日本補綴歯科学会誌
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1 巻, 3 号
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原著論文
  • 山本 史朗, 木本 統, 佐伯 啓行, 宗 邦雄, 篠宮 摩弥子, 小林 喜平
    2009 年1 巻3 号 p. 277-283
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/08/06
    ジャーナル フリー
    目的:本研究の目的は,異なる軟質リライン材による床下疑似粘膜下に生じる圧力動態の違いを明らかにすることである.
    方法:直径6mmの圧力センサを厚さ1.5mmのシリコーン製疑似粘膜で被覆した後,擬似粘膜上に試験体をのせ衝撃試験を行った.試験体は直径6mm厚さ2mmの床用レジンを2mmの軟質リライン材でリラインし作製した.軟質リライン材には,アクリル系軟質リライン材(PSR),2種類のシリコーン系軟質リライン材(SLT, SLMS)を使用し,コントロールは,厚さ4mmの加熱重合型床用レジンのみで作成した.圧力動態を評価するパラメータとして,圧力センサへの入力信号の最大値を表す最大圧力,それに要する時間を表す最大圧力到達時間,そして最大圧力を最大圧力到達時間で除した圧力伝導速度を設定した. MANOVA,ANOVAおよびBonferroni法を用い,有意水準は0.05以下で統計分析を行った.
    結果:最大圧力はコントロール,PSR>SLT>SLMS;最大圧力到達時間はSLTおよびSLMS>コントロールおよびPSR;そして圧力伝導速度はコントロール,PSR>SLT,SLMSの大小関係にあった.
    結論:in vitroにおける衝撃荷重時,シリコーン系軟質リライン材はアクリル系軟質リライン材と比較して優れた緩圧効果,最大圧力到達時間および圧力伝導速度の遅延効果の3つの圧力動態特性を示した.
  • 北村 茂
    2009 年1 巻3 号 p. 284-293
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/08/06
    ジャーナル フリー
    目的:近年,歯根破折への対策としてファイバーポストが注目されている.また,支台築造の研究において,単独冠ではなくブリッジの支台歯についての検討はほとんど認められない.そこで本研究では,延長ブリッジのポンティック部への荷重によるファイバーポスト併用レジン支台築造の有用性の検証を目的とした.
    方法:実験には90本のウシ歯を使用し,支台築造方法3条件(既製金属ポスト併用レジン支台築造,ファイバーポスト併用レジン支台築造,レジン支台築造),および荷重方法3条件(歯軸に対し45°の角度でクラウンに直接荷重,クラウンに片持ち梁的につけた延長部に歯軸方向から荷重,同様の延長部に45°方向から荷重)の合計9条件とし(n=10),破折試験から得られた初期破折強度と最大破折強度,さらに破折様相を用いて比較検討を行った.
    結果:延長部に荷重した条件は,クラウンに直接荷重した条件と比較して,約1/4~1/2程度の破折強度を示した.延長部に荷重した条件でのファイバーポスト併用法は金属ポスト併用法と同等の初期破折強度および最大破折強度を示し,またレジン支台築造に対しては有意に高い最大破折強度を示した.
    結論:ファイバーポスト併用法は金属ポスト併用法と同等の破折強度を有したが,延長ブリッジの条件下では他の支台築造と同様に著しい低下を認めた.また,ファイバーポストの最大の特徴とされる歯根破折の予防は期待できなかった.
  • 横矢 隆二, 宇野 光乗, 倉知 正和
    2009 年1 巻3 号 p. 294-302
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/08/06
    ジャーナル フリー
    目的:習慣性いびきや睡眠時ブラキシズムの有無が顔面の形態的特徴として表れるかどうか比較,検討する.
    方法:いびきの有無については,アンケート結果と夜間睡眠時の寝息音をデータレコーダーによる記録・聴取から,ブラキシズムの有無については,口腔内所見(歯の咬耗,骨隆起,歯頸部クサビ状欠損の有無)を参考として,夜間睡眠時に装着させたスプリントの穿孔やグラインディング痕の観察から判定し,分類した.また顔面の撮影・記録は,非接触3次元計測装置を用いて,3次元顔面画像を構築した後,解析した.
    結果:1.全被検者36名中いびきもブラキシズムも有する者は5名で,いびきのみを有する者は8名,ブラキシズムのみを有する者は6名であった.2.いびきの有無での顔面の形態的差異は,顔面最下方部輪郭付近に特徴的な形態を有した.3.ブラキシズムの有無での顔面の形態的差異は,上・中顔面領域の顔面側方部輪郭付近で咬筋の起始部である頬骨弓付近に特徴的な形態を有した.
    結論:習慣性いびき,睡眠時ブラキシズムを有する者はそれぞれ顔面に特徴的な形態を有し,顎顔面の軟組織の3次元的特徴によって診察時の一指標となる可能性が示唆された.
認定医症例報告
  • 大沼 智之
    2009 年1 巻3 号 p. 303-306
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/08/06
    ジャーナル フリー
    症例の概要:患者は62歳の女性無歯顎者であり,歌唱時に下顎の総義歯がゆるくなるような感じがあるとのことを主訴に来院した.機能時の維持安定の向上を目的にフレンジテクニックを応用した下顎総義歯を製作した.
    考察:フレンジテクニックを応用することにより主訴であった歌唱時の義歯の維持安定の不良を改善できたと考えられる.また本症例で咬合関係が長期に安定していたことは,耐摩耗性に優れる硬質レジン歯を使用したことが一因である考えられる.
    結論:本症例においては,下顎総義歯にフレンジテクニックを応用することで,歌唱時などの機能時における義歯の維持安定を向上することができ,12年間良好に経過した.
専門医症例報告
  • 重本 修伺
    2009 年1 巻3 号 p. 307-310
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/08/06
    ジャーナル フリー
    症例の概要:患者は初診時52歳男性で,線維肉腫と診断され左側上顎半側切除術,左側眼窩内容除去術をうけた.左側顔面陥凹部の審美性改善のため維持装置にインプラントと磁性アタッチメントを応用した義眼を含むエピテーゼによって顔面補綴治療を行った.
    考察:インプラントを維持源に磁性アタッチメントを用いてエピテーゼを装着することで審美性が回復するとともに着脱が容易であるなど患者自身の取り扱いも容易で患者の満足が得られた.
    結論:本症例の様に周囲の軟組織に維持を求めることが困難な症例ではインプラントと磁性アタッチメントは,エピテーゼの維持装置として有用であった.
  • 吉仲 正記
    2009 年1 巻3 号 p. 311-314
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/08/06
    ジャーナル フリー
    症例の概要:患者は28歳の女性.自転車走行中転倒し,下顎骨および上顎骨を骨折し,上下顎前歯が脱落した.口腔外科にて処置後,咀嚼障害および外観障害を主訴に来院した.受傷前の咬合状態を想定したCo-Cr製サージカルシーネをあらかじめ製作して,手術当日筆者立ち会いの下で左右下顎骨片の位置づけを行った.その後,上下前歯部欠損に対し部分床義歯を装着した.
    考察:模型上にて受傷前の咬合状態を想定して左右下顎骨片の位置づけを行ったために,良好に経過しているものと考えられる.
    結論:現在半年に一度リコールを行っている.最終補綴装置装着後約4年経過しているが,顎関節等に異常所見はなく良好に経過している.
  • 小泉 寛恭
    2009 年1 巻3 号 p. 315-318
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/08/06
    ジャーナル フリー
    症例の概要:52歳の女性.前歯部の審美障害を主訴に来院した.上下顎前歯部歯間離開による咀嚼,発音および審美障害と診断した.上下顎前歯部に陶材によるラミネートベニアを装着した.
    考察:上顎前歯部ラミネートベニアは,約12年間,下顎前歯部は,約7年間良好に機能している.適切な咬合関係の保持および接着性レジンセメントの使用が,上下顎前歯部ラミネートベニアの長期安定に寄与したと推察された.
    結論:前歯部歯間離開を起こしている症例では,上下顎前歯部ラミネートベニアによる処置が有効であることが示唆された.
  • 藤井 規孝
    2009 年1 巻3 号 p. 319-322
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/08/06
    ジャーナル フリー
    症例の概要:患者は51歳の女性で下顎左側大臼歯部と上顎両側中切歯,上顎右側側切歯が欠損しており,明確なアンテリアガイダンス,咬合支持を失っていた.そこで,まず咬合支持の改善を優先的に行った後,プロビジョナルレストレーションを利用してアンテリアガイダンスを再構築した.
    考察:はじめに咬合支持の確立を行ったことにより,臼歯離開咬合を確実に付与することができた.
    結論:アンテリアガイダンスの修復が求められる症例においては,臼歯部での咬合支持を確立した後にプロビジョナルレストレーションを用いて適切なガイドを模索し,カスタムインサイザルテーブルによって最終補綴装置に反映させる方法が効果的である.
  • 星 憲幸
    2009 年1 巻3 号 p. 323-326
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/08/06
    ジャーナル フリー
    症例の概要:口腔内の不快症状を主訴に来院した68歳の女性.保存科による治療が先行しており補綴科初診時の診査では下顎運動に制限などの障害は無かったが咬合不調和があり,これによる唾液流出量の減少が主たる原因と考えられた.そこで唾液流出量も参考に咬合高径,咬合平面,咬頭傾斜角及び下顎位を決定し最終補綴を行なった.最終補綴終了後は2~6ヶ月程の間隔でメインテナンスを行ない現在4年を過ぎているが,咀嚼など機能面は良好で,唾液流出量も正常値であり不定愁訴を訴えない状態が続いている.
    考察:咬合を適切に回復することで安心して下顎運動を行なうことが可能となり,それにより唾液腺に対しても圧刺激が加わり口腔内の不快症状が改善したものと考えられた.
    結論:患者が安心して力をいれ咬合・咀嚼が出来る補綴装置を装着することは咀嚼や発音などの機能だけではなく口腔内の不快症状への改善を期待でき,患者のQOL向上への寄与が可能である.また,唾液流出量を補綴処置時の1つの検査項目として利用することで治療の一助になることが示唆されたと思われる.
  • 金原 大輔
    2009 年1 巻3 号 p. 327-330
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/08/06
    ジャーナル フリー
    症例の概要:患者は63歳(初診時)の女性で,咀嚼障害を主訴に来院した.歯冠崩壊による咀嚼機能障害と診断し,治療用義歯を早急に装着した.治療用義歯装着後,下顎義歯で嘔吐感を誘発した.最終義歯治療として下顎に磁性アタッチメントを付与したレジン床義歯を選択し装着した.各過程において満足度評価表,咀嚼機能評価表を用いた主観的評価を行った.
    考察:下顎に対し磁性アタッチメントを付与した義歯を装着したことにより,義歯の動揺による刺激から増強される嘔吐感を解消することができたと考えられる.
    結論:嘔吐感を誘発する義歯治療の患者に対しても,磁性アタッチメントの安定した維持力を利用することで良好な装着感を提供できた.
  • 大塩 恭仁
    2009 年1 巻3 号 p. 331-334
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/08/06
    ジャーナル フリー
    症例の概要:54歳の女性(当科初診時).上顎前歯部の審美障害を主訴に当科を受診した.全顎的に中程度の歯槽骨吸収を認めた.審美性の改善のため,矯正機能をもつ咬合挙上装置を用いて,前歯の口蓋側への傾斜移動を行った後,硬質レジンによる接着性スプリントを装着した.違和感などが無いことを確認し,下顎臼歯部と上顎前歯部の補綴処置を行った.
    考察:中程度の歯周病患者に対して審美的補綴を行い,患者の高い満足度が得られた.補綴終了後,4年が経過したが,審美性に大きな変化はなく,咬合と歯周組織ともに安定した状態を維持している.
    結論:本症例に対して咬合挙上と矯正治療を含む審美的補綴を行い,長期的に良好な経過を得た.
  • 八木 まゆみ
    2009 年1 巻3 号 p. 335-338
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/08/06
    ジャーナル フリー
    症例の概要:77歳の女性,3年前に上下顎全部床義歯を製作したが,装着時より下顎義歯の動揺による機能障害があると訴えた.そこで,フランジテクニックを用いて義歯を製作した.
    考察:現有下顎義歯の粘膜面の適合は良好で,咬合にも異常は認められなかったが,下顎顎堤が高度に吸収しており,顎堤粘膜の複数個所に潰瘍を形成していた.筋圧の不均衡による機能時の義歯の動揺を考慮して,機能印象採得を利用して新義歯製作を行った.
    結論:デンチャースペースの採得を行う事により,義歯の動揺が改善し患者・術者共に満足の得られる結果となり,3年経過した現在も経過は良好である.
  • 西野 宇信
    2009 年1 巻3 号 p. 339-342
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/08/06
    ジャーナル フリー
    症例の概要:患者は初診時年齢69歳の女性.下顎インプラントおよび天然歯支台のブリッジ脱離による咀嚼障害の治療を希望して来院した.保存困難な歯を抜去した後,暫間補綴物を作製し経過観察を行い,最終的に機能回復およびインプラントおよび周囲組織の保全を目的としたオーバーデンチャーによる治療を行った.
    考察:治療終了後4年6カ月経過しているが,良好な機能回復が得られインプラント周囲炎の再発がないためオーバーデンチャーの選択が適切であったと考えられる.
    結論:本症例のインプラント治療後の再補綴において,装着したオーバーデンチャーは咬合再構成,口腔内組織の維持安定および患者のQOL向上に寄与することができた.
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