都市計画論文集
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47 巻, 3 号
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  • 公益的施設の屋上緑化の実態から
    中林 俊輔, 岸井 隆幸, 大沢 昌玄
    2012 年47 巻3 号 p. 475-480
    発行日: 2012/10/25
    公開日: 2012/10/25
    ジャーナル フリー
    近年、ヒートアイランド現象に伴うゲリラ豪雨が問題視され、その対策の一つに屋上緑化がある。条例で一定規模以上の建物を新築・増築等する場合、その建物の利用可能な屋上面積を緑化することを義務付け、併せて設置の技術基準を規定しているが、屋上緑化の内容・使われ方、竣工後の持続的確保の点については不明確である。建物竣工時には屋上緑化していたがその後、緑化を止めてしまった屋上もある。また設置基準があるため無理やりに緑化したとも捉えることがでる事例もあり、このことが持続性を阻害する要因とも考えられ、学校や病院など利用されやすい建物用途の屋上に設置し、持続的利用の観点を加えることが必要である。そこで本研究は、東京23区における屋上緑化を「量」「質」の観点から分析を行い、竣工後の持続性を中心に屋上緑化の今後のあり方を考察する。その結果、緑地の計画・施工時のみ条例に基づいて確認しているに過ぎず、竣工後緑地が確保され続けているか確認できる手段を有していなかった。またアンケート結果より、屋上緑化をどのように活用するかの方策がないと、持続的に確保されにくく、維持されない傾向にあることがわかった。
  • 金子 友美
    2012 年47 巻3 号 p. 481-486
    発行日: 2012/10/25
    公開日: 2012/10/25
    ジャーナル フリー
    本稿は、ロンドンにおける76のガーデン・スクエア等の現地調査の報告である。ガーデン・スクエア等は、管理と規制において、世界の他のオープンスペースと比較して独特なものである。筆者はこれらの特徴に着目し、調査項目による事例の分布図とクロス集計表を作成した。その結果、ガーデン・スクエア等の庭園部と街路部による空間構成は19世紀から変わっておらず、都市に緑地環境を提供してきたが、現在では地域によって管理者の違い、空間の利用に対する規制などにより都市における役割が異なることが示された。今日ロンドンがこうした空間を保持し続けている背景には法的な保護もある。地域の実情に合わせて使い方を変えることはあっても、緑地としては保持されていくガーデンスクエアの形態がロンドンにおける一つのオープンスペースの典型として存在し続けるであろう。
  • 横浜市を対象として
    武田 祥平, 村木 美貴
    2012 年47 巻3 号 p. 487-492
    発行日: 2012/10/25
    公開日: 2012/10/25
    ジャーナル フリー
    我が国では、人口減少と高齢人口増加の観点から、コンパクトシティの構築が求められている。コンパクトシティ実現に向けて国土交通省は、郊外住宅地の計画的な撤退と集約拠点整備を一体的に進めるツイン戦略を提唱している。その財源確保について、同戦略は、開発権移転制度(TDR)を取り入れることを想定しているが、現時点では具体的なスキームの設計や実現可能性の検証が行われていない。そこで本稿では、郊外住宅地撤退スキームと、TDRとの連動による事業費の捻出手法の可能性を、横浜市でのケーススタディより明らかにすることを目的とする。結論として、本稿で提案した撤退スキームにより、行政に金銭的な負担を強いることなく撤退事業を実行することが可能であること、撤退後の用地は大規模太陽光発電事業用地としての転換が有効であること、の2点が明らかになった。しかしながら、都市撤退を実現するにあたっては、集約拠点の割増床の需要喚起と、撤退地の土地所有者の合意形成、が課題と考えられる。
  • 千葉県佐倉市の住宅団地を対象に
    三宅 亮太朗, 小泉 秀樹, 大方 潤一郎
    2012 年47 巻3 号 p. 493-498
    発行日: 2012/10/25
    公開日: 2012/10/25
    ジャーナル フリー
    開発年次の古い郊外の戸建て住宅団地では、世帯数の減少による空き地・空き家の増加が起きており、住環境の悪化が懸念される。本研究では、空き地・空き家の「管理」の実態について調査・分析を行うことにより、空き地・空き家のもたらす住環境に対する悪影響の緩和のための基礎的知見を得ることを目的とする。研究で得られた主な知見は以下の通りである。第一に、空き家と管理状態の悪い空き地は、遠方の親族が相続によって取得したものや、転出後も登記が更新されていないものが多く、土地への関心の薄さが管理状態を悪化させると言える。第二に、空き地・駐車場の4割は、団地内居住者が所有しており、比較的良好に管理されている。第三に、空き地・空き家は治安面・衛生面において、住環境に悪影響をもたらしており、治安面では特に空き家が問題視されている。第四に、空き地・空き家は所有者以外の人が管理に携わっている場合があり、所有者に無許可で清掃等による管理を行っているものもある。
  • まちなか居住促進に向けた考察
    菅野 涼介, 樋口 秀, 中出 文平, 松川 寿也
    2012 年47 巻3 号 p. 499-504
    発行日: 2012/10/25
    公開日: 2012/10/25
    ジャーナル フリー
    地方都市ではまちなか居住の推進に伴い、分譲マンションが建設されている。しかし、分譲マンションは建物更新の問題点が指摘されている。一方で、定期借地権を利用した分譲マンション(定借マンション)は、土地の更地化が義務化されているため建物更新性を持つ制度といえる。本研究では地方都市を研究対象として、まちなかに立地する定借マンションの活用実態とその関係者の意識を明らかにし、今後の供給に向けた課題を抽出することを目的とする。その結果、(1)定借マンション自体に課題は見られないこと、(2)定期借地権に対する地権者・居住者の認知が不足していること、(3)定借マンションは分譲マンションと比較して事業者にメリットが少ないことが明らかとなった。これらを踏まえて本研究では、今後の定借マンション供給の在り方を提言した。
  • 郊外戸建開発団地と隣接既成市街地の比較研究
    酒本 恭聖, 瀬田 史彦
    2012 年47 巻3 号 p. 505-510
    発行日: 2012/10/25
    公開日: 2012/10/25
    ジャーナル フリー
    郊外戸建開発団地における人口減少及び少子高齢化が深刻な問題として認識されている。これらの団地では、人口が増加傾向にある周辺の既成市街地よりも厳しい建築規制が導入されているのが一般的である。本研究の目的は、兵庫県川西市における民間開発者によって30年以上前に開発されたいくつかの郊外戸建開発団地とその周辺の既成市街地を比較し、郊外戸建開発団地における人口減少及び少子高齢化対策としての建築規制の適切な方向性を示唆しようとするものである。
  • 小泉 秀樹, 大宮 透
    2012 年47 巻3 号 p. 511-516
    発行日: 2012/10/25
    公開日: 2012/10/25
    ジャーナル フリー
    本研究は、南関東地区におけるまちづくり条例にもとづくテーマ型提案制度の普及実態と運用実績について分析を行い、その意義と課題を明らかにしたものである。
  • 佐藤 雄哉, 松川 寿也, 中出 文平, 樋口 秀
    2012 年47 巻3 号 p. 517-522
    発行日: 2012/10/25
    公開日: 2012/10/25
    ジャーナル フリー
    本研究は、都市計画区域外の建築形態制限を目的とする地方公共団体制定条例の実態を全国的に把握し、指定経緯や課題を提示している。本研究では、以下の点が明らかになった。現在、全国では建築形態制限を目的とした11の条例が都市計画区域外の区域を対象として制定されている。条例制定目的を見ると、都市計画区域外の乱開発の防止が最も多い。また、半数以上の条例では、対象とする区域が個別規制法との重複面積が5割以下である。さらに、条例が対象とする区域は宅地として利用されていない場合が多い。以上の結果から、建築基準法に基づき知事が指定する区域の定期的な見直しの必要性や都市計画区域外での提案型の土地利用規制の必要性を指摘した。
  • 足立区六町地区を事例に
    今西 一男
    2012 年47 巻3 号 p. 523-528
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/10/25
    ジャーナル フリー
    これまで土地区画整理事業では小規模宅地に対する減歩緩和措置が採られてきた。しかし、その原資となる宅地の確保をめぐる負担の公平性の問題や、減歩緩和措置が採られた小規模宅地の高度利用や転売といった「看過される増進」の限定という問題は未整理のままであった。そこで本研究では増進を限定するとともに、その担保となる都市計画の位置づけを伴う「低増進街区」を区画整理施行地区に設定する意義と課題について検討した。事例として足立区六町地区における2階建て街区の実現過程を整理するとともに、その成立条件と課題を抽出することから目的に対する示唆を得た。六町地区ではダウンゾーニングを根拠とする換地設計により清算金徴収を減じつつ2階建て専用住宅という従前の土地利用を保全した。だが、その普遍化のためには隣接する他の街区とも調和する地区計画や、宅地面積を増やす小規模宅地対策の導入をなお検討する必要がある。また、負担の公平性の問題については、綿密な合意の過程を踏襲するとともに、施行者が権利者の換地の利用を制約できないという原理的な障壁を検討していく必要がある。
  • 五島 寧
    2012 年47 巻3 号 p. 529-534
    発行日: 2012/10/25
    公開日: 2012/10/25
    ジャーナル フリー
    台湾都市計画令は、内地の都市計画法と市街地建築物法を一体化した先進的法令と言われる。しかしながら、近代都市計画導入過程において、法令の立案は計画策定よりも4年遅れている。この遅れは、台湾の委任立法法制度と大いに関係がある。本研究は、台湾の委任立法制度の変遷、都市計画法令の検討が棚上げされた理由、台湾都市計画令の構造を分析した。台湾都市計画令の制定上の課題は、台湾の特殊事情の反映と、法令の体系化の両立であった。
  • 主体の役割と都市マネジメントに着目して
    内海 麻利
    2012 年47 巻3 号 p. 535-540
    発行日: 2012/10/25
    公開日: 2012/10/25
    ジャーナル フリー
    近年、日本では、地方分権を背景として、地域の実情に即して、資源、人材や組織を活かしながら観光政策や都市マネジメントを推進していくことが重要になってきている。とりわけ、基礎自治体を重視した公共団体間の役割分担の明確化や、公共団体と民間主体が協調し、民間が力を発揮できるために、各主体の法制度上の位置づけが課題とされている。一方、フランスでは、1980年代以降の地方分権改革に伴い、制度・機構改革が行われてきており、これまで地域振興や観光政策を担ってきた非営利団体等やその活動を、基礎自治体が公認する「公定化」の仕組みが制度上整えられてきている。そこで、本研究では、フランスの観光政策の主体に着目し、観光政策にかかわる法制と政策主体の活動実態を「地方分権」「公定化」という観点から考察することで、各主体の役割や制度上の位置づけを明らかにし、都市マネジメント主体のあり方を示唆する。
  • ホーチミン市におけるゾーニング計画及び建築管理ガイドライン制度の適用事例の分析を通じて
    松村 茂久, 澤木 昌典, 柴田 裕
    2012 年47 巻3 号 p. 541-546
    発行日: 2012/10/25
    公開日: 2012/10/25
    ジャーナル フリー
    2009年ベトナムではじめてとなる都市計画法が公布され、新たに「ゾーニング計画」及び「建築管理ガイドライン制度」が導入された。これらの制度は、経済体制の移行期にあるベトナムの都市における都市開発を適切にコントロール手段として活用されることが期待されている。本稿は、ベトナムではじめてこれら2つの制度を同時に適用した計画を策定したホーチミン市における適用状況を分析するものである。ホーチミン市では、これらの制度を適用した計画を策定するに当たり、制度の不備を補うためのいくつかの特例的な対応を行っている。これらの対応は今後のベトナムにおける都市計画制度の改善の方向性を示唆しているものと考えられる。
  • 東北地方太平洋沖地震による浦安市埋立て地区の事例
    齊藤 広子, 中城 康彦
    2012 年47 巻3 号 p. 547-552
    発行日: 2012/10/25
    公開日: 2012/10/25
    ジャーナル フリー
    東日本大震災による埋め立て地の戸建住宅の被害、生活への影響、復旧上の課題を明らかにした。対象地は千葉県浦安市で罹災証明上の判定、居住者アンケート調査、関係機関への聞き取り調査を実施した。結果、調査対象戸建住宅の約9割が建物被害を受け、内容は沈下や傾斜が多いが、被害が一律ではない。杭がある場合に被害がやや少ないが、被害が全くないわけではない。敷地や地盤の被害は約8割でみられ、砂の噴出、沈下や隆起などである。液状化によるライフライン停止をはじめ、生活への影響が大きく、約2割の世帯が避難し、2調査地区では人口が約1割減少した。初動期の復旧がなかなか円滑に行われない。その理由に、情報不足などがある。また、入居時に液状化に対する情報不足から、被害予防策を講じている人が少ない。今後液状化による住宅被害の予防には埋立て地の宅地基盤整備基準整備や、個人レベルで予防策を講じるには災害危険度の情報、特に土地地盤情報の生成と開示の促進といった市場も含めた社会システムの整備が必要である。
  • 岩手県陸前高田市に設置した「りくカフェ」を事例として
    大宮 透, 小泉 秀樹, 後藤 智香子, 成瀬 友梨, 猪熊 純
    2012 年47 巻3 号 p. 553-558
    発行日: 2012/10/25
    公開日: 2012/10/25
    ジャーナル フリー
    本研究では、震災によって人的・物理的に最も大きな被害を受けた自治体の一つである岩手県陸前高田市において、住民発意のもと、地元住民と筆者らが協働して設置し、住民主体のもと運営されているコミュニティ・スペース「りくカフェ」を事例として、その設置に至る経緯や実際の運営状況について分析を行った。その結果、大規模災害時の仮設期のまちづくりにおいて、コミュニティ・スペースが果たす意義を、設置主体、プロセス、機能面から整理した。結論としては、りくカフェが公的主体に依らない産学民の協働によって設置されたこと、仮設-本設のプロセスによって、早期にコミュニティ・スペースを設置でき、実験的な運営試行による運営主体の育成や空間面における実効的な利用検討がなされたこと、また、地域内外からの利用者が気軽に憩い、活動拠点とし、様々な繋がりが創出される場として機能していることを意義とした。
  • 長屋再生型店舗の集積形成プロセスと地元住民との関係性に着目して
    前田 陽子, 瀬田 史彦
    2012 年47 巻3 号 p. 559-564
    発行日: 2012/10/25
    公開日: 2012/10/25
    ジャーナル フリー
    都心に近接した長屋混合型密集市街地のなかには、近年、その独特の雰囲気と若者による店舗進出を背景に新しく魅力的なまちとして大いに注目を集めている地区がある。この研究の目的は、大阪中心部に位置する中崎地区を対象として、長屋再生型店舗の集積形成過程を分析し、中崎地区が地域ブランド化していく変遷をたどり、さらに新しい店舗経営者と従前から存在する地域コミュニティとの関係性について明らかにすることである。新しい店舗経営者の多くは外部からの若者で、地元住民との近所づきあいにもさほど積極的とはいえない。しかし最近では、自発的に地元の地域振興会に加わり、地域活動に貢献する店舗経営者も現れ始め、中崎地区の店舗と既存コミュニティの関係性は新しい段階に入りつつあると考えられる。
  • 片桐 由希子
    2012 年47 巻3 号 p. 565-570
    発行日: 2012/10/25
    公開日: 2012/10/25
    ジャーナル フリー
    多摩川中流域を対象として、街区制導入以前の区画である小字を環境単位とし、農業用水路を軸とした緑のネットワークの状況を把握し、河川中流域の市街地におけるグリーンインフラストラクチャの形成の可能性について検討した。当該地の水路網跡全長で46,606m、このうち半分が道路化、3割近くが公園緑地もしくはオープンスペースとして残されている。また、小字を単位とすることで、地形の構成パターンと土地利用、水路網の形状とを関連づけて示すことができた。水路網を軸とした緑のネットワークは、段丘斜面下部の水路跡や、幹線的な水路の間を生産緑地を経由しながら連結するなど、農村の生産・生活基盤にそった空間構造、グリーンインフラストラクチャの核としての生産緑地の位置づけが重要であることが示された。
  • アムステルダム市アイブルグ開発の事例
    松行 美帆子, 木下 瑞夫
    2012 年47 巻3 号 p. 571-576
    発行日: 2012/10/25
    公開日: 2012/10/25
    ジャーナル フリー
     本研究の目的はオランダにおける開発事業によるエコロジカルネットワークの損傷への補償制度の仕組み、具体的な制度の運用実態を明らかにし、我が国における補償制度の適用について考察することである。制度の分析とアイブルグ都市開発における事例分析の結果、以下のような制度の特徴が明らかになった。1)補償制度は、回避できず、その開発が公共の利益を盛り超えるような事業、計画、活動にのみ適用され、悪影響の軽減策の後に実行されるものである。2)補償制度により既存のエコロジカルネットワークが強化される可能性がある。3)基礎自治体が制度の実行において重い責任を負っている。4)近傍で無い場所での補償、金銭面での補償も条件を満たせば可能であり、柔軟な補償方法が提示されている。5)実際には、新規の造成工事など、金銭的にも大規模な補償プロジェクトが行われている。
  • 港区北部地域を対象として
    高取 千佳, 石川 幹子
    2012 年47 巻3 号 p. 577-582
    発行日: 2012/10/25
    公開日: 2012/10/25
    ジャーナル フリー
    大都市圏都心部では、高密な市街地内部における緑地の創出による熱環境の改善が着目されている。特に近年では、航空写真や衛星画像による緑被地抽出・解析技術の発達と合わせ、評価対象とされ始めたマトリクス(基質:パッチやコリドーの周辺部であり、民有地を含む都市の総体)が注目されており、その適切な分類・把握方法が必要とされている。本研究は、東京都心部におけるマトリクス環境とその変化を明治期・現代の二時期において明らかとするものである。対象地は、東京大都市圏都心部における港区北部地域とする。本地域は、建築環境が三次元的に大きく変化し、熱環境への影響が注目される地域である。手法としては、詳細なデータベースの構築を行ったのちに、明治期と現代におけるマトリクス・パターンを内部の構成要素としての建築・緑地環境よりユニットに分類を行った。そのパターンと地形における位置づけの観点から、二時期における変化を定量的に明らかとした。
  • 春と秋の高山祭りを事例として
    松浦 健治郎
    2012 年47 巻3 号 p. 583-588
    発行日: 2012/10/25
    公開日: 2012/10/25
    ジャーナル フリー
    本稿では、巡行型祝祭の代表例として日本三大曳山祭の一つである岐阜県高山市の秋の高山祭りを対象として、都市空間と祝祭空間との関係性を都市形態学的に明らかにすることを目的とする。明らかとなったのは、第1に、都市空間の変化に応答するように祝祭空間も柔軟に変化してきたこと、第2に、高山祭の特徴のひとつとして、建築の内部空間と街路空間とを簾や垂れ幕により明確に分離することにより、ハレの空間(街路空間)とケの空間(建築の内部空間)を演出していること、第3に、祝祭空間を都市空間と祭行事の内容により類型化することにより、特徴的な都市空間に合わせて効果的に祝祭空間を演出していることを理解できること、第4に、都市空間整備の一部は祝祭時の利用も考慮して行われていたこと、である。
  • 徳島、高円寺、南越谷、大和をケーススタディとして
    藍谷 鋼一郎, 有馬 隆文, 高山 達也, 松山 加菜古
    2012 年47 巻3 号 p. 589-594
    発行日: 2012/10/25
    公開日: 2012/10/25
    ジャーナル フリー
    阿波踊りは、もともとは徳島に伝わる盆踊りであったが、今では徳島市から徳島県全域に広がるだけでなく、関東圏を中心に商店街の振興イベントや町おこしの起爆剤として全国的に拡がっている。祭りは一時的な賑わいを生み出し、都市の重要な要素となっている。徳島市においては開催期間の4日間に、延べ130万人もの来訪者があるという。来訪者の数においては本場徳島を凌ぐ勢いのものが関東の三都市における阿波踊り、高円寺阿波踊り、南越谷阿波踊り、神奈川大和阿波踊りである。本研究では、四都市における阿波踊りの運営組織や運営方法を比較分析し、それぞれの運営方法と祭りの空間特性や持続性について明らかにし、継続的なイベントとして成功させる知見を見いだす。
  • 千代 章一郎, 山田 恭平
    2012 年47 巻3 号 p. 595-600
    発行日: 2012/10/25
    公開日: 2012/10/25
    ジャーナル フリー
    本稿では、被爆都市における景観研究の一環として、平和記念式典に着目し、その歴史的な景観への眼差しの演出の変遷を明らかにすることによって、記憶を持続するための空間デザイン手法に関する知見を得ることを目的する。 式典において、丹下健三(1913~2005)の構想した南北軸線による眺望景観が演出されてきた。しかし、報道写真から、その軸線は平和記念公園内で切断されていくことがわかる。その一方で、献花を行う参列者からの景観の演出は変化しておらず、丹下健三の構想した軸線と一致している。
  • 熊澤 貴之
    2012 年47 巻3 号 p. 601-606
    発行日: 2012/10/25
    公開日: 2012/10/25
    ジャーナル フリー
    本研究はハムステッド・ガーデンサバーブ・トラストが実施している具体的な機能を調査し,景観デザイン審査の運営に有効な要因を明らかにする.そのため,地元の住民によるボランティア組織Residents Associationが発行しているSuburb Newsの記事とトラストの会計報告書の分析,RAとトラストからヒアリングを実施した.その結果,次の3点が景観デザイン審査の運営に有効な要因であることが明らかにされた.1)自立的な財源を持つことによって独立した活動組織であること.2)独自の調査分析機能を持つこと.3)専門的な内容を住民にわかりやすく伝達し,住民と相互理解を図るメディエーターとしての機能を持つことであること.これらの知見から,我が国の都市環境の保全に向けたデザイン審査には,独立した活動組織,独自の調査分析機能,専門的な内容を住民にわかりやすく伝達するメディエーターという機能が必要である.
  • 鎌倉市中心部の寺社・道路・街区・水路・土地利用の歴史的景観特性アセスメント
    宮脇 勝
    2012 年47 巻3 号 p. 607-612
    発行日: 2012/10/25
    公開日: 2012/10/25
    ジャーナル フリー
    本論では鎌倉市中心部を取り上げ、広がりのある景観の歴史性をエリアで特定し、景観保全に役立てる歴史的景観特性アセスメント手法として、「歴史的景観キャラクタライゼーション」と呼ばれる方法、つまり、土地利用の年代特定により、エリア単位で年代特定を地図上で行い、景観の「時間的奥行き(Time-depth)」から歴史的価値を評価する方法を採用する。さらに、本論の特徴は土地利用の歴史的評価に加え、道路、街区、水路も歴史的景観キャラクタライゼーションに取り込む点にある。本研究により鎌倉市中心部で抽出された1875年以前の歴史的な土地利用エリアに歴史的価値があり、宅地を含む歴史的景観キャラクタライゼーションにより、土地利用について、調査エリアの56%以上に及ぶエリアを地図上に特定し、歴史的価値(持続性の価値及び希少性の価値)を示した。また、歴史的な街区は全街区面積の約45%(約91ha)、歴史的な道路は全道路面積の63%(約70ha)、水路は1875年時と比較して62%(約4ha)が残されており、その位置も特定した。多くは寺社の分布とも重なることを明らかにし、より広範囲の歴史的景観保全を提言している。
  • 新宿区神楽坂における実践を通して
    松井 大輔, 窪田 亜矢, 西村 幸夫
    2012 年47 巻3 号 p. 613-618
    発行日: 2012/10/25
    公開日: 2012/10/25
    ジャーナル フリー
    神楽坂では、2010年から官民協働によって地域内の登録有形文化財を増やす試みが実施され、すでに5件の登録文化財が誕生している。本研究の目的は、地域の歴史的建造物を登録有形文化財に申請する過程において官民協働を行うことの利点と課題を明らかにすることである。登録有形文化財の申請過程における官民協働の利点としては、1)調査費用が補助補助されること、2)行政業務が身近になること、3)行政の情報発信によって住民の歴史的環境に対する意識が啓発されることの3点が挙げられる。一方で、1)所有者と行政の接点が欠如していること、2)市民と行政の思惑の違いによって事業が縮小したこと、3)神楽坂の登録事業を他地区に応用する際には工夫が必要ということを課題として指摘することができる。
  • タイ・パンガー県を事例として
    島川 崇
    2012 年47 巻3 号 p. 619-624
    発行日: 2012/10/25
    公開日: 2012/10/25
    ジャーナル フリー
    過去の災害から復興し、当初住民が「忌まわしい震災を思い起こさせる」ために撤去を希望していた惨禍を敢えて保存して観光資源化することにより、それを見に多くの観光客が訪れるようになったことで、その保存された惨禍が地域アイデンティティの対象へと変容した地域が世界中に幾つか存在する中で、本研究では特にスマトラ沖地震による大津波の被害を受けたタイ国・パンガー県を事例に、惨禍の保存に至ったプロセスを検証した。タイでは地方自治体よりも中央政府、王室等のステイクホルダーがイニシアチブを握って惨禍を撤去するか保存するかを決定している。すなわち、タイでの惨禍の保存の手法はトップダウンで推進されていったことが明らかになった。特に文化省が惨禍を保存して後世まで伝えるための独自予算を持っているところが大きい。
  • 5日本庭園を事例として
    篠部 裕
    2012 年47 巻3 号 p. 625-630
    発行日: 2012/10/25
    公開日: 2012/10/25
    ジャーナル フリー
    都市における高層建築物の林立に伴い都心に残る庭園からも多くの高層建築物が眺望されるようになった。本研究は、わが国の主要な5庭園(偕楽園、兼六園、後楽園、六義園、縮景園)を対象に庭園の周辺景観を保全するための施策を調査し、これらを比較・考察することで、都市部の庭園の景観保全施策の主要な枠組みとその要点を明らかにし、縮景園の周辺景観の保全のあり方を検討した。具体的には、5庭園における景観保全のための制度(風致地区、高度地区、地区計画の有無、庭園周辺の用途地域、景観保全のための目的と基準の概要、事前届出の対象行為、眺望点の有無など)を調査し、これらを比較・考察した。今後の縮景園における周辺景観の保全の諸課題は、(1)事前届出の対象となる建築物の高さの見直し、(2)周辺景観の保全のための地区設定の見直し、(3)庭園の眺望景観を考慮した眺望点の設定、(4)建築物の最高高さ制限の設定、が挙げられる。
  • 神戸市における建築物の形態シミュレーション分析を通して
    三輪 康一, 栗山 尚子
    2012 年47 巻3 号 p. 631-636
    発行日: 2012/10/25
    公開日: 2012/10/25
    ジャーナル フリー
    近年、建築物の絶対高さ制限を導入した高度地区を指定する自治体が増加している。ただ新たに強化される高さ規制のもとで容積率を確保するため、水平方向に長大な建築物が建てられ、景観上影響がでてくることが懸念される。本研究では、絶対高さ制限を付加した新たな高度地区規制の導入が予定されている神戸市事例において、シミュレーション画像をもとに、景観に与える影響を評価し、景観改善手法の有効性を考察することを目的としている。そこで同市の大規模建築物届出制度のデータを用い、現行高度地区のもとで建設された建築物が改正後どれほど高さ規制に抵触するかを量的に把握し、形態変化と景観上の改善手法のシミュレーション画像による景観評価実験を行った。その結果、高度地区改正により大規模建築物の形態は、間口幅や奥行きの増加と敷地境界への壁面の接近が生じ、景観に影響を与える可能性があり、現況の高層の状態と比較して、高さを抑え間口や奥行きを増加させた形態が必ずしも評価がよくなるとはいえないこと。間口幅、水平幅が増加するに伴い開放性が低下する傾向があること。建築物の壁面の分節化が景観のデザイン性に大きく影響することが明らかになった。
  • 中村 南華, 阪本 一郎
    2012 年47 巻3 号 p. 637-642
    発行日: 2012/10/25
    公開日: 2012/10/25
    ジャーナル フリー
    商業地における良好な景観は商業地域の活力の維持に必要である。しかし、商業地区の良好な景観は明確ではない。本論文では、大都市の実際の景観計画を通して良好な景観の概念を見つけることが目的である。この分析を通じて、住宅と同様に「調和」が商業地にとって重要な概念であることを示す。また、池袋と銀座の調査を通じて調和の内容(調和している景観要素が重要であること)を発見することを目的とする。
  • 大山 雄己, 羽藤 英二
    2012 年47 巻3 号 p. 643-648
    発行日: 2012/10/25
    公開日: 2012/10/25
    ジャーナル フリー
    近年、都市縮退や健康、環境保護の流れの中で歩行者を中心とした街路空間の再配分の動きが見られるように、歩行者にとって快適な街路空間を整備する必要性が高まっている。本研究ではこのような背景のもと、渋谷を対象として、街路空間が歩行者の経路選択行動に及ぼす影響を分析した。プローブパーソンデータを用いることでミクロな歩行者行動を分析し、街路レベルでの歩行者の行動様式を把握した。また、街路景観や微視的な構成要素を考慮した経路選択モデルの構築によって街路の空間特性と歩行者の経路選択行動との関係性の把握を試みた。その際、従来の研究では考慮されていなかった説明変数同士の多重共線性を考慮し、街路空間指標を集約化し、類型化した街路景観パタンをダミー変数として用いてモデルの推定を行った。その結果、相関のある構成要素同士を除いたモデルと同程度の精度が得られた。また、推定結果からは街路景観や微視的な要素、そして類似景観の連続性が歩行者の経路選択行動に影響を与えていることを確認した。特に歩行者が類似した景観の街路を選択する傾向からは、街路をネットワーク全体から見て戦略的に整備する重要性と、整備への知見を得た。
  • 中川 辰則, 桑野 将司, 張 峻屹
    2012 年47 巻3 号 p. 649-654
    発行日: 2012/10/25
    公開日: 2012/10/25
    ジャーナル フリー
    観光行動とは、目的地、交通手段、利用経路、滞在時間、消費金額等に関する複数の選択行動で構成される多次元選択行動である。すなわち、1つの行動変化が他の行動変化を引き起こす相互依存性が存在すると考えられ、旅行者はこれらの複数の選択行動を同時に考慮しながら観光行動を決定している。一方で、自家用車の普及、ならびに道路整備の充実により、人々の活動範囲は時間的にも空間的にも広がりを持つようになった。これに伴い、各個人がそれぞれ持つ価値観を反映した観光行動を行うことが可能になり、観光行動は多様化していると考えられる。本研究では、多次元選択行動である観光行動のうち、滞在時間と消費金額に着目し、行動間の相互依存性を2変量生存時間モデルによって表現するとともに、潜在クラス手法による観光行動の異質性を表現できる分析手法の提案を目的とする。2007年に鳥取県への旅行者を対象に実施されたアンケート調査データを用いた実証分析の結果、本提案手法の有効性が示されるとともに、滞在時間と消費金額の間の相互依存性や異質性を考慮しない従来の分析手法では、誤った行動解釈を引き起こす可能性があることが示された。
  • 米国シアトル市のデザインレビュー物件を事例として
    栗山 尚子
    2012 年47 巻3 号 p. 655-660
    発行日: 2012/10/25
    公開日: 2012/10/25
    ジャーナル フリー
    シアトル市で実施されている市民参加型協議による景観デザイン誘導について、協議案件の事例分析と、関係者インタビューを通して、市民参加型協議の効果と課題を考察した研究である。本研究は、5章から成る。第1章で研究の背景と目的を述べ、第2章ではシアトル市の建築・都市計画に関する市民公開の協議の場を整理する。第3章で、デザインレビュー制度の概要とレビューでの協議の場に参加する委員・市職員・建築家に対してインタビューを実施し、シアトル市のデザインレビューの効果と課題についての各主体の見解を明らかにする。第4章では、協議にかけられた物件について、2回の協議での助言内容と市民意見の分析を行い、助言内容と市民意見の変化を考察する。第5章では、市民参加型協議では委員の専門的な意見に市民意見が加わることにより意見の重みが増すこと、協議の場に市民が参加することにより、市民に建築やまちなみを評価する視点を教育できている点を効果として、また、市民意見は建築デザイン以外の項目が意見として挙がることがあり、委員は意見を集約する技量が問われる点を課題として指摘し、まとめとした。
  • 嘉義県大崙社区における社区営造の取り組みを通して
    佐藤 宏亮
    2012 年47 巻3 号 p. 661-666
    発行日: 2012/10/25
    公開日: 2012/10/25
    ジャーナル フリー
    台湾においては社区営造の役割が広く認識され、多くの地域で創造力あふれる空間づくりの取り組みが開花している。その過程においては、近隣コミュニティによる自治の仕組み、資金の確保などにおいて先進的な試みも見られる。本稿では台湾の社区営造を対象として、近隣コミュニティが空間づくりを行なっていくうえでの手法である「雇工購料」に着目し、「雇工購料」の手法を用いた共有空間創出の意義を明らかにする。「雇工購料」の手法を用いた空間づくりにおいては、1)様々な資金を活用しながら継続的な一連の取り組みに結実させていること、2)社区住民による土地や労働力の提供の他、独自資金を確保するなど地域自治が強化されていること、3)事業のプロセスにおいてはコミュニティ内部でのコミュニケーションが活性化され、人材のネットワーク化にも寄与していることが明らかとなった。そして、一連の事業の結果として、行政の抹消ではない社区による自治の精神が育っていることに「雇工購料」の手法を用いて共有空間を創出していくことの大きな意義を見いだすことができる。
  • 加納 亮介, 真野 洋介
    2012 年47 巻3 号 p. 667-672
    発行日: 2012/10/25
    公開日: 2012/10/25
    ジャーナル フリー
    本研究では、東京23区で開催されている手づくり市の中で「あかぎマルシェ」「品川てづくり市」を対象に、出店している作り手と周辺地域の活動に着目し、地域において手づくり市を開催することの価値を明らかにする。結論として、個人主催の手づくり市に出店している作り手が周辺地域に広がる活動は、主に文化芸術施設での活動が多く、これらは主催者と文化芸術施設オーナー間の情報共有などのコミュニケーションや、オーナー側の自発的な行為など、その背景は多様であることが二つの対象市からわかった。これらの活動は、既存のまちづくり関連団体や行政では出来ないようなミクロレベルのものであった。以上から個人主催の手づくり市は周辺地域の既存のまちづくり活動を補完し新たなまちを形成する上で価値があると考えられる。
  • シリア国ダマスカスの事例から
    松原 康介
    2012 年47 巻3 号 p. 673-678
    発行日: 2012/10/25
    公開日: 2012/10/25
    ジャーナル フリー
    ダマスカスにおける日本の都市計画プロジェクトは、相手国の信用に根差した優れた国際協力プロジェクトの貴重な事例である。本稿では、日本の都市計画プロジェクトの発展過程を明らかにして、プロジェクトが継続的であるための条件を分析する。1973年、専門家奥井正雄は番匠谷尭二から引き継いだ詳細計画を策定した。1999年には、都市交通調査が実施され、喫緊の交通改善事業が実現された。2008年には、橋本強司率いる開発調査チームが広い視野で調査を行い、ダマスカス首都圏というコンセプトを提起するとともに、能力開発でも成果を上げた。2009年にこの開発調査はカナワート歴史地区とゴータ緑地地区の2つの地区詳細計画からなる技術プロジェクトに引き継がれた。結論として、カウンターパートとの信頼関係こそが、プロジェクトを効果的にする上で最も重要であると指摘する。
  • IBAの歴史的発展と現代的位置づけに注目して
    太田 尚孝, エルファディンク ズザンネ , 大村 謙二郎, 有田 智一, 藤井 さやか
    2012 年47 巻3 号 p. 679-684
    発行日: 2012/10/25
    公開日: 2012/10/25
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は、ドイツの国際建築展(Internationale Bauausstellung:以下、IBA)の歴史的発展と現代的位置づけを明らかにし、ドイツの都市計画におけるIBAの役割や存在意義を解読することにある。研究の方法は、文献調査と学識者及び現在進行中のIBAハンブルグへのヒアリング調査に基づく。本研究が明らかにした点は、以下の3点である。1)IBAは、歴史的発展の中で段階的に都市計画との関係性を深め、その時限性と裁量性に基づき革新的な取り組みを行ってきた。2)都市計画の分野では、IBAの中でこれまでその後の計画論を方向付ける指針や実践的モデルが創造されており、この社会実験的な場という役割は、時代環境の転換に応じて都市計画的課題が顕在化する限り、今後も継続されると考えられる。3)他方、IBAはその土地固有の課題を解決するためにも存在しているはずであり、社会的な関心が低下しIBAを単なるイベント型都市開発とみなす場合や、逆にIBAハンブルグに垣間見られた「IBAらしさ」が過度に目的化されると、場所性や創造性が失われ、都市計画における存在意義も一層揺らぐ危険性があるといえる。
  • スペイン・カタルーニャ州の「界隈法」を事例に
    阿部 大輔
    2012 年47 巻3 号 p. 685-690
    発行日: 2012/10/25
    公開日: 2012/10/25
    ジャーナル フリー
    本研究では、2004年に制定されたスペイン・カタルーニャ州の「特別な注意が必要な界隈・市街地の改善に関する法律」(通称「界隈法」)を事例として取り上げ、同法の制定の経緯と理念、具体的な手法とプログラムの運用実態について明らかにすることを目的とする。界隈法は、州内の基礎自治体に、公共空間の整備や住宅の修復といった従来の物的環境整備に加えて、ジェンダー問題の解決や機会均等の実現、雇用教育プログラムといった社会的包摂の措置をひとつの都市政策として作成させ、それを補助金スキームとして展開させていくものである。プランの作成から事業の実施、多文化共生への試みに至るまで、多様な分野の参画の程度を指す「多次元性」、様々な行政組織によって推進される異なるプログラム、事業、政策の間の一貫性や協調関係を指す「マルチレベルにわたる協働」、異なる行政組織間の水平的調整を指す「横断性」が界隈法の基底をなす政策概念であり、これらを同時並行的に進めることで社会的統合が後押しされるという論理構造を有している。
  • 文化財としての価値をめぐる戦後の議論に着目して
    鈴木 亮平, 西村 幸夫, 窪田 亜矢
    2012 年47 巻3 号 p. 691-696
    発行日: 2012/10/25
    公開日: 2012/10/25
    ジャーナル フリー
    第二次世界大戦で壊滅的な被害を受けたワルシャワ歴史地区は、戦後市民の手によって復原され、現在まで継承されている。ワルシャワの戦災、そして戦時下での都市を巡る動きを捉えた上で、戦後復興の社会的背景や復原のプロセス、デザインの実態を整理し、歴史地区の復原の実態を記述した。さらに、戦後から現在に至るまでの、その継承の過程と歴史地区をめぐる議論のプロセスを整理し、いかなる継承がなされてきたのかを明らかにした。その上で、現在進行している歴史地区をめぐる動きを捉え、今後の継承のあるべき姿や課題に言及する。文化財としての都市空間の、空間だけでなくそこに投影された過去の時代の意志をも含めた価値に着目し、歴史的都市空間の継承のあり方への知見を得ることが本研究の目的である。
  • 20 世紀初頭の5 つの計画への着目
    傅 舒蘭
    2012 年47 巻3 号 p. 697-702
    発行日: 2012/10/25
    公開日: 2012/10/25
    ジャーナル フリー
    本論文は、辛亥革命の1911年前後から南京国民党政府の成立までの時期に、中国各都市で行われた都市の一部において計画的な都市建設を初期都市計画と定義し、杭州を事例に、地方都市における近代初期の都市計画導入の実像とそれによる都市概念の転換を解明することを目的とする。具体的には、杭州の初期都市計画時期につくられた(1)1896年日本租界の計画、(2)1907~1909年鉄道建設に伴う一連の計画、(3)1914年「新市場」湖浜計画、(4)1920年環湖道路建設計画、(5)1922・1927年西湖博覧会計画の五つの計画を取り上げて計画概要を明らかにしたうえで杭州の都市形態の変化への影響を分析する。さらに、都市形態の変容によって当時の人々の認識が古来の旧都城制に定着した「山水」から「都市」へと変化したプロセスを読み解く。
  • 大社町と平田町を事例に
    有馬 健一郎, 中野 茂夫, 井上 亮
    2012 年47 巻3 号 p. 703-708
    発行日: 2012/10/25
    公開日: 2012/10/25
    ジャーナル フリー
    出雲市では、出雲大社の門前町として栄えた大社町と、木綿街道で知られる平田町でまちおこしの一環として、地域の活性化に向けたさまざまな取り組みが実施されてきており、そのなかで行政による修理・修景支援事業も行われてきている。そこで、出雲市の修理・修景事業について、大社町と出雲市の町並みの変遷を辿りつつ、現況の特徴を明らかにしたうえで、現在の修景事業を中心に問題点を抽出した。結果として、十分に町並みを活かした修景事業が行われていないところがみられ、今後それぞれの町並みを適切に掴んだうえで、修景事業を行うことが期待される。
  • 兵庫県西宮市今津地区・鳴尾地区・尼崎市元浜地区を事例に
    深瀬 奏, 三宅 正弘
    2012 年47 巻3 号 p. 709-714
    発行日: 2012/10/25
    公開日: 2012/10/25
    ジャーナル フリー
    わが国では、都市空間にも関らず、農的な要素が見られることも少なくない。本研究では、この農的要素のなかでも、家屋の軒先や庭において、鑑賞だけでなく収穫までも行われる野菜・果実栽培に着目した。都市計画において近年、都市農業など、都市における農的空間の可能性への検討がすすむが、その形態としては、農業としてだけではなく、小規模ではあるが、生活者が自主的に栽培するような内発的な土地利用など、多彩な農的利用の可能性が考えられる。そこで、本論ではまず生活空間内における内発的な野菜・果実の栽培実態を明らかにしたい。対象地域は、兵庫県西宮市内の今津地区および鳴尾地区、また尼崎市元浜地区の三地区とし,調査は、季節ごとの実態を考察するために、合計七期において調査を行った。
  • 麻布十番商店街を事例として
    白田 順士, 大村 謙二郎, 藤井 さやか
    2012 年47 巻3 号 p. 715-720
    発行日: 2012/10/25
    公開日: 2012/10/25
    ジャーナル フリー
    開発圧力が高い東京都心部に位置し、一方で家族経営型店舗が多く現存する伝統ある麻布十番商店街に着目し、周辺都市環境が変化し商店街の役割が変化している中で、家族経営型店舗がそれに対しどのように対応し経営を維持しようとしているのかについて整理・分析する。研究の方法としては、商店街内の家族経営型店舗の商店街環境変化に対する対応を把握することを目的とし、各家族経営型店舗の商店主(21名)に商売史と生活史を伺うオーラル・ヒストリー調査を採用した。研究の結果以下が明らかとなった。21店舗の家族経営型店舗は、変化対応型店舗、自然適応型店舗、影響無し型店舗に分類される。時代変化型店舗が対応した商店街の変化としては、女性客の増加、土産目的の増加、人通りの増加であり、一般的な対応としては低価格・小規模商品の新規開発である。自然適応型の店舗は、食べ歩き目的の増加に対応していた店舗であった。影響無し型の店舗は、近隣型商店であり、かつ経営者は高齢、後継者はいないといった状況であり、経営改革に消極的である。結論としては、食料品小売業店舗に関しては商店街の観光地化に適応しているものの、その他の業種に関しては対応は難しい。
  • 明暦大火後から享保期までを対象として
    森下 雄治, 山崎 正史, 大窪 健之
    2012 年47 巻3 号 p. 721-726
    発行日: 2012/10/25
    公開日: 2012/10/25
    ジャーナル フリー
    本研究は幕府によって明暦の大火から享保期までに施行された、江戸の都市防火に関する政策の特質を明らかにすることを目的とする。江戸においては明暦3年の大火を契機に開府以来の都市矛盾を解決するため、幕府は様々な都市改造を進めた。江戸の都市防火に関しては、大火後より享保期にわたって施行され、その基盤は享保期に確立した。その主な政策として、(1)火除地の設営、(2)消防の組織化、(3)建築規制の三つの政策があげられる。江戸の都市防火の特色は、これら三つの政策が密接に連関しながら施行されたことである。本研究で、以下のことが明らかになった。武家地では濠などの水辺空間に、火除地・緑地などを近接させて延焼防止帯を形成し、近くに火消屋敷を配置し防火をより強化したことである。、町人地では川、火除地などで延焼防止帯を形成し、その防止帯で区画した街区内部を、建築規制による防火建築で固め、その街区を町火消しによって防火したことである。これらの施策の基盤は享保期に確立した。
  • 今村 洋一
    2012 年47 巻3 号 p. 727-732
    発行日: 2012/10/25
    公開日: 2012/10/25
    ジャーナル フリー
    戦前の公園緑地計画における軍用地の位置づけを整理したうえで、戦災復興緑地計画において、旧軍用地にどのような位置づけが与えられたのかについて、戦前の公園緑地計画での位置づけとの関連も含めて考察するとともに、その後の見直し状況にも触れ、戦災復興期における東京の公園緑地計画に対する旧軍用地の影響を明らかにすることを目的とする。戦前は、使用中の軍用地も公園緑地系統の中に組み込もうとしていた点、戦災復興緑地計画では旧軍用地が積極的に緑地として決定されたが、戦前計画の影響が大きい点、1度の見直しを経てもなお、戦前計画を継承したものは大規模な公園としての位置づけが保持された点が指摘できる。
  • 官公署・文教施設の配置と県庁周辺整備計画に注目して
    中野 茂夫
    2012 年47 巻3 号 p. 733-738
    発行日: 2012/10/25
    公開日: 2012/10/25
    ジャーナル フリー
    本論文は、島根県の歴代県庁舎周辺の官庁街について歴史的に明らかにしたものである。二代目県庁舎が建てられた明治10年代から、行政機構の確立とともに次第に官庁街が形成されてきたことが明らかとなった。その後、県庁の周辺では、広い運動場を持つ教育施設を郊外に移転するとともに、跡地を利用して官庁街の整備が進められた。一方で、戦前の財政が逼迫していたこととも関係していると考えられるが、官公署の転用を頻繁にくり返しながら、官庁街の再編が行われたのである。戦時中には、建物疎開が行われ、木造の主な官公署は、既存の鉄筋コンクリート造建築に移転させられていた。このことは、戦後の制度変更にともなう官公署の改組とともに、官庁街再編の契機となったことが示唆されよう。しかし、ここまでの松江の官庁街は、近代都市計画の大きな存在意義である全体計画あるいは長期計画に基づいた計画ではなかった。松江では、田部長右衛門という名望家が知事に就任したことで、県庁の周辺全体を視野に入れた計画が具体化され、県庁周辺整備計画が強力に推進された。そして県庁を中心にモダニズム建築の傑作が計画的に配置される官庁街が形成された。
  • 地域メッシュ単位の搬送時間の試算と改善策のシミュレーション
    大橋 幸子, 藤田 素弘
    2012 年47 巻3 号 p. 739-744
    発行日: 2012/10/25
    公開日: 2012/10/25
    ジャーナル フリー
    本研究では、現状の施設・道路ネットワークを踏まえての、救急医療機関への移動に長時間を要する地域の特性と改善策を研究した。研究では、救急医療機関までの所要時間を1km*1kmの地域メッシュ単位で算定し、全国で長時間を要する地域を特定したうえで、改善策として、道路ネットワークの強化および県外搬送のシミュレーションを行い、搬送時間短縮の効果を試算した。その結果、現場出発から病院到着までの時間について地域の特性に応じた改善策を検討するのが効果的であること、道路ネットワーク強化、県外搬送では、救急医療機関へ長時間かかる地域に対して、特に短縮効果が大きいこと、道路ネットワークの強化と県外搬送では効果のある地域が異なるため両者を有機的に進めていくことが望ましいこと、また、地域メッシュ単位で算定には実態やシミュレーション結果などを詳細に把握することができるという利点があり改善策の選択・決定等の検討において有用であることなどが分かった。
  • 国勢調査3次メッシュデータを用いて
    有賀 敏典, 松橋 啓介
    2012 年47 巻3 号 p. 745-750
    発行日: 2012/10/25
    公開日: 2012/10/25
    ジャーナル フリー
    本研究では,地域内人口分布の将来のあり方を議論するため,時間軸を考慮した偏在化・均一化の各シナリオを構築する手法を開発した.具体的には,国勢調査3次メッシュデータを利用し,直近5年間に偏在化・均一化している市町村のメッシュタイプ別・性別5歳階級別人口変化率を計算し,コーホート変化率法を適用することで,2050年までの偏在化・均一化の各シナリオの構築を試みた.その結果,住民の便益,コスト,環境問題に密接に関係する地域内人口分布を将来的にどのように誘導すればよいか議論する材料になり得る,時間軸を考慮した偏在化・均一化の各シナリオを構築することができた.ただし,三大都市圏では必ずしも想定通りのシナリオを構築できなかった例があった.メッシュ人口規模に依存した人口増減率設定方法などが原因として考えられ,これらの改善が課題である.
  • 奥村 誠, 大窪 和明
    2012 年47 巻3 号 p. 751-756
    発行日: 2012/10/25
    公開日: 2012/10/25
    ジャーナル フリー
    これまで人口移動モデルの研究は、主として所得格差、就業機会などを用いて若年層の移動を説明してきた。近年では高齢化社会の到来を受け、高齢者の移動については医療施設をはじめとする住みやすさやアメニティーを説明要因とするモデルも作られてきた。本研究ではさらに、親子関係に基づく扶養・介護の必要性が子である壮年者の人口移動(Uターン移動)に影響をあたえていると考え、この親の扶養・介護の必要性を表すPCBI指標を提案した。さらに子世代が、どのタイミングでどのくらいの割合で親元へ移動するのかを人口移動モデルの作成を通じて把握することに取り組んだ。移動者の年齢が上がるにつれ、PCBI指標が子の人口移動に与える影響は強くなり、特に50-54歳、55-59歳の2階級において、PCBI指標が人口移動に強い影響を与えている事がわかった。また30代、40代であっても近年になるとPCBI指標が子世代の人口移動に影響を与えるようになったことが確認できた。
  • 安藤 章, 山本 俊行, 森川 高行
    2012 年47 巻3 号 p. 757-762
    発行日: 2012/10/25
    公開日: 2012/10/25
    ジャーナル フリー
    カーシェアリングは、渋滞問題、地球温暖化問題、そして都市の駐車場問題を解決する効果的な対策と考えられている。しかし、現在わが国でのカーシェアリング事業は、未だ多くの課題を抱えている。カーシェアリングの先進的な地域であるEU諸国では、最近、EVを活用したカーシェアリングや、ワンウェイ型サービス、さらには道路空間を活用したデポの整備など、新しい民間ビジネスが展開されている。本研究では、パリ市のautolib'、及びアムステルダム市のcar2goの先端的なカーシェアリング事業モデルを詳述するとともに、パリ市で行ったアンケート調査の分析によって、autolib'等の先進的カーシェアリング事業モデルに対する市民の評価や利用意向を分析し、わが国への先進事業モデルの導入可能性に関する基礎的知見に資することを目指す。
  • 免許保有者と返納者を比較して
    山本 和生, 橋本 成仁
    2012 年47 巻3 号 p. 763-768
    発行日: 2012/10/25
    公開日: 2012/10/25
    ジャーナル フリー
    高齢ドライバーの引き起こす交通事故の増加が社会問題となっている。こうした事故を防止する目的で、運転免許返納制度が実施されている。多くの人がいつかは運転を諦めなければならないことを考えると、高齢ドライバーの増加が確実な我が国では、返納を行える環境を整えていくことが非常に重要な課題である。そこで本研究では、免許保有者と返納者で「車に頼らなくても生活できる」と感じる要因の違いについて把握し、保有者と返納者をわける意識構造、返納者の返納満足度に関する意識構造について分析を行った。その結果、保有者と返納者で要因や意識構造に違いがあること、また保有者の返納制度活用意向や返納者の返納して良かったと感じる意識を高めていくためには、公共交通の充実度を高めていく必要があることを明らかにした。
  • ロンドンにおけるCO2排出量削減の取り組みに着目して
    須永 大介, 村木 美貴
    2012 年47 巻3 号 p. 769-774
    発行日: 2012/10/25
    公開日: 2012/10/25
    ジャーナル フリー
    地球温暖化問題への対策は極めて重要なテーマである。CO2排出量は業務、家庭、産業、交通部門での発生量が高く、排出量の削減が重要な問題となっている。本稿では、CO2排出量の削減を目指したロンドンの交通政策、特にEVの普及促進について論じる。研究にあたり、まずロンドンの気候変動、計画、交通政策について整理を行い、次にEVに関する政策について詳細を整理した。分析の結果として、ロンドン市長の強力なリーダーシップの下、総合的な資金制度を活用してEVの充電施設が増加してきたことが明らかとなった。また、EV向け駐車施設に関する規制とCar Club会員の増加がCO2排出量削減に寄与していることを明らかにした。
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