目的:これまで,咬合・咀嚼機能と高次脳機能の関連性について多くの研究がなされているが,そのメカニズムの詳細は不明である.神経細胞の分化と成熟,樹状突起の分枝,シナプス新生や可塑性という段階を経て,神経回路の発達と機能発現が起こるには,脳由来神経栄養因子によるコレステロールの合成が強く関与している.本研究では,咀嚼動態の変化が,脳由来神経栄養因子の発現とコレステロール合成に及ぼす影響について検討した.
方法:ラットに固形飼料と液体飼料を給餌する2群を設定し,8週間飼育した後,脳組織を小脳,延髄,視床下部,中脳・海馬・線条体の複合体,および大脳皮質の5つの部位に切離し,脳由来神経栄養因子の遺伝子発現量をリアルタイムRT-PCRにて測定した.次に大脳皮質における脳由来神経栄養因子のレセプターについて免疫染色を行った.さらに脳組織の各部位のコレステロール量を測定した.
結果:固形飼料を給餌した群は液体飼料を給餌した群に比較して,大脳皮質における脳由来神経栄養因子の発現,そのレセプターの発現およびコレステロールの合成が有意に高かった.
結論:本研究結果から,咀嚼が学習記憶機能に関与するとされる脳由来神経栄養因子を介するコレステロール合成に影響を与えることが示唆された.
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