保全生態学研究
Online ISSN : 2424-1431
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23 巻, 2 号
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原著
  • 石黒 寛人, 岩井 紀子
    2018 年 23 巻 2 号 p. 177-186
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/12/27
    ジャーナル オープンアクセス
    都市の騒音や光は、野生動物の繁殖成功を阻害しうる。カエルは都市に生息し、繁殖の際、鳴き声によってオスがメスを誘引することや、夜間に繁殖を行うことから、都市の騒音や光の影響を受けやすい可能性がある。本研究では、都市の水場において、カエルの繁殖地選択と繁殖地内の産卵場所選択に対する、騒音や光の影響を明らかにすることを目的とした。日本の都市部に生息するカエルのうち、アズマヒキガエルとニホンアマガエルを対象とし、前者で62ヶ所、後者で69ヶ所の水場において、カエルによる繁殖地利用を踏査とレコーダーを用いて明らかにした。それぞれの種について、水場における繁殖地としての利用を、騒音と照度を含む10項目の環境条件によって説明する一般化線形混合モデルを作成し、モデル選択を行なった。その結果、ベストモデルにおいて、水場の繁殖地としての利用有無を説明する要因として騒音は選択されなかったが、照度は2種ともに負の影響として選択された。さらに、繁殖地を選択した後の産卵場所選択における騒音と光の影響を明らかにするため、網で囲った実験区内に2つの水場を設置し、片方から騒音(交通騒音、人間の足音)または光(弱光、強光)を発生させる操作実験をニホンアマガエルについて行なった。実験区中央に放した抱接ペアによる産卵場所の選択回数は、4つの実験全てで条件間に有意な差は認められなかったが、人間の足音の実験においては、騒音源が設置されていない水場を選択する傾向が見られた。本研究から、都市の水場におけるカエルの繁殖地利用に対し、照度は負の影響を与えることが示された。抱接後のカエルにとっては、騒音や光の影響は小さいが、騒音の質によっては影響がみられる可能性が示唆された。
  • 秋山 辰穂, 水島 希, 標葉 隆馬
    2018 年 23 巻 2 号 p. 187-198
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/12/27
    ジャーナル オープンアクセス
    近年、生物多様性は急速に失われつつあり、その保全と持続可能な利用は人類社会の重要な課題である。「生物多様性」は、生物学者たちによって1986年に創られ保全活動の普及宣伝に使われてきた言葉であり、1992年に採択された生物多様性条約において異なる3つの階層(生態系、種、遺伝的多様性)を包括する概念であると定義される。日本は条約締約国として生物多様性国家戦略を過去5回にわたって策定してきた。しかし、日本で国家戦略がどのように生物多様性の科学的側面と関わり、その内容を変化させてきたかは明らかでない。本研究では、全5回の国家戦略を対象に定量テキスト分析ならびに内容分析を行い、内容の変遷を特に多様性の3つの階層の扱われ方の違いに注目して記述した。さらに、最新の第5次国家戦略において基本戦略や世界目標である愛知目標に対してどのように施策が設定されているかを定量的に調査した。その結果、国家戦略において中心となる話題が、「野生生物」から「自然環境」、そして「人間社会」へと2度の大きな変遷をしてきたことが示された。生物多様性の3つの階層に関連する各コンセプトに言及している段落の出現頻度も変化し、「生態系」に関してはどの時期の国家戦略でも27%程度で最も頻繁に言及されていたが、「種」に関する言及は23.4%から11.2%に、「遺伝子」に関する言及は15.9%から6.2%まで、第1次から第5次国家戦略までの間に減少したことが明らかになった。現行の国家戦略では施策数においても、種や遺伝的多様性に関する施策は特に少なく、遺伝的多様性に関する数値目標数はわずか1つのみにとどまった。そして科学的基盤の強化に関する基本戦略に対応する施策が他の基本戦略と比較して少ない一方で、「生態系サービス」への言及頻度は急激に増加し、「生態系サービス」が生物多様性を宣伝する新たな用語として使われ始めていることが示唆された。
  • 荒木田 葉月, 三橋 弘宗, 鎌田 磨人
    2018 年 23 巻 2 号 p. 199-221
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/12/27
    ジャーナル オープンアクセス
    流域・沿岸域においては、土砂や水質といった物理環境要因、人の立入りによる攪乱等、様々な要因が複雑に関連し合いながら生息地が形成されている。そのため、生態系保全を目的とし、流域・沿岸域の一体的な管理を行う際には、これらの要因の相互関係や、最終的に対象種に影響を与えるまでのプロセスを、全体像として把握する必要がある。いくつかの地域では、要因の関連性をインパクト・レスポンスフローとして示す研究が行われてきているが、全国規模で行われている環境省のモニタリング調査においては、このような構造図が作成されておらず、個体数変動と関連する環境指標も整備されてこなかった。そこで本研究では、全国の沿岸域で長年モニタリング調査が行われてきた鳥類のシギ・チドリ類を対象とし、生息地に影響を与えると考えられる要因の抽出とその構造化を行った。まず、報告書に記載された影響要因を元に調査員を対象としたアンケート調査を行い、影響要因の抽出を行った。さらに、研究者を対象としたアンケート調査を行い、抽出した影響要因・広域スケールの要因・シギ・チドリ類への影響の3者の関連性を結合しながら、要因の構造化を行った。文献調査により、本研究で作成した構造図の妥当性を示す研究が海外では数多く行われているものの、国内では既往研究が非常に少ないことが明らかとなった。今後は本研究の構造図を元に、国内においても個々の影響要因に着目した研究や、モニタリング指標の整備を行っていくことが求められる。
  • 西田 貴明, 橋本 佳延, 三橋 弘宗, 佐久間 大輔, 宮川 五十雄, 上原 一彦
    2018 年 23 巻 2 号 p. 223-244
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/12/27
    ジャーナル オープンアクセス
    人類は生物多様性を基盤として成り立つ生態系から様々な恩恵を受けているが、近年、世界規模でそれらが急速に失われつつある。この問題を解決するためには、社会のあらゆる分野において生物多様性の課題に取り組む行動を増やす働きかけが必要である。そこで、地域における生物多様性の課題解決事例を広く発信するとともに、地域内で生物多様性に関わる情報を共有する経路の確立と、多様な主体が協働する機運を醸成するための交流機会の形成の効果的な手法を明らかにすることを目的として、関西地方において2011年から2016年にかけて、多様な主体間連携を促す交流イベント「生物多様性協働フォーラム」を10回開催した。また同イベントの効果について、参加者対象のアンケート調査を用いて検証した。「生物多様性協働フォーラム」は民・官・産・学に属する、のべ148団体との協働により、のべ70名の演者を招聘して43の講演とパネルディスカッションによる情報提供と、30団体以上が参加するパネル・ブース展示の設置による交流機会の形成がなされ、のべ2,914人の参加者が来訪した。10回全体を通しての新規参加者が8割以上を占め、民・官・産・学の各セクターから一定数の参加が確認された。アンケート回答者の89.0%が生物多様性への取組意識が「大きく向上」または「向上」したと回答した。開催内容の改善点についての設問では、交流機会を求める割合がもっとも高かった一方で、自身の活動内容を発信する機会を求める割合はそれと比較して少なかった。今後の取組の意向と課題については、取り組もうとする活動内容の優先順位が回答者の所属属性間で異なっていた。また、参加者は自身と同じセクターに属する演者や発表内容に関心を持つ傾向が確認された。これらのことから、地域において多様な演題を用意した大規模なフォーラムを定期的に実施することには、生物多様性の普及啓発を促進する一定の効果があることが認められた。一方、情報収集目的の参加者と情報発信目的の参加者の割合が異なることから、主催者は様々なセクターの事例発表件数の確保のために参加者の発表行動を積極的に促すことが必要であることや、同一セクター内の交流は深まる効果は認められるものの、セクター間の交流を活性化するには至っていないことが明らかとなり、有意義な交流機会の形成については改善の余地があることが指摘された。
  • 小林 聡, 阿部 聖哉
    2018 年 23 巻 2 号 p. 245-256
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/12/27
    ジャーナル オープンアクセス
    電子付録
    谷津田は関東における里山の代表的な景観であり、生物多様性が高く保全優先度の高い環境であると認識されている。特に首都圏近郊では都市化が進み、残された自然としての重要度は高い。ニホンアカガエルは谷津田の健全性の指標動物であるとされ、本種の谷津環境の利用状況やその景観的な生息適地はこれまで多く議論されてきている。本種は茨城県を除く関東地方のすべての県でレッドリストに掲載されている地域的な絶滅危惧種であり、乾田化やU字溝による移動阻害、都市化による生息地の消失、分断化が主な脅威として認識されている。しかし、本種を指標として谷津田の保全に取り組む上で参照可能な、陸上の移動可能距離(500 m?1 km程度)を挟む100 m?5 km程度の小さなスケールでの個体群の連続性評価に関する知見はほとんどない。本研究では、首都圏の主要都市である千葉市の中心地から5 kmの都市近郊にあり、保全活動が盛んな谷津田環境である坂月川ビオトープとその周辺に位置するニホンアカガエルの主要な生息地4か所および坂月川ビオトープの下流に点在する小規模繁殖地について、その遺伝的多様性や遺伝的構造の有無、繁殖地間での遺伝的交流の有無の評価を2種類の遺伝マーカー(ミトコンドリアDNAおよびマイクロサテライト多型)により実施した。遺伝的多様性の解析結果では、都川水系に属する坂月川ビオトープおよび大草谷津田いきものの里で遺伝的多様度が比較的低く、鹿島川水系に属する2地点は比較的高い状況が確認された。STRUCTURE解析では、鹿島川水系の2地点は類似したクラスター組成を持ち、都川水系の坂月川ビオトープおよび大草いきものの里はそれぞれ個別のクラスター組成を持っていたが、ミトコンドリアDNAの遺伝的距離による主座標分析では鹿島川水系の1地点も他の地点と離れて配置された。また、坂月川沿いに点在する繁殖地が途切れた約1 kmのギャップを境に、上下流の遺伝的構造が不連続に変化している状況が異なる手法で共通に得られた。本調査地のような都市近郊では、生息地の縮小がもたらす遺伝的浮動により生息地ごとに遺伝的組成が変化し、孤立化によってその差異が維持されている可能性も高い。これらの結果を受け、上下流の遺伝的構造が不連続に変化している地点間での、中継地となる繁殖可能水域や陸上移動しやすい植生の創出などの具体的な保全対策について議論した。
  • 丹羽 英之, 坂田 雅之, 源 利文, 清野 未恵子
    2018 年 23 巻 2 号 p. 257-264
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/12/27
    ジャーナル オープンアクセス
    近年環境DNA分析によるマクロ生物の分布調査法が発展しており、多くの生物種の分布調査が可能であることが示されている。一方で、水の動きのある河川において、数百メートル程度の小さな空間スケールで環境DNA分析と採集調査の結果を比較した例は少なく、希少種の生息域を詳細に把握するツールとしての有効性は十分に検証されていない。本研究では、河川に設定した複数の比較的小さな空間スケールの調査区画で、環境DNA分析と現地採集調査を行い、環境DNA分析と採集調査の結果がどの程度一致するのかを検証した。調査は兵庫県の篠山川の上流域で行い、調査対象種は同流域での分布が確認されている希少種のアカザ、オヤニラミ、スナヤツメ南方種の3種とした。調査区間を500 mの等間隔に分割した23の調査単位を設定し、各区画の下流端で採水し、本研究で開発したリアルタイムPCR系で調査対象種のDNAの検出を行った。また、採集対象を調査対象種に限定した現地採集調査を行い、調査単位(500 m)ごとに種の在不在を記録した。その結果、環境DNA分析と現地採集調査の結果が一致する割合は種によって異なっており、小さな空間スケールで環境DNA分析と現地採集調査の結果を比較した場合には、両者は単純には一致しないことが示された。環境DNA分析を希少種の保全につなげていくためには、本研究と同様の検証を積み重ねていく必要がある。
総説
  • 土屋 一彬, 斎藤 昌幸
    2018 年 23 巻 2 号 p. 265-278
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/12/27
    ジャーナル オープンアクセス
    電子付録
    都市における生物多様性の研究は都市における生物と環境の関係の理解を目指す分野であるが、その研究が基礎あるいは応用分野の生態学として目指す目的は、必ずしも明確ではない。また、都市は都心から郊外にかけての多様な生息地を含むが、研究対象に偏りがある場合に、それを他の都市域に適用することは問題となりうる。そこで本研究では、日本の都市の生物多様性研究が、何を目的として、どこの、どのような生物多様性を対象に研究してきたのかについての文献レビューから、今後の都市生態学のあり方と課題について考察することを目的とした。和文と英文双方を含む173本を対象とした分析の結果、国内の都市の生物多様性研究の論文は2000年代以降に増加傾向にあり、和文誌では24の雑誌に渡る幅広い分野に掲載されていた。対象論文の研究目的について整理した結果、生物多様性自体の固有価値に着目する論文が半数以上を占めたが、研究対象生物の意義が明確になっている論文は一部のみであった。生態系サービスなどの有用価値に着目した論文においても、対象生物と生態系サービスの関係が検証されているものはわずかであった。対象論文の研究対象について検討した結果、市区町村より狭い空間スケールを対象としたものや、三大都市圏の特に首都圏や近畿圏を対象地とするものが多かった。首都圏の中では、都心から30 kmから40 kmほど離れた郊外の台地や丘陵地を対象とする論文が多かった。生息地の区分別では樹林地が最も多く、対象生物では植物、昆虫、鳥類に対象が偏っていた。これらの結果から、今後の都市の生物多様性の研究展開の方向性として、基礎的な生態学理論への貢献も含めた都市の生物多様性の固有価値の捉え方について明確にしていくとともに、これまで十分に注目されてこなかった文化的サービスなどの有用価値との関連性の解明を、研究の少なかった沖積低地や都心部や地方都市部も対象に、樹林地以外の多様な生物群も含めて展開していくことが重要であると考えられた。
調査報告
  • 冨士田 裕子, 菅野 理, 津田 智, 増井 太樹
    2018 年 23 巻 2 号 p. 279-296
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/12/27
    ジャーナル オープンアクセス
    北海道の東部に位置する濤沸湖は、砂嘴の発達によって形成された海跡湖で、汽水湖でもあるため藻場や塩性湿地も発達し、オオハクチョウやヒシクイ等の渡来地として、ラムサール条約の登録湿地となっている。現在、濤沸湖は網走国定公園特別地域に指定されているが、今後の保全計画等の立案に資するため、2001-2015年に維管束植物相調査を実施した。特に2014年は季節を変えながら集中的に調査を行い、カヌーを使用した水草調査も実施した。確認した植物はさく葉標本にし、証拠標本として北海道大学北方生物圏フィールド科学センター植物園の植物標本庫(SAPT)または岐阜大学流域圏科学研究センターの植物標本庫に保存した。調査の結果、82科331種類の維管束植物が確認された。環境省のレッドリスト掲載種は27種が生育していた。また、湖内では11種類の水草が確認され、そのうち6種がレッドリスト掲載種であった。一方、北海道の外来種リストに掲載されている種は44種類出現し、路傍や法面での採集が多かった。過去の維管束植物相調査と比較すると、今回の調査によって、これまで記載されていなかった130種類が確認され、季節を考慮した集中的で広範囲にわたる植物相調査の必要性が明らかになった。一方、水草については、過去に出現報告があるにもかかわらず今回確認できなかった種が4種存在し、それらはすべて淡水性の水草であった。特に湖の上流側にあたる南端部分での環境変化が、水草の生育に影響を及ぼしている可能性が示唆された。
実践報告
  • 太田 和子
    2018 年 23 巻 2 号 p. 297-306
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/12/27
    ジャーナル オープンアクセス
    岐阜女子大学のシンボルの花となっている準絶滅危惧種のサギソウPecteilis radiataを大学構内にある約2800 m2の湿地に植え戻し、12年間観察を行った。2001年に湿地を16個の区画に分けて、それぞれの区画に植え付け地点を設けてサギソウの球根を20個ずつ植え付けた。しかし、その後の3年間で半数の8つの区画で枯死してしまった。サギソウの増殖と植え付け地点の水位に関係が見られ、水位の深いところではサギソウの増殖が劣った。2004年に枯死した区画に再び球根を植え付け観察した。球根を湿地に植え付けるときに、園芸用の水苔資材を用いると球根が安定して、発芽率が良くなることが分かった。2012年までに、2001年に植え付けた4つの区画と、2004年に再植え付けした5つの区画が生き残った。最も増加したのは、2001年に植え付けた湿地東南部の区画(12区)で、2010年の個体数が植え付け時の64倍に増殖した。
  • 内藤 馨, 鶴田 哲也, 綾 史郎, 高田 昌彦, 岡崎 慎一, 上原 一彦
    2018 年 23 巻 2 号 p. 307-319
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/12/27
    ジャーナル オープンアクセス
    淀川は全国有数の淡水魚類相の豊かな河川である。とりわけ、天然記念物のイタセンパラは淀川のシンボル的存在となっている。本種は各生息地で絶滅が危惧されているが、淀川でも外来魚等の大量繁殖により一時生息確認が途絶えた。この状況を打開するため、外来魚のオオクチバスやブルーギルを駆除し、イタセンパラを含めた多様な在来種が生息できる環境を回復させることが必要となった。水生生物センターでは様々な外来魚駆除技術の現地実証に取り組み、淀川に適した駆除方法を明らかにした。それらの方法を使って外来魚を駆除し、イタセンパラの生息する環境を取り戻すため、2011年に市民団体、企業、大学と行政機関など筆者らが所属する多くの団体からなる「淀川水系イタセンパラ保全市民ネットワーク」が設立された。これまで、淀川城北ワンド群でイタセンネットを中心とした多様な主体の活動等によって、オオクチバス、ブルーギルが減少し、イタセンパラをはじめとする在来魚が復活した事例について報告する。
  • 2018 年 23 巻 2 号 p. App1-
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/12/27
    ジャーナル オープンアクセス
  • 2018 年 23 巻 2 号 p. Toc2-
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/12/27
    ジャーナル オープンアクセス
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