植生学会誌
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33 巻, 2 号
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原著論文
  • 丸山 知裕, 島野 光司
    2016 年 33 巻 2 号 p. 53-64
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/12/25
    ジャーナル フリー

     長野県松本市周辺で準絶滅危惧種のチョウ,クロツバメシジミとその食草ツメレンゲの生息・生育環境を明らかにし,その保全のための方法を論じた.調査は長野県松本市,安曇野市の河畔で行った.この内,田沢地区はクロツバメシジミの食草であるツメレンゲは存在したが,成蝶も卵もなかった.クロツバメシジミの存在する地区と存在しない地区で植生の違いは認められなかった.しかしながら,クロツバメシジミの分布しない田沢地区では,ツメレンゲの分布範囲が23.3 × 3 m と小さく,その密度も0.26 /m2 と低かった.クロツバメシジミを保護するためには,食草であるツメレンゲの分布範囲を広く,その密度を高く保つ必要があろう.河川上流のダムによる河川氾濫頻度の減少が河畔の樹木の更新を支えることになっており,これがツメレンゲの生育の妨げになっていることが考えられる.そのため,河畔における人工的な樹木の伐採などがクロツバメシジミの生存やその食草であるツメレンゲの生育に必要であろう.

  • 李 娥英, 冨士田 裕子, 五十嵐 博
    2016 年 33 巻 2 号 p. 65-80
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/12/25
    ジャーナル フリー

     湿地生態系における生物多様性は,湿地周辺での農業活動や都市化のような様々な人為攪乱によって脅かされている.湿地の農地開発前後の植物相調査データを比較することにより,湿地の荒廃に伴う植物相の変化の特徴を明らかにすることを本研究の目的とし,北海道南部の静狩湿原で植物相調査を実施し,植物リストを作成した.リストでは,さらに開発以前に実施された植物リストと我々が作成した植物リストに出現する植物種を,湿地性在来植物種/非湿地性在来植物種/湿地性外来植物種/非湿地性外来植物種の4つの属性に区分し,絶滅危惧植物種と準絶滅危惧植物種も区別した.開発以前の植物リストと比較したところ,開発以後の方が維管束植物種の全体種数は増加していた.その内訳をみると,湿地性在来植物種の出現数は減少し,一方,非湿地性在来植物種,湿地性外来植物種,非湿地性外来植物種は増加していた.次に,開発以前の植物リスト,開発以後の残存湿原部植物リスト,湿原周辺部(湿原を道路,排水路,植林地に変えたところ)植物リストごとに,科別,属性別の種数を算出した.開発以後に残存湿原部で顕著に減少したのは,カヤツリグサ科とイグサ科の湿地性在来植物種であった.残存湿原部で多くのカヤツリグサ科とイグサ科の湿地性在来植物種が消失していたことから,これらの植物種は人為撹乱に敏感であり,生態的耐性が低いことが示唆された.一方,湿原周辺部では,キク科,イネ科,バラ科の湿地性在来植物種以外の属性の植物種が多く出現した.特に,湿原周辺部で新たに出現したキク科とイネ科の植物種は,人為撹乱に対して強い耐性を持ち,湿原域へ侵入しやすいことが示唆された.また,湿原面積の減少は希少植物種の消失につながることが示唆された.

短報
  • 米林 仲, 荒井 裕二, 比嘉 基紀
    2016 年 33 巻 2 号 p. 81-87
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/12/25
    ジャーナル フリー

     ニワウルシ(Ailanthus altissima)は世界各地で脅威を与えている侵略的外来樹木であるが,わが国ではハリエンジュほどには問題にされていない.野外で刈取りと火入れを行い,ニワウルシのシュート再生を調査した結果,シュート密度は0.27から2.79本/m2に増加した.さらに,根や切り株からの無性繁殖は切り株密度が高いほど多かったのに対し,種子からの有性繁殖は切り株密度が高い地点の方が少なかった.また,実生の大きさは,切り株からの萌芽や根萌芽よりも小さかった.ニワウルシは処理前のシュート密度が高い場合は,切り株や根から多くのシュートを再生した.有性繁殖は成長や競争にとって不利だが,ニワウルシは切り株や根がない場合には種子発芽により分布を広げた.これらの結果は,刈取りが無性繁殖を促進し,火入れが競争者を抑制することにより実生の成長と個体群の拡大を促進するため,ニワウルシの抑制を目的とした冬季の刈取りと火入れは避けるべきであることを示している.

  • 鳥居 太良, 冨士田 裕子
    2016 年 33 巻 2 号 p. 89-97
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/12/25
    ジャーナル フリー

    1. 外来種オニハマダイコンの出現状況と群落の組成を把握することを本研究の目的とし,北海道の6地域の砂質海岸で植生調査を行った.調査は,砂質海岸の後浜から第一砂丘の前面で行った.

    2. 後浜の中でも汀線に近い打ち上げ帯でオニハマダイコンの出現頻度,優占度が高く,オカヒジキ-オニハマダイコン群落が認められた.さらに内陸側の後浜後部から第一砂丘前面にかけてのハマニンニク帯と呼ばれるゾーンの群落内でもオニハマダイコンは生育していた.

    3. 十勝の大津海岸の調査区には,オニハマダイコンが出現しなかった.これは,オニハマダイコンがすでにこの地域に定着しているものの,他の地域に比べ出現頻度が低いことから,調査測線上に生育していなかったためと考えられた.

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