日本補綴歯科学会誌
Online ISSN : 1883-6860
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ISSN-L : 1883-4426
11 巻, 2 号
平成31年4月
選択された号の論文の19件中1~19を表示しています
巻頭言
訂正とお詫び
依頼論文
◆企画:エビデンス & オピニオン 第6 回
  • 小宮山 彌太郎
    原稿種別: 依頼論文
    2019 年 11 巻 2 号 p. 87-92
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/05/02
    ジャーナル フリー

     近代歯科医療に大きな変革をもたらしたもののひとつとして,オッセオインテグレーションを礎とするインプラント療法を挙げる人が多い.しかしながら,安易な姿勢で臨むならば術前よりも悪い結果を患者に与え,好ましくない修復法との烙印を押されかねない.それは,臨床応用開始からたかだか半世紀しか経ていないものの,適切に応用されるならば長期間にわたる優れた予知性を示すことが知られてきた.このように長期間を見据えた場合には,診断,治療計画の立案に際して,発現する力を補綴の知識に基づいて考察することが求められる.本稿では,インプラント療法を通して歯科医療従事者としての喜びと怖さとを体験してきた臨床家としての考えを述べたい.

◆企画:【誌上ディベート】上顎無歯顎のインプラント補綴 固定性vs. 可撤性
  • 大久保 力廣
    原稿種別: 序文
    2019 年 11 巻 2 号 p. 93-94
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/05/02
    ジャーナル フリー
  • — 患者中心の治療選択を考える—
    細川 隆司, 正木 千尋, 近藤 祐介, 向坊 太郎, 田村 暁子, 柄 慎太郎
    原稿種別: 依頼論文
    2019 年 11 巻 2 号 p. 95-101
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/05/02
    ジャーナル フリー

     上顎無歯顎におけるインプラント支持補綴装置の選択に関しては,現在に至るまで明確なコンセンサスは得られていない.現在明らかになっているエビデンスをもとに総合的に判断すると,上顎無歯顎のインプラント補綴治療においては,(1)固定性補綴装置であれば,4本以上のインプラントを連結したボーンアンカードブリッジ,(2)可撤性補綴装置であれば,4本以上のインプラントを連結して支持するIODによる治療,のどちらかが推奨される.両者の選択に関しては,インプラント喪失のリスクやメインテナンスにおける上部構造の機械的トラブル,可撤性補綴装置を使用する心理的負担を考えると,固定性のボーンアンカードブリッジを第一選択として治療計画を立案すべきであり,IODによる治療が選択され得るのは,インプラント埋入部位に十分な幅と高さの支持骨が認められる症例において,義歯床によるリップサポートが必要な場合や前歯部の反対咬合,あるいは経済的な制約がある場合などに限られる.

  • — 長寿社会を迎えてインプラントオーバーデンチャーの必要性を探究 —
    田中 譲治
    原稿種別: 依頼論文
    2019 年 11 巻 2 号 p. 102-110
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/05/02
    ジャーナル フリー

     上顎無歯顎へのインプラントアプローチとして固定性と可撤性(インプラントオーバーデンチャー,以下IOD)が考えられるが,臨床においてどちらを選択するかについて,可撤性の立場でディベートをおこなった.

     ディベートにおいては,どのような設計にておこなうかを決めておくことが肝要で,可撤性についてはリジッドIODとフレキシブルIODに区別して論考した.また,さまざまな因子を考慮する必要があるため,いくつかの項目に分けて検討した.すなわち,解剖学的観点,術前に義歯を使用していたかどうかなどの術前状況,治療費,そしてライフステージ,特に要介護を見据えた上での検討をおこなった.水平的顎堤吸収が進んでいる場合,術前に慣れ親しんだ義歯を使用していた場合,治療費を抑えたい場合,要介護を見据えた場合には,固定性よりIODの方が適していると考えられた.長寿社会を迎えて上顎無歯顎におけるインプラント補綴の選択として,IODは高い必要性があると考えられた.

◆企画:第127 回学術大会/シンポジウム1 「超高齢社会で求められる補綴歯科治療」
  • 須貝 昭弘
    原稿種別: 依頼論文
    2019 年 11 巻 2 号 p. 111-115
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/05/02
    ジャーナル フリー

     「来院する患者さんの口腔内を責任を持って一生面倒みよう」と開業して30年が経過した.今となってはその「一生」は自分の一生であって患者の一生ではないことがわかる.永く来院していた高齢の患者の中には気がつくといつの間にか来院が途絶えてしまい,最期までかかわれていないことも多い.超高齢社会になり口腔機能を維持することが健康寿命の延伸につながることが注目され,通院できなくなっても歯科治療を必要としている高齢者は数多くいて,かかりつけ歯科医として最期までかかわることが求められるようになってきている.かかりつけ歯科医として超高齢社会で何が求められているのかを考えてみたい.

◆企画:第127 回学術大会/シンポジウム6 「集学的観点からインプラント治療を考える」
  • 鮎川 保則, 正木 千尋, 辻 光弘, 湯浅 慶一郎, 武田 孝之
    原稿種別: 依頼論文
    2019 年 11 巻 2 号 p. 116-121
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/05/02
    ジャーナル フリー

     補綴主導型インプラント治療という概念は,顎口腔系に調和した機能的,審美的アウトカムを獲得するためのインプラントの埋入位置や外科処置の選択を骨子とする.その際,術前の口腔内環境整備,手術時における口腔外科的手技,補綴設計,術後の口腔環境維持の全てが高いレベルで融合することが求められるため,集学的治療といえる分野である.医科における集学的治療とは,多分野の医師が集まって治療を進めていくことを指すが,歯科においては一人の歯科医師が全てを担当することはむしろ一般的である.本稿では補綴主導型インプラント治療を進めていくにあたって必要な集学的治療概念について整理したい.

◆企画:第127 回学術大会/歯科医療安全対策推進セッション 「補綴診療で知っておくべき院内感染対策 −歯科保健行政の視点から−」
  • −歯科保健行政の視点から−
    山口 聖士
    原稿種別: 依頼論文
    2019 年 11 巻 2 号 p. 122-126
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/05/02
    ジャーナル フリー

     院内感染対策は,医療機関において取り組むべき重要課題の一つである.歯科医療の特徴として,歯科用回転切削器具等の使用により唾液や血液を含んだ多量の飛沫によって,ユニット周囲や歯科医療機器が感染性物質に汚染されやすいことが挙げられる.厚生労働省では,一般歯科診療時の院内感染対策に係る指針の作成や歯科医療関係者感染症予防講習会等によって周知と啓発を図ってきた.

     本稿では,歯科保健行政の立場から歯科の院内感染対策について述べることとする.

  • 歯科診療における感染予防 歯科用切削機の洗浄と滅菌及び歯科用給排水系デバイスの汚染対策の現状
    須貝 辰生, 西川 真功
    原稿種別: 依頼論文
    2019 年 11 巻 2 号 p. 127-134
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/05/02
    ジャーナル フリー

     歯科医療現場における歯科用ハンドピースの滅菌及び歯科用ユニットの給水管路について,新聞等の報道によって何度か取り上げられたことで,感染予防のあり方を再確認するきっかけとなった.本総説では,感染予防対策に係る過去のガイドライン,行政通知を基に感染予防の考えを整理し,それぞれの機器での感染予防の対応について紹介する.歯科用ハンドピースについては,エアタービンで顕著に発生する回転停止時のエアー吸い込み現象(サックバック)を解説し,その対策事例及びオートクレーブ滅菌について紹介する.歯科用ユニットについては,日本国内における水質基準を始め,過去に日本歯科器械工業協同組合で実施した市場調査結果からみる「フラッシング」の有効性と留意点,更に各企業の対策事例を紹介する.

技術紹介
  • 山本 司将, 中村 健太郎, 山口 雄一郎, 松浦 尚志
    原稿種別: 技術紹介
    2019 年 11 巻 2 号 p. 135-142
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/05/02
    ジャーナル フリー

    目的:本研究の目的は超高速MRI装置を用いて咀嚼運動時における顎関節部の撮像を行い,咀嚼運動時における下顎頭と関節円板の動態を読影するとともに,下顎頭および関節円板が移動した距離を測定できるかどうかを分析することである.

    材料と方法:被験者は健常有歯顎者の成人男性歯科医師1名とし,高速撮像が可能なMRI装置を用いて,顎関節部の習慣性開閉口運動ならびに被験食品(ガムとカマボコ)の咀嚼運動について撮像を行った.撮像によって得られたDICOMデータからDICOMビューア上で顎関節部の動態を読影し,下顎頭と関節円板の移動距離を計測した.

    考察:顎関節部を超高速MRI装置で撮像を行うことで,従来行われてきた顎関節の形態や開閉口運動の読影のみではなく,咀嚼運動時における下顎頭と関節円板の運動(顎関節部の動態)を読影することができた.結果として咀嚼運動時における下顎頭と関節円板の移動距離を計測することが可能であり,その移動距離がわずかであることがわかった.

    結論:咀嚼運動時の顎関節を超高速MRI装置で連続撮像することで下顎頭と関節円板の運動(顎関節部の動態)を読影することができ,同時に下顎頭と関節円板の移動距離を計測することが可能となった.

専門医症例報告
  • 藤原 茂弘
    原稿種別: 症例報告
    2019 年 11 巻 2 号 p. 143-146
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/05/02
    ジャーナル フリー

    症例の概要:患者は61歳の男性.食事が食べられないことを主訴に来院した.口腔内所見として,上下顎とも無歯顎で,舌は右半側を切除後に移植皮弁で再建され,可動性が低下していた.診査の結果,手術に伴う義歯不適合および舌実質欠損・舌運動障害による咀嚼障害,嚥下障害と診断し,上顎を義歯型舌接触補助床とした上下総義歯を装着した.

    考察:本症例では,デンチャースペースの決定にピエゾグラフィを用い,義歯形態を舌ならびに口腔周囲筋と機能的に調和するように配慮したことが,良好な予後につながったと考えられる.

    結論:舌癌術後症例において,機能的に調和した義歯形態とすることは,術後の機能回復において有用である.

  • 服部 麻里子
    原稿種別: 症例報告
    2019 年 11 巻 2 号 p. 147-150
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/05/02
    ジャーナル フリー

    症例の概要:70歳女性,上顎左側臼歯部歯肉扁平上皮癌.腫瘍摘出術直後にサージカルオブチュレーターを装着した.4カ月後にインテリムオブチュレーターを製作した.軟組織の変化が起こったため,オブチュレーター部分を頻繁に調整した.1年後にデフィニティブオブチュレーターを装着した.ろう孔は最終的に閉鎖した.

    考察:サージカルオブチュレーター装着により発話が良好となった.インテリムオブチュレーターは調整により適合していた.口腔外科との協力により早期のリハビリテーションが可能となり,オブチュレーターを頻繁に調整することによって,軟組織の変化に追従することができたと考えられる.

    結論:上顎欠損の症例において3種のオブチュレーターを用いて早期からリハビリテーションを行ったところ,軟組織の変化が見られたものの経過良好であった.

  • 豊下 祥史
    原稿種別: 症例報告
    2019 年 11 巻 2 号 p. 151-154
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/05/02
    ジャーナル フリー

    症例の概要:患者は89歳の女性で,右側上顎歯肉癌摘出後,創部の形態変化に伴う義歯不適合と審美障害を主訴に来院した.治療用義歯から,印象域,リップサポートを決定した.床形態と排列位置は上顎右側のニュートラルゾーンから決定し,義歯を新製した.

    考察:治療用義歯の調整とニュートラルゾーンから義歯の形態をデザインし,機能時の安定を図った.さらに咬合時の側方力の抑制を図った.義歯形態と咬合の両面について十分な配慮を行うことが満足度の高い治療につながったと考えられる.

    結論:上顎歯肉癌術後の患者に対し,術後の口腔内形態に調和した顎補綴治療を行い,患者のQOL向上に寄与することができた.

  • 橋本 睦都
    原稿種別: 症例報告
    2019 年 11 巻 2 号 p. 155-158
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/05/02
    ジャーナル フリー

    症例の概要:患者は73歳女性.下顎部分床義歯の動揺による咀嚼困難を主訴に来院.歯冠補綴装置と部分床義歯を用いて咀嚼困難および審美不良を改善するとともに,口腔関連QOLの向上も得られた.

    考察:本症例は,咬合接触状態を改善したことにより主訴が改善できた.近年,咬合と全身の平衡機能の関係が報告されている.本症例でも重心動揺軌跡長が一時的に増減した.これは治療に伴い咬合接触位置が変化したためで,咬合支持が確立されたことで軌跡長は短く安定したと考えられる.

    結論:高齢者に歯冠補綴装置と部分床義歯を用いて,咀嚼困難および審美不良を改善することができた.また,口腔関連QOLが向上し,姿勢の維持も良好な状態を得ることができた.

  • 井本 弘子
    原稿種別: 症例報告
    2019 年 11 巻 2 号 p. 159-162
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/05/02
    ジャーナル フリー

    症例の概要:患者は72歳の男性で,咀嚼困難および前歯部の審美不良を主訴に来院した. 過大な咬合力が想定されデンチャースペースが減少していたことから,金属構造フレームワークを有する義歯を製作した.金属歯の製作にはFGPテクニックを適用した.

    考察:義歯の剛性は金属構造と耐摩耗性を有する金属歯の連結したフレームワークにより確保された.FGPテクニックで得られた機能的咬合面により,ほとんど無調整で装着することができた.

    結論:過大な咬合力を有する患者にリテーナー型の金属構造義歯を適用することで残存歯の保護や咬合の改善に有効であった.

  • 岡𥔎 洋平
    原稿種別: 症例報告
    2019 年 11 巻 2 号 p. 163-166
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/05/02
    ジャーナル フリー

    症例の概要:患者は56歳の女性.|(5)6(7)に疼痛および嫌な臭いを自覚し,近歯科医院を受診,|5 の歯根破折と診断され抜歯となった.欠損部のインプラント補綴治療を希望したため,紹介にて広島大学病院口腔インプラント診療科を受診した.

    考察|56 にインプラント体を2本埋入し,スクリュー固定式暫間上部構造を装着した.その後,患者が咬合時違和感を訴えたため,咬合面形態を修正した.経過観察後,最終上部構造をセメント固定式で装着した.術者可撤式補綴装置による易清掃性および咬合面形態の長期安定化が達成された.

    結論:暫間上部構造による確認を最終上部構造に反映させることで,良好な結果を得られることが示唆された.

  • 泉田 明男
    原稿種別: 症例報告
    2019 年 11 巻 2 号 p. 167-170
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/05/02
    ジャーナル フリー

    症例の概要:49歳の女性で,上顎右側歯の欠損による咀嚼障害と審美障害の主訴を有していた.現病歴として,右側鼻腔からの膿汁と上顎右側第一大臼歯頰側歯肉の膿瘍のため当院を受診し,その後,保存不可能な歯が抜去され,抜歯後の欠損補綴にはインプラントによる治療が検討された.

    考察:本症例では,骨量不足に対してサイナスリフトによるインプラント治療を応用した.また,スプリントを用いて水平的顎位に問題がないことを確認した後,咬合高径を変えずに最終補綴を行った.

    結論:最終の補綴装置は,破折,脱離などはなく,機能的にも患者の満足が得られ良好に経過している.

  • 高島 利加子
    原稿種別: 症例報告
    2019 年 11 巻 2 号 p. 171-174
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/05/02
    ジャーナル フリー

    症例の概要:初診時60歳の女性.開口時に上顎義歯がはずれやすいこと,およびそのために食べ物が食べづらいことを主訴に来院した.義歯床粘膜面の適合は良好であったが,口唇裂の形成術部の瘢痕により口唇の弾性が低下しており,それにより開口時上顎義歯が口唇圧を受け義歯が脱離していると判断した.そこで患者固有のデンチャースペースを採得することで義歯製作を行った.

    考察:部分的に口唇の弾性が異なる上顎に対し,機能運動ならびに発音を利用し,口腔内に適したデンチャースペースを採得したことが良好な結果につながったと考えられる.

    結論:患者固有のデンチャースペースを採得したことで主訴の改善と良好な結果を得ることができた.

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