気候変動による秋冬季の気温上昇や降雨量の増加によって,ウンシュウミカン果実の浮皮発生が多発し,収穫後の長期貯蔵が難しくなっている.これまでジベレリンによる果皮の老化抑制は検証されていたが,高濃度でないと浮皮軽減に効果がなく,その場合に着色遅延が発生するため,実用化に至らなかった.そこで本研究チームでは,ジベレリンにプロヒドロジャスモンを加えることで,着色遅延を軽減できる散布時期と濃度を検証した.プロヒドロジャスモンは処理濃度によって植物への影響が異なることが示唆されており,当初ジベレリンとプロヒドロジャスモンの同濃度混用処理(3.3~20 ppm)を行い一定の効果が得られたが,ジベレリン10~20 ppm処理では著しい着色遅延が散見されることがあった.そこで,低濃度のジベレリン3~5 ppmに高濃度のプロヒドロジャスモン25~50 ppmを混用処理した結果,若干の着色遅延のみで安定して効果が得られることがわかった.‘青島温州’ の場合,検討した散布時期(8~10月)の中で,9月上旬が最も効果が高いことが明らかになった.その後も,全国の産地で現地実証が行われ,ジベレリンとプロヒドロジャスモンの混用散布の浮皮に対する有効性が確認され,植物生育調整剤としての登録,生産現場への導入につながった.しかし生産現場ではジベレリン処理に伴う着色遅延をできる限り抑えたい要望が強かった.そこで本剤の散布濃度・時期の影響について再検討した結果,ジベレリン1 ppm,プロヒドロジャスモン25 ppmの処理でも浮皮が軽減され,着色遅延を1週間以内に抑えることができたため,使用濃度範囲の登録拡大(ジベレリン濃度1~5 ppm)につながった.また,晩生温州以外の品種で効果的な散布時期を検証することで,早生系統や中生系統でも利用が可能となり,西日本のウンシュウミカン産地でも普及が進んだ.本剤は,短期および長期貯蔵に合わせた浮皮軽減,腐敗抑制を実現しており,今後のミカン栽培および貯蔵に欠かせない技術となっている.
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