摂食嚥下機能のうち,嚥下反射惹起運動は末梢からの求心性刺激が必要である.嚥下反射惹起において,口腔器官は重要な運動器官であり感覚器官でもある.運動機能は,感覚のフィードバックのもとにコントロールされるため,口腔からの求心性刺激は摂食嚥下機能に影響を及ぼす.本研究では,口腔粘膜への感覚入力が随意的嚥下反射惹起運動に及ぼす影響を検討した.
対象は2020年12月から2021年7月までの期間わかくさ竜間リハビリテーション病院回復期リハビリテーション病棟入院加療中患者のうち,3食経口摂取可能な満65歳以上の高齢者とした.脳血管疾患,神経疾患および三叉神経領域に神経損傷の既往のある者,顎顔面領域に自他覚的に異常感覚がある者および認知機能が低下した者を除外し,参加の同意が得られた者に実施した.対象者を伸張刺激群と振動刺激群とにランダムに割付け,刺激前後でRSST,RSST積算時間,口腔粘膜湿潤度および最大舌圧等を測定し刺激の違いによる変化を調べた.
RSSTにおいては,伸張刺激群と振動刺激群ともに刺激前と比較して有意に嚥下回数の改善を認めた(p<0.05).また,刺激間で有意差は認めなかった.RSST積算時間は3回目までの嚥下反射運動について測定し,伸張刺激群のみ有意に改善した(p<0.05).口腔粘膜湿潤度と最大舌圧においては両刺激ともに刺激前後で有意差を認めなかった.振動刺激群において刺激前後でRSST積算時間に有意差を認めなかったことは,振動刺激の受容器が速順応性であり一時的に感覚鈍麻になった事によると考えられる.そのため,順応による感覚鈍麻や振動刺激の効果の検証にはRSST積算時間において4回目以降の変化を測定し,再度検証する必要があると考える.
本研究により,口腔粘膜への伸張と振動刺激は,末梢からの求心性入力により嚥下反射惹起運動を促進する可能性があると考えられた.
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