保全生態学研究
Online ISSN : 2424-1431
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16 巻 , 2 号
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大島賞受賞者総説
  • 西廣 淳
    原稿種別: 本文
    2011 年 16 巻 2 号 p. 139-148
    発行日: 2011/11/30
    公開日: 2017/08/01
    ジャーナル オープンアクセス
    治水や利水を目的とした湖沼水位の操作による季節的変動パターンの変化が、湖岸の植物の種子による繁殖に及ぼす影響について、霞ヶ浦(茨城県)を例に解説した。霞ヶ浦では水門による水位操作が行われるようになった1970年代以降、それまで生じていた春季における水位低下が失われた。このため、湖岸の抽水植物帯の地表面が冠水しやすくなり、植生帯面積の減少と相まって、そこに生育する植物の発芽セーフサイト(発芽と実生定着に必要な条件を備えた場所)の面積がそれ以前の約24%に減少したと推定された。さらに水位操作が強化された現在の霞ヶ浦湖岸では、湿生植物の実生更新がほとんど生じていないことが確認され、現状の方針による管理が継続されると湖岸の植物の多様性が損なわれることが示唆された。水位管理方針の変更が湖岸の植物の発芽セーフサイトの面積に及ぼす影響を単純なモデルを用いて予測した結果、現状から20cm以内で水位を低下させただけでも発芽セーフサイトの大幅な回復が見込めることが示唆された。治水・利水・環境を鼎立させた管理のためには、このような生態学的予測を活用するとともに、多様な視点からの検討を経た順応的管理が不可欠である。
原著
  • 照井 慧, 宮崎 佑介, 松崎 慎一郎, 鷲谷 いづみ
    原稿種別: 本文
    2011 年 16 巻 2 号 p. 149-157
    発行日: 2011/11/30
    公開日: 2017/08/01
    ジャーナル オープンアクセス
    絶滅危惧種カワシンジュガイMargaritifera laevisの生息にとって良好な環境が現在でも保たれていると考えられる北海道朱太川水系において、27地点(324コドラート:0.5×0.5m)においてカワシンジュガイの局所密度と個体サイズ(殻長)、およびその生息に影響する物理化学的要因について調査した。カワシンジュガイは各コドラートにおいて、0〜75個体/0.25m^2の密度で生息していた。個体サイズのレンジは3.9〜127.1mmと大きく、稚貝の割合が34〜100%と比較的高いことから、現在でも順調に更新が行われていると推測された。一般化線形混合モデルによる解析では、カワシンジュガイの局所密度にはDO・砂の割合・流速が95%信頼区間において0を含まず、正の効果を与えていた。砂の割合・水深については2次項の効果も95%信頼区間において0を含まなかった。局所密度は、DOが9.30〜10.2mg/l、砂の割合が10〜50%、水深が0.2〜0.6m、流速が0.05〜0.30s/mのコドラートで高かった。3つのサイズクラス(<20mm,20〜50mm,>50mm)別に同様の解析を行ったが、生息に影響する要因に顕著な違いは認められなかった。また、生息に好適な環境要因の組み合わせは、河川中心部よりは岸辺近くでみられ、同種の河川横断方向の分布には、それに応じた偏在が認められた。以上の結果から、カワシンジュガイが高い環境要求性をもつことが明らかとなった。河岸改修などによる物理的環境の改変は、個体群の存続に大きな影響を与える可能性がある。
  • 黒田 有寿茂, 石田 弘明, 服部 保
    原稿種別: 本文
    2011 年 16 巻 2 号 p. 159-167
    発行日: 2011/11/30
    公開日: 2017/08/01
    ジャーナル オープンアクセス
    水湿地に生育する絶滅危惧植物ツクシガヤ(イネ科)の保全に向け、その種子発芽特性と種子保存方法を明らかにするために数種の発芽試験を行った。段階温度法による試験の結果、本種は散布された段階では休眠状態にあり、休眠解除には2〜3週間程度の冷湿処理が必要であること、高温により二次休眠が誘導される性質をもつこと、発芽可能な温度域の下限は20℃付近にあることが示唆された。これらの結果から、本種の種子は秋季に散布された後、冬季に休眠解除され、春季に発芽していると考えられた。前処理の水分条件を変えた試験の結果、数ヶ月の冠水は種子の発芽能力に負の影響を及ぼさないこと、発芽時の水位条件を変えた試験の結果、数cmの冠水は種子の発芽を妨げないことがわかった。これらの水分・水位条件に対する性質は、頻繁に冠水する水湿地で定着するための有効な特性と考えられた。保存条件を変えた試験の結果、本種の種子の大部分は、遮光アルミパックへの抜気封入処理により、少なくとも3年は発芽能力を保持することが確認された。本種の保全に向けては、現存個体群の保護、生育立地の維持と共に、抜気封入処理による種子保存を補完的に進めていくことが有効といえる。
  • 山ノ内 崇志, 石川 愼吾
    原稿種別: 本文
    2011 年 16 巻 2 号 p. 169-179
    発行日: 2011/11/30
    公開日: 2017/08/01
    ジャーナル オープンアクセス
    スイレン科コウホネ属の絶滅危惧種ベニオグラコウホネは、浮葉と沈水葉を持つ多年生の水生植物であり、国内での分布は中国地方、四国、九州に限られる。本研究では、高知県神田川において、水質および河川の改修履歴に着目し、ベニオグラコウホネを含むコウホネ属植物の分布を調査した。神田川の流程は地理的には後背低地(St.1〜3)と扇状地縁辺部(St.4〜15)に区分され、水質は両者の境界部で明瞭な変化を示した。後背低地の流程に対し、扇状地縁辺部の流程では夏期の水温が低く、また、年間を通じ電気伝導度およびpHが低いことが認められた。また、RpHは全ての調査地点・日時を通じて高かった(8.12〜8.30)のに対し、pHは特に扇状地縁辺部の流程で相対的に低い値を示した(6.65〜7.37)。これらの結果から、扇状地縁辺部の流程は湧水の影響を強く受けており、年間を通してCO_2が過飽和状態にあると考えられた。コウホネ属植物の生育地は湧水地帯に位置し、CO_2が過飽和状態にあることがコウホネ属植物の光合成を促進し生育を保証する重要な要因であると考えられた。しかしながら、コウホネ属植物の分布は流程内の2地点のみに限られており、生育可能と推定される湧水影響下の流程に対し、実際の分布は狭かった。旧版地図および航空写真の判読から、神田川の河道はかつて大きく蛇行しており、1930〜1940年代の改修により直線化されたことが明らかとなった。旧河道、直線化河道、現存するコウホネ属植物の生育地を同一地図上にプロットした結果、現存する2ヵ所のコウホネ属植物の生育地は、旧河道と直線化河道の重複部分に一致した。神田川では、近年におけるコウホネ属植物の個体の新規加入は極めて少ないと推定され、その保全には、種子繁殖による個体の新規加入を促進することが必要と考えられる。
総説
  • 内藤 和明, 菊地 直樹, 池田 啓
    原稿種別: 本文
    2011 年 16 巻 2 号 p. 181-193
    発行日: 2011/11/30
    公開日: 2017/08/01
    ジャーナル オープンアクセス
    2005年の豊岡盆地におけるコウノトリCiconia boycianaの放鳥に続き、2008年には佐渡でトキNipponia nipponが放鳥されるなど、絶滅危惧動物の再導入事業が国内で近年相次いで実施されるようになってきた。飼育下で増殖させた個体の野外への再導入事例は今後も増加していくことが予想される。本稿では、豊岡盆地におけるコウノトリの再導入について、計画の立案、予備調査、再導入の実施までの経過を紹介し、生態学だけでなく社会科学的な関わりも内包している再導入の意義について考察した。再導入に先立っては、IUCNのガイドラインに準拠したコウノトリ野生復帰推進計画が策定された。事前の準備として、かつての生息地利用を明らかにするコウノトリ目撃地図の作製、飛来した野生個体の観察による採餌場所の季節変化の把握、採餌場所における餌生物量の調査などが行われた。豊岡盆地では、水田や河川の自然再生事業と環境修復の取り組みが開始された。予め設定した基準により選抜され、野生馴化訓練を経た個体が2005年から順次放鳥され、2007年からは野外での巣立ちが見られるようになった。コウノトリは多様なハビタットで多様な生物を捕食しているので、再導入の成否は生物群集を再生することにかかっている。このことは、地域の生物多様性の保全を通じて生態系サービスを維持するという地域社会に共通の課題にも貢献することになる。
調査報告
  • 田村 淳, 入野 彰夫, 勝山 輝男, 青砥 航次, 奥津 昌哉
    原稿種別: 本文
    2011 年 16 巻 2 号 p. 195-203
    発行日: 2011/11/30
    公開日: 2017/08/01
    ジャーナル オープンアクセス
    ニホンジカにより退行した丹沢山地の冷温帯自然林において、植生保護柵(以下、柵)による神奈川県絶滅危惧種(以下、希少植物)の保護効果を評価するために、9地区62基で希少植物の有無と個体数を調べた。また、希少植物の出現に影響する要因を検討した。その結果、合計20種の希少植物を確認した。そのうちの15種は『神奈川県レッドデータ生物調査報告書2006』においてシカの採食を減少要因とする希少植物であった。一方、柵外では6種の希少植物の確認にとどまった。これらの結果から、丹沢山地の柵は希少植物の保護に効果を発揮していると考えられた。しかし、ノビネチドリなど10種は1地区1基の柵からのみ出現して、そのうち8種の個体数は10個体未満であった。このことから環境のゆらぎや人口学的確率性により地域絶滅する可能性もある。継続的な柵の維持管理と個体数のモニタリングが必要である。また、各地区の柵内で出現した希少植物の種数を目的変数として、柵数、柵面積、標高、その地区の希少植物フロラの種数を説明変数として単回帰分析したところ、希少植物の種数は希少植物フロラの種数と正の強い相関があった。この結果から、希少植物を保護ないし回復させるためには希少植物のホットスポットに柵を設置することが有効であり、希少植物の分布と位置情報を事前に押さえておくことが重要であると結論した。
  • 松崎 慎一郎, 児玉 晃治, 照井 慧, 武島 弘彦, 佐藤 専寿, 富永 修, 前田 英章, 多田 雅充, 鷲谷 いづみ, 吉田 丈人
    原稿種別: 本文
    2011 年 16 巻 2 号 p. 205-212
    発行日: 2011/11/30
    公開日: 2017/08/01
    ジャーナル オープンアクセス
    Identifying the ecological and life history correlates of local extinction can help us to predict and target extinctionprone species, and to understand the causes and consequences of species extinctions. We examined temporal changes in the native, strictly freshwater, fish fauna around Lake Mikata, a component of the Ramsar wetland, by collecting and integrating fragmentary fish monitoring data for 1978-2007, as well as by conducting broad fish samplings in rivers, ditches, and the lake in 2009 and 2010. We also performed a trait analysis for 22 freshwater fish in an attempt to identify the ecological traits of the species that have disappeared since 1988, when the fish diversity was higher. The integrated monitoring data showed that 5 of the 22 species had disappeared, including endangered species. The generalized linear mixed models incorporating the phylogenetic effects revealed that dependency on spawning substrate (e.g., cobbles and mussels) was the only significant predictor; the species with high dependency on spawning substrate were more likely to disappear. Our results suggest that the loss, degradation, and fragmentation of spawning habitats are the main direct cause of the local extinction of freshwater fish fauna in and around Lake Mikata. Monitoring, investigating, and restoring spawning habitats should be the focus of proactive conservation or management strategies.
  • 宮崎 佑介, 照井 慧, 久保 優, 畑井 信男, 高橋 興世, 齋藤 均, 鷲谷 いづみ
    原稿種別: 本文
    2011 年 16 巻 2 号 p. 213-219
    発行日: 2011/11/30
    公開日: 2017/08/01
    ジャーナル オープンアクセス
    2010年6〜10月に、北海道渡島半島北部を流れる朱太川水系78地点において魚類相調査を行い、10科29種の魚類を記録した。通し回遊魚は、種の豊かさおよび存在量がともに高かったのに対して、止水環境利用魚類の存在量は低く、イトウは個体群絶滅が示唆された。これらは、朱太川における流程方向の生息場所間の連結性の高さと、氾濫原湿地の大規模な喪失による河川横断方向の生息場所間の連結性の低下を反映しているものと推察された。朱太川水系における魚類の保全のためには、通し回遊魚の保全には引き続き流程方向の連結性の維持が求められる一方で、止水環境利用魚類の保全・回復には氾濫原湿地の再生が必要なことが示唆された。
実践報告
  • 一瀬 克久, 石井 潤, 鷲谷 いづみ
    原稿種別: 本文
    2011 年 16 巻 2 号 p. 221-229
    発行日: 2011/11/30
    公開日: 2017/08/01
    ジャーナル オープンアクセス
    栃木県を流れる鬼怒川上中流域の礫質河原では、外来植物シナダレスズメガヤの急速な分布拡大に伴い絶滅危惧植物カワラノギクの個体数が著しく減少した。礫質河原の固有植物保全のために、河原の一部においてカワラノギク保全地が造成され、シナダレスズメガヤを除去するとともに、カワラノギクの種子を導入する事業が実施された。本研究では、保全地造成後毎年実施されている市民によるシナダレスズメガヤの手取りによる選択的除去活動の効果と努力量を評価した。約4年間の市民によるシナダレスズメガヤの選択的除去活動の範囲は約6,800m^2(保全地の約47%)であり、植生調査の結果から、シナダレスズメガヤの平均被度は除去によって約5分の1程度に抑えられていることが示された。河原固有種5種の合計被度とカワラノギクの被度は有意に大きく、いずれも2.4倍になり、カワラノギク保全地におけるシナダレスズメガヤの選択的除去活動は、シナダレスズメガヤの被度を抑えるだけでなく、カワラノギクを含む河原固有種の再生に有効であることが示唆された。除去活動は4年間で9回実施され、1回あたりの平均作業時間は1.4時間で、合計12.5時間であった。1回あたりの参加人数は35人で、のべ319人の参加者と推定された。この値に基づくと、1人・1時間あたりの除去面積は16.1m^2となった。
解説
  • 大澤 剛士, 栗原 隆, 中谷 至伸, 吉松 慎一
    原稿種別: 本文
    2011 年 16 巻 2 号 p. 231-241
    発行日: 2011/11/30
    公開日: 2017/08/01
    ジャーナル オープンアクセス
    昆虫をはじめとする生物の標本データは、過去の生物情報として非常に高い価値を持つが、それらを保全生態学等の研究に利用するためには、由来の異なるデータを集約し、汎用性の高い形式に整備する必要がある。しかし、こういったデータの整備および公開方法について、未だ技法や体系が十分に確立していない。本稿において筆者らは、標本データを様々な研究で利用できる生物多様性情報として再整備する方法、ならびに整備したデータをWeb技術によって広く発信する方法を提案する。具体例として、分類学的に整理されたオサムシ科標本コレクションを国際機関であるGBIF(Global Biodiversity Information Faculty)の標準規格であるDarwin Core互換のフォーマットで整理しなおし、WebマッシュアップというWeb技術を活用することによって、データを様々な形式で閲覧・取得できるシステムを開発した。本稿は、そのシステムの仕様に関する解説を通して、生物多様性情報の整備と活用の実現方法について概説する。そして、これらWeb技術を利用した生物多様性情報の発信についての将来的な可能性を議論する。
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