[目的]SARSは、2002年11月に中国広東省で発生し、2003年の3月頃より中国、香港を中心に流行したが、同年7月に拡散は一端終息した。新たな感染症に対する危機意識は、今なお流行地の人々を中心に存在していると思われる。特に外国人就学生は、語学能力、生活習慣の違い等の要因から感染症対策上の感染源としてハイリスクグループと目されている。
本研究の目的は、外国人就学生を対象に、重症急性呼吸器症候群(SARS)に対する知識・態度・行動について調査し、日本における新興感染症対策の基礎資料とすることである。
[方法]対象は、日本の大学、短大等に進学するために日本語を学ぶ、東京都内の日本語学校に在籍する外国人就学生303人である。自記式質問紙調査票(14項目)を直接配布、回収する方法で2003年6月27日から7月13日にかけて実施した。統計学的解析はχ2検定、t検定、因子分析を用い、有意水準は全て5%とした。
[結果]対象者の平均年齢は、男性22.8歳、女性22.6歳だった。出身地は、中国大陸が76.8%(n=218)と圧倒的に多く、対象者の殆どが来日一年未満であった(70.9%(n=205))。
SARSの症状等に関する「知識」は、出身地に関係なく96.4%(n=292)と殆どの人が知っていた。
「態度」では、「SARSに罹るかもしれないので流行地へは渡航しない」と答えた人が51.6%(n=146)と多かった。
「行動」では、「SARS予防のために頻繁に行う手洗い」が79.8%(n=233)と一番多かった。「知識」の正確さや「行動」、「態度」の全項目において、流行地、非流行地のいずれとの関係も認められなかった。しかし、利用した情報源において「ラジオ(p<0.01)」と「家族(p<0.05)」に差が認められ、流行地出身者の方が非流行地出身者より高い割合であった。また情報源についての因子分析の結果、3つの因子が抽出され(言語因子、コミュニケーション頻度因子、マスメディア因子)、「言語」と「コミュニケーション頻度」は相反する関係であることが示唆された。
[結論]本研究により、外国人就学生の重症急性呼吸器症候群(SARS)に対する知識・態度・行動が明らかになった。この知見は、新興感染症対策の基礎資料として有用となるに違いない。
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