国際保健医療
Online ISSN : 2436-7559
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24 巻, 4 号
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原著
  • 北島 勉, 小林 廉毅, Nonglak PAGAIYA, Kittisuk NASUGCHON, 佐藤 元, 豊川 智之
    2009 年24 巻4 号 p. 275-280
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/03/04
    ジャーナル フリー
    目的
     本研究はタイの東北部のHIVと共に生きる人々(people living with HIV、以下PLHIV)における抗HIV薬多剤併用療法(highly-active antiretroviral therapy、以下HAART) の受療と安全な性行動との関連を明らかにすることを目的とする。
    方法
     東北タイに位置する公立病院に外来受診をしていたPLHIVを対象に、質問票による面接調査と自記式質問票によりデータを収集した。調査期間は2004年3月から2005年1月であった。フィッシャーの正確確率とロジスティック回帰分析により、配偶者あるいはパートナーとの性行為時におけるコンドームの使用に関連する要因について分析をした。
    結果
     289人から調査協力が得られた。そのうち146人はHAART受療者で143人は非受療者であった。289人中122人が調査前3ヶ月間において配偶者又はパートナーとの性行為をしたと回答した。その際のコンドームの使用頻度については、70人が「毎回」、17人が「時々」、32人が「全く使用せず」、3人が「不明」であった。 回答に不備があった6人を除いた116人を対象に、性別、学歴、就業状況、HIV感染からの期間、調査前1ヶ月間の疾病の有無、HAARTの受療を説明変数として、コンドーム使用頻度(「毎回」/「時々又は全く使用せず」)に関するロジスティック回帰分析を行った。「HAARTを受療中」(オッズ比=9.8, 95%CI: 2.9-32.9)、「就業中」(オッズ比=5.2, 95%CI: 1.3-20.9)と「毎回コンドームを使用」との間に有意な関連が認められた。
    結論
     HAARTの受療は、PLHIVが配偶者やパートナーと性行為をする際のコンドームの高い使用頻度と関連していた。
  • 樋口 倫代, 奥村 順子, 青山 温子, Sri SURYAWATI, John PORTER
    2009 年24 巻4 号 p. 281-288
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/03/04
    ジャーナル フリー
    背景
     東ティモールでは、物的人的資源が深刻に不足する中で、人びとに等しく保健医療サービスを提供するための費用効率の高いシステムが模索され、プライマリヘルスケアレベルの保健従事者を対象に主要疾患の診療方法が標準化された。本研究は、東ティモールの地方における医薬品の使用と標準治療ガイドラインの活用、またそれに影響を及ぼす因子を調べること目的とした。
    方法
     2006年2月~8月に、全国の郡レベル保健所より無作為抽出した20カ所を調査した。各保健所で2005年の患者記録より100例を無作為抽出し、また、滞在中に30症例を観察して量的に分析した。さらに、各保健所で3人の職員に自由回答形式によるインタビューを行い質的に分析した。
    結果
     国際的な医薬品使用指標を用いて評価した結果では、東ティモールの注射薬処方率は、他国からの報告に比べて顕著に低かった。また、臨床看護師トレーニング修了者群の抗生物質処方は有意に少なかった。主要疾患の標準治療ガイドラインへの準拠を処方者の特性で分析すると、臨床看護師トレーニング修了者群の準拠率は有意に高かった。処方者のクラスター効果と交絡因子調整後の標準治療ガイドライン準拠のオッズ比は、臨床看護師トレーニング修了者で6.6(95%信頼区域2.7-17.6)、IMCI(包括的小児疾患管理)トレーニング修了者で2.9(95%信頼区域1.2-6.8)であった。保健所の特性では、準拠に有意に影響する因子は認められなかった。職員らへの自由回答インタビュー結果では、標準治療ガイドライン導入によってもたらされた変化が、特に臨床看護師らに肯定的かつ積極的に受け入れられていた。全体的に、標準治療ガイドラインに関する困難さはほとんど指摘されず、むしろ、標準治療ガイドラインを「困難を解決するために繰り返し参照するもの」としていた。
    考察
     医師を対象とした欧米での先行研究とは異なり、東ティモールのプライマリヘルスケアの現場では、標準治療ガイドラインが肯定的に捉えられていた。これは、標準治療ガイドラインが単独で導入されたのではなく、「Health Policy Framework」の中で、「Basic Package of Health Services」政策を中心に、人材育成政策、医薬品政策、設備配置政策など他の政策やプログラムと相互に関連しながら、現場の人材や設備でも実施可能な内容で開発、普及されたことが重要な促進要因であったと考えられた。東ティモールの経験は、他の物的人的資源不足に悩む地域に対して、プライマリヘルスケアレベルの医師ではない保健従事者に対する標準治療ガイドライン導入の可能性を示唆するものと考える。
短報
  • -バンギ市保健センターにおける調査から-
    岩永 洋子, 徳永 瑞子, 生田 沙世, 稲富 宏之, 荒木 美幸, 中尾 優子, 宮原 春美, 大西 真由美, 大石 和代
    2009 年24 巻4 号 p. 289-298
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/03/04
    ジャーナル フリー
    緒言
     2006年世界子供白書によるとサハラ以南アフリカ地域における5歳未満児の栄養不良率は28%であり、子どもの健康や生存において重大な問題となっている。
     現在までに多くの途上国で子どもの栄養不良に関する研究が行われてきている。しかし、中央アフリカ共和国においては、実際に援助活動を行うための指標となる報告はない。そのため、中央アフリカ共和国における子どもの栄養不良の状況を調査し、世帯/家族レベルの背後の原因に焦点をあてて関連する因子を明らかにした。
    方法
     2006年8月26日~9月16日、中央アフリカ共和国バンギ市のブエラブ保健センターに健診または診察に来た月齢6~24か月の子どもの身体計測と母親への構造化面接調査を行った。子どもの栄養状態の判定にはWHOのChild growth standardsから3指標を使用し、消耗症、発育阻害、低体重の判定を行った。子どもの栄養不良と関連する因子については、「属性」「食糧の入手」「母子に対するケア」「水と衛生・保健サービス」の4項目について関連すると思われる因子を設定し、関連性について検討した。
    結果
     126組の母子の協力が得られ、そのうち有効データは109組であった。子どもの栄養不良の割合は、消耗症20.2%、発育阻害61.5%、低体重42.2%であった。
     消耗症と世帯/家族レベルに関連する因子は、不完全な予防接種状況の子ども(p=0.043)、パートナーがいない母親(p=0.046)であった。発育阻害と世帯/家族レベルに関連する因子は、月齢の高い子ども(p<0.001)、年齢の高い母親(p=0.005)、母乳哺育の停止(p=0.031)、月齢に対する母乳哺育継続期間の短さ(p=0.032)、子どもの死亡経験のある母親(p=0.022)、出産回数の多い母親(p=0.026)、パートナーとの同居している母親(p=0.042)であった。低体重と世帯/家族レベルに関連する因子は、不完全な予防接種状況の子ども(p=0.043)、子どもの死亡経験のある母親(p=0.046)であった。
    結論
     子どもの栄養不良と世帯/家族レベルに関連する8因子を認め、急性の栄養不良の状態である消耗症では子どもの予防接種状況という病気と関連する因子、慢性の栄養不良の状態である発育阻害では母乳哺育状況という食事に関連する因子を認めたのが特徴的であった。
資料
  • 村上 仁, 石川 尚子, 宮本 英樹, 野中 大輔
    2009 年24 巻4 号 p. 299-308
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/03/04
    ジャーナル フリー
    目的
     本稿は、2009年3月、日本国際保健医療学会東日本地方会にて実施した、「感染症対策と保健システム」ワークショップと、それに続くオープンフォーラムの討議内容を報告する。
    方法
     ワークショップではまず、1)ラオスの村落ベースのマラリア対策の現状と今後、2)ラオスの母児ユニットへの妊娠期から乳児期までの継続ケアアセスメント、3)タイとザンビアの地域ベースでのHIVに対する抗レトロウイルス治療展開と保健システム強化、4)カンボジアのワクチンと予防接種のための世界連合(GAVI)による保健システム強化支援の4つの話題提供が行われた。その後、1)疾病対策プログラム(主に感染症)を進める際に認識される保健システムの問題点、2)保健システム強化の視点から見た疾病対策プログラムの問題点、3)疾病対策プログラムは保健システム強化にどのように貢献しうるかの3点を討論した。合計30の論点や経験が表出された。しかし、限られた時間内では、実効的な論理構築が困難であるため、2009年5月末日までの枠組みで、著者4名とワークショップ参加者のうち希望者を主体とする謝辞に記された22名が、インターネットを通じたオープンフォーラムにてさらなる論点を収集し、それを取りまとめた。その結果、23の追加的論点や経験が表出された。
    結果
     第一に、感染症対策などの疾病対策プログラムを進める際に認識される保健システムの問題点として、1)保健医療人材の量と質の圧倒的な不足、2)保健インフラや物資の不足、3)地域レベルで実施可能な技術内容の制限(感染症の場合、特に検査技術)の3点が認識された。第二に、保健システム強化の視点から見た疾病対策プログラムの問題点として、1)複数の疾病対策プログラム間ならびにそれを支援するドナー間の協調の欠如、2)地域レベルの保健ワーカーの多重・過重業務(特に保健情報の記録、報告業務)、3)疾病対策プログラムの対象と地域保健ニーズの乖離、4)疾病対策プログラムが行政能力強化に十分貢献していないこと、5)疾病対策プログラムの推進に伴う保健資源やサービス便益の偏在化、6)プログラム間の物的資源の共用が阻害されていることの6点が挙げられた。第三に、疾病対策プログラムを通じた保健システム強化の具体策として、1)保健システム強化のための資源創出、2)セクターワイドな事業管理モデルの提示や、基本的な骨組みの提供、3)プログラムの実施、特にトレーニング機会を利用した行政能力強化、4)末端保健スタッフの給与補てん、5)資機材(ハードウェア)ならびにソフトコンポーネント成果物の提供の5点が挙げられた。
    結論
     上記に述べられたような、現実的な保健システム強化策を模索しつつ、保健システムの全体像とその政策的妥当性を、途上国側のステークホルダーとともに模索する巨視的な視点を合わせ持ち、議論と実践を進める必要がある。
  • 湯浅 資之, 三好 知明, 丸井 英二
    2009 年24 巻4 号 p. 309-315
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/03/04
    ジャーナル フリー
    背景
     昨今の国際保健領域では、保健システム強化に関心が集まっている。その背後に、国連ミレニアム開発目標の達成や貧困削減のための持続的かつ効果的な保健活動の進展に、保健システムの強化が不可欠との認識の高まりがある。世界保健機関(WHO)は世界保健報告2000を刊行して以来、保健システム強化に精力的に取り組んでいる。
    保健システム強化の進展
     本稿は、世界保健報告2000の公表と、その反響へのフォロー、および世界保健報告2003発行以降の本格的な保健システム強化の国際的動向を3期に分け、WHO公式文書等の文献を使い概観する。とくに2003年以降の進展を政策、実践、科学的方法の3方面から詳述する。政策面では、プライマリ・ヘルス・ケアの原則に沿って保健システム強化を図る方針が立てられ、国際援助機関の参与が促されている経緯を述べる。実践面では、人材育成と、世界基金からの財政支援に関する具体的取り組みを解説する。科学的方法面では、WHOによる保健システムのフレームワークづくり、システム科学に基づくヘルスリサーチの進展、および保健情報システム強化の取り組みの事例を紹介する。
    結論
     感染症、救急ケア、慢性疾患等の縦型プログラムの効果を高めるには、横断的基盤としての保健システム強化は国際保健上の喫緊の課題である。保健システム強化支援に関するわが国の基本戦略を明確化し、2国間援助やNGOのプロジェクトに保健システム強化を具体化するコンポーネントを挿入する試みが必要と思われる。
活動報告
  • -保健医療分野の開発調査フェーズIIの経験-
    杉本 孝生, Amala de SILVA, Anuradhani KASTURIRATNE, 内田 康雄
    2009 年24 巻4 号 p. 317-327
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/03/04
    ジャーナル フリー
    背景と目的
     病院を運営するということは、病院の管理運営に当たるスタッフが、病院の目的を達成するため、限られた医療資源を有効活用し、情報に基づき意思決定を繰り返すことである。そのために病院管理専門家は、意思決定に必要な根拠に基づく情報を、必要なときに、分かり易い形で報告できる体制を整備することが重要な活動となる。情報の整理という視点から、病院へ部門別原価計算を導入したスリランカでの活動を報告する。
    活動
     2005年10月から2007年10月まで実施された、「スリランカ国保健システム管理強化計画」開発調査フェーズIIにおいて、スリランカ北西州からパイロット病院として国立病院(第三次医療機関)と県立病院(第二次医療機関)それぞれ1箇所ずつを選び、診療情報と会計情報の現状調査を実施後、実際に部門別原価計算システムを導入し、月次で報告書が作成される体制を整備した。
    結果
     今回の調査では、調査初期段階から保健省や財務省関係者に対して、原価計算の病院運営面での必要性や、政策立案への有効活用などを説明しながら活動してきた。しかし、医療や保健に費やす詳細なコスト情報の収集・分析の必要性や重要性が、保健省や財務省関係者に理解されるようになったのは、彼らが自分達の病院で自分達の手で原価計算を実施した結果として、具体的に得られる情報が明らかになってからであった。
    考察
     今回、病院情報の基盤づくりを目指し、部門別原価計算を管理会計手法として病院へ導入することにより、病院全体を網羅した会計面、診療面での病院運営に必要な情報を整備できることが分かった。病院管理専門家の活動は、病院の情報を整理・整頓する活動であると言える。そして、情報の整理を部門別原価計算導入という目標により実施することは、病院管理専門家の基本的な活動として有用であると考える。
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