国際保健医療
Online ISSN : 2436-7559
Print ISSN : 0917-6543
32 巻, 2 号
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原著
  • マルティネス 真喜子, 畑下 博世, 鈴木 ひとみ, Denise M. Saint Arnault, 西出 りつ子, 谷村 晋, 石本 恭 ...
    2017 年 32 巻 2 号 p. 69-81
    発行日: 2017/06/20
    公開日: 2017/07/14
    ジャーナル フリー

      本研究では、ブラジル人妊産褥婦がデカセギ移民として生活する中で、どのような心身の健康状態を体験しているのか、それに相互に影響を及ぼす社会文化的要因を明らかにすることを目的とした。研究対象は、ブラジル人人口が多い2県に在住するブラジル人妊産褥婦18名であった。日本人研究者と、ポルトガル語通訳者が2人1組となり、対象者の自宅で、半構成的インタビューを行った。研究期間は2013年~2014年であった。インタビューは「ヘルプシーキングの文化的要因理論」を用いて実施した。データのコーディングとテーマ抽出は分析的エスノグラフィーを用い、コア・テーマを抽出した。

      その結果、心身の症状は、「心配」と「背・肩の痛み」が最も多く、続いて「頭痛」、「いらいらする・怒りっぽい」、「不眠症・眠れない」、「不安」が多かった。それらの原因の説明として、妊娠・子育てによるもの、仕事や収入の不安、外国人であるがゆえのわずらわしさ、頼れる人がいないということを挙げていた。それらに影響を及ぼす社会文化的要因として、【対等で深く結びつく家族の存在】、【労働力でありつづける逞しさ】、【条件の良さを選んで定住】、【保健医療制度への低い満足度】、【宗教によりもたらされる恵み】の5つのコアカテゴリーが抽出された。

      日本で生活するブラジル人妊産褥婦は様々な心身症状を体験しており、日本とは異なる家族のあり方や宗教が大きく影響していると考えられた。これらのことが健康に影響するということを理解し、ブラジル人妊産褥婦の適切な保健行動に導けるよう介入しなければならない。

活動報告
  • 橋本 麻由美, 藤田 則子, 森山 潤, 深谷 果林
    2017 年 32 巻 2 号 p. 83-93
    発行日: 2017/06/20
    公開日: 2017/07/14
    ジャーナル フリー

    目的

      東南アジア4か国のカンボジア・ラオス・ミャンマー・ベトナムを対象に、看護教育の質の担保制度強化を目指して2015年に実施した「東南アジア看護助産人材育成強化」研修を、WHO提案の5段階研修評価ガイドを用いて評価し、研修効果の要因や課題ならびに教訓を得る。

    方法

      データは、研修を通して得られた研修員からの自記式研修評価、研修員と研修担当者で実施した研修評価会記録、研修後フォローアップ訪問時の面接記録とした。研修評価の方法はWHO提案の5つのレベルを追って評価する5段階研修評価を改編して用いた。研修効果の要因、課題、教訓に関しては、WHOの5段階評価結果・研修員からのフィードバックによる評価結果・研修後活動計画の進捗結果から、方法論内トライアンギュレーションにより帰納的に導き出した。

    結果と考察

      「東南アジア看護助産人材育成強化」研修は、「レベル1:研修員の反応」や「レベル2:学習」が高いだけでなく、「レベル3:研修後に研修員が研修での学びを自分の職場に適応させる行動」を起こした効果的な研修だったことを確認した。その要因は、(1)共通課題をもつ近隣の複数国を対象とした経験共有型による実践的な研修内容だった、(2)研修言語を研修参加各母国語としたことによって適切な研修員が選定された、(3)研修資料が母国語だったため研修後に自国の関係者と共有しやすく研修後の活動計画実施の協力を得やすかった、(4)研修中に研修後フォローアップ訪問を研修員と合意したことによって研修員の活動計画実施への意欲が維持された、(5)研修事前訪問による研修参加国の関係者への研修概要の説明が関係者からの研修への理解と研修にて作成された活動計画への関心を高めたことだった。教訓は、母国語による技術的専門用語の定義の確認と介入としてのフォローアップの有効性だった。今後の課題は、「レベル4:職場への寄与」を目指して他機関とも連携した各国の個別ニーズへの対応と、「レベル5:インパクト」に係る継続的な経験共有のしくみづくりである。

    結語

      WHOの5段階研修評価ガイドを用いて、「東南アジア看護助産人材育成強化」研修を評価した結果、研修員が研修での学びを自分の職場に適応させる行動を起こした効果的な研修だったことを確認し、その要因・課題・教訓も導き得た。今後は、今回得られた学びを活かして、より効果的な研修の企画・実施・評価に取り組んでいきたい。

資料
  • ~ベトナム保健省政策文書、ベトナム最大級の医療施設の活動記録の分析~
    伊藤 智朗, 土井 正彦, 稲岡 希実子, 江上 由里子, 小原 博, 藤田 則子
    2017 年 32 巻 2 号 p. 95-108
    発行日: 2017/06/20
    公開日: 2017/07/14
    ジャーナル フリー

    目的

      ベトナムでは1990年後半ごろより、その医療提供体制に卒後継続教育の役割を持たせた「DOHA(Direction of Healthcare Activities)」と呼ばれる上位病院による下位病院の指導が実施されている。本稿では、DOHAの実施体制が確立できた背景、拡大の変遷を追跡し、それらに影響を及ぼしたと考えられる要素を明らかにする。また、研修実施と現場の改善を結びつけるために必要な要素を明らかにする。

    方法

      1997年から2015年の間に発出されたベトナム保健省作成の政策文書、ベトナムの中央病院であるバクマイ病院のDOHAの活動記録、JICA報告書、国立国際医療研究センター発行のテクニカルレポートと内部会議資料をレビューした。

    結果

      ベトナムでは中央病院を中心とした医療ヒエラルキーに基づいた医療提供が行われ、その延長でDOHAもデザインされた。まず下位病院への研修開始前よりバクマイ病院自身の専門医の拡充、設備投資、臨床能力の強化が行われ、その後DOHA開始のために保健省からハイレベルな政策文書が発出されていた。それに呼応するようにバクマイ病院でDOHAが開始された。 

      DOHAを促進するため、保健省より政策文書が継続的に出されていたが、政策文書の発行のみではDOHAの活動拡大は限定的で、バクマイ病院の研修数が増加した時期には体制整備、自主財源の拡大などがみられた。

      下位病院における主体的なDOHAの拡大は地域差が大きく、概して南部の医療機関が活発な活動をみせていた。研修の実施方法は、研修実施を現場のパフォーマンス向上につなげるため、上位病院の医師が下位病院で勤務しながら現場の指導を行う1816プロジェクトや研修実施と機材提供をパッケージング化して展開するサテライト病院プロジェクトが開始された。

    結論

      ベトナムでのDOHAのような制度が成立できた要素には「強力なトップダウンによる政策実施」や、「医療提供ヒエラルキーを医療人材の育成にも活用していること」、「下位病院への研修展開以前に上位病院の能力強化が行われていた」ことなどが考えられる。

      一方で活動拡大のためには、「研修実施の体制整備や継続性のある財源確保」、「下位病院からのボトムアップ力とそれを政策誘導するメカニズム」が必要な要素であると考えられる。

      研修の実施を現場のパフォーマンス向上に結び付けるためには、的確な現場の実態評価に基づく環境整備や長期的なサポート体制を準備するなど研修以外の要素を組み合わせたアプローチが必要であろう。

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