日本補綴歯科学会誌
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1 巻, 1 号
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依頼論文
117回学術大会専門医研修会から
  • 発症原因をコホート研究から紐解く
    藤澤 政紀
    2009 年 1 巻 1 号 p. 1-6
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/05/12
    ジャーナル フリー
    顎機能障害の疫学は未だ不明な点が多く,したがって治療方法も多岐にわたっているのが現状である.その一因としては,顎機能障害の発症には多くの寄与因子が複雑に関与していることが挙げられる.このような顎機能障害の研究および臨床の現状を踏まえると,治療方法の選択に際しては十分慎重な対応が要求されることになる.本稿は前向きコホート調査研究で実施された報告に焦点をあて,質問票による検査のみならず,下顎運動,圧痛閾値,心理特性といった診断上必要となる検査を実施した報告についてまとめた.これらの文献から,顎機能障害は女性に発症頻度が高いこと,また,発症に関与する因子としては,心理特性として不安傾向が高い場合が,下顎運動としては側方運動時に犬歯のガイドがない場合,圧痛閾値測定からは疼痛感受性の高い場合が将来の顎機能障害発症の寄与因子と考えられた.さらに,従来から報告されているようにブラキシズムが顎機能障害の発症に関与することも確認されている.
    顎機能障害の発症に関与するエビデンスの蓄積は,患者のみならず国民全体にとって価値ある情報となることから,今後もさらなるデータの収集が期待される.
  • パラファンクションと顎機能障害の発症
    馬場 一美, 小野 康寛, 西山 暁
    2009 年 1 巻 1 号 p. 7-12
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/05/12
    ジャーナル フリー
    睡眠時のパラファンクションである睡眠時ブラキシズムは顎機能障害(Temporomandibular Disorders; TMD)の原因因子として古くから注目され,両者の因果関係について数多くの研究成果が蓄積されてきた.また,覚醒時に行われる日中クレンチング(Daytime clenching)についてもTMDの原因因子として捉えられてきたが,近年,強力なクレンチングのみならず歯を合わせる程度の軽度な咬合接触を行う習癖(Tooth Contacting Habit; TCH)についても研究がすすみ,TMD患者の中に高頻度でTCHが認められることが明らかになってきた.また,TCHについては補綴歯科領域で対処を求められる咬合感覚異常との関連性が示唆されており,臨床的には検出できない咬合の不具合を訴える患者が高頻度で歯を合わせる習慣をもち,その結果としてTMD症状を呈するという臨床的な観察も報告されている.本総説では睡眠時ブラキシズムならびにTCHとTMDの関連についての最新の知見を紹介し,TMD患者のパラファンクションへの対応について解説する.
  • 顎機能障害に対する一般的な治療法
    松香 芳三
    2009 年 1 巻 1 号 p. 13-20
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/05/12
    ジャーナル フリー
    目的:補綴専門医を受診することの多い顎機能障害患者の診断ならびに一般的な治療法を紹介する.
    顎機能障害の診断・分類:顎機能障害の症型分類としては,世界的にはRDC/TMDが有名であり,本邦では日本顎関節学会の分類が使用されることが多い.
    顎機能障害の発症頻度:一般大衆内にも有症状者は多く,一部の症状は加齢に伴い自然治癒する可能性がある.治療を行う場合,症状の自然軽減を念頭に,治療の必要性を熟考する.
    顎機能障害の一般的な治療法:一般的な治療法としては,消炎鎮痛薬,家庭内療法・食餌制限,スプリント療法・咬合治療,理学療法,冷やしながらのストレッチ,抗うつ薬,筋弛緩薬,トリガーポイントに対する局所麻酔薬注射,顎関節腔内注射・洗浄などがあげられる.
    Teeth contacting habit:顎機能障害患者ではクレンチングやteeth contacting habit(TCH)を有している可能性が高い.この場合,精神的な集中時やストレス時に無意識のうちに上下歯のクレンチングをする可能性がある.これにより,顎関節や咀嚼筋に負荷がかかり,疼痛を誘発したり,疼痛が継続したりするため,患者にTCHを認識してもらう.
    結論:顎機能障害の治療は困難ではなく,患者の話に耳を傾けることにより,多くの解決法が見出されるので,思い切ってトライして頂きたい.
原著論文
  • 須藤 紀博, 三浦 賞子, 稲垣 亮一, 兼田 陽介, 依田 正信, 木村 幸平
    原稿種別: 原著論文
    2009 年 1 巻 1 号 p. 21-28
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/05/12
    ジャーナル フリー
    目的:CAD/CAM システム(cerconR smart ceramics, DeguDent) で製作したジルコニアオールセラミッククラウンに関し,支台歯の隣接面辺縁彎曲度の違いが適合精度に影響を与えるかについて検討した.
    方法:使用した原型は,上顎右側中切歯のオールセラミッククラウン支台歯を想定し,隣接面辺縁の歯頂側への彎曲を,1mm, 3mm, 5mm に設定した.試料は本システムの通法に従い,各5 個製作した.適合試験はブラックシリコーン印象材(BITE-CHECKER, GC) とホワイトシリコーン印象材(FIT-CHECKER,GC) を用いたレプリカ法にて,クラウンと歯型の間隙量を万能投影機(V16-D, Nikon) で測定することで評価した.
    結果:クラウンと歯型との間隙量は彎曲度1mm,3mm,5mm,それぞれについて34 ~ 53 μ m,29 ~59 μ m, 32 ~ 66 μ m であった.本ジルコニアオールセラミッククラウンにおいて,隣接面辺縁彎曲度の違いによる辺縁間隙量に有意差は認められなかった.しかし,近遠心側の辺縁間隙量は唇舌側に比べ,辺縁間隙量が大きくなる傾向があった.
    結論:CAD/CAM システムで製作したジルコニアオールセラミッククラウンの隣接面の辺縁彎曲度の違いは,辺縁適合性に影響がないことが明らかになった.
  • 河野 稔広, 槙原 絵理, 鱒見 進一
    原稿種別: 原著論文
    2009 年 1 巻 1 号 p. 29-37
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/05/12
    ジャーナル フリー
    目的:習慣性咀嚼が顔貌対称性および側方限界運動に影響を及ぼすか否かを明らかにすること.
    方法:骨格性顎顔面非対称が認められない正常有歯顎者20 名に対し,ロールワッテを用いて習慣性咀嚼側を測定した.つぎに各被験者の正貌をデジタルカメラで撮影した後,パーソナルコンピューター上で5本の顔面計測線の傾斜角を計測し,顔貌の偏位側を決定した.これらの結果から,習慣性咀嚼側と顔貌の偏位側との一致性についてκ値により検討した.また,各被験者のゴシックアーチを記録し,側方展開角および側方限界運動距離を算出した後,習慣性咀嚼側および非習慣性咀嚼側の2 群間における側方展開角および側方限界運動距離との関係について検討した.
    結果:顔貌対称性の評価に用いたすべての計測線は,習慣性咀嚼側の顎関節部へ収束するよう傾斜する傾向がみられた.また,習慣性咀嚼側と顔貌の偏位側との間には,中等度の一致性が認められた. さらに,習慣性咀嚼側への側方限界運動距離は反対側に比べ有意に長かった.
    結論:習慣性咀嚼は,顔貌対称性および側方限界運動に影響を及ぼすことが示唆された.
  • 大沼 典男, 猪子 芳美, 森田 修己
    2009 年 1 巻 1 号 p. 38-45
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/05/12
    ジャーナル フリー
    目的:咬頭嵌合位における咬合接触数と咬合機能時の顎頸部筋活動との関連性を筋電図にて検討する.
    方法:両側臼歯部の咬合支持を有する健常者20 名(女性7 名,男性13 名)の咬頭嵌合位における最大咬みしめ(MVC) と両側臼歯部コットンロール介在の最大咬みしめ(With MVC),各々3 秒間の咬筋(Mm),側頭筋前部(Tp), 顎二腹筋前腹(Dig), 胸鎖乳突筋(SCM) の筋活動を記録した.分析は咬頭嵌合位での咬合接触数多数群(咬合接触点9 以上: MG)と咬合接触少数群(咬合接触点8 以下: FG)に分類し,MVC時の各筋間での相対的筋活動(MVC/ With MVC) の比較はFriedman の検定, 筋間の相関関係はSpearman の順位相関,各筋のWith MVC とMVC 時の筋活動はWilcoxon の順位検定,FG とMG におけるMVC 時の各筋の相対的筋活動の比較はMann-Whitney のU 検定を用いた.
    結果:MVC 時のMm, Dig, SCM の筋活動はWith MVC 時と比較して11 ~ 14%減少し,相対的筋活動は,Mm とTp, Dig, SCM との間に正の相関を認めた.Mm は, MVC がWith MVC に比べて有意に小さい値を示した.相対的筋活動はMm, Tp, SCM においてMG がFG に比べて有意に大きい値を示した.
    結論:MVC 時におけるMm, Tp, SCM の筋活動は咬頭嵌合位の咬合接触数によって変化することが示唆された.
  • 瀧田 史子, 岩堀 正俊, 若松 宣一, 土井 豊, 都尾 元宣
    2009 年 1 巻 1 号 p. 46-54
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/05/12
    ジャーナル フリー
    目的:クラスプとして金銀パラジウム合金に比較し,GFRCの一つであるエステニアC&B EGファイバー(EG)は優れた疲労耐久性を示す.しかし,定変位疲労試験後のEGクラスプには,ガラスファイバーの剥離や亀裂が生じるなど臨床応用前に解決しなければいけない問題点も提起されている.本研究では,ガラスファイバーの剥離や亀裂の抑制を目的として,EGクラスプ外面にハイブリッドレジン(HR)を積層し,その疲労耐久性を評価した.
    方法:GFRCとして,エステニアC&BのEGファイバー,HRとしてエナメルボディーを用いた.定変位疲労試験ではEG/HRクラスプに一定変位(0.5mm)を20,000回まで繰り返し負荷した.また EG/HR積層試料を最長4週間水中保管し,最大曲げ荷重に与える吸水の影響も併せて評価した.
    結果:負荷20,000回までは,EG/HRクラスプは破折や永久変形そしてHR層の剥離や脱落を示さず,十分臨床応用可能であった.しかし負荷3,000回でEGとHRの境界で微小な亀裂が認められ,その後20,000回まで亀裂は成長した. EG/HR積層試料の最大曲げ荷重は吸水2週間および4週間で吸水前と比較して有意差は認められなかった.
    結論:EG/HRクラスプは,5年間の義歯の着脱を想定した繰り返し変位を負荷しても,破折や永久変形そしてHR層の脱落を示さなかった.
  • 佐藤 裕二, 北川 昇, 服部 佳功, 山下 秀一郎, 玉置 勝司, 中村 隆志
    2009 年 1 巻 1 号 p. 55-63
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/05/12
    ジャーナル フリー
    目的:(社)日本補綴歯科学会では,症型分類を策定し推奨してきた.症型分類は2つの主要セクションと4つの小項目から成り立っている.しかしながら,この中には,現在使用中の義歯についての評価は含まれていない.本研究は,本学会が推奨する有床義歯検査用紙を作成するための基礎的資料を得ることを目的に,各大学で使用中の有床義歯検査用紙について調査を行った.
    方法:調査対象は,(社)日本補綴歯科学会役員22名と代議員237名であり,郵送で調査用紙を送付し調査した.259名の調査対象のうち,回答のあった92名からの調査結果を解析対象とした.
    結果:有床義歯検査用紙があると回答したのは29大学中18大学であった.各検査用紙でかなりの相違が見られた.検査に必要な時間については,ほとんど回答がなかった.学会で推奨されている「症型分類」を使用していると回答した大学はなかった.
    結論:調査対象は全国29大学を網羅しており,全大学から回答をいただいた.有床義歯検査用紙の使用状況について調査したところ,半数の大学でしか使用されておらず,簡便に使用できるものではなかった.したがって,本学会が推奨する迅速かつ的確に記入できる使いやすい有床義歯検査用紙を策定することの必要性が示唆された.
  • 疋田 一洋, 舞田 健夫, 川上 智史, 池田 和博, 齊藤 正人, 田村 誠, 小西 ゆみ子, 神成 克映, 内山 洋一, 平井 敏博
    2009 年 1 巻 1 号 p. 64-70
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/05/12
    ジャーナル フリー
    目的:試作したCAD/CAM用ハイブリッドレジンブロックの臨床的な有効性を評価することを目的とした.
    方法:ハイブリッド型硬質レジンを加圧,加熱重合し,歯科用CAD/CAMシステムの加工用ブロックサイズに成型加工した.患者36名(女性29名,男性7名)の小臼歯43本,大臼歯8本,合計51本に対しハイブリッドレジンブロックから製作したジャケットクラウンを製作し,6ヶ月から12ヶ月後,平均9.6ヶ月における臨床的評価を行った.評価項目は,辺縁適合性,表面性状,咬耗,破折,クラック,着色,プラークの付着,周囲歯肉の炎症,対合歯の咬耗の9項目とした.
    結果:15.7%(8症例)において,咬合面の一部に光沢の消失が認められ,5.9%(3症例)において,クラウン表面の一部に着色が認められた.また,装着後1~3ヶ月で4症例について脱離が認められたが,クラウンのクラックや破折は認められず,再装着を行い,その後は問題なく経過している.他の評価項目については装着時と変化は認められなかった.
    結論:ハイブリッドレジンブロックを材料に歯科用CAD/CAMシステムを用いて製作したジャケットクラウン51本を装着し,平均9.6カ月の予後観察を行ったところ,一部に光沢の消失と着色が認められたが,他には問題はなく,クラウンの材料として有効であることが示唆された.
Original Articles
  • Shuichiro Howashi, Katsuichiro Inoue, Shin-ichi Masumi
    2009 年 1 巻 1 号 p. 71-76
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/05/12
    ジャーナル フリー
    Purpose: This investigation examined the influence of water absorption on creep compliance and fluidity of acrylic tissue conditioners.
    Methods: Six commercially available acrylic tissue conditioners were used in this investigation. All materials were mixed for 20 sec according to the mixing proportion recommended by the manufacturer and allowed to set at room temperature (23±0.5 °C). Each specimen was stored immediately after preparation in an air cabinet or in a water bath maintained at either 23±0.5 °C or 37±0.5 °C. Two measurements were taken using an electronic balance to determinate water absorption and using a creep testing instrument under constant load to examine creep behavior.
    Results: The specimen weight in all materials containing ethyl alcohol decreased markedly from the start of immersion in water. In the case of ethyl alcohol-free material, the specimen weight increased immediately after immersion in water. The relative creep compliances (J(2)95/23, J(60)95/23, and J(120)95/23) and the relative fluidity (φ95/23) decreased linearly with increases in the amount of water absorption.
    Conclusion: With an increase in the amount of water absorption, each material showed increased resistance to deformation and accelerated the deterioration of its flow property.
  • Bazar Amarsanaa, Hiroshi Mizutani, Hidekazu Takahashi, Yoshimasa Igara ...
    2009 年 1 巻 1 号 p. 77-84
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/05/12
    ジャーナル フリー
    Purpose: The aim of this research was to evaluate and compare the maximum stabilizing force and stabilizing energy of mandibular overdentures with several attachments during anterior, lateral, and posterior dislodgement before and after wear simulation. Changes in the maximum retentive force and maximum stabilizing force of each attachment during various levels of wear simulation were also examined.
    Methods: Ten samples, each of 8 different overdenture attachments, were sequentially embedded in mandibular overdentures in pairs. Maximum stabilizing force and stabilizing energy were measured during anterior, lateral, and posterior dislodgement by a universal testing machine before and after wear simulation. A total of 5000 insertion-removal cycles were performed. The maximum retentive force of each sample was measured during various levels of wear simulation by a micro material testing machine.
    Results: The mean maximum stabilizing force ranged from 1.94N to 28.6N, and the mean stabilizing energy ranged from 1.9N•mm to 30.24N•mm before wear simulation. After wear simulation, the values ranged from 1.03N to 20.49N for maximum stabilizing force and from 1.9N•mm to 21.51N•mm for stabilizing energy. This study revealed a decrease (4.13-84.46 %) and an increase (1.23-41.8 %) in maximum stabilizing force. A decrease (6.5-85.42%) and increase (5.35-23.55%) were also seen for stabilizing energy.
    Conclusions: Maximum stabilizing force and stabilizing energy can each be used to evaluate the stability of overdentures. Both parameters were different during anterior, lateral, and posterior dislodgement after and before wear simulation. The changes in the maximum retentive force for each attachment during wear simulation were different. Among the attachments tested, Hyperslim 4013 was the least sensitive to wear simulation.
専門医症例報告
  • 水野 健太郎
    2009 年 1 巻 1 号 p. 85-88
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/05/12
    ジャーナル フリー
    症例の概要:患者は初診時64歳の女性で,主訴は前歯部の動揺による咀嚼障害であった.咬合支持域は,左側第一小臼歯間の一箇所のみで,アイヒナー分類B3であり,清掃状態は不良で全顎的に歯周ポケットが深かった.歯周処置後,リジッドサポートの概念に基づく部分床義歯で咬合を回復した.
    考察:本症例が,高度に歯周疾患が進行していたにも関わらず,補綴処置10年経過後も安定した状態を維持できたのは,定期的なリコールと患者の咬合力が過大ではないことが要因と考えられた.
    結論:重度の歯周疾患を伴ったアイヒナー分類B3症例に対し,リジッドサポートの概念に基づく部分床義歯で咀嚼機能を回復することにより良好な経過が得られた.
  • 原 聰
    2009 年 1 巻 1 号 p. 89-92
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/05/12
    ジャーナル フリー
    症例の概要:患者は82歳の上下顎無歯顎の女性.上顎義歯の離脱と下顎義歯床下粘膜の疼痛を主訴に来院した.上顎前歯部から小臼歯部におよぶ広範囲なフラビーガムが存在し,上顎では前鼻棘,下顎ではオトガイ棘まで高度な顎堤の吸収がみられた.旧義歯は下顎前歯部が上顎前歯部を突き上げ,上顎義歯離脱の原因となっていた.
    考察:分割印象採得による義歯の適合の向上と,大臼歯部の交叉咬合排列により咬合力作用時の義歯の力学的な安定性が向上し,患者の主訴である義歯の離脱や粘膜の疼痛が改善されたと考えられる.
    結論:本症例では,フラビーガムに対する義歯の適合と咬合重心の設定に配慮することにより,義歯の安定性が向上し良好な予後が得られた.
  • 土谷 昌広
    2009 年 1 巻 1 号 p. 93-96
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/05/12
    ジャーナル フリー
    症例の概要:53歳女性.右側下顎角部の腫脹感および顎関節周囲の痛みを主訴として来院.バイオフィードバック法を用いた咬合検査より,臼歯部咬合接触の左右的な不均衡に起因した顎機能障害と診断して咬合治療を行った.
    考察:咬合と顎機能障害の関連が示される一方で,顎機能障害における咬合治療の効果について明確な結論は得られていない.本症例では下顎位と咬合接触に関する問題点を改善し、良好な経過が得られた.
    結論:顎機能障害患者では,咬合接触の左右非対称性が大きく,その改善が顎機能障害の症状の消退につながることが報告されている.本症例においても同様に,咬合接触の左右非対称性の改善が顎機能障害の治療目標となることが示された.
  • 坪井 明人
    2009 年 1 巻 1 号 p. 97-100
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/05/12
    ジャーナル フリー
    症例の概要:患者は,義歯床下粘膜の疼痛および咀嚼障害を主訴とした80歳男性である.新製した総義歯の装着により主訴は改善されたが,患者は過高感を訴えた.適切に回復されたと考えられた咬合高径は変えず,下顎偏心運動の極初期から上下顎前歯部が咬合接触する義歯を再製作した.新義歯装着直後より過高感は消退した.4年6カ月間,この咬合高径が維持され,経過も良好である.
    考察:総義歯装着者の咬合高径の受容においては,咀嚼筋や顎関節からの感覚情報とともに,義歯床下粘膜からの情報も関与することが示唆された.
    結論:総義歯を十分に機能させるには,前歯部の咬合接触の強さ,タイミングなどをも考慮した咬合の付与が肝要である.
  • 坂口 究
    2009 年 1 巻 1 号 p. 101-104
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/05/12
    ジャーナル フリー
    症例の概要:患者は75歳の上下無歯顎の男性で,咀嚼障害を主訴に来院した.上顎にはフラビーガムが存在し,上下顎堤の対向関係は前方離開型を呈していた.下顎の右前方への偏位と偏咀嚼の習癖が認められた.治療用義歯で,下顎位,偏咀嚼および咀嚼機能を改善した後,最終補綴物を作製し,7年間良好に経過している.
    考察:良好な予後が得られた理由としては,新義歯作製時に,上顎義歯の前上方への回転と沈下によるフラビーガムの圧迫および下顎義歯の前方偏位を考慮した人工歯排列と咬合様式を付与したことが考えられる.
    結論:下顎位と偏咀嚼の改善を確認した後,機能時の義歯の力学的な安定性を考慮して新義歯を作製した結果,良好な予後が得られた.
  • 昆 はるか
    2009 年 1 巻 1 号 p. 105-108
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/05/12
    ジャーナル フリー
    症例の概要:31歳の男性.主訴は,固い食品を咀嚼する際に感じる左右顎関節周囲の疼痛.咬合診査から,咬頭嵌合位での前歯部開咬,側方滑走運動時では作業側臼歯部のみの接触滑走が認められた.
    考察:側方滑走時に大臼歯部のみが接触滑走する場合には,作業側顆頭は下顎窩から引き離されるような偏位を示し,このような挙動は関節包に障害をもたらす可能性のあることが報告されている.本症例は,前歯部開咬に伴い側方滑走時における臼歯部のみの接触滑走が顎関節症状を惹起したと診断した.
    結論:被蓋関係から犬歯誘導は得られなかったものの,側方滑走時の作業側ガイドを犬歯―小臼歯部に設定することで,顎関節症状を改善できた.
  • 隅田 由香
    2009 年 1 巻 1 号 p. 109-112
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/05/12
    ジャーナル フリー
    症例の概要:初診時54歳女性,悪性腫瘍に伴う左側上顎骨部分切除術施行.その後,2度の切除術を施行. 3回の切除術に際し,術前印象を採得し,切除術直後よりサージカルオブチュレータを装着し,早期機能回復を図った.術後経過安定後にはコバルトクロム上顎顎義歯を適用した.
    考察:サージカルオブチュレータを装着することで,手術直後から経口摂取,会話が可能となった.最終顎義歯には,金属床顎義歯を適用し,口腔内状態は良好に経過している.術前より補綴医が関わることは,頭頸部腫瘍患者の術後の機能回復およびQOLの向上に大きく寄与する.
    結論:左側上顎骨切除患者に対して金属床上顎顎義歯を適用し,機能的・審美的に長期的に良好な結果を得た.
  • 疋田 一洋
    2009 年 1 巻 1 号 p. 113-116
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/05/12
    ジャーナル フリー
    症例の概要:患者は52歳,男性.欠損部による咀嚼障害と前歯歯列不正による発音障害を主訴に来院した.全顎的に歯周疾患に罹患しており,前歯部は叢生が認められた.矯正治療により歯軸を修正後、クラウン,ブリッジならびに部分床義歯により補綴処置を行った.
    考察:約5年の治療期間を通して患者の口腔内清掃に対するモチベーションが改善したことは,良好な予後の一因になったと考えられる.歯周疾患に罹患した永久歯の矯正治療は,歯の動揺を増幅させる危険性があるが,本症例においては効果的に行われた.
    結論:補綴前処置として矯正治療により歯軸を修正し,その結果補綴処置が容易かつ効果的となり,良好な咬合関係を得ることができた.
  • 大倉 一夫
    2009 年 1 巻 1 号 p. 117-120
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/05/12
    ジャーナル フリー
    症例の概要:52歳(当科初診時)女性.基礎疾患のため近医より紹介されて来院し,欠損による咀嚼ならびに審美障害を主訴として全顎的な治療を希望した.口腔機能の向上を図り,冠橋義歯製作時にミリングテクニックを応用し,部分床義歯にて欠損補綴治療を行った.
    考察:最終補綴から7年が経過したが,適切なミリングテクニックの応用により,咀嚼障害,発音障害,疼痛等を認めず,機能性と審美性の両面で高い患者満足度を得ることができた.上下顎義歯は良好に機能しており,予防歯科との共診により良好な口腔衛生状態が保たれている.
    結論:本症例に対してミリングテクニックを応用した部分床義歯治療の機能的,審美的効果は極めて高かった.
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