国際保健医療
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26 巻, 1 号
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総説
  • 湯浅 資之, 丸井 英二
    2011 年26 巻1 号 p. 1-9
    発行日: 2011/03/20
    公開日: 2011/05/19
    ジャーナル フリー
    国際保健医療政策は国際政治経済による影響を大きく受けて成立ないし変遷してきた。例えば、プライマリヘルスケア戦略は途上国主権や人権の高まりを背景に成立したが、その理念は新古典派経済学理論に基づく構造調整により大きく後退させられた。小児期疾病統合管理政策(IMCI)は世界銀行による経済的評価の上に開発された。途上国における小児の栄養失調は、政治的に不平等な食糧配分や多国籍フード企業の戦略的販売の圧力によって、その改善が阻害されている。抗HIV治療薬の普及は、製造·販売に関する知的所有権をめぐり多国籍製薬企業と途上国との間の政治経済的攻防に大きく制約されている。タバコ企業の営業戦略に抗して、世界保健機関のタバコ規制枠組み条約は成立した。本稿は、国際金融機関や多国籍企業の動向が、主要な国際保健医療政策の成立と発展過程に及ぼす影響を検討し、国際保健医療に対する国際政治経済的課題を考察する。
原著
  • 玉越 悠也, 青山 温子, 江 啓発, 天野 静, 川口 レオ
    2011 年26 巻1 号 p. 11-20
    発行日: 2011/03/20
    公開日: 2011/05/19
    ジャーナル フリー
    目的
    エジプトでは、1990年代初に基本的保健医療サービスへのアクセスが向上し、保健指標は著しく改善してきた。しかし、地域格差はなお大きく、保健医療システムにも多くの問題があった。保健医療サービス提供の、公平性、効率性、質、持続可能性確保を目指して、1997年から保健医療セクター改革プログラム(Health Sector Reform Program: HSRP)が開始された。本稿では、エジプトで実施されたHSRPについて、報告書などの資料をもとにまとめ、その成果と問題点について考察する。
    方法
    国際機関などが刊行した保健医療セクター改革に関する報告書、統計資料などをもとに検討した。
    結果
    HSRPの目標は、医療サービスの質の向上と公平なアクセス確保、持続可能な保健医療財政制度の策定などであり、とくに、プライマリ·ヘルス·ケアが重視された。医療サービス、医療財政、評価という3つの側面からプログラムが組み立てられ、パイロット5県で開始された。Family Health Model (FHM)では、家族単位で特定の医師·医療施設に登録し、Basic Benefits Package (BBP)とよばれる基本的医療サービスを提供した。医療費支払機関として、新たにFamily Health Fund (FHF)が設立された。しかし、保険基金としては十分機能せず、一次拠出金をプールして医療従事者にインセンティブを提供する役割に留まり、財政的持続可能性は乏しかった。また、医療施設の認定と、インセンティブを伴うパフォーマンス評価からなる医療サービス評価が行われ、医療サービスの質が確保されるようになった。その他、医療従事者の教育プログラム強化、地方の医療施設の設備·機材の改善、リファラルシステムの向上なども実施された。
    結論
    エジプトで実施されたHSRPは、家族単位での登録システムを初めてパイロット県に導入し、基本的医療サービス提供に重点をおいて、公平性、効率性、質の向上を、ある程度達成することができた。しかし、持続可能な医療保険制度を確立することや、民間医療提供者に一定の役割をはたしてもらう段階には、及ばなかった。今後は、エジプト政府全体のコミットメントを引き出し、国民全体に質のよい保健医療が保障される仕組みを形成していくことが必要とされる。
資料
  • 吉水 清, 児玉 豊彦, 小栗 清佳, 藤本 裕二, 神崎 匠世, 梅崎 節子, 賀 加貝, 新地 浩一
    2011 年26 巻1 号 p. 21-28
    発行日: 2011/03/20
    公開日: 2011/05/19
    ジャーナル フリー
    「国際保健」や「国際看護」のイメージは国により異なる。本研究は、2007年から2008年において、「国際保健」と「国際看護」のイメージについて、自記式質問紙調査票により検討を行った。調査票の配布は、フィジー人大学生49名、台湾人大学生85名、日本人大学生377名である。有効回答は、フィジー人大学生45名(91.8%)、台湾人大学生69名(80.0%)および日本人大学生352名(93.4%)であった。結果は次の通りである。
    「国際保健」のイメージについて、「発展途上国における保健衛生」と答えた学生は、日本人看護学生の96%、日本人医学生の89%、日本人の医学部以外の4学部の学生の77%、フィジー人大学生の58%、台湾人大学生の26%であった。「国際看護」のイメージについて、「発展途上国における看護協力」と答えた学生は、日本人看護学生の92%、日本人医学生の92%、フィジー人大学生の40%、台湾人大学生の35%であった。「国際保健」と「国際看護」の主なイメージについては、フィジーと台湾の大学生は「国内在留外国人の保健衛生」と「先進国における看護技術やシステム」であった。3ヶ国の多くの大学生が「国際保健」と「国際看護」に大きな関心をもっていた。
    この結果には、日本の大学生が国際情勢を知る機会が増えてきたことが影響していると考えられる。今後の国際保健に関する教育や人材育成が重要であることが示唆された。
  • 川端 眞人, 松口 素行, 小林 大登
    2011 年26 巻1 号 p. 29-37
    発行日: 2011/03/20
    公開日: 2011/05/19
    ジャーナル フリー
    JICAソロモン国マラリア対策強化プロジェクトは2010年1月に作業を完了し、業務完了報告書を作成した。この資料は報告書の「教訓と提言」に加筆したものである。他の途上国と同様にソロモン諸島でもマラリアサービスが末端まで提供されず、サービスへのアクセスから隔離された地域ではマラリアに感染すると重症化しやすく、死亡率も高い。この資料では、医療従事者の再研修や運用面での改良などシステムの強化とコミュニティのオーナーシップの醸成、加えて、医療者の臨機応変な判断力と使命感の大切さを強調した。さらに、医療資源に制限のある途上国で過剰のプロジェクトを自力で運営するには限界がある。当該国に適正サイズのプロジェクトの導入を提言した。
    20世紀末にスタートしたロールバックマラリア計画では1990年のマラリア負担を基準に2010年までに半減すること数値目標とし、ミレニアム開発目標では、その数値を採用した。一方、2008年に発表したMAP((Malaria Action Plan)では中期目標として2015年までにマラリア死亡をゼロに近づけると、ハードルを一気に高く設定した。その背景にはさまざまな意図や思惑がみえる。国際保健の領域では10年周期で潮流が変動しており、新しい流れが目前に迫っている。新しい潮流が途上国に有益なものか否かは慎重に見極めなくてはならない。
  • 大澤 絵里, 児玉 知子
    2011 年26 巻1 号 p. 39-46
    発行日: 2011/03/20
    公開日: 2011/05/19
    ジャーナル フリー
    背景
    今日のglobal healthが直面している世界的な課題の一つに医療専門職の不足や不均衡な配分がある。さらにその問題に拍車をかけているのが、HIV/エイズの蔓延である。そのような状況下で、医療専門職と非医療専門職間にて職務の役割移行(task shifting approach)が進められている開発途上国では、地域における予防活動、ケア、抗HIV治療(Antiretroviral Therapy; ART)の支援者などの必要性から、保健ボランティアであるCHW(Community Health Worker)が再び注目をあびるようになった。
    目的
    本研究では、HIV/エイズケアに従事する保健ボランティアの活動継続を支える環境についてモチベーションに焦点をあて、考察することを目的とする。
    方法
    PubMed database用い、16の組み合わせで検索を行い、文献レビューを行った(第1キーワード : 「Motivation」、第2キーワード : 「HIV」「AIDS」、第3キーワード「community health aides」、「community health workers」「community workers」「lay counselors」「adherence support workers」「adherence counselors」「care givers」「volunteers」)。
    結果
    ヒット290件のうち、9件が本研究の条件を満たす論文であった。8件が先進国から、残りの1件が開発途上国からの報告であった。また6件の文献では、研究対象者の半数はHIV陽性者や同性愛者、両性愛者であった。全ての文献を通して、「他の人やコミュニティに貢献したい」「自己成長のため」が活動の参加、継続の理由であった。特に活動継続のモチベーションには、「他メンバーやスタッフからのサポート」「(周りからの)評価」があり、開発途上国特有のモチベーションとして、「正規雇用への期待」が見られた。
    結論
    先進国、開発途上国問わず、HIV/エイズケアに従事する保健ボランティアの基本的なモチベーションは類似している。しかし、保健ボランティアを保健システムの一部として活用している開発途上国において、安定したケアを持続的に提供するためには、十分かつ継続的なサポートと監督が必要となる。またHIV陽性者自身がHIV/エイズケア提供者として大きな役割を担うことが、HIV/エイズの継続的なケアを支える重要な要素ともなりうる。今後も、医療専門職不足、HIV/エイズの蔓延の二重負担により、非医療専門職へのサービス提供職務の役割移行がすすめられる開発途上国において、HIV/エイズケアに従事する保健ボランティアのモチベーションに影響する要因を探究していく必要がある。
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