日本補綴歯科学会誌
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1 巻, 4 号
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原著論文
  • 昆 はるか, 佐藤 直子, 野村 修一, 櫻井 直樹, 田中 みか子, 細貝 暁子, 山田 一穂, 金城 篤史, 甲斐 朝子, 山下 絵美, ...
    2009 年1 巻4 号 p. 361-369
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/22
    ジャーナル フリー
    目的:自立して社会生活を送る一般的な高齢者の義歯に対する主観的評価と「咬めること」,「食事中に外れないこと」,「痛くないこと」の3要因ならびに歯の欠損形態,咀嚼可能な食品との関連を明らかにすることを目的とした.
    方法:対象は,平成19年度厚生科学研究「口腔保健と全身的な健康状態の関係について」の調査に参加した,新潟市在住で義歯を装着している79~80歳の256名とした.義歯の満足度と「咬めること」,「外れにくいこと」,「痛みがないこと」についてVAS値でアンケートを行った.さらに,欠損形態を宮地分類でグループ化し,義歯満足度との関連を調べた.また,15品目の食品が咀嚼可能かを調べた.
    結果:義歯の満足度は,「咬めること」,「外れにくいこと」,「痛みがないこと」との間に相関があったが,一つの項目のみが突出して高い関連を示すことはなかった.宮地分類と義歯に対する満足度との間に,関連は認められなかった.義歯の満足度(VAS値)により分けた4群間では,不良群で咬める食品数が有意に低かった.
    結論:義歯の満足度を高めるには,咬めて,外れにくく,使用時に痛みのないことが必要であることが確認された.一方,今回の調査からは義歯の満足度と宮地分類との間には関連が認められなかった.これは,難しい欠損形態でも義歯の製作や調整次第で,満足が得られる可能性を示唆すると考えられた.
  • 山田 将博, 上野 剛史, 堀 紀雄, 木本 克彦, 小川 隆広
    2009 年1 巻4 号 p. 370-377
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/22
    ジャーナル フリー
    目的:本研究の目的は,歯科用ポリメチルメタクリレート(PMMA)即時重合型レジンの口腔粘膜細胞に対する細胞毒性と酸化ストレスとの関連性を示し,その毒性メカニズムを細胞生物学的,生体材料学的に考察することである.
    方法:ラット口蓋歯肉から採取された口腔粘膜細胞を歯科用PMMA即時重合レジン上,もしくは,培養用ポリスチレン上に播種した.播種24時間後に,フローサイトメトリーを用いた細胞活性試験とアポトーシスの生化学的マーカーの検出,細胞内総グルタチオン比色検定と細胞内活性酸素種(ROS)蛍光定量測定試験を行った.
    結果:ポリスチレン上の口腔粘膜細胞では85%以上が生存していたのに対し,PMMAレジン上で24時間培養された細胞の生存率は僅か0.2%だった.PMMAレジン上でみられた細胞死は全て細胞膜の破壊を伴ったのに加え,細胞死に至る細胞伝達経路で働く活性化カスパーゼ3/7の著明な増加がみられた.また同時に,PMMA上の細胞には,著しい細胞内ROSレベルの上昇と総グルタチオン量の低下が認められた.
    結論:PMMAベース歯科用即時重合レジン上に播種したラット口蓋歯肉由来の口腔粘膜細胞に,活性化カスパーゼの著名な増加と細胞膜崩壊を特徴とする著しい細胞死が引き起こされた.その細胞死の一因として酸化ストレスの関与が示唆された.これら結果は,歯科用PMMAレジンによる口腔粘膜細胞への壊滅的に強い細胞毒性の存在を証明し,またそのメカニズムを考察する一助となった.
  • 沼尾 尚也, 山下 秀一郎, 笠原 隼男, 富田 美穂子, 浅沼 直和
    2009 年1 巻4 号 p. 378-385
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/22
    ジャーナル フリー
    目的:これまで行われてきた味覚に関する検査法は,ある濃度に調整された特定の味質を口腔内に入れた際に,単にそれを認識可能かどうかについて判定する手法によって評価してきた.しかし,咀嚼の進行に伴う口腔内での味の広がり程度を基準とした研究は少ない.そこで,本研究では一定濃度の味質(甘味)を試験試料に混入しこれを咀嚼させた場合に,あらかじめ規定した味の広がり程度を認識できるのに何回の咀嚼が必要かを調べることで,その個人の咀嚼の進行に伴う味の認識能力を客観的に評価する検査法を新たに確立することを目的とした.
    方法:被験者は健常有歯顎者43名(男性24名,女性19名,平均年齢30.0歳)とした.3%アガロースにスクロースを2%と5%の濃度になるように添加して試験試料を作製した.被験者には,舌一部および舌全体に味を感じるまで試料を咀嚼するように指示し,咀嚼回数を測定した.
    結果:規定した味の広がり程度を認識するのに必要な咀嚼回数は,特に5%スクロース試料において女性の方が少ない値を示した.味の広がり程度が拡大するのに伴い認識に必要な咀嚼回数は増加する傾向を示し,スクロース濃度が濃くなるにつれ咀嚼回数は減少する傾向を示した.
    結論:規定した味の広がり程度を認識するのに必要な咀嚼回数の測定を行うことは,咀嚼の進行に伴う味の認識能力を客観的に評価する新たな味覚の検査法として有効な手段になりうる可能性が示唆された.
  • 白野 美和, 永田 和裕, 森田 修己
    2009 年1 巻4 号 p. 386-395
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/22
    ジャーナル フリー
    目的:マウスガード(以下MG)の装着が顎関節におよぼす影響については未だ不明な点が多い.そこで本研究は,MGの咬合支持領域の違いが咬みしめ時の下顎頭変位に及ぼす影響を明らかにする目的で,咬合支持領域の異なる3種類のMG装着時における最大咬みしめ(以下MVC)時の下顎頭変位を測定し検討を行った.
    方法:被験者は健常有歯顎者10名(平均年齢27.1歳)とした.咬合支持領域の異なる3種類のMG(前歯から第二大臼歯まで全ての歯に咬合接触が存在するType77,第一大臼歯まで咬合接触が存在するType66,臼歯部のみに咬合接触が存在するType47)を製作し,咬頭嵌合位(以下ICP)と3種類のMG装着時において,最大咬みしめ(以下MVC)時の下顎頭変位を超音波方式の下顎運動機能解析装置であるWin Jawシステム®を用いて測定した.
    結果:MVC時の下顎頭変位量はICPと比べType77, Type66が上方への変位が有意に大きかった.また,ばらつきは前後方向においてICPに比べType66のばらつきが有意に大きくなり,Type77に比べType66とType47のばらつきが有意に大きくなった.
    結論:前後の咬合支持を削除することにより,被験者によっては下顎頭位の前後的な安定性が減少することが示唆された.各咬合支持条件における下顎頭の変位量,変位方向は個人差が大きく,どのような咬合接触が適切であるかについては明確な結論は得られなかった.
  • 高橋 睦, 水橋 史, 小出 馨, 水橋 亮, 森田 修己
    2009 年1 巻4 号 p. 396-402
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/22
    ジャーナル フリー
    目的:スポーツ時の顎口腔領域の外傷予防には,マウスガードの装着が有効である.本研究は,吸引成形後のシート各部の厚みについて,色の異なる2種のシートを用いて比較検討した.
    方法:マウスガードシートに10 mm四方の格子を印記し,各格子の厚さをメジャリングディバイス®を用いて測定した.マウスガードシートは白色(MG-W)および紫色(MG-P)のものを用いた.作業用模型は上顎有歯顎模型をシリコンラバー複製印象材を用いて印象採得後,硬質石膏を注入して作製し,上顎中切歯切縁で20 mm,上顎第一大臼歯近心頬側咬頭で15 mmになるようトリミングしたものを使用した.加熱条件は,基底面からの垂れ下がり距離が15 mmのもの(条件A),30 mmのもの(条件B),45 mmのもの(条件C)の3条件とした.2色のマウスガードシート各部の厚みの違いをt検定およびWilcoxon符号付順位和検定を用いて分析を行った.
    結果:シートの模型圧接部は,すべての部位で厚みが減少した.前歯部および口蓋部では,すべての加熱条件においてMG-WのほうがMG-Pに比較して厚みの変化率が大きかった(p<0.01).臼歯部では,条件AにおいてMG-WのほうがMG-Pに比較して厚みの変化率が大きかった(p<0.01).
    結論:本研究の結果,マウスガードシートの厚みは同じ加熱条件で成形を行ってもシート材の色によって異なることが明らかとなった.
  • 近藤 貴彦, 畑 好昭, 青柳 秀一, 渡邉 文彦
    2009 年1 巻4 号 p. 403-411
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/22
    ジャーナル フリー
    目的:オリンパスキャスタブルセラミックス(OCC)は,優れた物性にも関わらず破折などの問題点が報告されている.そこで,エレクトフォーミング法によるOCCの補強法として,ボンディング材および陶材の併用によるこれらの強度への影響について検討した.
    方法:OCCの補強として,1)エレクトロフォーミング法によるゴールドフレーム(GF)にOCCを鋳接した場合(GO),2)陶材専用のボンディング材(GBO),3)およびボンディング材と陶材を介在させた場合(GBPO),4)コントロールとしてOCCのみ(O)の3×4×25 mmの試料を各6個ずつ合計24個製作し,補強効果を3点曲げ試験で検討した.それらのうち最良の結果を示した条件について,上顎左側中切歯形態試料を製作し破壊試験により評価した.
    結果:3点曲げ試験の結果,GOの平均曲げ強さはO,GBO,GBPOとの比較において,有意水準95%で有意に高い値を示した.O,GBO,GBPO間に有意な差はなかった.破壊試験の結果,GO冠はOCC冠に比べ破壊強さが有意に高い値を示した(P<0.01).
    結論:ボンディング材および陶材によるOCCの補強効果が認められなかったが,GO冠での破壊試験の結果からエレクトロフォーミング法によるゴールドコーピングは,OCCに対して補強効果が期待できることが示唆された.
認定医症例報告
  • 堀 一浩
    2009 年1 巻4 号 p. 412-415
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/22
    ジャーナル フリー
    症例の概要:初診時27歳の女性で,1998年12月に左側口底部腫脹を主訴に来院した.粘表皮癌との診断のもと腫瘍切除術が行われ,手術17日後に暫間顎義歯を装着した.その後前腕皮弁が安定したため,術前模型をもとに陶材泥凍結(P-C・P・F)法を用いて患者の天然歯列を再現した陶歯を製作し,顎義歯を装着した.現在8年が経過しており,良好に経過している.
    考察:術前に印象採得を行うことにより術後早期から暫間顎義歯を装着し形態と機能の回復を図ることができた.また,最終顎義歯でも人工歯は残存歯列に調和しており,患者の高い満足が得られた.
    結論:一度に多数歯を喪失する顎補綴において,P-C・P・F法の応用は有効である.
専門医症例報告
  • 郡 元治
    2009 年1 巻4 号 p. 416-419
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/22
    ジャーナル フリー
    症例の概要:患者は47歳の女性.臼歯部欠損と前歯部叢生による咀嚼障害と審美障害を主訴に来院した.上顎右側と下顎左側の臼歯欠損部へのインプラント義歯による機能回復と咬合挙上を行うとともに,上下顎前歯の矯正治療を行った.
    考察:インプラント上部構造体を金属製のプロビジョナルレストレーションとして用いることで咬合の安定化を図るとともに,前歯部の矯正治療に際しての固定源として応用した.これにより破折などのトラブルがなく,矯正治療前後の咬合位の調整にも有用であり良好な経過を得た.
    結論:矯正治療を伴う咬合再構成で治療期間が長期になる症例では,金属製のプロビジョナルレストレーションの有用性は高いと考えられる.
  • 坂口 千代美
    2009 年1 巻4 号 p. 420-423
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/22
    ジャーナル フリー
    症例の概要:患者は初診時65歳男性で,両側頭頸背部にかけての慢性痛を主訴に来院した.近医にて下顎両側臼歯部に咬合高径を増したブリッジを装着後から発現した.臼歯部のブリッジを除去し,プロビジョナルレストレーションにて咬合高径を減じ,習慣性閉口路上で前歯が接触する位置に咬頭嵌合位を設定したところ,筋痛が減じたため,その咬合位にて最終補綴装置を装着した.
    考察:補綴装置装着後約4年経過したが,本慢性痛の再発は認めない.そのため,補綴装置の咬頭嵌合位の過高が本症発症に関与した可能性が考えられた.
    結論:補綴装置の咬合位を修正することによって,頭頸背部慢性痛を改善することができる場合があることがわかった.
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