国際保健医療
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25 巻, 2 号
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原著
  • 松井 三明, 池田 憲昭
    2010 年 25 巻 2 号 p. 69-78
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/09/06
    ジャーナル フリー
    目的
     母性保健の分野では、妊産婦死亡率が課題の把握や対策策定に用いられる。しかし、その算出は推計によることが大半であり、誤差範囲が広いことなどから、比較的小規模の人口集団を対象としたプログラムのモニタリングや地域間の比較に用いることはできないことも知られている。本研究では、セネガル国タンバクンダ州において、De Brouwereによって提唱された“unmet obstetric need”指標を用い、重症産科合併症に起因する妊産婦死亡の推計を行い、同指標の妊産婦死亡削減対策における利用可能性について考察することを目的とした。
    方法
     2005年にタンバクンダ州および隣接するカオラック州の7医療施設で実施された帝王切開について、その適応と患者居住地を調査し、タンバクンダ州居住者に対して実施された帝王切開数および率を求めた。また帝王切開を実施しなくては死亡に至る可能性が高い「絶対的母体適応」という重症産科合併症群を定義し、それに対して必要な手術数をタンバクンダ州内各保健管区について推計し、実際に提供された手術数との差を求めた。この差が、重症産科合併症を発症したにもかかわらず病院で適切な医療サービスを受けることなしに妊産婦死亡に至った症例数と仮定し、各保健管区ごとに絶対的母体適応に起因する妊産婦死亡率を推計した。
    結果
     タンバクンダ州内の6保健管区における帝王切開率は、全適応に対しては0.3-2.0%、絶対的母体適応に対しては0.1-0.9%に分布した。タンバクンダ州の絶対的母体適応に起因する妊産婦死亡率は651(95%CI 554-761)、また保健管区ごとでは、クンペントゥム 966(741-1239)、グディリ 877(588-1260)に対し、ケドゥグ 249(119-457)、バケル 296(128-584)と、統計学的有意差がみられた。
    結語
     本調査から、“unmet obstetric need”指標を用いて、州内保健管区の絶対的母体適応に起因する妊産婦死亡の違いを明らかにすることが可能であった。この手法を適用することで、妊産婦死亡の現状を把握し対策策定に用いることができるだけでなく、地域間の比較、トレンドのモニタリング、プログラムの評価に用いることができる可能性が示唆された。
  • -重度障害を持つ患者の処遇改善に向けて-
    渡辺 弘之
    2010 年 25 巻 2 号 p. 79-87
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/09/06
    ジャーナル フリー
    目的
     ベトナムはかつて有数のハンセン病流行国であったが、1982年から83年にかけて本格的に導入された Multi-drug Therapy(MDT)と国を挙げたハンセン病制圧への取り組みによって、1995年にWHOの制圧目標値(有病率を人口1万人あたり1人以下とする)をベトナム全国レベルで達成することとなった。
     一方、多数の元患者がハンセン病村などでの生活を送っている。これらの元患者は重度の身体障害や後遺症を有している者が多いにもかかわらず、その生活の質を向上させる上での取り組みがなされているとは言い難い。
     本論では、このような現状についてベトナムにおけるハンセン病専門治療施設およびハンセン病村にて実施した調査結果から把握し、ハンセン病によって生じた障害の程度の違いから、ベトナムのハンセン病対策の現状と課題について明らかにすることを目的とする。
    方法
     ベトナムのハンセン病治療施設でハンセン病および後遺症の治療を受けている患者、ハンセン病村で生活している元患者の402名から調査を行い、身体障害の状態をWHOによるハンセン病の障害程度区分によって分類した他、上肢・下肢・容貌の各部位における障害発生状況について確認した。
    結果
     ハンセン病による身体障害をWHOのハンセン病障害程度スケールによって分類したところ、「目に見える変形や損傷がある」(G2)群が全体の70.1%、「目に見える変形や損傷はないが知覚麻痺がある」(G1)群が18.9%、「知覚麻痺もなく目に見える変形や損傷がない状態」(G0)の群が10.9%という結果となった。可視的な身体障害を持つ群の半数以上は60歳代と70歳代に集中していた他、MDTが導入される以前に発病した群の方が身体障害の程度が高い傾向がみられた。また、重度の身体障害が発生している群は後遺症の治療が長期化している結果となった。
    結論
     MDTは身体障害の発生予防に効果的であることが再確認されたが、MDTが導入される以前に発病した元患者の多くは現在もなおハンセン病による後遺症に苦しみ、重い身体障害のためにハンセン病村等での生活を余儀なくされるといった困難な状況に置かれていることが判明した。ベトナムは新規患者発生率の減少に成功したものの、こうした患者の処遇には取り組まれておらず、今後生活の質を向上させるための取り組みが必要である。
活動報告
  • -研修終了時に作成した活動計画の実施に向けた課題とフォロアップによる介入-
    藤田 則子, 後藤 美穂, 松本 安代, 永井 真理, 堀越 洋一, 杉浦 康夫, 三好 知明, 仲佐 保
    2010 年 25 巻 2 号 p. 89-97
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/09/06
    ジャーナル フリー
    目的
     国際協力活動における研修終了後のフォロアップの機会は限られており、研修が中・長期的なインパクトを与えるために研修で学んだ内容を実践につなげられたのか、また研修の成果である活動計画を帰国後に実施する上での課題は何か、を研修実施機関が知り、後続の研修に活かせる機会は少ない。仏語圏アフリカ諸国を対象とし日本で実施された母子保健集団研修を例にとり、研修実施機関による研修フォロアップとその介入活動を通じて研修がより有効になるための条件を考察したので報告する。
    方法
     研修実施機関の研修実施者が、研修終了後にセネガル・ベナンの2カ国を訪問し、研修参加者と現場の日本人を含む関係者に対して、研修終了時に作られた活動計画の実施状況と実施に関わる問題点に関して面接を実施した。面接結果に基づき研修参加者の活動計画実施に寄与した要因を分析し、訪問中に研修参加者や関係者との協議などの介入を行った。
    結果
     セネガルでは過去の研修参加者が本邦研修で立案した活動計画は、所属する組織や現地で実施中のJICAプロジェクトに共有されず、実現には至っていなかった。研修実施者によるフォロアップを通じて関係者が一堂に会する機会を設け、プロジェクトのコンセプトや実現しようとしているケアのモデルを図式化するという介入を行った。その結果、研修参加者が作成した活動計画をプロジェクト活動の中に組み込み、実施する見通しが立てられるようになった。また組織の長がプロジェクト活動における研修の位置付けや目的を理解し、研修員の人選から戦略的に関わることの効果も示唆された。
     ベナンの研修参加者は、基幹病院からの意思決定者であり、病院運営改善の取り組みの中で帰国後に研修で学んだ「人間的な出産ケア」を実行していた。研修実施者が訪問時に行ったのは研修参加者や現場のスタッフの努力を評価し、支持することであった。研修後に自分たちで主体的に方向性を見出して活動計画を実行し始めても、継続することが困難な場合も多く、研修実施機関からのフォロアップが研修参加者たちを支援する役割を果たすことが示された。
    結語
     国際協力活動の中で研修が効果を上げていくためには、現地での協力事業の戦略が立てられていること、その中での研修の位置づけが明確になること、が前提条件と考えられた。それを踏まえて、研修参加者の戦略的な選定、研修後のフォロアップの準備が可能になると思われる。ここに研修実施者による介入が加わればさらに研修の効果が期待できるであろう。
  • 野崎 威功真, 垣本 和宏, Christopher DUBE, Charles MSISUKA, 仲佐 保, James B SIMPUN ...
    2010 年 25 巻 2 号 p. 99-105
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/09/06
    ジャーナル フリー
     ザンビア国は、HIV感染拡大の深刻なサハラ以南のアフリカのなかでも、特に大きな影響を受けている国の一つである。ザンビア政府は、抗レトロウイルス療法(ART)をすべての郡に拡大したが、病院レベルであり、農村部に住む多くのHIV感染者にとってARTへのアクセスや治療の継続には未だ負担が大きかった。ヘルスセンターのレベルまでARTを拡大することが望まれているが、医療従事者などの保健資源が限られた環境の中では多くの困難を伴っていた。
     2006年4月に開始したJICAによる「HIVエイズケアサービス強化プロジェクト」では、ARTサービスの質の向上とアクセス改善をめざし、チョングウェ郡およびムンブワ郡においてモバイルARTサービスを導入した。モバイルARTサービスとは、単体ではARTサービスを提供できないヘルスセンターにおいて、郡病院からの人的・技術的支援のもとARTサービスを提供するものである。既存の保健システムを活用する点と、人材不足を補うためにコミュニティの巻き込みに積極的に取り組んだ点に、プロジェクトで開発したモデルの特徴がある。モバイルARTサービスの導入により、両郡でのART患者数は大幅に増加し、治療開始後6ヶ月以内の治療脱落率が減少するなど、ARTへのアクセス改善の成果が認められた。
     コミュニティを有効に巻き込んだモバイルARTサービスは、医療資源が限られた農村地域においても、より住民に近い場所で治療を含むHIVケアサービスを提供することが可能であることを実証した。この経験に基づき、ザンビア国保健省は「モバイルHIVサービスガイドライン」を発行し、他の郡への導入計画を開始している。
資料
  • -ベクター伝播疾病対策のための新世界戦略-
    一盛 和世, 矢島 綾, 肥田野 新
    2010 年 25 巻 2 号 p. 107-112
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/09/06
    ジャーナル フリー
     近年、病気を媒介する蚊などの生物〈ベクター〉が注目され、その対策の重要性が認識されてきている。その背景には、地球温暖化や貧困など、地球規模の健康問題が国連のミレニアム開発目標(MDG)などでクローズアップされ、世界の関心がアフリカや熱帯、感染症などに向いてきたことがあると思われる。

     世界保健機関(WHO)は2004年に「総合的ベクター対策管理に関する世界戦略枠組み(Global Strategic Framework on Integrated Vector Management)」として総合的ベクター対策管理(IVM)の基本概念を提唱した。また、2008年には「総合的ベクター対策管理に関するWHO声明(WHO Position statement on integrated vector management)」を発表し、IVMの概念とそれに関する世界の動きについて概説した。本稿ではWHOのイニチアチブで発表されたこの声明を紹介する目的でこれを翻訳する。

     IVMとは、『与えられた資源を最大限に利用してベクター対策を行うための合理的政策決定プロセス』であり、「ベクター伝播疾病の予防と対策に対して大きく貢献すること」を目標とする。「総合的管理」の概念は、もともと農業部門における「総合的害虫対策 (Integrated Pest Control)」に端を発している。IVMの実施には、制度を整備し、規制の枠組みや決定基準を確立し、そしてコミュニティーレベルにも適用可能な手順を構築することが必要となる。また、異なる部門間の横断的な協働体制を支え、ベクター対策活動を可能とする政策決定能力と技術を確立することも不可欠である。

     2009年11月に、WHOジュネーブ本部において第1回IVMステークホルダー(利害関係者)会議が開催され、世界各国のベクター伝播疾病対策プログラムや政府・国際機関、ドナー機関、研究者その他多くのステークホルダーが出席した。そこで、科学的根拠に基づいたIVMの政策決定をさらに強化するためのロードマップが策定され、その実施を支援するパートナーシップメカニズムの構築が約束された。
  • 入山 茂美
    2010 年 25 巻 2 号 p. 113-119
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/09/06
    ジャーナル フリー
    目的
     本研究は、日本人看護学生に、国際保健看護教育科目を開講する妥当な時期を検討することを目的とした。
    方法
     国際保健看護教育科目を初めて受講した日本人看護学生にアンケート調査と定期試験を行った。そのアンケート調査は、国際保健看護教育科目の講義を受講した学生のうち、同意を得られた学生を対象に1回目の講義時と最終講義時の2回、無記名自記式質問票を用いて実施した。また、最終講義終了後1週間以内に国際保健看護教育科目の定期試験を実施した。1回目のアンケート調査の分析対象者は127名(3年次生70名、4年次生57名)、2回目のアンケート調査の分析対象者は96名(3年次生52名、4年次生44名)で、定期試験を受けた学生は、137名(3年次生78名、4年次生59名)であった。
    結果
     4年次生は、3年次生よりも自己評価による国際保健看護教育科目の学習理解度や定期試験による成績評価が有意に高かった(それぞれP < 0.001)。海外旅行経験は、自己評価による学習理解度と関係し、3年次生よりも4年次生に経験者が有意に多かった(P < 0.001)。交絡因子である海外旅行経験を調整した後も、4年次生の自己評価による成績評価は、3年次生よりも有意に高かった。開発途上国の保健医療問題では、共通オッズ比(95%信頼区間)は、249.26 (35.56-1747.31)、疾患の理解では、共通オッズ比(95%信頼区間)は、71.91(14.77-350.17)であった。
    結論
     国際保健看護教育科目は、4年次で開講することにより、学習効果はより高まる可能性が示唆された。
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