国際保健医療
Online ISSN : 2436-7559
Print ISSN : 0917-6543
23 巻, 4 号
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原著
  • 奥野 ひろみ, 小山 修, 安部 一紀, 深井 穫博, 大野 秀夫, 中村 修一
    2008 年 23 巻 4 号 p. 247-256
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/01/28
    ジャーナル フリー
    目的
     カトマンズ近郊 A村をフィールドとして、人口、経済力、情報量などの増加が母親の妊娠、出産、育児という保健行動にどのような影響を及ぼしているのか、 2001年と 2006年の実態の比較から考察を行い、都市部近郊地域の母子保健の課題を明らかにする。
    方法
     ネパール国ラリトプール郡 A村で、0~12か月児を持つ母親へ聞き取り調査を実施した。就学歴のある母親とその児群と就学歴のない母親とその児群および全体について、 2001年と 2006年のデータを比較した。
    結果
     2006年に少数民族の母親の増加がみられた。妊婦検診、分娩、児の罹患時に利用した施設は病院が多く、この 5年間でいずれも増加傾向がみられた。また、妊婦検診費用が約 7倍、分娩費用が約 2倍となっていた。児の発育状況では、カウプ指数が 1ポイント上昇した。児の一般的な感染症への疾患の罹患は減少した。
    考察
     海外への出稼ぎなどにより収入の増加した中間層と、地方からの移入者で経済的な課題を持つ層の 2極化がみられた。妊婦や児が病院での健康管理を積極的に受けている理由は、病院に対する安全や安心の意識に加え、中間層の増加による消費文化の意識が考えられた。経済的な課題を持つ層は、ハイリスクグループと捉えることができ、安価で身近な場所でのサポートの必要性が示唆された。育児の課題は、「栄養改善」や「感染症対策」から「栄養のバランス」などに移行していることが示唆された。
活動報告
  • 小出 泰道, 井上 有史
    2008 年 23 巻 4 号 p. 257-263
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/01/28
    ジャーナル フリー
    緒言
     静岡てんかん神経医療センターは 2002年から WHO(国際保健機構)、ILAE(国際抗てんかん連盟)、 IBE(国際てんかん協会)のてんかんに関する世界的キャンペーンの一環としてモンゴル国への医療協力事業を行っている。活動について報告すると共に、モンゴル国におけるてんかんケアの現状を紹介し、今後の課題を考察する。
    モンゴル国におけるてんかん
     モンゴルではてんかん患者は増加しているが、その主な原因となっているのは交通事故などによる頭部外傷である。
    モンゴル国のてんかん患者をとりまく問題点
     モンゴル国のてんかん診療の問題点として、てんかん外科医を含む専門医が殆どいないことにより、国内で十分な治療が受けられないことが挙げられる。また首都ウランバートルですら脳波計、 CT、MRIなどの診断機器が不足しており、さらに検査は非常に高額である。治療薬の供給不足や保険適応範囲の狭さから、継続的な診療が難しい患者も多い。またインフラの未整備による中枢病院へのアクセスの悪さから、診断や治療に困難を来たしている。
    当院の活動
     我々は医療職に対する啓発活動や教育を通じて専門医の育成に努めている。また診断機器などについても援助を行った。
    現状の考察とこれからの課題
     人材の育成が最も重要であると考えられることから、今後も現地での啓発活動や日本への研修医師の受け入れ、技師の育成などを通じて同国のてんかん診療への協力を行う予定である。慢性的な人的、物的医療資源の不足があるため、ウランバートルにセンターを設立して薬剤や消費財の安定供給を図り、情報網やインフラの整備を行うのがよいと考える。近年はモンゴル人の手によるてんかんに関する啓発活動などの取り組みも行われつつある。てんかんに関する啓発活動は疾患への偏見や差別の解消、疾患そのものの予防という視点から特に有効と考えられる。モンゴル国のてんかん患者の置かれている厳しい状況の改善のためにさらに協力を続けたい。
  • 大橋 眞, 村主 節雄, 川端 眞人, 石井 明
    2008 年 23 巻 4 号 p. 265-271
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/01/28
    ジャーナル フリー
     マラリアは、熱帯地域の発展を妨げる要因となっている疾患であり、マラリア流行地の地域住民への啓発活動は極めて重要な課題である。今回ソロモン諸島のマラリア流行地の村立小学校において、地域住民と教員の協力を得ながら、その地域のマラリア媒介蚊の幼虫の調査と種の同定や生息場所の地図作成と各家屋の配置を調べる体験型総合学習を行ってマラリアの健康教育を試みた。 この結果として、村内のマラリア媒介蚊幼虫の大まかな分布がわかる村内のリスクマップが作成された。また、LEDライトボックスにより電気のない薄暗い教室内においても、顕微鏡観察によりボウフラの生きた姿を観察することを体験させることが可能となり、媒介蚊である Anophelesに関する興味を持たせることが出来た。これまでマラリアについての知識は十分ではなく、特に Anophelesの幼虫を観察した経験がある児童は皆無であったが、その全員が今回の授業を大変興味をもって取り組めたと回答した。今回の学習プログラムが、マラリア流行地の健康教育プログラムとして有用であることが示された。
資料
  • 山岸 祥子, 佐久間 夕美子, 宮内 清子, 松本 彩子, 堀川 沙織, 渋井 優, 青木 早織, 佐藤 千史
    2008 年 23 巻 4 号 p. 273-279
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/01/28
    ジャーナル フリー
    背景
     近年、日本では外国人旅行者数が増加している。旅行中に病気や怪我をすることは少ないが、旅行者は外国での医療サービスに対し不安を感じている。本研究では、訪日旅行者が日本の医療サービスをどのように感じているかについて検討することを目的とした。
    方法
     東京都観光情報センターを来訪した外国人旅行者に質問紙調査を実施した。調査用紙は、英語・中国語・韓国語の 3種類作成した。調査内容は日本の医療に対する不安感、医療水準の評価などに関する 12項目とした。
    結果と考察
     外国人旅行者 163名より回答を得た。英語の調査用紙では 98名、中国語が 39名、韓国語は 26名が回答した。(1)英語を母国語とする外国人旅行者は日本の医療スタッフとのコミュニケーションに強い不安を感じていた( p<0.001)。(2)中国語と韓国語による回答者は、日本の医療水準に対する主観的な評価が低かった( p<0.001)。(3)中国語と韓国語の回答者では滞在中の医療費についての不安が高かった(p<0.001)。(4)緊急時の対処行動では英語の回答者で「薬局や病院を探す」が最も多く、中国語と韓国語の回答者では「旅行会社や添乗員に連絡する」が最も多かった。
    結論
     日本の医療スタッフは、外国人旅行者の国民性・文化的背景によるニーズに配慮する必要がある。
  • 山川 路代, Therdchai JIVACATE, 藤井 一幸, 飛松 好子
    2008 年 23 巻 4 号 p. 281-290
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/01/28
    ジャーナル フリー
    目的
     開発途上国では感染症など緊急性の高い疾患ばかりが注目され、その対応に追われているため、リハビリテーションを積極的に展開するまでには至っておらず、障害者がリハビリテーションを受けにくい現状にある。リハビリテーションのアプローチのうち、アウトリーチ型は都市部の施設で働くリハビリテーション専門職が施設から出向いて障害者の家を訪問したり、設備のない村を巡回してサービスを提供するものであり、医療基盤の乏しい国や地域では有効な方法の一つとされる。タイでは足部切断を含めて下肢切断者は約 5、6万人おり、障害者全体の 8%を占めている。義足製作は病院や医療施設のワークショップで主に行われているが、ワークショップやそこに勤務するテクニシャンの数が少ないため、国内では幅広く義足を提供するために、アウトリーチ型アプローチであるモバイルユニットが実施されている。そこで、義足提供モバイルユニットのフィールド調査により現状把握を行い、その活動の有効性について検討することを目的とした。
    方法
     2006年 10月、タイ北部の都市チェンライで開催されたタイ義肢財団による義足提供モバイルユニットに同行し、活動の参与観察を行った。また、活動に参加したスタッフから財団の概要や活動内容、参加スタッフ数やその所属などについてヒアリングを実施した。参加した切断患者の受付台帳からは職業や切断原因、製作する義足の種類、義足使用状況などに関する情報を入手した。
    結果
     調査した義足提供モバイルユニットは、医師やテクニシャンを含む総勢 75人のスタッフが現地に赴き、義足製作機材を全て現地に持ち込んで実施された大規模な活動だった。活動中にテクニシャン 54人が製作した義足総数は製作期間 4日間で 177人分 204本だった。参加した切断患者に農民など安定収入のない者や無職者が 8割、地雷を切断原因とする者が 2割含まれていた。また、全体の 3割が義足を初めて製作し、その 2割は切断してから義足を入手するまでに 6年以上を要していた。この結果、義足が地方の貧しい切断患者に提供されていることが分かった。また、テクニシャンはタイ国内各地から集結し、都市部の専門家から義足製作技術を学んでいた。
    結論
     義足提供モバイルユニットはタイの現状を考慮し、地方の技術者を養成し、切断患者に義足を幅広く提供するために有効なアプローチであると思われた。
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