植生学会誌
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32 巻, 2 号
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原著論文
  • -ヌマハコベ群落とカラフトノダイオウ群落の種組成と立地-
    佐藤 雅俊
    2015 年 32 巻 2 号 p. 69-80
    発行日: 2015/12/25
    公開日: 2016/01/01
    ジャーナル フリー
    1. 釧路湿原国立公園の湧水地において,新たにヌマハコベとカラフトノダイオウをそれぞれ優占種とする2 つの湧水辺植物群落の存在を認め,それぞれの種組成と立地を明らかにした.
    2. 調査は方形区法に従い,均質な植分に大きさ1 m×1 m の調査区を設置し,方形区内の維管束植物と蘚苔類の優占度および群度を記録した.確認された2 群落について,釧路湿原に既知の群落であるカラフトノダイオウ-エンコウソウ群集と比較した.このほか方形区の位置情報や表面土壌状況の記録と水温測定を加え,2 群落の立地で典型的な1 地点の湧水地を選び,簡易測量によって地形断面図を作成した.
    3. 2 群落には植物社会学的な植生体系上の上級単位であるオオバセンキュウ-タネツケバナ群団の標徴種であるオオバタネツケバナとオオバセンキュウが出現したので,両群落とも同群団に属すると判断された.しかしながら,群団標徴種の常在度がやや低いヌマハコベ群落は群団レベルの所属において検討の余地があると思われた.
    4. カラフトノダイオウ群落は,オオバタネツケバナやオオバセンキュウが高常在度で出現する点で,北海道内の大雪山高根ヶ原や十勝三股のカラフトノダイオウが主体となる群落と類似のものであった.一方で,本報のカラフトノダイオウ群落は,釧路湿原に記録されたカラフトノダイオウ-エンコウソウ群集と比較すると,エンコウソウの常在度と優占度がやや低く, クサヨシ,ツリフネソウ,オオカサスゲが欠落したので,低層湿原植生に位置づけられた同群集とは異なると判断された.
    5. ヌマハコベ群落の立地は,湧水が表面全体を浅く流れる砂の平坦面であったが,カラフトノダイオウ群落の立地は泥の緩斜面であり,両群落の立地は大きく異なっていた.同一の湧水地の範囲内であっても,湧泉と谷底面との比高差が小さい場所では前者の立地が形成され,比高差が大きい場所では後者の立地が形成されると考えられた.
  • 石川 幸男, 矢部 和夫, 山岸 洋貴
    2015 年 32 巻 2 号 p. 81-94
    発行日: 2015/12/25
    公開日: 2016/01/01
    ジャーナル フリー
    1. 北海道中央部ウトナイ湖北西岸において,ハンノキ林の侵入,成立過程を解明し,その要因を検討するために,幅5 m,長さ230 m から320 m の帯状区を5 か所設定し,地形断面を調査するとともに,生育する樹木個体の直径分布と齢構成も調査した.
    2. 調査地区では,湖岸から300 m から200 m ほど内陸に向かった側で標高が3 m 程度の完新世段丘が位置し,それより湖岸側に向かってごく緩やかに傾斜したのちに,標高2.5 m から2.1 m の海岸平野が広がっていた.さらにこの平野上で湖岸からおよそ50 m から20 m の範囲には縄文海進時に形成された砂丘があり,標高約2 m の湖岸に達していた.
    3. 各ラインの内陸端付近にはコナラを主体とする中生な立地の森林が分布し,それらは例外なく完新世段丘上であった.ハンノキ林は,ラインによって異なるものの,段丘面上でやや標高の低くなった湖岸側や海岸平野に分布しており,湖岸まで到達していた帯状区があった一方で,高茎湿生草原が残存している帯状区もあった.ハンノキ林内では,林冠個体以外に萌芽由来が主体となる多数のハンノキの小径幹があったものの,高さ2 m 未満の稚樹,実生は皆無であった.
    4. 林冠層のハンノキの幹齢は内陸側の中生立地の森林に接する部分でやや古い傾向があったものの,段丘の斜面上や海岸平野ではどの帯状区でもそれぞれ20 から30 年程度の範囲内に収まっていた.その平均値は調査地区の中央部のラインC で約52 年と最も古く,この地域で開発による排水が開始されてウトナイ湖の水位低下が始まった1950 年代半ばに対応する可能性が考えられた.その一方で流入河川に近く,調査地区の縁に位置するラインA とE では林冠層のハンノキの幹齢は35 年ないし30 年程度に減少しており,排水が一段落して水位低下が落ち着いた1970 年代末とほぼ一致していた.
    5. 既存資料によると,ウトナイ湖に流入する河川への土砂流入や堆積,水質の富栄養化は確認されていないことから,調査地域のハンノキ林は,水位低下による乾燥化が原因となってフェンや高茎湿生草原にハンノキ実生が定着し,その後に成林して形成されたものと推察された.また水位低下が終息している現在では,ハンノキ林の新たな拡大とハンノキ林自体の長期的jな維持の可能性は低いと判断される.
  • 黒田 有寿茂, 石田 弘明, 岩切 康二, 福井 聡, 服部 保
    2015 年 32 巻 2 号 p. 95-116
    発行日: 2015/12/25
    公開日: 2016/01/01
    ジャーナル フリー
    1. 屋久島低地部のスギ人工林における照葉樹林構成種のハビタットとしての機能について検討するために,下層植生(低木層および草本層)の発達したスギ人工林を対象に,植生調査を行った.この下層の発達したスギ人工林の種組成および種多様性(種多様性の尺度は調査区あたりの出現種数)の特徴を明らかにするために,先行研究で収集された照葉二次林,照葉原生林の植生調査資料を用い,3森林タイプ間で比較解析を行った.
    2. 下層植生の発達したスギ人工林において第一低木層に到達していた樹種は,トキワガキ,モクタチバナ,ヤマビワ,ヒメユズリハなど,被食散布型のものが主であった.屋久島の照葉樹林の代表的な林冠構成種である重力散布型のスダジイ,イスノキも第一低木層でみられたが,その出現頻度や平均被度は被食散布型の樹種のそれと比較して小さかった.スギ人工林では,これら被食散布型の一部の樹種が優勢に下層植生を形成していくと考えられた.
    3. 照葉樹林構成種の種多様性はいずれの森林タイプでも常緑高木,常緑低木,常緑木生藤本,地上生シダで高く,夏緑低木や草本では低かった.この傾向は,年間を通じて温暖湿潤な屋久島低地部が常緑性の木本種や比較的大型の地上生シダの生育に適しており,これらとの競合により夏緑性の種や短茎の草本が排除されやすい環境であることに起因していると考えられた.
    4. 群落適合度にもとづく表操作と調査区あたりの出現種数の比較から,スギ人工林では地上生シダが豊富であり,照葉樹林構成種の種多様性は照葉二次林と同程度であることがわかった.一方,スギ人工林では常緑高木,常緑低木,着生シダが貧弱で欠落傾向にあり,照葉樹林構成種の種多様性は照葉原生林に及ばないことがわかった.このような種組成および種多様性の差異は,スギ人工林の造成・管理時の人為攪乱と,人為攪乱に伴う立地環境の変化に起因すると考えられた.
    5. 常在度級III以上を示した照葉樹林構成種の種数比率はスギ人工林と照葉樹林で25%前後と同程度であった.また,照葉樹林で常在度級III以上を示した照葉樹林樹林構成種の約66%がスギ人工林でも常在度級III以上を示し,普通種として出現していた.一方,照葉樹林で常在度級I以下を示した照葉樹林構成種のうち,スギ人工林で常在度級III以上を示したものは約10%と少なかった.
    6. 屋久島低地部のスギ人工林は照葉樹林構成種のハビタットとして重要な存在といえる一方,人工林管理の継続される林分が有する一時的ハビタットとしての機能のみでは照葉樹林構成種の全ての要素を保全することは困難であり,その実現のためには,林相転換による永続的ハビタットの創出が不可欠と考えられた.
短報
  • 星野 義延, 根本 真理, 松波 敦, 村松 篤, 小西 道子
    2015 年 32 巻 2 号 p. 117-122
    発行日: 2015/12/25
    公開日: 2016/01/01
    ジャーナル フリー
    1. 東京都あきる野市の多摩川の河川堤防草原における9年間の植生変化を調べ,刈り取りの時期と回数の変更がオニウシノケグサに与えた効果について検討した.
    2. 初夏から晩秋にかけて年3回から4回行われてきた刈り取り管理を年2回に変更するとともに,大部分の在来種が地表になくオニウシノケグサが優占する3月と10月に刈り取り管理の時期を変更した.
    3. その結果,オニウシノケグサはまず被度が減少し,その後出現頻度も低下した.9 年目にはほぼ半数のコドラートで消滅し,出現コドラートでの平均被度が1% 以下となった.一方,この間にススキの被度が増加し,9 年目には平均被度が59.1% となり第1 優占種となった.
    4. 春先の刈り取り管理により地上部のバイオマスが除去されたダメージと,刈り取り回数が減少したために繁茂したススキなどとの競争による抑制効果によって,オニウシノケグサの被度と頻度が減少したと考えられた.刈り取り管理の時期と回数を工夫して継続することにより,オニウシノケグサを減少させること可能であることが明らかとなった.
  • 石田 弘明, 黒田 有寿茂, 服部 保
    2015 年 32 巻 2 号 p. 123-129
    発行日: 2015/12/25
    公開日: 2016/01/01
    ジャーナル フリー
    1. 兵庫県西宮市の市街地に位置する西宮神社の境内には,植栽由来のクスノキ(樹齢数百年)が優占する照葉人工林(以下,西宮神社林)が分布している.若齢の照葉人工林を対象とした研究はこれまでに数多く行われているが,西宮神社林のような高齢の照葉人工林を詳しく調査し,その種組成の特徴について検討した例はまだみられない.
    2. 本研究では,西宮神社林の植物相調査と植生調査を実施し,これらの調査結果を周辺地域に分布する照葉自然林の調査結果と比較することで,本社叢の種組成の特徴を明らかにした.
    3. 植物相調査の結果,西宮神社林では37 種の照葉樹林構成種が確認された. 周辺地域の照葉自然林に関する既往研究の結果(種数-面積関係を表わす2種類の回帰式)をもとに,西宮神社林の樹林面積から期待される照葉自然林の照葉樹林構成種数を推定したところ,西宮神社林の照葉樹林構成種数は照葉自然林のそれの69.8-72.4% であると推定された.また,西宮神社林と照葉自然林の植物相を比較した結果,西宮神社林では照葉自然林に生育する種が数多く欠落していた.これらのことから,西宮神社林は照葉自然林と比べて非常に単純な植物相を有していることが明らかとなった.
    4. 植生調査のデータを解析したところ,調査区スケールの種組成は西宮神社林と照葉自然林の間で大きく異なっており,西宮神社林では照葉自然林の構成種が数多く欠落する傾向が認められた.このことから,西宮神社林の調査区スケールの種組成は照葉自然林のそれよりも明らかに単純であることがわかった.
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