植生学会誌
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25 巻, 1 号
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原著論文
  • 島田 和則, 勝木 俊雄, 岩本 宏二郎, 齊藤 修
    原稿種別: 本文
    2008 年 25 巻 1 号 p. 1-12
    発行日: 2008/06/25
    公開日: 2017/01/06
    ジャーナル フリー
      1. 東京都多摩地方南西部の八王子市,日野市において,コナラ・クヌギ二次林の管理形態と群落構造や出現種数など植生に関わる要素の関係を整理し,特に現在の社会的背景に合わせた新しい管理主体による適切な管理のあり方を探るために,植生調査および管理方法についての聞き取りを行い,統計解析を行った.
      2. 管理の主体,目的および継続性から,調査した林分を,旧来の所有者あるいは利用者により農業利用を目的に旧来の方法が継続されている「伝統的管理」,行政や組織化された市民ボランティア等により継続性をもって行われている「非伝統的管理」,所有者の移転時や行政主導の単年度事業等で単発的に管理が行われた「単発的管理」と,「放置」の4つの管理形態に区分した.
      3. 管理形態ごとに管理手法を比較すると,伝統的管理では下刈りは年1回冬季で,落葉採取が行われ,管理の中断期間のない林分が大半を占めた.非伝統的管理では時期や頻度は多様なパターンがみられ,落葉採取は大半で行われておらず,10年以上の管理中断期間のある林分が多かった.単発的管理は非伝統的管理と同様に時期は多様で,落葉採取が行われている林分はなかった.
      4. 林床管理の有無により,植生に関する要素の多くで有意な差が認められた.継続性のある管理によりササは抑えられることがわかった.低木第2層のササ以外の常緑種と落葉種の被度は,継続性はなくても管理があれば抑えられることがわかった.夏緑多年草の種数は管理の継続性と中断期間に,一・二年草の種数は管理手法との間に有意な差が認められた.
      5. 新たな主体によって管理を行う場合,長期の管理中断期間のない林分を優先的に選び,種多様性の維持やササの抑制に効果の低い単発的管理を手広く行うよりは,限られた場所でも継続的に管理をする方がこれらについて効果的と考えられた.
  • 鈴木 重雄
    原稿種別: 本文
    2008 年 25 巻 1 号 p. 13-23
    発行日: 2008/06/25
    公開日: 2017/01/06
    ジャーナル フリー
      1. 南関東最大のタケノコ生産地域である千葉県夷隅郡大多喜町平沢集落において,竹林の拡大と人間活動との関係を明らかにすることを目的に,空中写真判読により竹林分布の変遷を明らかにし,タケノコの生産活動の変遷や竹林に隣接する植生・土地利用,斜面傾斜,道路からの距離と竹林拡大との因果関係を明らかにした.
      2. 調査地域での竹林の年間拡大率は1966-74年が1.086倍,1974-84年が1.010倍,1984-2001年が1.023倍であり,拡大の傾向が続いていた.集落全体での竹林の年間拡大率は,タケの植栽が盛んにおこなわれるタケノコ生産の拡大期には非常に高い値になり,タケノコ生産や管理が変動しない期間では低い値に,タケノコ生産が衰退し,管理の粗放化が生じると再び値が上昇する傾向がみられた.
      3. タケはいずれの植生・土地利用型の場所にも拡大をしていたが,特に放棄された畑地での拡大が著しかった.一方で,人為的に竹林化が防がれる水田,宅地などへの拡大は小さかった.
      4. 竹林への手入れが行き届きにくい30°以上の急傾斜地や道路から150m以上離れた場所で竹林の拡大が著しかった.
      5. 竹林の分布とタケノコ生産活動が密接に関係しているタケノコ生産地域では,地形や植生の条件が竹林管理の容易さに関わる要因として間接的に竹林の拡大速度に影響していた.
  • 服部 保, 南山 典子, 松村 俊和
    原稿種別: 本文
    2008 年 25 巻 1 号 p. 25-35
    発行日: 2008/06/25
    公開日: 2017/01/06
    ジャーナル フリー
      1. 水平分布の北限と垂直分布の上限の照葉樹林の種組成・種多様性を比較し,両者の相違を環境条件から考察した.
      2. 日本海側の北限においては秋田県,山形県,新潟県で26調査区,太平洋側の北限においては岩手県,宮城県で39調査区,上限においては栗野岳,紫尾山,高隈山で14調査区の調査を行った.
      3. DCA法によって79調査区を序列した結果,北限群と上限群の照葉樹林は各々異なった位置に序列された.
      4. 群落識別表によって北限群と上限群の照葉樹林の種組成を比較すると,北限群はタブノキ,オニヤブソテツなどの10種,上限群はアカガシ,シキミなどの16種によって区分された.北限群の識別種は準低温と潮風に耐性を持ち,上限群の識別種は低温に耐性を持つが潮風に耐性を持たないことが明らかとなった.
      5. 北限群と上限群の照葉樹林の生活形組成を比較すると,北限群は常緑多年草,上限群は照葉小高木,常緑着生シダの比率が高いことによって各々特徴づけられた.
      6. 照葉樹林の種多様性を比較すると,100m^2あたりの照葉樹林構成種数および県別・地域別の照葉樹林構成種数において北限の方が上限よりも少なかった.北限では低温条件以外に潮風条件が働くために,上限よりも種多様性が低いと考えられた.
  • 長岡 総子, 和田 美貴代, 畠瀬 頼子, 一澤 麻子, 阿部 聖哉, 奥田 重俊
    原稿種別: 本文
    2008 年 25 巻 1 号 p. 37-50
    発行日: 2008/06/25
    公開日: 2017/01/06
    ジャーナル フリー

      1. 河原の減少と高水敷化の進行が全国的に問題化しつつある中で,多摩川中流域に造成された礫河原における再生植生のモニタリングから,その動向および植生と立地環境との関係を解析した.
      2. 永久コドラートを設置し,植生については全出現種の種名,被度,草丈を,立地環境については礫径,礫の埋まり度,礫間を埋める細粒物質の割合,粒径組成,全炭素・窒素含有量を測定し植生と立地環境の対応関係を調べた.
      3. 2004年8月の調査データをもとに,群落タイプ区分を行った結果,ツルヨシ型,マルバヤハズソウ型,オニウシノケグサ型,メドハギ型,ヨモギ型,ハリエンジュ型の6型に区分され,これらの群落タイプは礫数,礫の堆積相,礫間の細粒物質(マトリックス)の割合などの表層礫の状況や土壌粒径組成に対応がみられた.
      4. 遷移の進行が遅い低茎草本群落のマルバヤハズソウ型は浮石状態か礫体の半分以上が表層に現れている礫で構成され,表層の礫層下部にはシルト・粘土分画の割合が比較的高い,硬い土壌の層が形成されているなどの条件のもとに成立した群落タイプであった.ハリエンジュ型はシルト粘土分画が極端に低く,遷移度が高かった.
      5. 持続可能な礫河原植生の再生を目指した自然再生事業では,造成以前の植生および表層下部の礫層についての検討の結果,礫間にマトリックスが堆積しないような礫で構成され,造成後の出水による土砂の堆積が生じにくい礫河原を造成することが重要である.
  • 小林 悟志
    原稿種別: 本文
    2008 年 25 巻 1 号 p. 51-61
    発行日: 2008/06/25
    公開日: 2017/01/06
    ジャーナル フリー
      1. 本研究は,南九州の30地域について,葉の表皮組織の違いによる判別をもとに,ツブラジイとスダジイおよび雑種の分布を明らかにすることを目的とした.
      2. 従来から行われてきた葉の表皮組織によるシイ類の判別法では,葉の任意の位置で観察されており,スダジイとツブラジイおよび雑種の判別を誤る可能性がある.本研究では,葉の横断面の全体が顕微鏡観察できる位置で観察領域を設定し,葉の表皮組織による判別をより正確なものにした.
      3. 南九州におけるシイ類の垂直分布は,海岸部では全標高域にわたってスダジイが卓越していた.一方,内陸部では,比較的標高の低い地域はツブラジイであるが,標高が高くなるにしたがいスダジイの分布する割合が高くなり,山頂や尾根沿いにはスダジイのみが分布していた.
      4. 内陸部の久木野では,スダジイは山頂から尾根部に多く,標高が低くなるにつれて個体数が少なくなる傾向が認められた.一方,ツブラジイは調査区域内のより標高の低い地域に多く,標高が高くなるにつれてその個体数が少なくなる傾向が認められた.また,雑種個体は標高の高低によって分布が偏る傾向は認められず,ツブラジイとスダジイの両種が混生している標高域に多く分布していた.
      5. 海岸部と内陸部の2地域で行った雑種個体における葉の表皮組織の1層と2層の割合は,周辺に分布するツブラジイとスダジイの分布状況を反映しており,両種の交雑によるF_1形成,ツブラジイまたはスダジイと雑種との戻し交雑,雑種同士の交雑等,分布域によって異なる交雑様式が進行していると考えられた.
      6. 堅果の形態は,採集場所ごとに異なっていたが,その形態は葉の表皮組織で判別した両種の母樹の分布状況を反映していた.
  • 栃本 大介, 服部 保, 岩切 康二, 南山 典子, 澤田 佳宏
    原稿種別: 本文
    2008 年 25 巻 1 号 p. 63-72
    発行日: 2008/06/25
    公開日: 2017/01/06
    ジャーナル フリー
      1. 宮崎県綾町綾南川上流の大森岳に分布する照葉樹林において,樹木の樹幹・枝上に付着する植物の調査を行い,着生植物の種多様性と樹木の個体サイズとの関係について解析した.また,同一地域の低海抜地で得られた川中の資料を用いて,両調査地における着生植物の種組成を比較した.
      2. アカガシ,イスノキ,タブノキなどの照葉樹14種,夏緑樹1種の133個体に付着する植物を調査した結果,マメヅタ,ヒメノキシノブ,マメヅタラン,シノブなどの着生植物22種,テイカカズラ,イタビカズラなどのつる植物10種,ヒノキバヤドリギなどの寄生植物2種,総計34種を確認した.
      3. 着生植物の種数と樹木サイズ(DBH,樹高,樹高と胸高周囲の積)には有意な強い正の相関が認められ,全樹種,アカガシ,イスノキ,タブノキにおける着生植物種数とDBHとの関係を表す有意な回帰式を得た.
      4. 出現頻度と平均被度面積(m^2)の比較表とDCAを用いて,今回の調査地である高海抜地と低海抜地(川中)における着生植物の種組成を比較したところ,両者には明瞭な違いが認められた.
      5. 両調査地において着生植物の種組成に差異がみられた要因としては,海抜差に基づく気温条件や雲霧,降水量条件の違いが考えられた.
      6. 着生植物種数とDBHとの回帰式には,高海抜地と低海抜地で差が認められた.高海抜地では回帰式の傾きが大きく,着生植物の付着しにくいイスノキでも有意な回帰直線が得られた.高海抜地では雲霧の発生頻度が高く,着生植物の生育にとって好適な環境条件にあることから,低海抜地と比較して着生植物の種多様性が高くなるものと推察された.
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