園芸学研究
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22 巻, 2 号
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総説
  • 山家 一哲, 牧田 好髙
    2023 年 22 巻 2 号 p. 115-123
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/06/30
    ジャーナル フリー

    気候変動による秋冬季の気温上昇や降雨量の増加によって,ウンシュウミカン果実の浮皮発生が多発し,収穫後の長期貯蔵が難しくなっている.これまでジベレリンによる果皮の老化抑制は検証されていたが,高濃度でないと浮皮軽減に効果がなく,その場合に着色遅延が発生するため,実用化に至らなかった.そこで本研究チームでは,ジベレリンにプロヒドロジャスモンを加えることで,着色遅延を軽減できる散布時期と濃度を検証した.プロヒドロジャスモンは処理濃度によって植物への影響が異なることが示唆されており,当初ジベレリンとプロヒドロジャスモンの同濃度混用処理(3.3~20 ppm)を行い一定の効果が得られたが,ジベレリン10~20 ppm処理では著しい着色遅延が散見されることがあった.そこで,低濃度のジベレリン3~5 ppmに高濃度のプロヒドロジャスモン25~50 ppmを混用処理した結果,若干の着色遅延のみで安定して効果が得られることがわかった.‘青島温州’ の場合,検討した散布時期(8~10月)の中で,9月上旬が最も効果が高いことが明らかになった.その後も,全国の産地で現地実証が行われ,ジベレリンとプロヒドロジャスモンの混用散布の浮皮に対する有効性が確認され,植物生育調整剤としての登録,生産現場への導入につながった.しかし生産現場ではジベレリン処理に伴う着色遅延をできる限り抑えたい要望が強かった.そこで本剤の散布濃度・時期の影響について再検討した結果,ジベレリン1 ppm,プロヒドロジャスモン25 ppmの処理でも浮皮が軽減され,着色遅延を1週間以内に抑えることができたため,使用濃度範囲の登録拡大(ジベレリン濃度1~5 ppm)につながった.また,晩生温州以外の品種で効果的な散布時期を検証することで,早生系統や中生系統でも利用が可能となり,西日本のウンシュウミカン産地でも普及が進んだ.本剤は,短期および長期貯蔵に合わせた浮皮軽減,腐敗抑制を実現しており,今後のミカン栽培および貯蔵に欠かせない技術となっている.

原著論文
育種・遺伝資源
  • 水田 泰徳, 堀本 宗清, 織邊 太, 荒木 斉, 松本 和浩
    2023 年 22 巻 2 号 p. 125-132
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/06/30
    ジャーナル フリー

    近年,クリの凍害の増加に伴い,穂木品種の耐凍性を向上させる台木の選抜が求められている.本研究では①ニホングリと接ぎ木親和性があり,かつ耐凍性を高める台木系統の選抜,②選抜系統の取り木繁殖の検討,③耐凍性向上メカニズムの解明の3点の実験を行った.ニホングリ ‘筑波’ と12種類の実生台木の接ぎ木親和性を調査したところ,活着率は ‘銀寄’ 台で約95%と最も高く,チュウゴクグリ台は4~37%と低い値を示した.しかし,江西省台‘筑波’の凍害発生率は,他の台木の枯死樹率が50~100%であった中で,枯死樹が全く発生せず,強い耐凍性を示した.本台木の取り木繁殖性を調査したところNo. 345系統の発根率は64.7%に達し,取り木繁殖が可能であることが明らかとなった.また,No. 345系統はニホングリ ‘筑波’ と接ぎ木不親和の症状を示さず,得苗率は41.2%となった.チュウゴクグリNo. 345台 ‘筑波’ は,冬季の枝含水率および芽の耐凍温度が慣行台に比べて低く,圃場における凍害発生率も減少した.このように,本研究で選抜した取り木繁殖可能なチュウゴクグリNo. 345系統は,ニホングリ ‘筑波’ と接ぎ木親和性があり,強い耐凍性を獲得しており,ニホングリの耐凍性を向上させる新規クリ台木として利用可能であることが示された.

土壌管理・施肥・灌水
  • 細見 彰洋, 磯部 武志
    2023 年 22 巻 2 号 p. 133-139
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/06/30
    ジャーナル フリー

    調査した農家圃場のイチジク ‘桝井ドーフィン’ 樹は,5年ほどの間に年々樹勢が低下し,いわゆる「いや地」被害の状況にあった.これらの樹に,緑化樹の枝葉を素材とする木質堆肥を,1 m2当たり約0.4 m3の量で樹冠下の地表にマルチ施用した.その結果,施用2年目には無施用に比べて樹勢の衰弱が軽減され,その効果は施用6年後も持続していた.また,無施用樹でみられた着果数や果実肥大の減退も回復が見込めた.木質堆肥を施用した土壌は,無施用に比べてCECや腐植が高く,三要素の中では硝酸態窒素と交換性カリウムの濃度が高かった.本調査から,木質堆肥の施用が,いや地被害で衰弱したイチジク樹の樹勢回復の一助となり, その効果に, 少なくとも木質堆肥施用による土壌の理化学性の改善が関与している可能性が考えられた.

栽培管理・作型
  • 宮本 菜々子, 藤原 明香里, 元木 悟
    2023 年 22 巻 2 号 p. 141-154
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/06/30
    ジャーナル フリー

    国内における五寸ニンジン(以下,五寸)は,産地間のリレー栽培による周年供給体制が確立されているものの,ミニニンジン(以下, ミニ)は,周年供給されておらず,五寸の作型に合わせて国内各地で栽培され流通しており,出荷規格が統一されていない.本研究では,暖地においてミニの同一地域内における周年栽培の可能性を検討するため,4年間にわたり計20回播種し,ミニおよび五寸の播種時期および栽培期間の違いが収量および生育に及ぼす影響を調べた.その結果,暖地におけるミニは,播種時期ごとに栽培期間(生育速度) が異なり,10~2月播種を除き,播種後110日までに出荷規格に達した.地下部新鮮重に基づく出荷規格の最小値はミニが10 g,五寸が70 gとされており,出荷規格に達するまでの栽培期間はミニが五寸に比べて短かった.しかし,低温期は,出荷規格に達するまでの栽培期間が慣行である4月播種に比べて長かった.そのため,保温資材の利用や栽植密度の調整などにより栽培期間を短くすることで, ミニの周年栽培の可能性が示唆された.

  • 守谷 友紀, 阪本 大輔, 馬場 隆士, 花田 俊男, 岩波 宏
    2023 年 22 巻 2 号 p. 155-162
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/06/30
    ジャーナル フリー

    カラムナータイプリンゴ盛岡74号のV字栽培方式に適した幼木期の管理方法として,主枝数が生育に与える影響およびジベレリンペースト塗布の効果について検討した.主枝数について2本主枝区,4本主枝区,6本主枝区を設け,4本主枝区の一部にジベレリンペーストを塗布しない区を設けた.定植1, 2年目のジベレリンペースト塗布により新梢伸長が促進され,4本主枝塗布あり区の伸長量は塗布なし区の2倍程度に増加した.主枝数が少ないほど定植1年目の新梢伸長量が多く,2本主枝区では定植2年目の生育停止時において目標主枝長(300 cm)に達した主枝数が多かった.定植3年目の開花期において主枝数が多いほど花芽着生が多かった.定植1年目の新梢総伸長量が大きいほど花芽数が多く,ジベレリンペースト塗布は花芽の増加に寄与していた.2本主枝区は樹形の完成は早いが花芽着生が少なく,台木が半わい性のJM2であることから今後樹勢が強くなる可能性が高い.6本主枝区は樹形の完成が2本主枝区より1年遅くなるが,着果させつつ樹形の完成を目指すことで樹勢を制御しやすいと予想される.以上のことから,盛岡74号/JM2のV字栽培方式では,6本主枝仕立てでジベレリンペースト塗布により主枝伸長を促進する幼木期管理が適していると考えられた.

  • 本間 優, 渡部 貴史, 安 東赫
    2023 年 22 巻 2 号 p. 163-172
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/06/30
    ジャーナル フリー

    カラーピーマンの果実新鮮重に及ぼす収量構成要素の影響および収量構成要素の品種間差を明らかにするため,我が国の主流栽培品種である ‘Nagano’ を含む4品種を定植日から起算して約250日間栽培した.果実新鮮重,TDM,LAI,LUE,果実乾物率,果実分配率などの収量構成要素に有意な品種間差が認められた.収量構成要素間の相関分析から,果実新鮮重は果実乾物重との間に有意な相関関係(P < 0.001)が確認でき,果実乾物重はTDM,そしてTDMはLUEとの間に有意な相関関係(P < 0.001)が確認された.LAI,IL,果実乾物率,果実分配率にも有意な品種間差が認められたが,これらが果実新鮮重へ与える影響は小さかった.以上から,カラーピーマンの長期養液栽培では,LUEの高低が果実新鮮重へ与える影響が大きいと判断する.LUEが高い品種を選ぶことやCO2施用のようなLUEを増加させる管理が,カラーピーマンの収量増加に有効であると判断する.

発育制御
  • 福田 直子, 牛尾 亜由子, 岩崎 勇次郎, 寺田 吉徳, 佐藤 憲二郎, 宮本 賢二, 嶋津 光鑑, 都 丈志, 狩野 敦
    2023 年 22 巻 2 号 p. 173-182
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/06/30
    ジャーナル フリー

    トルコギキョウの収穫日の予測とそれを実現する技術開発を目標として,茨城県つくば市で実施したトルコギキョウ品種 ‘セレブリッチホワイト’ の栽培試験20データを用いて,発育に要する日数の逆数である発育速度(DVR)と平均気温との関係を検討した.育苗開始から発蕾,発蕾から収穫の平均気温とDVRは単純な線形モデルが適用可能であった.発育モデルパラメータである基底温度(Tb)と有効積算温度(TT)を算出し,これらを用いて試算した発蕾を起点とする収穫予測日は,実測値に対して誤差5日以内RMSE3.1日と高い精度を示した.同じ発育パラメータを用いて,同品種の高冷地抑制作型と暖地促成作型における栽培データで検証したところ,発蕾を起点とする収穫日の予測誤差は5日以内RMSE2.5日と同程度に小さかった.これらのことから得られたパラメータを用いて発蕾を起点とすることで収穫日の予測が可能と考えられた.生産者ハウスにおいて,‘レイナ2型ホワイト’ の発育パラメータと,目標日にTTを達成するように能動的に日平均気温を制御する装置DM-AMTeCを用いて,12月13日を制御起点,3月10日を目標収穫日とする栽培を行った.詳細調査区の平均発蕾日は12月25日,平均収穫日は3月14日で,目標収穫日に対して誤差4日であった.これらのことから発蕾日を起点として発育パラメータを用いて気温を制御することで,精度 ± 7日以内の計画生産が可能であることを実証した.

収穫後の貯蔵流通
  • 古田 貴裕, 野中 亜優美, 宮嵜 剛, 矢野 親良, 大橋 京平, Mitalo W. Oscar, 牛島 幸一郎, 久保 康隆
    2023 年 22 巻 2 号 p. 183-190
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/06/30
    ジャーナル フリー

    カキ ‘刀根早生’ の米国輸出時にへた周辺の果底部に生じた汚損果の発生要因を検討した.シミュレーション実験では,脱渋・1-MCP処理果実の汚損果発生は30°C保持(7日間保持)で著しく,15°C以下ではほとんど見られなかった.PE折りたたみ包装は防湿段ボール梱包より25°Cおよび30°Cでの汚損果発生を増加させた.汚損果が多発した脱渋・1-MCP処理果実のPE密封包装は果実内酸素濃度を3%程度に低下,二酸化炭素濃度を5%程度に増加させ,エチレン生成を促進した.二酸化炭素吸収剤の同封は,袋内二酸化炭素濃度を下げ,汚損果の発生を軽減した.一方,CTSD脱渋と1-MCP処理はそれぞれ汚損果発生を助長した.以上の結果から,輸出時の汚損果発生の要因は,25°C以上の高温環境下において,脱渋および脱渋直後の包装資材への梱包による低酸素・高二酸化炭素状態でのストレスが汚損果を生じさせ,1-MCP処理によるエチレン作用の阻害が助長要因になると考えられた.‘刀根早生’ 果実の輸出には,脱渋処理と1-MCP処理は必須であることから,汚損果対策には梱包後の適切な温度管理が実現可能かつ効果的な方法である.

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