国際保健医療
Online ISSN : 2436-7559
Print ISSN : 0917-6543
31 巻, 4 号
選択された号の論文の12件中1~12を表示しています
兵井伸行先生追悼文
原著
  • 今村 尚美, 池田 正人, 喜多 悦子
    2016 年 31 巻 4 号 p. 277-288
    発行日: 2016/12/20
    公開日: 2017/01/23
    ジャーナル フリー

    目的

      1983年より2009年迄26年間続いた武力紛争は民族抗争が根底にあり、テロや外国の軍事介入をも含まれ泥沼化した。生活は破壊され、子どもの健康と発育は大きく阻害されたと考えられる。

      研究目的は、長年内戦が継続していたスリランカの紛争地の子どもの健康に対する武力紛争の影響を調査し、保健医療施策に資することである。

    方法

      対象地域は、スリランカ国東部州トリンコマレ県11郡中、最大紛争被害を受けたと考えられる郡と、紛争被害が微少と考えられる郡の各1郡とした。その内第8・9学年を有する公立学校(日本の中学相当)を、高被害地域と低被害地域から各々5校、合計10校を選んだ。

      対象者は、各校第8・9学年1クラスずつを選択し、各クラスから満12歳以上の20名を抽出した400人である。

      調査方法は、まず英文質問票を作成し、現地研究協力者と現地専門翻訳者がタミル語とした。質問票を回収後、タミル語の回答は前述の協力者と翻訳者に英訳を依頼した。期間は2009年7月5日から7月31日に行った。

      解析方法は、体重、身長とBMIの平均値の地域間比較、 精神的健康では、GHQ-12の回答を数値化し因子分析を行い、抽出した因子の平均値の地域間比較、社会環境では2地域の各種要因の頻度比較を行い、検定は各々F検定、t検定、カイ二乗検定を使用した。本研究は、日本赤十字九州国際看護大学の研究倫理審査委員会の承認を得た。

    結果

      体重・身長・BMIの平均値について、紛争被害「高」地域の平均値は、被害「低」地域の平均値より小さく、各差は2.5kg、1.4cm、0.8で、全てに有意差を認めた。

      また、被害「高」地域の既往疾患は、感染症、風土病の経験が被害「低」地域よりも有意に高かった。

      地域別精神健康の特徴では、GHQ-12の因子分析で4因子を得たが、「緊張と不安を伴ったうつ状態」は両地域間で有意差はなかった。

      紛争直後の社会環境では、食糧の確保可能の割合は被害「高」地域で有意に高く、その他に両地域の差はみられない。また子どものサポート環境が良いことがみられる。

    結論

      武力紛争地の青年前期の子どもは、紛争の影響を受けると身体的健康では低体重・低身長が表れ、感染症や衛生環境に関連する疾病に罹患しやすい。紛争地での介入には、学童期から青年前期の子どもの成長・発達を考慮して、身体計測や食糧配給の充実が重要であると考える。

  • 笹川 恵美, ラタビー トゥン, 堀越 洋一, 竹原 健二, 野口 真貴子, 江上 由里子, 小山内 泰代, 北 潔, 三砂 ちづる, 松井 ...
    2016 年 31 巻 4 号 p. 289-298
    発行日: 2016/12/20
    公開日: 2017/01/23
    ジャーナル フリー

    目的

      本研究は、カンボジアにおいて医師・助産師がオキシトシンをどのように捉え、利用しているかを、国家産科プロトコールのオキシトシン使用基準と比較し、knowledge(知識)、attitude(態度)、practice(実践)の観点から把握することを目的としている。

    方法

      カンボジアの首都プノンペンにある国立の産科病院において、直接観察と個別インタビューによる質的研究を2013年1~2月に実施した。直接観察はオキシトシンを用いて陣痛誘発・促進された産婦を対象とし、オキシトシン使用開始から分娩終了までの観察を通じて、陣痛誘発・促進の適応や産婦の分娩経過、医師・助産師のオキシトシン使用管理方法を確認した。個別インタビューは、直接観察で得られた情報を補完し、医療従事者のオキシトシンの捉え方、意思決定プロセス、使用管理に関する知識を確認するため、分娩を担当した医師・助産師を対象に行った。

      結果

      調査期間中、産婦10名の分娩経過を直接観察し、医師3名、助産師9名に対して個別インタビューを行った。陣痛誘発・促進開始の判断根拠となった医療従事者の知識は、10名中9名の産婦に対して妥当性があると評価できた。しかし、陣痛誘発・促進のためのオキシトシン使用管理については、国家産科プロトコールと医療従事者の知識・態度・実践との間に相違が見られた。例えば、医療従事者12名のうち、11名が陣痛誘発・促進方法について記載されている国家産科プロトコールを見たことがなく、正しい知識へのアクセスが限られていることが明らかとなった。また、分娩進行効果が認められる有効陣痛が発来している状態においても、「子宮口全開大後には点滴を増量しても問題ない」という誤った認識が広がっていることも分かった。臨床においては、オキシトシン点滴静脈注射の初回投与量は統一されておらず、最大投与量(安全限界)を越えた過剰投与も確認された。また、6名の産婦に対し、オキシトシン点滴開始後2時間以上、モニタリングがなされていなかった。

    結論

      本調査を通じ、陣痛誘発・促進を目的としたオキシトシン点滴管理に関する国家産科プロトコールと、医療従事者の知識・態度・実際の使用方法との間に大きなギャップが確認された。出産の安全性を確保し、治療効果を最大限とするために、国家産科プロトコールの普及とオキシトシン管理に関する研修の充実の必要性が示唆された。

資料
  • 高橋 亮, 清野 純子, 造田 亮子
    2016 年 31 巻 4 号 p. 299-307
    発行日: 2016/12/20
    公開日: 2017/01/23
    ジャーナル フリー

    目的

      本研究は、インドネシア人看護師候補者が日本国内の病院において行っている組織市民行動を明らかにすることを目的に行った。

    方法

      日本国内の医療機関に勤務する13名のインドネシア人看護師候補者を対象に半構造化面接法を用いて調査を行った。分析は、回答内容をコード化し、カテゴリーを抽出した。

    結果および考察

      インドネシア人看護師候補者が日本国内の病院において行っていると考えられる「組織市民行動」の行動内容は、日本国内の医療機関では「看護ケアに関する支援」「職場環境の整備」「看護業務の準備」「物品・器械等の管理」であった。一方、インドネシアの病院では、上記の内容に加えて「スタッフへの教育・指導」、「看護業務の準備」が挙がった。インドネシア看護師候補者が行っている日本での組織市民行動は、インドネシアで行われていることと共通していたが、「看護師」として従事していないことにより限定的な内容であった。今後は、看護師となることによる業務の拡大だけでなく、その後も日本人看護師と同じ雇用環境で働き続けることが、組織市民行動を引き出すのに重要であると考えられる。

  • 野村 真利香, 三浦 宏子, 石川 みどり
    2016 年 31 巻 4 号 p. 309-321
    発行日: 2016/12/20
    公開日: 2017/01/23
    ジャーナル フリー

      太平洋島嶼国では、途上国に共通する母子保健や感染性疾患などの伝統的保健課題に加え、肥満や糖尿病などの非感染性疾患(Noncommunicable diseases: NCDs)の増加が深刻な問題となっている。同地域では、非感染性疾患による死亡が80%を占め、特に70歳未満の早期死亡の増加が懸念されていることに加え、NCDs対策にかかる費用が政府財政を圧迫していることも指摘されており、NCDs対策に耐えうる保健システム強化も喫緊課題である。しかし太平洋島嶼国のNCDsの現状については、その統計も含め、日本の国際保健医療協力において取り上げられることはまだ少ない。そこで本稿は、世界的なNCDsの現状と世界保健機関(World Health Organization: WHO)による取組みを踏まえて、太平洋島嶼国のNCDsの現状と取組みを包括的に解説した。同地域を示す呼称として本稿では「太平洋島嶼国」を採用し、日本の二国間協力の対象となっている10ヵ国(サモア、ソロモン、トンガ、バヌアツ、パプアニューギニア、パラオ、フィジー、キリバス、マーシャル、ミクロネシア)を中心に保健指標を活用して疾病構造を確認し、その後、太平洋島嶼国における取組みについて考察した。その結果、太平洋島嶼国におけるNCDs対策はいち早く開始され、かつWHO戦略に呼応するようにして積極的に実施してきたにもかかわらず、NCDs有病状況には改善がみられていない傾向があった。今後、太平洋島嶼国におけるNCDs対策を進めていくためには、地域特有の島嶼性を考慮した十分な現状分析・考察と人材育成、そして地域戦略との十分な整合性に基づいたローカルな成功事例の積み重ねが必要と考えられた。

  • 橋村 愛, 大西 真由美
    2016 年 31 巻 4 号 p. 323-332
    発行日: 2016/12/20
    公開日: 2017/01/23
    ジャーナル フリー

    目的

      長崎県内で生殖年齢にある外国人女性が多く居住する長崎市および佐世保市の周産期ケアに携わる看護職が考える「外国人への周産期ケアコミュニケーション能力」として必要な要素を抽出することを目的とした。

    方法

      長崎市および佐世保市の分娩取扱い医療機関全25施設のうち、調査協力への承諾が得られた長崎市6施設、佐世保市4施設の計10施設に勤務する、周産期ケアに携わる看護職207人を対象に、郵送法による無記名自記式質問紙調査を実施した。質問紙は個人属性、海外・外国人関連項目(英会話能力、海外滞在・渡航経験、異文化学習経験、外国人患者ケア経験、外国人妊産褥婦ケア経験)、および独自に作成した38項目から成る「外国人への周産期ケアコミュニケーション能力」に関する質問から構成した。38項目は「全く必要でない」「あまり必要でない」「やや必要」「とても必要」の4件法で回答を求め、順に1点から4点と点数化した上で因子分析を行った。

    結果

      10施設207人の看護職を本研究対象とし、141人から回答済み質問紙が返送され(返送率68.1%)、そのうち有効回答が得られた120人を分析対象とした(有効回答率58.0%)。外国人妊産褥婦ケア経験のある者は120人中111人(92.5%)であった。長崎市内施設看護職では中国出身、佐世保市内施設看護職では中国または米国出身の外国人妊産褥婦へのケア経験があると回答した者がそれぞれ8割を超えた。「外国人への周産期ケアコミュニケーション能力」に対する必要性の認識では38項目中36項目の平均得点が3.0以上であった。平均得点が3.0を下回った2項目を除く36項目で因子分析を行い、さらに因子負荷量の絶対値の基準0.4以下であった3項目を除外した上で再度因子分析を行った。その結果、「異文化理解」「資源活用」「問題解決」「異文化尊重」「情報伝達」「非言語コミュニケーション」「自文化理解」「分娩期対応準備」の8要素が抽出された。

    結論

      長崎市および佐世保市の周産期ケアに携わる看護職は、「外国人への周産期ケアコミュニケーション能力」として、「異文化理解」「資源活用」「問題解決」「異文化尊重」「情報伝達」「非言語コミュニケーション」「自文化理解」「分娩期対応準備」の8の要素の必要性を認識していた。

  • 須藤 恭子, 樋口 まち子
    2016 年 31 巻 4 号 p. 333-345
    発行日: 2016/12/20
    公開日: 2017/01/23
    ジャーナル フリー

    目的

      本研究は、国際看護学実習前後で学生の意識を比較し、看護基礎教育における国際看護学実習の意義および国際看護学実習の教育効果を検討することを目的とした。

    方法

      途上国で実施する実習を含む国際看護学実習を必修科目とする国立看護大学校の4年生を対象に、2012年から3年間、国際看護学実習前後で無記名自記式質問紙調査を実施した。数量データは統計的手法により、記述データは質的分析方法により分析した。

    結果

      実習前191部(有効回答率67.0%)、実習後81部(有効回答率28.4%)の回答を得た。国際看護に興味がある学生は、前104名(54.5%)後48名(59.3%)で、国際看護学実習は将来の自身の看護活動に有益であると考える学生は前168名(88.0%)後69名(85.2%)だった。実習前後の比較では、国際看護についての意識のうち、社会や文化の多様性・特殊性は健康に影響、日本の保健医療と看護の現状理解、世界の保健医療と看護の現状理解、社会や文化の違いは看護に影響が実習後に有意に高くなった。国外実習についての意識の実習前期待感と実習後達成感のうち、文化の違いが看護に与える影響を考える、日本ではできない経験ができる、実習国の学生や教員と関係を深めるが有意に高くなった。また、不安感は有意差のあったすべての項目で低くなった。準備性では語学(英語)学習が有意に高くなった。国際看護学実習の将来の自身の看護活動への有益性は、実習前後で有意差はなかった。有益だと思う理由として、実習前6カテゴリー、実習後5カテゴリーが抽出された。«自己の内面的な成長»«国際性の醸成»«看護観の形成»«国内の国際化への準備»の4カテゴリーは、実習前後で共通していた。実習後の将来の自身の看護活動への有益性には、国際医療協力の実践希望、国外実習の達成感と有意義感が有意に影響していた。

    結論

      本研究から、国際看護学実習は、看護基礎教育における効果的な教育方法のひとつで、また、国際的な看護人材の育成における意義も示唆された。教育効果を高めるためには、特に国外実習についてのより具体的な情報の提供による学生の準備性の向上が必要である。

シンポジウム報告
会員の声
地方会報告
第31回日本国際保健医療学会学術大会 ベスト口演賞、ベストポスター賞報告
feedback
Top