1. 北アルプス後立山連峰北部において,亜高山性広葉草原(シナノキンバイ-ミヤマキンポウゲオーダー)の種組成と立地環境について明らかにし,本地域の植生の特性について検討した.
2. 調査の結果,本地域の広葉草原には下記の7群集1群落3亜群集が確認された.
ダケカンバ-ミヤマキンポウゲクラス
Betulo ermanii-Ranunculetea acris japonici Ohba 1968
シナノキンバイ-ミヤマキンポウゲオーダー
Trollio-Ranunculetalia acris japonici Ohba 1973
シナノキンバイ-ミヤマキンポウゲ群団
Trollio-Ranunculion acris japonici Ohba 1969
アシボソスゲ-イワオウギ群集
Carici brevisquamae-Hedysaretum vicioidis Ohba 1974
クロトウヒレン-ミヤマシシウド群集
Saussureo-Angelicetum matsumurae Ohba1967
典型亜群集
typicum
ヒトツバヨモギ亜群集(新)
artemisietosum sub ass. nov.
コバイケイソウ亜群集(新)
veratrietosum sub ass. nov.
ユキクラトウウチソウ-オオヒゲガリヤス群集
Sanguisorbo kishinamii-Calamagrostietum longearistatae Ohba 1974
ハクサンボウフウ-モミジカラマツ群集
Peucedano multivittatae-Trautvetterietum japonicae Ohba 1974
オニアザミ群落
Cirsium nipponense community
カライトソウ-オオヒゲガリヤス群集
Sanguisorbo hakusanensis-Calamagrostietum longearistatae Ohba 1974
オオヒゲナガカリヤスモドキ群集
Miscanthetum intermedius Ohba et al. 1978
ミヤマイ群集
Juncetum beringensis Miyawaki, Ohba et Okuda 1969
3. 本調査地では標高と地形(斜面型や斜面傾斜),地質に応じた7群集1群落3亜群集が分布していることが確認された.
4. 森林限界より上部では,クロトウヒレン-ミヤマシシウド群集がもっとも広い分布域を有し,蛇紋岩植生のユキクラトウウチソウ-オオヒゲガリヤス群集もこの標高域に成立し,稜線附近にはアシボソスゲ-イワオウギ群集が成立する.森林限界以下の等斉斜面から凸型斜面にはカライトソウ-オオヒゲガリヤス群集,オニアザミ群落が,凹型斜面には,オオヒゲナガカリヤスモドキ群集が成立する.ハクサンボウフウ-モミジカラマツ群集とミヤマイ群集は森林限界の上下にわたる広範な範囲で等斉斜面から凹型斜面に成立していた.
5. 森林限界以上に成立する群集・群落のうち,アシボソスゲ-イワオウギ群集では周北極要素が多く,その他の植生単位では太平洋要素が多かった.森林限界より下に成立する群集・群落は低山要素,もしくは清水(1983)の高山植物に該当しない低標高域の種が多かった.
6. 広葉草原の分布要素に標高や地形に応じた違いが認められた.このことは,広葉草原が亜高山帯の雪崩斜面を本拠地としながら,多雪環境に応じて上は高山帯,下は山地帯上部にまでその分布域を広げていること,そして,広葉草原の成立要因を議論する際に,気候変動に伴う植生変遷を考慮すべきであることを示唆している.
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