日本補綴歯科学会誌
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7 巻, 4 号
October/オーバーロードとインプラント治療の偶発症/乱れた咬合平面を有する歯列欠損患者の補綴
選択された号の論文の21件中1~21を表示しています
依頼論文
◆総説:オーバーロードとインプラント治療の偶発症
  • 松崎 達哉, 松下 恭之, 古谷野 潔
    2015 年 7 巻 4 号 p. 305-313
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/10/22
    ジャーナル フリー
     インプラント治療は,表面性状の改善や埋入プロトコルの確立に伴い予知性が高い治療となってきたが,一方で破折や骨吸収などの偶発症も報告されている.これらについては様々な要因が報告されているが,機能負荷が開始されてからのオーバーロードを主な原因とするという文献が散見される.
     そこで,オーバーロードと偶発症について文献レビューを行い,偶発症をもたらす様々なリスクファクターについて整理し,考えられる対策について考察した.本論文で整理したリスクファクターを有する患者へのインプラント治療に際しては,インプラント体の埋入以前から綿密なシミュレーション,補綴設計の工夫を行う必要がある.
◆シリーズ:エビデンス&オピニオン 乱れた咬合平面を有する歯列欠損患者の補綴
◆企画論文:補綴臨床におけるCAD/CAM ワークフローの現状と未来
◆シリーズ:補綴装置および歯の延命のために Part 6 -力のコントロール-
原著論文
  • ―ジルコニアの厚さと支台(材料)およびセメントの透過性の違いによる影響―
    横上 智, 一志 恒太, 城戸 寛史, 佐藤 博信
    2015 年 7 巻 4 号 p. 363-370
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/10/22
    ジャーナル フリー
    目的:ジルコニアの透明性向上にともない,咬合面まですべてジルコニアで作製したモノリシックジルコニアクラウンが普及しつつある.透明性があるため支台が金属である場合,審美性への影響が懸念されるが,どの程度影響があるのかは明らかでない.本研究の目的は金属支台に接着するセメント色とジルコニアの厚さによる色調への影響を調べることである.
    方法:半焼結の高透光性ジルコニアを直径10 mm,厚さが0.5 mm,1.0 mm,1.5 mm,2.0 mmになるよう切削した.完全焼結後,金属支台にレジンセメントのトライインペーストを介在してジルコニア試料を載せ,分光光度計で色調を測定した.トライインペーストには透過性が高いユニバーサル色と透過性が低いオペーク色の2色を使用した.支台築造用レジン上にユニバーサル色のトライインペーストを介在させた試料をコントロールとした.測定したL*a*b*から⊿Eを算出しコントロールとの色差を評価した.
    結果:コントロールとの色差⊿Eは,金属支台にオペーク色を使用し,厚さが1.5 mm,2.0 mmの場合で1.6以下であったため臨床的に色の違いはなかった.金属支台のペースト色の違いによる比較では厚さ1.5 mmの試料を除いて,ペーストの色の違いが色差⊿Eに有意に影響を及ぼした.
    結論:金属支台に対して高透光性モノリシックジルコニアクラウンを装着する際,厚さが1.0 mm以下になると,レジン支台に装着した場合と比較して臨床的に色の差がみられることが示された.
  • 金子 広美, 金谷 貢, 小野 高裕, 野村 修一
    2015 年 7 巻 4 号 p. 371-379
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/10/22
    ジャーナル フリー
    目的:組成が異なる,同種合金の接触による腐食の影響を調べることを目的として,Cu含有量の異なる金銀パラジウム合金の接触腐食実験を行い,X線光電子分光法によりその腐食表面を分析し,接触腐食における初期の腐食挙動を検討した.
    方法:Cu含有量の異なる3種類の12%金銀パラジウム合金をプレート状に鋳造後,研磨し,試料の約半分の面積を2種類ずつ接触させてゴムで固定し,腐食溶液に8週間浸漬した.浸漬後,アセトンと超純水で試料を超音波洗浄し,X線光電子分光法により腐食表面の表面分析を行った.XPSで分析できる深さは約10 nmであり,今回の深さ方向の分析結果では,この範囲内で最表面およびその下を内部とした.
    結果:肉眼的観察では,Cu含有量がより多い試料の接触領域の辺縁部で著しい変色が観察された.初期の化合物としてAg2O,PdO,CuO,Cu2SとCuSO4が考えられ,このうちPdOはCu含有量の多い試料でより内部まで検出された.Cuの化合物については,Cu含有量の多い試料ではCuSO4の割合が多く,内部に行くほどCuOとCu2Sの割合が増加した.Cu含有量の少ない試料では最表面から内部にかけてCu2Sが検出された.
    結論:Cu含有量の異なる金銀パラジウム合金が接触している場合は,Ag2O,PdO,CuO,CuSO4とCu2Sが腐食の初期に生成される.
専門医症例報告
  • 安藤 貴則
    2015 年 7 巻 4 号 p. 380-383
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/10/22
    ジャーナル フリー
    症例の概要:患者は79歳の男性で,上下顎義歯が安定せず,咀嚼困難を主訴に来院した.義歯の適合および咬合不良の他,残存歯に動揺を認めた.歯周基本治療後,上顎にはCrown and Sleeve-Copingを用いたオーバーデンチャーを,下顎には部分床義歯を製作した.
    考察:動揺を認める残存歯の歯冠歯根比を改善することで,歯根と支持組織が保護され,良好な咬合関係が回復された結果,義歯の維持・安定が得られたと考えられる.
    結論:歯周疾患を伴う少数歯残存症例に対し,Crown and Sleeve-Copingを用いた義歯を適応することで,残存歯の保存ならびに患者の高齢化による全身状態や口腔内の変化に対して,長期的に対応可能な治療を行うことができた.
  • 多田 紗弥夏
    2015 年 7 巻 4 号 p. 384-387
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/10/22
    ジャーナル フリー
    症例の概要:患者は62歳の男性.歯の動揺,疼痛および咀嚼障害を主訴に来院した.診査の結果,重度歯周炎と,使用中義歯の適合および咬合状態が不良であることに起因する咀嚼障害と診断した.前処置終了後,すれ違い咬合となった症例に対しオーバーデンチャーを装着した.
    考察:すれ違い咬合では,咬合圧を支持する機構が異なることが,様々な問題を引き起こす原因となる.本症例では積極的に上顎をオーバーデンチャーとし,咬合圧の分散を図ったことが良好な結果につながったと考えられる.
    結論:すれ違い咬合症例に対し,オーバーデンチャーを装着することは,長期的に安定した結果を得るための戦略的な補綴治療の有効な選択である.
  • 久納 玄揮
    2015 年 7 巻 4 号 p. 388-391
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/10/22
    ジャーナル フリー
    症例の概要:患者は初診時63歳の女性で10年前に治療した| 5 8 支台のブリッジが動揺し,咀嚼障害を訴え来院した.患部は| 6 7 欠損に対して| 8 が近心傾斜しており,欠損スペースが減少しているので,ポンティックを1歯とした| (5) 6 (8) ブリッジの設計であった.| 5 8 共に生活歯であり,| 8 の支台形成は過度のテーパーが付与されていたため,早期に脱離したものと診断し,| 6 7 欠損に対し1本のインプラントを植立し,| 5 8 と共に単冠でジルコニアクラウン補綴処置を行った.
    考察:治療後十分な機能回復が行われ,術後3年経過後,歯肉に発赤腫脹もなく,レントゲン検査でもインプラント周囲に骨吸収はみられなかった.条件が許せば,欠損補綴にインプラントを応用することは,良好な予後を得られる治療法と考える.
    結論:下顎片側中間欠損症例に対し,インプラント補綴治療は安定した咬合支持が得られ,十分な咀嚼機能回復が得られる有効な治療方法のひとつである.
  • 大穂 耕平
    2015 年 7 巻 4 号 p. 392-395
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/10/22
    ジャーナル フリー
    症例の概要:初診時61 歳の女性.義歯不安定による咀嚼困難,および上顎義歯等の審美不良を主訴に来院された.新義歯作製にあたり,動揺度Ⅱ度の孤立歯である下顎右側第3大臼歯( 8 |)と上顎左側第2大臼歯(| 7 )は,抜歯をするとすれ違い咬合となる状態だったが,根面板として保存することで義歯の臼歯部遊離端部の支持として利用した.
    考察:補綴装置装着後4年余りが経過しているが,義歯および支台歯のチェックをこまめに行い,必要に応じてリラインを行うことにより,現在も良好な機能を維持している.
    結論:遊離端部の現存歯を根面板とすることで歯根膜支持を保存した結果,欠損部の受圧条件が改善され高い満足度を得ることができた.
  • 淺野 隆
    2015 年 7 巻 4 号 p. 396-399
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/10/22
    ジャーナル フリー
    症例の概要:初診時82歳女性.下顎前歯部レジン前装冠破損による審美障害と義歯の維持安定不足による咀嚼困難を主訴に来院した.上顎は全部床義歯,下顎は磁性アタッチメントを利用したオーバーデンチャーを製作することとした.
    考察:下顎前歯部に磁性アタッチメントを用いた義歯を装着することにより,維持安定の増加と,審美的回復も得られ,良好な結果を得た.また,治療用義歯の段階で,筋電図を参考にして咬合高径の決定に利用したことが,新義歯の咀嚼能力向上に寄与したと思われ,患者のQOLが高まったと考える.
    結論:本症例は,前歯部残存歯への磁性アタッチメントの利用が,審美的回復と義歯の維持安定に繋がり,良好な術後経過を得られた.
  • 岡村 光信
    2015 年 7 巻 4 号 p. 400-403
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/10/22
    ジャーナル フリー
    症例の概要:患者は初診時42歳の女性.| (4)5(6) ブリッジの咀嚼障害と審美障害を訴え来院した.通法により印象および咬合採得後,ジルコニアフレームにガラスセラミックスを加圧成型した陶材前装ブリッジをレジンセメントで装着した.約2カ月後前装陶材の一部に破折と剥離を認めたため,ブリッジを除去し,フレーム形態を再考後,再製したブリッジを装着した.装着後4年3カ月間,経過は良好であった.
    考察:咬合による剪断力に対する抵抗性の付与にジルコニアフレームデザインが重要であることがわかった.
    結論:ジルコニアフレームの形態を再考し,一部の咬合面を陶材前装せずジルコニアで咬合接触させることで良好な結果が得られた.
  • 月村 直樹
    2015 年 7 巻 4 号 p. 404-407
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/10/22
    ジャーナル フリー
    症例の概要:患者は57歳女性.左側の顎関節の運動痛並びに開口障害を主訴に2008年11月当病院を来院した.左側の低位が認められたことからスプリントとプロビジョナルレストレーションを用いて適正な顎位を決定し,咬合再構成にて症状の改善を行った.
    考察:顎関節症で低位咬合が認められる患者の治療には,正確な診断が重要である.症状改善に咬合再構成が必要と考えられた場合,顎位や最終補綴を決定する上で,ステップごとに慎重に検証しながら治療を進めることが望まれる.
    結論:数年にわたり左側の臼歯部が低位になったことで顎関節の症状が増悪した患者に対し,咬合を再構成することで長期的に良好な経過を得ることができた.
  • 武藤 亮治
    2015 年 7 巻 4 号 p. 408-411
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/10/22
    ジャーナル フリー
    症例の概要:62歳,女性.2008年6月,上顎前歯部の動揺による咀嚼困難を主訴に本学補綴科に来科.保存困難な歯を抜歯し,即時義歯を装着した.その後,機能的運動路(FGP)の記録により機能的咬合面形態を付与した金属リテーナー義歯を装着した.
    考察:金属リテーナー義歯は高い剛性を有しており,咀嚼時のたわみを抑制できることから残存歯の保護に有効である.また,機能的咬合面形態の付与により義歯調整回数も減少し,咬合の長期安定に寄与したと考えられた.
    結論:重度歯周炎に罹患した残存歯を支台歯とした金属リテーナー義歯を装着したところ,支台歯の保存に有効であった.
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