国際保健医療
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22 巻, 1 号
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原著
  • -母親への栄養教育における適切な体型認識の必要性-
    野村 真利香, ハ ファン ティ ガン, ハン トラン ティ ミン, 高橋 謙造, 坂本 なほ子, クイ レ ティ キム, 丸井 英二
    2007 年 22 巻 1 号 p. 1-10
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/05/15
    ジャーナル フリー
    目的
    途上国における小児の肥満は、近年重要な栄養不良の一つとして問題となっている。しかしアジアの小児肥満に関しては、関連要因の解明が十分でない。急激な社会経済的変化と共に幼児肥満が増加しているベトナム国ホーチミン市では、肥満予防を目的とした栄養教育のターゲットや教育内容の決定が急務である。そこで本研究では、ホーチミン市の幼稚園就園児における肥満傾向の状況を明らかにした上で、リスク要因を探ることを目的とした。
    方法
    2005年3月、二段階抽出法により、市内8幼稚園に在籍する3-4歳児780名とその母親に対し、身長・体重の体格測定とベトナム語の質問票調査を実施した。児の体型はweight-for-height z-score(WHZ)を用い、National Center for Health Statistics(NCHS)の基準により2SD以上を過体重/肥満(OV/OB群)と判定した。母親はBody Mass Index 23を基準に肥満判定した。解析は家庭環境と社会経済状況、児の生活習慣および食生活、児と母親自身の体型管理に対する母親の認識の各項目と児の肥満傾向との関連性を検討した。さらに多変量解析で交絡因子を調整してリスク要因を抽出した。
    結果
    741名から回答を得、回答率は95.0%であった(男子377名、女子364名)。児の平均月齢は61.8±6.8ヶ月、母親の平均年齢は35.0±5.2歳であった。OV/OB群と判定された児は27.8%であった。単変量解析で有意差が認められた社会経済状況、生活習慣、食生活等の変数は多変量解析においては選択されず、性別、児の現在の体型に対する母親の認識、将来の児の体型に対する母親の希望、自身の現在の体型に対する母親の認識、の4変数が選択された。
    結論
    ベトナムにおいては低栄養の問題も依然大きいが、ホーチミン市では27.8%もの肥満傾向児がいることが明らかとなった。ベトナムの幼稚園就園児においても肥満問題の地域偏在の可能性が示唆され、ホーチミン市におけるリスク要因を明らかにする必要性が支持されたと考えられる。多変量解析から、母親の適切な体型認識への興味は、どのような社会経済層、生活習慣を持つ家庭においても、児の肥満傾向の抑制因子となることが考えられた。栄養教育は一般的に行われている小児肥満対策であるが、ホーチミン市栄養センターにおいては、特に栄養管理の中心を担う母親に対し、母親の体型認識に関する指導・改善が、栄養教育に必要であると示唆された。
  • 藤木 明子, 工藤 知子, 座間 智子
    2007 年 22 巻 1 号 p. 11-16
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/05/15
    ジャーナル フリー
    背景及び目的
    ザンビアの首都ルサカでは15歳~49歳の16%がHIV 陽性(2001/2年)であるが、結核も重要な保健問題である。DOTS戦略は2002年に全国に拡大し、患者発見率81%、治癒率73%で、WHOの掲げる治癒率85%には満たない。また、HIVの蔓延により結核患者数は年々増加傾向にあり、末端レベルの診断センターにおける結核診断の精度強化が急務になっている。この様な背景のもとに国際協力機構(JICA)による「ザンビア国エイズ及び結核対策プロジェクト」の一環として、喀痰塗抹検査サービス向上・改善のための外部精度管理(EQA)システムのモデル構築が試みられた。本稿ではその成果を報告し、途上国における結核問題解決の一助になる質の高い菌検査体制のあり方を論じた。
    方法
    ルサカ州の全診断センター22カ所をモデル対象とした。EQAはEQAグローバルガイドラインに沿って行われ、抽出したスライド標本を第三者によってブラインド再鏡検し、塗抹標本作成の質及び鏡検技術の質の上から評価した。これら得られたEQAの結果(2003年7月~2005年9月)に基づいて検討し、考察を加えた。
    結果・考察
    鏡検技術のMajor errorは5%から0.7%、Minor errorは3.4%から0.3%へと減少した。また、エラー未発生の施設数は、EQA開始初期は対象22施設中わずか3施設に過ぎなかったが、観察最終時期には17施設に増加した。また、標本作成の質をみると技師の技術が直接反映される塗抹の厚さ、大きさ、均等性などが国際的な標準に近づき大きく改善され、塗抹標本作成時のこれらの因子が鏡検のエラーに作用することが示唆された。この様にこの精度管理システムの有効性が示され、頻繁な巡回指導と支援体制が重要であることが明らかになった。精度管理システムの導入・定着による質の高い喀痰塗抹検査の確立は結核対策の基本であるDOTS戦略成功のための不可欠な要因であり、結核罹患率・HIV感染率共に高い多くの開発途上国での新たな結核感染の拡大を防ぐ鍵になると期待される。
  • 伊達 卓二
    2007 年 22 巻 1 号 p. 17-25
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/05/15
    ジャーナル フリー
    目的
    国民が受けることができる医療には、先進国と開発途上国間で大きな隔たりがあるだけでなく、国内にも格差がある。イエメン保健省の場合、格差是正のため、公的医療を効率的にできるだけ多くの国民に広げることを目標としているが、地方から医療情報を集める体制が整っているとはいえない。そこで、ほぼ全国に拡大しているイエメン国家結核対策のデータを利用し、地域間の格差を分析することに意義があると考える。本稿では、郡別に新規塗抹陽性結核患者発見率を求め、それと関連する因子を統計的に分析することで、新規塗抹陽性結核患者発見向上に資するべく考察した。
    方法
    イエメンで行われた2004年末の国勢調査による最新の人口を基に、WHOの基準に従い、郡別の新規塗抹陽性結核患者届出数から郡別に発見率を求めた。この郡別新規塗抹陽性結核患者発見率と、顕微鏡施設の有無、人口規模、州都からの距離などの因子を比較して統計分析することを試みた。
    結果
    新規塗抹陽性結核患者が発見される確率は、人口42,322人以上の郡で高く、また、顕微鏡施設が配置されている郡では、郡別新規塗抹陽性結核患者発見率が70%以上である確率が高いことが判明した。顕微鏡施設の有無は、新規塗抹陽性結核患発見の向上につながる要因と考えられる。さらに、新規塗抹陽性結核患者が発見された地域の人口総数は、イエメン国全人口の約74.1%であり、保健医療政策の目標である全国75%の人口に公的医療を提供する計画とほぼ合致する。
    結論
    郡別の新規塗抹陽性結核患者届出数から求めた発見率は、特定の因子について統計的有意差があることが確認された。郡別の新規塗抹陽性結核患者発見率の分析を通じて、開発途上国での結核対策を評価する参考となることが期待される。
短報
  • 野村 真利香, 高橋 謙造, チェッダブット ワラポン, 丸井 英二
    2007 年 22 巻 1 号 p. 27-34
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/05/15
    ジャーナル フリー
    目的
    東南アジア各地で受け継がれている出産にまつわる伝統習慣の「ユーファイ( Yu fai )」は、出産前後の行動禁忌と、産後の居火で構成される。これらはさまざまな理由付けの下で現在も伝承されているが、詳細は明らかでない部分も多い。そこで伝統習慣行動としてのユーファイの概要と、出産にまつわる食禁忌を明らかにすることを目的とした。
    方法
    タイ東北部の2村において、0歳から6歳までの乳幼児をもつ母親を対象に、タイ東北部のタイ人の通訳を通じ半構造式インタビューを実施した。質問内容はユーファイ経験の有無、ユーファイを行った場合の内容、妊娠期と産褥期の食禁忌、ユーファイ実施の有無による体の変化などとである。内容は調査者が記録すると同時に音声録音し、記録内容と照合した上で分析・検討した。
    結果
    インタビュー対象者10名のうち、7名がユーファイを経験していた。対象地域では火がそばに置かれた台の上に横たわる。ユーファイの目的は「産後の体を回復するための行動」であり、ユーファイを行わなかった者からは、「ユーファイをしなかったのでめまいが続く」などの意見が聞かれた。ユーファイ期の食禁忌を「カラム」と呼び、妊娠期と産褥期別に禁忌食材と推奨食材があった。
    結論
    ユーファイでは居火と共に食禁忌を含む行動禁忌が行われる。目的は、(1)出産時の体の変化をもとに戻すため、(2)母乳分泌や次回出産のため、(3)母親自身の長生きを願うため、の3つに分けられた。ユーファイの実施は、出産後から高齢期までの健康観や健康状態を左右すると信じられていた。食禁忌(カラム)は妊娠期と産褥期に分かれ、禁忌の食物ごとに食物の形状やにおい・くせに由来した理由付けがみられた。現在は、都市化や情報の流通と共に、出産におけるユーファイの現状は変化の段階にあると考えられた。
総説
  • Moazzam ALI, Humayun RIZWAN, Mohammad Ayaz BHATTI, Chushi KUROIWA
    2007 年 22 巻 1 号 p. 35-45
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/05/15
    ジャーナル フリー
    Objectives
    The Constitution of Pakistan offer guarantees regarding women s rights, but unfortunately some laws and also customs violate the above commitments seriously affecting the health of women and even endangering their lives. The purpose of the study is to describe various aspects of women s health in Pakistan vis- -vis human rights.
    Methods
    Review of available literature was undertaken. The scientific electronic database (such as PubMed, Science-Direct & Pakistani database) was searched for women health issues in Pakistan, covering a period from 1980s to present. Published government reports have also been included as sources of information for this paper.
    Results
    In Asia, Pakistan s, maternal mortality ratio is among the highest; more than half of the women are anemic. Access to health services is deprived whether be it economic, geographical or social. Majority of women are illiterate. Pakistan is among the countries with low gender indices and where female life span is less then men, and men outnumber women. Government spending on health and particularly women health is low compared to other countries.
    Conclusion
    Women s disproportionate poverty, low social status, gender imbalances, and inadequate maternal services at the community level play a significant role in contributing to maternal deaths. In view of the fact that given accessible, quality health services, many maternal deaths can be avoided, demonstrates maternal mortality is clearly an issue of human rights.
    There is a strong need that health sector spending is increased, role of women health care providers in rural areas be expanded (such as LHW) and involvement of private and NGO sector to fill gaps in service delivery, be ensured. In order to meet the targets of MDGs, the gender dimensions of demographic and social change need to be stressed further in all policies and development plans, which may result in narrowing of gender disparities and improving women lives.
  • -国際保健と母子保健との視点から-
    川田 紀美子, 牛島 廣治
    2007 年 22 巻 1 号 p. 47-52
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/05/15
    ジャーナル フリー
    本稿では(1)鉛曝露の歴史と現状、(2)国際保健分野における環境性鉛曝露問題、(3)鉛曝露の母子への影響、(4)著者らが行った中国雲南省昆明市における調査研究の紹介、(5)今後の課題について述べる。
    鉛は産業界に広く用途をもち続けており、鉛による健康被害の歴史は古い。多くの先進国では鉛の使用量を劇的に減少させているが、幾つかの開発途上国における急速な産業発展に伴う環境汚染や、鉛が粉塵として環境内に長期間残留することによる環境性鉛曝露は、未だ完全に予防できずにいる。日本国内外における、鉛中毒が頻発している国々から移住してきた子ども達の高い血中鉛濃度や、鉛を高濃度含有する輸入製品からの曝露の報告があるが、これは適切な医療サービス提供のために関係者が知っておくべき情報である。また、鉛は生殖毒性があり、加えて母体骨内に蓄積された鉛が妊娠・授乳期に血中に溶出することが論証されていることから、曝露予防対策は母子のみではなく妊娠前の女性にも行うことが重要である。環境性鉛曝露の健康問題は、鉛による環境汚染問題の一部分である。その解決のために、国際保健に関わる者は、専門知識を基盤とする独立した意見を発信するとともに、様々な分野と協力して取り組むことが重要である。
資料
  • -エジプトでの国外研修参加者に対する面接調査結果より-
    永井 真理, 木下 真里, 青山 温子
    2007 年 22 巻 1 号 p. 53-63
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/05/15
    ジャーナル フリー
    イラクは紛争中の状態にあり、また比較的ジェンダーバイアスが大きいとされているイスラム社会の一つである。イラクの女性保健医療従事者を、治安の安定している他国で育成することの可能性や問題点について検討するための基礎資料として、イラクにおける女性医療従事者の背景、すなわち、社会および家庭での役割や立場、キャリアに対する意識、紛争が保健情勢に与えた影響などについて調査した。治安上の理由により、イラク国内において調査を行うことができなかったため、エジプトで4週間の第三国研修に参加していたイラク人女性医師 16 名を対象に、面接調査を行った。
    調査対象者の多くは、同性と主に接する産婦人科・小児科などに従事していた。職場内で差別を感じることはあまりなく、大変意欲的に仕事を行っていた。結婚の際も、仕事を妨げることのない相手を選ぶ傾向にあった。また、数ヶ月以内であれば、家族と離れて国外研修に参加することにも積極的であり、家族の理解や支援も得られていた。皆、研修受入国よりも研修内容を重要視しており、受入国の宗教の違いや、イラクからの地理的な距離は、ほとんど問題としていなかった。今後必要な研修分野として彼女たちが挙げたのは、病院管理システム、看護師の意識向上を目的とした研修などであった。
    イスラム社会では、女性に対する医療には、女性医療従事者が必要とされる場合が多い。また、紛争の際には、女性や乳幼児が特に健康被害を受けやすい。イラク国内の治安が安定し、国内での直接支援が可能になるまでは、積極的に女性医師に対する国外研修を推進することが、国内の女性や乳幼児の健康改善につながる支援策と考えられる。
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