1.地球規模で生物多様性保全の重要性が認識されている中,森林の管理経営のあり方においてもより高度かつ複雑なものが求められている.特に,急峻な地形の上で高度な経済活動が行われている我が国では,国土の7割を占める森林に対して,国土の保全や水資源のかん養,さらには地球規模での環境問題を背景とした地球温暖化防止や生物多様性の保全など,多種多様な要請が寄せられているところである.こうした様々な要請に応えうる森林を保全・育成するためには林業関係者のみならず国民全体で森林を守り育てていく必要がある.そのためには我が国の森林が国民生活にどのような役割を果たしているかを定量的に評価して,わかりやすく伝えていく必要がある.こうした趣旨から,林野庁では森林の持つ公益的機能の経済的な評価を実施しており,去る平成12年9月には,一定の前提をおいた試算として概ね75兆円とする評価結果を公表した.2.環境の経済的な評価は,環境経済学の分野で様々な手法が研究されているが,今般行った評価においては全国の森林をマクロにとらえてわかりやすく概算するという趣旨から,従来と同様「代替法」を用いた.3.森林の持つ公益的機能のうち特に生物多様性保全機能の評価については,その機能量をどのように把握すればよいのか,経済評価を行う際の私的財を何に求めるかという難しい問題がある.また,そもそも経済評価を行う対象かどうかという判断も求められる.4.結局,現時点では森林の生物多様性保全機能全体を評価することは不可能と考えなければならないが,森林が鳥類の生息の場として果たしている機能だけを取り上げて評価することは十分に可能であると判断した.そこで我が国の森林性鳥類の生息可能数を既存の研究論文から推計し,それを人工的に飼育した場合の餌代をもって鳥類の生息を維持する機能として評価したところ,年間約3兆7,800億円という推算値が得られた.5.今後の森林政策は,生態系としての森林の健全性を維持することを基本とし,その上にたって森林の果たしている各種の役割を持続的に発揮し続けることを目指す必要がある.そのためには,今後,生態系としての健全性の評価の基礎となるような森林資源データの整備,野生鳥獣との共存や生態系の保全に寄与する森林施業のあり方を探る調査研究を進めていく必要があると考える.
抄録全体を表示