植生学会誌
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15 巻, 2 号
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原著論文
  • 野嵜 玲児, 守屋 惠美, 佐野 夏江
    原稿種別: 本文
    1998 年 15 巻 2 号 p. 79-93
    発行日: 1998/12/25
    公開日: 2017/01/06
    ジャーナル フリー
      1.兵庫県東播磨南部の溜池土手や禿山に成立している絶滅危惧種ウンヌケを含む二次草原について,植物社会学的方法による調査・解析を行い,表操作の結果1群集,2群落を区分した.
      2.東播磨南部のウンヌケを伴う二次草原は,ウンヌケ,ウンヌケモドキ,イシモチソウなどの標徴種群によって,ススキートダシバ群団に所属する新群集,ススキーウンヌケ群集にまとめられた.
      3.ススキーウンヌケ群集は,寡雨,貧栄養基質,製塩・窯業のための濫伐,山火事の多発など,森林の成立を阻む諸要因が複合的に強く働いた地域に成立した二次草原群集と考えられる.
      4.ススキーウンヌケ群集の分布は,禿山の景観が卓越する流紋岩質凝灰岩(姫路酸性岩類)の露出地域とほぼ一致していた.
      5.ススキーウンヌケ群集を含む日本の二次草原は,大陸熱帯系のイネ科フロラと大陸温帯系の広葉草本フロラとが一体となった,わが国独特の植生であることを指摘した.
      6.ススキーウンヌケ群集などが成立する溜池の土手草地は,規模こそ小さいものの各地に遍在するうえ,土手の維持を目的に行き届いた草地管理が行われている点で,生物多様性の保全上重要な存在であることを指摘した.
  • 阿部 聖哉, 奥田 重俊
    原稿種別: 本文
    1998 年 15 巻 2 号 p. 95-106
    発行日: 1998/12/25
    公開日: 2017/01/06
    ジャーナル フリー
      1.本州中部地域の河畔に生育するヤシャブシ群落について植生調査を行い,植物社会学的方法による群落の区分を行った.
      2.調査の結果,全ての資料はヒメノガリヤス-ヤシャブシ群集に同定され,典型亜群集,オノエヤナギ亜群集の2つの亜群集に分けられた.オノエヤナギ亜群集は,フサザクラ変群集,典型変群集,タニウツギ変群集の3変群集に区分された.典型亜群集は,典型変群集とコアカソ変群集の2つにわけられた.
      3. DCA法による解析の結果,ヤシャブシ群落の下位単位分化は,主として標高および積雪環境によって説明された.また,区分種であるヤナギ類の生態的特性から,直接的には温度や積雪のもたらす河川の流出特性が下位単位分化に影響していると推察された.
      4.群落高は種組成傾度との間には相関関係が認められたが,区分された下位単位との対応は認められなかった.
  • 齋藤 信夫
    原稿種別: 本文
    1998 年 15 巻 2 号 p. 107-115
    発行日: 1998/12/25
    公開日: 2017/01/06
    ジャーナル フリー
      1.本州の最北端,青森県の津軽半島に発達するミズナラ林の種組成と分布傾向を調査した.その結果,ミズナラ-カシワ群落,ミズナラ-サワシバ群集,ミズナラ-オオバクロモジ群集を識別できた.
      2.ミズナラ-カシワ群落はクルマバソウ-カシワ群集に近い群落であるが種組成は異質の群落である.津軽半島のミズナラ-サワシバ群集は北海道のミズナラ-サワシバ群集とは組成的には異なる可能性がある.また,東北地方のミズナラ-サワシバ群集も同様に北海道のものとは異なる.ミズナラ-オオバクロモジ群集は日本海岸気候域に広く分布し,階層的には多雪地に強く結びつく木本類や草本類が低木層以下に生育することが特徴といえる.
      3.ミズナラ-オオバクロモジ群集は津軽半島内陸部に多く分布する傾向があり,ミズナラ-サワシバ群集は小泊村,平舘村,今別町などの津軽半島北部の渓谷沿いに局部的に分布している.ミズナラ-カシワ群落は岩木川,増川川,蟹田川などに起因する河岸段丘斜面や海岸近くの海岸段丘斜面などに分布している.
      4.気候要因との関連では,ミズナラ-オオバクロモジ群集は多雪,多湿,寒冷傾向の地域に分布している.ミズナラ-サワシバ群集は他の群落に比べ降雪量が少ない地域に分布しているが,地形要因,土地的要因などもはたらいているものと推測される.ミズナラ-カシワ群落の分布には季節風や海からの風が関係していることが推測される.
  • 土谷 彰男, 根本 正之
    原稿種別: 本文
    1998 年 15 巻 2 号 p. 117-124
    発行日: 1998/12/25
    公開日: 2017/01/06
    ジャーナル フリー
    気候ストレスの他に一斉伐採や放牧などの攪乱の影響下で生育するブラジル北東部の落葉有刺低木林(カーチンガ群落)の植生回復を調べるために,放棄後4年,10年,20年経過した林分で種構成と立地の特徴を比較した.放棄復4年の群落では300m^2の調査区に5種の樹木と多年生草本のGaya aurea St. Hilが278個体確認された.10年後の群落ではG. aureaの個体数は増加したが,家畜による喫食によってその形態は変化していた.20年経過した群落では林床をパッチ状に覆う有刺性のBromelia laciniosa Mart. ex Schult.が家畜の侵入を阻み,それによって樹木の個体数・種数ともに増加した.その中には材密度が低く,耐乾性の小さい樹種も含まれていた.群落は全体として,構成種と植生構造を変えながら,現存量(生重量)は放棄復4年目の100m^2当たり33.03kgから20年目の769.10kgへ増加した.
  • 小林 圭介, 名迫 素代, 森本 幸裕
    原稿種別: 本文
    1998 年 15 巻 2 号 p. 125-138
    発行日: 1998/12/25
    公開日: 2017/01/06
    ジャーナル フリー
      1.大津市は琵琶湖の西と南に広がり,西側地域は京都府と琵琶湖の間に位置して南北に細長く,南側地域では東西に長い,全体としてL字形を形成している.また,市域面積が302.29km^2と広いこともあって,その自然環境は琵琶湖の成因とともに極めて複雑であり,長年の人為的影響によって植生と自然景観はさらに複雑化している.
      2.1995年から1996年にかけて,現地調査によって収集した植生調査資料と既存資料,合計611地点の資料をコンピューター処理をして,植物社会学的な植生単位の抽出を行なった.識別した植生単位に基づいて,5万分の1の現存植生図,植生自然度図,潜在自然植生図を作成したが,ここでは省略されている.
      3.大津市の自然景観について,現存植生図に基づいてメッシュ図によって解析した.まず,現存植生から8項目の景観構成要素に分類し,各景観構成要素についてメッシュ内占有面積から景観優占度級を求め,さらに8景観構成要素について景観優占度級分布図を作成した.次に,景観構成要素の優位さを判定基準によって3階級に分類した.最後に,メッシュ内の景観を判定して景観分布図を作成し,解析した.
      4.相対自然度を用いて大津市の自然性の評価を行なった.相対自然度は,植生自然度の値とそれらの面積的な広がりから求め,メッシュ図に相対自然度の分布状態を示して相対自然度分布図を作成した.相対自然度とメッシュ数の関係,相対自然度分布図から,大津市の自然性の評価と1979年に作成した相対自然度分布図から相対自然度の変化を考察した.
      5.総合評価では,景観分布図と相対自然度分布図をオーバーラップさせ,保全の方向性を示した4つの区域区分を行ない,自然景観・自然環境評価区域の分布図を作成した.それら評価区域は,I : 自然性の高い植生を有する区域, II : 自然景観・自然環境に富む区域, III : 自然景観・自然環境が残存する区域, IV : 自然景観・自然環境に乏しい区域の4評価区域である.そして,それぞれの評価区域の位置づけと大津市の自然景観・自然環境の総合評価を行なった.
  • 中村 徹, 郷 孝子, 李 永宏, 林 一六
    原稿種別: 本文
    1998 年 15 巻 2 号 p. 139-145
    発行日: 1998/12/25
    公開日: 2017/01/06
    ジャーナル フリー
    内蒙古草原のAneurolepidium chinenseの優占する群落において,放牧による種組成の変化を実験的に解明した.羊の放牧密度を変えた6つの実験区(0, 4, 8, 12, 16, 20頭/ha)で,1年間あたり45日間の放牧を7年間繰り返したあと,群落構成種を調査し,放牧圧に対する反応によって構成種を4つのタイプに分けることができた.タイプIは,放牧圧が高まるにつれて優占度を低くするAneurolepidium chineseとStipa grandisのようなタイプである.タイプIIは逆に,放牧圧が高まれば高まるほど優占度が高くなる種群で,Potentilla acaulisやCarex korshinskyiなどがこれに含まれる.タイプIIIはChenopodium aristatumなど,強度に放牧圧のかかるところで出現する種群である.Kochia prostrataやPotentilla tanacetifoliaなどは放牧圧にほとんど影響を受けない種群で,これらをタイプIVとした.タイプIIの種の相対優占度が高いところでは草原は後退の兆候を示しており,タイプIIIの種が出現する12頭区以上の区では,平均群落高が6cm以下となり種多様性指数H'も急激に減少し,草原の後退が進むと判断された.
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