日本補綴歯科学会誌
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3 巻, 2 号
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依頼論文
  • 武田 孝之, 林 揚春
    2011 年3 巻2 号 p. 97-107
    発行日: 2011/04/10
    公開日: 2011/04/21
    ジャーナル フリー
    これまでオッセオインテグレーション獲得中は可及的にインプラントに荷重をかけずに保護をすることが最も重要であり,そのためには患者のQOLを一時的に阻害してもやむをえないこととされてきた.また,その間の咬合管理も優先順位としては低い位置にあり,すべてはオッセオインテグレーション獲得後に考慮することが暗黙の了解となってきた.
    しかし,治療期間中とはいえども患者のQOLを維持することは社会性はもちろんのこと,栄養管理,創傷の治癒の観点からも重要課題である.さらに,多数歯欠損症例においては安定した咬頭嵌合位を治療開始期から維持し,限られた時間のなかで適正な下顎位を模索することも力学的合併症を避ける意味からも重要である.
    そこで,治癒期間中の咀嚼機能を維持する対応法および注意点を明確にするとともに,プロビジョナルレストレーションと最終上部構造に付与する咬合接触の基本的な考え方を提示する.
  • ―Esthetic Zoneにおける天然歯・インプラント補綴―
    行田 克則
    2011 年3 巻2 号 p. 108-118
    発行日: 2011/04/10
    公開日: 2011/04/21
    ジャーナル フリー
    審美ゾーンと言われる前歯のエリアで患者の満足する結果を得ることはまず困難なことが多い.またそれを長期にわたり維持していくことはさらに困難である.まず患者の口腔内に装着された補綴物は既存の隣在歯と調和しなければならない.これを達成するには歯科医師だけでは無理で技工士の力を必要とする.またこれにより審美的満足が得られたとしても次には長期的な安定を達成しなければならない.そのためには歯肉の診断をし,将来起こりうる歯肉の再生と歯肉の退縮を予測しなければならない.もちろん歯肉退縮は防ぐべきことは当然である.歯肉の再生は歯槽上線維装置の再配列によりなされるが,オーバーインストゥルメンテーションされた歯根面では起こりにくい.また前歯部のインプラント補綴となるとさらに複雑な治療により,周囲組織を再生させなければならないが,このインプラントの粘膜貫通部分はオーバーインストゥルメンテーションされた天然歯と非常に似た状態であり,歯槽上線維装置の再生が期待できない.こうした因子を踏まえたうえで歯科医師,技工士とも患者に向かうことが重要である.
  • ―築盛法とプレステクニック応用の注意点―
    山田 和伸
    2011 年3 巻2 号 p. 119-125
    発行日: 2011/04/10
    公開日: 2011/04/21
    ジャーナル フリー
    補綴領域におけるCAD/CAMは,スキャニングの精度および設計の自由度と操作性,そして技工作業のなかで応用できる行程が拡大され,またそれらを再現する加工精度も日々向上している状況である.加えて,加工される素材もワックス,レジン,金属,そしてセラミックスなどさまざまなものに応用されるようになり,その素材自体も進歩している.
    単相の結晶構造を有するイットリウム安定化二酸化ジルコニウムは,優れた曲げ強度(900~1300 MPa以上)を示しながら生体安定性も有するため,これまでの素材では予後に大きな期待のできない臨床ケースにも応用が検討されている.しかし,新規材料・技術であるがゆえに,この優れた材質を最大限有効に利用した審美修復術式が確立しているとは言えず,歯周組織との調和のとれた審美性の獲得と,その長期的安定を実現するための手技に関する情報は十分と言い難い.
    本稿では,歯科技工士が実際にジルコニア素材を扱うに当たって何に注意すべきか,臨床ステップを示しながら述べてみる.
原著論文
  • 西村 一将, 大井 孝, 高津 匡樹, 服部 佳功, 坪井 明人, 菊池 雅彦, 大森 芳, 寶澤 篤, 辻 一郎, 渡邉 誠
    2011 年3 巻2 号 p. 126-134
    発行日: 2011/04/10
    公開日: 2011/04/21
    ジャーナル フリー
    目的:地域高齢者を対象に,20歯以上の保有と1年間での軽度認知機能障害(Mild Cognitive Impairment: MCI)発現との関連を検討した.
    方法:70歳以上の地域高齢者に対して心身の総合機能評価を2年にわたり実施し,1年目のベースライン調査時にMCIを認めず,かつ2年目の追跡調査が可能であった557名(女性310名)を分析対象とした.認知機能の評価にはMini-Mental State Examination(MMSE)を用い,スコアが26点以上を正常,25点以下をMCIとした.現在歯数については歯冠を残す20本以上の歯の有無について調査した.MCI発現との関連が疑われるその他の項目として,年齢,Body Mass Index,脳卒中既往,心疾患既往,高血圧,糖尿病,喫煙,飲酒,抑うつ傾向,学歴,配偶者の有無,ソーシャルサポートの状態,身体活動度,主観的健康感について調査した.
    結果:多重ロジスティック回帰分析を用いてベースライン調査から1年後のMCI発現の規定因子を検索した結果,男性において20歯以上の保有が,他の因子と独立して認知機能低下発現に対し有意なオッズ比の低値(オッズ比:0.19,95%信頼区間:0.04-0.82)を示した.
    結論:現在歯を20歯以上保有することは,咀嚼機能の維持のみならず,高齢期における認知機能の維持においても優位性を持つ可能性が示唆された.
  • 高橋 睦, 小出 馨, 水橋 史, 森田 修己
    2011 年3 巻2 号 p. 135-143
    発行日: 2011/04/10
    公開日: 2011/04/21
    ジャーナル フリー
    目的:マウスガード装着による外傷予防効果は,マウスガードシートの材質や付与される厚さに大きく依存する.本研究では,シートの形状による吸引成形後マウスガードシート各部の厚さについて,加熱状態の影響とともに検討を行った.
    方法:材料は,溝付きのステップタイプのマウスガードシート(インパクトガード®)および同質材料の溝のないフラットなシートを使用し,このシートに10 mm四方の格子を記入して測定部とした.厚さの測定は各格子の厚さをメジャリングディバイスを用いて計測した.作業用模型は,上顎中切歯切縁で20 mm,上顎第一大臼歯近心頬側咬頭で15 mmの高さにトリミングしたものを使用した.成形には吸引型成型器を用い,加熱状態はシート基底面がクランプから10 mm,15 mmおよび20 mm降下した時点とした.分析は,シートの形状と加熱状態によるシートの厚さの変化率の違いについて,二元配置分散分析を用いて行った.
    結果:シートの形状による厚さの違いは,前歯部および臼歯部で有意差が認められ,溝付きシートの方が厚さの減少率は小さかった.加熱状態による厚さの違いは,前歯部,口蓋部および臼歯部において10 mmと20 mmの間で有意差が認められ,加熱が進むほど厚さの減少率は大きかった.
    結論:吸引成形後マウスガードの厚さはシートの形状と加熱状態に影響を受け,溝付きシートを用いた方が前歯部と臼歯部の厚さを確保できることが明らかとなった.
  • 澤田 季子, 投石 保広, 硲 哲崇, 瀧田 史子, 東野 嘉文, 都尾 元宣
    2011 年3 巻2 号 p. 144-153
    発行日: 2011/04/10
    公開日: 2011/04/21
    ジャーナル フリー
    目的:マウスガード(以下MG)装着による不快感を,唾液α-アミラーゼ活性,心拍変動,アンケート調査(VAS法)を用いて,客観的,心理的に検討した.
    方法:被験者は,19~28歳の本学学生の男性15名とし,MGは,各被験者に口蓋を覆うタイプのMG(L)を作製した.計測は,Lの計測の後に,口蓋を歯頸部から4 mmの位置(M)に加工し,計測した.その後,口蓋を歯頸部の位置(S)に加工し,計測を行った.唾液α-アミラーゼ活性の計測は,MGの装着前,装着3分後,取り外した直後,取り外してから3分後に行った.心拍変動は,MG装着前90秒間と装着中60秒間を解析の対象とした.アンケート調査は,a. 呼吸のしやすさ,b. 乾燥感,c. 異物感,d. スポーツ時に使用するか,e. 舌触りの5項目について行った.
    結果:唾液α-アミラーゼ活性は,すべてのMGの装着により有意に増加した.ただし,増加量はLでのみ外した直後でもさらに増加した.心拍変動は,副交感神経系の指標であるHFについては,MGの装着による差はなかったが,交感神経系の指標であるLF/(HF + LF) × 100 については,すべてのMGの装着により増加した.また,Lで増加率が大きかった.アンケート調査の5項目は,MGの大きさで差が認められ,特に,不快感はLで大きかった.
    結論:客観的,心理的にみても,MGの装着による不快感が,MとSでは少ない可能性が示唆された.
専門医症例報告
  • 金田 恒
    2011 年3 巻2 号 p. 154-157
    発行日: 2011/04/10
    公開日: 2011/04/21
    ジャーナル フリー
    症例の概要:患者は73歳女性.全顎的に慢性歯周炎があり,上顎前歯部に動揺歯が認められた.患者は審美的な治療も望んでいたが,抜歯などの外科処置に対し恐怖心があったため動揺歯は保存し,上顎欠損部に対して,コーヌス義歯による補綴処置を行った.
    考察:8年経過した現在も補綴物・歯周組織ともに問題なく,安定している.これはコーヌス義歯のリジットサポートによる義歯の安定,それによる咀嚼能力の改善だけでなく,二次固定効果によるものと考えられる.
    結論:動揺歯を含む慢性歯周炎をもつ症例に対してコーヌス義歯による補綴治療が非常に効果的であった.
  • 細貝 暁子
    2011 年3 巻2 号 p. 158-161
    発行日: 2011/04/10
    公開日: 2011/04/21
    ジャーナル フリー
    症例の概要:患者は62歳の女性.上顎正中離開部の補綴物の審美性を主訴に来院した.義歯により臼歯部の咬合を確保したうえで,上顎前歯を後退させ正中離開を閉鎖した.
    考察:動的治療期間中に犬歯,小臼歯間に空隙が広がることはなかった.これは上唇の緊張感が強いことと臼歯部での咬合が確立されていたため前歯の後退のみによって正中離開の閉鎖が行え,側切歯,犬歯が近心移動しなかったと考える.術後4年半経過したが,後戻りはなく歯周状態も安定している.
    結論:補綴修復のみでは対称性が得られない正中離開症例に対し,部分矯正を併用した補綴修復を行うことによって,患者の満足も得られ長期的に良好な経過が得られた.
  • 竜崎 美樹
    2011 年3 巻2 号 p. 162-165
    発行日: 2011/04/10
    公開日: 2011/04/21
    ジャーナル フリー
    症例の概要:60歳の女性.咀嚼時の口蓋粘膜の疼痛を主訴として来院した.数年前に他院で下顎臼歯の欠如部に両側性の可撤性局部義歯を製作したが,違和感が強く全く使用していなかったところ,下顎前歯が徐々に口蓋粘膜に噛み込み始め,咀嚼時に疼痛を自覚するようになったという.そのため,咬合挙上を行い補綴装置にて回復した.
    考察:咬合高径の設定にセファロ分析の結果等複数のデータを参考としたため,違和感のない補綴装置の装着が可能となった.
    結論:咬合高径の設定にセファロ分析のデータは有用であると考えられる.
  • 一瀬 昭太
    2011 年3 巻2 号 p. 166-169
    発行日: 2011/04/10
    公開日: 2011/04/21
    ジャーナル フリー
    症例の概要:患者は71歳女性.前歯部審美障害と咀嚼障害を主訴に来院した.下顎遊離端義歯床内面の不適合からリライニングによる咬合支持の回復と,審美性を考慮したオベイドポンティックを利用した前歯部陶材焼付鋳造冠ブリッジにより補綴処置を試みた症例である.
    考察:オベイドポンティック形態を用いることで歯槽骨の吸収防止,歯肉縁形態,歯間乳頭の維持を考慮した前歯部補綴処置が可能なことがわかった.
    結論:前歯部審美障害を訴える患者に対してオベイドポンティックを選択した固定性補綴装置を用いることは有効である.
  • 木林 博之
    2011 年3 巻2 号 p. 170-173
    発行日: 2011/04/10
    公開日: 2011/04/21
    ジャーナル フリー
    症例の概要:患者は慢性歯周炎を有した58歳女性.種々の問題点を,歯周組織再生療法を含む歯周外科処置,MTM などの前処置により解決した.その後,臼歯部を中心に補綴処置を行い,清掃性と機能性を考慮した予知性の高い状態に回復した.
    考察:この症例のような広範囲の補綴歯科治療を行うには,正確な診断と効率的な治療順序の決定が必要となる.現在,補綴処置終了より4年経過.約半年ごとのメインテナンスと口腔衛生指導を継続しており経過良好である.
    結論:本症例報告を通して,術前に十分問題点を抽出し,補綴前処置によりそれらの諸問題を解決しておくことが,補綴処置の良好な予後を見通すために重要であることを示唆することができた.
  • 陣内 みさき
    2011 年3 巻2 号 p. 174-177
    発行日: 2011/04/10
    公開日: 2011/04/21
    ジャーナル フリー
    症例の概要:初診時61歳の女性.部分床義歯の不備による咀嚼障害の改善を主訴に来院した.残存歯の歯周治療および欠損部の補綴治療中に,咀嚼機能のさらなる向上および上顎義歯による発音障害の改善を希望されたため,上下顎欠損に対し,咬合支持やアイヒナー分類を考慮してインプラント治療を行なった.
    考察:経過観察中(4)32(1)|1(2)インプラントブリッジが脱離しかけたが,再装着を行いそれ以降の脱離はない.補綴終了後3年以上が経過したが,インプラント補綴治療による咀嚼機能は維持されていると考えられた.
    結論:多数歯欠損症例におけるインプラントによる欠損補綴治療は,可撤性義歯によるそれより咀嚼機能の回復と維持においてより効果的であった.
  • 小池 秀行
    2011 年3 巻2 号 p. 178-181
    発行日: 2011/04/10
    公開日: 2011/04/21
    ジャーナル フリー
    症例の概要:患者は59歳の女性.下顎右側コーヌステレスコープ義歯の不使用により,右側臼歯部の咬合支持を喪失した状態で来院した.小矯正を併用して咬合平面を是正しつつ,インプラントを用いた咬合の再構成に臨み,QOL(quality of life)の向上を図った.
    考察:理想的な最終補綴を見据えた咬合平面を事前に決定し,それに合わせて随時プロビジョナルレストレーションから最終補綴へと移行したことで,安定した違和感の少ない口腔内環境を得ることができたと考える.
    結論:片側性の臼歯部咬合支持の喪失症例に対して,咬合平面の是正を行い,インプラント支台の固定性の補綴装置を用いたことは,QOLの向上に有効であった.
  • 田中 茂生
    2011 年3 巻2 号 p. 182-185
    発行日: 2011/04/10
    公開日: 2011/04/21
    ジャーナル フリー
    症例の概要:患者は 67歳女性.主訴は,咬合高径の低下による咀嚼,審美障害である.まず,咬合挙上用スプリントにて咬合挙上を行い,さらに,プロビジョナルレストレーションを,咬合関係・歯周環境,審美的要素を確立するような形態に順次調整し,長期間装着した.最終補綴物は,上顎前歯部と下顎全顎をメタルボンドクラウンとした.
    考察:患者は,審美的,機能的にも満足が得られた.しかし,睡眠時パラファンクションを有するため,スプリントを装着し,定期的なメインテナンスが必要であると考える.
    結論:プロビジョナルレストレーションの長期装着により顎関節,咬合の安定を模索することが,良好な補綴物の維持に反映することが示された.
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