園芸学研究
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22 巻, 1 号
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総説
  • 杉浦 実
    2023 年 22 巻 1 号 p. 1-10
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/03/31
    ジャーナル フリー

    β-クリプトキサンチンは日本のミカンに特徴的に多く含まれるカロテノイド色素であり,近年,様々な生体調節機能が明らかにされてきた.一方,2015年4月より,消費者庁において「機能性表示食品制度」が始まった.本制度ではミカンなどの生鮮物にもその科学的根拠を示せれば事業者の責任で機能表示が可能になり,今後,生鮮物消費拡大のための大きな起爆剤になることが期待される.本稿では,これまで明らかになったβ-クリプトキサンチンの機能性研究の成果を紹介するとともに,機能性表示が可能になったその科学的根拠や機能性表示食品として届出するために必要な事項,また現在,生鮮農産物で機能性表示を行うに当たって問題となっていることについて解説する.

原著論文
育種・遺伝資源
  • 椿 信一, 篠田 光江
    2023 年 22 巻 1 号 p. 11-18
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/03/31
    ジャーナル フリー

    我が国に産する辛味ダイコン11品種中10品種は,一般的な青首ダイコンと比較して,搾汁液中のイソチオシアネート含量が多く,強い辛味が感じられた.葉片の形状や,根形,根色は変化に富み,一定の傾向は認められなかったが,小型で水分含量が少なく,硬度,Brix値が高く,スクロース含量が高いといった諸特性から,いずれの辛味ダイコンも北支系ダイコンに属すると考えられた.

    供試品種の搾汁液当たりのイソチオシアネート含量は ‘京都薬味’ が最も多く,ハマダイコン系3品種も多い値を示した.乾物率とイソチオシアネート含量の間には強い正の相関が認められ,水分含量が少ない品種ほどイソチオシアネート含量が多い傾向が見られた.

    糖組成は品種間差が大きく,‘松館しぼり’ 各系統とハマダイコン系が糖組成におけるスクロースの割合が高かった.糖組成の違いは品種の類縁関係を示す指標として活用できる可能性が示唆された.

栽培管理・作型
  • 間合 絵里, 滝澤 理仁, 池田 知司, 中﨑 鉄也, 土井 元章, 北島 宣
    2023 年 22 巻 1 号 p. 19-26
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/03/31
    ジャーナル フリー

    本研究では,光透過性を有する有機薄膜型太陽電池(OPV)の設置がトマトの生育と果実生産に及ぼす影響を明らかにすることを目的とし,OPVを設置した温室(OPV温室)と設置していない温室(対照温室)でトマトの果実の収量と品質,植物体の生育量および光合成関連形質を調査した.調査は秋冬栽培と春夏栽培で実施し,秋冬栽培では86台,春夏栽培では106台のOPVパネルをそれぞれOPV温室内側に設置した.秋冬栽培と春夏栽培の両方でOPV温室内の日射量は対照温室に比べ減少した.両栽培において収量では対照温室とOPV温室の間に有意な差は認められなかったものの,OPV温室の果実乾物重は日射量の少ない秋冬栽培で対照温室に比べ23%減少した.また,秋冬栽培と春夏栽培で両温室の植物体の生育量と光合成関連形質を調査した結果,光合成関連形質は両栽培においてOPV温室でほぼ同様に低下したのに対し,植物体の生育量は果実乾物重と同様に秋冬栽培で大きく減少した.これらの結果より,OPVパネルの設置が果実乾物重と植物体に及ぼす影響は特に日射量の少ない時期で大きくなることが明らかとなった.また,本研究に用いたOPVパネルの性能では,OPVパネルの設置は収入を減少させ,特に秋冬栽培で大きな減収となった.これらの結果から,OPVパネルを用いたトマト栽培のソーラーシェアリングでは,日射量の少ない時期はパネルをはずし,日射量の多い時期にパネルを設置することが有効であると考えられた.

  • 大石 涼花, 宮本 菜々子, 田口 巧, 元木 悟
    2023 年 22 巻 1 号 p. 27-34
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/03/31
    ジャーナル フリー

    機能性成分を豊富に含む食品が,近年注目されている.ヒユ科のビート(Beta vulgaris L.)は,抗酸化成分であるベタレイン色素を豊富に含み,機能性野菜として今後需要が高まると見込まれる.多胚種子のビートは,1粒の種子から多数出芽するため,間引きを行う場合がある.そこで本研究では,春播きのレッドビートにおいて間引き作業の有効性を検討するため,収穫時期および出芽本数の違いが肥大根と地上部の収量,形態および品質に及ぼす影響を調査した.その結果,レッドビートは,同一の栽培期間において,マルチ穴1穴当たりの出芽本数が少ない区ほど,1個体当たりの生育が大きかったものの,肥大根総収量には影響を及ぼさなかった.乾物重100 g当たりのベタレイン含量の値は,マルチ穴1穴当たりの出芽本数が多い適期4本以上区が他区に比べて有意に値が高かった.そのため,レッドビートのマルチ穴1穴当たりの出芽本数は,形態および品質に影響を与えることが明らかとなった.さらに,バイオマスを考慮すると,10 a当たりのベタレイン生産量の推定値は,過熟期3本区が他区に比べて有意に値が高く,ベタレインを最も効率的に得ることができると考える.レッドビートの利用目的に応じ,青果物や加工食品の原料などとして収穫する個体の大きさを重視する場合は多く間引き,化粧品や医薬品の原料などとしてベタレイン含量を重視する場合は少なく間引くことにより,肥大根の大きさおよびベタレイン含量を同じ栽培期間で調節できる.

  • 加藤 智恵美, 勝岡 弘幸, 馬場 富二夫, 稲葉 善太郎
    2023 年 22 巻 1 号 p. 35-44
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/03/31
    ジャーナル フリー

    スタンダードカーネーション ‘ムーンライト’ およびスプレーカーネーション ‘チェリーテッシノ’ の6月定植作型において,一次摘心後から栽培終了まで赤色LEDと遠赤色LEDを終夜処理と16 hr処理を行い,生育および開花に及ぼす影響を検討した.遠赤色LED照射および赤色LED照射ともに開花促進効果は得られた.波長間では遠赤色LEDが赤色LEDより,処理時間では終夜処理が16 hr処理より効果が高かった.切り花品質では,遠赤色LED照射は,年内の切り花で軟弱花の発生やスプレーカーネーション ‘チェリーテッシノ’ の一次花らい数減少が見られた.冬春切り作型の切り花カーネーション栽培において赤色LED照射を用いることで,品質を低下させることなく開花促進を図ることができると示唆された.

  • 元木 悟, 鈴木 海斗, 石垣 健太, 田口 巧
    2023 年 22 巻 1 号 p. 45-54
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/03/31
    ジャーナル フリー

    アスパラガスの1年養成株全収穫栽培法(以下,採りっきり栽培)は,通常の栽培に比べて栽培期間が短く,圃場を長期間占有しない.採りっきり栽培では,定植翌年の5あるいは6月末に収穫を終えることから,その後の後作の検討が必要になる.本研究では,アスパラガスの新栽培法である採りっきり栽培を収益性が高い輪作作物の1品目として新たに導入することを目的に,採りっきり栽培の収穫終了後の圃場において土壌化学性およびアレロパシー活性を評価するとともに,アスパラガスの採りっきり栽培の収穫終了後に,前作のアスパラガスの畝および通路に数種の後作物を栽培し,それらの生育および収量を調査した.その結果,アスパラガスの採りっきり栽培の収穫終了後の土壌化学性およびアレロパシー活性は,それぞれの後作物の栽培に対する影響が小さかった.また,それぞれの後作物の収量は,前作のアスパラガスの畝と通路が同等であり,ミニトマトを除く後作物では,全国平均収量と同等であった.そのため,アスパラガスの採りっきり栽培の後作では,後作物として導入する品目の作型に合えば,どの品目でも栽培が可能である.

  • 羽山 裕子, 阪本 大輔, 山根 崇嘉, 三谷 宣仁, 杉山 洋行, 草塲 新之助
    2023 年 22 巻 1 号 p. 55-61
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/03/31
    ジャーナル フリー

    早期多収で機械化にも適応できるTaturaトレリス樹形を参考にしたV字仕立てのニホンナシ ‘豊水’ において,主枝数および着果量が初期収量および果実品質に及ぼす影響を明らかにした.2本主枝および4本主枝は定植3年目に,6本主枝は定植4年目に樹冠が完成し,いずれの主枝数においても主枝当たり12果を着果させることで定植3年目には3 t・10 a–1以上の収量が得られた.収量は着果量が多いほど多かったが,果実品質は着果量が多いほど果実が小さく,糖度が低くなる傾向であった.また,果実重はいずれの主枝数・着果量区においても平棚仕立ての同樹齢樹や成木樹に比べて小さくなり,糖度は中着果区(主枝当たり12果)で平棚仕立ての成木樹と同等であった.着果位置については,高い位置の果実で収穫が早くなり,果実が小さい傾向であった.定植5年目までのV字仕立てのニホンナシ ‘豊水’ について検討した結果,早期の収量性と果実品質の観点から,主枝数は4本主枝,着果量は主枝当たり12果程度が適していると考えられた.

  • 山崎 いづみ, 松野 由莉, 村濱 稔, 西尾 健志, 和田 舜哉, 安川 大地, 永野 紳一郎
    2023 年 22 巻 1 号 p. 63-69
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/03/31
    ジャーナル フリー

    低軒高(2 m以下)単棟の園芸用パイプハウスを対象にCFD(computational fluid dynamics)解析を用い,トマトの植栽の影響を考慮したモデルを作成して,内部環境の再現を試みた.その結果,解析値と実測値に差があるものの,有風時・無風時それぞれにおける内気の温度変化を捉えることができた.次にこのモデルを利用し,天窓開口比率と排熱効果の関係を検討した.その結果,無風時・有風時を問わず,開口面積比率が小さいほどハウス内に多くの熱が滞留する傾向がみられ,開口面積比率が大きい方が,排熱効果が高いと判断できた.しかし,ハウス床面積に対する開口面積比率が12~16%では大きく変わらなかった.これより,同様の概形をもつハウスにおいて,ハウス床面積に対して天窓の開口面積比率を12%とすると排熱に効果的であることが示された.

  • 西沢 隆, 二階堂 勝, 濵谷 希人, 副島 隆志, 田中 美順, 長谷 修
    2023 年 22 巻 1 号 p. 71-78
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/03/31
    ジャーナル フリー

    微酸性電解水の通風気化がキュウリの成長とうどんこ病抑制に及ぼす影響を調べた.毎日夕方6:00~翌朝6:00の夜間12時間,一定のサイクルで通風気化を繰り返すことにより,作物への過剰な水分の付着を防ぎ,自動化による省力化が可能となった.通風気化はうどんこ病の病徴拡大を抑制したが,10分間気化/20分間休止を繰り返すと,葉や果実に生理障害が発生した.10分間気化/110分間休止では,十分なうどんこ病抑制効果が得られなかった.10分間気化/50分間休止の場合,生理障害は抑制できたが,長期間通風気化を続けると,葉の成長が阻害された.また,一度うどんこ病が発症すると,その後に通風気化を続けても病徴の拡大を抑制することは困難であった.一方,16葉期まで化学農薬を使用した後に10分間気化/50分間休止を行うと,うどんこ病の発症と病徴の拡大が大きく抑制され,葉の成長阻害も少なかった.従って,育苗期は化学農薬などによりうどんこ病の発症を防ぎ,株が十分成長して収穫期になった頃から通風気化を行うことで,化学農薬の使用削減とうどんこ病の発症抑制効果が期待できる.

発育制御
  • 西川 芙美恵, 深町 浩
    2023 年 22 巻 1 号 p. 79-87
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/03/31
    ジャーナル フリー

    本研究では,カンキツ7品種(‘青島温州’,‘不知火’,‘せとか’,‘はれひめ’,‘西南のひかり’,‘津之輝’ および ‘麗紅’)を用いて,結果母枝の形質と着花性との関連を2年間調査した.その結果,結果母枝の形質(長さ,太さおよび角度)と発芽数,発育枝数および花数との間には,相関係数の絶対値が0.7以上の強い相関は認められなかった.結果母枝の形質を説明変数にして節当たり総花数(直花数と有葉花数の合計)に関する決定木分析を行った結果,‘青島温州’では細い結果母枝で,‘麗紅’ では太い結果母枝で総花数が多かった.‘不知火’,‘はれひめ’,‘西南のひかり’ および ‘津之輝’ では,長い結果母枝で節当たり総花数が多かった.‘せとか’では,一定の範囲の長さにある結果母枝で総花数が多かった.直花数に関する決定木において,‘青島温州’ および ‘せとか’ では短い結果母枝で,‘はれひめ’ および ‘西南のひかり’ では長い結果母枝で直花数が多かった.一方,‘不知火’ および ‘麗紅’ では細い結果母枝で直花数が多く,‘津之輝’ では,下向きの結果母枝で直花数が多かった.‘青島温州’,‘不知火’,‘せとか’ および ‘津之輝’ における有葉花数に関する決定木では,長い結果母枝で有葉花数が多かった.一方,‘はれひめ’,‘西南のひかり’ および ‘麗紅’ では,太い結果母枝で有葉花数が多かった.

収穫後の貯蔵流通
  • 浜部 直哉, 馬場 明子, 宗野 有雅, 池ヶ谷 篤, 大場 聖司, 種石 始弘, 馬場 富二夫, 野田 勝二
    2023 年 22 巻 1 号 p. 89-97
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/03/31
    ジャーナル フリー

    伊豆在来ヒュウガナツの枝変わり品種で,無核性を有する ‘古山ニューサマー’ について,近赤外分光法による種子数の予測精度を検証した.二次微分処理後における730~970 nmのスペクトルから糖度,完全種子数,全種子数,完全種子重,全種子重予測用の検量線を作成し,検量線の精度を評価したところ,完全種子重を除く4つの測定項目で高い精度であると評価された.また,全種子数5個以下を少核果,6個以上を多核果とみなし,予測値と実測値から正解および不正解率を算出したところ,検量線評価試料に種子数5個ないし6個の境界値付近の果実が少ない状況ではあったものの,正解率は92.0%と高く,消費者からのクレームにつながると考えられる種子数が多い果実を種子数が少ない果実であると予測する不正解は認められなかった.5つの異なる果実部位に照射して得られたスペクトルで作成された検量線の精度は少し高いと評価され,不正解がわずかに認められたものの,実用上,大きな問題になる可能性は低いと考えられた.また,採取年次が異なる3か年分の果実で検量線の作成と評価を行ったところ,検量線作成試料に全種子数が最も多い2020年産と最も少ない2018年産を用いた場合の検量線において高い精度であると評価され,無核果から多核果までの幅広い検量線作成試料を用いることで,種子数の予測精度を高められると考えられた.以上から,無核,少核の ‘古山ニューサマー’ を安定的に供給するための選果技術として,近赤外分光法を利用可能であることが明らかになった.

  • 鈴木 哲也, 秋元 秀美, 新川 猛, 杉浦 真由, 櫻井 直樹
    2023 年 22 巻 1 号 p. 99-107
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/03/31
    ジャーナル フリー

    天秤型食感測定装置によりカキ果実のサクサク感の程度を定量評価した.サクサク感を有する品種として ‘太秋’,‘ねおスイート’,‘麗玉’,サクサク感のない品種として ‘前川次郎’,‘松本早生富有’,‘新秋’,‘甘秋’ の7品種を供試した.横振動のエネルギー食感値とサクサク感の官能評点との間には中周波数帯域を中心に正の有意な相関が認められた.しかし,果肉硬度の影響を受け,サクサク感を評価するには精度がやや低かった.そこで,弾性指標,硬さの官能評点と相関のある縦振動で横振動を除した振動比(横振動/縦振動)について検討したところ,周波数帯域3,200~4,480 Hzおよび4,480~6,400 Hzにおける振動比(横振動/縦振動)で品種ごとのサクサク感の程度を評価できることが明らかになった.また,食品摩擦係数は弾性指標,硬さの官能評点と有意な正の高い相関が認められたため,カキ果実では果肉硬度を評価すると考えられた.このことから,天秤型食感測定装置は1回のプローブ貫入でサクサク感と果肉硬度を同時に測定できることが明らかになった.さらに,食品摩擦係数を横軸,振動比を縦軸にしてカキ品種をプロットすると,果実の肉質特性を分類することができた.

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