日本補綴歯科学会誌
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ISSN-L : 1883-4426
8 巻, 3 号
平成28年7月
選択された号の論文の20件中1~20を表示しています
依頼論文
  • ─共生ロボット技術によるヘルスケア─
    寺田 信幸, 窪田 佳寛, 秋元 俊成
    2016 年8 巻3 号 p. 223-228
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/10/15
    ジャーナル フリー

     人の動きや無拘束計測により得られた人の心身状態の情報を基にロボットは移動し,ロボットの色を変化させ,音声合成技術を利用してロボットから話しかけるなど,インタラクティブに対応できる共生ロボットを作製した.共生ロボットが居住空間のインターフェイスとして働き,情報弱者である高齢者や見守りが必要なお年寄りにとって,やさしい生活環境が提供でき,健康管理も十分担えることを検証した.自然やいのちと調和あるテクノロジーの開発を目指して,高齢者および生活習慣病の予防を望む人たちが,無理なく使用できるヘルスケアシステムの開発にロボット技術とICTを導入し,人にやさしい生活環境の実現を目指した取り組みを紹介した.

◆企画:第124 回学術大会/委員会セミナー「歯科補綴に関連する医療機器,歯科用材料,補綴装置の安全管理について」
依頼論文
  • 荒木田 郁夫
    2016 年8 巻3 号 p. 243-249
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/10/15
    ジャーナル フリー

    目的:頭頸部がんの治療後には重大な機能的・審美的後遺障害が残る場合があり,顎顔面補綴はその回復の一方法として必要不可欠である.その診療の多くは大学病院等の歯科・口腔外科や補綴科で行われるが,高齢の患者が多い,残存歯の処置や装着後の調整などで通院回数が多くなる等の理由から,地域開業医による診療が可能であれば患者への恩恵が大きいと考えられる.

    方法:2001年~2015年に当院初診の顎補綴患者105名のうち,腫瘍治療後の患者73名を対象に調査した.さらに,その中の上顎欠損を有する患者41名について治療経過を考察し,臨床上の注意点を抽出した.

    結果と考察:腫瘍治療後の患者の初診時年齢は平均68歳で,70歳以上の高齢者が半数を占めた.手術より来院までの期間は3~6カ月が多く,また初診より印象採得までは多くが1カ月以内だった.

     開業医による診療では安全が最優先である.印象採得時には材料の迷入を防ぐため,印象域をよく把握して開窓トレーを用い,欠損腔内への延長は必要最小限に留める.特に小さな穿孔に注意する.咬合採得時にはあらかじめ透明レジンで製作した基礎床を用いる.有歯顎の場合,残存歯の保存処置が通常の欠損補綴以上に重要である.支台装置の設計は補綴的原則に則るが,幾つかの注意点がある.無歯顎の場合,無理なアンダーカットの利用や特殊な装置は避け,残存顎提の最大利用と接着剤などの補助を必要に応じて用い,患者の適応力に期待する.いずれも装着時から調整と改変を繰り返し,最終的な形態を決定する.

◆企画:補綴歯科臨床研鑽会プロソ’14 /シンポジウム2「欠損部歯槽堤の保存,再建」
  • 細川 隆司, 鮎川 保則
    2016 年8 巻3 号 p. 251-252
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/10/15
    ジャーナル フリー
  • 正木 千尋
    2016 年8 巻3 号 p. 253-258
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/10/15
    ジャーナル フリー

     前歯部のインプラント治療を行う場合,ソケットプリザベーションやインプラントの即時・早期埋入などの術式を選択することが推奨されているが,抜歯後の顎堤変化は個人差が大きく,その有効性についてはいまだ不明な点が多い.また,審美的補綴治療を実現するためには,硬組織や軟組織の再建が必要となることが多いものの,どの症例にどのような術式を選択すべきか,またどのような材料を選択すべきかなど,基準が明確でないのが現状である.本稿では,それぞれの術式が有効なものなのかを考察するとともに,適応基準などについてエビデンスを紐解きながら考えてみたい.

  • 木林 博之
    2016 年8 巻3 号 p. 259-266
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/10/15
    ジャーナル フリー

     審美修復において,欠損部歯槽堤に対する処置は避けられないものである.個々の欠損部歯槽堤形態に対応するポンティック基底面形態にはいくつかの種類があり,それぞれの特徴を理解することは,治療結果そのものに大きな影響を与える.ほとんどの欠損部歯槽堤形態は,抜歯後の歯槽骨の吸収により異常な形態を呈しており,それに対する軟組織・硬組織のマネージメントなしには審美的な結果は得られない.また,抜歯後の歯槽堤の吸収を抑えるための術前診断および治療計画の検討は,その後の治療結果を大きく左右する.審美領域欠損部でのポンティック,および欠損部歯槽堤へのマネージメントに焦点をあて考察する.

  • 山崎 章弘
    2016 年8 巻3 号 p. 267-274
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/10/15
    ジャーナル フリー

     審美領域にブリッジワークを行うことは頻繁にある.しかしポンティック部分の処理がうまくいかず,審美的でなかったり清掃性が悪かったりする修復治療も多く目にする.その原因のほとんどは,欠損部歯槽堤の吸収に対しての処置が施されず,顎堤の形態に追随した形態をポンティックに与えたためと考えられる.抜歯後に歯槽堤の吸収をできるだけ抑制するような処置を行ったり,吸収した歯槽堤を増大するような外科処置を行うことで審美的で患者の満足度の高い治療が可能になる.今回はオベイト・ポンティックを前提としたティッシュ・マネージメントの方法を様々なケースで考察した.

  • 松井 徳雄
    2016 年8 巻3 号 p. 275-280
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/10/15
    ジャーナル フリー

     歯科治療では修復治療が多いのが現状で,そのマージンは歯肉縁下に設定することが多い.そのような状況で周囲組織の角化歯肉の不足や薄い歯肉などの形態学的な問題が存在すると,歯肉退縮が生じることを経験する.このような口腔内環境はプラークコントロールや審美面からも改善されることが望ましい.

     またインプラント治療が欠損修復の有効な治療オプションの1つとなって久しくなり,その長期予後も多く報告されるようになってきた.良好な治療結果の永続性を達成するためには,外科治療では歯槽骨,歯肉組織のマネージメント,3次元的な埋入ポジションが重要となる.インプラント体周囲に歯槽骨が存在することが望ましいことに異論はなく,そのため,現在までインプラント周囲の骨増大を図る術式が数多く報告されてきた.また,清掃性や審美性の観点からインプラント周囲に適切な厚みを持つ角化歯肉は必要と考えられる.

     今回は天然歯,インプラント修復におけるティッシュマネージメントについて症例をまじえて考察する.

原著論文
  • 後藤田 章人, 山口 泰彦, 金子 知生, 岡田 和樹, 三上 紗季, 箕輪 和行, 井上 農夫男
    2016 年8 巻3 号 p. 281-288
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/10/15
    ジャーナル フリー

    目的:近年,クローズドロックに継発する前歯部開咬(acquired anterior open bite subsequent to temporomandibular joint closed lock:AAOB-SCL)の存在が問題視されるようになってきたが,その実態には不明な点が多い.本研究ではその臨床的特徴をレトロスぺクティブに検討した.

    方法:対象は当科受診患者の中でクローズドロック発症後に前歯部開咬が発現したという経過が確認できた24名で,AAOB-SCLを有しないクローズドロック患者24名と比較した.関節リウマチ症例は対象から除いた.

    結果:開咬発現時期はクローズドロック発症から3カ月を超えたものが多かった.5名で開咬発現前のスプリント使用歴がなく,比率はコントロール群と差がなかった.開咬部位は前歯部から両側第1大臼歯部にかけてみられ,臼歯部では反対側の接触がより少なかった.開口距離はコントロール群よりも有意に大きかった.すべての症例においてクローズドロック発現側の下顎頭の変形が認められ,その比率はコントロール群よりも有意に高かった.

    結論:AAOB-SCLはクローズドロック慢性期で開口障害が改善傾向にある時期に起こりやすいこと,前歯部だけでなく最後臼歯を除く臼歯部にかけても起こり,臼歯部では反対側の接触がより少なくなること,必ずしもスプリントの使用を伴っていないことが明らかとなった.

専門医症例報告
  • 佐藤 仁
    2016 年8 巻3 号 p. 289-292
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/10/15
    ジャーナル フリー

    症例の概要:患者は65歳男性.上下顎総義歯不適合と咀嚼障害を主訴に来院した.高度顎堤吸収による咀嚼障害と診断し,義歯の安定を目的とした義歯補綴治療を行った.偶発事故による顎骨骨折も経験したが,良好な経過を得た.

    考察:義歯の維持安定を最大の目的として人工歯排列位置を考慮し,右側人工臼歯のみ水平的被蓋関係を逆転させ,左右で異なる状態に排列・調整したことから,義歯の維持・安定につながったと考える.

    結論:高度顎堤吸収および顎骨骨折した患者に咬合に配慮した義歯補綴治療を行った結果,咀嚼機能の回復を図られたことで主訴の改善と良好な経過を得た.

  • 伊東 令華
    2016 年8 巻3 号 p. 293-296
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/10/15
    ジャーナル フリー

    症例の概要:60歳の女性.義歯の不適による咀嚼困難を主訴に来院した.残存歯の咬耗,不安定な咬合支持,咬合平面の乱れと低位咬合にともなう義歯不適による咀嚼障害と診断された.治療期間中にすれ違い咬合となったが,オーバーデンチャーを治療用義歯として咬合平面の修正と咬合位の安定を図ったのち,最終補綴治療を行った.

    考察:治療用義歯を用い,残存歯に対する前処置を行いながら顎機能と調和した理想的な咬合位と咬合接触関係を確立し,それを参照し最終補綴処置を行うことができた.

    結論:多数歯欠損で咬合支持が失われ,咀嚼障害が認められた症例に対し,治療用義歯を併用した補綴治療を行った結果,口腔関連QoLの向上が得られた.

  • 齋藤 紘子
    2016 年8 巻3 号 p. 297-300
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/10/15
    ジャーナル フリー

    症例の概要:患者は62歳女性,歯肉の腫脹,排膿と下顎義歯不適合による咀嚼困難を主訴に来院した.重度慢性歯周炎のため多数歯を抜歯後,即時義歯を装着した.残存歯の歯周治療と咬合の安定を図ったのちに,電鋳テレスコープ義歯を装着し,高い満足と良好な予後が得られた.

    考察:電鋳テレスコープクラウンの優れた把持性による二次固定効果とその維持力発現機構により支台歯の負担軽減が図られたこと,さらに,ダイナミック印象により粘膜支持の向上を図ったことが良好な予後につながったと考えられる.

    結論:Eichner分類B3症例に対し,電鋳テレスコープ義歯による補綴処置は,咀嚼機能の回復および審美性の改善に有効で予後も良好であった.

  • 川口 智弘
    2016 年8 巻3 号 p. 301-304
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/10/15
    ジャーナル フリー

    症例の概要:患者は77歳女性.主訴は上顎全部床義歯の動揺および脱離による咀嚼困難であった.上顎は顎堤の高度吸収およびフラビーガムを伴った無歯顎,下顎は両側遊離端欠損であり,顎堤の対向関係は下顎が前方に位置していた.

    考察:上下顎顎堤の対向関係不調和を伴う症例において,選択的加圧印象を行い,上顎前歯部人工歯を切端咬合とし,臼歯部人工歯を上顎の頬側咬頭で下顎に咬合させ,さらに上顎犬歯も咬合支持に関与させたことによって,上下顎義歯が安定し良好な術後経過が得られたと考えられる.

    結論:印象方法および人工歯排列位置,咬合支持域に留意して義歯作製を行うことが,義歯の維持安定に有効であった.

  • 梅原 康佑
    2016 年8 巻3 号 p. 305-308
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/10/15
    ジャーナル フリー

    症例の概要:患者は49歳男性(初診時).義歯の動揺による咀嚼障害およびクラスプによる審美障害を主訴に来院した.暫間被覆冠および治療用義歯を用いた上で,歯周処置や根管治療などの補綴前処置を行った後に,コーヌステレスコープを応用した最終義歯を製作した.

    考察:最終補綴装置の二次固定効果によって,重度歯周炎に罹患していた残存歯の歯周組織が安定するなど,良好な術後経過を得ることができた.

    結論:咀嚼障害および審美障害を訴えていた多数歯欠損の患者に対して,支台歯への力学的負担配分を十分に考慮したコーヌステレスコープ義歯を適応したことにより口腔関連QoLが向上し,患者の高い満足を得ることができた.

  • 南 一郎
    2016 年8 巻3 号 p. 309-312
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/10/15
    ジャーナル フリー

    症例の概要:66歳女性,上顎前歯部義歯の不適合を主訴に来院された.全顎的に歯冠修復されており,上顎支台歯に多数のう蝕罹患を認めた.上顎プロビジョナルレストレーションを装着して支台歯の初期治療を行った後に再評価を行い,上顎コーヌスクローネ義歯を装着した.満足度の高い結果が得られ,5年間の経過観察を行った.

    考察:広範な治療に際し,患者との信頼関係の構築に配慮しつつ,初期治療から段階的に補綴治療を進めたことが良好な結果に繋がっていると考える.

    結論:欠損補綴治療は,支台歯の状態を適切に評価し,1歯1歯が力学的に無理のない支台装置とすることが重要であることが,本症例によって示唆された.

  • 成田 達哉
    2016 年8 巻3 号 p. 313-316
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/10/15
    ジャーナル フリー

    症例の概要:69歳女性.義歯床下粘膜の疼痛を主訴に来院した.残存歯による咬合支持の喪失によりすれ違い咬合を呈していた.暫間義歯にて主訴の改善を図った後に補綴前処置を行い,部分床義歯を用いて機能回復を行った.

    考察:本症例では高い剛性の支台装置によってリジッドサポートを獲得し,義歯を製作した.また顎堤粘膜に対する機能印象を行い,義歯の支持を向上させた.このことが治療後の主観的および客観的評価の向上に寄与したと考えられる.

    結論:適切な支持と維持によるリジッドサポートを考慮した可撤性部分床義歯の設計は,すれ違い咬合症例に対して有効である.

  • 髙井 智之
    2016 年8 巻3 号 p. 317-320
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/10/15
    ジャーナル フリー

    症例の概要:患者は66歳女性.|3 補綴装置の脱離を主訴として来院した.その他に,上顎前歯部から小臼歯部の補綴装置不適合による審美障害,また,上顎両側遊離端欠損による咀嚼障害を認めた.上顎前歯部はフルジルコニアクラウン,上顎両側遊離端欠損部はコーヌステレスコープ義歯により補綴した.装着後,|2 は歯根破折により抜歯となり陶材焼付鋳造冠のブリッジに変更した.

    考察:歯根破折により抜歯となったが,審美性に優れた歯冠修復と欠損補綴処置を併用したことにより良好な経過を得たものと考える.

    結論:フルジルコニアクラウンとコーヌステレスコープ義歯による補綴治療は,審美的,機能的な問題を解決するのに有効な治療方法である.

  • 髙垣 喬三
    2016 年8 巻3 号 p. 321-324
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/10/15
    ジャーナル フリー

    症例の概要:患者は64歳男性で,咀嚼困難を主訴に来院した.初診時に上下顎義歯は装着しておらず,旧義歯は紛失していた.上下顎ともに大きな骨隆起を認めた.多数歯欠損による咀嚼障害と診断し,骨隆起切除を行った後に上顎部分床義歯,下顎全部床義歯を製作した.

    考察:骨隆起を有する患者に義歯を製作する場合,辺縁封鎖の困難や大きな咬合力が問題となることが多いが,本症例では骨隆起切除を行い,補強構造を埋入した義歯を製作することにより義歯の良好な経過を得ることができた.

    結論:補綴前処置として骨隆起の切除を行い適切な床縁を設定した義歯を製作することにより患者のQOLおよび全身状態の改善に寄与した.

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