国際保健医療
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21 巻, 2 号
選択された号の論文の9件中1~9を表示しています
オピニオン
特集 ワークショップ「日本の国際保健医療協力:パートナーシップの時代の中で」
  • 黒岩 宙司
    2006 年 21 巻 2 号 p. 83-92
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/10/20
    ジャーナル フリー
    グローバリゼーションにともない国際保健医療の分野でもパートナーシップの重要性が言われている。1992年から2001年まで行われたラオスにおける「公衆衛生プロジェクト」と「小児感染症予防プロジェクト」は国際機関とのパートナーシップのもとに成功した。最大の成功要因はWHO総会で世界プログラムが決議され政治的なコミットメントが得られたことで、そこから共通の目的、共有された単一の政策的枠組み、パートナーシップが生まれ、資金的な裏づけが可能になった。しかしながら次々と国際機関から発信される保健政策には途上国の現場での検証が乏しい。現場で起こる問題点を科学的に分析することが重要で、援助と各省庁の利権を断ち切ることが求められる。外交の一環としてパートナーシップがあることを認識した上で、日本はアジアの一員として環境と文化とニーズを尊重し、国際社会と成熟したパートナーシップを構築する必要がある。そのために国際機関へのモニタリング・評価は重要である。
  • -ラオスにおけるKIDSMILEプロジェクトの取り組み-
    岩本 あづさ
    2006 年 21 巻 2 号 p. 93-101
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/10/20
    ジャーナル フリー
    ラオスではこれまで多くの援助が行われてきたが、当事者の活動としてその後も定着するものは少なく、各ドナーの撤退と同時にその活動も減退してしまうことが多かった。そのようなテーマ別縦割プログラムの反省をもとに、「JICA子どものための小児保健サービス強化プロジェクト(KIDSMILEプロジェクト)」が2002年に開始され、現在進行中である。このプロジェクトは小児保健行政マネージメント強化を最終的な目標としているが、以下に述べる3つの点で従来とは異なるアプローチ方法をとっている。
    まず、ある特定の疾患や病院施設を対象とせずに保健省各局と2つの県保健局をカウンターパートとし、縦横両方の連携を重視した非常に幅広い関係者を有する。特に「横の連携」では、ドナーと当事国あるいはドナー間の「パートナーシップ」のみならず、まず保健省・局内の関連各部局間の「ネットワーク」が重要であることを強調している。次に当プロジェクトは既存のヘルスパッケージを持ち込むことを極力避け、ラオス側が主体的に「これは自分達の本来の仕事である」と考える本来業務を自分達で行っていくことを、日本人もともに考えともに支援するという基本姿勢をとっている。第三は既存のシステムや人材を最大活用するという大原則である。日本側からの資金やモノの投入は最小限に抑え、ラオスに現在存在するリソースを有効に活用し、当プロジェクト終了後もラオス側が当事者として継続して行ける活動を目指している。
    上記の実施はけっして容易なことではなく、プロジェクトの基本理念や形態はラオスに多数存在する他ドナーのそれとは一線を画し、何らかの答を出すためまでに時間がかかる。それでもこのアプローチは、今までにないマネージメント強化の1例として注目されている。ラオス側の真の「主体性」醸成を目指して、KIDSMILEは従来の「プロジェクト」というスキームを越えた挑戦を続けている。
  • -ラオスの経験から-
    三好 知明
    2006 年 21 巻 2 号 p. 103-110
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/10/20
    ジャーナル フリー
    近年、ラオスでは保健政策・戦略の整備が進んできた。すなわち、「保健戦略2020」(2000年)に加えて、2002年にはJICA開発調査により「保健マスタープラン(MP)」が作成され、さらに2003年にはラオス版PRSPである「国家成長貧困根絶戦略(NGPES)」が策定されている。これらの保健政策・戦略の内容はほぼ類似しているにも関らず、これまでその整理や統合はされておらず、いずれもが実施には至っていない。現在、次期社会経済開発5ヵ年計画が策定されているが、保健セクターにおいてもNGPES、MP等との整合を図りつつ、統一した重点政策、戦略を示して、速やかに実施に進まねばならない。
    一方、これまで垂直プログラムによる援助が中心であったラオスでも、Global Alliance for Vaccine Iniciative(GAVI)やグローバルファンドなど官民パートナーシッププログラムが導入されてきた。これらはそれぞれドナー間調整委員会(ICC)や国別調整メカニズム(CCM)という調整メカニズムを併せて導入してきた。しかしながら、調整範囲はプログラム内に限られており、マネジメント能力に問題があり、とりわけ財政の不透明な体制ではその実施は容易ではない。また、これらの導入後、二国間援助の撤退が続き、基金への依存の高まりや現場レベルでの技術的サポートがないための問題等も発生している。
    今後、垂直プログラムやパートナーシップ協力による問題を解決し、速やかに重点政策の策定、実施に移るには、保健省各局間、ドナー間の調整が鍵となるが、保健省の調整能力は非常に弱く、2004年より開始された「保健セクタードナー調整会議」や「調整のためのワーキングループ会議」も、現時点では有効にその機能を発揮していない。
    日本はこれまでプロジェクトを基本として協力を行い、援助調整に果たす役割は十分でない場合もあった。今後のパートナーシップ協力の時代において、日本はラオス国の重点保健政策の中で日本の援助戦略を明確化し、ラオスの政策実現のための方策をプロジェクトなど具体的活動を通じて、調整メカニズムを促進させつつ示すことが必要である。そのためには保健省アドバイザーが果たす役割はさらに重要なものとなるが、その役割をより効果的にするため、アドバイザー活動の一部をプロジェクト化する試みについても言及した。
  • 杉下 智彦
    2006 年 21 巻 2 号 p. 111-121
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/10/20
    ジャーナル フリー
    タンザニアにおける開発援助協調については、被援助国の組織改革・強化を通じた主体性、持続性ある新しい援助形態が模索されてきた。特に2000年11月に貧困削減戦略書が世界で3番目に承認・実施されたことからもわかるように、アフリカの途上諸国において最も先鋭的な取り組みが行われており、構造改革を基盤とする組織改編、被援助国政府の指導力と主体性の向上、援助協力体制の構築、国家的優先課題の基づく実施計画、多様な援助様式の一元的標準化、さらには国家予算財政への一元的融資といった新しい援助形態が検討・実施されてきた。同時にタンザニア政府は、長期開発計画として「Tanzania Development Vision 2025」、中期開発計画としてタンザニア開発援助戦略書(Tanzania Assistance Strategy, TAS)および貧困削減戦略書(Poverty Reduction Strategy Paper, PRSP)を策定し、これらの国家開発計画を実効性のあるものとすべく、公共支出レビュー(Public Expenditure Review, PER)及び中期財政収出概算書(Medium-term Expenditure Framework, MTEF)を整備し、開発援助協調を可能にするシステムを構築してきた。保健セクターでは、1994年から推進されてきた保健セクター改革を実現可能にする財政基盤としてセクター・ワイド・アプローチによる援助協調が実施され、政府保健セクター予算会計システムへの共通財源融資によるバスケット・ファンドが導入・運用されている。これにより、地方自治体が主体となって長期的・持続的な地域保健活動を計画・実施することが可能となり、地方分権化とコミュニティ・レベルでの保健活動が可能となっている。
    当論文では、タンザニアの保健セクターにおけるセクター・ワイド・アプローチとその財政基盤であるバスケット・ファンドについて、タンザニアにおける開発援助協調の背景、保健セクター改革の展開、セクター・ワイド・アプローチの適応、バスケット・ファンドの運用を概観し、開発援助協調が抱える諸問題と展望について考察を加えたい。
原著
  • 相原 洋子, Sirikul ISARANURUG, Sutham NANTHAMONGKOLCHAI, Nipunporn VORAMON ...
    2006 年 21 巻 2 号 p. 123-127
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/10/20
    ジャーナル フリー
    タイ王国では母子保健活動のひとつとして、母子健康手帳をおよそ20年間活用している。本研究は、母子健康手帳の利用状況の評価および手帳の母親の母子健康増進に対する信念・行動への影響を分析することを目的とし、タイ王国カンチャナブリ県において3~4歳児をもつ、224名の母親を対象に2005年1月~2月にかけてインタビューを行った。母子健康手帳の利用状況結果は、手帳の読み(全パートの読み率:14.3%)および自己記録率(全パートの記録率:0.9%)の低さが目立った。重回帰分析結果、母子健康手帳の利用度は母親の信念・行動の両方において関連することがわかった(p=0.001:信念、p=0.039:行動)。その他の関連因子は、信念においては母親の年齢、通学年数、給与、行動は婚姻状況、年齢および職業であることがわかった。本研究の結果より、母親の母子保健に対する信念と行動を喚起するためには、母子健康手帳の活用と包括的なアセスメントが重要である。
  • Satoshi TOYOKAWA, Tsutomu KITAJIMA, Yasuki KOBAYASHI, Hajime SATO, Wee ...
    2006 年 21 巻 2 号 p. 129-135
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/10/20
    ジャーナル フリー
    The objective of this study is to assess the differences in access to antiretroviral treatment among health insurance recipients, using a patient-based analysis.
    METHODS: The subjects were 324 outpatients with the human immunodeficiency virus who were treated at a regional hospital for infectious diseases in Khon Kaen Province. We collected data every visit of the patients during the study period between April1 and September 30 in 2002. We defined access to antiretroviral treatment as having a prescription for antiretroviral drugs on at least one visit during the study period. We examined the relationship between access to antiretroviral treatment and age, sex, stage of acquired immune deficiency syndrome (AIDS), and health insurance. We also compared the results of the patient-based analysis and the record-based analysis that was used in our previous study.
    RESULTS: Multiple logistic regression analysis shows that patients insured by the Civil Servant Medical Benefit Scheme have better access to antiretroviral treatment than the others (vs. Universal Coverage; odds ratio=11.38, 95% confidence interval=4.09, 31.65). We have also shown that patients with AIDS-related complex have better access to antiretroviral treatment compared to asymptomatic AIDS patients (odds ratio=3.38, 95% confidence interval=1.31-8.76). Values of these odds ratios were lower in the record-based analysis than in the patient-based analysis.
    CONCLUSIONS: Patients insured by the Civil Servant Medical Benefit Scheme had better access to antiretroviral drugs. We reconfirm the differences in access to antiretroviral treatment among health insurance recipients, using the patient-based analysis.
短報
  • 松本 安代, 椋棒 正昌, 川端 眞人
    2006 年 21 巻 2 号 p. 137-140
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/10/20
    ジャーナル フリー
    2000年10月から2001年8月までのChristian Hospital Chandraghonaの分娩数は651例、うち妊産婦死亡は4例であった。子癇発作症例は11例あり、妊婦の平均年齢は22.1歳で10名が初産婦、1名が1経産婦であった。転帰は妊産婦死亡2名で、軽快退院が9名、分娩となったのは10名(生産8名、死産2名)であった。分娩形式は正常経膣分娩8名、鉗子分娩1名、帝王切開分娩1名。妊婦健診受診回数は未受診10名、定期受診1名。子癇発作発症の時期は妊娠後期9名、産褥2名であった。子癇発作発症から来院までの時間は5時間以内が9名で母体死亡となった2名は発症から10時間以上たって来院した2例であった。子癇による妊産婦死亡を減らすためには妊婦健診の推奨と異常を認めた際の早期受診を促すための妊娠中の合併症に関する知識の啓蒙が不可欠と考えられる。
活動報告
  • ─ネパール王国栄養専門家カウンターパート研修の事例─
    石川 みどり, 足立 己幸
    2006 年 21 巻 2 号 p. 141-149
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/10/20
    ジャーナル フリー
    【目的】コミュニティを重視して栄養課題の構造を検討すること、及び研修に重要なプログラムを検討することである。
    【方法】ネパール王国保健省栄養セクションチーフの研修受入れ依頼があり、要請背景、研修のねらい、研修後に期待される成果等についてJICAと確認後、受入れた。研修は、研修員P氏(以下P氏とする)自身による課題分析の結果をふまえてテーマを決定した後、国の政策とコミュニティの活動をつなぐ講義、討議、実習のプログラムとした。教材として日本国内・外の栄養プログラムの実践事例やそこで実際に活用されたものを用いた。アクションプラン作成の為にコミュニティの資源と関係者の分析を行った。評価は、P氏による課題分析、コミュニティ分析、アクションプラン、及び、スタッフによるP氏の発言記録を分析した。
    【結果】1)P氏による評価:(1)保健省の課題を整理できたがコミュニティの課題はできなかった。スタッフの支援により課題を再整理し、テーマを“コミュニティで入手可能な資源の重要性について家族が気づくための栄養プログラムを学ぶ”とした。(2)コミュニティ分析の結果、栄養改善のキーとなる場所にTea shopが挙げられた。(3)アクションプランに研修内容が多く活用された。2)スタッフによるP氏の発言分析:(1)態度の変化として5期のプロセス、第1期:栄養問題が改善できないのは現場の職員や組織の課題なのか。第2期:住民は何を望んでいるか。第3期:組織におけるポストが上位の人は何をすべきか。第4期:自分の業務に何が必要か。第5期:帰国後に一番に着手すべきことは何かであった。(2)スタッフの支援として、P氏の課題の明確化、コミュニティの視点で課題を整理する枠組みの提案、国の政策とコミュニティの活動をつなぐ方法の提示、国内・外行政資料についてコミュニティの視点からの再評価と資料の作成、効果的な教材開発のプロセスに関する情報の提供、コミュニティ分析が行われた。
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