国際保健医療
Online ISSN : 2436-7559
Print ISSN : 0917-6543
34 巻, 1 号
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梅内拓生先生追悼文
研究報告
  • 市川 暢恵, 上杉 裕子
    2019 年34 巻1 号 p. 3-11
    発行日: 2019/03/20
    公開日: 2019/04/05
    ジャーナル フリー

    目的

      本研究は、二国間経済連携協定(EPA)に基づき外国人看護師候補者として来日したインドネシア人看護師と日本人看護師の「看護師が看護問題を解決しようとする行動の違い」を明らかにすることを目的とした。

    方法

      インドネシア人看護師の受入れ実績のある病院で研究協力の同意の得られた9施設に質問紙を郵送し、インドネシア人看護師と彼らと働く日本人看護師を対象として質問紙調査を行った。質問紙の内容は看護師が看護問題に対応する行動の質を測定する「看護問題対応行動自己評価尺度」を用いた。

    結果と考察

      インドネシア人看護師17名(男性8名、女性9名、平均年齢30.6歳)と日本人看護師50名の有効回答が得られた。インドネシア人看護師のうち看護師国家試験に合格していない者(以下未合格者)は9名、合格している者(以下合格者)は8名であった。看護問題対応行動自己評価尺度下位尺度得点の比較では合格者・未合格者および日本人看護師に有意差は認められなかった。インドネシア人看護師の臨床経験年数が10年以下であったため、合格者・未合格者および日本人看護師の臨床経験年数10年以下(22名)を選択し比較したところ、未合格者が臨床経験年数10年以下の日本人看護師に比べ、看護援助についての患者及び家族への説明や援助関係構築に関する設問「問題解決に向けた相互行為の円滑化」が有意に低かった(p=0.01:Wilcoxon順位和検定;Bonferroni法)。日本の看護実践には日常生活の援助が多いが、インドネシアでは日常生活の援助は患者の家族によって行われることが多く、未合格者は日本の看護実践の認識を母国のものと統合させるプロセスの途中にあるため、看護師が対象者に日常生活援助内容の意向を確認する認識が低いことが示唆された。

    結論

      「問題解決に向けた相互行為の円滑化」は未合格者が有意に低かった。未合格者には「看護師が患者の意見を取り入れた看護計画を立案し実施することの重要性」を理解し、実践するための教育が必要である。

  • 松本 佳久, 高山 義浩, 後藤 伸, 橋川 拓郎, 長田 優衣, 吉武 秀展, 坂井 英生, 中川 摂子, 高橋 研二
    2019 年34 巻1 号 p. 13-18
    発行日: 2019/03/20
    公開日: 2019/04/05
    ジャーナル フリー

    目的

      日本を訪れる外国人旅行者は、2018年度で3000万人超が予想されており、増加傾向にある。この訪日外国人旅行者の1.5%が訪日旅行中に怪我・病気になり、医療機関を受診する必要性を感じている。しかし、訪日外国人旅行者の27%が保険に未加入とされる。我々は、保険未加入の外国人旅行者が脳梗塞を発症し、経済的な問題が診療に影響を与えた事例を経験したので、報告を行う。

    症例

      40代男性、東南アジアより、日本在住の親族を訪問中であった。突然の片麻痺を主体とする症状が発生し、病院受診となった。診察の結果、急性期脳梗塞と考えられ、対応を行った。その後、患者が保険未加入であること、親族も医療費支払は難しい状況であることが判明した。また、経済的な援助も見込めない状況であった。医療費を含めて診療内容について相談を行い、外来診療を継続して早期帰国を目指した。

    考察

      保険未加入の外国人が日本滞在中に外傷や疾病に見舞われることがある。支払い能力の有無によらず適切な医療を提供すべきであるが、その結果として高額の医療費負担が生じ、患者本人や家族を困窮させることがないように配慮すべきである。利用できる制度がないか検索することや、医療費を含め診療内容について検討を行う必要がある。また、母国での医療につなげられるように長期的で継続的な診療をめざす必要がある。

    結論

      保険未加入の外国人旅行者に脳梗塞に伴う症状が認められた。医療費や長期的な方向性を含め、相談を行いながら診療を行った。医療機関ごとの対応には限界があり、全国的な事例集積や具体的な対応方法についての相談先の整備が必要と考えられる。

資料
  • Yuichi Kodaira, Takaharu Ikeda, Yasuhiko Kamiya, Naoe Sato, Yuko Otomo ...
    2019 年34 巻1 号 p. 19-25
    発行日: 2019/03/20
    公開日: 2019/04/05
    ジャーナル フリー

    Objective

      Preterm birth is the major cause for neonatal deaths in low and middle income countries. The aim of this report is to evaluate the proportions of deaths of moderate to late preterm infants born at 32 to 36 weeks of gestations as well as the neonates with low birth weights weighing from 1500g to 2499g among the total neonatal deaths and analyze their causes of deaths in Lempira province, the Republic of Honduras.

    Study design

      A secondary analysis based on the data sets from the regional office of Ministry of Health.

    Methods

      We obtained data sets on infant mortality from January 2015 to June 2017 compiled by a regional office of Ministry of Health in Lempira province. We then calculated proportions of each cause of death in the groups of newborn infants stratified by gestational weeks and birth weights.

    Results

      During the study period, a total of 253 neonatal deaths were recorded, comprising 66.9% of the total infant deaths (n=378). The number of the newborn infants who died during early neonatal period was 201 (79.4%). The number of preterm newborn infants who died during neonatal period was 146 (57.7%) and 70 (27.6%) were born at moderate to late preterm periods. 103 (40.7%) were born with their birth-weights below 2500g, and the number of those weighing from 1500g to 2499g were 61 (24.1%). The leading cause of deaths of moderate to late preterm infants was hyaline membrane disease (n=25/48: 52.1%), as was the case with low birth weight infants weighing from 1500g to 2499g.

    Conclusion

      It was shown that approximately one fourths of neonatal deaths occurred in moderate to late preterm infants in Lempira province during the study period. Approximately half of these preterm infants died of hyaline membrane disease, who could have been saved with simple and low-cost equipment such as bubble continuous positive airway pressure.

  • 野崎 威功真, 杉浦 康夫, 鎌田 光明
    2019 年34 巻1 号 p. 27-33
    発行日: 2019/03/20
    公開日: 2019/04/05
    ジャーナル フリー

      開発における官民連携のあり方は、大きく変化しており、国際保健分野において、日本も医療技術・サービスの国際展開における官民連携推進の取組を行っている。その事業スキームは、多岐にわたっており、効率的な事業実施の観点からは、その全体像を把握し、各事業の役割を明確化が必要となっていることから、WEB上に公開されている情報を中心に、2017年7月時点での事業展開に関する情報を収集し、各政策の特徴の比較を行った。各省庁による医療の国際展開のための官民連携推進の取り組みの一覧を作成し、外国人患者に日本の医療を日本で提供するインバウンドと、日本の医療機器や薬剤、医療技術や医療制度、サービスなどを海外に展開するアウトバンドの軸と、これらを推進するための拠点形成を支援する事業と、制度形成や人材育成、研究開発を支援する事業の分類で概念図を作成し、各事業の関係性を調べた。内閣官房、経済産業省、厚生労働省、外務省、国際協力機構など、異なる機関が実施する事業は、網羅的になってきており、特にアウトバウンド支援では、各事業の有機的な結びつきを強化し、適切な時期に適切な支援を行うことで、より大きな事業インパクトが期待できることから、対象国のニーズや技術やサービスの現地適合性を明らかにし、対象国ごとに事業枠組みを超えた戦略の必要性が明らかになった。公的資金を呼び水として、開発に民間資金を活用する上では、公的機関と民間部門では、投資行動を動機付けるものや求める結果が異なること、共通の行動基準が存在しないことなど、課題も明らかとなってきていることから、今後、こうした官民連携を強化していく上では、日本も指針を明確化していく必要がある。

学会報告
  • 奥村 順子, 井上 理咲子, 木村 和子, 富永 俊義, 明石 秀親
    2019 年34 巻1 号 p. 35-43
    発行日: 2019/03/20
    公開日: 2019/04/05
    ジャーナル フリー

      SDGsにおいて、ユニバーサルヘルスカバレージ(UHC)は保健医療分野の重要なターゲットの一つである。UHCにおいて保健医療サービスの提供は重要な要素で、サービス提供の中で医薬品はやはり重要な資源の一つである。

      今回、国際保健医療学会のシンポジウムにて、開発途上国を中心に、UHC実現に向けた薬剤に関する課題をレビューし、その課題解決に向け討論・考察を行ったので報告する。

      途上国において医薬品へのアクセスに関する問題は重要で、“全ての人々が、「必要とする医薬品」を、「適正価格」で入手し、「安全かつ効果的に使用」することが、いつでもできること”が必要である。

      実際にラオスで、首都の大病院(マホソット病院)や地方医療施設で医薬品リスト、使用量、購入並びに販売価格、流通について調査を行った。結果、大病院では神経系薬剤(麻酔薬を含む)の購入金額の割合が最大(29%)で、国内で高度な手術が受けられる病院は少なく、患者集中のためと考えられた。次いで消化管と代謝作用薬が14%。抗結核薬、ARV、抗マラリア薬、ワクチンはグローバルファンドやGAVI等から提供されるため購入金額に反映されず、抗感染症薬は13%であった。地方の郡病院では抗感染症薬が43%と最多で、上気道感染や消化器症状中心の診療のためと思われる。保健省は基準を設けて国内に流通する医薬品の質や価格の評価・安定化を図っているが、国民は民間薬局等で医師の診療なく医薬品を購入でき、医薬品の適正使用の観点から多くの課題が残る。

      医薬品の品質も重要で、流通業者や医療者、患者は不良品や偽造品であっても外装外形からそれを識別できない。例えば生活習慣病治療薬の一つオメプラゾールに関するカンボジアでの調査では、収集品の中に酸性条件や緩衝液中で溶出試験不適合が見つかった他、不適合品のカプセルのCT検査では、腸溶性皮膜が欠如した顆粒が散見された。カンボジアではその後、一部の医薬品の登録に溶出試験成績を要求するようになり、日本と同様な規制を始めた。

      途上国での適正な医薬品の供給のためには当該国当局による最低限の医薬品規制が必要であるが、規制当局・規制官のCapacityは人数的にも、個々の能力の点でも不十分である。各国がその薬事規制を国際的に調和させ、他国と規制協力するべく、規制官の人材育成を国際的に支援する必要がある。

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