目的:頭頸部がんの治療後には重大な機能的・審美的後遺障害が残る場合があり,顎顔面補綴はその回復の一方法として必要不可欠である.その診療の多くは大学病院等の歯科・口腔外科や補綴科で行われるが,高齢の患者が多い,残存歯の処置や装着後の調整などで通院回数が多くなる等の理由から,地域開業医による診療が可能であれば患者への恩恵が大きいと考えられる.
方法:2001年~2015年に当院初診の顎補綴患者105名のうち,腫瘍治療後の患者73名を対象に調査した.さらに,その中の上顎欠損を有する患者41名について治療経過を考察し,臨床上の注意点を抽出した.
結果と考察:腫瘍治療後の患者の初診時年齢は平均68歳で,70歳以上の高齢者が半数を占めた.手術より来院までの期間は3~6カ月が多く,また初診より印象採得までは多くが1カ月以内だった.
開業医による診療では安全が最優先である.印象採得時には材料の迷入を防ぐため,印象域をよく把握して開窓トレーを用い,欠損腔内への延長は必要最小限に留める.特に小さな穿孔に注意する.咬合採得時にはあらかじめ透明レジンで製作した基礎床を用いる.有歯顎の場合,残存歯の保存処置が通常の欠損補綴以上に重要である.支台装置の設計は補綴的原則に則るが,幾つかの注意点がある.無歯顎の場合,無理なアンダーカットの利用や特殊な装置は避け,残存顎提の最大利用と接着剤などの補助を必要に応じて用い,患者の適応力に期待する.いずれも装着時から調整と改変を繰り返し,最終的な形態を決定する.
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