日本補綴歯科学会誌
Online ISSN : 1883-6860
Print ISSN : 1883-4426
ISSN-L : 1883-4426
10 巻, 2 号
平成30年4月
選択された号の論文の16件中1~16を表示しています
巻頭言
依頼論文
◆企画:第126 回学術大会/臨床リレーセッション2 「温故知新 先人達に学ぶ -補綴で大切なものは何か-」
  • ―創る努力に加え延命の努力を―
    山下 敦
    2018 年 10 巻 2 号 p. 99-104
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/05/13
    ジャーナル フリー

     近年「歯は健康の源」が国民に理解されるようになり,医療従事者も自分の歯で咬めることが全身健康につながるとの認識が高まっている.このことは失われた歯や顎の機能回復を専門職とする補綴歯科医には,誰よりも重大な使命と責任を負う立場にある.補綴歯科医は半世紀に近い間「作る努力」をしてきたが,さらに国民の健康に寄与するためには,「作った補綴歯の延命に努力」しなければならない.そのためには,全部鋳造冠での修復歯がバンド冠や接着ブリッジより短命で日常臨床の多くが再治療である理由を再考する必要がある.補綴歯延命の鍵は,口腔を正常口腔常在菌叢に維持するための口腔ケアの効果を共有することにあると考える.

◆企画:シリーズ/補綴医に贈る再生医療の話 第1 回
◆企画:第126 回学術大会/イブニングセッション
  • ─有床義歯へのインプラントの活用─
    金澤 学, 佐藤 洋平, 横山 紗和子
    2018 年 10 巻 2 号 p. 111-120
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/05/13
    ジャーナル フリー

     インプラントオーバーデンチャー(IOD)とImplant Assisted Removable Partial Denture(IARPD)は全部床義歯,部分床義歯およびインプラントの狭間にあるソリューションである.下顎無歯顎には2-IOD,1-IOD,およびミニインプラントオーバーデンチャーというオプションが考えられる.2-IODでは即時荷重が可能であるが,その際初期固定が重要であり,骨質,インプラントのサイズや埋入位置を考慮する必要がある.IARPDでは,遊離端欠損を中間欠損化することが可能な位置にインプラントを配置する.部分欠損症例では対顎の咬合力を受け止める位置にインプラントを埋入し,特にすれ違い咬合では,相互回転変位を考慮して義歯を設計する必要がある.骨造成の際は既存骨を十分に利用し,細い骨にはスプリットクレストなどを応用し,手術に工夫をすることが必要である.

◆企画:第126 回学術大会/臨床スキルアップセミナー
  • ─歯だけにとらわれない診かた考え方─
    武部 純
    2018 年 10 巻 2 号 p. 121-122
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/05/13
    ジャーナル フリー
  • 山口 泰彦
    2018 年 10 巻 2 号 p. 123-128
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/05/13
    ジャーナル フリー

     下顎位や咬合接触は,歯や歯列,顎関節,咀嚼筋群,神経系の各要素により決定されるため,咬合異常の中には歯や歯列以外の要素の異常に起因したものが含まれる.顎関節の形態変化に継発する咬合異常は,骨の変形などで下顎頭が上方へ偏位し,前方歯列の開咬を呈する群と,滑液の貯留や浮腫など何らかの原因で顎関節隙が拡大し,上下臼歯部が離開した状態を呈する群に大別される.筋の異常緊張に伴う二次的な咬合異常では,緊張した筋の部位によりさまざまなパターンの顎位変化とそれに伴う早期接触や非接触,咬合位の不安定化が起こり得る.日常の補綴臨床では,これらの顎関節の形態変化や咀嚼筋障害に起因する二次的咬合異常が存在し得ることを踏まえ,顎関節や筋の異常の有無,病態の的確な把握を行った上で咬合異常に対する治療計画を立てる必要がある.

  • 松香 芳三, 玉置 勝司, 葉山 莉香, 安陪 晋, 宮城 麻友, 堀川 恵理子, 成谷 美緒, 野田 千織, 大島 正充, 河野 文昭
    2018 年 10 巻 2 号 p. 129-133
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/05/13
    ジャーナル フリー

     咬合違和感を訴える患者に対して検査を実施しても問題が見つからず,対応に苦慮することは多い.歯科医師は患者を救いたいと希望し,患者の咬合状態に問題がなくても,咬合調整や咬合再構成などの不可逆的な治療を実施することもある.そのため,咬合違和感を訴える患者の病態について補綴歯科医が理解することは重要なことである.日本補綴歯科学会診療ガイドライン委員会が作成した咬合違和感症候群に関するポジションペーパーでは,狭義の咬合違和感の原因は精神疾患,あるいは末梢から中枢神経系における情報伝達・情報処理機構の可能性があると報告されている.今回は咬合違和感に関して概説し,先生方の今後の診療の一助にしていただきたい.

◆企画:誌上ディベート『米国型 vs. スカンジナビア型』
  • -日本の補綴歯科専門医はどちらを向いているのか?-
    江草 宏
    2018 年 10 巻 2 号 p. 134-135
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/05/13
    ジャーナル フリー
  • 弘岡 秀明
    2018 年 10 巻 2 号 p. 136-143
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/05/13
    ジャーナル フリー

     歯周治療においては,炎症をコントロールすることによって“歯周組織の改善と安定を図る”いわゆる 「スカンジナビアン アプローチ」が確立されている.

     感染除去後,歯牙支持組織の喪失のため動揺を伴う少数歯残存歯列になることがある.このような患者群の失われた咀嚼機能と審美性を回復し,残存する歯周組織を保護するためにスカンジナビアン アプローチの一手段である「歯周補綴」が用いられ,良好な結果が報告されている.

     ときに残った歯列だけでは残存する歯周組織を保護することが困難なケースでは,インプラントを応用すること(歯周インプラント補綴;Perio-Implant-Prosthesis; PIP)によってこれらの問題を解決することが可能になる.

  • ─中等度歯周病患者に対する治療結果の長期安定をめざして─
    松井 徳雄
    2018 年 10 巻 2 号 p. 144-150
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/05/13
    ジャーナル フリー

     歯科治療すべての目標は,良好な口腔状態を長期的に維持し,機能させることと考える.しかし成人患者の多くは,歯周病に罹患し,咬合状態も不安定なことも多く,その対応に苦慮することも少なくない.このような状況で補綴治療を余儀なくされる場合,治療結果の長期的予後を望むことは簡単ではなく,深い歯周ポケットや骨欠損などの歯周病変の改善や歯の位置を是正する矯正治療など一口腔一単位視点の総合治療が求められる.またインプラントと天然歯が共存する場合は,特に注意を要する.

     今回は,中等度歯周病患者に対する補綴治療における私が考える北米型歯周病学的配慮について考察する.

専門医症例報告
  • 李 淳
    2018 年 10 巻 2 号 p. 151-154
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/05/13
    ジャーナル フリー

    症例の概要:患者は57歳男性.歯肉の腫脹と咀嚼時の咬合痛による審美不良および咀嚼困難を主訴に来院した.糖尿病を伴う重度歯周炎と診断し,保存不可能な多数歯を抜去後,総義歯補綴治療を行い,咀嚼機能と審美性の回復を図った.

    考察:多数歯抜去前に,徹底した歯周病治療と,義歯床馴化用レジン床の装着を行った.多数歯抜去後に即時総義歯を装着し,粘膜の回復を待ちながら,義歯調整を行って順応期間を経たことが,最終義歯補綴治療の良好な結果に繋がったものと考える.

    結論:義歯装着未経験の重度歯周病患者に対して,入念な前処置を行った後に,総義歯補綴治療を行い,咀嚼機能と審美性の回復を図ったことで,主訴の改善と良好な経過を得た.

  • 藤井 隆晶
    2018 年 10 巻 2 号 p. 155-158
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/05/13
    ジャーナル フリー

    症例の概要:患者は63歳の女性.上顎前歯部の歯冠補綴装置の不適合による審美不良および下顎左側臼歯部の遊離端欠損に伴う咀嚼困難が主訴であった.義歯のクラスプが目立つことに対する患者の抵抗が大きかったため,クラウンブリッジおよび遊離端欠損部にはアタッチメント義歯を用いることで,審美性と安定した咬頭嵌合位の回復を図った.

    考察:下顎臼歯部欠損に対する補綴歯科治療には種々の方法が存在する中で,患者の主訴を改善可能である補綴修復装置の設計を考慮し,製作および装着することができた.

    結論:陶材焼付冠ブリッジとアタッチメント義歯によって,審美不良および咬頭嵌合位の安定性を改善し,良好な結果を得た.

  • 吉井 崇之
    2018 年 10 巻 2 号 p. 159-162
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/05/13
    ジャーナル フリー

    症例の概要:74歳の女性.上顎義歯の維持不良と前歯部の審美不良とを主訴に来院した.患者は 731|35 3| に磁性アタッチメントのキーパーが装着されていたが磁性アタッチメントはなく強い嘔吐反射を示した.また義歯の前歯部の豊隆が強く口唇が突出して見えた.使用中の義歯を治療用義歯として床範囲を決定し,前歯部の豊隆はチェアーサイドで決定した.

    考察:旧義歯を調整し適切な義歯床縁の位置を検討したことで,適切な位置に床縁を設定できた.またチェアーサイドで前歯部排列位置を決定したことで審美的満足も得られたと考えられる.

    結論:磁性アタッチメントを設定し,適切な義歯の床縁を設定したことなどから維持不良と審美不良とが改善された.

  • 髙江洲 雄
    2018 年 10 巻 2 号 p. 163-166
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/05/13
    ジャーナル フリー

    症例の概要:63歳女性.上顎両側臼歯部挺出を伴った下顎両側遊離端臼歯部欠損による咀嚼障害を主訴に来院した.インプラント固定性補綴歯科治療と対合歯も咬合関係を是正して補綴歯科治療を行った.

    考察:インプラント固定性補綴歯科治療により咀嚼機能が向上した.最終補綴装置装着後3年6カ月間,問題なく経過を辿っており,術前の咬合検査,診断,定期的なメインテナンスの継続,少ないインプラントリスクファクターが結果に反映していると考えられた.

    結論:インプラントとその対合歯に外傷を与えない咬合関係を与えることを念頭に,インプラント固定性補綴歯科治療を行った結果,3年6カ月間問題のない経過を辿った.

  • 中川 敬史
    2018 年 10 巻 2 号 p. 167-170
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/05/13
    ジャーナル フリー

    症例の概要:患者は71歳の女性.顔面・手指に発赤・痒みを自覚し,皮膚科へ通院するも症状は軽快しなかった.これまでの歯科金属アレルギー治療の原則は,アレルゲンの同定確定とそのアレルゲンを含む金属修復物の完全除去にあるとされている.本症例では金属修復物を,段階を経て除去し,歯冠補綴治療を行うことにより症状の改善を図った.

    考察:歯性病巣感染の軽快により金属アレルゲン吸収量が減少したことも,症状改善の一因と考えられた.このことから本症例でのアレルギー症状の原因は歯科金属アレルギーの関与が大きいものと考えられた.

    結論:歯科用金属に対して感作されるアレルギー症状には,経過観察を踏まえた歯科金属の部分的な除去が有用であることが示唆された.

  • 永田 省藏
    2018 年 10 巻 2 号 p. 171-174
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/05/13
    ジャーナル フリー

    症例の概要:患者は57歳・女性.下顎右側犬歯の疼痛を主訴に来院した.全顎的な重度の歯周疾患を抱え,咬合崩壊に直面していた.歯周治療を中心に,残存歯の偏在した歯列にはインプラントを用いて新たな咬合支持を獲得,不安定な下顎位をゴシックアーチ描記法により適正な位置に設定し,最終補綴を行った.

    考察:術後経過においては,根面カリエスを呈したが,テレスコープ義歯の利点を活かすことで,咬合支持は良好に維持されている.

    結論:残存歯が偏在した歯列に,少数のインプラントを配置して咬合を再構成した可撤性補綴はメインテナンスに優れ,予知性の高い補綴手法であった.

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