園芸学研究
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18 巻, 2 号
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総説
  • 稲葉 善太郎
    2019 年18 巻2 号 p. 97-106
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/06/30
    ジャーナル フリー

    カナリア諸島とマデイラ諸島を原産とするマーガレットの育種に取り組み,切り花用と鉢物用を併せて35品種を育成して品種登録した.切り花用品種では,‘在来白’ と同等の花型の ‘サザンエレガンスホワイト’ 等11品種を育成した.鉢物用品種では,耐暑性と秋からの連続開花性がある ‘サンデーリップル’ 等24品種を育成した.マーガレットに新たな花色や香気成分を付与するため,マーガレットを種子親にハナワギクの花粉を属間交配し,新たな花色の ‘ピーチクイーン’ や香気成分を持つ ‘風恋香’ などの属間雑種を育成した.

原著論文
育種・遺伝資源
  • 立澤 文見, 井手上 ひろ, 大谷 拓也, 加藤 久美子, 中條 しづ子, 加藤 一幾, 鴫原 淳
    2019 年18 巻2 号 p. 107-116
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/06/30
    ジャーナル フリー

    スイートアリッサム(Lobularia maritima)の赤色花4品種,赤紫色花7品種,紫色花8品種,および,白色花1品種の合計20品種の花色と花弁に含まれるフラボノイド組成の関係を調査した.この結果,スイートアリッサムの花では初の報告となるペラルゴニジン3-[6-(トランス-p-クマロイル)-グルコシド]-5-グルコシド,ペラルゴニジン3-[6-(トランス-フェルロイル)-グルコシド]-5-グルコシド,ペラルゴニジン3-サンブビオシド-5-グルコシド,ペラルゴニジン3,5-ジグルコシド,および,ペラルゴニジン3-グルコシドが赤色品種から同定され,それらを含む21種類のアントシアニンを同定した.赤紫色品種では,Lobularia Deep Rose Anthocyanin 1~6 (Tatsuzawaら, 2010) とペラルゴニジン3-サンブビオシド-5-グルコシドが,そして,紫色品種では,Lobularia Violet Anthocyanin 1~9とシアニジン3-サンブビオシド-5-グルコシド(Tatsuzawaら, 2006, 2007)が主要アントシアニンであった.さらに,供試したすべての品種からケルセチンとケンフェロールの3-[2-(ラムノシル)-グルコシド]-7-ラムノシドと3-[2-(ラムノシル)-アラビノシド]-7-ラムノシドが同定され,スイートアリッサムの花では初の報告となるフラボノールであった.これらのフラボノールによる花色への影響は確認されなかった.スイートアリッサムの花色の青色化は,けい皮酸によるアシル化とアントシアニジンのB環の水酸基化が主な要因であることがわかった.

  • 村上 覚, 種石 始弘, 鈴木 公威, 佐々木 俊之, 橋本 望
    2019 年18 巻2 号 p. 117-125
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/06/30
    ジャーナル フリー

    開花期が早い ‘レインボーレッド’ においても自然受粉を可能とする雄品種として ‘にじ太郎’ を育成した.‘にじ太郎’ は ‘レインボーレッド’ の偶発実生から選抜した二倍体品種である.花粉品質は,酢酸カーミン染色率はやや低いものの,発芽率は他品種と同程度であった.一方で,‘トムリ’ と比べると,採葯量および採取純花粉量は少ないため,花粉採取用としては適さないと考えられた.‘にじ太郎’ の花粉で受粉した ‘レインボーレッド’ 果実は,‘トムリ’ 花粉で受粉した果実と比べて,結実率や果実品質に差はみられなかったものの,黒色の充実した種子が増えた.開花期は ‘レインボーレッド’ と重なるため,‘レインボーレッド’ を自然受粉させることができる.3年間の自然受粉栽培について検討した結果,1.0~1.5 mの1年生側枝を ‘レインボーレッド’ に高接ぎして配置した場合,枝から2 mの範囲内では概ね80%の結実率を確保でき,果実品質も比較的良好であったが,それよりも離れると結実不良や果実の肥大不良が懸念された.このことから,4 m間隔で ‘にじ太郎’ の枝を高接ぎし配置することが望ましいと考えられた.以上のことから ‘にじ太郎’ は ‘レインボーレッド’ の自然受粉に有効であると考えられ,‘レインボーレッド’ の安定生産に寄与することが期待できる.

栽培管理・作型
  • 古野 伸典, 吉田 千恵, 松永 啓
    2019 年18 巻2 号 p. 127-132
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/06/30
    ジャーナル フリー

    カラーピーマン果実への光照射による着色促進技術の生産現場での実用化を目的に,着色段階の違いが着色進展に及ぼす影響を検討するとともに,夏秋作型の収穫時期ごとの光照射による着色促進効果について調査した.その結果,果実表面積に対する着色面積が,赤色品種では5%以上,黄色品種では10%以上であれば7日以内に出荷基準である90%以上まで着色することが明らかとなった.生産現場での実用性や普及性を考慮すると,光照射には赤色品種と黄色品種ともに収穫時の着色割合が10%以上の果実を用いる基準が妥当と考えられる.夏秋作型の収穫期間を通して,10%以上着色した果実を収穫して光照射により着色促進することで,通常の収穫方法に比べて商品収量が10%以上増加した.特に,日射量の減少や気温の低下が著しい晩秋期での増収効果が高く,処理開始時期としては東北地方の場合は10月以降が望ましいと考えられた.一方,着果負担軽減による増収や,夏期の高温障害の発生軽減などの効果は認められなかった.

  • 上森 真広, 三輪 由佳, 磯部 武志, 細見 彰洋
    2019 年18 巻2 号 p. 133-138
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/06/30
    ジャーナル フリー

    大阪府羽曳野市において,長期的な気温変化が露地栽培のブドウ‘デラウェア’の発育に及ぼす影響を明らかにするため,1963年から2010年までの48年間に渡る気温と発芽日,満開日との関係を一般化線形モデル(GLM)により解析し,赤池情報量基準(AIC)によるモデル選択によって各関係を評価した.本調査地において気温の上昇傾向が認められた.48年間で発芽日,満開日はともに早期化していた.AICによるモデル選択の結果,発芽日には2月平均気温,3月平均気温,4月平均気温が関与しており,2月平均気温,3月平均気温の上昇により発芽日が早期化していることが示唆された.一方,満開日には4月平均気温,5月平均気温が関与しており,その早期化は,発芽日の早期化と5月平均気温の上昇の影響を受けていることが示唆された.以上より,大阪府羽曳野市のブドウ‘デラウェア’の発芽日は2月,3月の気温上昇,満開日は発芽日の早期化と5月の気温上昇の影響を受けて早期化していると推察された.

  • 富田 晃, 萩原 栄揮, 山下(土橋) 路子, 井田 仁, 大野 修二
    2019 年18 巻2 号 p. 139-142
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/06/30
    ジャーナル フリー

    開花期の高温条件下において,甘果オウトウの結実向上を目的に,3種類のジベレリン生合成阻害(PBZ, TNE, PCa)が結実率に及ぼす影響を調査した.ジベレリン生合成阻害剤処理区の結実率は3種類とも無処理区より有意に高かった.新梢伸長に対する影響は,ジベレリン生合成阻害剤の種類によって異なり,抑制程度はPBZ > TNE > PCaの順に強かった.ポット樹試験の結果,新梢への影響が小さいPCaについて地植え樹でさらに検討した.開花期間中に高温遭遇しても,開花する2週間前にPCaを処理すれば健全な胚珠がより長く維持することが示された.また結実率も無処理区に比べて向上することが明らかになった.

発育制御
  • 小森 貞男, 齊藤 柚花, 渡邉 学, 村上 政伸, 森田 泉, 佐々木 真人, 田中 紀充
    2019 年18 巻2 号 p. 143-155
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/06/30
    ジャーナル フリー

    リンゴの変形果発生機構解明の端緒として ‘ふじ’,‘恵’,‘つがる’,‘王林’ の果実の変形パターンを明らかにした.いずれの品種でも変形指数に関して重さの階級間で差がないことから大きさにかかわらず同じ程度に変形している(していない)ことが推定された.変形指数は横より縦が大きく果実は縦方向に変形しやすいことが明らかになった.‘ふじ’ は縦変形指数・横変形指数ともに他品種より大きく変形しやすいことが判明した.横断面半径最大値の出現位置は ‘ふじ’ と ‘つがる’ が子室と子室のほぼ中央に現れ,‘恵’ と ‘王林’ は中央より右側の子室に近い位置に現れた.横断面半径最大値の出現位置を起点(0°)として横断面半径最小値,縦径最小値,縦径最大値の出現位置を調査したところ,縦径最大値はどの品種でも横断面半径最大位置の周辺に現れたが,横断面半径最小値と縦径最小値の位置は品種によって異なった.‘ふじ’ の横断面半径最小値と縦径最小値は横断面半径最大位置を直径とする直線に対してほぼ左右対称に出現する確率が高いことが判明した.

  • 田附 明夫, 蟹澤 和弥, 木下 嗣基, 朝山 宗彦
    2019 年18 巻2 号 p. 157-165
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/06/30
    ジャーナル フリー

    全摘葉処理がキュウリ果実における糖飢餓マーカー候補遺伝子の発現に及ぼす品種間差を調べた.供試した品種は日本型として ‘ときわ’(純系)と ‘ハイグリーン21’(F1)と ‘フリーダムハウス2号’(F1),華北型として ‘四葉’(純系),華南型として ‘相模半白’(純系),ピクルス型として ‘最上’(純系),スライス型として ‘Poinsett’(純系),英国温室型として ‘Proloog RZ’(F1),ベイトアルファ型として ‘Khassib RZ’(F1)だった.マーカー候補遺伝子は既報(Tazukeら,2015)で得られたCsSEF1,アスパラギン合成酵素遺伝子,CsFDI1の他に,今回行ったRNA-seqで得られた遺伝子Csa6G501990,Csa1G002810,Csa5G606310,Csa3G824990,Csa3G435530(Cucurbit Genomics Databaseコード)について調べた.その結果,CsSEF1および新たに得られた5遺伝子がキュウリ全般に関して糖飢餓マーカーとして用いうる可能性が示唆された.

収穫後の貯蔵流通
  • 外岡 慎, 本間 義之, 貫井 秀樹, 市村 一雄
    2019 年18 巻2 号 p. 167-172
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/06/30
    ジャーナル フリー

    ガーベラ切り花の日持ち短縮に関与する原因を検討した.ガーベラ ‘ミノウ’ 切り花を細菌濃度が上昇した白濁水に生けると,花茎の曲がりが促進され日持ちが著しく短縮した.‘ピクチャーパーフェクト’ と ‘ピンタ’ の生け水を用いた実験は濁度と細菌濃度との間には相関があることを示した.この結果は生け水の濁度の上昇は細菌の増殖によることを示唆している.ガーベラ7品種切り花において,生け水の濁度には著しい品種間差があった.‘ピクチャーパーフェクト’ をはじめとして濁度が高い品種では,イソチアゾリン系抗菌剤処理による日持ち延長効果が大きかった.‘ミノウ’ では,時間の経過に伴い生け水の濁度が上昇したが,抗菌剤処理により濁度の上昇が完全に抑制された.また,抗菌剤処理は吸水量を増加させ,切り花新鮮重の低下を抑制した.以上の結果から,ガーベラ切り花を生けた水の濁度には品種間差があり,生け水の濁度はガーベラ切り花の日持ちと密接に関係していることが示唆された.

  • 葛西 智, 小林 達, 工藤 剛, 後藤 聡
    2019 年18 巻2 号 p. 173-184
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/06/30
    ジャーナル フリー

    国産リンゴの周年供給体制を強化するため,長期貯蔵後も高い品質を維持しうる品種を選定し,各品種と貯蔵技術の最適な組み合わせを明らかにすることを目的とした.まず,中・晩生の30品種を対象にCA貯蔵または1-MCPくん蒸剤の利用による品質保持効果を検証した.現行の後期販売の主体であるCA貯蔵の有袋 ‘ふじ’ と同等以上に品質が安定した品種として,‘秋陽’,‘世界一’,‘ジョナゴールド’,‘こうたろう’,‘シナノゴールド’,‘あおり15’,‘アンビシャス’ および ‘あおり21’ の8品種を選定した.次に,これら8品種を対象としてCA貯蔵,1-MCPくん蒸剤および1-MCP + CAによる品質保持効果を検証した.その結果,‘世界一’,‘あおり15’,‘アンビシャス’ および ‘あおり21’ は,これらの方法を利用しても長期貯蔵後に高い品質を維持するのは難しいと考えられた.一方,‘秋陽’,‘ジョナゴールド’,‘こうたろう’ および ‘シナノゴールド’ は1-MCP + CAの方法により果皮褐変や果肉褐変の障害がなく,高い品質が維持された.また,この場合の1-MCPくん蒸剤の処理適期は,‘秋陽’ および ‘ジョナゴールド’ で収穫3日後まで,‘こうたろう’ および ‘シナノゴールド’ で収穫6日後までと考えられた.

作物保護
  • 細見 彰洋
    2019 年18 巻2 号 p. 185-191
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/06/30
    ジャーナル フリー

    イチジク株枯病抵抗性がある ‘セレスト’,‘ネグローネ’,‘イスキア・ブラック’,‘キバル’ を台木としたイチジク ‘桝井ドーフィン’ 接ぎ木樹について,本病汚染がない圃場での生育と果実生産性を,いや地耐性のある ‘ジディー’ 台樹を参考に加えて自根樹と比較した.健全圃場において定植2年目から4年目ないし5年目まで調査した結果,結果枝の全長と基部径は ‘セレスト’ 以外の台木使用樹で自根樹を上回る年があった.また,果実生産性(着果率,成熟日,1果重,果皮色,果肉糖度)は,基部節付近(1~5節)において,‘ネグローネ’台樹,‘キバル’台樹,‘ジディー’ 台樹の着果率が,また,‘ジディー’ 以外の台木使用樹の果肉糖度が,それぞれ自根樹を下回る年があった.しかし,これらは限定的で,大半の特性に自根樹との差異はなかった.また,イチジク株枯病の発生はないものの,いや地が生じている圃場で,定植2~4年目の生育を比較した.その結果 ‘ネグローネ’,‘イスキア・ブラック’ 台樹の生育は,‘ジディー’ 台樹には劣るものの,自根樹とは有意差がなかった.以上,イチジク株枯病抵抗性の4品種いずれを台木として使用しても,自根樹に比べて穂木 ‘桝井ドーフィン’ の生育や果実生産性が大きく変化することはなかった.よって,これら4品種の台木としての価値は抵抗性の強弱を第一として評価され,この点で優れる ‘キバル’ や ‘ネグローネ’ の選択がふさわしいと考えられた.

普及・教育・利用
  • 水島 智史
    2019 年18 巻2 号 p. 193-198
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/06/30
    ジャーナル フリー

    高等学校農業科の教育活動が,生徒の社会人基礎力を育成するかを調査した.学習評価表,社会人基礎力評価表および社会人基礎力育成に役立つ教育活動評価表の3部からなる質問紙を作成した.高校3年12月に生徒に自己評価を求めた.社会人基礎力の主体性,課題発見力,計画力,発信力および傾聴力の得点は,高校入学前と比較して有意に高かった.社会人基礎力の12の要素の得点と学習評価表の興味,態度および知識・技術の得点の相関係数を求めた.その結果,社会人基礎力の主体性,実行力,計画力,創造力,発信力および規律性を育成するためには,生徒の興味,態度および知識・技術を高める指導が有効であると考えられた.研究対象校で行われていた幅広い農業教育活動は,ストレスコントロール力を除く社会人基礎力の各要素をバランス良く育成することにつながっていると考えられた.以上のことから,高等学校における農業教育により社会人基礎力を育成できることが示唆された.

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