわち, 顎間骨上顎縫合部では顎間骨は上顎骨と同じ方向に変位しながら, また鼻骨上顎縫合部では鼻骨は上顎骨と直角方向に変位しながら咬合力を緩衝する. さらに, 頬骨上顎縫合部では咬筋の収縮によって頬骨が下方へ移動するから, 上顎骨がその隙間に入り込むように変位することによって咬合力を緩衝することがわかった. 以上, 上顎骨に加わった咬合力は上顎洞および上顎骨に接している多くの骨縫合によって巧妙に分散されるから, 応力が集中する部位はきわめて少ないことが明らかになった.
  • 川村 広
    原稿種別: 本文
    1993 年 56 巻 2 号 p. g99-g100
    発行日: 1993/04/25
    公開日: 2017/03/02
    ジャーナル フリー
    小児歯科保健教育の充実化に伴い, 小児の咬合咀嚼の発育と発達に関して, 改めて問われている. なかでも, 乳歯列期の咬合型の発育変化についての報告は数みられるが,いずれも乳歯萌出期の1歳から咬合完成期の5歳までを同一集団で追跡したものはない. 今回, 本研究では, 1歳の誕生日から5年間継続して定期検診を受診し, う蝕予防処置および歯科保健指導を受け続けた集団(男児202名, 女児219名, 合計421名)の咬合型の発育変化を追跡調査した. また, 第二乳臼歯が萌出し咬合位が決定した正常咬合児について, 第二乳臼歯の最大咬合力を測定すると同時に, 厚さが1mmおよび3mmの2種類のバイトワックスをそれぞれ最大咬合力で約3秒間咬合させ, 咬合印記点の厚みを測定した. その結果, 咬合型は正常咬合, 過蓋咬合, 上顎前突, 反対咬合, 切縁咬合, 交叉咬合および開咬の7型に分類された. いずれの年齢においても各咬合型の出現頻度は, 正常咬合が50%以上であり, ついで過蓋咬合, 上顎前突の順であった. また性差は認められなかった. 発育に伴う各咬合型の推移には, 同一咬合型を継承する継承型と他の咬合型へ変化する移行型を認めた. たとえば正常咬合からは正常咬合への継承型と, 過蓋咬合, 上顎前突, 反対咬合, 切縁咬合, 交叉咬合または開咬へと正常咬合以外のすべての咬合型へ移行する移行型を認めた. なお, 正常咬合以外のすべての咬合型からは, すべての年齢において, 正常咬合へ移行する可能性のあることが示された. 1歳における咬合型がどれだけの期間継承され, 4年後の5歳における咬合型とどう関係しているかについては, 正常咬合, 過蓋咬合, 上顎前突および反対咬合の継承期間は1年のものが最も多く, そのため5歳では他の咬合型へ移行するものも多く認められるが, 同一咬合型を4年間継承したものは5歳まで継承する率が高かった. また, 1歳におけるすべての咬合型は, 5歳時には正常咬合に移行する可能性を認めた. 正常咬合型の3歳から5歳までの第二乳臼歯の咬合力は, 歴齢の平均体重を上まわる値を示し, 加齢的な増大を認め, 3歳と5歳との間には200%以上の増大があった. しかし,同年齢児においても最小値は最大値の約1/3であった. バイトワックス上の咬合印記点は, 厚さが1mmおよび3mmのバイトワックスにおいてすべて確認された. またすべての歯の各咬合印記測定点の噛み込み印記量(平均値)はいずれも加齢的に減少し, 年齢差が有意に認められた. 1mmのバイトワックス上では, 上下顎の歯の咬合接触点および噛み込み量の加齢的減少は, どの年齢においても認められた. 3mmのバイトワックス上では, 咬合力の加齢的な増加があって噛み込み量はそれとともに減少したが, どの年齢児においても上下顎の歯の咬合接触点は確認できなかった. しかし, 3mmのバイトワックスを100%噛みしめることができなかった現象は, 乳歯列期における10mesh篩咀嚼効率が5歳までは100%にならないという報告と矛盾するところはない. 以上のことから, 乳歯列期の歯科的健康管理にあたっては, 正常咬合の咬合力は加齢的な増加を認めるが, 咀嚼機能や咬合型は定型であることは少なく, つねに変動していることをよく理解して対処すべきであることが示唆された.
  • 古波蔵 鍵一
    原稿種別: 本文
    1993 年 56 巻 2 号 p. g101-g102
    発行日: 1993/04/25
    公開日: 2017/03/02
    ジャーナル フリー
    マイクロ波重合法には, 重合時間が非常に短かく, 操作も簡単で, 高価な器材も不必要であるという利点がある. 精度についても湿熱重合法よりも優れているといわれているが, マイクロ波の照射条件に影響されることも報告されている. そこで, 照射条件が上顎総義歯の変形に与える影響を, 義歯全体の三次元的な変形として捕らえる方法によって検討した. さらに, 重合後の経時的な変形についても調査した. 実験には, 11か所に計測点を刻入した上顎無歯顎形態の金型を用いた. 金型をシリコーンラバー印象材で印象し,超硬質石膏で作業用模型を作製した. 作業用模型上の計測点の三次元座標を計測したのち, 計測点を刻入された人工歯を排列した蝋義歯を作製し, 7か所に設けた人工歯部の計測点の座標を同様にして計測した. 蝋義歯をFRPフラスクに埋没用石膏で埋没, 流蝋し, マイクロ波重合用レジンを填入した. 重合は出力500Wの電子レンジで行った. マイクロ波の照射は, 1)人工歯部側から3分, 2)粘膜面側から3分, 3)人工歯部側から1分30秒後に粘膜面側から1分30秒, 4)粘膜面側から1分30秒後に人工歯部側から1分30秒の4条件で行った.照射後, 30分間室温で放冷後, 30分間水冷した. その後, フラスクから義歯を取り出し,粘膜面および人工歯部の計測点の座標を計測した. 計測後, 義歯を37℃の蒸留水中に保存し, 1, 2, 3, 5, 7, 14および30日後にも計測した. さらに, 各時期の義歯重量を計測した. また, 温熱重合法による義歯も作製し, 同様の計測を行った. なお, 義歯は各重合条件につき5床ずつ作製した. 以上について, 次の結果を得た. 1)マイクロ波重合義歯の人工歯部では, 前後方向の収縮が大きく, 左右の犬歯間や第二小臼歯間の収縮がほとんどなかったために, 変形は大きかった. 一方, 湿熱重合義歯では, 変形は小さかった. 2)マイクロ波重合義歯の粘膜面歯槽頂部の変形は照射条件によって差があった. すなわち, 粘膜面側から3分間照射した義歯では変形は小さく, 人工歯部側から3分間照射した義歯では,前後方向に収縮したために, 変形は大きかった. 湿熱重合義歯では, 前後方向に比べて左右方向, とくに左右上顎結節間が大きく収縮したために, 変形は大きかった. 3)マイクロ波重合した義歯の床縁部の変形も照射条件によって差があった. すなわち, 粘膜面側から3分間照射して重合した義歯では変形は小さく, これに対して, 人工歯部側から3分間照射した義歯では, 犬歯部床縁が変位したために, 変形は大きかった. 湿熱重合義歯では, 犬歯部床縁の変位と上顎結節部床縁の人工歯側への浮き上りのために, 変形は大きかった. 4)いずれの重合法の場合もほとんどの計測点間距離は収縮した. しかし, 重合7日後以降は徐々に収縮は小さくなり, 重合30日後には重合前よりも膨張した計測点間距離もあった. また, 義歯の重量も, 重合1日後にいったん減少するが, その後は重合30日後に至るまで徐々に増加した. 5)以上から, マイクロ波重合義歯は, 従来の湿熱重合義歯に比べて, 人工歯部の変形は大きいが, 粘膜面部の変形は, 照射を粘膜面側から行うことによって小さくできることがわかった.
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