植生学会誌
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29 巻, 1 号
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原著論文
  • 石田 弘明, 山名 郁実, 小舘 誓治, 服部 保
    原稿種別: 本文
    2012 年 29 巻 1 号 p. 1-13
    発行日: 2012/06/25
    公開日: 2017/01/06
    ジャーナル フリー
    1. 淡路島の森林伐採跡地(皆伐前の植生はウバメガシ群落)とその周辺部において各種の調査を行い,外来木本ナンキンハゼの逸出状況とその優占群落の生態的特性を明らかにすると共に,ナンキンハゼ群落の成立に必要な要因について検討した.
    2. 約4haの範囲を対象にナンキンハゼの逸出個体(樹高1m以上)の空間分布を調査した.伐採跡地には1118個体が分布していたが,伐採跡地に隣接するウバメガシ群落にはまったく分布していなかった.また,優占群落が確認された場所は植栽個体から100m以内に位置していた.
    3. 伐採跡地ではウバメガシ群落の主要構成樹種であるウバメガシ,コナラ,ネズミモチ,マルバアオダモなどや暖温帯の代表的な先駆性樹種であるアカメガシワ,タラノキ,カラスザンショウなどがほとんどみられなかった.この主な原因はニホンジカによるこれらの種の食害であると考えられた.
    4. 調査地のナンキンハゼ群落の主な成因は, 1) ウバメガシ群落の皆伐によってまとまった面積の陽地が形成されたこと, 2) 伐採跡地の近傍(100m以内)に種子供給源があったこと, 3) ナンキンハゼの競合種の定着と成長がニホンジカの採食によって阻害されたことであると考えられた.
    5. ナンキンハゼ群落と在来植物群落(コシダ群落,ウラジロ群落,裸地群落,ウバメガシ群落)に1m^2の調査区を合計94個設置して植生調査と土壌調査を行った.これらの調査結果を群落間で比較したところ,裸地群落ではニホンジカの影響による表土の流亡が認められたが,ナンキンハゼ群落の表土はウバメガシ群落のそれとよく似ていた.一方,種多様性(1m^2あたりの種数)は全種,在来種ともにナンキンハゼ群落が最も高く,他の群落との差は大きかった.ナンキンハゼの優占はニホンジカの採食による表土の流亡と種多様性の低下をある程度抑制していることが示唆された.
    6. 逸出個体の最大樹高は7.6mであったが,植栽個体のそれは19.0mであった.また,逸出個体では樹高成長の頭打ちは認められなかった.これらのことは,ナンキンハゼ群落が今後も成長を続け,長期にわたって持続する可能性が高いことを示唆している.このような事態の発生は生態系保全上の様々な問題を引き起こす可能性があると考えられた.
  • 志津 庸子, 曽出 信宏, 八代 裕一郎, 小泉 博, 大塚 俊之
    原稿種別: 本文
    2012 年 29 巻 1 号 p. 15-26
    発行日: 2012/06/25
    公開日: 2017/01/06
    ジャーナル フリー
    1. 落葉広葉樹林皆伐後の初期遷移パターンを明らかにした.樹高1.3m以上の全幹について,胸高直径(DBH)と樹高(H)を測定し,林分構造,種組成,主要構成種の動態(成長速度,枯死,加入)を皆伐後の7年目春(2005年5月)から10年目秋(2008年11月)にかけて追跡調査を行なった.
    2. 皆伐後の群落構造は7年目春から10年目秋にかけ群落高が3.8mから5.4m,胸高断面積面積(BA)が3.5m^2ha^<-1>から10.2m^2ha^<-1>, 200m^2あたりの幹数密度が814本から966本へと大きく増加した.一方,種数や多様度指数H'は大きな変化が見られなかった.
    3. BAに基づく優占度は,皆伐後7年目において亜高木種のウワミズザクラ,低木種のノリウツギが高く,次いで高木種のダケカンバ,低木種のクロモジであった.種子散布により侵入したウワミズザクラと伐り株萌芽更新のノリウツギが高密度で出現することで優占群落を作っていた.
    4. ダケカンバは,調査期間中に優占度が高くなり, 10年目秋の樹高階分布ではダケカンバの優勢木が上層へ抜け,低木種や亜高木種に比べて個体サイズが大きくなっていた.一方,ノリウツギの優占度は低くなっていた.
    5. 皆伐直後に同時に発生したと考えられる各生活形の種は, 7年目春はどれもほぼ同じ個体サイズであった.このことから伐採後から7年目まではどの種も同じ速度で成長してきたと考えられた.しかし, 7年目から10年目にかけて相対成長速度は優占度上位4種中ダケカンバが有意に高く,ノリウツギが低かった.ノリウツギは枯死率も高かった.
    6. 皆伐後初期はどの種も同じ速度で成長するため, BAに基づくと種子や伐り株萌芽から高い幹数密度で出現した低木種や亜高木種が優占していた.しかし,林冠が混み合ってくると成長速度に種間差ができ,成長速度の高い高木種へ優占種の移り変わりがみられた.
  • 服部 保, 南山 典子, 栃本 大介, 石田 弘明, 黒田 有寿茂
    原稿種別: 本文
    2012 年 29 巻 1 号 p. 27-39
    発行日: 2012/06/25
    公開日: 2017/01/06
    ジャーナル フリー
    1. 東京都八丈島(一部御蔵島を含む)に分布する照葉樹林の種組成,階層構造,種多様性,生活形組成および成立要因について調査を行った.
    2. 八丈島の照葉樹林は自然性,優占種,分布地,立地条件の組合せによって,御蔵島・三原山のスダジイ自然林(I),三原山のスダジイ半自然林(II),八丈富士のスダジイ半自然林(III),八丈富士のタブノキ半自然林(IV)の4樹林に区分された.
    3. 識別表によって抽出した4つの植生単位と自然性,優占種,分布地,立地条件で区分した4樹林およびDCA法による序列の結果は一致した.
    4. 階層構造,種多様性,生活形組成(着生植物)において,自然林であるIと半自然林であるII, III, IVとは大きな差が認められた.
    5. I, II, III, IVの種組成は各々識別種によってお互いに区分された.
    6. 八丈富士のタブノキ半自然林(IV)は畑,切替畑等に由来する比較的近年に成立し,薪炭林として持続した樹林であり,八丈富士および三原山のスダジイ半自然林(II, III)は古くより薪炭林として利用されてきた樹林と認められた.
    7. 八丈富士のタブノキ半自然林と三原山のスダジイ半自然林という樹林タイプの違いは新旧の火山活動を直接反映したものではなく,侵食されていないスコリア堆積面の存在と近年まで切替畑や薪炭林として利用されていたことによると考えられた.
  • 斎藤 達也
    原稿種別: 本文
    2012 年 29 巻 1 号 p. 41-48
    発行日: 2012/06/25
    公開日: 2017/01/06
    ジャーナル フリー
    北海道低地のスキー場放棄地における樹林化の指標としてのススキ群落.斎藤達也(北海道大学大学院環境科学院)営業中のスキー場上における樹林化の指標として知られるススキ群落がスキー場放棄後においても樹林化の指標として有効かどうかを確認するため,北海道低地の放棄スキー場において群落と木本定着の関係を調査した.シラカンバやカラマツなどの非耐陰性木本種は,光環境が最も良好であったススキ群落によく定着していたが, TWINSPANにより抽出された他の群落型には,ほとんど定着していなかった.ススキ群落内の良好な光環境は,その低い植被率によると考えられた.放棄から5年経過したスキー場上の木本類の樹齢-樹高関係の解析の結果,ススキ群落内の木本類の更新は順調であることが明らかになった.以上より,ススキ群落はスキー場放棄後の樹林化を予測するための指標として有効であることが確認された.
  • 石田 弘明, 服部 保, 黒田 有寿茂, 橋本 佳延, 岩切 康二
    原稿種別: 本文
    2012 年 29 巻 1 号 p. 49-72
    発行日: 2012/06/25
    公開日: 2017/01/06
    ジャーナル フリー
    1. シカの生息密度(以下,シカ密度)が異なる屋久島低地部の複数の場所において照葉二次林と照葉原生林の植生調査を行い,シカ密度の低い照葉二次林(以下,低シカ密度二次林),シカ密度の高い照葉二次林(以下,高シカ密度二次林),シカ密度の低い照葉原生林(以下,低シカ密度原生林)の階層構造,種組成,種多様性を比較した.
    2. 第2低木層(高さの上限は2m前後)の植被率は高シカ密度二次林の方が低シカ密度二次林よりも有意に低く,シカの強い採食圧が第2低木層の植被率を大きく低下させることが明らかとなった.また,二次林の全調査林分を対象に第2低木層の植被率とシカ密度の関係を解析したところ,両者の間にはやや強い負の有意な相関が認められた.
    3. DCAを行った結果,全層の種組成は低シカ密度二次林と高シカ密度二次林の間で大きく異なっていることがわかった.特に下層(第2低木層以下の階層)ではこの差が顕著であり,多くの種が低シカ密度二次林に偏在する傾向が認められた.これらのことから,シカの強い採食圧は屋久島低地部の照葉二次林の種組成を著しく単純化させると考えられた.ただし,ホソバカナワラビやカツモウイノデなどは高シカ密度二次林に偏在する傾向にあり,シカの不嗜好性が高いことが示唆された.
    4. 高シカ密度二次林の下層の種多様性(100m^2あたりの照葉樹林構成種数)は低シカ密度二次林のそれよりも有意に低く,前者は後者の50%未満であった.また,このような傾向は高木,低木,藤本のいずれの生活形についても認められた.
    5. 二次林の種多様性とシカ密度の関係を解析した結果,全層,下層,第2低木層では両変数の間にやや強い負の有意な相関が認められた.
    6. 低シカ密度二次林と低シカ密度原生林を比較したところ,前者は後者よりも種組成が単純で種多様性(特に草本,地生シダ,着生植物の種多様性)も非常に低かった.この結果と上述の結果から,屋久島低地部の照葉二次林の自然性は照葉原生林のそれと比べて格段に低いこと,また,シカの強い採食圧はその自然性をさらに大きく低下させることがわかった.
    7. 屋久島低地部の照葉二次林の保全とその自然性の向上を図るためには,シカの個体数抑制や防鹿柵の設置などが必要である.また,照葉二次林の自然性を大きく向上させるためには種子供給源である照葉原生林の保全が不可欠であり,その対策の実施が急務であると考えられた.
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