日本補綴歯科学会誌
Online ISSN : 1883-6860
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ISSN-L : 1883-4426
13 巻, 2 号
令和3年4月
選択された号の論文の16件中1~16を表示しています
巻頭言
依頼論文
◆企画:第129 回学術大会/メインシンポジウム日本学術会議主催(後援日本生命科学アカデミー)「食力向上による健康寿命の延伸:補綴歯科の意義」
  • 朝田 芳信
    原稿種別: 依頼論文
    2021 年13 巻2 号 p. 99-104
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/04/29
    ジャーナル フリー

     人生100年時代を考えたとき,如何に健康寿命を延ばすかがカギとなるが,その基礎を作る大切な時期が小児期ということになる.乳幼児期は,口腔機能の獲得期であり,さらに,口腔機能の発達を促すための正しい生活習慣を身につける大切な時期でもある.学童期は生活習慣を維持するための教育的アプローチと健康に対するスキルの向上が求められる時期であり,青年期はヘルスプロモーションの実践と健康管理に対する意識の向上が必要になる.すなわち,ヘルスプロモーションの考えに基づき,小児から青年までの継続的な口腔管理が重要となる.

  • 市川 哲雄
    原稿種別: 依頼論文
    2021 年13 巻2 号 p. 105-108
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/04/29
    ジャーナル フリー

     補綴歯科においても重症化予防,先制医療の考え方は重要であり,補綴歯科治療を困難にさせるハイリスクな病態を作らないような個々の状態に応じた予防策が求められる.そのようなリスクをわれわれ補綴歯科医が予測できる臨床指標が必要であり,同時に一般の医療関係者や患者自身が理解できる臨床指標の設定も必要である.

     そのなかで,高齢者の「食べる力」は重要事項であり,それは口腔の因子だけではなく,食行動,食生活の因子,さらには環境因子や個人因子をも考慮した,「総合力」であると理解すべきである.最終的に,「食べる力」を表す臨床指標と最終アウトカムを確立し,国民と医療関係者に周知する必要がある.

  • 馬場 一美, 三田 稔, 楠本 友里子
    原稿種別: 依頼論文
    2021 年13 巻2 号 p. 109-116
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/04/29
    ジャーナル フリー

     補綴歯科治療の目的は「食べる」という生命の根本的な機能,つまり咀嚼機能の回復を通して国民の健康増進,生活の質の向上を図ることである.近年,その波及効果としてフレイルや認知症,介護予防といった役割も注目されている.事実,認知症のリスク因子としての歯の喪失や義歯使用の有無と認知症発症との関連性についてのエビデンスが蓄積されつつあるが,未だ一定の結論は得られていない.その一つの理由として,日常臨床で標準的に利用される咀嚼機能評価指標がないことが挙げられる.本稿では,咀嚼機能と認知症との関連についてのエビデンスを整理し,機能を「測る」指標の必要性について考察する.

  • 窪木 拓男, 前川 賢治
    原稿種別: 依頼論文
    2021 年13 巻2 号 p. 117-125
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/04/29
    ジャーナル フリー

     われわれ歯科医は補綴治療を毎日患者に施しているが,その治療がどのような効果を患者に及ぼしているかを十分認識していない.たとえば,自立した地域在住高齢者においては,補綴治療の主目的は,口腔関連QOLの向上に加えて,介護予防,フレイル予防,認知機能低下予防であり,補綴治療による口腔機能の維持は多様な食物や栄養素を摂取するという観点から重要な意味があると言われている.本論説では,近年発表された質の高いシステマティックレビューと原著論文を精読し,地域在住高齢者においては,現在歯数が多いほど,生命予後が良好であること,また,現在歯数よりも機能歯数の方が生命予後に強く関連するという日本補綴歯科学会と東京都健康長寿医療センターの共同研究結果を紹介した.一方,日常生活動作がまだまだ保たれている前期要支援・要介護高齢者においては,歯列欠損の修復に加えて,栄養摂取強化と広義の摂食嚥下リハビリテーションが重要な意味を持つ.また,日常生活動作が著しく低下する後期要介護高齢者においては,食環境や食形態の調整,栄養補助食品の利用,多様な栄養摂取ルートの活用などが必要になる.これらの臨床エビデンスをライフステージに合わせて読み解くことにより,われわれ補綴歯科医の医学的,社会的な責務が,どのライフステージにおいても甚大であることを訴えたい.

原著論文
  • 尾関 創, 横山 隆, 土屋 淳弘, 加藤 大輔, 足立 充, 髙木 信哉, 林 裕基, 村上 弘
    原稿種別: 研究論文
    2021 年13 巻2 号 p. 126-134
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/04/29
    ジャーナル フリー

    目的:近年,食生活の変化とともに軟食化が進んでいるが,顎関節症に与える影響については未だ明確になっていない.そこで,粉末飼料を用いて飼育することにより,軟食が顎関節に与える影響について,下顎頭の形態と表面性状に着目して検討することとした.

    方法:本研究では,寿命が通常マウスの約半分と短く,一生涯を短期間で観察可能な老化促進モデルマウスP8(Senescence-Accelerated Mouse P8:以下SAMP8)を用いた.実験群は,SAMP8を離乳時期にあたる3週齢の離乳群と粉末飼料および固形飼料にて各7カ月齢まで飼育した粉末群と固形群の3群にわけ各群10匹とした.実験では,剖出した下顎頭を実体顕微鏡下にて規格写真撮影を行い,下顎頭表面性状の変化を6つのGradeにて評価するChenの分類を用いて表面性状を評価した.下顎頭の形態については,前後径,幅径,面積,円形度を画像解析ソフトimage Jにて計測した.また,骨塩量について軟X 線を用いて計測した.

    結果:下顎頭の表面性状は,Chenの分類による評価では,離乳群で変化はなかったが,粉末群,固形群の順で有意に高い値を示した.形態については,前後径,幅径,面積および骨塩量で,固形群が粉末群および離乳群に比べて有意に大きな値を示した.円形度では離乳群,粉末群,固形群の順で大きな値を示し,離乳群と固形群の間で有意差を認めた.

    結論:粉末飼料による飼育では,下顎頭の形態は離乳時期と殆んど変化せず,劣成長の傾向が認められることが明らかとなった.

  • 片岡 加奈子, 玉置 勝司, 小野 弓絵, 星 佳芳, 生田 龍平, 藤原 基
    原稿種別: 研究論文
    2021 年13 巻2 号 p. 135-145
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/04/29
    ジャーナル フリー

    目的:上顎部分床義歯パラタルバーの位置の違いが発語時の脳活動に与える影響について検討することを目的に,パラタルバー装着発語時の違和感を主観的評価(Visual analog scale: VAS)と客観的評価(脳活動データ)から検討した.

    方法:発語機能に異常のない25名(平均年齢31.8歳)を対象に前パラタルバー,中パラタルバー,後パラタルバー(以下前PB,中PB,後PB)をそれぞれ上顎に装着した状態で,発語文章1「さくらのはながさきました」,発語文章2「アメリカのミシシッピー」を発語させた.その際,発語時違和感の主観的評価としてVASを用いた.客観的評価として前頭前野の脳活動を用い,この指標として,機能的近赤外線分光法(functional near-infrared spectroscopy: fNIRS)により計測した酸素化ヘモグロビン(Oxy-Hb),脱酸素化ヘモグロビン(Deoxy-Hb)濃度変化量を用いた.

    結果:VAS値は,両発語文章において,後PB装着時に強くなる傾向を示した.一方脳活動は,発語文章1では活動の有意差は認められなかった.発語文章2ではOxy-Hbにおいて中PBの値が大きく,前PBに比べ有意差が認められた.Deoxy-Hbにおいて前PBの値が大きく,前PBと中PB,前PBと後PBにも有意差が認められた.

    結論: 主観的な評価は前PB,中PBで同程度であり,後PBが高く,舌運動の阻害の程度を反映した.客観的な評価はパラタルバーの設定位置と発語内容によって異なり,変化した口腔内部の状況に応じて円滑な発声を行うための認知的負荷の強度を反映していると考えられた.

専門医症例報告
  • 野田 一樹
    原稿種別: 症例報告
    2021 年13 巻2 号 p. 146-149
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/04/29
    ジャーナル フリー

    症例の概要:患者は39歳の男性,重度歯周炎による咀嚼障害・審美障害を主訴に来院した.歯周治療を行い,全顎的な歯周ポケットの改善に成功した.臼歯部の咬合関係は変えずに,前歯部の挺出やフレアーアウトを補綴前処置にて是正した後に,プロビジョナルレストレーションで咬合を再構成し,固定性補綴装置で最終補綴を行った.

    考察:歯周治療へのモチベーションを維持できたこと,プロビジョナルレストレーションの形態・咬合を最終補綴に反映させたことが安定した予後につながった.

    結論:重度歯周病患者に対して,歯周治療と咬合改善を含めた包括的治療と管理を行うことで,固定性補綴装置を長期にわたって維持できることが示唆された.

  • 北見 恩美
    原稿種別: 症例報告
    2021 年13 巻2 号 p. 150-153
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/04/29
    ジャーナル フリー

    症例の概要:65歳の男性.歯の欠損および歯冠崩壊による咀嚼困難,審美不良を主訴に来院した.咬合支持の減少,咬合高径の低下,ならびに側方運動の障害を認めたため,治療用義歯にて咬合支持の回復と咬合挙上を行い,プロビジョナルレストレーションにて犬歯誘導を付与した後に,最終補綴装置を装着した.

    考察:咬合再構成にあたり,プロビジョナルレストレーションと治療用義歯を用いて適切な咬合関係を設定し,カスタムオクルーザルテーブルを用いて正確に最終補綴装置に反映させたことが良好な経過に寄与したと考えられる.

    結論:本症例では,咬合支持の回復と,適切なアンテリアガイダンスの付与により,良好な経過を得ることが出来た.

  • 中西 康輔
    原稿種別: 症例報告
    2021 年13 巻2 号 p. 154-157
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/04/29
    ジャーナル フリー

    症例の概要:78歳の女性.咀嚼困難を主訴として来院した.残存歯は64|2532|3であり,パノラマエックス線写真と歯周組織検査の結果から重度歯周炎が認められた.部分床義歯において支台装置不適合と下顎人工歯の咬耗が認められ,維持・安定が不良であった.上顎は全部床義歯,下顎はImplant overdenture(以下IOD)を製作することとした.なお,メタルフレームを用いる設計とした.

    考察:本症例において義歯の維持,安定をインプラントに求めたことが咀嚼能力の向上とQuality of Lifeの向上につながったと考えられる.

    結論:上下顎無歯顎症例において,下顎IODを用いることで咀嚼障害が改善され,高い満足度が得られた.

  • 内堀 聡史
    原稿種別: 症例報告
    2021 年13 巻2 号 p. 158-161
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/04/29
    ジャーナル フリー

    症例の概要:患者は67歳の女性.下顎部分床義歯の動揺による咀嚼困難を主訴に来院.残存歯の歯周ポケットは部分的に6 mm以上で垂直的歯根破折が疑われた.保存不可能な歯を抜歯し,下顎に4本のインプラント体を埋入しインプラントオーバーデンチャーを装着することで咀嚼機能の回復を行った.

    考察:最終補綴装置装着後4年経過したが,インプラント体周囲の骨吸収および顎堤の吸収を認めなかった.本症例では4本のインプラントを用いたことでリジッドサポートによる義歯の安定が得られたと考える.

    結論:下顎インプラントオーバーデンチャーを適用したことで咀嚼困難を改善し,良好な結果を得られた.

  • 福西 美弥
    原稿種別: 症例報告
    2021 年13 巻2 号 p. 162-165
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/04/29
    ジャーナル フリー

    症例の概要:患者は80歳の女性,下顎全部床義歯不適合による咀嚼困難を主訴に来院した.下顎両側臼歯部に高度な顎堤吸収を認め,義歯の維持安定を得ることが困難なため,サージカルガイドによるフラップレス手術にて2本のインプラントを埋入し,磁性アタッチメントを用いた即時荷重インプラントオーバーデンチャーを装着することとした.

    考察:磁性アタッチメントの維持力により即時荷重インプラントオーバーデンチャーの装着直後から義歯の維持安定が向上した.

    結論:顎堤吸収が著しい無歯顎患者に対し即時荷重インプラントオーバーデンチャーは患者の口腔関連Quality of Lifeを改善した.

  • 原 真央子
    原稿種別: 症例報告
    2021 年13 巻2 号 p. 166-169
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/05/11
    ジャーナル フリー

    症例の概要:50歳の女性.右下臼歯部の欠損と左下臼歯部の咬合時疼痛に起因する咀嚼困難を主訴として来院した.保存困難な歯を抜去した結果,下顎両側遊離端欠損となった.欠損部に対してインプラント治療を行い,良好な経過を得たので報告する.

    考察:暫間補綴装置の咬合調整,形態修正を重ねクロスマウントを行うことにより暫間補綴装置の咬合・形態を最終補綴装置に反映させることができた.

    結論:下顎臼歯部遊離端欠損症例に対してインプラント補綴は咀嚼機能・審美性の回復に有効であり口腔関連Quality of Life(QoL)が向上することが示された.

  • 伊藤 達郎
    原稿種別: 症例報告
    2021 年13 巻2 号 p. 170-173
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/04/29
    ジャーナル フリー

    症例の概要:患者は69歳女性.上下全部床義歯を装着していたが,中咽頭癌術後に義歯の維持,安定の低下により食事が困難となり当科を受診した.右舌半側切除術後のため舌運動障害による構音,摂食嚥下障害が認められた.そこで,上下顎全部床義歯を新製し,上顎義歯を舌接触補助床(PAP)にする方針とした.

    考察:機能評価とリハビリテーションを行うことで,PAPに適正な研磨面形態の付与が可能となったことに加え,日常訓練の意欲も向上し,治療効果をより引き出すことができたと考えられる.

    結論:本症例では,中咽頭癌術後による舌運動障害に対して義歯型PAPを製作し,リハビリテーションを継続することで構音および摂食嚥下機能が改善された.

  • 帆足 有理恵
    原稿種別: 症例報告
    2021 年13 巻2 号 p. 174-177
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/04/29
    ジャーナル フリー

    症例の概要:患者は57歳女性,重度咬耗による審美不良を主訴として来院した.上下顎ともに重度咬耗が認められ,睡眠時ブラキシズムにより長期にわたり歯質,補綴装置への過大な咬合力が作用していたものと考えられた.

    考察:咬合挙上を伴う全顎的な歯冠補綴を行い審美不良を改善し,睡眠時ブラキシズムに対しては,スプリント装着を指示することで,補綴装置の破損は認めなかった.

    結論:睡眠時ブラキシズムによる重度咬耗に対して咬合挙上を行うことにより,審美不良を回復し,スプリント治療を併用することにより良好な予後を得ることができた.

  • 青木 尚史
    原稿種別: 症例報告
    2021 年13 巻2 号 p. 178-181
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/04/29
    ジャーナル フリー

    症例の概要:患者は71歳の男性.下顎左側臼歯部歯肉の糜爛を主訴に来院した.検査の結果,糜爛部は悪性腫瘍であった.全身麻酔下で下顎辺縁切除術およびインプラント埋入術を同時に施行した後,インプラントオーバーデンチャーを作製した.

    考察:本症例では術後早期にインプラントオーバーデンチャーを作製,装着することができたため,良好な結果が得られたと考えられる.

    結論:術後の機能回復を見据えて術前から補綴処置を計画・介入することで手術回数を減らすだけでなく,最終補綴までの待機期間を短縮し,早期に機能回復が得られた.

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