秋田県果樹試験場天王分場で1991~1998年に交雑された正逆交雑を区別した24家系の各6つの子(合計144の子)の成熟期を解析した.子については2006~2009年の4年間の内,いずれか1年の収穫日を評価データとした.それらのデータは,場内で栽培している17品種(各1樹)の6年間のデータを用いて年次補正し,解析に供した.その結果,平均親値をX,子の家系平均値をYFとすると有意な回帰式(YF = 0.8072X + 0.8899)が得られ,子の家系平均値は,ほぼ平均親値で説明できた.この回帰式と平均親値から得られる予測値と実測値を比較したところ,ほぼ一致し,育種計画を立案するうえで有効と考えられた.
次に,親の値から子の家系平均値をこの回帰式で予測し,それを平均値として子の遺伝子型値が家系内遺伝分散と回帰では説明できない分散の和で正規分布するモデルにより早生の子の出現率を推定した.天王分場で植栽されているニホンナシのうち,最も平均親値が小さくなる家系の組合せから(平均親値スコア2.7),8月中旬および下旬より早く成熟する子がそれぞれ約7%,46%出現すると推定された.
本検討の結果から‘幸水’ より成熟期が早い子を育成するためには,①成熟期の平均親値がなるべく小さくかつ近交係数が小さい親の組合せを選択する短期的視点と②交雑すると子の成熟期が早くなる性質に着目し,育成・選抜を短縮する手段を講じながら,世代を経ながら漸進的に改良を進めるという長期的視点の双方が必要と考えられた.
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