日本補綴歯科学会誌
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10 巻, 1 号
平成30年1月
選択された号の論文の16件中1~16を表示しています
依頼論文
◆企画:第125 回学術大会/イブニングセッション2 「骨質研究がもたらす歯科補綴の治療イノベーション」
  • 黒嶋 伸一郎, 加来 賢, 石本 卓也, 佐々木 宗輝, 中野 貴由, 澤瀬 隆
    2018 年 10 巻 1 号 p. 1-15
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/05/13
    ジャーナル フリー

    目的:本研究の目的は,米国国立衛生研究所により提唱された「骨質」について最新の知見に基づいて解説し,骨質に影響を与える細胞や分子動態を解説することにある.

    研究の選択:本論文は,コラーゲン線維,生体アパタイト(Biological Apatite:BAp)結晶,ならびに骨芽細胞や骨細胞を含む骨関連細胞に焦点を当てた文献レビューである.

    結果:歯科学における「骨質」という専門用語は,レントゲン的および感覚的な評価に基づいて,長い間,骨密度とほぼ同義と考えられてきた.ところが2000年,米国国立衛生研究所は,骨質は骨密度とは完全に独立した全く新しい概念で,「骨構造」,「骨代謝回転」,「石灰化」ならびに「損傷の蓄積」などから構成されると定義した.そしてわれわれは近年,BAp,コラーゲン線維,ならびに骨芽細胞や骨細胞といった骨関連細胞が,ヒップインプラント(股関節インプラント)やデンタルインプラント周囲における新しい概念の「骨質」に重要な役割を果たすことを明らかにした.

    結論:新規概念の「骨質」は骨の力学的機能を理解するために極めて重要である.BAp, コラーゲン線維,ならびに骨細胞は骨質に影響を与える主要な因子であり,さらに荷重は骨質を動的に適応変化させる.新規概念の「骨質」を理解することは歯科学において必要不可欠である.

◆企画:第126 回学術大会/イブニングセッション4 「Back to the basics −ゴシックアーチは本当に必要なのかー」
  • 兒玉 直紀, 熱田 生, 松丸 悠一, 松田 謙一
    2018 年 10 巻 1 号 p. 16-22
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/05/13
    ジャーナル フリー

     全部床義歯治療を成功させるうえで咬合採得の占める割合は非常に高く,なかでも水平的顎間関係の決定には客観的な指標が乏しく苦慮していると推察される.ゴシックアーチ描記装置は,下顎の限界運動を記録できる装置であり,水平的顎間関係の決定法の一つとして長い間用いられてきた.しかし,近年その利用数は減少しているように思われる.さらに米国の教科書ではゴシックアーチ描記法(以下,GoAとする)の記載がなくなり,徐々に教育されなくなっている.本論文では,1)GoAの有用性とその意義,2)GoAの問題点と注意点,3)咬合採得のゴールをどこに定めるか,について解説し,全部床義歯治療におけるGoAの必要性について改めて検討したい.

◆企画:第126 回学術大会/イブニングセッション5 「インプラント治療における光学印象の活用−現状と今後の可能性−」
  • −現状と今後の可能性−
    田中 晋平, 高場 雅之, 深澤 翔太, 渡邊 理平, 夏堀 礼二, 近藤 尚知, 馬場 一美
    2018 年 10 巻 1 号 p. 23-31
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/05/13
    ジャーナル フリー

     インプラント治療はCT(Computed Tomography)のDICOM(Digital Imaging and COmmunication in Medicine)データがデジタルデータであることから,デジタル・デンティストリーと親和性が高く,比較的早期からデジタル技術が導入されてきた.シミュレーションソフトウェアやガイドサージャリーやナビゲーションシステムによる安全な手術などはもとより,今日ではCAD/CAMを用いたインプラント上部構造が広く普及した.

     光学印象の普及はデジタルワークフローの枠組みを技工のみでなく,臨床手技にまで拡大するもので,すでに一部のシステムにおいては,光学印象からインプラント上部構造製作までが系統的に整備され,フルデジタルワークフローによるトップダウントリートメントは,完成形に近づいたといえよう.

     一方で,光学印象に関連したデジタルワークフローは従来のワークフローと比較して柔軟性に劣る,従来のワークフローで得られる最高レベルの精度が担保されていない,など幾つかの制限があることも事実である.本稿では,インプラント治療における光学印象の活用の変遷と現状を提示するとともに,今後の展開について,現在直面している技術的限界に焦点を当てながら考察する.

◆企画:第126 回学術大会/ランチョンセミナー4  「紅斑性カンジダ症への口腔乾燥と義歯のかかわり」
  • 中川 洋一
    2018 年 10 巻 1 号 p. 32-39
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/05/13
    ジャーナル フリー

     紅斑性カンジダ症は,萎縮性の口腔カンジダ症である.舌乳頭萎縮がひとつの特徴的所見で,疼痛や味覚異常など不快な症状をともなうことが多い.しばしば慢性化し,再発を繰り返す例もあるため,早期の診断と適切な対処が必要である.紅斑性カンジダ症は,さまざまな菌種が検出されるが,Candida albicans が主な病原体である.診断は塗抹標本の鏡検によってなされる.紅斑性カンジダ症に最も関与する素因は唾液分泌減退である.紅斑性カンジダ症は自然治癒しないため,口腔乾燥への対応とともに,抗真菌薬療法が必要である.口腔乾燥への対処は,洗口液による含嗽によってCandida コロニー数増加を抑制し,代用唾液,人工唾液,保湿ジェルによって口腔粘膜を保湿し解剖学的バリアーを強固にする.義歯が原因となっている場合は,義歯の除菌が必要である.抗真菌薬の義歯への適用が効果的な場合もある.

◆企画:第126 回学術大会/歯科衛生士セッション 「補綴のプロフェッショナルケアをアップデートする」
  • 二川 浩樹, 田地 豪
    2018 年 10 巻 1 号 p. 40-45
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/05/13
    ジャーナル フリー

     義歯の汚れ,デンチャープラークは義歯表面に形成される微生物バイオフィルムであり,義歯性口内炎や口腔カンジダ症の原因になることが知られている.また,義歯自体が微生物の温床となり,その微生物を持続的に飲み込むことで誤嚥性肺炎をはじめ,種々の全身疾患の危険性が指摘されている.このため,高齢者の健康を考えた場合,適切なデンチャープラークコントロールは必須であり,義歯洗浄剤を用いた化学的洗浄はデンチャープラークコントロールにおいて重要であることが報告されている.

     本総説では,まず義歯の汚れの主体であるデンチャープラークとは何かについて解説し,続いて義歯洗浄剤について解説していきたい.

◆企画:第126 回学術大会/シンポジウム2 「軟質材料を用いた義歯のリラインによる臨床効果」
  • 臨床効果に関するエビデンスと今後の課題
    河相 安彦
    2018 年 10 巻 1 号 p. 46-51
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/05/13
    ジャーナル フリー

     軟質材料による義歯のリラインは従来から存在する治療法である.補綴専門医にとって「逃げの一手」と揶揄される面もあったが,超高齢社会の到来とともに「次の一手」とその適応に関する認識も変化が見られているようにも思える.そのようななか,2016年4月より軟質材料による有床義歯内面適合法として保険収載されたこともあり,更なる注目が集まっている.本稿は,軟質リライン材を用いた義歯のリラインに関するエビデンスを整理し,この材料の持つ特性,製作方法や調整に関する現状でのポイントや注意点と今後の問題点および解決すべき事項について整理して提示したい.

  • 上田 貴之
    2018 年 10 巻 1 号 p. 52-56
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/05/13
    ジャーナル フリー

     可撤性義歯に対して軟質材料によるリラインを施す場合,長期経過が比較的良好なシリコーン系軟質リライン材が用いられることが多い.そこで,シリコーン系軟質リライン材を用いたリラインの注意点やコツを紹介する.また,軟質リライン後の床粘膜適合試験の方法や調整方法について,そのポイントを解説する.軟質リライン後の義歯の取り扱いは,従来の硬質床用材料や硬質リライン材とは異なる点が多い.術後管理について,患者指導の方法や義歯清掃方法にも注意が必要である.義歯用ブラシでの機械的清掃や義歯洗浄剤による化学的清掃による軟質リライン材の表面性状へ与える影響についても考察する.

  • 村田 比呂司
    2018 年 10 巻 1 号 p. 57-62
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/05/13
    ジャーナル フリー

     超高齢社会である本邦では高齢者数は増加しており,無歯顎者の割合は依然高い.さらに骨吸収の少ない顎堤は減少し,むしろ顎堤が高度に吸収し,可動粘膜が歯槽頂を覆っているような難症例が増加している.このようないわゆる難症例には,咀嚼圧に対して緩圧効果を有する軟質リライン材が有効である.軟質リライン義歯の臨床的有用性について,これまで種々の研究成果が報告されている.その成果もあり,平成28年度の診療報酬改定では軟質材料の適用が有床義歯内面適合法に新たに導入された.本稿では軟質リライン材の種類,材料学的特性,機能的効果および軟質材料を用いる有床義歯内面適合法などについて解説する.

専門医症例報告
  • 八木 元彦
    2018 年 10 巻 1 号 p. 63-66
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/05/13
    ジャーナル フリー

    症例の概要:患者は初診時60歳の女性.|45の動揺による咀嚼障害を主訴として来院した.進行した歯周炎による歯の移動が認められ,咬合平面が乱れていた.適切な咬合を回復するために,歯周治療後,補綴処置による全顎的な治療を行なった.

    考察:歯周基本治療時に動揺歯をプロビジョナルレストレーションで暫間固定し,咬合の安静を図り,再生療法後に補綴装置による永久固定を行うことで良好なアタッチメントゲインが得られたと思われる.

    結論:進行した歯周炎による動揺歯の補綴処置を行なう場合,歯周組織再生療法で失われた歯周組織を再生し,積極的に環境を改善することは,咀嚼機能をより高いレベルで回復することができると考える.

  • 西山 雄一郎
    2018 年 10 巻 1 号 p. 67-70
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/05/13
    ジャーナル フリー

    症例の概要:71歳,男性.下顎半側切除後の患側偏位による咬合接触の喪失と下顎運動範囲の制限により,咀嚼困難を惹起していた.本症例に対して,下顎顎義歯とパラタルランプにより咬合支持域を回復し,咀嚼機能の改善を試みた.

    考察:下顎骨の患側偏位に対して,上顎義歯にパラタルランプを付与し,下顎顎義歯の人工歯を唇頬側にアーチを広げて排列することにより,咬合支持域と舌房を確保し,咀嚼機能の向上と舌による食物運搬が円滑にできるよう配慮した.

    結論:下顎半側切除により著しい患側偏位を惹起した症例であっても,咬合支持域の回復と舌房の適正化は,長期的な予後の確保を図る上で有効と考えられた.

  • 佐藤 佑介
    2018 年 10 巻 1 号 p. 71-74
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/05/13
    ジャーナル フリー

    症例の概要:患者は72歳の男性で,歯の欠損と義歯不適合による咀嚼困難を主訴に来院した.慢性歯周炎による多数歯欠損と歯周支持組織の減少に対して,上顎オーバーデンチャーと下顎クロスアーチブリッジによる補綴治療を行った.

    考察:治療用義歯とプロビジョナルレストレーションを用いて咬合改善を行い,適切な歯周治療を行うことができた.磁性アタッチメントを用いた上顎オーバーデンチャーと,遠心カンチレバーを含む下顎クロスアーチブリッジによる補綴治療により, 安定した咬合を付与したことで,良好な予後が得られたと考えられる.

    結論:多数歯欠損症例において,歯周炎のコントロールと安定した咬合の付与により,良好な結果を得た.

  • 森田 章子
    2018 年 10 巻 1 号 p. 75-78
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/05/13
    ジャーナル フリー

    症例の概要:初診時61歳,女性.上顎前歯部の動揺と喪失に対する不安を主訴に来院.上顎中切歯の抜歯と同時に即時義歯を装着し,また,全顎的な慢性辺縁性歯周炎に罹患していたため,外科処置を含む歯周治療を行ってから,最終補綴である上顎部分床義歯を製作した.

    考察:鋳造補強構造を義歯床と人工歯内部に埋入したことで,義歯の破損を防ぎ,また継続して歯周治療を行ったことで,良好な結果が得られたと思われる.

    結論:上顎前歯部喪失に対し,強い不安感を持つ患者において,不安に配慮し,破損しにくい義歯の製作と継続した歯周治療を行ってきたことで,前歯部の人工歯と残存歯の両方の喪失を防ぐことができた.

  • 石浦 雄一
    2018 年 10 巻 1 号 p. 79-82
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/05/13
    ジャーナル フリー

    症例の概要:64歳女性.4321|123の審美不良を主訴に来院.321|123 に約25年前に装着した陶材焼付鋳造冠の陶材破損と4|の頬側傾斜のため,審美障害と咀嚼障害を生じていた.これに対し歯冠修復とインプラントにより対処した.

    考察:当初の清掃状態はやや不良であったが,来院の都度スケーリングを行い,繰り返し清掃指導をおこなったため,口腔衛生状態は改善し,良好な状態を保っている.また,ブラキシズムが強く疑われるため,ナイトガードを使用しており,その結果,前装部の破折,歯根破折などは生じていない.

    結論:審美障害と咀嚼障害を併発した症例に対し,残存歯の歯冠修復とインプラント補綴により患者の主訴に十分に応えることができた.

  • 磯部 明夫
    2018 年 10 巻 1 号 p. 83-86
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/05/13
    ジャーナル フリー

    症例の概要:患者は78歳女性.上顎前歯部の連結冠脱離および下顎左側臼歯部インプラント撤去に伴う咀嚼困難を主訴に初診来院した.下顎左側臼歯部の顎堤の吸収は高度であり,咬合支持域も減少していたことや侵襲の大きな治療は避けたいという患者の希望も考慮し,下顎に金属床義歯を,上顎にオーバーデンチャーを装着した.

    考察:上顎はオーバーデンチャーとしたことで上顎前歯部は過重負担が抑えられ,下顎は金属床義歯により義歯の安定性が向上したため良好な予後を得られたと考えられる.

    結論:下顎の高度な吸収を伴った症例に対して部分床義歯を,咬合支持域の減少した上顎にオーバーデンチャーを用いることで良好な治療結果を得た.

  • 安藤 栄里子
    2018 年 10 巻 1 号 p. 87-90
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/05/13
    ジャーナル フリー

    症例の概要:51歳女性.咀嚼困難を主訴に受診.1カ月前,下顎左側第1大臼歯を抜歯し,次第に下顎位が不安定となった.画像検査で左側下顎頭に骨変形を認め,下顎運動検査にてタッピング運動の収束性の欠如が観察されたことから,変形性関節症による咀嚼困難と診断.下顎運動所見で,側方運動時に作業側下顎頭の1 mm以上の後方移動が確認されたため,本症例固有の下顎運動と調和した咬合面形態を付与した補綴装置の製作を行った.

    考察:術後8年経過するが良好に経過している.これは,適切な咬合接触が得られていたためと考える.

    結論:本症例固有の下顎運動と調和した咬合面形態を付与した補綴装置の製作を行い,良好な結果が得られた.

  • 真柄 仁
    2018 年 10 巻 1 号 p. 91-94
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/05/13
    ジャーナル フリー

    症例の概要:患者は60歳の女性,歯の動揺と咬合時の疼痛と義歯不適合を主訴に来院した.診査の結果,咬合性外傷を伴う重度歯周炎と,臼歯部欠損による咀嚼障害と診断した.歯周治療とプロビジョナルレストレーションを用いたアンテリアガイダンスの再構築を行った.

    考察:本症例のアンテリアガイダンスは,最終補綴物製作時に半調節性咬合器とカスタムインサイザルテーブルを用いて適切に再構成することができた.

    結論:咬合再構成において長期的な機能維持を得るためには,アンテリアガイダンスの確立が重要であり,プロビジョナルレストレーションを用いてアンテリアガイダンスを検討し,最終補綴物を製作する方法は有効と考えられる.

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