日本補綴歯科学会誌
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3 巻, 1 号
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依頼論文
  • 堀田 康弘, 宮崎 隆
    2011 年3 巻1 号 p. 1-11
    発行日: 2011/01/10
    公開日: 2011/01/26
    ジャーナル フリー
    現在の歯冠修復物の作製は,鋳造用金合の開発とロストワックス精密鋳造法の応用により確立した.歯冠色の必要な症例に対してはポーセレンやコンポジットレジンの前装が日常的に利用される.これらは手作業中心の技工作業である.一方,コンピュータを利用した成形加工法であるキャドキャムを歯冠修復物作製に応用する試みは,1980年代から世界中の歯科大学や歯科企業で行われてきた.2000年代に入り,高密度焼結体セラミックスの利用とりわけジルコニアの利用が,ネットワークを利用したセンター方式のキャドキャム成形加工法により実用化され,普及が期待されている.歯冠修復物へのキャドキャムの利用は,新素材の適用,技工作業の省力化,経済性,品質管理の観点から長所が大きい.今後の普及に向けて,臨床家が材料とキャドキャム成形法の利点と限界をよく認識し,支台歯形成から合着までの臨床術式を遵守することと,これまで以上に歯科技工士との協働が必要になる.
原著論文
  • 墨 尚, 阿部 俊之, 柴田 紀幸, 吉田 真琴, 犬飼 敏将, 伊藤 裕
    2011 年3 巻1 号 p. 12-17
    発行日: 2011/01/10
    公開日: 2011/01/26
    ジャーナル フリー
    目的:筆者らは,ガラスファイバー補強型高分子材料に注目し,微細構造の観察および組成の解析を行った.その結果,臨床使用に耐えうる材料であると判断し,1997年より,臨床応用を開始した.しかしながら,経過観察中に,装着した補綴装置が破損をきたす例がしばしば観察されたため,破損についてのコホート研究に着手することにした.
    方法:1999年6月25日から2000 年9月7日までの1年3カ月間に愛知学院大学歯学部附属病院で装着されたタルギス-ベクトリス修復物を調査対象とし,その破損状態を調査した.
    結果:全73個中の35個(47.9%)で破損がみられた.修復物の種類別では,インレーは14個中6個(42.9%),クラウンは43個中14個(32.6%),ブリッジは16個中15個(93.8%)の比率で破損がみられた.Kaplan-Meier Product-Limit推定法による8年の生存率はインレー:57.1%,クラウン:69.0%,ブリッジ:6.7%と推定された.
    結論:臨床医は,新しいコンセプトや技術により開発された材料を短絡的に使用するのではなく,長期間の予後観察を経て安全性・耐久性の確立された治療を行うべきである.
  • 米沢 弥生, 林 捷, 新谷 明喜
    2011 年3 巻1 号 p. 18-25
    発行日: 2011/01/10
    公開日: 2011/01/26
    ジャーナル フリー
    目的:6種類のセルフアドヒーシブレジンセメントの歯冠修復用金属との接着強さについて検討した.
    方法:本研究では,被着体として,チタン,ニッケルクロム合金,金合金,金銀パラジュウム合金,陶材焼付用金合金の5種類を使用した.接着材は,セルフアドヒーシブレジンセメントのMaxcem(Kerr,MA),Unicem(3M ESPE,UN),Breeze(Pentron Clinical,BR),Biscem(Bisco,BI),Set(SDI,SE),Clearfil SA luting(Kuraray,CL)の6種類および従来型のレジンセメントのResicem(Shofu,RE)を選択した.すべての試験片は,ランダマイズして7群に分け(n=6),耐水研磨紙#600で研磨した後,各接着材のメーカー指示に従い,被着体ブロックの接着を行った.接着後,ただちに37℃恒温槽内で水中浸漬し,24時間保存した.材料試験機にてローディングスピード0.5 mm/min. で荷重をかけ,最大圧縮せん断強さを測定した.測定値は,Kruskal-Wallis 検定とWilcoxon rank sum 検定により統計処理を行った.破断した試験片は,走査電子顕微鏡を用いて試験片の破断面を観察した.
    結果:圧縮せん断接着強さの平均値は,タイプIII 金合金で2.6 ± 1.9 MPa,金銀パラジウム合金で2.2 ± 1.7 MPa,陶材焼付用金合金で5.0 ± 2.3 MPa,チタンで10.2 ± 5.4 MPa,ニッケルクロム合金で9.9 ± 7.8 MPa を示した.
    結論:セルフアドヒーシブレジンセメントの歯冠修復用金属に対する接着強さは,貴金属が非貴金属より顕著に小さい値を示し,前処理の必要性が示唆された.BR,BI,CL では,非貴金属に対して他のセメントより高い接着強さを示した.
  • 岡 謙次, 井上 三四郎, 河野 孝則, 市川 哲雄
    2011 年3 巻1 号 p. 26-31
    発行日: 2011/01/10
    公開日: 2011/01/26
    ジャーナル フリー
    目的:漂白剤としての二酸化チタンを塗布したエナメル質に対して青紫色半導体レーザー照射を行ったときの色素分解能について検討を行った.
    方法:光源として青紫色半導体レーザー(日亜化学),ライトサージ(オサダ)およびオペレーザー(ヨシダ製作所)の3種類を光源として使用し,ヒトの抜去歯エナメル質表面に二酸化チタン塗布後にレーザー照射を行った.色調変化の測定にはL*a*b*表色系を用いた,処置前後のエナメル質の算術平均粗さを測定し,表面性状の変化を評価した.
    結果:色調の変化を示すΔE の値は青紫色半導体レーザーを使用した場合,他の光源と比較し有意に大きくなった.すべてのグループでレーザー照射前後でのエナメル質の算術平均粗さに有意な差は生じなかった.
    結論:実験結果より二酸化チタンに青紫色半導体レーザー照射を組み合わせることによって漂白効果が促進されることが示唆された.
  • 岡本 和彦, 飯塚 知明, 猪野 照夫, 岩瀬 直樹, 佐藤 雅介, 藤澤 政紀
    2011 年3 巻1 号 p. 32-39
    発行日: 2011/01/10
    公開日: 2011/01/26
    ジャーナル フリー
    目的:部分安定型ジルコニア(以下ジルコニアと略す)に対して,4種類のセルフアドヒーシブレジンセメントの剪断接着強さについて評価した.
    方法:本研究には,以下のセルフアドヒーシブレジンセメント,G-Luting, Clearfi l SA luting, Rely X Unicem, Smartcemを用いた.被験試料には,ジルコニアを調製し,常温重合レジン内へ包埋後,被着面研磨に耐水研磨紙#600を使用した.接着体には,ステンレスロッドを用い,被験試料数は,各セルフアドヒーシブレジンセメントについて14個製作し,水中浸漬後ならびにサーマルサイクル試験後の剪断接着強さならびに破壊様相を評価した.
    結果:セルフアドヒーシブレジンセメントのジルコニアに対する剪断接着強さは,水中浸漬後で7.5~66.1 MPa,サーマルサイクル試験後では,0.8 ~ 71.0 MPa を示した.リン酸エステル系モノマー含有のセルフアドヒーシブレジンセメントでは,カルボン酸系モノマー含有と比較して,剪断接着強さが高かった.破壊様相では,全被験試料でステンレスロッド界面での破壊は生じておらず,ジルコニア表面とセメントとの界面破壊,あるいは,セメント内部での混合破壊であった.
    結論:ジルコニアに対して,リン酸エステル系モノマーを含有するセルフアドヒーシブレジンセメントは,剪断接着強さのうち加速劣化の影響を比較的受けにくいことが示唆された.
専門医症例報告
  • 金山 健夫
    2011 年3 巻1 号 p. 40-43
    発行日: 2011/01/10
    公開日: 2011/01/26
    ジャーナル フリー
    症例の概要:患者は53歳男性で,左側下顎大臼歯部に生じたエナメル上皮腫のため下顎骨区域切除と腓骨による下顎骨再建術をうけた.術後下顎左側第二小臼歯,第一・第二大臼歯と同部歯槽骨欠損のため生じた審美・発音・咀嚼障害に対し,ミリング装置を用いた可撤性有床義歯を製作した.
    考察:機能時の義歯の動きを最小にするよう配慮した部分床義歯の装着により審美・発音・咀嚼の著しい改善を認めた.現在装着後6年経過しているが,粘膜面のリラインと咬合面へのレジン添加を数回行った以外大きなトラブルはなく,顎位は安定し,支台歯や周囲組織も良好な状態を保っている.
    結論:本症例に対し可撤性有床義歯は有効であった.
  • 堀内 留美
    2011 年3 巻1 号 p. 44-47
    発行日: 2011/01/10
    公開日: 2011/01/26
    ジャーナル フリー
    症例の概要:患者は53 歳男性で,歯周疾患の進行による咀嚼ならびに審美障害を主訴に来院した.歯周処置および抜歯により少数残存症例になった本症例に対し,プロビジョナルレストレーションを用いて崩壊した咬合を再構築した後,上顎に金属床義歯を,下顎にCSC テレスコープデンチャーを装着した結果,長期間の安定した予後が得られた.
    考察:残存歯の歯軸と歯冠歯根比を改善したことにより歯根と支持組織を保護し,CSC テレスコープデンチャーの十分な支持が得られたと考えられる.
    結論:少数残存症例である本症例に対するCSC テレスコープデンチャーによる補綴処置は,咀嚼機能の回復および審美性の改善に有効であった.
  • 田中 綾
    2011 年3 巻1 号 p. 48-51
    発行日: 2011/01/10
    公開日: 2011/01/26
    ジャーナル フリー
    症例の概要:67歳の女性で咀嚼障害を主訴として来院した.下顎は無歯顎で顎堤に著しい吸収を認めた.下顎総義歯の維持・安定不良および臼歯部人工歯咬耗による咬合高径の低下と診断した.人工歯を機能運動と調和した位置に排列するためフレンジテクニックを応用した.
    考察:主訴の原因に,人工歯の咬耗および人工歯排列の位置があると考えた.その対応に人工歯にレジン添加を行った治療用義歯の製作とフレンジテクニックを応用した排列を行ったことが,新義歯の維持・安定の獲得につながったと考える.
    結論:著しい顎堤の吸収を認めた咀嚼障害の症例に,フレンジテクニックを応用した.その結果,主訴の改善ができ良好な経過を得ることができた.
  • 冨山 雅史
    2011 年3 巻1 号 p. 52-55
    発行日: 2011/01/10
    公開日: 2011/01/26
    ジャーナル フリー
    症例の概要:患者は48歳の女性,上下顎臼歯部欠損による咀嚼障害を主訴に来院した.違和感により可徹性局部床義歯はほとんど使用していなかった.上顎左右臼歯部には上顎洞底挙上術を行い,上顎左右臼歯部と下顎右側臼歯部にインプラントの固定性上部構造を装着した.
    考察:定期的なメインテナンスを行っているが,インプラントの動揺や骨吸収は見受けられない.患者が満足する機能的回復と審美的完全が行われたと思われる.また,インプラントにより咬合支持が確保されたことにより,上下残存歯の保護に役立っていると思われる.
    結論:上顎両側遊離端欠損の補綴治療において,インプラント治療により患者の高い満足度が得られた.
  • 柴田 武士
    2011 年3 巻1 号 p. 56-59
    発行日: 2011/01/10
    公開日: 2011/01/26
    ジャーナル フリー
    症例の概要:患者は59歳女性.下顎両側遊離端義歯の破損による咀嚼障害を主訴に来院した.応急処置後に上顎前歯部ブリッジが脱落し,下顎義歯沈下による咬合支持不足によるわずかな咬合低下を認めたため全顎的な補綴治療を行った.その後1本の喪失歯はあったものの現在まで6年経過するが良好な状態が保たれている.
    考察:臼歯部の咬合支持が脆弱な歯列に対し,積極的な補綴治療による咬合再建を行ったことが咬合崩壊を防いだものと考えられる.
    結論:アイヒナー分類B2症例に対し,主として部分床義歯を用いた機能的および審美的回復を図ったところ,良好な治療結果が得られた.
  • 小田切 憲
    2011 年3 巻1 号 p. 60-63
    発行日: 2011/01/10
    公開日: 2011/01/26
    ジャーナル フリー
    症例の概要:患者は60歳,女性.咀嚼および審美障害を主訴に来院した.重度の慢性歯周炎患者に対し即時義歯を装着し,早期に咬合の支持,審美性を回復させ経過を観察しながら最終補綴処置に移行した.
    考察:即時義歯を装着したことにより,歯の欠損による咀嚼障害や審美障害などの弊害が最小限となり,最終補綴処置に至るまでに十分な前処置が行えた.
    結論:本症例では,即時義歯を使用して適正な下顎位および咬合高径を与えることによって機能的,審美的ともに患者の満足を得ることができた.また,重度の慢性歯周炎患者の補綴装置として,可撤式部分床義歯は有効な処置法であると考えられる.
  • 岡 森彦
    2011 年3 巻1 号 p. 64-67
    発行日: 2011/01/10
    公開日: 2011/01/26
    ジャーナル フリー
    症例の概要:68歳上下無歯顎の女性.下顎顎堤の咀嚼時疼痛による咀嚼障害を主訴として来院.義歯に対して会話や審美面についての高い要求を持っていた.咀嚼時ならびに会話時の下顎全部床義歯の維持および安定不良と診断した.新義歯では,フレンジテクニックを用いて,人工歯の排列位置および機能的な義歯床研磨面の形態を決定した.また,静的パラトグラム検査を用いて上顎全部床義歯の研磨面形態を決定した.
    考察:咀嚼時,会話時ともに義歯の維持・安定が得られたことによって,咀嚼ならびに会話時の問題点が改善されたと考える.
    結論:本症例では,機能的アプローチを中心に置き新義歯作製を行った結果,良好な経過が得られた.
  • 粟澤 重樹
    2011 年3 巻1 号 p. 68-71
    発行日: 2011/01/10
    公開日: 2011/01/26
    ジャーナル フリー
    症例の概要:患者は18歳女性.前歯部の空隙による審美障害を主訴として来院.64| が先天性欠如しており4|部と上顎前歯部に不均等な歯間空隙が認められた.MTMによる歯の再排列の後,3+3をポーセレンラミネートベニアにて歯冠修復を行い,4| 部にインプラント補綴を行った.
    考察:術後3年間が経過し機能的,審美的に良好な結果を得ている.歯を適正な位置に再排列し,舌の大きさに合わせた歯列弓を完成させる事で審美的な修復処置が行え,歯間空隙の再発が防止できたと考えられる.
    結論:先天性欠如を伴う空隙歯列に対して術前処置としてMTMを行うことで,適正に補綴処置を行い,歯に対して小侵襲で審美的な修復処置が可能となった.
  • 古屋 純一
    2011 年3 巻1 号 p. 72-75
    発行日: 2011/01/10
    公開日: 2011/01/26
    ジャーナル フリー
    症例の概要:患者は69歳の男性,上顎腺様嚢胞癌にて左側上顎半側切除後,誤嚥を伴う摂食・嚥下障害を発症し,当科初診となった.嚥下機能の早期回復を目的に,嚥下機能訓練と栓塞子を応用した嚥下補助床による治療を行い,経管栄養から離脱させた.その後,上顎顎義歯と下顎全部床義歯による咀嚼機能の回復を行った.また,嚥下内視鏡と嚥下造影による機能評価を行い,摂食指導を行った.
    考察:客観的評価を用いた段階的な機能回復により,安全かつ円滑な摂食・嚥下機能の回復を行うことができた.
    結論:摂食・嚥下障害を伴う無歯顎の顎欠損症例に対し,補綴装置と機能訓練による包括的なオーラル・リハビリテーションを行い,良好な経過を得た.
  • 原口 美穂子
    2011 年3 巻1 号 p. 76-79
    発行日: 2011/01/10
    公開日: 2011/01/26
    ジャーナル フリー
    症例の概要:初診時55歳男性.右側頬粘膜癌に対し下顎骨辺縁切除術,上下顎腹直筋皮弁再建術を施行した.術後に上下顎顎義歯を装着し,さらに下顎顎義歯にリッププランパーを付与して顔貌の回復を図った.
    考察:装着後5年,維持・安定は良好で,咀嚼・嚥下・審美障害の回復が得られ,QOLの向上に寄与していた.しかし術後5年目頃より腹直筋皮弁の増殖・肥大を認め,顎義歯による咬傷が生じたため,口腔外科にて皮弁減縮術を行い,顎義歯を再製作した.術前・術後を通して口腔外科と協力してフォローアップすることが,頭頸部腫瘍患者のQOLの向上にきわめて重要である.
    結論:頬粘膜癌腹直筋皮弁再建患者に対して顎義歯により機能回復を図り,良好な結果を得た.
  • 山本 悟
    2011 年3 巻1 号 p. 80-83
    発行日: 2011/01/10
    公開日: 2011/01/26
    ジャーナル フリー
    症例の概要:患者は58 歳の女性.開口障害と左側顎関節部の疼痛を主訴に来院した.下顎が後方に偏位し,前歯部は開咬を呈し,下顎位は不安定であった.スプリント療法および認知行動療法により下顎位を安定させ,咬合再構成を行った.
    考察:前歯部を含めた全顎的な咬合接触の回復とアンテリアガイダンスを適正に付与することにより下顎位の安定が得られ,パラファンクションに対する指導を行うことで症状の再発を予防することができたと考えられた.
    結論:本症例では,オクルーザルスプリントにより下顎位の安定を図り,その顎位において咬合再構成を行い,認知行動療法を行った結果,良好な予後を得ることができた.
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