国際保健医療
Online ISSN : 2436-7559
Print ISSN : 0917-6543
38 巻, 2 号
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総説
  • 佐藤 瑞花, 陳 三妹, 新福 洋子
    2023 年 38 巻 2 号 p. 29-41
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/06/23
    ジャーナル フリー

    目的

      エイズ孤児のメンタルヘルスに対する、より効果的な介入や支援方法を考察するため、エイズ孤児の多くが住むサハラ以南アフリカにおいて行われた研究の文献検討を通じて、エイズ孤児のメンタルヘルスに影響を与える要因を検討する。

    方法

      複数の医学データベース(医学中央雑誌Web版、PubMed)を用い、[エイズ孤児]および[サハラ以南アフリカ]等をキーワードとして、2010年以降に出版された文献を検索した。採択基準をすべて満たした9件の文献をレビューの対象とした。

    結果

      文献のレビューから、エイズ孤児のメンタルヘルスに影響を与える要因を偏見・差別・虐待・いじめなどの「社会文化・社会心理学的要因」、教育、貧困などの「物理的経済的要因」、家族・身近な人々に関する要因と学校との繋がりなどの「家族・コミュニティ的要因」の3つに分類した結果、以下の知見を得た。社会文化・社会心理学的要因に関しては、エイズ孤児は児童虐待や社会的差別、社会的スティグマの経験が多いこと、貧困を経験するエイズ孤児は家族からの差別の危険性があること、都市部に住むエイズ孤児はいじめを多く経験することが示された。家族・コミュニティ的要因については、親の喪失によってエイズ孤児自身が世帯主となることや環境が変化することで落ち込みや心配、恐怖、スティグマを経験する傾向があること、親の喪失により学業成績の低下や不十分なメンタルヘルスサービスを含むリソースアクセスの制限、心理社会的幸福の低下などエイズ孤児にとって不利な発達上の結果をもたらしていた。養育者からのケア不足や養育者の精神的健康も子どもの発達とメンタルヘルスなどに関連していることが示された。物理的経済的要因については、人間の尊厳や精神的安定につながるソーシャルサポートが、エイズ孤児の住む環境では著しく阻害されていた。エイズ孤児において特に、貧困が食糧不足や栄養失調、発育阻害と関連していることや、児童労働、女性の危険な性行為にもつながっていた。一方で、養育者や教師からのソーシャルサポートはエイズ孤児のメンタルヘルスにとって良い影響を与えていた。教育に関して、エイズ孤児は学校の中退率が高いが、学校とのつながりはメンタルヘルスに良い影響を与えていた。

    結論

      本研究で、エイズ孤児のメンタルヘルスの促進要因と阻害要因を明らかにした。特にソーシャルサポートの肯定的な影響は、サハラ以南アフリカにおけるエイズ孤児に対する効果的なメンタルヘルスケアプログラムの開発に寄与すると考える。これからのエイズ孤児の抱えるさまざまな問題に着目して多角的に検討する必要がある。

原著
  • 髙 知恵, 古山 美穂, 宮下 ルリ子, 渡邊 香織
    2023 年 38 巻 2 号 p. 43-52
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/06/23
    ジャーナル フリー

    目的

      日本および韓国では少子化が大きな課題となっており、在日コリアンの人口構成も同様に少子高齢化を示している。しかし、コリアタウンに居住する在日コリアンは日本人コミュニティに居住する在日コリアンに比べ、子どもの数が多いと言われている。地域での子育て支援として、人々の協調行動が活発化することで社会の効率性を高められるというソーシャル・キャピタル(以下、SC)が注目されている。本研究の目的は、コリアンコミュニティに居住する在日コリアン母親の家族形成と育児を支えるSCとその醸成について明らかにすることである。

    方法

      2019年4~7月、機縁法で得られたコリアンコミュニティに居住する在日コリアン母親10名を対象に、現在の家族形成に至った思い、育児を支えるSCなどについて半構成的面接を実施し、質的記述的に分析した。所属大学の研究倫理委員会の承認を得、対象者からは文書による同意を得た。

    結果

      『現在の家族形成に至った思い』として、12サブカテゴリー、3カテゴリーを、『育児を支えるSC』として、11サブカテゴリー、4カテゴリーを抽出した。コリアンコミュニティに居住する在日コリアン母親は、【子産み、子育てへの思案】をしながらも、【意識する結婚観】と【多子・家族形成への肯定的な思い】を抱きながら家族形成に至っており、【利用したくても利用しにいく家事育児支援】への不満足感はあるが、【安心と絆をうむコリアンコミュニティ】の中で【実質的にも精神的にも家事育児の支えとなる人たち】と【家事育児の一助となるサービス】を上手く活用することが、育児を支えるSCの醸成となっていた。

    結論

      コリアンコミュニティの共通する規範、価値観、理解を伴ったネットワークは長い年月を経ながら在日コリアン母親にとっての【安心と絆をうむコリアンコミュニティ】となっており、このようなSCの醸成が多子、育児を肯定的に捉え、家族形成を支えている可能性が示された。

  • 齊藤 翠, 上杉 裕子
    2023 年 38 巻 2 号 p. 53-64
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/06/23
    ジャーナル フリー

    目的

      在留外国人の増加、高齢化に伴い、今後訪問リハビリテーションで外国人対応を行う機会が増えることが予想される。本研究は、理学療法士(以下PT)が在留外国人高齢者に対して訪問リハビリテーション(以下訪問リハビリ)を実施する際に直面する困難を明らかにすることを目的とした。

    方法

      在留外国人高齢者への訪問リハビリを経験したPTを対象に、半構造化面接法を用いた質的記述的研究を実施した。

    結果

      研究対象者11名(男性9名、女性2名)、平均年齢39.3歳、平均PT経験年数13.7年であった。対応した在留外国人高齢者の出身国は、中国、韓国、台湾、インド、ベトナム、タイ、オーストラリア、アメリカ、イギリス、ドイツであった。分析の結果、PTが直面する困難として、10のカテゴリー【外国人高齢者とのリハビリ概念の違い】【ゴール設定の難しさ】【多言語支援の不足や支援に関する情報の入手】【リハビリ業務以外の対応の負担】【日常的なコミュニケーションによる信頼関係の構築】【言語の違いによる詳細な意思疎通】【文化の違いへの対応】【宗教に対する関わりにくさ】【日本人と接することに抵抗感をもつ外国人高齢者への対応】【PTがもつ外国人への先入観による訪問リハビリ実施の不安】が抽出された。

    結論

      PTが直面する困難として、日本と一部外国人高齢者との間に「リハビリ概念」の違いが見出された。言語の壁による困難も大きく、多言語支援の不足や支援に関する情報を入手しにくい制度上の困難も存在した。また、個人宅へ訪問し個別対応を行う中で、リハビリ業務以外の外国人高齢者が抱える問題に対応しなければならないことがあった。これらは「ゴールを見据えたリハビリの実施」を難しくしていると考えられた。

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